特集◎東アジアがめざす経済統合/FTA
胎動する東アジアのFTA
中国はWTOに加盟しようとした二〇〇一年末︑時同じくしてASEANとのFTAを一一〇一〇年に締結すると打ち上げた︒FTAを検討していた日本は中国のスピーディーな動きに驚樗し︑﹁東アジアのなかの日本﹂という立場をなんとか打ち出そうとしている︒FTAを軸に胎動する東アジアの経済連携について︑二人の著名な専門家に解明していただく︒
関志雄︿野村資本市場研究所主任研究員﹀×木村福成︿離縫欝﹀司会服部健治︿愛知大学現代中国学部教授﹀
服部お忙しいところをFTA(自由貿
易協定)問題︑あるいは地域経済統合︑
そしてまた中国︑東アジアに関係するご
専門の︑関先生ならびに木村先生に来て
いただきありがとうございます︒今日は
胎動する東アジアのFTAと題して︑F
TAの問題を軸に︑今後のアジア︑特に
東アジアの経済協力についてお話しして
もらいたいと思っております︒特に最近
FTAを中心に経済協力あるいは経済連
携が話題になっております︒そうした現 状をふまえ︑今後の課題を大きな柱にし
ながら︑主にアジア︑中国︑日本を軸に
お話を進めていきたいと思っておりま
す︒
お二人は日本国内のみならず外国でも
活発に仕事をされ︑アジアの経済連携に
ついて実践でもがんばっておられるわけ
ですけれども︑最近のお仕事から地域経
済協力を目指すなかでの話題などをご紹
介いただけますでしょうか︒
まず関先生は最近日本のシンクタンク でFTA問題等について提言されておら
れます︒そういった点を踏まえて︑どの
ようなことを感じられるのかをお話しし
ていただきたいと思います︒
関はい︒私は二〇〇一年から三年間︑
野村総合研究所からの出向という形で経
済産業省のシンクタンクである経済産業
研究所で勤務しておりました︒仕事の内
容は中国経済を分析することでしたが︑
中でも日中関係︑特に︑通商関係が最大
の関心事になりました︒ちょうど経済産
胎 動 す る東 ア ジ ア のFTA
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業研究所に移ったころ︑日本国内では中
国脅威論が盛んになり︑ねぎ︑しいたけ
など農産品の三品目に対してセーフガー
ドが発動されました︒経済産業研究所で
の三年間はまさに中国脅威論との戦いに
費やしたと言えるでしょう︒最近︑脅威
論から牽引論に変わってきていますが︑
非常にいいタイミングで私は戦いを終え
て︑二〇〇四年四月にまた野村に戻るこ
とになりました︒もちろん野村は金融関
係のお客さんが多いので︑分析も日中関
係そのものにとどまることはなくなって
います︒もっとも︑最近では中国の経済
が過熱していると言われ始めて︑私が接
しているお客さんはやはり中国における
景気の持続性に関して非常に関心が高い
です︒このように︑私の専門はあくまで
も中国経済であって︑FTAではありま
せん︒したがって今日は︑一般論として
のFTAよりも︑中国と絡めて議論に参
加したいと思っています︒
服部関先生は︑日本国際フォーラムに
おいてアジア経済研究所におられた山澤
逸平先生(現国連大学学長)と︑地域統 合を含めたアジアの経済協力について提
言をされておられます︒また各国を回っ
ておられるわけですが︑それらの活動の
紹介と感じることがありましたらお願い
します︒
関やはり今アジアを考えるときに中国
の存在が大きくなっていて︑中国が台頭
すると日本をはじめとする周りの国々
は︑どういう影響を受けるのか︑それぞ
れどういう対応をとるべきかが重要な
テーマになってきます︒私の主な関心は
日中関係ですが︑一貫して主張している ことは︑日本と中国は発展段階という意
味でまだ格差が非常に大きいことを反映
して︑あまり競合しておらず︑むしろ補
完関係にあるということです︒これをい
ろいろな角度から実証をしました︒補完
関係という前提で議論すると︑いかに中
国脅威論がおかしいのかが見えてきま
す︒中国の台頭が日本にとって困るもの
であり︑さらには人民元切り上げが日本
にとってプラスになるという世の中の常
識が間違っていることが明らかになりま
す︒中国とうまくいくようにするために
は日本は衰退産業を守るのではなく︑む
しろ積極的に中国に移転させながら︑そ
の一方で︑新しい産業の育成に力を入れ
るべきだというのが私の提言です︒
実はこの話は昔︑赤松要先生や小島清
先生などが提唱した雁行形態の発想その
ものなのです︒まさに経済も人間の体に
たとえると新陳代謝が必要で︑日本はい
つまでも古い産業を抱えたままでは次の
段階に進むことができません︒さらに分
かりやすく言うと︑いつまでも過去に投
資するのではなく︑未来に投資すべきで 4
はないかということです︒この失われた
一〇年に日本はどのような政策をとって
きたかといえば︑すでに競争力を失った
産業を守ることには熱心で︑お金もそれ
に使ってしまい︑新しい産業の育成を
怠ったことが問題じゃないかと考えてい
ます︒
服部わかりました︒人民元の話題︑あ
るいは日中経済論については︑雁行形態
経済の見直しになるようなこともあると
思いますけれども︑あとで話題にしたい
と思います︒
木村先生は︑FTAあるいは地域経済
統合等々で非常に明解な文章を書いてお
られます︒日本経済新聞でも二〇〇三年
に連載されています︒コラムを担当され
て非常に先駆的な役割を果されていま
す︒最近のお仕事から︑例えばメキシコ
などに行って来られましたけれども︑各
国を見て感じる点を述べていただきたい
と思います︒
木村二〇〇四年の初めから︑韓国︑タ
イ︑フィリピン等については実際に政府
間交渉に入りました︒交渉そのものには 私みたいな民間人は入れませんので︑若
干距離を置いて見ているということにな
ります︒ただ︑まわりでいろんな国の人
と経済連携あるいは経済統合の話をした
り︑国内でも野村総研に手伝っていただ
いて︑FTAを推進する国民会議という
のをやっています︒
服部FTAを推進する国民会議は意義
がありますね︒以前︑日中国交正常化の
国民会議というのがありました︒
木村協定をつくっていくうえでは︑経
済がどういう成り立ちになっているのか
というところが重要で︑その背景になっ
ているのが国際的な生産流通ネットワー
クの存在です︒中国︑東南アジアを含め
国境をまたいだ垂直的な分業では︑必ず
しも伝統的な産業間の分業だけではなく
て︑産業内の工程間分業も大きい︒その
ことが東アジアの動向を考える上で大変
重要であると考えています︒
実は同じようなものがドイツと中東欧
の間︑アメリカとメキシコとの間でもあ
る程度できてきています︒東アジアをほ
かの地域にできてきている生産ネット ワークと比較することによって︑東アジ
アに関する理解も深まるのではないかと
思っておりまして︑今年になってから中
東欧に二回ほど現地調査に行ってきまし
たし︑メキシコも先日行ってきました︒
企業の経営戦略の中での国際展開が進
み︑それが経済統合にいろんな影響を与
えてくるという関係もありますし︑逆に
政策環境が決まっていてそれに縛られて
企業の戦略が決まる︑両方の因果関係が
あると思います︒EUやNAFTAの場
合は政策の縛りがかなりきつくて︑イン
サイダーになっている企業には有利だけ
れども外に開かれてない統合になってい
るんじゃないかなと思ったりしていま
す︒東アジアはそういうことにならない
経済統合になっていくべきでしょう︒
服部他の地域は非常に閉鎖的な要素が
強いという意味ですか︒そういった経験
も踏まえて東アジアの地域経済統合とい
うのはもう少しオープンになっていった
ほうがいいとお考えですか︒
木村ええ︒東アジアの場合は生産流通
ネットワークそのものがかなりオープン
胎 動 す る 東 ア ジ ア のFTA
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にできあがっています︒だから経済統合
を政策面で進めても閉鎖的なものにはな
りにくくなっていると思いますが︑ただ
そこはやはり意図して外に開かれたもの
にしていくべきだと考えています︒
FTAをめぐる世界の動き
服部FTAをめぐる動きは︑特に九〇
年代に入って以降︑まさに北米︑そして
EUを中心としたヨーロッパ周辺の動き
が非常に活発となり︑それに連動するよ
うに東アジアでも活発化してきていま
す︒この背景にはどんなことがあるので
しょうか︒
木村九〇年代後半から︑FTAあるい
はEU拡大というのがでてきたわけです
けれども︑やはり一番大きな流れという
のは発展途上国側がそういう経済統合を
すすめ︑それをてことして自分たちの経
済発展を進めたいということだったと思
います︒伝統的には先進国巨大市場にい
かにアクセスするのかというのが地域統
合の一つの眼目だつたんですけれども︑ 九〇年代の後半からは︑それよりもむし
ろ︑直接投資をどうやって自分の国に呼
び込むのか︑それによっていかに自分た
ちの経済成長を加速するのかというとこ
ろが︑途上国側で大きな動機になってき
たのだろうと思います︒中国を含めて東
アジアの国が直接投資をたくさん受け入
れながら高度成長を遂げてきたというこ
とがモデルとしてあって︑中東欧でもラ
テンアメリカでも︑直接投資を受け入れ
ることは大変重要なんだという意識が強
くなってきたわけです︒
服部特に九三年にはEUではマースト
リヒト条約ができて︑さらに通貨統合︑
単一通貨になっていきますね︒一方で北
米においても︑アメリカとカナダの自由
貿易協定︑さらに九二年にはメキシコも
いれたNAFTA︑北米自由貿易協定に
なってきます︒ヨーロッパを中心に動き
が活発化し︑非常に緻密化していく︒モ
ノだけではなく︑通貨も︑さらには国境
もなくしていく︒一方のアメリカも同様
な形で発展して行こうとしている︒そう
いう中で︑アジアにおいてもやらなくて はならないという反応︑連動はあるので
しょうか︒
木村EUやNAFTAの中でも所得水
準が違っている国の間の関係だと少し性
質が違っていると思います︒EUの中で
も︑いわゆるペリフェリー(周辺部)と
呼ばれている国は所得水準が相対的に低
いわけですけれども︑そこに直接投資が
たくさん入ってきて︑経済成長が加速さ
れました︒これはかつてはスペイン︑ポ
ルトガルであり︑この間はアイルランド
であり︑今はハンガリーとか︑徐々に東
のほうへ行くわけですけれども︑そう
いった流れが一つはあります︒
NAFTAの場合︑メキシコについて
はいろいろな見方があるとは思います
が︑NAFTAによって対内直接投資が
加速されたというのはほぼ間違いのない
ことですし︑統合していくことによって
うまく直接投資を誘致するということ
は︑モデルとして確立してきました︒
東アジアの立場からすると︑NAFT
AやEUはいろんな意味で閉鎖的なシス
テムを作っているという側面があって︑ 6