Nocardia elegans による閉塞性肺炎,脳膿瘍を呈した SLE の 1 例
1)
国立国際医療研究センター膠原病科,
2)同 国際感染症センター,
3)同 エイズ治療・研究開発センター
上田 洋
1)山元 佳
2)3)渡辺 恒二
3)山下 裕之
1)大曲 貴夫
2)三森 明夫
1)(平成 25 年 8 月 20 日受付)
(平成 25 年 11 月 12 日受理)
Key words : Nocardia, pneumonia, brain abscess
序 文
全身性エリテマトーデスに対するステロイド治療中 に,Nocardia elegans による閉塞性肺炎,脳膿瘍を発 症した 1 例を報告する.ニューモシスチス肺炎(PcP)
予防のため,ST 合剤予防内服下の発症で,腎機能の 制約もあったが,菌種同定および感受性検査をもとに,
ST 合剤を含む抗菌薬併用療法で,治療完遂が可能で あった.
症 例
患者:69 歳男性.
主訴:間欠的な発熱.
既往歴:1970 年頃〜高血圧症,2011 年,全身性エ リテマトーデス(SLE),深部静脈血栓症,右被殻脳 梗塞,Cryptococcus による肺炎,髄膜炎.
現病歴:2011 年 4 月,関節痛,両側下腿の痺れを 主訴に前医を紹介受診.6 月に入院し,血管炎を伴う SLE と診断された.プレドニゾロン(PSL)50mg! 日 で治療を開始し,改善を認め,外来で PSL 漸減となっ た.2011 年 11 月,PSL27.5mg ! 日内服中に,発熱,頭 痛,嘔吐などの症状が出現し,髄液検査で,細胞数上 昇,糖低下,墨汁染色で酵母様真菌を認め,血清およ び髄液の Cryptococcus 抗原陽性より,Cryptococcus 髄 膜炎と診断された.また,右肺下葉 S9,S10 に空洞 性病変を認め,Cryptococcus 肺炎が疑われた.アンホ テリシン B リポソーム製剤(L-AMB)とフルシトシ ン(5-FC)併用療法を 4 週間,フルコナゾール(FLCZ)
400mg を 8 週間,以降,FLCZ200mg で治療を継続さ れた.PSL は 20mg ! 日まで減量されたが,2012 ! 3 ! 21 の胸部 CT で,右下葉の病変は改善を認める一方で,
右中葉肺門部に 2cm 大の浸潤影,末梢の無気肺を新
たに認め,Cryptococcus 肺炎増悪が疑われ,FLCZ400 mg へ増量した.また,右優位の両下肢脱力を認め,4!
11 に髄液検査再検したところ,細胞数や糖の異常は なかったが,髄液墨汁染色で Cryptococcus 陽性となり,
Cryptococcus による髄膜炎,肺炎の再燃が疑われた.
前医満床のため,同日,当院へ紹介,同日より第 1 回 入院となった.
当院入院後,FLCZ から L-AMB 175mg! 日に変更 した.右中葉に無気肺を認め(Fig. 1A,B),計 2 回
(4 ! 19,5 ! 9)気管支鏡検査を施行し,右中葉気管支の 粘膜浮腫と,右 B4,B5 の狭窄を認め,生検や培養を 施行したが,原因は特定できなかった.前医での髄液 培養結果は陰性で,十分な治療下であることからも,
Cryptococcus 感染再燃の可能性は否定的と考え,5 ! 9
より FLCZ400mg! 日へ変更した.両下肢脱力は,責 任病巣の特定が困難であったが,リハビリテーション の効果もあってか,徐々に改善した.6! 10 に退院後,
6 月下旬より間欠的な発熱を認め,右中葉閉塞性肺炎 が疑われた.アモキシシリン(AMPC)1,500mg ! 日+
クラブラン酸(CVA)375mg! 日の内服を開始するも,
改善傾向なく,7! 6 より,第 2 回入院となった.
入院時現症:血圧 94! 62mmHg,脈拍 106! 分,整,
体温 36.8℃,SpO
298%(安静時室内気).意識は清明 で,脳神経に異常なく,小脳失調も認めない.眼瞼結 膜に軽度貧血あり,眼球結膜に黄染なし.口腔内に異 常なく,表在リンパ節触知しない.胸部聴診上,心雑 音なく,肺野も清であった.腹部は軽度膨満している が,圧痛なく,腫瘤は触知せず,蠕動音も正常.四肢 では,両下肢に徒手筋力テストで 4 程度の筋力低下と 筋萎縮を認めるが,改善傾向だった.その他,皮疹,
浮腫,関節炎などは認めなかった.
入院時検査所見(Table 1):入院時検査では,左方 移動を伴う白血球増加,CRP の上昇,赤沈亢進など
症 例別刷請求先:(〒162―8655)東京都新宿区戸山 1―21―1 国立国際医療研究センター膠原病科
上田 洋
Fig. 1 A: Chest X-ray (4/12), B: Chest CT (4/12)
A
B
Table 1 Laboratory data on admission
Hematology Biochemistry Immunology
WBC 12,390 /μL TP 6.1 g/dL Microbiology
Neu 83 % Alb 3.0 g/dL IgG 545 mg/dL
Lym 8 % AST 22 U/mL IgA 168 mg/dL
Hb 7.9 g/dL ALT 21 U/mL IgM 47 mg/dL
Ht 24.9 % LDH 227 IU/L Ferritin 272.1 ng/mL
MCV 94.3 fL ALP 239 IU/L βDG (MK) 12.1 pg/mL
PLT 30.9×10
4/μL γ-GTP 224 IU/L Aspergillus-Ag <0.1 C.O.I.
BUN 31.9 mg/dL Cryptococcus-Ag <8-fold (+)
Coagulation Cr 1.40 mg/dL
PT-INR 2.68 Na 135 mEq/L Urinarysis
APTT 34.1 sec K 4.6 mEq/L SG 1.020
Fib 635.2 mg/dL Cl 99 mEq/L pH 6.0
D-Dimer 2.0 μg/mL Ca 9.0 (10.0) mg/dL Prot (−)
CRP 11.66 mg/dL OB (−)
ESR 126 mm/hr Fe 28 μg/dL Sugar (−)
TIBC 279 μg/dL
HbA1c 5.8 %
の炎症所見を認めた.小球性貧血は,慢性炎症と鉄欠 乏性貧血の合併と考えた.腎機能低下を認めたが,悪 化傾向は認めなかった.低蛋白血症を認めたが,尿か らの漏出はなく,炎症に伴うアルブミン低下,免疫抑 制による低 γ グロブリンの合併と考えた.血清 Crypto-
coccus 抗原は陽性だが,8 倍未満で,4 月入院時の 1,024 倍と比べ,低下傾向であった.胸部レントゲン(Fig.
2)では,右中葉の無気肺増大,閉塞性肺炎を認めた.
入院後経過(Fig. 3):入院時,右中葉閉塞性肺炎
に対し,AMPC+CVA 内服に不応性であったことも
Fig. 2 Chest X-ray (7/6)
Fig. 3 *Abbreviations
AMK: amikacin, BS: bronchoscopy, CAM: clarithromycin, FLCZ: fluconazole, L-AMB: lipo- somal amphotericin B, MEPM: meropenem, PSL: prednisolone, ST: sulfamethoxazole-trime- thoprim combination
考慮し,各種培養検査提出後,メロペネム(MEPM)
0.5g×4 回! 日の投与を開始した.以降,速やかに解熱 し,炎症反応も改善傾向を認めた.原因検索のため気 管支鏡検査を再度予定していたが,入院時に提出した 喀痰より,Nocardia 様の放線菌を認め,遡って 5! 16 の喀痰でも同様の Nocardia 属が検出されていた.No- cardia は,4 ! 19 と 5 ! 9 の気管支肺胞洗浄液からは培養 されていなかったが,起炎菌である可能性が高いと考
えた.脳膿瘍合併検索のため,7! 13 に頭部造影 CT,7!
16 に頭部 MRI を施行したところ,4! 12 の頭部 MRI では認めなかった,右小脳半球に,径 7mm 大の造影 効果を伴う病変を認めた(Fig. 4A,B).脳生検は施 行しなかったが,肺炎,脳膿瘍を呈する播種性 Nocar- dia 症と臨床診断した.PcP 予防に ST 合剤を 1 錠連 日 内 服 下 に 発 症 し た こ と を 考 慮 し,初 期 治 療 は,
MEPM に加え,アミカシン(AMK)を追加,ST 合
Fig. 4 A: Head contrast-enhanced CT (7/13), B: Head MRI (7/19)
A B
Fig. 5 A: Chest CT (8/3), B: Head contrast-enhanced CT (8/6)
A B
剤は増量の方針とした.eGFR 40mL ! 分の腎機能障害 のため,ST 合剤を 3 錠分 3(トリメトプリム換算 240 mg)に増量,AMK は,ピーク値 15〜30μg! mL,ト ラフ値 5〜10μg! mL を目標に,300mg×2 回! 日で投 与したが,Cr 値上昇のため,ST 合剤を 1 錠 ! 日へ減 量した.治療開始 1 カ月時点で,いずれも病変も著明 な縮小を認めた(Fig. 5).16S ribosomal DNA 解析 より,Nocardia elegans と同定された.E-test 法で,ST 合剤,クラリスロマイシン(CAM),イミペネム! シ ラスタチン,リネゾリド(LZD)に感受性,AMPC ! CVA とミノサイクリン(MINO)に耐性を認め,加 えて,別途施行した簡易ディスク法で,ゲンタマイシ ンに感受性,シプロフロキサシンに耐性を認めた.初 期治療として,MEPM を 6 週,AMK を 4 週静注 投 与後,8! 16 より内服維持治療へ移行した.ST 合剤は
感受性を認めたが,併用が望ましいと考え,CAM を 併用した.ST 合剤は,腎機能悪化なく 3 錠分 3 まで 漸増でき,CAM は 800mg 分 2 で 継 続 と し た.2013 年 8 月までで,1 年間の維持治療を完遂し,治療経過 は良好である.
考 察
Nocardia は,主に土壌や水などに広く分布する,好
気性グラム陽性菌で放線菌目に属する.通常,環境中 の菌を吸入し肺感染症,接触により皮膚感染を発症す
る
1)〜3).免疫正常者でも発症しうるが,特にステロイ
ド内服などの免疫抑制状態での発症が多く,SLE で
の報告例も集計されている
4).Nocardia 肺炎は,慢性
経過での発症が多く,咳嗽の他,発熱,倦怠,食欲不
振等の全身症状を呈する.胸部画像は多彩だが,代表
的な胸部 CT 所見は,浸潤影,結節・腫瘤影,時に空
洞性病変などである
5).経過と画像から,真菌感染症 と鑑別を要することが多く,本例は Cryptococcus 症の 既往があり,特に問題となった.気道サンプルからの 検出は,保菌と鑑別を要し,本例では,喀痰より Nocar- dia 菌体が検出されたが,気管支肺胞洗浄液からは検 出されなかった.本例同様,閉塞性肺炎を呈し,気管 支鏡検査で原因が特定できず,喀痰より Nocardia が 検出され,診断に至った症例報告がある
6).肺外への 播種は,脳膿瘍が最も多く,大きい(径 2.5cm 以上 など)場合は,外科的なドレナージも考慮される
7).治 療は,ST 合剤が第一選択で,カルバペネム系,アミ ノグリコシド系,MINO,CAM,キノロン系,LZD 等も有効である.有効性向上と,菌種による感受性が 様々なため,特に初期治療には,抗菌薬併用療法が推 奨される.再燃のリスクが高いため数カ月の継続治療 が必要であり,免疫抑制者では,より長期の投与が考
慮される
1)〜3).ST 合剤による予防は,特に少量(3〜
4 錠! 週)では効果が乏しいとされ,標準的な予防内 服量での breakthrough 感染の報告も散見される
2)8).
Nocardia 属の中で,薬剤感受性が異なり,ST 合剤
に耐性を示す菌種もあることから,菌種同定が重要と 考えられている
2)3).一方で,ST 合剤もしくはサルファ 剤に対する,in vitro の感受性検査の解釈は困難であ り,臨床的に ST 合剤不応例は極めて稀で,ST 合剤 予防内服中の breakthrough 感染症例に対しても,ST 合剤は第一選択として用いられ,有効なことが多い
9). 本例で認められた N. elegans は,2005 年に初めて分 類学的に新菌種として記載されたが,臨床の報告例は 少なく,播種性病変の報告例は発見できなかった
10). 本例は,SLE に対してステロイド投与中に発症した 播種性ノカルジア症であり,抗菌薬併用による初期治 療と,長期の維持治療が必要と考えられた.一方で,
ST 合剤 1 錠連日内服下での発症であり,腎機能障害 合併もあり,薬剤選択に検討を要した.貴重な実例と 考え,報告する.
謝辞:Nocardia 菌種同定検査にご協力いただいた,
千葉大学真菌医学研究センター矢口貴志先生に,この
場を借りて厚く御礼申し上げます.
利益相反自己申告:自己申告すべきものなし
文 献1
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Obstructive Pneumonia and Brain Abscess Due to Nocardia elegans in a Patient with Systemic Lupus Erythematosus
Yo UEDA
1), Kei YAMAMOTO
2)3), Koji WATANABE
3), Hiroyuki YAMASHITA
1), Norio OHMAGARI
2)& Akio MIMORI
1)1)