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学位論文審査の要旨主査

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Academic year: 2021

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博 士 ( 法 学 )    李    妍 淑

学 位 論 文 題 名

中国のジェンダー法政策推進過程における婦女聯合会の役割

学位論文内容の要旨

  男女平等の実現は、中国共産党が結党以来一貫して掲げてきた最重要課題として広く知られ ている。もちろん、これまで実施されてきた中国のジェンダー法政策を概観すると、確かに女 性の社会的地位は一定のレベルまで引き上げられたと言えるだろうし、男性並みの社会進出を 可能にしたと評価することもできる。だが、こうした見方は、文化大革命を経験して以降、計 画出産政策や改革開放・市場経済が導入にされるようになった現在、大きく揺らぎ始めている。

その理由は、以前から社会に根強く浸透し残り続けていた、男女間の不平等をめぐる問題、た とえば必ずしも歓迎されない女児の誕生、女性に多く見られる就業難、職場における性差を理 由とした不当な待遇、性の商品化といった問題に加え、改革開放・市場経済の導入による効率 性と合理性を追求する志向と相俟って、いっそう問題が複雑化してきたことに求められる。し たがって、「中国社会は男女平等である」といった一般的見解については大いに検討する余地が ある。

以 上 の 問 題 背 景 か ら 、 本 論 文 で は 、 次 の3点 を 明 ら か に す る こと を目 的と する 。

@中国のジェンダー法政策の推進過程において不可欠な地位を占める婦女聯合会(以下、

  婦聯と記す)に着目し、そこで婦聯が果たした役割を示す。

◎党と国家が取り組んできた男女平等政策を分析し、「中国社会は男女平等である」という   理解の是非について検討する。

◎中国のジェンダー法政策における特徴を明らかにする。

  本論文の構成と内容は、以下の通りである。

  1章では、婦聯に関連する法規定の検討を通じて婦聯という組織を概観し、そこから得られ た 特 徴 か ら 、 婦 聯 と は い か な る 性 格 を 有 す る 組 織 で あ る の か を 分 析 す る 。   婦聯は、女性たちの権利利益を代弁する組織として、唯一の公認団体という地位を占めてい る。そして女性たちの権利利益保護のために、婦聯は国家と女性の間を往復しながら積極的に 活動してきたといえるものの、その性格は党の指導下に置かれることが前提になっているため 強い政治的色彩を帯びるに至った。このことは、実際に、婦聯の運営資金はすべて中央や各地 方政府の財政から賄われ、その職員はみなし公務員の扱いを受けていることからも理解される ところである。また、その規模と影響カについてみると、婦聯組織の総数が全国で85万以上に も達していることもあって、社会的に「婦聯文化」を形成しており、女性幹部を養成する基地 としても知られ、女性の政治参加の促進に多く関与している。

  2章では、女性の就業問題を対象として、党や国家はジェンダー法政策としてどのような方 策 を 考 え 、 そ れ に 対 し て 婦 聯 が ど の よ う に 関 与 し て き た の か を 明 ら か に す る 。   婦聯は、長い間、女性が就業し自立することを「男女平等の実現」を測る唯一の指標として きた。そのため、婦聯は女性の自立支援に向けた知識習得、職業訓練、職業斡旋、創業資金の

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調達 など 、様 々 な活 動を 展開 する 。 いず れも 労働 市場にお ける女性の競争カを高めるた めのも ので あり、その相手は常に男性が 想定されていた。そこで注 目されるのは、「婦女回家」 (女は 家に 帰れ)、すなわち、自立した 社会の一員として国家の経 済建設に参加するのか、出産 を主た る契 機と し余 剰 労働 カを 排除 し家 庭 へ戻 し、 家事 労働を行 うような政策へと転換するの かとい った 問題である。「婦女回家」を めぐる論争では、女性たち の権利利益を可能な限り保障 しよう と志 向す る婦 聯 と、 国家 の建 設と 発 展に どの よう に寄与す るかという点から男性と同様 に女性 を取 り扱 おう と する 、そ の意 味で は まさ に男 女平 等を推進 しているかのような装いさえ 見せる 党と のせ めぎ 合 いの プロ セス が確 認 され る。

  3章 で は、 女性 問題 を 主た る業 務対 象と す る婦 聯に とっ て、 も うー つの 重要な仕事で ある、

子ど もと 育児 を めぐ る活 動と その 展 開プ 口セ スが 明 らか にさ れる 。

  従 来婦 聯は 、 女性 が男 性と 対等 に 自立 でき るこ とを目指 し、そのための経済的基盤を 確立す るた めに も家 事 労働 へと 専念 する の では なく 、生 産労働へ の参加を通じて社会進出を促 すよう 活動 して きた 。 だが 、出 産と 育児 を 終え た女 性た ちが、再 び以前と同じ条件で就業する には、

公共 的な 家政 サ ーピ スの 充実 が不 可 欠で ある 。そ の意味で 、婦聯は女性の就業問題に加 えて、

こう した 子ど も をめ ぐる 福祉 政策 に 関す る活 動展 開につい ても相当の労カを費やしてき た。こ こで は、 党と 国 家が 推進 しよ うと す る「 子ど も政 策」と女 性の権利利益の実質的保障と 充実を 求め て対 抗す る 婦聯 との 往還 過程 が 明ら かに され る 。

  4章 で は、 中国 で建 国 後も っと も早 い段 階 で制 定さ れた 婚姻 法 に着 目し 、その改正過 程を検 討す るこ とに よ って 婦聯 がど のよ う な形 で女 性た ちの権利 利益の保護を主張してきたか 、そし て そ の 結 果 と し て ど の よ う な ジ ェ ン ダ ー 秩 序 が 法 の 中 で 形 成 さ れ た か を 明 ら か に す る 。   婚 姻 法は1950年 に制 定さ れ、1980年 、2001年 に改 正 され てい るが 、そ の いず れに おい ても 婦聯 は深 く関 わ って おり 、内 容面 で も国 家の 政策 を堂々と 蠱り込むなど、日本の家族法 とは異 質な 特徴 が確 認 され る。 また 、特 定 の時 代背 景の 下 で生 まれ た3つの 婚姻 法には、その 時代ご とに 国家 が抱 え てい る問 題が 盛り 込 まれ 、女 性の 権利利益 より国家の利益が優先される ことも 少な くな い。 そ こで の女 性と は、 国 家と いう 枠組 みの中で 、その特性ゆえに特別保護の 対象と され 次第 に制 度 に取 り込 まれ 、そ の まま 固定 化さ れていく 存在であるにすぎない。本章 では、

婚姻 法制 定過 程 にお ける 婦聯 の役 割 に注 目す るこ とで、中 国の法体系にみられるジェン ダー秩 序の 様相 を検 討 する 。

  5章 で は 、 こ れ ま で の 男 女 平 等 に 関 す る 国 家 や 婦 聯 の 言 説 を 整 理 ・ 検 討 す る 。   そ のう えで 、 中国 にお ける 男女 平 等を 目指 す取 り組みは 、いわゆる国際社会でのジェ ンダー 平等 と比 べて ど のよ うな 点で 異な る のか 、そ して いかなる 理由によって異なっていると 考えら れる のか を明 ら かに する 。結 論と レ て中 国に おけ る男女平 等は、党の支配原理やイデオ 口ギー と内 在的 に関 連 して いる もの であ る こと が示 され る 。

本 論文 の結 論 は以 下の とお り であ る。

@ 婦 聯 の果 たし た役 割 とは 、一 方で 共産 党 と女 性大 衆を 結 ぶバ イプ とし て、 他 方で 共産 党     の ジェ ン ダー 法政 策を 推 進す るた めの 「別 働部隊」としての性格を持っ ものであった。

◎ 国 家 によ って 推進 さ れた 男女 平等 政策 は 女性 個人 の権 利 利益 を尊 重し たも の では なく 、   党 の 支配 原理 やイ デ オ口 ギー を反 映し た にす ぎず 、し た がっ て「 中国 社会 は 男女 平等 で     あ る」 と いう 一般 的見 解 も神 話に すぎ ない 。

◎ 婦 聯 はジ ェン ダー 問 題を 女性 固有 の問 題 とし て捉 え損 ね てい るた め、 結果 的 に性 別役 割   分 業 体制 を維 持し 、 それ が国 家の 政策 と 共鳴 し固 定化 さ れた ジェ ンダ ー構 造 を生 み出 す     こ とに な った 。

以 上

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    鈴 木    賢 副 査    教 授    尾 崎 一郎 副査   准教授    桑原朝子

学 位 論 文 題 名

中国のジェンダー法政策推進過程における婦女聯合会の役割

  本稿は、中華人民共和国における唯一の全国レベルの公認女性団体として活動してきた中華全 国婦女聯合会(以下、婦聯と略称)に焦点をあてて、中国が推進してきた「男女平等政策」とい うジェンダー法政策の構造的特徴に迫ろうとするものである。具体的には以下の3点を課題とし て設定する。第1に中国のジェンダー政策の推進にあたって婦聯がいかなる役割を果たしてきた かを具体的に明らかにすること、第2に中華人民共和国では「男女平等」が達成されたとする「俗 説」の妥当性を検証すること、第3に中国が推進してきた法政策にはいかなるジェンダー構造が 組み込まれてきたかを明らかにすることである。

  各章の概要は以下のとおりである。

  第1章では婦聯の組織のあり方が婦聯規約、憲法、社会団体登記条例、女性権利利益保護法な どを手がかりに描写されている。ナショナルセンターとしての全国婦聯を頂点にして、省クラス、

市・自治州クラス、県・区クラス、郷・鎮クラスの各レベルに地方婦聯を組織するほか、その下 の街道や社区にも組織している場合がある。さらに職場や村には婦女代表会が設けられ、全国で は83万を超える組織があり、7万8000名のフルタイムの職員がいる。

  第2章では中華人民共和国建国後一貫して取り組まれてきた女性の就業促進政策および1980 年代および2000年後に生じた「婦女回家」(女性は家庭に帰れ)論争について扱っている。建国 後の女性就業政策により、ほぼすべての女性の社会的就業を実現し、「主婦」を生み出さなかった 中国においても、労働力過剰の解決策として女性は家庭に帰るべきであるとする主張が現れたこ とがあり、これと婦聯はいかに対峙したかを描いている。

  第3章では女性の社会的就業を推進した婦聯自身が1980年代以降は家事サーピス事業への参 入を図り、逆説的に家事は女性が担うというある意味での男女の役割分担を促進する役割をも果 たしたことが描かれている。

  第4章では、1950年、1980年、2001年にそれぞれ制定された婚姻法の起草、成立にむけて婦 聯がいかなる意見をもち、いかなる役割を果たしてきたかを整理している。婦聯がその時々の女 性がおかれている問題状況と共産党が打ち出す政策との折り合いをいかにっけてきたかを描いて いる。

  最後に、第5章では以上の検討を踏まえて、党にかわって男女平等政策を推進してきた婦聯の 果たした役割を総括的に評価する。結論的には、婦聯のジェンダー理解は「男女平等問題」を女 性問題とレて扱う毛沢東流の女性解放理論に止まっており、党にもっとも従順ないわば党の「別 動部隊」としての役割を果たしてきたと総括される。女性政策推進を通じて党の政権維持に対し て貢献することこそが最も期待される役割で、むしろ伝統的な性別役割分業を固定化する手助け をしてきたというのが実態であるとする。そして、それは女性個々人の主体性を前提として個人

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の 「 権 利 」 を 回 復 し よ う と す る 運 動 で は な か っ た と 結 論 づ け る 。

  本 稿 に は 以 下 の よ う な 点 で と く に 高 い 評 価 を 与 え ら れ る べ き で あ ろ う 。 第1に 、 婦 聯 と い う 組 織 の あ り 方 、 実 態 を 詳 細 に 描 き 出 そ う と し て い る 点 。 最 大 に し て 唯 一 の 女 性 団 体 で あ り な が ら 、 こ れ ま で 正 面 か ら 論 じ ら れ て こ な か っ た こ の 組 織 に 正 面 か ら 光 を 当 て た 希 有 な 研 究 で あ り 、 中 国 政 治 、 中 国 社 会 の 理 解 に 裨 益 す る と こ ろ が 大 き い 。 第2に 、 毛 沢 東 革 命 が 推 進 し た 「 男 女 平 等 政 策 」 の 本 質 が 、 必 ず し も 個 々 の 女 性 の 個 人 と し て の 権 利 の 実 現 を 目 指 し た も の で は な く 、 あ る 意 味 で の 男 女 の 役 割 分 担 の 固 定 化 、 と り わ け 家 事 労 働 や 育 児 を 女 性 に 押 し っ け る こ と を 前 提 と し た も の で あ っ た こ と を 明 ら か に し て い る 。 い わ ゆ る新 中 国に おけ る 「男 女平 等 」が 、あ る 種「 神話 」 で あ っ た こ と を 暴 露 す る も の で あ る 。 第3に 、 中 国 共 産 党 に よ る 立 法 政 策 ( 婚 姻 法 、 女 性 権 利 利 益 保 障 法 な ど ) は 、 ジ ェ ン ダ 一 秩 序 内 在 的 な 立 法 で あ り 、 既 存 の ジ ェ ン ダ ー 秩 序 の 変 更 を 志 向 す る か 、 な い し そ れ と は 中 立 的 な も の で は な か っ た こ と を 示 唆 し て い る 。 も っ と も 、 こ の 点 は 後 述 す る よ う に 詳 細 に は 展 開 さ れ て お ら ず 、 各 論 的 な 叙 述 は 今 後 の 課 題 と し て 残 さ れ て い る 。   他 方 で 本 稿 に は 以 下 の よ う な 改 善 を 期 待 さ れ る 問 題 点 も 存 在 し て い る 。 @ 婦 聯 組 織 の 記 述 に は ま だ 不 十 分 な と こ ろ が 残 さ れ て い る 。 た と え ば 、 口 頭 試 問 で は 婦 聯 の 専 従 職 員 が ほ と ん ど す べ て 女 性 で あ る こ と 、 婦 聯 で の ポ ス ト が 女 性 役 人 と し て の 人 事 異 動 の 指 定 席 と な り 、 ま た 次 へ の ス テ ッ プ ア ッ プ の た め の 待 機 ポ ス ト に も な っ て い る こ と な ど が 明 ら か に さ れ た が 、 残 念 な が ら 論 文 で は 充 分 に 展 開 さ れ て い な い 。 ◎ 婦 聯 の 財 政 基 盤 や 人 事 の あ り 方 に つ い て の 情 報 が 不 足 し て い る 。 こ れ は 政 治 体 制 に 由 来 す る 情 報 の 透 明 性 欠 如 と い う 壁 が あ る こ と に も よ る が 、 断 片 的 な 情 報 で も 全 体 を イ メ ー ジ す る 上 で は 有 益 で あ る と 考 え ら れ る 。 ◎ 中 国 の 男 女 平 等 政 策 に 埋 め 込 ま れ て い る ジ ェ ン ダ ー 秩 序 の 全 体 像 を 描 く ま で に は 至 っ て お ら ず 、 本 稿 は そ の ア イ デ ィ ア の 端 緒 に 到 達 し た に 過 ぎ な い 。

  し か し 、 以 上 を 総 合 的 に 考 慮 す る な ら ば 、 ま た 外 国 人 が 書 い た と は 思 え な い ほ ど 極 め て 読 み や す い 秀 逸 な 日 本 語 に よ っ て 書 か れ て い る こ と も あ り 、 審 査 員 全 員 一 致 で 本 論 文 が 博 士 ( 法 学 ) を 授 与 す る に 値 す る レ ベ ル に 達 し て い る と の 結 論 に 至 っ た 。

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