アメーバ性肺膿瘍の 2 例
独立行政法人国立病院機構姫路医療センター呼吸器内科
宮川 倫子 望月 吉郎 中原 保治 河村 哲治 佐々木 信 岡本 裕子 塚本 宏壮 水守 康之 真弓哲一郎 田畑 寿子 横山 俊秀 渡部 悦子 後藤 孝吉
(平成 22 年 2 月 22 日受付)
(平成 22 年 5 月 13 日受理)
Key words : amebiasis, lung abscess, liver abscess
序 文
赤痢アメーバ症は,性感染症としての糞口感染や,
汚染飲食物を介してEntamoeba histolyticaの糞子を経 口摂取することにより成立し,病態は大腸炎に代表さ れる腸管アメーバ症と肝膿瘍に代表される腸管外ア メーバ症に大別される.肺や胸腔には肝膿瘍から直接 またはリンパ行性,血行性に進展することが知られて いる.今回我々は健康成人においてアメーバ性肝膿瘍 から肺に進展したアメーバ性肺膿瘍の 2 例を経験した ので報告する.
症例 1 74 歳 男性.
主訴 発熱.
既往歴 72 歳:狭心症.
家族歴 特記事項なし.
生活歴:職業歴;元教師.喫煙歴:40 本×56 年.飲 酒歴;機会飲酒.海外渡航歴;半年前に中国へ渡航.
現病歴:38℃ の発熱が 7 日間続き,肝膿瘍の診断 で近医入院.抗菌薬を投与されるも効果なく,経皮経 肝ドレナージ施行され軽快,一旦退院した.しかし 2 カ月後に再度発熱を認め,再び抗菌薬を投与されるも 改善せず,胸部画像にて右胸水・左肺腫瘤を認め,当 院紹介となった.
入院時現症;身長 155cm,体重 57kg,体温 38.0℃,
血 圧 110!50mmHg,脈 拍 90 回!分・整.SpO288%.
皮疹なし.チアノーゼなし.バチ状指なし.表在リン パ節触知せず.心雑音なし.右下肺で呼吸音低下.腹 部異常なし.神経学的異常なし.
入院時検査所見(Table 1):白血球 17,000!μL,CRP
16.4mg!dL と上昇していた.赤痢アメーバ IgG 抗体 は 6,400 倍と上昇,HIV 抗体は陰性であった.また黄 色混濁,滲出性,リンパ球優位の胸水を認めたが,明 らかな起因菌は検出できなかった.
胸部画像所見(Fig. 1):右胸水,左中肺野に塊状 影を認めた.また肝右葉に腫瘤性病変を認めた.
入院後経過:抗菌薬に不応の肺膿瘍・肝膿瘍を認め たこと,半年前に渡航歴があったことから赤痢アメー バ症を疑い,赤痢アメーバ IgG 抗体を測定すると共 に,右腫瘤性病変に対して,経皮肺穿刺吸引検査を施 行した.膿汁は茶褐色であり,ただちに穿刺検体を無 染色で確認したところ,赤痢アメーバの栄養型を検出 した(但し図にはパパニコロ染色を示す Fig. 2).経 皮 経 肝 ド レ ナ ー ジ と metronidazole 1,500mg!日 の 2 週間投与にて軽快した.
症例 2 44 歳 男性.
主訴 右側胸部痛.
既往歴 42 歳 喉頭ポリープ切除.
家族歴 特記事項なし.
生活歴:職業歴;動物園事務員.喫煙歴;30 本×23 年.飲酒歴;なし.海外渡航歴;6 年前にアメリカへ 旅行.
現病歴:9 月中旬より右側胸部痛を自覚,10 月下旬 より微熱・咳嗽出現し近医受診.抗菌薬投与されるも 改善せず,褐色痰も認めるようになり,11 月初旬に 当院紹介,入院となった.
入院時現症;身長 170cm,体重 64kg,体温 38.3℃
血 圧 150!80mmHg,脈 拍 90 回!分・整.バ チ 状 指 なし.皮疹なし.表在リンパ節触知せず.心音異常な し.右下肺で呼吸音低下.肝 1 横指触知.
入院時検査成績(Table 2):白血球 13,800!μL,CRP 症 例
別刷請求先:(〒670―8520)兵庫県姫路市本町 68 番地 独立行政法人国立病院機構姫路医療センター呼
吸器内科 宮川 倫子
平成22年 7 月20日
Fig. 1 Chestradiography and CT on case 1 admission showing rightpleuraleffusion,a massin the leftlung,and a single right-lobe liverabscess.
Table 1 Laboratory data on admission in case1 Serology
Hematology
mg/dL 16.4 CRP
/μL 17,000 WBC
(- ) RPR
% 86 Neut
(- ) TPHA
% 0.7 Baso
(- ) HBs-antigen
% 7.0 Lym
(- ) HCV antibody
% 6.0 Mono
(- ) HIVantibody
% 0.3 Eos
×6,400 Antiamebicantibodies
/μL 302×104 RBC
g/dL 9.3 Hb
% 39.9 Ht
Pleuraleffusion /μL
34.1×104 Plt
dirty yellow Color
/mm3 63000 Totalcellcounts
Biochemistry
Cellclassification g/dL
6.7 TP
Neut2.0%,Lymph 87.0 %,His8.0% Plasma 3%
mg/dL 0.4 T-Bil
1.030 Specificgravity
IU/L 175 LDH
g/dL 4.0 Totalprotein
IU/L 217 ALP
IU/L 166 LDH
IU/L 46 γGTP
IU/L 11.4 ADA
IU/L 20 AST
(- ) Bacterialculture
IU/L 10 ALT
(- ) Tbcculture
mg/dL 6 BUN
negative Cytology
mg/dL 0.5 Cr
% 5.7 HbA1c
28.8mg!dL と上昇していた.糞便中の赤痢アメーバ 陰性,赤痢アメーバ IgG 抗体は 100 倍であった.
胸部画像所見(Fig. 3,4):胸部単純写真では右横 隔挙上と右肋骨横隔膜辺縁に浸潤影を認めた.
胸腹部 CT では右下葉に内部不均一の塊状影を認 め,肝右葉には腫瘤性病変を認めた.経皮経肝造影に
て肝臓から肺への瘻孔を認めた.
経過:細菌性肝膿瘍・肺膿瘍を考え,肝膿瘍に対し て経皮経肝ドレナージ施行後,meropenem 1.5g!日の 投与を開始した.しかし臨床所見・検査所見とも改善 に乏しく,ドレーン排液より起炎菌を検出できなかっ たため,難治性膿瘍として右肺中下葉部分切除,横隔
Fig. 2 Entamoeba histolytica detected by percutaneous fine-needle aspiration in case1.
Fig. 3 Chestradiography on case 2 admission showing elevated righthemidiaphragm and CT show- ing a right-lung massand a single right-lobe liverabscess.
Table 2 Laboratory data on admission in case2
Hematology
/μL 13,800 WBC
% 79.0 Neut
% 1.0 Baso
% 14.0 Lym
% 5.0 Mono
% 1.0 Eos
/μL 378×104 RBC
g/dL 10.3 Hb
% 32.1 Ht
/μL 45.5×104 Plt
Biochemistry
g/dL 7.5 TP
mg/dL 0.5 T-Bil
IU/L 183 LDH
IU/L 337 ALP
IU/L 66 γGTP
IU/L 18 AST
IU/L 22 ALT
IU/L 193 LDH
mg/dL 7 BUN
mg/dL 0.7 Cr
% 5.0 HbA1c
Serology
mg/dL 28.8 CRP
(- ) RPR
(- ) TPHA
(- ) HBs-antigen
(- ) HCV antibody
(- ) HIVantibody
×100 Antiamebicantibodies
膜合併切除,肝膿瘍・右胸腔ドレナージ術を施行した.
後日,摘出肺内の膿汁よりE. histlytica検出し,術後 約 1 カ月 metronidazole 1,500!日投与し軽快した.
考 察
赤痢アメーバ感染は,成熟嚢子を経口摂取し結腸内 で潰瘍を形成することで成立し,その後経門脈的に肝 臓に到り,そこから直接浸潤,血行性,リンパ行性に 他臓器に病巣を形成する.赤痢アメーバ症の腸管外病 変としては肝膿瘍が最多であり,理由は不明であるが,
成人では圧倒的に男性に多い.また 35% が感染後 6 週以内に発症し,95% が 6 カ月以内に発症するとい われている.中には 4 日で発症したという報告もあ り1),腸管アメーバに比して短期間で発症する.肺・
平成22年 7 月20日
Fig. 4 Injected contrast medium in the liver abscess showing a fistula connected to the right lung paren chyma in case2.
胸腔への進展は肝膿瘍の 20〜35% に認めるとされ2)低 栄養・アルコール依存・右―左シャントを有する心房 中隔欠損症などが肺へ進展する危険因子といわれてい る3).肺・胸腔赤痢アメーバ症では片側横隔膜挙上,胸 水,浸潤影,膿瘍,膿胸,肝気管支瘻などを認めるが,
膿瘍が下大静脈に穿破し,肺塞栓として発症すること もある4).症例 1 のように左側肺に認めることもある が,その際は肝左葉に膿瘍を形成していることが多 い5).また胸腔赤痢アメーバ症における胸水は赤褐色 のことが多いが症例 1 では黄色胸水であり,本例は特 異な症例と思われた.今回は 2 例とも肝膿瘍からの進 展であったが,症例 1 は横隔膜穿孔による直接浸潤,
症例 2 は対側肺への血行性進展と考えられた.
診断については,病変部から赤痢アメーバが検出さ れれば確実であるものの,検出率は 20% 以下と高く ない3)6).一方,赤痢アメーバ IgG 抗体は,赤痢アメー バ性肝膿瘍の 95% で陽性になるといわれ臨床的に価 値がある5)7).糞便から赤痢アメーバが検出されること もあるが,赤痢アメーバは常時糞便中に排泄されてい るわけではなく,また,病原種であるE. histolyticaと 非病原種のE. disparとの形態学的鑑別は不可能であ り,その解釈には注意を要する.
肝膿瘍のみの治療では metronidazole が奏効するこ ともあり,穿孔の危険性が高い場合や肝左葉に発生し た巨大膿瘍の場合以外は,ドレナージは不要ともいわ れている.しかし本邦では疾患の鑑別を行う意味で施 行されていることが多く,また,肝膿瘍が穿破した例 では致死率が高くなるためドレナージが必要とな
る7)8).今回症例 1 では胸腔ドレナージを行わなかった が,症例 2 は病変部から赤痢アメーバが検出されず,
赤痢アメーバ症の危険因子が見当たらなかったことが 診断を遅らせてしまい,外科的ドレナージが必要とな り,結果的には切除肺の膿汁から診断がついた形に なった.感染源であるが,症例 1 には渡航歴があった のに対し,症例 2 は半年以内の渡航歴はなく,不明で ある.しかし近年,赤痢アメーバ症は性感染症として の拡大が問題になっており,赤痢アメーバ症を診断し た際には HIV 感染症を含む性感染症の検査も考慮す べきであり,本例もさらに詳細に調べる必要があった と考えている.一般に赤痢アメーバ症といえば,男性 同性愛者や蔓延国からの帰国者での感染率が高いと認 識されてきたが国内感染症としてその患者数は増加し ていることも再認識しなければならない.さらに 2 例 とも細菌性膿瘍として各種抗菌薬を投与するというこ とが繰り返されていたが,抗菌薬に不応の肝膿瘍・肺 膿瘍を認めた際には本疾患も念頭におく必要があると 思われた.
文 献
1)Aucott JN, Ravdin JI:Amebiasis and “non- pathogenic” intestinal protozoa. Infect Dis Clin North Am 1993;7:467―85.
2)Reed SL:Amebiasis : an update. Clin Infect Dis 1992;14:385―93.
3)Shamsuzzaman SM, Hashiguchi Y:Thoracic amebiasis. Clin Chest Med 2002;23:479―92.
4)Martinez S, Restrepo CS, Carrillo JA, Betan- court SL, Franquet T, Varon C,et al.:Thoracic manifestations of tropical parasitic infections : a pictorial review. Radiographics 2005;25:135―
55.
5)Lyche KD, Jensen WA:Pleuropulmonary ame- biasis. Semin Respir Infect 1997;12:106―12.
6)Meng XY, Wu JX:Perforated amebic liver ab- scess : clinical analysis of 110 cases. South Med J 1994;87:985―90.
7)Patterson M, Healy GR, Shabot JM:Serologic testing for amoebiasis. Gastroenterology 1980;
78:136―41.
8)Ibarra-Perez C:Thoracic complications of ame- bic abscess of the liver : report of 501 cases.
Chest 1981;79:672―7.
9)赤松弘明,上地隆史,早川美緒,西島正剛,美
川達郎,大谷賢一郎,他:アメーバ性肝膿瘍の 胸腔内突破による膿胸の 1 例.日呼吸誌 2008;
46:542―6.
Two Cases of Pulmonary Amebiasis
Tomoko MIYAGAWA, Yoshirou MOCHIZUKI, Yasuharu NAKAHARA, Tetsuji KAWAMURA, Shin SASAKI, Hiroko OKAMOTO, Hiroaki TSUKAMOTO, Yasuyuki MIZUMORI, Tetsuichirou MAYUMI,
Hisako TABATA, Toshihide YOKOYAMA, Etsuko WATANABE & Takayoshi GOTOU Department of Respiratory Medicine, National Hospital Organization Himeji Medical Center
Case1 : A 74-year-old man having a weekʼs fever and diagnosed with a liver abscess was treated with several antibiotics and percutaneous liver drainage. His respiration gradually worsened and chest computed tomography (CT) showed right pleural effusion and a left-lung mass. Percutaneous fine needle aspiration of the pulmonary mass detectedEntamoeba histolytica.
Case2 : A 44-year old, zoo office worker admitted for fever and right chest pain was found in CT to have right pleural effusion and a mass with a liver abscess necessitating abscess drainage. Injected contrast medium detected a fistula connected to the right. Following surgical drainage, E. histolytica was detected from the resected lung. Both cases responded well to metronidazole.
〔J.J.A. Inf. D. 84:464〜468, 2010〕