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待ち時間評価に関する研究

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(1)

2012 年度修士学位論文

プロセッサ・シェアリング

GI/GI/1 システムにおける

待ち時間評価に関する研究

指導:

小松 尚久

教授

甲藤 二郎

教授

2012 年 2 月 6 日

早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 情報理工専攻

5110B041-2 楠部 健

(2)
(3)

目次

1章 序論 1

1.1 研究の背景と目的 . . . 1

1.1.1 研究背景 . . . 1

1.1.2 研究目的 . . . 2

1.2 本論文の構成と概要 . . . 3

2章 トラヒックモデルとその記法 5 2.1 標準的な待ち行列モデル . . . 5

2.2 GI/GI/1 . . . 6

2.3 プロセッサ・シェアリング . . . 6

2.4 GI/GI/1 (プロセッサ・シェアリング) システム . . . 6

3章 従来評価法とその課題 9 3.1 待ち行列理論の利用 . . . 9

3.2 従来評価手法 . . . 10

3.2.1 概要 . . . 10

3.2.2 結果 . . . 10

3.2.3 従来評価手法に対する考察 . . . 12

4GI/GI/1 Processor Sharing Systemのシミュレーション評価 13 4.1 ジョブの到着間隔とサービス時間に関する分布概要 . . . 13

4.2 M/E2/1(PS)システム . . . 14

4.3 H2/E2/1(PS)システム . . . 15

4.4 E2/E2/1(PS)システム . . . 15

4.5 考察. . . 16

5Limited Processor Sharing Systemのシミュレーション評価 19 5.1 Limited Processor Sharing System 概要 . . . 19

5.2 GI/GI/1 LiPS シミュレーション . . . 20

5.2.1 M/E2/1 (LiPS)システム. . . 21

5.2.2 H2/E2/1 (LiPS)システム . . . 21

5.2.3 E2/E2/1 (LiPS)システム . . . 22

5.3 LiP S5LiP S10LiP S15 の各システムにおける待ち時間比較 . . . 22

(4)

目次

5.3.1 シミュレーション . . . 22 5.3.2 N によるLiPSシステムの待ち時間比較の考察 . . . 23

6章 結論 27

6.1 まとめ . . . 27 6.2 今後の課題 . . . 27

謝辞 29

参考文献 31

付録A 待ち行列理論 33

A.1 待ち行列理論の要素 . . . 33

関連業績 39

ii

(5)

1

序論

1.1 研究の背景と目的 1.1.1 研究背景

ICT関連機器のコスト低下と通信・放送技術革新が次世代ネットワーク(NGN)を実用化たら しめている昨今,リアルタイム性を必要とするインターネットビジネスにおいては,サーバへの アクセス応答遅延時間を評価・予測することが通信トラフィック理論分野で求められている.

リアルタイム性の観点から,サーバはプロセッサ・シェアリング(PS)規律である場合に着目 する.また,客の到着間隔とサービス時間の分布は,それぞれ一般分布とし,シングルサーバの 場合を検討する.通常,客の到着間隔はポアソン分布とする研究が多いが,実際の到着間隔が必 ずしもポアソン分布に従わないことが明らかになってきており,本検討ではポアソン分布に限定 するのではなく,一般分布まで範囲を広げて検討を行う.

従来研究では,PS 規律に関する研究は数多く行われているが Kleinrock[13]がその先駆者で ある.PS規律に関するほとんどの研究においては,Foster[9], Boxma[8]の検討のように,ポア ソン分布に従うジョブの到着に関して検討されている.実際のインターネットサービスにおけ るジョブの到着間隔は,必ずしもポアソン分布に従わないことが明らかになってきており,ジョ ブの到着間隔が一般分布である場合を検討する必要がある.一般分布については,Sengputa[16]

やHoshi[11]が検討している.Sengutaは,ジョブの到着間隔がポアソン分布に限定せず,アー

ラン分布や超指数分布について検討を行い,各場合の待ち時間について数的データを用いて近似 式の導出を行った.次に,Hoshiもまた,一般分布における平均待ち時間のより実用的な近似式 を,シミュレーションから得た数的データを用いて導出した.このように,PS規律は多くの研 究者によって検討されてきているが,検討すべき事項がある.それは,PSシステム内の客数が 無制限であるということである.同時に無限大の客数を処理すると,各客へのサービス時間が極 端に小さくなる可能性があり,システム内の客数は制限すべきであると考えられる.系内客数に 制限を設けたPS規律を制限付きプロセッサ・シェアリング(LiPS)規律と呼ばれ,Yamazakiと Sakasegawaの検討[18]を除いて,ほとんど行われていない.

(6)

第1章 序論

1.1.2 研究目的

サーバ資源を平等に分配するリアルタイムシステムにおける,アクセス応答時間の安定性に関 する検討は,NGNの発展に対して有用な課題の一つであると考えられるが,現状では,そういっ た検討はほとんど行われていない.

そこで,リアルタイムシステムを代表するPSシステムのシミュレーションを行い,アクセス応 答時間の安定性を評価を行う.

また,既存のPSシステムをベースとして,アクセス応答時間の改善のために,LiPSに基づい たシステムの提案を行う.さらに,提案するLiPSシステムの待ち時間に関する特性を示す.

PSシステム,LiPSシステムのシミュレーションを行う際には,到着間隔、サービス時間、サー バ数を表す以下の3つのモデルを用いて,目的の特性を実証する.

M/E2/1

H2/E2/1

E2/E2/1

上記モデルの説明は,次章で行う.

2

(7)

1.2 本論文の構成と概要

1.2 本論文の構成と概要

[1] 序論

研究を行うにあたっての背景,目的と,本論文の構成を述べる.

[2] トラヒックモデルとその記法

モデル作成に必要な概念と基本的なモデルに関する説明を行う.

[3] 従来評価法とその課題

従来の待ち時間の評価手法とその課題に触れる

[4] GI/GI/1 Processor Sharing System のシミュレーション評価

PSシステムのシミュレーションを行い,アクセス応答時間の安定性を評価を行う.

[5] Limited Processor Sharing System のシミュレーション評価

LiPSに基づいたシステムの提案を行う.さらに,提案するLiPSシステムの待ち時間に関する 特性を示す.

[6] 結論

本研究のまとめと今後の課題について述べる.

(8)
(9)

2

トラヒックモデルとその記法

リアルタイム性を要求するサーバサービスのアクセス応答時間を評価・予測するために,前提 とするモデルについて説明する.

2.1 標準的な待ち行列モデル

本検討の目的は,サーバへのアクセスの解析,特に,ユーザから見たアクセスの混雑具合を定量 化することである.そのためには,まず,サーバへのサービス要求のためのアクセス間隔と,サー ビス要求に対しサービスが終了するまでの時間をモデル化する必要がある.モデル化のための有 効な手段の一つが,ケンドール記号を用いた待ち行列モデルである.

標準的な待ち行列モデル(queueing model)は,客の到着を表す確率過程,すなわち到着過程 (arrival process)とそれぞれの客のサービス(service)に必要な時間(サービス時間という)の統 計的特性,すなわちサービス時間分布(service time distribution)という2つの確率的特性と,待 ち行列モデルの構造を表現するための,窓口の数(number of servers),サービスを待つ客のため の待合室の容量(capacity of waiting time), ならびに客にサービスを施す順序を表すサービス規 律(service discipline)を定めることによって得られる.

2.1 待ち行列の標準系

(10)

第2章 トラヒックモデルとその記法

2.2 GI/GI/1

ケンドール記号でGI/GI/1と表記する際,GIは再生過程到着あるいは独立同一な一般の分布 に従うサービスを意味する.通信トラフィック分野の解析では,GIと共にM が用いられること がある.Mは,ポアソン分布を意味する.本検討では,M ではなく,GIを用いる.検討対象で あるサーバへのアクセスの解析を行う際に,ポアソン分布では実際の測定結果を説明できないこ とが,昨今の研究で明らかになってきているからである.そこで,サーバへのアクセスをモデル 化する際,ポアソン分布を拡張して,一般分布を用いる.

2.3 プロセッサ・シェアリング

モデル化を行うためには、上記で言及したような,到着過程やサービス時間の統計的特性の他 に,サービス規律を定義しなければならない.サービス規律とは,サービスを施す順序を定める ルールのことである.トラフィック解析における最も標準的な規律は,客が到着した順にサービ スを施す先着順サービス( FIFO [first-in, first-out])である.

しかしながら,本検討では,FIFOを用いない.サーバのサービス規律がFIFOであるとする と,複数のユーザがサーバにアクセスしたとき,最後にアクセスしたユーザは他のユーザのサー ビスするまでの間中待つ必要があり,通常,FIFO型のサーバサービスに対して,ユーザの満足度 の極めて低い.

サーバに対して複数のユーザがアクセスしてきたと仮定すると,通常,アクセスの順序によら ず,ユーザに平等にその資源を分配することが望まれる.この性質を持つ規律として,プロセッ サ・シェアリングが挙げられる.

本検討では,サーバのサービスを処理するルール(サービス規律)として,プロセッサ・シェア リング(processor sharing)を選択し,モデル化を行う.

プロセッサ・シェアリング規律において,システム内にn人の客がいるとき,それぞれの客に 対して窓口の持つ能力を1/nずつ割り当て,同時にサービスを施す.

2.4 GI/GI/1 ( プロセッサ・シェアリング ) システム

本論文で用いる,プロセッサ・シェアリング規律のGI/GI/1システムについて説明する.プロ セッサ・シェアリングやGI/GI/1の各概要については,先に述べた通りである.

サービスを行う単一のサーバがある.系内に到着した客は,プロセッサ・シェアリング規律の 下では,待つ必要がない.サービス時間は長くなるが,サーバは到着した客を即座に対応する.

もし,単一サーバ内にn人の客がいる場合,各客はサーバの能力の1/nを受ける.

客が到着するプロセスは,独立に同一に分布する(independent and identically distributed,

i.i.d.)の再生過程であり,到着間隔をA,到着率をλとすると,平方変動係数は以下の通りになる.

6

(11)

2.4 GI/GI/1 (プロセッサ・シェアリング) システム

2.2 GI/G/1(プロセッサ・シェアリング)システム

λ = 1

E(A) (2.1)

CA2 = V(A)

E(A)2 (2.2)

サービス時間(B)は,独立に同一に分布し,平均が µ1 とすると,平方変動係数は以下の通りに なる.

λ= 1

µ (2.3)

CB2 = V(AB)

E(B)2 (2.4)

トラヒック密度ρは,以下のように与えられる.

ρ = λ

µ (2.5)

また,到着率はサービス率よりも小さいことが求められるため,ρは1より小さい.

(12)
(13)

3

従来評価法とその課題

3.1 待ち行列理論の利用

待ち行列理論は,1909 年A. K. Ealangによって交換機の混雑の解析から始まった理論である.

一言で表すと,混雑と待ちに関する理論である.顧客が何らかのサービスを受けると,いった確率 的な挙動を表す状況を,,数理的モデルを用いて解析を行うことが目的である.昨今の急速なPC の普及,ネットワーク(LAN)環境の充実に伴い,一世紀前のいわば古い理論が現在も注目を浴 びている.本研究においても待ち行列理論を用いてネットワークシステムの解析を行う.

待ち行列理論は行列を作るような混雑した現象を論理的に調べ,それに関する対策を立てて混 雑を解消させるといった場合に利用されている.例えば銀行のATM を例にとると,ATM で現 金の引き出しをしたい人・振り込みをしたい人など何らかのサービスを受けたい人が待ち行列を 作り,これが待ち行列となる.一般的にこのような混雑を解消するためにはATM を1 台増やす などの費用がかかり,混雑を解消するための費用と客が待つ時間を比較しつつ,適切なシステム の設計を行う必要がある.

今,情報システムに待ち行列理論を適応する例として,クライアント・サーバシステムを考え る.クライアント・サーバシステムは何らかのサービスを要求するクライアント(顧客となるPC 等)とサービスを提供するサーバ(Web サーバ等)で構成されている.通常,複数のクライアン トが同時にサーバに対してサービスの要求を行ったとき,サーバで処理しきれないと待ちが生じ る.これを待ち行列ととらえ,混雑時にはどれくらいの行列ができるのか,遅くとも何秒以内に 返答しなければならないかを考える必要がある.このように,以上の様な情報システムにおいて も混雑と待ちに関する理論である待ち行列理論を用いて現在でも解析が行われている.また,他 にも待ち行列理論の応用として,道路・鉄道の輸送システム,機械の保守,工場の生産に伴う加 工待ち,機械の修理待ち,コンピュータのバッファ待ち等,我々の生活の至る所に待ち行列は存 在し,サービスシステムに関する多くのモデルが作成されている.

では,実際の待ち行列に関する研究の流れについて,下図 に示す.

この様に,モデル・評価式の作成,最終的な評価に至るまでの一連の研究を繰り返すことによ り,より有用なモデル・精度の良い評価式の作成を行う.

(14)

第3章 従来評価法とその課題

3.1 研究の概要

3.2 従来評価手法 3.2.1 概要

到着間隔がポアソン過程,サービス時間が一般分布,窓口数が 1 の待ち行列モデルにおい て,サービス規律がプロセッサ・シェアリングのときの,待ち時間の導出を,B.K.ASAREと

F.G.FOSTERが行っている.

ASAREとFOSTERは,平均到着率(単位時間あたりの要求数)をλ,平均サービス時間(単位 時間あたりにサービスできる要求数)をµとする(λ < µ).また,サービス時間は,平均 1/µの 分布関数Fを用いて独立同一に与えられる.

3.2.2 結果

サービス時間t,システム内にn個のジョブが存在するときの待ち時間をRn(t)とする.

上記のとき,システム内のあるジョブにタグを付ける.タグ付きのジョブがシステム内に到着 した直後の,系内客数をψn(x)(0<=x <=t)とする.

ψn(x)の計算を目的とし,目的の量は,以下の2つから構成される.

タグ付きのジョブがサービスを受けてxだけ経過したときに,システム内にもともと存在し ていたn個のジョブのうち,システム内に未だ存在するジョブの数

タグ付きのジョブがサービスを受けてxだけ経過したときに,タグ付きのジョブより後に到 着し,未だシステム内に存在するジョブの数

10

(15)

3.2 従来評価手法

サービス時間のRandom Modificationの分布関数をH(x)とすると,

H(x) =µ

x 0

[1−F(y)]·dy (3.1)

上記の条件の元,ψn(x)を演繹的に導出すると,以下のようになる.

ψn(x) =n[1−H(x)] +ρ

x 0

rn(y)h(x−y)·dy (3.2)

rn(y) = d

dyRn(y) (3.3)

ρ=λ/µ (3.4)

次に,上記の結果をもとに,主の目的であるRn(x)を導出する.ψn(x)は,その定義より,タ グ付きのジョブのジョブは含まれていない貯め、xのときの系内客数は1 +ψn(x)である.それ ゆえ,微小時間dxだけ経過したときの待ち時間の変化量は,[1 +ψn(x)]dxに等しい.これは,

プロセッサ・シェアリングシステムの基本的特徴である.

こうして,以下の関係式が成立する.

Rn(x+dx)−Rn(x) = [1 +ψn(x)]dx (3.5) つまり,

rn(x) = 1 +ψn(x) (3.6)

(3.2)式を用いると,

rn(x) = 1 +n[1−H(x)] +ρ

x 0

rn(y)h(x−y)·dy (3.7) さらに,以下のようにW(x)を定義すると,

W(x) = (1−ρ)

j=0

ρjHj(x) (3.8)

(3.2)式は,以下のように展開できる.

rn(x) = 1

1−ρ + [n ρ 1−ρ]1

ρ

1 0

1−W(x)·dx (3.9)

最後に,上式を0からxの範囲で積分し,初期条件Rn(0) = 0とすると,本検討の最終的な目 的である結果が得られる.

Rn(x) = t

1−ρ + [n ρ 1−ρ]1

ρ

1 0

1−W(x)·dx (3.10)

(16)

第3章 従来評価法とその課題

3.2.3 従来評価手法に対する考察

ASAREとFOSTER の手法を,本論文が目的とする,リアルタイム性なサーバサービスのア

クセス応答時間を評価・予測にそのまま導入することは難しい.

まず,ASAREとFOSTERによって導出された待ち時間の理論式は,トラフィックの予測・解

析に有意義な結論と言える.しかしながら,その理論式の導出手法は,シミュレーションを用い た発見的手法が行われておらず,理論式が現実的なネットワーク領域の予測・解析に用いること ができるとはいえない.また,分布に関する数的情報が欲しい実務家にとっては,複雑すぎて使 用することが難しい.

最後に,到着間隔がポアソン過程であることは,1章で述べたように,実際のサーバへのサービ ス要求はポアソン分布に一致しないことが昨今の研究より分かっており,到着間隔を一般分布と すべきである.

12

(17)

4

GI/GI/1 Processor Sharing System のシミュレーション評価

本章では,本論文の目的であるリアルタイム性が要求されるサーバが提供するサービスのアク セス応答時間の安定性の評価を行う.評価手法としては,GI/GI/1 プロセッサ・シェアリングの シミュレーションを行う.特に,サービス時間の安定性(つまり,サービス時間の分散)を定量 的に明示する.

第一章で言及したように,現実的なサーバへのジョブの到着間隔はポアソン分布に従わない場 合があり,一般分布に拡張する必要がある.本検討では,ポアソン分布だけではなく,超指数分 布,アーラン分布についてもシミュレーションを行い,それぞれのサービス時間の分散を計算し,

サーバが提供するサービスの安定性を示す.

4.1 ジョブの到着間隔とサービス時間に関する分布概要

一般分布(GI)の具体的分布として,ポアソン分布,超指数分布,アーラン分布を検討する.各 モデルの概要について説明する.超指数分布に関しては,滞在時間が指数分布にしたがう相を並 列につないだ分布である.指数分布については,以下で言及する.

ポアソン分布

定数λ >0に対し,自然数を値にとる確率変数X が,

P(X =k) = λke(−λ)

k! (4.1)

を満たすとき,確率変数X はパラメータλのポアソン分布に従うという.

ここで,eはネイピア数(e = 2.71828...)であり,k!kの階乗を表す.また,λは所与の区 間内に発生する事象の期待発生回数に等しい.

例えば,事象が平均で 2分間に 1回発生する場合,10分間の中で事象が発生する回数は,

λ = 5のポアソン分布モデルを使って求められる.

また,平均と分散に関しては以下の通りである.

(18)

第4章 GI/GI/1 Processor Sharing Systemのシミュレーション評価

E[X] =λ (4.2)

V[X] =λ (4.3)

指数分布

指数分布は,正のパラメータλに対して確率密度関数が,

f(x;λ) =λe−λx (4.4)

で与えられる分布である.

また,平均と分散に関しては以下の通りである.

E[X] = 1

λ (4.5)

V[X] = 1

λ (4.6)

アーラン分布

アーラン分布は2つのパラメータλ(正数)およびn(正整数)によって定まり,その確率密度 関数は次のように定義される.

f(x;n, λ) = λnxn1eλx

(n1)! (4.7)

また,平均と分散に関しては以下の通りである.

E[X] = n

λ (4.8)

V[X] = n

λ2 (4.9)

4.2 M/E2/1(PS) システム

ジョブの到着間隔がポアソン分布,サービス時間が2次のアーラン分布のときの,プロセッサ・

シェアリングシステムのシミュレーションを行う.

表4.1は,上記の条件のときのシミュレーション結果である.トラヒック密度ρを0.1ずつ増 加させたときの,ジョブの滞在時間の平均,滞在時間の分散,平均系内客数,呼損数の値を出力 した.

ここで,各用語について説明する.

滞在時間とは,客がサービスを要求してから,サービスが終了するまでの時間である.

14

(19)

4.3 H2/E2/1(PS)システム

系内客数とは,系に存在している客の数である.

呼損とは,待ち行列モデルにおいて, 客が待つことができる待合室の容量が限られている場合, 窓口と待合室が一杯のときに到着した客はシステムに入ることができず, サービスを受けずに強制 的に退去となる(Loss)ことである.

プロセッサ・シェアリングシステムの特性から,呼損数はどのトラヒック密度時においても0 である.

トラヒック密度が増加すると,ジョブの滞在時間の平均・分散,そして平均系内客数は単調に 増加する.

4.1 M/E2/1 (PS)における待ち時間の分散

4.3 H2/E2/1(PS) システム

ジョブの到着間隔が超指数分布,サービス時間が2次のアーラン分布のときの,プロセッサ・

シェアリングシステムのシミュレーションを行う.

表4.2は,上記の条件のときのシミュレーション結果である.トラヒック密度ρを0.1ずつ増 加させたときの,ジョブの滞在時間の平均,滞在時間の分散,平均系内客数,呼損数の値を出力 した.

トラヒック密度が増加すると,ジョブの滞在時間の平均・分散,そして平均系内客数は単調に 増加し,システムが不安定になることが分かる.

4.4 E2/E2/1(PS) システム

ジョブの到着間隔が2次のアーラン分布,サービス時間が2次のアーラン分布のときの,プロ セッサ・シェアリングシステムのシミュレーションを行う.

(20)

第4章 GI/GI/1 Processor Sharing Systemのシミュレーション評価

4.2 H2/E2/1 (PS) における待ち時間の分散

表4.2は,上記の条件のときのシミュレーション結果である.トラヒック密度ρを0.1ずつ増 加させたときの,ジョブの滞在時間の平均,滞在時間の分散,平均系内客数,呼損数の値を出力 した.

トラヒック密度が増加すると,ジョブの滞在時間の平均・分散,そして平均系内客数は単調に 増加し,システムが不安定になることが分かる.

4.3 E2/E2/1 (PS)における待ち時間の分散

4.5 考察

4.2,4.3,4.4で取り上げた,M/E2/1,H2/E2/1,E2/E2/1モデルのプロセッサ・シェアリン グシステムのシミュレーション結果を比較検討する.特に,本論文の目的である,リアルタイム

16

(21)

4.5 考察

性が要求されるサーバサービスのアクセス応答時間の安定性について述べる.

表4.4は,M/E2/1,H2/E2/1,E2/E2/1モデルに関するシミュレーション結果の待ち時間の 分散の並べた表であり,グラフ4.5は,表4.4をプロットしたグラフである.

トラヒック密度ρが0.8の場合の,M/E2/1,H2/E2/1,E2/E2/1待ち時間の分散を比べると,

それぞれ36.98,87.03,19.18であり,H2/E2/1が待ち時間の分散が最も大きく,次にM/E2/1,

E2/E2/1と順に小さくなる.ρが0.8のとき以外の場合も,同様の順である.

サービス時間が全て2次のアーラン分布であることを考慮すると,ジョブの到着間隔が超指数 分布のとき,待ち時間の分散は最も大きくなる.つまり,ユーザはサーバにアクセスするごとに,

サービス時間が大幅に異なるため,ユーザビリティは低下する.逆に,ジョブの到着間隔が2次 のアーラン分布に従うとき,待ち時間の分散が最小となり,システムは安定であるといえる.

4.4 待ち時間の分散における3つのモデルの比較

4.5 待ち時間の分散における3つのモデルの比較

(22)
(23)

5

Limited Processor Sharing System のシミュレーション評価

前章では,GI/GI/1 プロセッサ・シェアリングシステムについて紹介した.プロセッサ・シェ アリングにおいては,一般的なFIFOシステムとは異なり,到着したジョブは,待ち行列に並ぶ ことなく,即座にサービスを受けることができる.プロセッサ・シェアリングシステムは,到着 したジョブを待たすことなくサービスを行うことができる代わりに,あるジョブが到着するとす ぐに,現在処理中である他のすべてのジョブのサービス時間を減らす必要がある.つまり,プロ セッサ内に存在するジョブの数が大きくなればなるほど,あるジョブに関するサービス時間は小 さくなる.

より現実的な問題をとらえる際には,プロセッサ・シェアリングにおけるプロセッサ内の数は 無限にすべきではない.上記の議論より明らかであるが,プロセッサ内のジョブの数が無限に限 りなく近い場合,各ジョブを処理する時間は限りなく小さくなるためである.通常のプロセッサ・

シェアリングに対し,プロセッサ内に存在する数に制限を加えたシステムを,制限付きプロセッ サシェアリング(Limited Processor Sharing)と呼び,本章では制限付きプロセッサシェアリン グに関するシミュレーション評価を行う.

5.1 Limited Processor Sharing System 概要

Limited Processor Sharingは,現実的なウェブシステムの有効なモデル化の手法の一つである ため,十分検討がなされるべきである.しかしながら,Limited Processor Sharingに関する検討 は,山崎源治氏と逆瀬川浩孝氏の検討以外ではほとんど行われていない.

検討対象とするLiPSシステムについて説明する.PSシステムが無限の客を同時に処理でき る.一方,LiPSシステムでは同時に処理することできる客数が制限されている.リアルタイムシ ステムにおいては,PSシステムのようにシステムに到着した客に対して即座にサービスすること が理想的であるが,現実的には系内客数が十分大きい値である場合,各客に対するサービス品質 が著しく劣化することが予想される.そこで,LiPSシステムにおいては,予め定められた定員に 達するまでは,通常のPSシステムと同様の振る舞いをする.システム内に到着した客が定員を 超えた場合には,超過した客はFIFO(First In First Out)規律で処理が開始されるまで待つこと

(24)

第5章 Limited Processor Sharing Systemのシミュレーション評価

5.1 The GI/G/1 (LiPS) system and notations

になる.

LiPSシステムの概要は,図5.1の通りである.

本検討では,LiPSシステムにおける定員の数(同時に処理可能な客の数)がNのとき,LiP SN と記述することにする.

下記の5.2.1, 5.2.2, 5.2.3の検討は,全てLiP S10のシステムである.

5.2 GI/GI/1 LiPS シミュレーション

具体的な分布を用いて,GI/GI/1 LiPS シミュレーションを行う.ジョブの到着間隔は,以下 の3つの分布に基づいて決定される

ポアソン分布

アーラン分布(2次)

超指数分布(2次)

サービス時間の間隔は,下記の分布に基づいて決定される.

アーラン分布(2次)

20

(25)

5.2 GI/GI/1 LiPS シミュレーション

5.1 M/E2/1 (LiPS)システム ρ 待ち時間平均 待ち時間分散,,

0.1 1.112 1.237

0.2 1.252 1.569

0.3 1.430 2.045

0.4 1.667 2.778

0.5 1.989 3.955

0.6 2.442 5.966

0.7 3.045 9.274

0.8 3.796 14.40

0.9 4.646 21.58

5.2.1 M/E2/1 (LiPS) システム

M/E2/1(LiPS)システムは,客の到着がポアソン分に従い,サービス時間が2次のアーラン

分布に従うLiPSシステムである.M/E2/1(LiPS)システムの待ち時間特性は,表5.1の通りで ある.

また,シミュレーションを行うにあたり,平方変動係数は以下のように設定した.

CA2

= 1 (5.1)

CB2

= 0.5 (5.2)

5.2.2 H2/E2/1 (LiPS) システム

H2/E2/1(LiPS)システムは,客の到着が2次の超指数分布に従い,サービス時間が2次のアー

ラン分布に従うLiPSシステムである.H2/E2/1(LiPS)システムの待ち時間特性は,表5.2の通 りである.

また,シミュレーションを行うにあたり,平方変動係数は以下のように設定した.

CA2

= 2 (5.3)

CB2

= 0.5 (5.4)

(26)

第5章 Limited Processor Sharing Systemのシミュレーション評価

5.2 H2/E2/1 (LiPS) システム ρ 待ち時間平均 待ち時間分散,,

0.1 1.150 1.322

0.2 1.349 1.819

0.3 1.615 2.609

0.4 1.977 3.909

0.5 2.461 6.058

0.6 3.066 9.402

0.7 3.757 14.11

0.8 4.471 19.98

0.9 5.154 26.56

5.2.3 E2/E2/1 (LiPS) システム

E2/E2/1(LiPS)システムは,客の到着が2次のアーラン分布に従い,サービス時間が2次の

アーラン分布に従うLiPSシステムである.E2/E2/1(LiPS)システムの待ち時間特性は,表5.3 の通りである.

また,シミュレーションを行うにあたり,平方変動係数は以下のように設定した.

CA2

= 0.5 (5.5)

CB2 = 0.5 (5.6)

5.3 LiP S

5

LiP S

10

LiP S

15

の各システムにおける待ち時間比較

LiPSシステムにおける定員の数(同時に処理可能な客の数)が変動すると,LiPSシステムの待 ち時間がどのように変わるか検討する.本検討では,LiP S5LiP S10 のシステムのシミュレー ションを行い,それぞれの待ち時間の特性を示す.

5.3.1 シミュレーション

待ち時間の比較検討では,LiP S5 システムと LiP S10 システムへの客の到着過程は同様であ る.この条件のもとで,以下のシステムの対による比較を行う.

LiP S5 M/E2/1システム,LiP S10 M/E2/1システム 図5.2を参照

LiP S5 H2/E2/1 システム,LiP S10 H2/E2/1 システム 図5.3を参照 – 22

(27)

5.3 LiP S5LiP S10LiP S15 の各システムにおける待ち時間比較

5.3 E2/E2/1 (LiPS) システム ρ 待ち時間平均 待ち時間分散,,

0.1 1.022 1.044

0.2 1.082 1.172

0.3 1.179 1.391

0.4 1.318 1.738

0.5 1.527 2.332

0.6 1.846 3.406

0.7 2.350 5.524

0.8 3.127 9.778

0.9 4.201 17.65

5.2 LiPS M/E2/1N=5の場合,N=10の場合,N=15の場合の比較

LiP S5 E2/E2/1 システム,LiP S10 E2/E2/1 システム 図5.4を参照

5.3.2 N による LiPS システムの待ち時間比較の考察

図5.2,図5.3,図5.4によると,N=5(つまり,同時処理可能客数の最大が5)のLiPSシステ ムは,N=10のLiPSシステムよりも客は待たされる.客の到着が,ポアソン過程,2次の超指数 分布,2次のアーラン分布にいずれの場合においても,LiP S5システムにおける平均待ち時間が,

LiP S10 システムにおける平均待ち時間を上回る.

これは,LiP S5システムでは,客がシステムにサービスを要求してから,実際にサービスを受

(28)

第5章 Limited Processor Sharing Systemのシミュレーション評価

5.3 LiPS H2/E2/1N=5の場合,N=10の場合,N=15の場合の比較

5.4 LiPS E2/E2/1N=5の場合,N=10の場合,N=15の場合の比較

けるまでにFIFOの形で待つ必要があるため,LiP S5 システムにおける待ち時間がLiP S10 シス テムにおける待ち時間を超えることになる.

次に,LiP S15 システムとLiP S10システムを比較すると,客の到着が,ポアソン過程,2次の 超指数分布,2次のアーラン分布にいずれの場合においても,LiP S15 システムにおける平均待ち 時間がLiP S10システムにおける平均待ち時間を上回る.

これは,同時に処理することができる客数を増やすと(この場合,N=15にすると),それぞれ の客に与えるサーバ資源の配分が小さいからであると考えられる.LiP S10システムの場合,サー

24

(29)

5.3 LiP S5LiP S10LiP S15 の各システムにおける待ち時間比較

バ資源の 101 を各客に与えるのに対し,LiP S15 システムの場合,サーバ資源の 151 しか各客に与 えることができない.

(30)
(31)

6

結論

6.1 まとめ

1章「序論」では,本研究の背景と目的を述べた.

2章「トラヒックモデルとその記法」では,本研究の基礎となる理論の解説とその表記方 法について解説した.

3章「従来評価法とその課題」では,通信トラフィックを扱った従来研究について触れ,

本研究における問題に即した内容であるか検討し,従来研究の本研究への応用の仕方を検討 した.

4章「GI/GI/1 Processor Sharing System のシミュレーション評価」では,M/E2/1,

H2/E2/1,E2/E2/1の3つの具体的なモデルを対象として,待ち時間の振れ幅の比較・検討

を行った.

5章「Limited Processor Sharing Systemのシミュレーション評価」では,アクセス応答 時間の改善のために,LiPSに基づいたシステムの提案を行った.さらに,提案するLiPSシ ステムの待ち時間に関する特性を示した.

6.2 今後の課題

提案するLiPSシステムにおける待ち時間に関する理論式の導出を行う.

(32)
(33)

謝辞

本研究を進めるにあたり,終始懇切丁寧な御指導,御助言を賜りました小松尚久教授,高橋敬 隆教授,四方義昭教授,甲藤二郎教授に心から深く感謝の意を表します.また,日頃から有意義 な検討及び討論をして頂いた星健太郎氏,野中優氏,田村健範氏を始め,小松研究室の皆様に深く 感謝いたします.

2012年2月6日

楠部 健

(34)
(35)

参考文献

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[4] B. K. Asara and F. G. Foster, “Conditional response times in the M/G/1 processor- sharing systems,” J. of Applied Prob., vol.20, pp. 910-915, 1983.

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[7] Kentaro Hoshi, Yoshiaki Shikata, Yoshitaka Takahashi, and Naohisa Komatsu, “Mean Ap- proximate Formulas for GI/G/1 Processor-Sharing System,” IEICE TRANS.COMMUN., VOL.E94-B,NO.8 AUGUST 2011.

[8] J.L. van den Berg and O.J.Boxma, The M/G/1 queue with processor sharing and its relation to a feedback queue, Queueing Systems, vo.9, pp.365-402, 1991.

[9] B.K.Asare and F.G.Foster, CONDITIONAL RESPONSE TIMES IN THE M/G/1 PROCESSOR-SHARING SYSTEM, Applied Probability Trust, J.Appl.20.910-915, 1983.

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[12] K.Hoshi, Y.Shikata, Y.Takahashi, and N.Komatsu, Mean Approximate Formulas for GI/G/1 Processor-Sharing System, IEICE TRANS. COMMUN., VOL.E94-B,NO.8, AU- GUST 2011.

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(36)

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[18] G.Yamazaki,H.Sakasegawa, AN OPTIMAL DESIGN PROBLEM FOR LIMITED PROCESSOR SHARING SYSTEMS, MANAGEMENT SCIENCE, vol.33, No.8, August 1987.

32

(37)

付録 A

待ち行列理論

A.1 待ち行列理論の要素

待ち行列を考える上で必要となる要素,基本となる部分について以下の説明を行う.

待ち行列理論において何らかのサービスを受ける対象である.サービスを受けるために到着 する人・物・情報(パケットなど),すべてを指す.客を客となり得る母集団の内の1つのサ ンプルと捉えると,その母集団が有限か,それとも無限かによって問題の場合分けがなされ る.通常,母集団は無限であると考えるのが一般的であるが,問題によっては母集団を有限 とし,有限母集団待ち行列として考える.例えば日本の人口について考えると,今現在の日 本の人口が有限であることは明らかである.よって日本の人口は有限母集団となる.それに 対し,同じことを何度も繰り返すような行為は無限母集団である.一般的に,問題としては 無限母集団のほうが有限母集団よりも取扱いが容易である.そのため,たとえ母集団有限で あっても母集団のサンプル数が多ければ生じる誤差は極めて小さいため,無限母集団として 問題と同等に扱い解く場合もある.

サービス窓口

客に対し何らかのサービスを提供する窓口を指す.サービスを提供するのは人・物・機械

(ATM・サーバなど),様々である.サービス窓口は1つと決まっているわけではなく,複数 ある場合もある.この窓口の数を窓口数という.窓口数が十分にあれば,到着する客の数が 多くても待つ客は少なくなる.窓口数が多ければ多いに越したことはない.しかし,ここで 問題となるのが窓口を設置するためのコストである.窓口増設のための一時的コスト(工事・

設備の費用)だけでなく,窓口数分の維持管理費が必要となるため,無秩序な窓口数の増加 は事実上不可能である.よって,到着する客を観測し,柔軟な窓口数の決定をが求められる ことになる.ここで使用するのが待ち行列理論である.待ち行列理論は窓口数を様々に変化 させたときの待ち行列を知ることができるため,窓口を増設するコストと客を待たせる時間 を比較し,生じるコストを最も小さくする窓口数を決定することができる.

また,同じサービスでも窓口によって品質が異なる場合がある.スーパーのレジを例に挙げる とレジ担当の人の熟練度によって商品を捌くスピードが異なるのは誰もが経験したことがあ

(38)

付録A 待ち行列理論

るだろう.その他の形態として,商品を捌く人(チェッカー)と会計と釣銭を渡す人(キャッ シャー)を2人で分担し,レジを担当する場合もしばしば見かける.空港での荷物チェックと パスポートのチェックは窓口によるサービス自体が異なる.駅の券売機のようにオートメー ション化が進んでいる窓口は,全ての窓口が同じ品質でサービスを提供していると考えるこ とができる.これらの窓口によってサービスが異なる問題でも,窓口でのサービスが同じ問 題でも,全て待ち行列で解くことが可能である.

到着のしかた

確率過程で客の到着のしかたがどの様であるかを表す.また,到着のしかたとして,平均到 着率を用いる.平均到着率はλ(ラムダ)で表現する.この平均到着率とは単位時間当たり に到着する客数を表す.単位時間は待ち行列理論を用いる側で選択が可能であり,1分,1時 間,1日,1年など任意である.平均待ち時間の逆数1/λは平均到着間隔になるため,例え ば,平均到着率が6のとき単位時間を1時間とすると,1時間に平均6人到着し,平均到着間 隔は1/6時間.つまり10分であるということになる.以下,幾つかの確率分布を紹介する.

一定分布(単位分布)

到着のしかたとして最も単純なものは一定間隔であり,確率分布としては一定分布と呼 称される.前の客が到着してから次の客が到着するまでを予測することが容易であり,

待ち行列理論を用いて対策を立てることは比較的少ないといえる.

一様分布

全ての事象が同じ確率で発生するときの分布を一様分布という.例を挙げると,サイコ ロを振ったときの出る目の確率がこれにあたる.

ポアソン分布

2項分布において,np=λとし,λを固定しnを大きくしていくとpは0 に近づいてい く.こうして2項分布の極限をとると,ポアソン分布になる.つまり,起こるとこが稀 な現象の回数を長期間観測するときによく適合する分布である.例えば,交通事故によ る死者数を毎日調査し,死者数によって日数をカウントするとポアソン分布に該当する ことが知られている.

ポアソン分布の特徴として,以下の3つを挙げる.

1. 定常性

いつの時点においても客が到着する確率は同じである.ある時刻において客がどっ と押し寄せるといったことはない.

2. 独立性

他の客に影響を受けることなく到着し,待ち行列に並ぶ.待ち行列を見て,並ぶこ とを中止するといったことはない.

3. 希少性

客が2人同時に到着することはない.同時に2人到着する確率は,1人到着する確

34

(39)

A.1 待ち行列理論の要素

率の2乗のため,同時に2人到着する確率は無視できるほど小さい.

以上の3つの特徴を持つということは,一切の規則性を持たないということである.言 い換えれば,ランダム(無記憶)であることを示している.このように待ち行列理論にお いてランダムな到着にはポアソン分布が用いられる.

指数分布

ランダムに起こる現象(ポアソン分布)において,その時間間隔の分布が指数分布であ る.時間tの関数が指数分布の式である.パラメータとしてλ(サービス時間間隔の場 合はμ)を用いているが,t=0のとき最大の値λとなる.指数関数の式の指数部分に−

(マイナス)がついているため,t=0のときを最大とする遁減型の分布である.ある程度 の期間サービスを行っていれば,ほとんどの人がサービスを受けているはずであり,指 数分布のグラフはその状況をよく表している.このように,待ち行列理論においては主 にサービスの分布に用いられる.また,ポアソン分布と同様に無記憶であり,これをマ ルコフ性と呼ぶ.マルコフ性とは,次に起こることは過去の経過と一切関係がなく,今 の状況にのみ因って起こるということである.このように,サービスが指数分布に従う というのは,数学的に扱いやすいがゆえであるともいえる.

アーラン分布

同一の指数分布に従うk個の確率変数の和が位相kのアーラン分布である.k=1のとき は指数分布に,k=∞のときは一定分布になる.位相kによって指数分布と一定分布はも ちろん,両者のちょうど中間部分を埋め合わせる分布であるといえる.互いに独立でパ ラメータλの指数分布に従うn個の確率変数に対して,それらの和で表される確率変数 は,パラメータλ,位相nのアーラン分布に従う.n=1のとき指数分布に一致するのは 明らかである.また,アーラン分布は通常(k=1,k=∞以外のとき)ピークを持つ.アー ラン分布のピークは位相kと平均1/λで移動が可能である.さらに前述の通り,アーラ ン分布は累積分布関数のため,ピークのことなる分布の合成が可能である.このように ピークが2つあるような分布を作成することができる.指数分布のようにピークのない 遁減するだけの関数では,サービスに関する全ての現象を表現することは難しい.その ため,ピークを持ち,位相によってピークの位置やピークの高さをある程度決めること ができるアーラン分布は多くの場面で使用されている.

超指数分布

 計算機の処理時間を見ると,比較的短い処理(p)と長い処理(1-p)が混じっている ことがある.これらの処理時間の異なる待ち行列が並列に並んだシステム全体を超指数 分布と呼ぶ.また,変動係数が1を超えるため,ばらつきの大きいシステムによく当て はまるという特徴がある.

サービス時間

サービス時間として平均サービス率を用いる.平均サービス率はギリシャ文字μ(ミュー)

(40)

付録A 待ち行列理論

で表現する.前述の到着のしかたと同様に,サービス時間も待ち行列を考える上で重要な要 素である.客の到着のしかたが同じでもサービスにかかる時間が変われば,当然サービスの パフォーマンスが変わってしまう.そのため,サービス時間に関してもサービスの終了がど の様であるか(サービス時間のばらつき)について確率過程で考える必要がある.通常,ラ ンダムにサービスが終了する場合,サービスにかかる時間を表現するのには指数分布が用い られる.また,その他にアーラン分布を用いることもある.

サービスの順番

サービスの順番とは,客が到着してからサービスを受けるまでの動作に関するルールといえ る.以下に代表的なものを挙げて説明を行う.

到着順処理(FIFO)

待ち行列理論において,通常指定のないときは到着順処理である.FIFO とはFirst-in

First-out の略であり,先に到着した客が先にサービスを受けるというルールである.到

着順にサービスが開始され,どのような客でも自分の番になるまで待ち行列に並び待つ ことになる.しかしながら,客ごとのサービス時間にはばらつきがあるため,サービス のパフォーマンス(平均待ち時間など)は悪くなる可能性がある.

例えば,スーパーなどでの待ち行列を考えてみよう.レジ(サービス窓口)が1つしか ない場合,缶ジュース1本しか買わない客も,1週間分の食料を買う客も同じ待ち行列に 並ばなくてはならない.もし,自分の前にどちらの客がいたら好ましいだろうか.行列 がどのように変化するのか(行列が生じない,もしくは長い行列が生じる等)を考える のは難くない.では次に,自分がレジの担当者だった場合はどうだろうか.客が待つ時 間を少なくする為に,長い待ち行列が生じるのを防ぐ必要がある.今のべた問題点につ いて,対策として用いられる優先順位付きキューを続いて紹介する.

優先度順位付キュー

優先度順位付キューは,優先度に基づき処理の順番を入れ替えるというルールである.2 人以上が待ち行列を作るとき,処理の順番を入れ替えることで,全体としてのパフォー マンスを向上させることができる場合がある.

客の到着時に優先度のチェックが行われ,到着した客の優先度が高く,かつ,待ち行列 に優先度の低い客が既に並んでいる場合,割り込みという形で処理を受ける順番を変更 する.サービス全体としてのパフォーマンスは向上するが,優先度でサービスを受ける までの時間が異なり,優先度による客間の不公平が生じる.優先度付きキューとしては,

RED などが有名である.

逆順処理(LIFO)

最近に到着した客が,最も早く退去するというルールである.LIFOとはLast-inFirst- outの略であり,FIFOがキューと言われるのに対し,LIFOはスタックと呼ばれる.待 ち行列で用いられることは少なく,プログラミング等で頻繁に用いられるデータ構造で

36

(41)

A.1 待ち行列理論の要素

ある.

待合室の大きさ

待合室の大きさとは,客が存在できる大きさ全体である.待ち行列で待つことができる人数

(待ち行列容量)でなく,サービスを受けることができる人数(サービス窓口数)をも含んだ 容量である.例えば,サービス窓口数が一定で待合室の容量が増減すると,待ち行列容量に ダイレクトに影響する.このとき,待ち行列容量が少ないと,せっかく到着した客が並ぶこ とができずに帰ってしまう可能性が高くなる.サービスを提供する側から見ると,客を逃し てしまった一種の損失と考えることができる.逃してしまった客の割合を呼損率と表現し,

呼損率を加味した上で評価を行うことも可能である.また,呼損が生じるようなシステムを 損失系システムと呼ぶ.待合室の大きさについては,省略されることも多い.特に明記のな い場合,待合室の大きさは無限大とする.

ケンドール記号

今まで述べてきた待ち行列の要素を用いて,どのような待ち行列かを簡潔に表す表記法であ

る.A/B/c/K/mという/(スラッシュ)を挟んだ形で表現する.それぞれの要素について以

下に示す.

時間分布モデル(A,B)

GI:一般分布(特定の分布は仮定しない)

G:一般分布(特定の分布を仮定しない)

D:一定分布

M:ポアソン(到着),指数分布(サービス時間)分布

Ek:k次のアーラン分布 サービス窓口数(c)

待合室の大きさ(K)

システムに来る客の数(m)

但し,待合室の大きさ(K)とシステムに来る客の数(m)に関しては,表記がない場合は∞

とする.

待ち行列のタイプ

待ち行列のタイプとしては,待ち行列を形成するか否かによって,待時系と即時系に大別す ることができる.

待時系

待ち行列を形成するものを待時系システムという.待ち行列の形成の仕方は,到着した 客が窓口が空いていなければ待ち行列に並ぶというものだった.しかし,待ち行列の容 量が有限(無限でない)とき,待ち行列に並ぶことさえできない客が存在する場合があ る.待ち行列に並ぶことができる容量が一杯ならば,そのまま退去してしまうからだ.

(42)

付録A 待ち行列理論

これを呼損と呼び,呼損の生じるモデルを前述の 損失系のモデル という.待時系の システムで呼損が生じるならば,待時系であるのと同時に損失系のモデルである.当然,

待ち行列容量が無限の場合は,呼損が生じないため,損失系のモデルではない.

即時系

即時系とは到着した客が待つことなく,すぐさまサービスを受けることを前提としたシ ステムである.それゆえ,すぐさまサービスを受けることができない場合,客は呼損と なり,そのまま退去することになる.つまり,損失系のモデルといえる.例えば,電話交 換機の問題などがこれに当てはまり,サービスを受ける(電話が繋がる)ことができる か否かの2 択である.

38

(43)

関連業績

【シンポジウム発表 】

Limited Processor Sharing GI/GI/1システムにおける待ち時間特性に関する研究 2011年11月 コミュニケーションクオリティ研究会(CQ2011)

楠部 健,星 健太郎,高橋 敬隆,小松 尚久

参照

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