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閉鎖性水域におけるマナマコ (Stichopus japonicus) の底質改善効果

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Academic year: 2022

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閉鎖性水域におけるマナマコ (Stichopus japonicus) の底質改善効果

徳島大学大学院 学生会員 北野倫夫 徳島大学大学院 正会員  倉田健悟 徳島大学大学院 正会員  上月康則 大阪府立大学  正会員  大塚耕司 徳島大学大学院 フェロー 村上仁士

1. はじめに 近年、大都市周辺の内湾性海域では陸域からの過大な負荷によって富栄養化が進み、自然の浄化 機能を超えた水質の悪化が起きている。人工的な水質改善方法として、海水交換を促進する構造物の建設や陸 域からの排水規制などが行われているが、現在のところ有効な解決策とはなっていない。内湾などの閉鎖的な 海域環境の水質を決定づける重要な要因として、有機汚濁の著しい堆積物からの栄養塩の溶出や、堆積物の酸 素消費による底層水の貧酸素化が挙げられ、これらの要因が海域全体の水質を悪化させていると言える。した がって、海域環境の改善にあたっては水質のみならず、底質環境をも視野に入れた総合的な対策が必要である。

 有機汚濁の進んだ底質に対しては、本来自然が有していた物質循環機能を取り戻すことにより、海洋生態系 の持つ自浄作用で底質環境の改善を促進させる方法が有効である可能性がある。そこで、本研究では底生動物 を利用した底質改善手法の開発を目指すため、堆積物における物質循環機能に関わる底生動物としてマナマコ

(Stichopus japonicus) に着目した。マナマコは日本各地の内湾で普通に見られ、堆積物の表層を摂食する。この

動物の摂食活動に伴う効果を調べるため、2 ヶ所の海域において野外実験を行った。

2. 方法 徳島県小松島港と大阪府泉佐野市のりんくう公園内海の 2 ヶ所において野外実験を行った。小松島港 の防波堤の内側に設置されている「海水浄化プラント」は海水の出入りが制限されているため内部は閉鎖的な 水環境であり、りんくう公園は大阪湾から石積み防波堤によって区切られた内海で、海水交換は導水管と礫の 間を通して行われる。河口干潟で採取した堆積物を 1 mm の篩で篩って大型底生動物を取り除いた後、-21˚C で 冷凍したものをプラスチック製コンテナ(35×45×30 cm)に約 8 kg 入れた。小松島港では徳島県鳴門海岸で採 集したマナマコを加えたコンテナ 3 個と堆積物のみのコンテナ 3 個を用意し、海水浄化プラントの底層部に沈 めた。りんくう公園内海では神戸市垂水海岸で採集したマナマコを加えたコンテナ 4 個と堆積物のみのコンテ ナ 4 個を内海の中央部付近に設置したアングルに固定した。小松島港では 1 週間に 1 回の頻度で、りんくう公 園内海では 1 ヶ月に 1 回の頻度でそれぞれコンテナから堆積物の表層を採取し、ナマコの湿重量の測定を行っ た。実験開始から 84 日目に小松島港のコンテナを全て引き上げ、シリンジで深さ 3.5 cm までの堆積物を柱状に 採取した。また、りんくう公園内海では実験開始から 90 日目にナマコ有り無しのコンテナを 1 個ずつ引き上げ、

シリンジで深さ 2 cm までの堆積物を柱状に採取した。採取した堆積物のサンプルは、深さごとの ORP(酸化還 元電位)を測定した後に実験室に持ち帰り、深さごとの AVS(酸揮発性硫化物)、TOC(全有機炭素)、TN-

(全窒素)の濃度を測定した。

3. 結果 小松島港のコンテナに入れた堆積物の初期値は、AVS 濃度 0.09 mg /dry g、TOC 濃度 4.0 mg/dry g、TN

濃度 0.47 mg/dry g であった。一方、りんくう公園内海のコンテナに入れた堆積物の初期値は、AVS 濃度 0.09

mg /dry g であった。

キーワード:閉鎖性水域、底泥環境、環境浄化技術、ナマコ、底生動物

連絡先:770-8506 徳島市南常三島町2-1 徳島大学大学院工学研究科エコシステム工学専攻

TEL 088-656-7337 FAX 088-656-7335

  土木学会第55回年次学術講演会(平成12年9月) CS-14 

(2)

3.1 小松島港  コンテナを設置してから 84 日目に採取した堆積物について、深さごとに測定を行ったところ、

次のような結果が得られた。(1) ORP は 1 cm より深い場所では -100 mV 以下の還元的な状態であったが、表層 および深さ 0.5 cm ではナマコを入れたコンテナの方がナマコを入れなかったコンテナより有意に高く、堆積物 の表層付近が酸化的な状態になっていた(図1)。(2) ナマコを入れたコンテナとナマコを入れなかったコンテ ナの両方において、AVS 濃度は堆積物の深さが深くなるにしたがって上昇する傾向が見られた。ナマコを入れ たコンテナでは深さ 0〜2 cm の AVS 濃度は 0.03〜0.07 mg/dry g となり、ナマコを入れなかったコンテナの AVS

濃度(0.13 mg/dry g)に比べて著しく低く、ナマコの摂食活動によって AVS 濃度の増加が抑制されたと考えら

れる(図2)。(3) TOC 濃度と TN 濃度は深さによって異なる傾向は見られなかったが、ナマコを入れたコンテ

ナではナマコを入れなかったコンテナより低い値を示した(図3、図4)。

3.2 りんくう公園内海  コンテナを設置してから 90 日目に採取した堆積物について、深さごとに測定を行っ たところ、次のような結果が得られた。(1) ORP は 0.5 cm より深い場所では -100 mV 以下の還元的な状態であっ たが、表層から深さ 0.5 cm まではおよそ 100 mV で酸化的な状態になっていた(図5)。また、ナマコを入れた コンテナの ORP はナマコを入れなかったコンテナより有意に高かった。(2) AVS 濃度は堆積物の深さが深くな るにしたがって上昇する傾向が見られ、ナマコを入れたコンテナの深さ 0〜2 cm の AVS 濃度は 0.03〜0.06 mg/dry g であるのに対して、ナマコを入れなかったコンテナの AVS 濃度は 0.05〜0.11 mg/dry g であった。ナマ コの摂食活動によって深さ 0〜2 cm の AVS 濃度は減少したと考えられる(図6)。

4. 考察 2 ヶ所の海域で行った野外実験の結果、いずれの実験系においてもナマコの存在の有無によって堆積 物の性状が異なった。ナマコを入れたコンテナでは堆積物の表層から 2 cm くらいまでの深さで ORP や AVS 濃 度に有意な違いが見られ、深さ方向の分布パターンは類似していた。実験に用いたコンテナには蓋をしていた ものの、海水交換用の側面の穴から懸濁物質が進入し、コンテナ内の堆積物の上に沈降・堆積する。マナマコ は沈降懸濁物や堆積物の表層を摂食し、糞を排泄することで堆積物の性状を改変したと考えられる。ORP や AVS 濃度は閉鎖性水域における底質の状態を最も端的に表す指標であり、ナマコの生息によってこれらの値に 改善もしくは悪化の抑制が見られたことは、本研究のマナマコを利用した底質改善手法が閉鎖性水域において 有効であることを示唆している。

 本研究の一部は文部省科学研究費補助金;複数の生物種の機能を活用した海水浄化手法の開発(代表:村上 仁士、課題番号:10558094)の補助、およびエコポート研究会(運輸省)の支援を受けて行われた。

0 0.05 0.1 0.15 0.2 AVS (mg/g)

0 1 2 3 4 5

深さ (cm)

図2 酸揮発性硫化物濃度(小松島)

ナマコ有り

ナマコ無し (Mean±SE) -200 -100 0 100 200

ORP (mV) 0

1 2 3 4 5

深さ (cm)

図1 酸化還元電位(小松島)

ナマコ有り ナマコ無し (Mean±SE)

2 3 4 5 6

TOC (mg/g) 0

1 2 3 4 5

深さ (cm)

図3 全有機炭素濃度(小松島)

(Mean±SE) ナマコ有り

ナマコ無し

0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 TN (mg/g)

0 1 2 3 4 5

深さ (cm)

図4 全窒素濃度(小松島)

(Mean±SE) ナマコ有り

ナマコ無し

-200 -100 0 100 200 ORP (mV)

0 1 2 3 4 5

深さ (cm)

図5 酸化還元電位(りんくう)

ナマコ有り ナマコ無し

(Mean±SE)

0 0.05 0.1 0.15 0.2 AVS (mg/g)

0 1 2 3 4 5

深さ (cm)

図6 酸揮発性硫化物濃度(りんくう)

ナマコ有り

ナマコ無し (Mean±SE)

  土木学会第55回年次学術講演会(平成12年9月) CS-14 

参照

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