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健康男児に認めたサルモネラ脾膿瘍の 1 例 1)

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平成22年 1 月20日

第 82 回日本感染症学会総会学術講演会座長推薦論文

健康男児に認めたサルモネラ脾膿瘍の 1 例

1)国立病院機構東京医療センター小児科,2)茨城県厚生農業組合連合会土浦協同病院小児科,

3)国立病院機構東京医療センター研究検査科

難波早耶香

1)

松原 啓太

1)

朝貝 省史

2)

荘司 路

3)

松島 崇浩

1)

岡田 隆文

1)

込山 修

1)

岩田 敏

1)

(平成 21 年 3 月 25 日受付)

(平成 21 年 9 月 15 日受理)

Key words : splenic abscess,Salmonella entericaserovar Senftenberg, child

Salmonellaは脾膿瘍の起因菌の一つとして知られて

いるが,文献的に散見されるものの実際に症例を経験 することはまれである.

今回,我々はSalmonella enterica serovar Senften- berg による脾膿瘍の男児の症例を経験した.患者が 悪性腫瘍や糖尿病等の免疫不全を呈する基礎疾患のな い健常児であったこと,診断および治療の評価に Ga シンチグラフィーが有用であったことから,希少な症 例であると思われたので文献的な考察を加えて報告す る.

症例;14 歳,男児.

主訴;腹痛.

既往歴;特記事項なし,手術歴なし.

家族歴;特記事項なし.

生活歴;発症 7 日以内の生肉・生魚・生卵の摂取な し,海外渡航歴なし.

現病歴;2007 年 8 月 27 日から水様性の下痢,38℃

台の発熱が出現した.28 日に左側腹部痛を認め近医 を受診し levofloxacin の内服を開始した.29 日に近 医を再受診したところ,左側腹部に圧痛・筋性防御を 認め,白血球数 14,500!µL,CRP 9.3mg!dL と炎症所 見の上昇もあり当院小児科に紹介された.

入院時現症;身長 166.0cm,体重 98.8kg,BMI 35.8,

体 温 38.4℃,脈 拍 数 108 回!分,血 圧 141!70mmHg,

咽頭発赤なし,胸部 呼吸音清,心音整,心雑音聴取 せず.

腹部,平坦かつ軟,腸蠕動音正常,腫瘤触知なし,

腹部全体に圧痛あり,筋性防御なし,反跳痛なし.

両背部叩打痛なし,表在リンパ節触知せず,四肢末 梢冷感なし.

入院時検査所見;白血球数 13,800!µL(Seg 63.0%,

Band 7.0%),ヘモグロビン 13.6g!dL,血小板数 22.2×

104!µL,赤沈 76mm!h,CRP 22.7mg!dL,AST 24U!

L,ALT 60U!L,LDH 222U!L,総ビリルビン 0.90mg! dL,血清アミラーゼ 35U!L,IgG 1,234mg!dL,IgA 348mg!dL,IgM 106mg!dL,C3 301mg!dL,C4 40 mg!dL,血清補体価(CH50)82.5IU!mL,ヘモグロビ ン A1c 5.4%,血糖 99mg!dL.

血液培養は陰性であり,便培養からはEscherichia coli,Staphylococcus hominis subsp hominisが検出され た.

入院時の腹部レントゲン像では,特に異常な所見は 認めなかった.腹部超音波検査で脾臓内に約 65mm×

75mm 大の腫瘤を認めたため,腹部造影 CT を撮影し たところ,脾臓内に微細分葉状の約 70mm 大の低吸 収域像を認め,辺縁に線状の高吸収域,壁に一部石灰 化を認めたが造影効果は認めなかった(Fig. 1).

MRI 検査も施行したが,膿瘍を示唆する典型的な 所見はなくリンパ管腫,嚢胞状血管腫,奇形腫が鑑別 に挙げられた(Fig. 2).

入院後経過(Fig. 3);入院時に軽微ながら下痢を 認め,圧痛も腹部全体に及んでおり脾臓の腫瘤に一致 する臨床症状がなかったため,当初は脾嚢胞を疑った.

主たる病状は細菌性腸炎と判断し,fosfomycin の内 服を開始したが 38℃ 台の発熱が続き,左側腹部に圧 痛が限局してきたため,脾膿瘍も考慮し 8 月 31 日か ら meropenem の点滴静注に変更した.9 月 3 日から clindamycin の点滴静注の併用を開始したが症状の改

別刷請求先:(〒152―8902)東京都目黒区東が丘 2―5―1 国立病院機構東京医療センター 難波早耶香

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難波早耶香 他 70

感染症学雑誌 第84巻 第 1 号 Fig. 1 Abdominalcomputed tomography showing low-

density 70×65mm masswith calcification

Fig. 2 Gallium scintigraphy showing an abnormalsplenicaccumulation indicating active inflammation 善を認めなかった.9 月 7 日に Ga シンチグラフィー

を施行したところ,脾臓の腹側に半円弧状の集積の亢 進を認めたため脾膿瘍と診断し,即日 CT ガイド下経 皮的ドレナージを施行した.ドレナージの穿刺液は黄 白色の膿性で,異臭は認めなかった.穿刺液の培養か らはSalmonellaが検出され,O 抗原は 1,3,19 群,H 抗原 1 相で g,s,t に明瞭な凝集を認めたためS. Sen- ftenberg と同定した.

ドレナージ実施以降は症状の改善がみられたが,検 出菌はペニシリン系,セフェム系,カルバぺネム系の βラクタム薬や,キノロン系薬,fosmycin にも感受 性を認めたことから,9 月 13 日より ceftriaxone に変 更した.炎症所見の改善を認めたため,同 15 日から levofloxacin の内服に変更し,同 21 日に Ga シンチ上 で集積の消失を確認したため同 26 日に退院した.そ の後脾の嚢胞性病変は縮小傾向を認めながらも残存し ているが,感染の再燃は認めていない.

脾膿瘍は頻度が低いものの,時として重篤な転帰を とる可能性もある.また多くの例で何らかの基礎疾患

を有しており,中でも糖尿病,白血病や HIV 感染,ス テロイド治療等により免疫能の低下をきたしているも のが大部分を占める1)〜4).さらに脾膿瘍は血流感染に より発症するため,細菌性心内膜炎,肝膿瘍などを合 併している例が多い1)〜4).今回の症例のように免疫異 常を認めない健常人の脾膿瘍の症例は我々が調べた限 りでは報告はなかった.一般的 に 脾 膿 瘍 で は 発 熱

(82%),腹痛(71%),嘔気・嘔吐(46%)などの症 状を認め,血液検査上は白血球増加(83%)を認める との報告があるが2),本症例でもほぼ同様の症状・所 見が認められた.

脾膿瘍の起因菌は,Streptococcus,Staphylococcus等 のグラム陽性球菌が最も多いが,SalmonellaやE. coli も少なくはなく,また免疫不全患者では真菌や結核菌,

非結核性抗酸菌が起因菌となる場合もある.

本症例では起因菌としてS. Senftenberg が分離・

同定されたが,血清型まで同定されている報告は少な く,S. Senftenberg による脾膿瘍の報告は我々が検索 した限りでは皆無であった.感染経路については,他 のSalmonellaと同様にS. Senftenberg は鷄肉,鶏卵に 付着しており5),食物を介して経口的に感染する.本 症例では細菌検査を実施する前に levofloxacin の内服 をしていたこともあり,血液および便から同菌の検出 は認めなかったが,軽度ながらも腸炎の症状を認め腸 管からの血流感染の可能性が疑われた.

脾膿瘍は,臨床症状,画像所見,血液生化学検査所 見から診断するが,特に腹部超音波検査で 90% 以上,

腹部 CT 検査で 96% の感度を示すなど画像診断が有 用である3)5).しかし本症例は上記の 2 つの検査で脾臓 内に占拠性病変を認めていたものの造影 CT で低吸収 域の周囲の被膜の造影効果が見られず,膿瘍と確定診 断することが困難であった.10 日間抗菌薬の投与を 行ったが症状の改善がなく,かえって左側腹部に限局 する圧痛が徐々に増強してきたため,改めて脾膿瘍を 疑い Ga シンチグラフィーを実施した.その結果脾の 嚢胞性病変への集積が確認され活動性の炎症が存在す ることが確認できた.造影 CT で診断が困難であるも

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健康男児に認めたサルモネラ脾膿瘍の 1 例 71

平成22年 1 月20日

Fig. 3 Clinicalcourse

WBC: white blood cell count,CRP: C-reactive-protein,FOM: fosfomycin, MEPM: meropenem, CLDM:clindamycin,CTRX:ceftriaxone,LVFX:levofloxacin

LL

L L

のの膿瘍の可能性が疑われる症例では Ga シンチグラ フィーも考慮してもよいと考えた.

脾膿瘍の治療に関しては,特に成人において脾摘が 効果的であるが2)5),小児においては脾摘後の影響も考 慮されることから抗菌薬の単独治療やドレナージの併 用が試みられること多く,有効率は 75% 以上といわ れる5).本症例では分離されたS. Senftenberg に感受 性のある抗菌薬が投与されていたのにもかかわらず症 状が遷延し,経皮的ドレナージを併用してようやく症 状の改善を認めた.

その後の治療効果の判定でも,腹部 CT では膿瘍は 消失していなかったが,Ga シンチグラフィーで集積 像を認めず炎症の活動性は消失したと判断し治療終了 とした.外来で腹部超音波を行い経過観察中であるが,

症状の再燃は認めないものの治療終了後 1 年以上経過 しても脾の嚢胞性病変は変化が見られないことから本 症例は以前から存在していた嚢胞にS. Senftenberg が感染し膿瘍化したものであり,そのために膿瘍に特 徴性の画像所見を呈しなかった可能性も考えられる.

なお本論文の要旨は第 82 回日本感染症学会総会(松江 市)で発表した.

文 献

1)Delis SG, Maniatis PN, Triantopoulou C, Pa- pailiou J, Dervenis C:Splenic abscess in a pa- tient with fecal peritonitis. World J Gastroen- terol 2007;13:1626―7.

2)Tung CC, Chen FC, Lo CJ:Splenic Abscess.

The American Surgeon. 2006;p. 322―5.

3)Chang KC, Chuah SK, Changchien CS, Tsai TL, Lu SN, Chiu YS,et al.:Clinical characteristics and prognostic factors of splenic abscess. World J Gastroenterol 2006;460―4.

4)Joazlina ZY, Wastie ML, Ariffin N:Computed tomography of focal splenic lesions in patients presenting with fever. Singapore Med J 2006;

47:37―41.

5)Choudhury SR, Rajiv C, Pitamber S, Akshay S, Dharmendra S:Management of splenic abscess in children by percutaneus drainage. J Pediatr Surg 2006;41:E53―6.

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難波早耶香 他 72

感染症学雑誌 第84巻 第 1 号 A 14-year-old Healthy Boy with Splenic Abscess Due toSalmonella entericaSerovar Senftenberg

Sayaka NAMBA1), Keita MATSUBARA1), Seiji ASAGAI2), Michi SHOJI3), Takafumi OKADA1), Takahiro MATSUSHIMA1), Osamu KOMIYAMA1)& Satoshi IWATA1)

1)Department of Pediatrics, National Hospital Organization Tokyo Medical Center,

2)Department of Pediatrics, Tsuchiura Kyodo General Hospital,

3)Department of Clinical Laboratory, National Hospital Organization Tokyo Medical Center

Salmonella enterica serovar Senftenberg may very rarely cause splenic abscess, which can be diag- nosed using gallium scintigraphy and drained.

A 14-year-old boy admitted for stomachache, diarrhea and fever and diagnosed from his symptoms as having enteritis did not respond when treated with fosfomycin, meropenem, and clindamycin.

A low-density splenic area seen in abdominal computed tomography on admission did not show con- trast medium enhancement. Gallium scintigraphy on hospital day 10, however, showed abnormal splenic ac- cumulation confirming the splenic abscess diagnosis, after which we punctured and drained the abscessout.

S. Senftenberg was isolated from pus aspirated pus from the abscess, after which responded well to ceftriaxone and levofloxacin. Follow-up gallium scintigraphy on hospital day 24 showed that the abnormal splenic accumulation had disappeared, after which he has been followed up with abdominal ultrasonography and blood tests as an outpatient. He has experienced no relapse of splenic abscess.

〔J.J.A. Inf. D. 84:69〜72, 2010〕

参照

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