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地方自治体による街区公園のボール遊びの規制実態に関する研究

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1.はじめに

 都市公園は原則自由な利用を基本としながら,公衆の利用・安 全に支障を来さないよう規制が設けられている。とりわけ街区公 園は地域住民の生活に密着した身近な公園であり,敷地面積も限 られていることから,近隣住民や公園利用者同士の許容可能な範 囲を探りながら,地方自治体は管理運営を行う必要がある。

 ボール遊びは,子どもにとって昭和初期から変わらず人気の遊

びである1)~3)一方で,事故に発展する危険性があることから行

為の規制に当たっては公園管理者の判断が求められている。旧来 より都市公園におけるボール遊びの規制があることを示す報道4)

がある中で,近年改めてボール遊びへの行為規制が増加し,子ど もがボール遊びをすることが難しくなっているとの報道がなされ るようになった5)。このような風潮に対し,2018 年の都市公園 法改正の資料には「画一的な都市公園の管理」の一例として「一 律でボール遊び禁止」が示され6),今後は協議会等を設置し,関 係者による議論に基づいた柔軟な公園利用ルールの策定が求めら れるなど7),状況の打開に向けた管理運営の方針が示されている。

また具体的な対応策として,都市公園で子どもがボール遊びでき るよう,地方自治体や民間の団体による様々な事業が行われてい る。例えば,安全なボール遊びができるように,東京都千代田区 ではプレーリーダーの配置8),神奈川県大和市ではボールネット の設置9),神奈川県川崎市では「公園でのルール作りのガイドラ イン(ボール遊び)」の作成10),千葉県船橋市では中学生の意見 をもとに,ボール遊びができる施設やルールづくり,ボール遊び ができる公園のマップづくり11)を行っている。また民間の団体では,

日本プロ野球選手会によるキャッチボール専用の柔らかいボール の開発と普及12),一般社団法人日本公園緑地協会による「キャッ チボールのできる公園づくりモデル事業」13)などが進められている。

 これまで都市公園の管理運営の1つである利用ルールに関して は,指定管理者制度や住民参加の運営により,公園内の許容され る行為や活動の幅を拡張してきた研究報告14),15),特別にボール

利用が認められた要因を明らかにした研究報告16)がある。また 近年の民間の調査報告においては,306 箇所の街区公園や児童遊 園の実地調査から禁止事項や看板表記に地域差が見られ,首都圏 では例外なくボール遊びへの禁止事項があること17),子どもを 持つ親への意識調査では約8割の親が昔に比べて公園の規制が増 加したと感じており,増加したものの代表としてボール遊びが挙 げられていること18),国連から先進国に対して子どもの遊び場 における過度な利用の制限に対して警鐘が鳴らされており9),子 どもの遊びに対する行為規制に対する見直しが求められていると 考えられる。

 しかしながら,ボール遊びをはじめ,都市公園における利用ルー ルの実態や行為規制自体に着目した学術報告,地方自治体による 公園利用の行為規制の方針等に関する報告はみられない。ボール 遊びへの行為規制の全貌が見えない中,都市公園における規制に 対する議論や見解が示されている状況にある。その結果,行為規 制が増加したという都市公園のイメージが広がり,自由な利用を 基本とする都市公園の原則が危惧されていることから,ボール遊 びへの行為規制の実態を把握し,課題を整理した上で具体的な対 策を検討することが重要である。前述の通り,ボール遊びへの行 為規制に対する政府の指針や地方自治体や民間団体の動向を鑑み ると,具体的な対策が進んでいることから,柔軟な利用ルールに 基づく都市公園の管理運営のあり方が求められていると言える。

 そこで本研究は,ボール遊びに対して柔軟な都市公園の利用ルー ルの策定に向けて,地方自治体による街区公園のボール遊びへの 行為規制の実態を明らかにし,都市公園の管理運営における利用 ルール策定の課題を整理することを目的とする。具体的には,ボー ル遊びへの規制の実態として,①どれほどの自治体でボール遊び の規制があるか規制状況を明らかにすること,②どのように規制 しているのか規制内容を明らかにすること,③規制の変更の可能 性を検討するため,今後のボール遊びの規制意思について明らか にすること,以上3点から探ることとする。

 千葉大学大学院園芸学研究科 **大妻女子大学社会情報学部

地方自治体による街区公園の

ボール遊びの規制実態に関する研究

Research on local governmental restrictions for ball play in block parks

寺田 光成

 木下  勇

**

Mitsunari TERADA Isami KINOSHITA

Abstract:This research aims to clarify the local governmental restrictions on ball play in urban parks and identify management problems. We sent 399 questionnaires to top 8 populated cities in each of 47 prefectures of Japan and 23 wards of Tokyo, 276 local governments responded. The result is as follows:1) 60% of responded local governments have restrictions on ball play, among them 40% in certain parks individually and 20% in all parks “unifiedly”. The bigger the city, the more restriction rate for ball play it has, and overall growth is provided by the increasing share of individual restrictions. In Tokyo, the unified restriction rate is significantly higher compared to other cities. 2)We identified two sources of the local governmental ball play restriction in urban parks: first - direct request from the neighborhood, second - inheritance of the restriction from the previous government. 80% of government do not know when the ball play was prohibited. 3) Once ball play is restricted, there is no case showing the change back to “non-restricted” state. About 90% of governments do not plan to change their current policy. 4) We identified that there is no clear method of decision-making regarding the ball play, including documentation.

Keywords:urban park, ball play, restriction, prohibition, children, play キーワード:街区公園,ボール遊び,規制,禁止,子ども,遊び

■ 研究論文

(2)

2.研究の方法

(1)調査の前提と用語の定義

 本研究ではボール遊びへの行為規制に関して,各地方自治体が 管理運営を担う街区公園における基本的な規制方針をたずねる。

 ボール遊びの定義を,「街区公園での原則,自由な利用が認め られている空間でのボールを用いた遊び」とした上で,主に子ど もの遊びを範疇とする。ただし,街区公園の利用ルールにおける ボール遊びへの行為規制は,子どもに限らず大人も対象者となる。

そこで,まずは行為規制の対象となるボール遊びを明らかにした 上で,子どもの人気のボール遊び3)を踏まえて,子どもの遊び の範疇における考察を行うこととする。また「野球」や「サッカー」

などの球技は,球戯として子どもの遊びとして行われていること

から1)~3),前述の定義の範囲内において,ボール遊びとして扱

うこととする。そのため,予約や占用使用許可の手続きが必要な スポーツ少年団などの団体による活動,球場をはじめとする運動 施設における活動は,対象から除外する。

 次にボール遊びへの規制は,公園利用者が認識できるよう街区 公園内に看板を設置していることを前提とする。看板の記載内容 は,規制とは「行為を止める表現」である「禁止」を意味する表 記,そして「行為を控えることを促す表現」を「注意喚起」とし,

具体的な看板への表記例の文言を示した(表-1)。

 最後に質問紙調査を踏まえ,地方自治体によるボール遊びへの 行為規制のあり方を3つのタイプに分類した(図-1)。まず,

少なくとも1つの街区公園でボール遊びへの行為規制をしている ものを「規制あり」とした上で,「一律規制」,「個別規制」の2 つのタイプに分けた。「一律規制」は,基本的にどの街区公園で も規制している場合であり,「全街区公園における共通の利用ルー ルとしてボール遊びを規制し,全街区公園の看板で禁止等の掲示 をしているもの」とした。「個別規制」は,全ての街区公園では なく公園によってボール遊びへの行為規制の有無が異なる場合で あり,「一部の街区公園における利用ルールとして,ボール遊び を規制し,規制している街区公園の看板でのみ禁止等の掲示をし ているもの」とした。そして「規制なし」の場合は「許容」タイ プとし,「全街区公園においてボール遊びを規制せずに公園利用 者の判断に任せており,看板では規制の呼びかけをしていないも の」とした。

(2)対象の選定と調査方法

 各都道府県における人口が上位8位までの市町村,および東京

都 23 区全区を含む計 399 自治体の街区公園を対象,自治体の公 園管理担当者を対象者とし,質問紙調査を実施した(表-2)。  街区公園を対象とした理由は,誘致距離から子どもの遊びに身 近な空間である上,公園面積が限定されており利用者同士や近隣 住民の理解が必要となることから,規制に関して判断が異なる自 治体が多いと考えたためである。

 対象とした自治体の選定理由は,都市公園が多い自治体は人口 集積地区が広いこと,地域差も考慮して全国の自治体の実態把握 の必要性があることが挙げられる。また東京都 23 区を含めた調 査を行った理由として,2014 年東京都環境条例から子どもの声 を騒音基準から除外すること,子どもの人口が全国で唯一増加し ていること,既往の調査より首都圏に例外なくボール遊びが禁止 されていること10)から,他の自治体と比べてボール遊びへの行 為規制の状況が異なると考えられたためである。以上の理由によ り東京都 23 区を含めた調査を行うとともに,東京都を独立して 扱うこととした。

 以上対象を位置づけた上で,2019 年1月末から2月上旬に返 信用封筒を同封の上,質問紙を郵送にて送付・回収を行った。集 計の結果,276 自治体から有効回答を得た。

(3)調査項目と構成

 本論の構成に合わせて,調査項目を示した(表-3)。まず第 3章で結果を示すため,1節では研究目的①に応答し,地域別・

都市の人口規模別のボール遊びの規制タイプなど,規制状況を示 す。次に2節では研究目的②に応答し,規制状況をさらに詳細に 把握するため規制内容を示す。そして3節では,研究目的③に応 答し,今後のボール遊びの規制に対する変更意思を示す。これら 得られた知見を第4章で考察しながら,第5章で結論を述べる。

(4)分析方法

  分 析 は 以 上 の 調 査 項 目 を 用 い ,S A S社 の 統 計 解 析 ソ フ ト

表-1 禁止(規制)・注意喚起の表記例 表-2 調査概要

図-1 規制のタイプ分け

表-3 調査項目と構成

(3)

JMP14.0 を使用し統計分析を行った。単純集計後,規制タイプ 別に実態を把握するため,クロス集計を行い,χ2検定(*p<0.05,

**p<0.01)を行った。またどの規制タイプに有意差が認められた か を 確 認 す る た め に 残 差 分 析 を 行 っ た 。 残 差 分 析 に お い て p<0.05 の水準で,有意に多い回答が得られた部分には「+」,有 意に少ない回答が得られた部分には「―」を示した。

3.結果

(1)街区公園におけるボール遊びの規制状況 1)全国におけるボール遊びを規制する自治体

 全国におけるボール遊びへの行為規制(図-2)は,「規制あり」

の自治体が 60%(n=166),「規制なし」の自治体が 40%(n=110)

であった。規制タイプ別は,「一律規制」の自治体が約2割

(n=50),「個別規制」の自治体が約4割(n=116),「許容」の自 治体が4割(n=110)であった。

2)ボール遊びに対する共通の掲示事項

 「個別規制」の自治体,「許容」している自治体では,全街区 公園に共通して,何らかの呼びかけの掲示をしているかどうかた ずねた。なお,「一律規制」の自治体では前述の定義の通り,全 街区公園で共通して「規制」に関する事項を掲げているものとす る。

 「個別規制」の自治体(n=116)のうち,58.6%(68ヶ所)の 自治体が「特になし」,41.4%(48ヶ所)の自治体が「注意喚起」

であり,「許容」の自治体(n=110)の,58.2%(64ヶ所)の自治 体が「特になし」,41.8%(46ヶ所)の自治体が「注意喚起」であっ た。χ2検定の結果,有意差は得られなかった。両規制タイプと もに,ボール遊びに対して,6割程度の自治体が「特になし」,

4割程度の自治体が「注意喚起」をしていることがわかった。

3)地域別・都市の人口規模別にみるボール遊びの行為規制  ボール遊びへの行為規制の有無は,地域別(図-3)では大き く差はみられなかったが,「東京都」では「一律規制」の自治体 が 59.1%と多く見られ,χ2検定の結果有意差が得られた。残渣 分析の結果,「東京都」は他の地域に比べ「一律規制」の割合が 高く「許容」している自治体の割合が低いことがわかった。

 都市の人口規模別(図-4)では,都市の人口規模が大きくな るにつれて「個別規制」といった「規制あり」の自治体が多くな り,また逆に小さくなるにつれて,ボール遊びを「許容」してい る「規制なし」の自治体の割合が高い。また,地域別同様,独立 して扱った「東京都」における「一律規制」の割合は,他の都市 規模と比較しても突出して高い。χ2検定の結果,有意差が得ら れ(**p<0.01),残差分析の結果,「東京都」において,他の都市 規模に比べて「一律規制」の割合が高く,「許容」の自治体の割 合が低い。また「政令指定都市」,「中核都市規模」では「個別規 制」の割合が高く,「東京都」同様に「許容」の割合が低い。一 方で,「小都市規模」,「町村規模」では「許容」の割合が高く,「個 別規制」の割合が低いことがわかった。以上より,「東京都」で「一 律規制」の自治体の割合が高く,人口規模が大きくなるに応じて,

「個別規制」の自治体の割合が高く,「許容」の自治体割合が低く なることがわかった。

4)例外でボール遊びができる街区公園の有無

 ボール遊びの規制方針として,原則「一律規制」としている自 治体(n=50)のうち,例外としてボール遊びができる街区公園 を設けている自治体は,「東京都」では 84.6%(11ヶ所),「政令 指定都市」では全2自治体で,「中核都市規模」では 50%(6ヶ 所),「中都市規模」では 33%(3ヶ所),「小都市規模」では 60%(6ヶ所),村規模」では 50%(2ヶ所)となっ「町村規模」

では 50%(2ヶ所)となった。「一律規制」の自治体においても,

ボール遊びができる街区公園を設けていることがわかった。

図-2 全国のボール遊びの規制状況

図-3 地域別のボール遊びの規制状況

図-4 都市の人口規模別のボール遊びの規制状況

図-5  街区公園以外の都市公園等でのボール遊びの規制状況

(4)

5)街区公園以外の都市公園等でのボール遊びの規制状況  日常的に子ども自身が行ける範囲に位置している公共の遊び場 として,近隣公園・児童遊園(回答者の部局が管理を担当してい る場合)においてもボール遊びを規制しているかたずねたところ

(図-5),街区公園でボール遊び「規制あり」の自治体(n=166)

で,近隣公園を管理運営している場合の規制について,「一律規制」

の自治体(n=45)は,「禁止」82.2%,「特になし」11.1%,「注 意喚起」6.7%の順であり,「個別規制」の自治体(n=114)では,

「注意喚起」47.4%,「特になし」40.3%,「禁止」12.3%の順であっ た。また児童遊園においても,「一律規制」の自治体(n=30)は,

「禁止」93.3%,「注意喚起」3.3%,「特になし」3.3%の順となり,

「個別規制」の自治体(n=65)では,「注意喚起」46.2%,「特に なし」35.4%,「禁止」18.5%での順となった。χ2検定の結果,「近 隣公園」,「児童遊園」ともに有意差が得られ,残差分析の結果,

両遊び場において「一律規制」の自治体では「禁止」が多く,「個 別規制」の自治体では「注意喚起」,「特になし」の割合が高いこ とがわかった。

(2)ボール遊びの規制内容 1)規制対象となるボール遊び

 「規制あり」の自治体(n=166)において,規制対象のボール 遊び(図-6)は,「一律規制」の自治体では「指定」46%,「全 て」38%,「利用者の判断」16%の順であり,「個別規制」の自治 体では「指定」56.9%,「利用者の判断」25%,「全て」18.1%の 順であった。どちらにおいても「指定」のものが多いが,χ2検 定の結果,有意差な傾向(*p<0.05)にあり,残差分析の結果,「一 律規制」で,「全て」のボール遊びを規制する自治体の割合が高 いことがわかった。

 また,「指定」のボール遊びへの規制をしている場合(図-7), 子どもの遊びを含め,利用者に対してどのようなボール遊びを規 制しているか選択肢を示してたずねたところ,上位5つとして「野 球」80.5%,「サッカー」70.1%,「ゴルフ」69.0%,「キャッチボー ル」20.7%,「テニス」は 12.6%が挙げられた。その他は,「バス ケットボール」9.2%,「バレーボール」3.5%,「キックベース」

3.5%,「ドッジボール」3.5%,「バトミントン」1.2%,「フリス ビー」1.2%であり,条件として「柔らかいボール」や「未就学 児によるボール遊び」といったボール遊びは除外している自治体 もあった。

2)ボール遊びの規制に対する管理・対応

 ボール遊びに対する具体的な対応(図-8)は,どの規制タイ プにおいても,「住民の要望時に対応する」が最も多く,「一律規 制」で「定期的にパトロール」は 26%,「許容」の自治体で「特 別な対応をしていない」が 28.2%と多い。χ2検定の結果,「住 民が要望時に対応する」(**p<0.01),「特別な対応はしていない」

(*p<0.05)で有意差が得られ,残差分析の結果,「個別規制」の 自治体で,「住民が要望時に対応する」の割合が高く,「許容」の 自治体で割合が低いことがわかった。また,「特別な対応はして いない」の割合が「許容」している自治体の割合で高く,「個別 規制」の自治体の割合で低いことがわかった。

3)現在のボール遊びの規制理由

 ボール遊びの「規制あり」(n=166)の場合,規制理由(図-9)

として,どちらの規制タイプにおいても「近隣から危険と要望」

が最も多い。また,「一律規制」の自治体では「継続して規制」

が半数と「個別規制」の自治体の 12.1%に比べ多く,また「過去 に事故があった」22%も,「個別規制」の 8.6%に比べ多い。χ2 検定の結果,有意差が得られ(**p<0.01),「一律規制」の自治体 では「継続して規制」,「過去に事故があった」の割合が高く,「個 別規制」の自治体で「近隣から危険と要望」の割合が高いことが わかった。

4)ボール遊びの規制開始時期

 ボール遊び「規制あり」の自治体(n=166)の規制開始時期(図

-10)に関しては,どちらの規制タイプにおいても「不明」とす る自治体が7−8割におよび,「0−10 年前」,「10 年以上前」は 図-7 ボール遊びが「指定の場合」の規制対象上位5つ

図-10 ボール遊びの規制開始時期 図-6 規制対象のボール遊び

図-8 ボール遊びの規制に対する管理・対応

図-9 現在のボール規制理由

(5)

1割程度である。χ2検定の結果,有意差は得られなかったが,

多くの自治体で規制開始時期が把握できていないことがわかった。

5)規制開始時のボール遊びの規制理由

 規制開始時のボール遊びの規制理由(図-11)は,現在の規制 理由と同様,どちらの規制タイプも「近隣から危険と要望」が「一 律規制」で 54%,「個別規制」81%が最も多い。χ2検定の結果,

有意差が得られ(**p<0.01),「個別規制」で「近隣から危険と要 望」の自治体の割合が「一律規制」の自治体に比べて高く,「一 律規制」の自治体では「不明」の自治体の割合が「個別規制」の 自治体に比べて高いことがわかった。

(3)今後のボール遊びの規制意思 1)規制経験の有無

 ボール遊びを「許容」している自治体(n=110)において,過 去にボール遊びへの行為規制をした経験の有無をたずねたところ,

未回答の3自治体を除く全ての自治体で規制したことが「ない」

ことがわかった。つまり,一度でもボール遊びが規制事項化した 場合,後に規制を解除するような行為規制の方針変更の前例はな いと言える。

2)ボール遊びに対する住民からの要望数

 ボール遊びに対する住民からの要望数(図-12)は,「変わら ない」が「一律規制」では 62%,「個別規制」では 51.7%,「許容」

では 53.6%と,自治体において,過去に比べて住民からの要望に ついて「変わらない」と感じているものが半数に及ぶ。そして,

「個別規制」においては「増えた」という自治体が 28.5%である。

χ2検定の結果,規制タイプの比較における有意差は得られなかっ た。

3)今後のボール遊びの規制変更意思

 今後のボール遊びの規制変更の意思(図-13)は,規制有無ご とに分析を行ったところ,「現状維持」が「一律規制」では 78%,「個別規制」では 91.4%と最も多かった。そして,「ボール 遊びできる公園を増やす」が「一律規制」では8%,「個別規制」

では 4.3%となっている。「その他」には,「一律規制」,「個別規 制」ともに,「地元地域との協議により柔軟なルールづくり」が

挙げられた。χ2検定の結果,有意差は得られなかった。また「規 制なし」の「許容」している自治体(n=110)は,「現状維持」

が 90%であるが,「規制強化・対応」としている自治体も 10%い ることがわかった。

4.考察 

 地方自治体による街区公園のボール遊びへの行為規制の実態か ら得られた成果を項目ごとにまとめ,考察を行う。

(1)街区公園におけるボール遊びの規制状況に関する考察  全国における自治体のうち,街区公園のボール遊びの「規制あ り」が6割,「規制なし」が4割で,規制タイプ別では,2割は「一 律規制」,4割は「個別規制」,6割は「許容」であった。規制は,

地方別で大きな差はみられなかったが,地域別・人口別ともに独 立して扱った東京都で「一律規制」が突出して多いこと,そして 都市の人口規模別では,人口規模が大きくなるにつれて「個別規 制」の自治体の割合が高くなり,小さくなるにつれて「許容」し ている自治体の割合が高くなることがわかった。さらに「一律規 制」の自治体は,「個別規制」の自治体に比べて,他の都市公園 等においてもボール遊びを規制している自治体の割合が高いこと がわかった。

 ここから,ボール遊びへの行為規制のある街区公園のルールは,

人口密集地域が大きい大都市の自治体に多いと考えられる。また その中でも「一律規制」を行う自治体では,多様な住民のニーズ に対応するために,他の都市公園等においても一元的な管理運営 をせざるをおえない状況があると推察される。一方で「一律規制」

の自治体では,例外としてボール遊びができる公園を設けていた ことから,ボール遊びに対する規制の必要性が伺えるものの,他 都市に比べて子どもの数も多いことが考えられ,公園の自由利用 の観点からボール遊びの保障につながっていると推察される。子 どもの遊ぶ権利を保障するためにも,日常的な行動圏である小学 校区域等を考慮しながら,子ども自身が歩いて行ける範囲にボー ル遊びができる遊び場を設けていくことが重要であると考えられ る。

(2)ボール遊びの規制内容に関する考察

 ボール遊びの規制内容は,規制タイプごとに得られた結果の要 点を示し,都市公園の管理運営における課題を考察する。

1)「一律規制」の自治体におけるボール遊び規制内容

 「一律規制」の自治体では,現在ボール遊びの規制理由として,

「近隣から危険である」が約6割,「過去に事故があった」ことが 2割程度と「個別規制」に比べて高く,規制開始の理由も,「近 図-11 規制開始時のボール遊びの規制理由

図-12 ボール遊びに対する住民の要望数

図-13 今後のボール遊びの規制変更意思

(6)

隣から危険だとの要望」が半数以上にのぼっている。ここから,

東京都といった過密地域においては,前節で示した理由の他,「近 隣から危険と要望」が寄せられることに対して,その都度現場で の対応を積み重ねていった結果,一律で規制することになったと 考えられる。また図-9の通り,現在の規制理由が「継続して規 制」している自治体が半数あること,図-10,11 の通り,規制 開始の時期が「不明」の自治体が約9割,規制開始の理由が「不 明」である自治体が半数にのぼること,そして3節で規制方針が 解除されるといった前例がないことから,規制に至る経緯が記さ れた行政資料が残されていないと考えられる。

 現場での対応は,個々に異なるものであり,その都度,明確な 方法や基準に基づいて行うことは困難であるとも考えられる。し かし神奈川県川崎市10)のように,ボール遊びへの行為規制に当たっ てのガイドラインを示し,ルール策定の方法や基準を示し,ボー ル遊びを規制の対象とする理由や経緯に関する情報の記録し,関 係者に共有することが重要である。これら情報が残されていない 場合でも,今後,自治体により協議会の開催が予定されているこ とから,近隣の住民の参加を呼びかけ,情報を収集・記録しなが ら,規制の実態に踏まえて,柔軟に利用ルールを検討していくこ とが求められる。

2)「個別規制」の自治体におけるボール遊び規制内容

 「個別規制」の自治体では,図-6の通り,全てのボールを規 制せず「指定」のボール遊びを禁止する傾向にあることがわかっ た。その理由として,図-9,11 の現在の規制理由,規制開始 理由で,「近隣から危険と要望」があることが挙げられる。この 点においては,「一律規制」自治体で示唆されたように,ガイド ラインを示した上で,行為規制に至る理由や経緯を記録していく ことが求められる。

 規制の対象となるボール遊びに関しては,「ゴルフ」といった 大人に限定されると想定されるものもあったが,「野球」や「サッ カー」といった子どもに人気の遊び3)が7−8割の自治体で,規 制の対象になっている。これは,ボールの動きが不規則となり近 隣住民や他の利用者の利用に支障を与える可能性が大きくなるこ とから,規制対象となったことが考えられる。無論,ボール遊び は他の利用者や周辺住民への危険を伴い,安全性の確保する観点 から,規制に至ることも1つの選択肢であるが,東京都千代田区8)

のようにプレーリーダーを配置することや,神奈川県大和市9)

のように防球ネットを設置するなどの対策をすることで,ボール 遊びを規制せずに,「近隣住民の危険との要望」に応答していく ことも有効であると考えられる。しかし設置には費用を伴うこと が考えられることから,千葉県船橋市11)の取り組みのように,

当事者である子どもの意見も聞きながら,ボール遊びができる公 園とできない公園を選択していく方法も考えられる。

3)「許容」している自治体おけるボール遊びへの対応

 最後に,「許容」している自治体では,図-8の通り,ボール 遊びの規制に対する管理・対応では「特別な対応はしていない」

が3割程度であり,他の規制タイプに比べて多かった。「許容」

している自治体が人口規模の小さい都市に多く,人口密集地域が 小さいことから,そもそも対応につながるような要望がないと考 えられる。

(3)今後のボール遊びへの行為規制の変更意思に関する考察  「許容」している自治体のボール遊びの規制経験は,全ての自 治体で一度もないことから,一度でもボール遊びが規制事項化し た場合,後に規制を解除するような規制方針の変更は前例がない ことがわかった。

 またどの規制タイプにおいても,図-12 の通り,近年の自治 体に対する住民からの要望数が「変わらない」と答える自治体が 半数以上おり,図-13 の今後のボール遊びへの行為規制の変更

意思では,「現状維持」という意思を持つ自治体が8−9割にのぼ ることがわかった。これはボール遊びへの行為規制が強くなって いるという報道等があるが,近年の住民からの要望数は変わらな い上,前述の行為規制を解除するといった方針変更の前例がない ことからも,規制の変更に至っていないと考えられる。しかし前 述の通り,利用ルール策定の方法が明確に確立されていなかった ことが示唆されたことを踏まえると,ガイドラインや協議会等な ど,改めて各地域におけるニーズを把握する仕組みを確立してい くことが重要であると考えられる。

5.結論

 本研究では,ボール遊びに対して柔軟な都市公園の利用ルール の策定に向けて,地方自治体による街区公園のボール遊びへの行 為規制の実態を明らかにし,都市公園の管理運営における利用ルー ル策定の課題を整理することを目的とした。

 地方自治体による街区公園のボール遊びへの行為規制の実態と して,次のことが明らかになった。

①街区公園におけるボール遊びの規制状況として,規制をしてい る自治体は6割程度である。地域別,都市の人口規模別にみる と,東京都で「一律規制」の自治体が多く,都市の人口規模が 大きくなるにつれて,「個別規制」の自治体の割合が高くなり,

人口規模が小さくなると「許容」している自治体の割合が高く なるように,大都市においてボール遊びへの行為規制が多いこ と。ただし,これら自治体の中では例外でボール遊びのできる 街区公園を設けていることが多いこと。

②「一律規制」の自治体では,街区公園以外の他の公園等におい てもボール遊びを禁止し,全てのボール遊びを規制対象にする など,画一的に規制している自治体の割合が高いこと。また現 在の規制理由「近隣から危険と要望」,「過去に事故があった」

と,規制開始の理由「近隣から危険だとの要望」の割合が「個 別規制」の自治体に比べて高い。しかし規制開始時期が「不明」

が9割,規制開始理由「不明」が半数の割合を占める中で,か つてより規制されていることから現在も「継続して規制」して いる自治体の割合も半数にのぼること。

③「個別規制」の自治体では,指定のボールを禁止している自治 体の割合が多く,野球やサッカーといった専用面積が広いと考 えられるボール遊びが規制対象となっていること。また現在の 規制理由,規制開始時の理由として,「近隣から危険との要望」

が「一律規制」の自治体の割合に比べて高いものの,「一律規制」

の自治体と同様に,規制開始時期が「不明」である自治体の割 合が高いこと。

④ボール遊びへの行為規制に関しては,後に解除するといった規 制方針変更の前例がないことがわかった。また,規制タイプに 関係なく,住民から自治体に寄せられる要望数が変わらないこ とから,今後も現状維持の自治体の割合が高いこと。

 また,都市公園の管理運営における利用ルール策定の課題とし ては規制開始時期や理由が「不明」な自治体の割合が高く,規制 に至る経緯が記された行政資料が残されていないことが挙げられ る。この課題に対しては考察で示したように,ガイドラインを通 して利用ルール策定の方法や基準を示し,また利用ルール策定の 経緯を記録し,関係者に共有していくことが重要であると考えら れる。

 なお本研究は,地方自治体のボール遊びの規制方針に限定され ている。そのため,ボール遊びへの行為規制による子どもへの影 響,街区公園の近隣住民が危険と感じる行為や街区公園の空間的 な特徴といった行為規制に至る要因に関しては,明らかにできて いない。また,なぜ「一律規制」が東京都に多いのか,その理由 を明確できていないことも今後の課題として挙げられる。

(7)

謝辞:本稿は,科研費(基盤B)「少子化時代の子育ちの社会関 係資本を再構築する住まい・道・住区の形態に関する研究」(代 表:木下勇,課題番号:20H02323)の成果の一部である。

本研究を進めるにあたり,全国の地方自治体担当職員の皆様に多 大なるご協力をいただきました。鈴木悠平氏,地本真菜氏におい ては調査実施のあたりご支援をいただきました。謹んで感謝申し 上げます。

補注及び引用文献

1)大屋霊城(1933):「都市の兒童遊塲」の研究:園芸学会雑誌 4(1),

1-81

2)佐藤丘・中村攻(1985):子どもの遊びに供される地域空間に関する 研究:造園雑誌 49(5),245-250

3)梶木典子・瀬渡章子・田中智子(2002):都市部の子どもの遊び実態 と保護者の意識:日本家政学会誌 50(9),943-951

4)毎日新聞:「道路で遊んではいけないか」:1979 年 9 月 13 日朝刊,

p15

5)読売新聞オンライン:「公園も大声禁止,遊び場を追われる子どもた ち」:2017 年 7 月 8 日,オンライン(最終閲覧日:2019 年 12 月 2 日 https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20170706-OYT8T50017/)

6)国土交通省(2018):都市公園法改定のポイント:(最終閲覧日:2019 年 9 月 22 日https://www.mlit.go.jp/common/001248733.pdf),p4 7)同上,p37

8)東京都千代田区:ボール遊びをしよう(子どもの遊び場事業),(最終 閲覧日:2019 年 9 月 22 日,https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/

kosodate/kyoikukatsudo/asobibajigyo.html)

9)神奈川県大和市:よくある質問・回答集「公園でのボール遊び」,(最 終閲覧日:2020 年 4 月 22 日,http://faq.city.yamato.lg.jp/faq/

show/700?category_id=319&return_path=%2Fcategory%2Fshow%2 F319%3Fpage%3D1%26site_domain%3Ddefault%26sort%3Dsort_

access%26sort_order%3Ddesc&site_domain=default

10)神奈川県川崎市:公園でのルール作りのガイドライン(ボール遊び)

を作成しました,(最終閲覧日:2019 年 12 月 11 日,http://www.

city.kawasaki.jp/530/page/0000101086.html)

11)千葉県船橋市:ボール遊びをしよう(子どもの遊び場事業),(最終閲 覧日:2020 年 4 月 22 日,https://www.city.funabashi.lg.jp/machi/

kouen/002/p070424.html)

12)日本プロ野球選手会:キャッチボール専用球「ゆうボール」,(最終閲 覧日:2019 年 12 月 11 日 http://jpbpa.net/product/?id=1284201324 -660876)

13)一般社団法人公園緑地協会 公園緑地研究所:平成 22 年度公園緑地 研究所調査研究報告,(最終閲覧日:2019 年 12 月 11 日 https://

www.posa.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/03/summary01_

report_H22_01.pdf)

14)赤澤宏樹・藤本真里・武田重昭・中瀬勲(2011):「兵庫県立西武庫公 園におけるコミュニティ型協議会によるパークマネジメント」,ラン ドスケープ研究 74(9),799-804

15)梶木典子・瀬渡章子・田中智子・森賀文月:冒険遊び場の活動実態と プレイリーダーの役割に関する研究~冒険遊び場運営団体を対象とし た調査結果:日本建築学会計画系論文集 67(560),237-244

16)堂免隆浩(2015):練馬区立みんなの広場公園におけるサッカーゴー ル設置およびサッカー利用許可の成立条件:ランドスケープ研究 50(2) 202-209

17)公園のチカラLAB(2018):本当に子どもが遊べなくなっている? 園の禁止事項の問題とは:(最終閲覧日:2019 年 9 月 22 日https://

w w w . k o e n - c h i k a r a . j p / w p - c o n t e n t / u p l o a d s /2 0 1 8/0 9/

koenkinnsireport20180828.pdf)

18)株式会社ボーネルンド:~昔と今の公園に関する意識調査~親世代の 約7割「昔より規制が増え,遊具が減った」(報道発表資料),2017 年 4 月 2 7 日 ( 最 終 閲 覧 日:2 0 2 0 年 3 月 2 0 日 ,h t t p s : / / w w w . bornelund.co.jp/contents/uploads/sites/2/2017/04/d9d41f0cb72b4 d470ee07db1f6a68c60.pdf)

19) United Nation, Committee on the Rights of the Child: General comment no. 17 (2013) on the right of the child to rest, leisure, play, recreational activities, cultural life and the arts (art. 31),最 終閲覧日 2020.3.20 https://digitallibrary.un.org/record/778539)

(2019.12.11 受付,2020.11.24 受理)

参照

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