博 士 ( 農 学 ) 愛 甲 哲 也
学 位 論 文 題 名
山岳性自然公園における利用者の 混雑感評価と収容カに関する研究
学位論文内容の要旨
山 岳性自然公園では、利用者の増加と利用形態の多様化により、登山利 用 による自然環 境と利用体験へのインパクトが各地で報告されており、適 正 な利用の実現 に向けて、計画・管理に収容カの概念を導入することが求 め られている。
本 論文では、収容カに基づく公園計画・管理の必要性を検討し、山岳性 自 然公園におけ る社会的収容力設定のための利用者の混雑感評価の特性を 実 証し、その把 握手法の課題を明らかにした上で、収容カに基づく自然公 園 の 計 画 ・ 管 理 方 策 へ の 提 言 を 行 う こ と を 目 的 と し た 。 1 ,収 容カに基づく公 園の計画・管 理の必要性
すでに 実践されている米国における展開と、いまだ実現していない日本 にお ける課題につ いて検討を行った。米国の計画手法の特徴は、公園の目 標像 の設定、自然 資源と利用体験の保全を目指したゾーニング、指標と水 準の 設定とそのモ ニタリングにあった。しかし、日本では、必要性が認め られ ながらも、地 域制であることや、保護計画と利用計画が分離した公園 計画 上の限界から 、公園計画や管理に収容カが位置づけられておらず、利 用体 験へのインパ クトや社会的収容カに対する配慮が少なぃことなどの問 題点 が指摘された 。
2 .登山者の混雑感評価の特性
大雪山国立公園の登山道を事例に、利用状況と登山者の混雑感との関連、
評価 尺度としての特性について検討した。登山者の混雑感は、実際の利用 状況 との相関は低く、知覚した人数と強い相関があり、知覚人数が多くな ると 混雑感も増加する傾向がみられた。混雑感は、実際の利用状況に直接 的な 影響を受けて形成されるのではなく、いったん人数を知覚した後に、
その知覚した人数を評価し形成されると考えられた。
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が 多 く 、 心 理 的 ・物 理的 に十 分. な空 間を 確保 でき なか った と考 えら れた。
3. 混 雑 感 評 価 の 課 題
混 雑 を 回 避 す る よ う に 認 識 を 改 め た り 、 行 動 を 変 更 す る コ ー ピ ン グ の 可 能 性 と 実 態 を 把 握 し 、 許 容 限 界 と の 関 連 に つ い て 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 許 容 で き な ぃ 混 雑 に 遭 遇 し た 場 合 、 時 期 や ル ー ト の 変 更 に 比 べ 、 登 山 全 体 の 満 足 度 が 低 下 す る と い っ た 回 答 が 多 か っ た 。 他 の 登 山 者 の 多 さ を 考 慮 し 、 登 山 の 対 象 や 時 期 、 ル ー ト を 変 え る と い っ た コ ー ピ ン グ 行 動 を 行 う 登 山 者 が 存 在 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 よ っ て 、 現 状 の 利 用 者 の み を 対 象 に 許 容 限 界 を 求 め た 場 合 、 潜 在 的 な 利 用 者 の 意 向 が 反 映 さ れ な い と い う 課 題 が 明 ら か と な っ た 。
ま た 、 モ ン タ ー ジ ュ 写 真 を 用 い て 混 雑 感 と 許 容 で き る 人 数 を 把 握 し 、 手 法 上 の 課 題 に つ い て 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 許 容 限 界 の 回 答 率 は 、 数 値 で 指 摘 さ せ た 過 去 の 事 例 に 比 べ て 高 く 、 利 用 密 度 が 高 い 場 所 で 許 容 限 界 を 把 握 す る 手 法 と し て の 有 効 性 が 確 認 さ れ た 。 一 方 で 、 写 真 中 の 利 用 者 数 と 混 雑 感 に 一 貫 し た 関 係 が み ら れ な い 場 合 も あ り 、 利 用 者 の 位 置 や 構 成 に よ る 影 響 の 検 討 の 必 要 性 も 示 さ れ た 。
さ ら に 、 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン モ デ ル を 用 い て 、 利 用 状 況 の 変 化 に よ る 混 雑 度 へ の 影 響 と 、 利 用 者 の 行 動 を 規 制 す る 管 理 行 為 の 効 果 を 検 討 し た 。 利 用 数 の 多 い 歩 道 区 間Iや 展 望 台 で 、 他 の パ ー テ ィ と 出 会 う 頻 度 が 相 乗 的 に 多 く な る こ と 、 他 の 区 間 お よ び 展 望 台 か ら 視 認 出 来 る 場 所 で 視 覚 的 に 他 の パ ー テ ィ か ら 受 け る 干 渉 の 頻 度 が 多 く な る こ と が 示 さ れ た 。 入 山 口 と 入 山 す る 曜 日 が 分 散 し た 場 合 や 、 順 路 を 設 定 す る こ と に よ り 、 混 雑 を 緩 和 さ せ る 効 果 が 確 認 で き 、 利 用 規 制 の 効 果 を 検 証 す る 手 法 と し て 有 効 と 考 え ら れ た 。
4, 収 容 カ に 基 づ く 自 然 公 園 計 画 ・ 管 理 の あ り 方
登 山 道 と 野 営 地 の 利 用 者 を 対 象 に し た 調 査 の 結 果 よ り 、 混 雑 感 は 利 用 状 況 の 直 接 的 な 評 価 で は な く 、 知 覚 を も と に 形 成 さ れ 、 個 々 人 の 規 範 で あ る 許 容 限 界 と の 差 に よ り 強 く 意 識 さ れ る こ と が 示 さ れ た 。 混 雑 感 と 許 容 限 界 を 同 時 に 把 握 す る こ と で 、 利 用 者 が 不 快 に 感 じ る 利 用 状 況 と 、 混 雑 感 を 生 じ さ せ る 要 因 が 明 ら か と な り 、 社 会 的 収 容 カ の 設 定 が 可 能 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。
登 山 者 の コ ー ピ ン グ 行 動 に よ り 、 現 在 の 調 査 方 法 で は 、 他 の 地 域 な ど に 移 行 し た 利 用 者 の 許 容 限 界 を 把 握 す る こ と が 不 可 能 で 、 潜 在 的 な 利 用 者 層 の 意 向 が 収 容 カ に 反 映 さ れ な ぃ こ と 、 利 用 密 度 の 高 い 区 域 で の 許 容 限 界 の 回 答 率 の 低 さ と い っ た 手 法 上 の 課 題 も 確 認 さ れ た 。 し か し 、 モ ン タ ー ジ ュ 写 真 や 、 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン モ デ ル を 用 い る こ と に よ り 、 改 善 が 可 能 で あ り 、 将 来 の 利 用 状 況 や イ ン パ ク ト を 事 前 に 予 測 し 、 利 用 者 の 求 め る 雰 囲 気 や 体 験 を 明 ら か に す る こ れ ら の 手 法 が 、 今 後 の 公 園 計 画 や 管 理 に 有 効 だ と 考 え ら れ る 。
野 営 地 の テ ン ト の 設 置 傾 向 に み ら れ る よ う に 、 登 山 利 用 の イ ン パ ク ト は 、 社 会 的 側 面 と 生 態 的 側 面 が 発 生 段 階 か ら 相 互 に 関 連 し て お り 、 イ ン パ ク ト の 発 生 の 解 明 と 同 時 に 、 学 際 的 な 連 携 に よ る 研 究 が 必 要 で あ る 。 ま た 、 登 山 利 用 の 状 況 が 正 確 に 把 握 さ れ て い る と は い え ず 、 異 な る 機 関 同 士 で の 入 林 者 名 簿 等 の 記 入 形 式 の 統 一 や 、 公 園 管 理 者 と 関 係 機 関 に よ る 集 約 に よ る 利 用 状 況 の 正 確 な 把 握 が 求 め ら れ る 。
公 園 計 画 に つ い て は 、 利 用 の 観 点 か ら も ゾ ー ニ ン グ を 行 う こ と が 求 め ら
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れ る。 自然環 境の 保全 や過 剰利用 の状 況、 利用 者の望む体験な 生 態 的 ・ 社 会 的 収 容 カを 設 定 し 、 地 種 区 分 を 見 直し た上 で、
応 じて 利用施 設計 画が 検討 される べき であ るこ とを提案した。
さ ら に 、 収 容 カ の 設定 と そ れ に も と づ く 計 画 ・管 理の 実現 を 採 用 し て い る 我 が 国の 自 然 公 園 の 場 合 、 利 用 者の 規制 など 地 権 者 お よ び 関 係 機 関の 合 意 が 欠 か せ な い 。 収 容カ の設 定手 園 計 画 の プ ロ セ ス に 関係 者 や 利 用 者 と の 協 議 を 位置 づけ るシ で ある 。
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ど を参考に、
各 地種区分に に は、地 域制 を 伴うた め、
法 の確立 と公 ス テムが 重要
学位論文審査の要旨
主査 教授 淺川昭一郎 副査 教授 出村克彦 副査 教授 石井 寛
副査 教授 小野有五(北海道大学地球環境科学研究科)
学 位 論 文 題 名
山岳性自然公園における利用者の 混雑感評価と収容カに関する研究
本 研 究 は 、 図43、 表19を 含 み 、8章 か ら な る 総 頁数164の 和 文 論 文 で あ り 、 別 に8編 の 参 考 論 文 が 添 え ら れ て い る 。
山 岳 性 自 然 公 園 で は 、 利 用者 の増 加と 利用 形態 の多 様化 によ る自 然環 境と 利用 体 験 へ の イ ン パ ク ト が 問 題 視さ れ、 計画 ・管 理に 収容 カの 概念 を導 入す るこ とが 求 め ら れ て い る 。 収 容 カ に は自 然資 源の 損失 に着 目し た生 態的 収容 カと 、満 足度 や 混 雑 感 と い っ た 利 用 者 の 評 価 に 基 づ ぃ た 社 会 的 収 容 カ が あ る 。 本 論 文 で は 、 収 容 カ に 基 づく 公園 計画 ・管 理の 必要 性、 社会 的収 容力 設定 のた め の 混 雑 感 評 価 の 特 性 、 そ の把 握手 法の 課題 を明 らか にし た上 で、 社会 的収 容カ に 基 づ く 自 然 公 園 の 計 面 ・ 管 理 方 策 へ の 提 言 を 行 う こ と を 目 的 と し た 。
1. 収 容 カ に 基 づ く 公 園 の 計 画・ 管 理 の 必 要 性
米 国 に お け る 展 開 と 、 い ま だ実現 して いな い日 本と の比 較を 行っ た。 米国 の計 画手 法 の 特 徴 は 、 公 園 の 目 標 像の設 定、 自然 資源 と利 用体 験の 保全 を目 指し たゾ ーニ ン グ 、 指 標 と 水 準 の 設 定 とその モニ タリ ング にあ った 。日 本で は、 地域 制で ある こ と や 、 保 護 計 画 と 利 用 計画が 分離 した 公園 計画 上の 限界 から 、公 園計 画や 管理 に 収 容 カ が 位 置 づ け ら れ ておら ず、 利用 体験 への イン パク 卜や 社会 的収 容カ に対 す る 配 慮 が 少 な い こ と が 指 摘 さ れ た 。
2.登 山 者 の 混 雑 感 評 価 の 特 性
大 雪 山 国 立 公 園 の 登 山道 を事 例に 、利 用状 況と 登山 者の 混雑 感との 関連 、評 価 尺 度 と し て の 特 性 に つ いて 検討 した 。登 山者 の混 雑感 は、 実際 の利用 状況 に直 接 的 な 影 響 を 受 け て 形 成 され るの では なく 、い った ん人 数を 知覚 した後 に、 その 知
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覚した人数を評価し形成されると考えられた。
野営地では、周縁部からテントが設置される傾向が示され、知覚した人数と好 ましい人数や限界と感じられる人数の差が、混雑感評価とより強い相関をもつこ とが示された。知覚した人数が限界と感じられる人数を超えるような場合、テン ト問の距離も小さくなり、混雑感が高く、不快に感じられる要因も多かった。
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.混雑感評価の課題他の登山者の多さを考慮し、登山の対象や時期、ルートを変えるといったコー ピング行動を行う登山者が存在していることが確認され、現状の利用者のみを対 象に許容限界を求めた場合、コーピング行動により他の場所や時期に移動した潜 在 的 な 利 用 者 の 意 向 が 反 映 さ れ な ぃ と い う 課 題 が 明 ら か と な っ た 。
また、利用者密度を変えたモンタージュ写真を用いた場合、許容限界の回答率 は、数値で指摘させた過去の事例に比べて高く、特に利用密度が高い場所で許容 限界を把握する手法として有効と考えられた。
さらに、シミュレーションモデルを用いて、利用状況の変化による混雑度への 影響と、利用者の行動を規制する管理行為の効果を検討した。入山口と入山する 曜日が分散した場合や、順路を設定することにより、混雑を緩和させる効果が確 認 で き 、 利 用 規 制 の 効 果 を 検 証 す る 手 法 と し て 有 効 と 考 え ら れ た 。
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.収容カに基づく自然公園計画・管理のあり方混雑感と許容限界を同時に把握することで、利用者が不快に感じる利用状況が 明 ら か と な り 、 社 会 的 収 容 カ の 設 定 が 可 能 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。
コーピング行動や利用密度の高い場所での許容限界の回答率の低さといった手 法上の課題も、モンタージュ写真等を用いることで改善が可能であり、今後の公 園計画や管理に有効と考えられた。
公園計画においては、自然環境の保全や過剰利用の状況、利用者の望む体験な どを参考に、生態的・社会的収容カを設定し、地種区分を見直した上で、各地種 区 分 に 応 じ て 利 用 施 設 計 画 が 検 討 さ れ る べ き で あ る こ と を 提 案 し た 。
さらに、社会的収容カにもとづく計画・管理の実現には、地域制を採用してい る我が国の自然公園の場合、利用者の規制などを伴うため、地権者および関係機 関の合意が欠かせない。社会的収容カの設定手法の確立と公園計画のプロセスに 関係 者や利用者との協議を位置づけるシステムが重要であることを指摘した。
以上のように、本研究は山岳性自然公園における混雑感評価の特性と課題を明 らかにし、社会的収容カに基づいた公園計画・管理の今後の方向性を示唆してお り、その成果は学術的・応用的に高く評価される。
よって審査員一同は、愛甲哲也が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格 を有するものと認めた。
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