ミトコンドリアカルシウムの変調による 腫瘍細胞の TRAIL 感受性の増強
日本大学大学院医学研究科博士課程 外科系整形外科学専攻
高田 夏彦 修了年 2018 年
指導教員 長岡 正宏
目次
概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 対象と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 図表説明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 研究業績目録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
概要
背景:骨肉腫(OS)および悪性黒色腫(MM)は、化学療法、放射線療法、免 疫療法を含む多面的治療に高度に耐性を示す腫瘍である。 腫瘍壊死因子関連ア ポトーシス誘発リガンド (tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand,
TRAIL) は2種類の細胞死受容体DR4およびDR5に結合し、様々な様式の細胞
死を引き起こす。しかし、OSおよびMMはDRを発現しているにもかかわらず、
TRAILの細胞毒性に対して耐性がある。このようなTRAIL耐性を低下させるこ
とができる薬物の併用が、これらのがんに対する有効なTRAIL療法には不可欠 である。
Ca2+は、細胞の活性化、増殖および死などの多くの複雑な細胞過程を調節する ため、最近、Ca2+ががん治療の新しい標的として注目されている。Ca2+がTRAIL 誘発細胞死で重要な役割を果たしているなら、このような細胞死誘発Ca2+シグ ナルを特異的に増強することでTRAIL細胞毒性を増強できるのではないかと考 えた。
目的:これまでTRAIL誘発細胞死におけるCa2+シグナルの役割は注目されてお らず、ほとんど研究されていない。そこで、本研究では、OSおよびMM細胞に おけるCa2+動態に対するTRAILの影響、ならびにCa2+の細胞生存およびTRAIL 耐性における役割を調べた。
対象と方法:ヒト骨肉腫細胞およびヒトメラノーマ細胞を用いて、ヒト組換え
型可溶性TRAILの細胞死誘導能とCa2+動態に及ぼす影響を解析した。またCa2+
動態に関与するCa2+チャネルを薬理学的に解析した。
結果:TRAIL刺激は速やかに、また用量依存的に細胞質のCa2+濃度([Ca2+]cyt) とミトコンドリアのCa2+濃度([Ca2+]mit)を増加させた。薬理学的分析からこの [Ca2+]mitは、ミトコンドリアカルシウムユニポーター(MCU)、ミトコンドリア 膜透過性遷移孔(MPTP)、capsazepinおよびAMG9810に感受性のCa2+輸送経路 の制御下にあることが示された。 Ca2+キレート剤およびruthenium360、
atractyloside、capsazepin、AMG9810はすべて[Ca2+]mitを減少させ、がん細胞を感
作しTRAILの細胞毒性を増強した。Ca2+調節は、アポトーシスおよび非アポト
ーシス細胞死の両方を増強した。[Ca2+]mit減少はTRAILによるカスパーゼ-3/7 活性化および細胞膜損傷を24時間以内に増強した。これに対して、細胞死の増 強は72時間で顕著になり、カスパーゼ阻害剤によって阻害されなかった。これ らの結果は、OSおよびMM細胞において、ミトコンドリアCa2+除去がTRAIL によるアポトーシスおよび非アポトーシス細胞死誘導を促進することを示す。
結語:本研究は、ミトコンドリアCa2+は、アポトーシスおよび非アポトーシス 細胞死を防止することにより、骨肉腫および悪性黒色腫細胞における生存促進 因子として作用することを明らかにした。この発見は、ミトコンドリアCa2+が
TRAILに対するこれらの悪性腫瘍の耐性を克服するための有望な標的となるこ とを示唆する。
緒言
1. 骨肉腫
骨肉腫(OS)は原発性悪性骨腫瘍の中では最も頻度の高い骨腫瘍である。骨 肉腫は化学療法、放射線療法、免疫療法を含む多面的治療に高度に耐性を示す 腫瘍の代表である(1)。以前は四肢の切断を余技なくされ、切断しても肺転移 等により死亡する可能性の高く、高悪性度の腫瘍であった。現在では様々な医 学的進歩により、四肢を温存することも可能になってきている。
近年、集学的治療として多剤併用化学療法や放射線療法の進歩により、5年生 存率は向上したが、予後は決して良好とはいえず、新たな治療薬の開発が必要 とされている。
2.悪性黒色腫
悪性黒色腫(MM)はメラノサイトを発生起源とする悪性腫瘍であり、皮膚、
粘膜などから発生する。ほとんどが皮膚から発生し、日本人では特に足底に発 生するものが多い。非常に転移しやすい悪性腫瘍であり、早期ならば切除のみ での完治が望めるが、進行期では骨肉腫同様、化学療法、放射線療法に抵抗性 であり予後は不良である(2)。悪性黒色腫でも様々な治療が試みられ予後は改 善してきているが、劇的な改善には至っておらず、新たな治療が必要とされて いる。
3.細胞死
細胞が何らかの理由により細胞膜や核などの破綻をきたし、修復不可能とな った不可逆的状態が細胞死である。細胞死には多種多様な分子機構が関与する ことが明らかになり、現在、細胞死は様々なタイプに区別されている。
アポトーシス:細胞の縮小、クロマチンの凝縮,NAヌクレオソーム単位での断 片化およびアポトーシス小体の形成を特徴とし、カスパーゼカスケードの活性 化により生じる。カスパーゼファミリーの中でもカスパーゼ‐3は細胞内でのア ポトーシスの開始に重要な役割を果たしている
オートファジー:細胞小器官などを取り込んだオートファゴソームの形成およ びその増加を特徴とし,オートファゴソーム内の細胞小器官などはリソソーム との融合で分解される。
ネクローシス:細胞内外の環境に悪化によって偶発的に起こる細胞死を指す。
近年、プログラムされたネクローシスが存在すると考えられるようになりネク ロプトーシス呼ばれている。ネクロプトーシスは TNFα によって誘導され、
RIPK1→RIPK3→MLKL と連続的にリン酸化が誘導され、リン酸化されたMLKL
が細胞膜で孔を形成することによりネクロプトーシスが実行されると考えられ ている。
4.TRAIL (Tumor necrosis factor (TNF)-related apoptosis inducing ligand)
Tumor necrosis factor ( TNF ) -related apoptosis inducing ligand ( TRAIL;腫瘍壊死
因子関連アポトーシス誘発リガンド) は TNF スーパーファミリーに属するサイ トカインであり、正常細胞に対する細胞傷害性は非常に小さいのに対して、様々 なタイプのがん細胞に対して細胞傷害性を示すため、有望ながん選択的抗がん 剤として期待されている(3-5)。 TRAILは、細胞膜に存在する特異的受容体へ の結合を介して外因性および内因性アポトーシス経路を誘発する(6,7)。TRAIL の受容体としては細胞死受容体(death receptor, DR)、TRAIL-R1(DR4)および
TRAIL-R2(DR5)が知られている。腫瘍細胞と比較すると正常細胞ではDR4お
よび DR5 の発現量が低いため、TRAIL の影響が低いと考えられている。また
TRAILはオートファジー(8,9)やネクロプトーシス(10,11)などそのさまざま
な細胞死を引き起こすと報告されている。
TRAIL の抗腫瘍効果は細胞株によって様々である。白血病細胞、リンパ腫細
胞は強力に細胞死を誘導されるが、肺小細胞癌、大腸癌、乳癌細胞では細胞障 害性は小さい(12)。OSおよび MM細胞もまたDR を発現しているにもかかわ
らず、TRAIL が誘導する細胞毒性に対して先天的または後天的な抵抗性を示す
(13)。したがって、このTRAIL耐性を低下させることができる薬物の併用がOS
およびMMに対する有効なTRAIL療法には必要である。
5.真核生物のCa2+制御機構
真核細胞の細胞膜、ミトコンドリア膜には様々なCa2+チャネルが存在し、Ca2+
イオンの濃度を調節している。
mitochondrial calcium uniporter(MCU):ミトコンドリア内膜上に存在し、ミトコ ンドリアへのCa2+の取り込みを主に担っている。MCUは細胞質Ca2+濃度上昇に 依存して開口し、ミトコンドリアマトリックス内外の電位差に従い、Ca2+を流入 させる。
mitochondrial permeability transition pore(MPTP):ミトコンドリアの外膜/内膜を 貫通する膜透過性遷移孔 であり、Ca2+や活性. 酸素により活性化され開口する。
Na+/Ca2+交換輸送体(NCLX):細胞膜およびミトコンドリア内膜に存在する Na+濃度依存性のCa2+トランスポーターである.
TRPV1:温度、機械刺激、酸化など様々な刺激で活性化される TRP チャネルの 中のひとつで、細胞膜に存在しCa2+の取り込みを担う。
真核細胞のカルシウム制御機構を以下の図に示す。
4.Ca2+動態
Ca2+は、細胞の活性化、増殖、死滅などの多くの複雑な細胞過程を調節する。
そのため、Ca2+ががん治療の新しい標的として注目されている。様々ながん細胞 においてCa2+動態は腫瘍特異的形質を示し、腫瘍形成、悪性表現型、薬剤耐性、
増殖の増加、生存に寄与している(14-16)。さまざまなCa2+透過性チャネルがが ん細胞におけるCa2+動態と生存を調節しているという報告もある(17)。しかし、
Ca2+は生存だけでなくがん細胞におけるアポトーシス、ネクローシス、オートフ ァジーを含む様々な細胞死も促進する(18)。細胞内Ca2+の過負荷は、ミトコン ドリア膜の透過性を亢進させ、その結果機能不全を引き起こすため、ネクロー シスの重要なメディエーターである。また、細胞内 Ca2+依存性システインプロ テアーゼであるCa2+/calpainは、細胞質Ca2+濃度([Ca2+]cyt)の上昇によって活性 化され、ミトコンドリアに局在したアポトーシス誘導分子のプロセッシングを 介してアポトーシスに関与する(19,20)。さらに、ミトコンドリア Ca2+濃度
([Ca2+]mit)の持続的な上昇は、内膜の透過性を亢進させ、それによりアポトー シス促進タンパク質の放出、ミトコンドリアの完全性の崩壊、内因性アポトー シス経路の活性化を導く。
5.研究の背景
Ca2+動態の細胞生存に対する二重効果は、発生したCa2+サージの大きさ、タイ ミング、持続時間、Ca2+存在空間の差に起因すると考えられているが(14)、現
在のところ、Ca2+動態の二重の役割を説明できるモデルはない。細胞全体のCa2+
シグナルを標的とする薬物は、細胞死および生存両方の経路を非特異的に調節 し、抗腫瘍効果に影響を与える可能性がある。しかし、これまでTRAIL誘発が ん細胞死における Ca2+の役割は注目されてこなかった。また骨肉腫および悪性 黒色腫における Ca2+動態は特性が明らかにされておらず、これらのがんの悪性 表現型および生存におけるCa2+の役割は不明であった。
6.研究の目的
本研究では、まず初めにTRAILによるOSおよびMM細胞死誘導にCa2+が関 与するかどうかを明らかにすることを目的とした。さらに、細胞生存を促進、
抑制するそれぞれのタイプの Ca2+シグナルを決定すること、ならびに細胞死を 誘発する Ca2+シグナルを特異的に活性化する細胞内の要因や経路の解明を目指 した。
対象と方法
1. 使用試薬
遺伝子組み換えヒト可溶性TRAILはEnzo Life Sciences社(San Diego、USA) から購入した。ruthenium360、AMG9810、capsazepine、CGP-37157、atractyloside、
thapsigargin(TG)、necrostatin-1、z-VAD-fluorometheylketone(z-VAD-FMK)は Sigma-Aldrich社(St.Louis、USA)から購入した。これらのすべての非水溶性試 薬は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、10%ウシ胎仔血清 (fetal bovine serum; FBS (Sigma-Aldrich 社)を添加した高グルコース含有ダルベッコ改変イー グ ル 培 地 (Dulbecco’s modified Eagle’s medium; DMEM (Sigma-Aldrich 社 )
(10 %FBS / DMEM)またはハンクス緩衝塩溶液 (Hank’s balanced salt solution;
HBSS, pH 7.4 )で希釈してDMSOの終濃度0.1%で使用した。
各種薬剤の作用をいかに示す。
ruthenium360:MCU阻害剤 AMG9810:TRPV1阻害剤 capsazepine:TRPV1阻害剤 CGP-37157:NCLX阻害剤 atractyloside:MPTP開口剤 cyclosporin A:MPTP阻害剤
thapsigargin:アポトーシス誘導剤 necrostatin-1:ネクロプトーシス阻害剤
z-VAD-FMK:カスパーゼ阻害剤
2. 細胞培養
ヒトメラノーマ細胞株(A375、A2058)および骨肉腫細胞株(SAOS-2、HOS)
はHealth Science Reseach Resource Bank(大阪、日本)から購入した。これらの 細胞は、10 %FBS / DMEM中で、37 °C、5% CO2インキュベーター内で培養した。
培養した細胞は0.25%トリプシン-EDTA(Thermo Fisher Scientific、NY、USA)
と共に37℃で5分間インキュベートして細胞を回収した。
3. 細胞生存率、アポトーシスの測定
細胞生存率はセルカウンティングキット(Dojindo、熊本、日本)を用いた WST-8法により測定した(21)。細胞を10 %FBS/DMEMにサスペンドし、96穴 マイクロプレートに1 103 個/穴で播種しTRAIL と試験試薬(ruthenium360、
AMG9810、capsazepine、CGP-37157、atractyloside、thapsigargin、necrostatin-1、
z-VAD-FMK)を加え 37 °Cで、 5% CO2インキュベーター内で72時間培養した。
その後WST-8試薬を1/10量加え、さらに37 °C、 5 % CO2インキュベーター内 で1時間培養し、マイクロプレートリーダー(ARVO MX、Perkin-Elmer Japan、
東京、日本)で450 nmの吸光度を測定して細胞生存率を算出した。
ア ポ ト ー シ ス 細 胞 死 は フ ル オ レ セ イ ン イ ソ チ オ シ ア ネ ー ト (fluorescein isothiocyanate, FITC)標識アネキシンVとプロピジウムヨウ化物(propidium iodide, PI)による二重染色とフローサイトメトリーを用いて測定した(21)。細胞を24 穴プレートに2 105 個/穴で播種し、TRAILとCa2+キレート剤(EGTA、BAPTA) を添加後、37 °Cで、 5% CO2インキュベーター内で24時間培養した。その後 市販のキット[Annexin V FITC Apoptosis Detection Kit I(BD Biosciences、東京、
日本)]を用いてアネキシンV-PIで染色し、FACSCalibur(BD Biosciences)で測 定し、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences)で解析した。4つの細胞集団を 評価した。すなわち、アネキシンV陰性、PI陰性細胞を生細胞、アネキシンV 陽性、PI陰性細胞を前期アポトーシス細胞、アネキシンV陽性、PI陽性細胞を 後期アポトーシス細胞、アネキシンV陰性、PI陽性細胞をネクローシス細胞と した。このうちアネキシンV陽性細胞をアポトーシス細胞とした。
4.Ca2+測定
細胞質Ca2+反応性蛍光プローブFluo4-AM(Dojindo、熊本 、日本)とミトコ ンドリアCa2+反応性蛍光プローブrhod2-AM(Dojindo、熊本、日本)を用いて、
[Ca2+] cytと[Ca2+] mitの変化を測定した(23)。rhod2-AMは、水素化ホウ素ナトリ ウム還元しdihydrorhod2-AMとして使用した。細胞に4 μMのFluo 4-AMまたは dihydrorhod2-AMを負荷し37℃で40分間置いたのちHBSSで洗浄した。次いで、
細胞を1 mM CaCl2を含むHBSSで1×106 個/mlに再懸濁し96穴プレート中に
播種した。細胞に TRAIL と試験試薬(ruthenium360、AMG9810、capsazepine、
CGP-37157、atractyloside)を添加した後、マイクロプレートリーダー(Fluoroskan Ascent、Thermo Fisher Scientific)を用いて0, 1, 3, 5, 10分の蛍光を測定した。ま た場合により、5秒間隔で3分間蛍光を測定した。Fluo 4-AMの場合は485およ び538 nm、rhod 2-AM の場合は542および592 nmの蛍光波長を測定した。 Ca2+
非依存性実験のためには1 mM CaCl2の代わりに1 mM EGTAを加えたHBSSに 細胞を懸濁した。
5.カスパーゼ-3/7活性化、膜完全性、細胞死の測定
MuseTM Caspase-3/7 Kit を用いて、MuseTM Cell Analyzer(Merck Millipore、
Darmstadt、Germany)によりカスパーゼ-3/7活性化、膜完全性、細胞死を同時に
測定した。24穴プレート中の細胞(1×105 個/ml)をTRAILと試験試薬(AMG9810、
capsazepine、CGP-37157、necrostatin-1、z-VAD-FMK) で 処 理 し た 後 、10% FBS/DMEM中で、37℃で24時間培養した。その後カスパーゼ-3/7試薬NucView
TMと 7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)で染色し測定した。7-AADは核染 色色素であり、正常細胞では排除されるが死細胞では細胞膜を通過して核に結 合する。
4 つの細胞集団を評価した。すなわち、カスパーゼ陰性、7-AAD 陰性細胞を 生細胞、カスパーゼ陽性、7-AAD 陰性細胞を初期アポトーシス細胞、カスパー ゼ陽性、7-AAD 陽性細胞を後期アポトーシス細胞または死細胞、カスパーゼ陰
性、7-AAD陽性細胞をネクローシス細胞とした。
6. 統計処理
実験群間の統計的有意性は、Excel 2016 for Windows用のアドインソフトウェ ア(SSRI、東京、日本)を用いた分散分析およびTukey testで解析し、測定値は
平均値 ± 標準誤差で表記し、p<0.05を有意とした。
結果
1. TRAIL刺激はOSおよびMM細胞の[Ca2+]cytおよび[Ca2+]mitを増加させる。
腫瘍細胞の Ca2+動態に対する TRAIL の影響を調べるために、OS 細胞の [Ca2+]cytおよび[Ca2+]mitに対するTRAILの効果を同時に測定した。TRAIL刺激は、
用量依存的に HOS 細胞中の[Ca2 +]cytを増加させた(図 1A および B)。[Ca2+]cyt
の増加は数分以内に起こり、10分間以上持続した。細胞毒性と対応して、TRAIL は50 ng/ml以上の濃度で、有意な効果を示した。TRAIL刺激は、[Ca2+]mitも同時 に用量依存的に増加させた(図1CおよびD)。細胞の状態によっては、[Ca2+]mit
はTRAIL 50 ng/mlで最大となり、TRAILの濃度をそれ以上高くしても効果が小
さいこともあった。その他のOS(SAOS-2)ならびにMM細胞株(A375、A2058) においても同様の結果が観察された。
2. MCU阻害剤ruthenium360(Ru360)は、OSおよびMM細胞におけるミト コンドリアCa2+負荷を抑制する。
OS およびMM 細胞において[Ca2+]mitへのMCU の役割は不明であるため、ミ トコンドリアCa2+動態に対するMCU特異的薬剤の影響を調べた。MCU阻害剤 Ru360は[Ca2+]mitの有意な減少を引き起こしたが、ミトコンドリアのNa+-Ca2+交 換体(NCLX)阻害剤 CGP-37157(CGP)は、HOS および SAOS-2 細胞におい て[Ca2+]mit を増加させた。EGTA およびミトコンドリア透過性遷移孔(MPTP)
阻害剤cyclosporine A(CysA)は、HOS細胞では有意に[Ca2+]mitを減少させたが、
SAOS-2細胞では [Ca2+]mit減少は有意ではなかった(図2AおよびB)。A375 お よびA2058細胞においてRu360およびCysAは有意に[Ca2+]mitを減少させた(図 2C および D)。一方、MPTP 開口剤である atractyloside(ATR)は A375 および HOS細胞の両方で[Ca2+]mitを有意に減少させ(図2EおよびF)、MPTPを介した Ca2+の排出が[Ca2+]mitの調節に関与することを示唆した。
3.CapsazepineおよびAMG9810は、OSおよびMM細胞の[Ca2+]mitをTRAIL と協調的に減少させる。
TRPV1阻害剤AMG9810 (1〜10 μM) は単独でA2058細胞の[Ca2+] mitを用量 依存的に減少させた。TRAILとAMG9810を併用すると、[Ca2+]mitは各薬剤単独 よりも低下した(図3A)。別のTRPV1阻害剤capsazepine (1~3 μM) も単独で、
[Ca2+]mitを最も減少させた(図 3B)。また、capsazepine も TRAIL と併用するこ とによって、[Ca2+]mitをさらに減少させ、その効果は1〜3 μMで最大であった(図 3B)。 SAOS-2 細胞についてもほぼ同様の結果が得られた(図 3C および D)。 これらの結果は、capsazepine およびAMG9810 が OS およびMM 細胞において TRAILと協調的に[Ca2+]mitを減少させることを示している。
4. Ca2+の除去は、OSおよびMM細胞の生存率を低下させ、TRAIL細胞毒性を 増強する。
OSおよびMM細胞に対するTRAIL細胞毒性におけるCa2+リモデリングの役 割を調べるために、Ca2+除去の細胞毒性に対する効果を試験した。TRAIL 100
ng/mlによる24時間処理ではA2058およびMG63細胞の生存率はほとんど(4〜
6%)減少しなかった。細胞外Ca2+のキレート剤であるEGTA(0.2〜0.5 mM)は あまり効果を示さなかったが、細胞内Ca2+のキレート剤であるBAPTA(30 μM)
はA2058細胞の生存率を中程度 (30%)低下させた(図4A)。一方、どちらのCa2+
キレーターも単独ではMG63細胞の生存率にほとんど影響しなかった(図4B)。 しかし、細胞株によって効果の有無は異なるが BAPTA と EGTA はこれらの細
胞をTRAILに対して感作し、その効果はTRAILの濃度が増加するにつれて顕著
になった(図4AおよびB)。
細胞死の様式を明らかにするために、アネキシンV/PI二重染色を用いてフロ ーサイトメトリー分析を行った。強力な TRAIL 感作物質である KCl(22)と
BAPTA、EGTA は、TRAIL 単独と比較してアポトーシス細胞を顕著に増加させ
た(図4C)。 TRAILまたはEGTA単独と比較して、TRAIL と EGTAを併用し た細胞では、僅かではあるが有意にネクローシス細胞が増加した。 BAPTA お よび EGTA は Tg 誘発アポトーシスを増強したが、Tg 誘発性ネクローシスには 有意な効果はなかった(図4C)。
TRAIL細胞毒性ならびにCa2+キレート剤によるTRAIL感作は、インキュベー
ション時間が長くなるにつれて顕著になった。その結果、72時間のTRAIL処理
は、A2058およびSAOS-2細胞の生存率をそれぞれ56.4%および54.8%低下させ
た。EGTA単独ではそれぞれ30%および32.2%低下させた。TRAILとEGTAを 併用すると、細胞生存率は大幅に低下した(最大90%減少)(図4DおよびE)。
このTRAIL細胞毒性はカスパーゼ阻害剤 z-VAD-FMKによって完全に阻止され
たが、ネクロプトーシスの特異的阻害剤であるnecrostatin-1はわずかな阻害効果 しか示さなかったことからTRAILはこれらの細胞において主にアポトーシスを 誘導すると考えられた。これらの結果は、Ca2+除去が OS および MM 細胞を
TRAIL誘発アポトーシスに対して感作することを示している。
5. Ca2+除去は、OSおよびMM細胞を感作し、TRAIL誘導性の非アポトーシス 細胞死を増強する。
OSおよびMM細胞に対するTRAILの細胞毒性の程度は、実験間で差が見られ、
ある条件下では、TRAILはSAOS-2およびHOS細胞に対してわずかな細胞毒性 効果しか示さなかった(図 5A および B)。これらの細胞は、Ca2+キレーターの
TRAIL感作効果に対しても抵抗性を示した。TRAILと EGTAの併用が SAOS-2
細胞の生存率を有意に低下させた以外は、TRAIL およびキレート剤単独または 組み合わせでは、わずかな細胞傷害効果しか示さなかった。また、z-VAD-FMK は、TRAIL + EGTAの効果を阻害しなかった。一方、Ru360(5〜30 μM)はSAOS-2 およびHOS細胞の生存率が有意に低下させた(図5CおよびD)。 Ru360とTRAIL を共に使用した場合、Ru360単独で誘導されたものと比較して、わずかに細胞死 の増加が観察された。 Ru360単独またはTRAIL + Ru360によって誘導された細
胞死は、z-VAD-FMK によって阻害されずむしろ増強された(図 5Cおよび D)。
CysA (5 μM) は、SAOS-2細胞の生存率を低下させたが、HOS細胞の生存率は低
下させなかった。この細胞毒性効果は、TRAIL によって完全に抑制された。さ
らに、atractylosideは、これらのアポトーシス耐性細胞においてTRAIL細胞毒性
を増強した(図5E)。
一方で、A375細胞の以前の研究と一致して(27)、H2O2はHOS細胞を感作し
て、TRAIL の細胞毒性を増強し、この効果は z-VAD-FMK によって完全に阻害
された(図5F)。これはH2O2がHOS細胞でもTRAIL誘発アポトーシスを増幅 することを示している。
これらの結果は、TRAIL は細胞条件によっては非アポトーシス細胞死も誘発 し、異なる作用機序で[Ca2+]mitを減少させる薬剤が共通してこの細胞死に対して OSおよびMM細胞を感作することを示している。
6. capsazepine および AMG9810 は、カスパーゼ非依存的な様式で OS および MM細胞を殺傷または感作する。
ミトコンドリアCa2+除去とTRAIL感作の関係をさらに調べるために、腫瘍細 胞の生存に対するcapsazepineおよびAMG9810単独またはTRAILとの併用によ る影響を評価した。AMG9810(3 μM以上)で 72 時間処理すると、用量依存的に
A2058細胞の生存率を減少させ、また、10 μM以上で用量依存的にTRAIL細胞
傷害性を増強した(図6A)。 SAOS-2細胞は、より抵抗性であり、AMG9810 (30
μM)のみが、有意な細胞毒性効果およびTRAIL細胞毒性の増強効果を示した(図 6C)。
A2058細胞においてcapsazepineの細胞毒性は10 μMで最大となりTRAIL細胞 毒性の増強効果も最大となった(図6B)。一方、capsazepine は、SAOS-2細胞に おいては有意な細胞毒性もTRAIL感作効果も示さなかった(図6D)。HOS細胞 は、TRAIL および AMG9810 単独または組み合わせに対して高い耐性を示し、
TRAIL + AMG9810の細胞毒性効果は、z-VAD-FMKによって有意に増大した(図
6E)。一方、capsazepine 単独では生存率が著しく低下し、その効果は TRAIL + capsazepineの効果に匹敵した。またz-VAD-FMKはSAOS-2細胞におけるTRAIL + AMG9810の細胞毒性効果を増強した(図6F)。capsazepineの効果は複雑であ り、試験した細胞株によって異なった結果を得た。
7. OSおよびMM細胞においてcapsazepineおよびAMG9810は、TRAIL誘発 カスパーゼ-3/7活性化および細胞膜傷害を最初に増幅する。
これまでに示された結果は、capsazepineおよびAMG9810がTRAILの細胞毒 性をカスパーゼ非依存的に増強することを示唆した。この 2 つの薬剤が実際に アポトーシスとは無関係に細胞死を調節するかどうかを決定するために、カス パーゼ-3/7 活性化に対する効果を調べた。カスパーゼ-3/7 特異的基質および
7-AADを用いて、カスパーゼ-3/7活性化および細胞膜傷害/死を同時に評価した。
A375細胞において、capsazepineおよびAMG9810単独で24時間処理した場合で
は、カスパーゼ-3/7活性化細胞(カスパーゼ陽性)と細胞膜傷害細胞(7-AAD 陽 性)はわずかに増加した(図 7A)。 TRAIL 処理は、A375 細胞中のカスパーゼ
陽性/7-AAD 陰性およびカスパーゼ陽性/7-AAD 陽性細胞を増加させ、
z-VAD-FMK はこの効果を抑制した。Capsazepineおよび AMG9810はTRAIL の 効果を増強し、z-VAD-FMK はこれらの増幅も抑制した(図 7A)。necrostatin-1 は、TRAIL単独またはTRAIL + AMG9810によるカスパーゼ陽性/7-AAD陽性 細胞の増加を阻害した。一方、necrostatin-1は、TRAIL + capsazepineによるカス パーゼ陽性/7-AAD陽性細胞の増加を促進した(図7A)。
これに対して、HOS細胞では、AMG9810はcapsazepineよりTRAILの効果 を増強し、z-VAD-FMKはcapsazepineの効果をほぼ完全に阻害したが、AMG9810 の効果は完全には抑制しなかった(図7B)。 necrostatin-1単独は、カスパーゼ陽 性/7-AAD 陽性細胞を増加させたが、TRAIL、TRAIL + AMG9810、TRAIL +
capsazepineによるこの細胞集団の上昇を鈍らせた(図7B)。
これらの結果は、細胞に依存して capsazepine または AMG9810 が初期には
TRAIL 誘発性のカスパーゼ-3/7 活性化、細胞膜傷害、カスパーゼ依存性細胞死
を増幅することを示している。
考察
本研究では、OSおよびMM細胞におけるCa2+動態に対するTRAILの効果と 細胞の生存およびTRAIL感受性の制御におけるCa2+の役割を解析した。
急性の TRAIL 刺激は、[Ca2+]cytおよび[Ca2+]mitを急速かつ持続的に増加させ、
TRAILがOSおよびMM細胞株においてCa2+を調節することが明らかになった
(図1A〜D)。TRAILはその細胞毒性に対応して、細胞質とミトコンドリアとい
う 2 つの異なる細胞内部位で Ca2+レベルを用量依存的に増加させた。ミトコン ドリアは[Ca2+]cytに依存してCa2+を取り込みまたは放出し、それによって[Ca2+]cyt
を維持する重要な細胞内 Ca2+貯蔵庫として機能している。この考えによれば、
[Ca2+]cytおよび[Ca2+]mitの増加は並行して起こり得る。しかし、[Ca2+]cytの上昇は TRAILの濃度に用量依存的であったのに対して、[Ca2+]mitの上昇は50 ng/mlで最
大となりTRAILの濃度が高くしても効果は小さい場合があった。これらの結果
は、OS およびMM細胞では、ミトコンドリアのCa2+応答が[Ca2+]cytに依存性お よび非依存性の両方のプロセスを含むことを示唆する。
ミトコンドリア Ca2+の恒常性は、バランスのとれたミトコンドリアの Ca2+負 荷および流出によって維持される。 MCU複合体は、ユニポーターMCUのチャ ネル形成サブユニットと、MICU1/2、MCUb、MCUR1、EMRE などの複数のコ ンポーネントで構成されている。MCUはミトコンドリアマトリックスへの生理 的なCa2+負荷を担う主要な分子機構である(24)。ミトコンドリアCa2+における
MCUの役割は、乳癌細胞および神経芽腫細胞を含むいくつかの腫瘍細胞におい て研究されている(25,26)。
これらの複合分子は、がん細胞を含む様々な細胞タイプにおいて不可欠なミ トコンドリアCa2+取り込み機構であることが証明されている(27-29)。一方、ミ トコンドリアは、NCLX、Ca2+/H+アンチポーター(30)および MPTP(31-34)
を含むいくつかの異なる経路を介して Ca2+を放出する。しかし MPTP はミトコ ンドリアの Ca2+流出にあまり寄与していないことを示唆している報告もあり
(35)、MPTPの役割は依然として議論の余地がある。本研究では、MCU阻害剤 ruthenium360 が[Ca2+]mit を減少させる一方で、NCLX アンタゴニストである CGP-37157はOSおよびMM細胞において[Ca2+]mitを増加させることを示した(図 2A および B)。この結果は、MCU による Ca2+の取り込みおよび NCLX による Ca2+の流出がこれらのがん細胞において[Ca2+]mitの重要な調節因子であることを 示している。Cyclosporine Aは、MPTP開口部の重要な構成要素であるcyclophilin D を標的とし、一部の細胞型で[Ca2+]mitに影響を与える(33,34)。一方、アデニ ンヌクレオチドトランスロケーターを調節することによって MPTP を開く atractyloside は(35)、異なる細胞型で[Ca2+]mitを減少させた(図 2C および D)。 これらの知見は、[Ca2+]mitの制御にもMPTPを介したCa2+流出が必要であること を示唆しているが、cyclophilin Dは細胞のMPTP開口において重要な役割を果た していないという報告もある(36)ため今後さらに検討が必要である。
capazepineとAMG9810 がOS およびMM 細胞で[Ca2+]mitを著しく減少させ、
TRAIL誘発性の[Ca2+]mit低下を増強することは注目に値する(図3A〜D)。これ らの結果は、capazepine と AMG9810 に感受性のあるCa2+輸送経路が[Ca2+]mitの 調節において中心的な役割を果たすことを示している。この 2 つの薬剤は、細 胞膜に局在し非選択的カチオンチャネルとして機能する分子であるTRPV1に強 力なアンタゴニストとして作用することが知られている(37,38)。近年、TRPV1 は正常細胞および癌細胞の小胞体およびミトコンドリアにも存在することが報 告されている(40)。細胞内TRPV1は、Ca2+放出およびERストレスに寄与する
(41,42)。これらの事実は、TRPV1とERとミトコンドリアの間のCa2+シグナル 伝達の調節とがん細胞の生存の密接な機能的関係を示唆している。
活性酸素(ROS)と Ca2+が相互に作用し、細胞の生存と死を共同で制御する ことは広く受け入れられている(14)。多くのグループが様々な悪性細胞タイプ
に対するTRAIL細胞毒性においてROSが重要な役割を果たすことを実証してい
る(43〜45)。また、TRPV1はROSによって活性化されるTRPチャネルの1つ であることから(46)、TRPV1は、OSおよびMM細胞のCa2+動態、生存、およ び死の調節において役割を果たす可能性が考えられる。
現在のところ、我々の実験系で細胞内部位に TRPV1 は検出されておらず、
TRPV1の存在および役割はまだ明らかではない点が本研究のLimitationである。
OSおよびMM細胞のCa2+の制御におけるTRPV1の役割はほとんど実証されて いない。 Merglerらは、ヒトブドウ膜黒色腫細胞におけるTRPV1の発現および それによるCa2+調節を報告した(47)。 またTRPV1アゴニストであるcapsaisin
は、G292ヒトOS細胞において[Ca2+]mitの増加を、細胞外Ca2+および細胞内Ca2+
から独立して誘導することが報告されている(48)。細胞内TRPV1が[Ca2+]mitの 調節に関与することが考えられるため、今後検証していく必要がある。
本研究における別の重要な知見は、Ca2+の除去がOSおよびMM細胞に対する
TRAIL 細胞毒性を増強することである(図 4,5)。この発見は、Ca2+が細胞死か
ら細胞を保護することを示唆している。細胞内および細胞外 Ca2+の両方が、生 存機能において役割を果たしているが、2つのCa2+源の役割は細胞系によって異 なっていた。 Ca2+の除去はTRAILおよびTgによって誘導されたアポトーシス を増強したが、ネクローシスは増強しなかった(図 4C)。 Ca2+除去による増強
効果は、TRAIL に感受性のある細胞でより顕著に認められたが(図 4,5)、
z-VAD-FMKはその増強効果を阻害した。これに対して、TRAIL抵抗性の細胞に
おけるCa2+除去による効果は、z-VAD-FMK によって阻害されなかった。これら の知見から、OSおよびMM細胞には、異なるTRAIL感受性を有する2つの異 なる状態が存在すると考えられる。 一つは比較的 TRAIL に感受性のある状態
であり、TRAILに応答して容易にアポトーシスを起こす。もう一つはTRAILに
耐性がある状態であり、有効な細胞死のためには非アポトーシス細胞死の誘発 が必要である。 Ca2+の除去によってTRAIL誘導性の非アポトーシス性細胞死が 強く増強されることから(図 5)、Ca2+がこの細胞死の様式抑制に重要であると 考えられる。
本研究で示された結果は、細胞死の予防におけるミトコンドリア Ca2+の重要
な役割を明らかにした。我々は、MCUを介したCa2+の取り込みを阻害すること による[Ca2+]mitの減少が、TRAIL誘発性の非アポトーシス細胞死に対するOSお よびMM細胞を感作することを見出した(図5)。この知見は、他のがん細胞型 に お け る い く つ か の 報 告 と 一 致 し て い る 。Curry ら は 、MCU の 抑 制 が
MDA-MB-231 乳癌細胞におけるカスパーゼ非依存性細胞死を増強することを報
告している(28)。著者らは、Ca2+イオノフォアである ionomycin によって誘導 されるカスパーゼ非依存性細胞死は、MCUの抑制によって増強されるが、Bcl-2 阻害によって引き起こされるカスパーゼ依存性細胞死は影響を受けないことを 示した。さらに、カスパーゼ非依存性細胞死の増強は、全体の[Ca2+]cytと無関係 に起こると報告している。
Marchiらは、silico microRNA miR-25がHeLa細胞および結腸癌細胞において MCU発現をダウンレギュレーションし、ミトコンドリアCa2+取り込みを減少さ せ、またこのダウンレギュレーションがアポトーシス刺激に対する耐性と相関 することを報告した(49)。また、この場合、このMCUの操作は[Ca2+]cytに影響 しない。さらに、本研究で我々はcapsazepineおよび AMG9810によるCa2+輸送 経路の阻害が、[Ca2+]mitを減少させ、OSおよびMM細胞に感作することにより
TRAIL 誘発非アポトーシス細胞死を導くことを発見した(図 3)。その一方で
capsazepine および AMG9810 は、TRAIL 誘発カスパーゼ-3/7 活性化およびアポ トーシスを24 時間以内に誘導した(図7)。 MPTP によるCa2+放出を促進する ことによる[Ca2+]mitの減少がTRAILの細胞傷害性を増幅したことからも(図5)、
ミトコンドリアCa2+には生存促進作用があると考えられる。
近年、TRAIL はプログラムされたネクローシスであるネクロプトーシスを誘 導することが報告されている(11,12)。しかし、Ca2+の調節はネクローシスに対 して最小限の効果しか持たず(図 4)、ネクロプトーシスの特異的阻害剤である necrostatin-1は、TRAIL(図4)、TRAIL + capsazepine、およびTRAIL + AMG9810 によって誘発される細胞死にほとんど影響を与えなかった(図7)。TRAILとネ クロプトーシスの関係にはさらなる研究が必要であると考えられる。
まとめ
本研究は、ミトコンドリア Ca2+がアポトーシスおよび非アポトーシス細胞死 を防止することにより、骨肉腫および悪性黒色腫細胞における生存促進因子と して作用することを初めて明らかにした。この発見は、ミトコンドリア Ca2+が これらの悪性腫瘍のTRAILに対する耐性を克服するための有望な標的となるこ とを示唆する。
謝辞
本研究に関し、利益相反はありません。
本研究に関して、研究、国際学会発表、国際雑誌への掲載ならびに学位論文 の御指導、御校閲を直接賜りました、鈴木良弘博士(前生理学分野助教、現一 般社団法人プラズマ化学生物学研究所代表理事、英国王立医学協会フェロー)
に深謝いたします。また、研究の御指導を賜りました鈴木美喜研究員に深謝い たします。
本研究の御指導を賜りました日本大学医学部外科学系整形外科学分野、長岡 正宏教授、吉田行弘准教授、德橋泰明教授に深謝いたします。
図 1
図2
図 3
図 4
図 5
図 6
図 7
表1
TRAIL Ru360 CGP CysA ATR AMG CGP
A375 ↑ ↓ ↑ ↓ ↓
A2058 ↑ ↓ ↓ ↓ ↓
SAOS-2 ↑ ↓ ↑ → ↓ ↓
HOS ↑ ↓ ↑ ↓ ↓
図 1.TRAILは、HOS細胞においてCa2+動態を調節する。
HOS細胞に、カルシウムプローブFluo 4-AM(A,B)およびdihydrorhod 2-AM(C,D)
をそれぞれ負荷した。プローブ負荷細胞をカルシウムを含む HBSS にサスペン ドして、TRAIL(25, 50, 100 ng/ml)で刺激し、0, 1, 2, 3, 5, 10分後の蛍光をマイ クロプレートリーダーで測定した。 BおよびDの結果は平均 ± 標準誤差で表 記した。n=3。データはANOVAならびにTukey's post hoc testで解析した。* P <0.05,
** P <0.01, *** P <0.001 対control (CTRL)。括弧の数は、分析されたデータ数を 表す。
図 2.ミトコンドリアのCa2+動態は、MCUとMPTPによって調節される。
HOS(A,F)、SAOS-2(B)、A375(C,E)、A2058(D)細胞にdihydrorhod 2-AM を 負荷し、(A, B)CGP(10 μM)、CysA(1 μM)、Ru360(1 μM)、0.5 mM EGTAま たは(C,D)CysA(1 μM)、Ru360(1 μM)または(E,F)CGP(10 μM)、ATR
(5 μM)を添加後、蛍光を5秒間隔、3分間マイクロプレートリーダーで測定 した。 結果は平均 ± 標準誤差で表記した。n=3。 データはANOVAならびに Tukey's post hoc testで解析した。* P <0.05, ** P <0.01, *** P <0.001, NS:有意差 なし 対non-treated control(NT)。 括弧の数は、分析されたデータ数を表す。
図 3. AMG9810およびcapsazepineは[Ca2+]mitをTRAILと共同して減少させる。
A2058(A,B)およびSAOS-2 細胞(C,D)にジヒドロ dihydrorhod 2-AMを負荷 し、 TRAIL(100 ng/ml)とAMG9810(1, 3, 10 μM)またはcapsazepine (1, 3, 10
μM)を単独または組み合わせて細胞に添加した後、蛍光を5秒間隔で3分間マ
イクロプレートリーダーで測定した。 結果は平均±標準誤差で表記した。n=3。
データはANOVAならびにTukey's post hoc testで解析した。*** P <0.001, NS:
有意差なし 対control(CTRL)。### P <0.001 対TRAIL、AMG9810、capsazepine 単独。括弧の数は、分析されたデータ数を表す。
図 4.Ca2+の除去は、OSおよびMM細胞の生存率を低下させ、TRAIL細胞毒性 を増強する。
(A, B) A2058(A)およびMG63(B)細胞をBAPTA-AM(30 μM)またはEGTA
(0.2 mM)の非存在下または存在下においてTRAIL (25,100 ng/ml )で24時間処 理し、WST-8 法で細胞生存率を測定した。結果は平均 ± 標準誤差で表記した。
n=3~5。
(C)A375細胞をEGTA(0.2 mM)、BAPTA(10,30 μM)、KCl(50 mM)の非存 在下または存在下で、TRAIL (25,100 ng/ml )またはthapsigargin (Tg, 1 μM)で24時 間処理し、アネキシン V とヨウ化プロピジウム(PI)染色しフローサイトメト リーにより評価した。結果は平均 ± 標準誤差で表記した。n=3。
(D, E) A2058(D)およびSAOS- 1(E)細胞をBAPTA(30 μM)、EGTA(0.5 mM)、 z-VAD-FMk(10 μM)、necrostatin-1(30 μM)の非存在下または存在下で、TRAIL
(100 ng/ml)で72時間処理し、WST-8 法を用いて細胞生存率を測定した。結果 は平均 ± 標準誤差で表記した。n=3~5。データはすべて ANOVA ならびに Tukey's post hoc testで解析した。* P <0.05,** P <0.01,*** P <0.001 対NT。### P
<0.001 対TRAIL。