博 士 ( 歯 学 ) 馮 奕 剛
学 位 論 文 題 名
骨芽細胞様h/IC3T3 ―El 細胞に対するヒスタミンの作用 学位論文内容の要旨
【 目的】ヒ スタミン は肥満細胞 や好塩基 球の貯蔵 アミンで ある。ヒ スタミン は 末 梢 ではI型 ア レル ギ ーや急性 炎症におい てその受 容体を介 して細胞 外ヘ放 出 され、局 所の作用 を表す。胃 における 胃酸分泌 そして中 枢では神 経伝達等の 多 様な生理 学的、病 理学的現象 における 機能する 重要なア ミンのー つである。
ま た、ヒス タミンは 血球系幹細 胞の増殖 を促進し 、これら の細胞の 分化も調節 し て い る。 骨 代謝 機 構 にお い ては 、 ヒ スタ ミ ンはH1受 容体を介 して破骨 細胞 を 活 性 化し て 骨吸 収 作 用を 促 進さ せ 、H2受 容 体を 介し て破骨細 胞の遊走 を促 進 させるこ とが報告 された。し かし、ヒ スタミン の石灰化 機構に対 する作用に つ い て は未 だ 明 らか に され て い ない 。 本 研究 は 骨芽 細 胞 様MC3T3‑ E1細 胞 を 用し´ヽてヒスタミンの骨芽細胞に対する作用について明らかにすることを目的と して行った。
, 【材料と 方法】細 胞はマウス 新生仔頭 蓋冠由来骨芽細胞様細胞株MC3T3‑ E1 (E1) 細 胞 を 用 い た 。 培 養 は10% 牛 胎 児 血 清(FBS) な らび にL‐ アス コ ル ピ ン 酸 含 有a‑ MEM培 地 を 用 い て 、37℃ 、5%C02、95% 気相 下 に て通 法 に従 い 培 養 し た。E1細 胞 に 対す る ヒス タ ミ ンの 短 期 間作 用に よる影響 を調べる ため 細 胞 を コ ン フ ル エ ン ス 後10、20、30日目 ま で培 養 し た後 、1%FBS含 有 の 培 地 と 交 換し 、 さ らに24時間 培 養し て 最 終濃 度10‑4Mヒ スタ ミ ン を添 加 して72 時 間まで処 理を行っ た。また、 ヒスタミ ン長期間 作用させ た場合の 影響を調べ る た め 細胞 を コ ンフ ル エン ス ま で培 養 し た後 、 最終 濃 度10‑4Mヒス タ ミ ンを 添 加 し て3、6、9、12、30日 目さ ら に 培養 し た。 培 養 終了 後 細 胞は ス クロ ー ス にて洗浄 剥離し、遠心して再懸濁後、氷冷下にて超音波破砕して試料とした。
ヒ スタ ミ ン拮 抗 薬 とはHi受容 体 拮抗 薬 で ある ク 口口フ ェニラミ ン、H2受容 体 拮抗薬で あるフん モチジン、H3受容体拮 抗薬であ るチオペ ラミドを 用いた。
試料中の蛋白質量は、Lowry法に従い測定した。
ア ル カ リ ホ ス フ ァ タ ー ゼ(ALP) 活 性な ら ぴ酸 性 ホ スフ ア 夕 一ゼ(ACP) 活 性 はBessey法 に よ り 、 バ ラ ニ ト ロ フ ェ ニ ル リ ン 酸(pNPP) を 基 質 と し て 、
反応産生されたノヾラニトロフウノール(pNP)を420 nmでの吸光度を測定し た 。ALP、ACPの 比 活 性 は1mgの 蛋 白 質 当 た り1分 間 で 生 成 さ れ たpNPモ ル量として算出した。
m RNAの発現 はEl細胞を所定時間刺激後、細胞を回収し、日本ジーン社の ISOGENEを 用 い て 全RNA抽 出 を 行 い 、RT‑ PCR法 に よ り 検 出 し た 。 11‑6産生量はEl細 胞をコンフ ルエンスま で培養し、 最終濃度10‑4Mヒス タミンを添加した培地と交換して更に3、6、9、12日培養し、培養液は所定時 間培 養終了 後回収し、 遠心分離後 、上清を回 収し、マウ ス11‑6ELISA kit (Bio Souce)を用いて、ELISA法により測定した。
【 結 果】RT‑ PCRに よりE1細 胞 にHi受 容体 、H2受 容体 、H3受 容 体mRNA の発現が認められた。E1細胞にヒスタミンを短期間作用させた場合も長期間 作用させ た場合も総 蛋白質量は 変化しなか った。また、ALP活性及ぴACP活 性にも有意な変化は認められなかった。11‑6産生量はヒスタミン添加により、
対照群と比較して初期には抑制されたが、培養開始後12日目より増加する傾 向を示し た。COX‑1 mRNAはヒスタミン添加により変化しなかったが、COy‑2 mRNA発現は経時 的に二相性の発現の増加を示した。最初は添加後3時間まで 発現が増加して6時間後には減少し、12時間後から再びその発現は増加した。
10‑9N10‑4Mの ヒスタミン 添加によるCOX‑2 mRNAの 発現は10‑7Mを最大とし た濃度依存な増加が認められたが、l014Mでは減少した。H1受容体拮抗薬のク 口口フェニラミン、H2受容体拮抗薬のフんモチジン、またはH3受容体拮抗薬 のチオペ ラミドをヒスタミンと共にE1細胞に作用させて、3時間後にクロロ フェニラ ミンは濃度 依存的にCOX‐2mRNAの 発現を減少したが、ファモチジ ンとチオペラミドは影響を与えなかった。
【 考 察 】E1細 胞 にHl受 容 体 、H2受 容体 、H3受 容体mRNAの 発現 が 確認 された。この事からヒスタミンが骨芽細胞に対して何らかの作用を示すことが 示唆された。ヒスタミンをE1細胞に短期間作用させた場合も長期間させた場 合も共に、、総蛋白質量に変化は認められなかった。この結果よルヒスタミンは E1細胞の増殖、細胞外基質合成・分泌に影響を与えないことが示された。ヒ スタミン がE1細胞の石灰化に影響を与えるか否かを推定するためにALP活性 を測定し た。その結果、ヒスタミンによりE1細胞のALP活性は変化しなかっ た。以上結果からヒスタミンは骨芽細胞成熟に対して作用せず、骨形成能に対 して影響を与えないことが示唆された。ヒスタミンは各種細胞のサイトカイン 産生を調節する作用が有することが知られている。骨芽細胞はIL‐6を産生し、
オートク ライン的に 作用して白 らの細胞表 面に存在する破骨細胞誘導因子
(ODF/RANKL)の発現を直接的に促進し、プ口スタグランジンE2(PGE2)の
産生促進を介して間接的に促進させるほか、破骨細胞前駆細胞に対してバラク ラインに作用して分化を促進させることが報告されている。また、我々はヒス タ ミ ン を 骨 芽 細 胞 に 作 用 さ せ る とODF/ RANKLのmRNAな ら びに 蛋 白質 の 発現が増加することを報告した。ヒスタミンをEl細胞に作用させると初期に は11‑6産生量が抑制されるが、その後増加する傾向が認められた。この事か ら、ヒスタミンは最初直接的に11‑6の産生を抑制するが、その後ヒスタミン による産生が促進される他のサイトカイン等により間接的に11‑6の産生が促、
進される可能性や抑制系と促進系で受容体が異なる可能性が推測された。続い て11‑6同 様 、 破 骨 細 胞 活 性 化 に 関 与 す るPGE2の 合 成 酵 素 で あ るCOX‑2 m RNAの発現は ヒスタミン刺激により経時的かつ濃度依存的(10‑9〜10‑7M) に増加した。この結果から骨芽細胞のPGE2の産生を促進することが示唆され た。次に、ヒスタミンと共にHi受容体拮抗薬のク口ルフェニラミン、H2受容 体拮抗薬のフんモチジン、又はH3受容体拮抗薬のチオペラミドをEl細胞に作 用 さ せ ると、ク 口ルフェニ ラミンは濃 度依存的にCOX‑2mRNAの発現を 減少 したが、フんモチジンとチオペラミドは影響を与えなかった。この結果より、
ヒ ス タ ミンのCOX‑2mRNA発現効果はH1受容体を介 することが 推測される 。 【 結論 】 ヒス タ ミン は 骨芽 細 胞にHi受容 体 を介 し てCOX‑2mRNA発現 さ せてプ口久夕グランジンE2産生を促進し、破骨細胞の分化・活性化を促進さ せ るが、骨芽 細胞の増殖 や成熟に対 しては作用 しないことが示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
骨芽細胞様MC3T3 −El 細胞に対するヒスタミンの作用
審 査 は審 査 担当 者 が 一同に会 して約2時間 かけて行 った。ま ず申請者 に本論 文の概要 の説明を 求め、その 後に口頭 試問の形 式で提出 論文の内 容及び関連分 野につい て試問し た。
申請者は 論文の概 要を液晶プ ロジェク ターを用 いて以下 のように 説明した之
ヒ ス タミ ン は 破骨細胞 を活性化 して骨吸 収作用を 促進させ ると報告 されてい るが 、 石 灰化 機 構に対 する作用 にっいて は未だ明 らかにさ れていな い。そこで 骨芽細胞 様MC3T3−El細胞 を用いて ヒスタミ ンの骨芽 細胞に対す る作用について 明らかに すること を目的と して研究 を行った 。
細 胞 を通 法 に 従って培 養した。 ヒスタミ ンの短期 間作用に よる影響 を調べる 実験 で は コン フ ルエン ス後10、20、30日目まで 培養した 後、1%FBS含 有の培地 と交 換 し 、さ ら に24時間 培養した のち最終 濃度10−4Mの ヒスタミ ンを添加 して さら に72時 間 処 理した。 また、長 期間作用 の影響を 調べる実 験では、 コンフル エンス時 に10−4Mのヒ スタミン を添加し て3、6、9、12、30日日までさらに培養 した 。 細 胞を 回 収後、 超音波破 砕して試 料とし、 タンパク 質量、ア ルカリホス ファ タ ー ゼ(ALP)活性 な らび 酸 性 ホス フ ァタ ー ゼ(ACP)活 性を 測 定し た 。mRNA の 発 現 はRT‑PCR法 に よ り 、 IL一6産 生 量 はELISA法 に よ り 測 定 し た 。
゛ そ の 結 果 、El細 胞 に はHl、 比 、H33種 の受 容 体mRNAの発 現 が認 め ら れた 。 El細胞にヒ スタミン を作用さ せると短 期間、長期間にかかわらずタンパク質量、
ALP及 びACP活性 に は有意な変 化は認め られなか った。ヒ スタミン 添加によ り、
IL−6産 生 量は 初 期に は 抑 制さ れ た が、 培 養開 始後12日目より 増加する 傾向を 示した。 ヒスタミ ン添加に よりCOXー1mRNA. 発現量は 変化しなか ったが、COX‑2 mRNAは添 加 後3時 間ま で 増加 し た 後6時間 後 には 減 少 し、12時 間 後 から 再 び 増
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加 した。10−9‑10一4Mのヒスタミンを添加すると、COX―2mRNA発現量は10―7Mを 最 大と した濃 度依 存的 な増 加を 示し 、10―4Mでは 減少 した 。COX−2mRNAの発現 量 はHi受容体 拮抗 薬の クロ ロフ ェニ ラミ ンに より 濃度 依存 的に減少したが、比 受 容体 拮抗薬 のフ ァモ チジ ン及 びH3受容 体拮 抗薬 のチ オペ ラミドによっては影 響されなかった。
以上 の結果 は、 ヒス タミ ンはEl細 胞の 増殖 や分 化、 骨形 成能に対して影響を 与えないことを示唆する。一方、培養後期にIL―6産生量を増加させること、PGE2、 の 合成 酵素で あるCOX−2mRNAの 発現 を増 加さ せる こと 、こ の増加はクロルフェ ニ ラミンによって抑制されることから、ヒスタミンは主に骨芽細胞の、Hl受容体 を 介 し て 破 骨 細 胞 の 分 化 ・ 活 性 化 を 促 進 さ せ る こ と を 示 唆 す る 。
本論 文は 炎症 のケ ミカ ルメ ディ エー ターで あるヒスタミンの骨芽細胞様細胞 に 対す る作 用を 調べ 、骨 形成 に関 する 機能に は影響を与えないが、骨芽細胞の 持 つ破 骨細 胞の 誘導 、活 性化 機能 を促 進する ことを示唆したものである。炎症 と 骨吸 収の 間に は密 接な 関連 があ るこ とは臨 床的にも良く知られた事実である が 、両 者と 炎症 のケ ミカ ルメ ディ エー ターの 関連については不明な点が多い。
ヒ スタ ミン が骨 芽細 胞の 骨吸 収関 連生 理活性 物質の産生を促進するとぃう本論 文 の結 果は 、今 後の 炎症 と骨 吸収 に関 する研 究に大きく貢献するものと高く評 価 され る。
口頭 試問 にお いて 、審 査担 当者 から
1) ヒ ス タ ミ ン のHl、H2、H3各 受 容 体 の 違 い とEl細 胞に 韜け る機 能の 違 し 丶
2) ヒ ス タ ミ ン の生 体 に お け る 作 用 濃 度 と 本 研 究 で 用い た濃 度と の関 連 3) IL− 6の 産 生 が 初 期 に 抑 制 さ れ 、 後 期 に 増 加 す る 理 由 4) 骨 芽 細 胞 に お け る 酸 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ 活 性 測 定 の 意 義 5) 細胞 の増殖 、分 化と タン パク 質量 の関 係
6)FBS濃 度と ヒス タミ ン処 理の 関係 7) その 他、実 験方 法の 詳細 につ いて 8) 今後 この研 究を 進め てい く方 向性
な どの 試問 がな され たが 、い ずれ に対 しても 明快な回答が得られた。以上から 申 請者 は本 研究 に直 接関 係す る事 項の みなら ず、関係分野における広い知識を 有 して いる と認 めら れた 。よ って 審査 担当者 は、口頭試問の結果に合格の評価 を 与え 、申 請者 は博 士( 歯学 )の 学位 を授与 される資格を十分に有ずるものと 認 めた 。