Change Blindness における変化の自覚を生む要因
を探る
著者
岩崎 祥一
Chang_e/BJ indne,ssにおける_
変化の自覚を生む要圏を探る
/ / (課題番号14510090 )平即今rl_埜度科学研究補助金(基盤研究(C) (2) )
6i成果報告書
/ 平成16年3月新梱紹・銅材-如掴囲働賦物納・4%
研究組織
研究代表者 岩崎祥一(東北大学大学院情報科学研究科学教授)
研究経費
平成14年度 500千円 平成15年度 600千円合計
1,100千円第1章 ChangeBlindnessとは 人間は、外界を知覚するため常に目を動かしている。この目の動きは、いわ ゆるキョロキョロした目の動きであり、サッケ-ドと呼ばれている。人間の目 が常にサッケ-ドにより視野内のいろいろな部位に向けられているのは、網膜 の特性に依存した現象である。網膜は、黄斑部と呼ばれている錐体細胞が密集 した視力のよい部位が、たかだか視角にして数度以内の狭い範囲に.しかない. この部位を中心に、周辺にいくに従い急激に視力が低下する。 そうした網膜の持つ特性を補うために我々は常に目を見たいものに向ける必 要がある。こうした目の動きは内的には注意の働きと結ぶついている。実験室 では、通常凝視点を与え、被験者にこれを見て目を動かさないように教示する ので、注意の移動と目の動きとが分離して扱われているが、日常生活では両者 は通常、一体となって制御されているo 我々が外界の様々な対象を知覚することができるのためには、このような注 意の働きが重要である。たとえば、人混みに友人を捜す場合(視覚探索と呼ば れている)には、人がいる範囲を人から人-と目を移動させ、友人が見つかる まで逐次調べていく。その際、目を動かすたびに外界が変化するとは感じてい ない。外界は、安定してそこにあるように知覚されている。しかし、よく考え てみると、目を動かすたびに少しずつ違った外界の姿が網膜に投影されている はずである。しかし、我々はいちいちそんなことに気がつかず、あたかも同じ 外界がみえているかのように感じている。 こうした日常経験からも明らかなように、我々が主観的に体験する世界の様 子と、実際に目に入力される情報とは同じではない。我々が「見えている」と 感じている状態は、実際に「見えている」こととは違っているのである。 このことを最も劇的に実証しているのが、 Change Blindness現象である(こ の現象の詳細についてはRensink, 2002を参照) 。 Change Blindnessとは、次
のような実験事態で最も明瞭に経験できる。被験者に自然の光景のような複雑 な構造を持った刺激を繰り返し提示する。その時、繰り返し提示される光景の 一部を途中で変化させる。サッケ-ド中の情報の遮断(succadic suppression) を模擬するために、個々の光景の提示はブランク画面を挿入して分断される。 つまり、被験者はフリッカーを伴って繰り返して提示される光景を見ることに なる。被験者には、繰り返される光景の一部に変化が起こるので、そうした変 化が起こったかどうかあるいはどこにどのような変化が起こったかを答えるよ うにと指示される。 change Blindness現象が多くの研究者(及びこのデモを見た一般の人)を惹 き付けるのは、光景の一部に加えられた変化が、その変化の場所を知っている 人には顕著な(容易に気がつくと思われる)ものであっても、気がつくまでは
全く何の変化の印象も生まないという点である。被験者は、気がついて初めて それまでなぜそのような明瞭は変化を見逃していたのだろうか、といぶかるこ とになる。 この現象から、我々が見ている世界が-様な明瞭度で「見えている」という 印象は、一種の幻想であることが分かる。実際にはっきり「見えている」の は、現に注意を向けている部位の周辺だけで、後は「見えている」といっても その見え方は、注意を向けた部位のそれとは違っている可能性が高い。 このことは、我々の「見え」の世界が一様ではなく、注意に依存して異なる 2種類の「見え」から構成されていることを示唆している。 1つは、細部まで 明瞭であり、かつそれが何であり、どのような特徴を持つのかなどを含む詳細 な「見え」であり、これは注意を向けた対象でのみ成立する。これに対し、も う1つの「見え」は、視野全体を含む注意に依存しない「見え」であり、この 「見え」では細部の情報や個々の対象物が何であるかは、自覚されていない。 ただ、光景が何を意味しているのか(gist)は自覚可能である。また、おそらく は潜在的な形(自覚は伴わない)で、複数の対象の数や配置も知覚していると 思われる。 Change Bl indnessと注意 変化の検出と注意が深く関連していることは、様々な研究から指摘されてい
る。たとえば、 Rensink, 0'Regan, & Clark (2000)は、光景を構成する要素の
うち、その意味と密接に関連する主たる構成要素に変化が起こると、光景の意 味にとってあまり関係のない構成要素に変化が起こった場合に比べ、より変化 に気がつきやすいことを兄いだしている。 光景のような複雑な刺激を見ている被験者は、目をあちこち動かして光景の 意味を細部まで読み取ろうとしている。 Change Blindness実験の被験者も、同 様に光景を見ている時には目を動かして変化の検出を試みている。こうした状 態で、目(注意)がたまたま変化の起こっている部位に向いたとすると、滞留 時間が(変化の前後を含むほど)十分長いと、注意がたまたま変化した場所に 向いていたことで変化に気がつくことになる。この場合には、注意は偶然に変 化の生じている領域に向いたということになる。 さらに、 Change Blindnessでは、局所的に変化が起こってもその変化に伴う 信号が注意をその場所に引き付けないように、変化の前後の光景を提示する時 にブランク画面を挿入している。これにより、変化後の光景提示と局所的に加 えられた変化が生む信号が同時に起こり、全体的な光景の提示(global onset) により局所的な変化がマスクされることになる。このため、注意が変化部位に 補足されにくくなっている。しかし、注意の補足は、完全には抑制されていな いと考えられるため、弱い注意補足信号により注意が捕捉され、変化に気がつ
くことになることも考えられる。 以上のことをまとめると、変化の検出が注意により促進される場合には、 3 つがあることが考えられる。 1つは、光景の持つ意味(gist)により注意が主た る構成要素に導かれたことにより変化に気がつく場合であり、 2つ目は、光景 を能動的な注意移動により観察していた被験者がたまたま変化が生じている場 所に目が向いたことで変化に気がつく場合であり、 3つ目が、光景全体から生 ずる変化の信号により局所的な変化の信号が完全にマスクされないために弱い 変化の信号で注意が変化の起こった場所に誘導される場合である。 この研究では、注意の捕捉と変化検出の関係に焦点を当てた実験を行ってい る。次章で述べるように、従来からの空間的注意研究では、注意を捕捉する刺
激の物理的特性として、 1)刺激変化(onset, offset, movementなど)による注
意の捕捉と、 2)視覚探索実験で知られているような、他の刺激要素と特徴を異
にする刺激要素(singletonと呼ばれている)による注意の捕捉(緑の○の中 に1つだけ赤い○があるような場合) -これは、 parallel searchとして知ら
れている妨害刺激の数に依存しない探索関数を与える刺激布置-で、この時の
捕捉を促す刺激特徴はpop-outと呼ばれている。
典型的なchange Blindness事態では、風景写真(日常的な光景; natural
scene)がしばしば用いられる。こうした刺激布置には通常複数の対象が含まれ ており、かつそれらはそれぞれ複数の色を持っており、背景とも色及び明るさ により区別されている。こうした刺激布置では、通常他の構成要素から飛び離 れた特徴を持つユニークな構成要素がなく、また変化の結果もそうしたユニー クな特徴を持たないので、上記2)のタイプの注意の捕捉は起こらない。従っ て、もっぱら1)のような刺激変化による注意の捕捉が問題になる。 研究目的 この研究の目的は、 Change Blindness事態で変化の気づきを生む要因の1つ である、変化による注意の捕捉が、神経系で変化(stimulus transiency)を伝 えていると考えられているMagnocellular系の神経により担われているという 仮説を検討することにある。 網膜からの信号伝達系は、網膜の神経節細胞レベルでの神経生理学的な研究 に基づき、伝える信号のタイプにより役割分担があることが知られている。こ れらは、通常3つに分類されており、 X, Y, W細胞と呼ばれている。このう ち、 W細胞は、主として上丘に投射しており、高次の行動にはあまり重要では ない。残りのⅩ細胞とY細胞は、それぞれsustainedとtransientチャンネルとも 呼ばれており、高い空間分解能と相対的に低い時間分解能を持つX細胞とその 逆に低い空間分解能と高い時間分解能を持つY細胞からなっている。 これらの網膜の神経節での機能的分類に基づく呼び方は、視神経が外側膝状
体に至ると、そこでの細胞の形状の違いにより、 X細胞はparvocellular神経、 Y細胞はmagnocellular細胞と呼ばれるようになる。最近では、大脳皮質での視 覚情報処理との関連もあって、後者の呼び方がもっぱら使われている。ここで も、 2つの視覚情報処理系を表す言葉として、外側膝状体由来の機能的な分類 名であるparvocelllar細胞(Parvo系と略称する)及びmagnocellular細胞 (Mango系と略称する)を用いることにする。 この2つの機能的に異なる信号処理系のうち、 Magno系は、時間分解能に優 れており、変化に強く反応するので、生理学的には変化を検出する役割を担っ ていると考えられている。さらに、大脳皮質ではMagno系は、主として頭頂葉 に信号を送っていることも知られている。頭頂葉は、空間的注意の制御に密接 に関係する視覚処理系の一部をになっており、変化による注意の捕捉に関して もMagno系が重要であることが推測される。 ところで、行動的な実験からMagno系は赤い色により抑制されることが、 Breitmeyerらのグループ(Breitmeyer and Breier, 1994; Breitmeyer and
Williams, 1990; Williams, Breitmeyer, Lovegrove, & Gutierrez, 1991)に
より指摘されている。彼らは、メタコントラストや仮現運動の印象が、赤を背 景とした刺激布置ではそれと等輝度の緑を背景とした場合に比べ、主観的に弱 くなること、また、輝度変化(特に輝度増加)の検出反応時間が赤背景では緑 背景に比べ遅れることを兄いだした。この結果を、彼らは、網膜の神経節細胞 や外側膝状体での神経生理学的研究で得られた知見と結びつけて、 Magno系の 出力は周辺部に赤い色があると抑制されることにより、 Magno系が重要な働き をしているこうした行動に影響が出るものと解釈している。 この赤背景によるMagno系抑制仮説に基づき、本研究ではChange Blindness での変化の検出にもMagno系が重要な働きをしていると考え、その効果を調べ ることにした。 仮説 ここで検証したい仮説としては、変化に対する神経符号は、 Magno系が担っ ているとする点である。もし、この仮説が正しいとすると、赤背景での変化の 検出は、この背景色がMagno系の働きを抑制することで、通常のchange blindness事態よりも変化に対する信号がさらに弱くなることで、通常の change blindness事態よりも一層注意の捕捉を起こしにくくなり、検出により 時間がかかるであろうと予想する。 以下の実験(第4章参照)では、この点を人工的なchange blindness事態で 確かめた。その結果、赤背景は予想通りに変化の検出を遅らせることが兄いだ された。
引用文献
Breitmeyer, B・G・and Breier, J.I. (1994) Effects of background color on reaction time to
stimuli varylng ln Sizeand contrast: inferences about hmanM clmels., 22iiQZ!
Research, 34, 1039-1045.
Breitmeyer, B・G・and WilliamS, M.C. (1 990) EffTects of isoluminant-background color on
I
metacontrastand stroboscopic motion: Interactions between sustaided (P)and transient (M) channels., Vision Research. 30, 1069-1075.
Rensink, RA. (2002) Change detection., Annual Review ofPsvchologv, 53, 245-277.
Rensink RA; OReganJK; Clark JJ. (2000) Onthe failu托tO detect changesinscenes
across brief interruptions.,msual Comition, 7, 127-145.
Williams, M・C・, Breitmeyer, B.G., Lovegrove, W.J., & Guitierrez, C. (1991)
Metacontrastwithmasks varying in spatialfrequencyand wavelength.,也
第2章 注意の捕捉研究のレビュー
ここでは、注意の補足に関し周辺手掛提示を用いた空間的注意の実験や視覚 探索実験でこれまで得られた成果を概括している(岩崎&大原, 2003によ る) 。 1 注意の捕捉とは 注意の機能は、環境中から個体にとって最も必要とされる情報を麺択するこ とである。我々の感覚器官には常時多くの情報が降り注いでいる。しかし、 我々の持つ処理資源が有限であるばかりでなく、情報の多くは個体にとって特 に必要でもなく有用でもない。従って、我々は当面する課題に必要な情報だけ を選択することで処理の負荷を減らし、少ない処理資源をうまく使って環境に 適応して生き延びることができる。 個体が当面する課題に必要な情報が何であるかは、多くの場合既知である。 しかし、環境中には潜在的な危険や有用な情報もある。そうした情報は、あら かじめどこにあるか、あるいはいつ生ずるかを予測することはできない。こと が起こってから初めてそれがそこにあることが分かる。しかも、何があるのか は与えられた情報を処理してみないことには分からない。ここに一種のジレン マがある。情報を処理の早い段階で切り捨てれば、処理システムに対する負荷 は小さくてすむ。しかし、想定されない場所と時間で重要な情報が生じていて も見逃してしまう。だからといって何もかも処理すると、今度は処理システム が必要ない情報の処理に忙殺され、肝心なことを処理し損なうことになる。 どこまで処理すべきなのかは、処理系の容量にも依存する。一例を挙げる と、カエルは網膜にハエを検出する細胞を持っているという(Lettvin,Maturana, pitts,&McCuloch, 1961).これは、小さな凸状の形に反応し、カエルに補食行動 を起こさせる。しかし、この細胞が働くためにはハエは動いていないといけな い。カエルは死んだハエを捕まえることができない。これは、情報を早い段階 で取捨選択することにはメリットとデメリットがあることを示している。メリ ットは、後段の処理が楽になることであり、デメリットは、潜在的に有用な情 報が捨てられることである。カエルと異なり巨大な脳を持つ我々人間にとっ て、潜在的に重要な情報を見逃すことのデメリットは、処理の負荷を減らすこ とのメリットよりも大きいと考えられる。従って、選択は、必然的に処理の後 の段階で起こるべきだということになる。 かつて、注意の研究では、早期選択説と後期選択説の間で活発な論争が行わ れた。この論争は、最初、両耳分離聴実験の結果に基づき提案された早期選択 読(Broadbent, 1958)に対し、この説に合わない実験結果が数多く見出されたこと 1この章は、岩崎 &大原(2003,心理学評論, 46, 462-481)を基にしている。で、次第に後期選択説(De山sch an4Deutsch, 1963)に傾いていったという経過を
たどった。しかし、最終的に明確な結論に至らないまま、論争は次第に下火と
なっていった(Lambert, 1985)。そめ背景には、 1980年代以降、注意の神経科学
的研究(Desimone, Wessinger, 皮 Thohas, 1990)が盛んになったことがあるoこう した研究及びその後の認知神経科学的研究(Behrmann,and Haimson, 1999; Nobre,
sebestyen, Gitelman, Mesulam, Frackdwiak, & Frith, 1997)により、注意の影響が視
覚情報処理の早い段階から見られるという直接的証拠が次第に明確になってき た。このことは、早期選択説の復権を意味すると一般には解釈されているかも 知れないが、必ずしもそう考える必要はないというのが我々の意見である。 早期選択説で、最初に出されたアイデアは、 Broadbentのフィルターという考 え方である。この考え方では、選ばれなかった情報は、完全に以後の処理段階 からはシャットアウトされてしまうとされた。これに対し、 Treisman(Treisman, 1969)は、情報は完全に遮断されるのではなく、減衰されるのだとした。減衰さ れるのであれば、注意が働く段階以降の処理に選択されなかった情報の影響が 見られたとしてもおかしくない。 神経科学の研究から明らかなように、注意は早期から処理に介入している。 しかし、早まって有用な情報を捨ててしまわないように、相対的にハンディを つけた形で選択されなかった情報も後期の処理段階まで処理が進められている (Desimone andDWlCan, 1995)。こうすることで潜在的に有用な情報を見逃さずに 同時に過度の処理資源-の負荷を防ぐことを可能にしている。 こうした処理のあり方から、注意(ここでは空間的な選択の機能に限定して 注意の働きを考えている)が駆動されるモードには二種類があることが導かれ る。 1つは、我々の内部で当面する課題に関連した情報を選択しようとする能 動的注意の切り替えであり、もう1つは、外界に生じた有用な情報それ自体が 注意を強制的に惹きつけるというモードである。後者は、注意の捕捉 (attentionalcapture)と呼ばれているよ この論評では、この注意の強制的な捕捉の 問題を取り上げる。 実験室での空間的注意研究には大きく分けて2つのパラダイムがある。 1つ は、 Posnerにより考案された損益分析法による空間的注意研究(posner, 1978, 1980)であり、もう1つが、 Treismanのグループが精力的に追求した視覚探索課 題を用いた研究(Treisman, 1985, 1988)であるo これらの方法を用いた研究では、能動的注意と自動的注意に関わる数多くの 問題が追求されてきているが、注意の捕捉に関しては、 Posnerのパラダイムで は、手掛がターゲットの提示位置に関して情報を与えない時に注意の効果がど
うなるかという問題が検討されている。 視覚探索実験を用いた研究では、複数の刺激のうち、 1つだけが異なる特徴 を持つ場合(単一要素(singleton)と呼ばれる)に、探索が妨害刺激の数に依存し ない並行探索となることが知られている。この場合、ターゲットの位置は前注 意的処理により自動的に検出され、注意がその部位に優先的に向けられる(捕 捉される)ことで、妨害刺激の数に依存しない探索時間が得られると考えられ I ている(Wolfe, J.M., 1994)。 さらに、最近、こうしたいわゆる前注意的処理による注意の制御とは異な り、特定の形態情報が注意を強制的に捕捉することが知られるようになってき た。そうした情報としては、視線の方向と感情価を持つ刺激がある。視線に関 して言えば、我々の注意は面と向かった人の目がどちらを見ているかで、我知 らず影響されることが最近の研究から明らかになってきている。また、感情価 の注意-の影響を見た実験では、表情(特に怒りの表情)や(主として)嫌悪 刺激が強制的に注意を惹きつけたり、注意資源を奪ったりすることが確かめら れている。 こうした実験で得られた知見は、形態処理を経た結果が注意を強制的に惹き つけることを示唆している点に意味がある。つまり、前注意的でない注意の前 注意的(言葉が矛盾しているが、前注意的という言葉が処理の早い段階と注意 が作用する以前という二重の意味を持つ2とすると)こう言わざるを得ない)捕 捉が起こりうることを示している。 以下では、この4種類の注意の強制的な捕捉事態について、それぞれどのよ うな研究が行われ、そこからどのような知見が得られているかを順に紹介して いきたい。 Ⅰ.刺激変化による注意の捕捉 1.周辺手掛による空間的注意実験 注意を向けるべき位置に予め手掛となる刺激を提示することで処理が促進さ れることは、すでに1970年代にEriksenのグループ(Eriksenand Hofhan, 1972; 2前注意的という言葉は、一般に処理の早い段階(網膜依存のマップを持ち、個々の特徴 が個別に処理されており、そうした結果に基づきそれ以降の段階で刺激のまとまり(object) が形成される)を指すと考えられている(cf.TreismanandGormiCan, 1988)o この段階は、注 意が処理に介入する以前の段階だとされており、そのため「前注意的」という言い方で呼 ばれている。この段階では、対象が何であるかについての処理(形態処理)は完了してい ない。
EriksenandJames, 1986)などにより実証されていた。この空間的手掛提示法を改 良し、ターゲットの出現位置をたかだか数カ所に限定した比較的単純な刺激布 置を用い、注意を向けなかった場合と向けた場合とで処理効率にどのような違 いが出るかを別個に検討できるようにしたのが、 posner(1978, 1980)であるQ 彼は、手掛を提示した場所にターゲット刺激が提示される条件(有効条件) とそれ以外の部位(通常は凝視点を挟んで視野の反対側)にターゲットが提示 I される条件(無効条件)を、中立条件(両方ともに手掛を提示するなどしてタ ーゲットの提示位置に関し情報を与えない)と比較することで、注意の利得と 損失を別個に検討できるように工夫した。これは、損益分析法(cost-bene丘t analysis)と呼ばれている. このタイプの実験では、手掛を与えるやり方として、周辺手掛と中心手掛が 用いられている。周辺手掛では、ターゲットの近傍で刺激の変化(通常は輝度 が増すか手掛を何もないところに提示することが多いが、逆に輝度の減少や手 掛の消失も用いられることがある)を起こし、これにより注意を誘導する。こ れに対し、中心手掛では、矢印のような指示的な記号を凝視点付近に提示し、 これにより注意を誘導する。 周辺手掛では、手掛がたとえ有効ではなくとも、手掛が提示された場所にタ ーゲットが出た場合の方が、それ以外の場所にターゲットが提示された場合に 比べ反応成績が向上する。これに対し、中心手掛では、手掛が有効でないと手 掛による注意の誘導は起こらないことが知られており(Jonides, 1981)、この場合 の注意の制御は内的(endogenous)あるいは能動的だとされている.従って、注 意の捕捉に関わるのは、主として周辺手掛である。 周辺手掛では、手掛が提示されてからターゲットが出現するまでの時間
(stimulus onsetasynchrony : SOAと呼ばれる)が短い場合には、上記のような手
掛による反応成績の向上が見られるが、 SOAが200msを越えたあたりから、有
効条件と無効条件の成績が逆転する。この現象は、復帰の抑制(Ⅰ血ibitionor
Remm)として知られている(Posner and Cohen, 1984)0
こうした手掛刺激による反応成績の変化は、一般に注意の働きによると考え られている。最初周辺手掛により成績が向上するのは、突然の輝度変化などに より注意がターゲットのある場所に自動的に惹きつけられるためだとされてい る。さらに、 SOAが200ms以降に逆に手掛が提示されなかった部位の方が成績 が良くなるのは、一度注意が向いた場所には注意が向きにくくなるため、ター ゲットが提示されたときに新しい場所(手掛が提示されなかった場所)の方が 注意が向けられやすくなるからだと考えられている。 周辺手掛による注意の促進的効果とそれに続く抑制的効果は、数多くの実験
により確認されており、頑健な効果であると考えられている。しかし、全く異 論がない訳ではない。その一つは、 SOAが短い条件で促進効果が得られないと
する研究である(Tassinari, Aglioti, Chelazzi, Peru, & Berlucchi, 1994)。 Tassinariら
は、 2個あるいは4個の枠を凝視点の左右均等な位置に配し、その枠の太さを 一瞬変化させることで見かけの輝度変化を起こし、これによる注意の捕捉効果 をターゲットに対する検出反応時間により調べた。その結果、手掛は一貫して l 抑制的な影響しかもたらさなかった。これに基づき、彼らは、周辺阜掛による 促進効果とされているものは、手掛とターゲットの間の感覚加重(sensory summmation)によるものだと主張している。しかし、 Tassinariらの実験を追試し
たBergerらの研究(Berger, Dori, 皮 Henik, 1999)では、他の多くの研究(Lambert,
Spencer, 皮 Mohin血a, 1987; Posner and Cohen, 1984)と同様に、促進効果とSOAが
250ms以降の抑制効果を得ている。イタリアの研究者達は、 SOAが短い場合の onsetによる注意の捕捉効果に関して懐疑的であるようだ(Riggio, Bello, 皮 Umilta,
1998)が、一般には、 onsetやoffsetなどの突然の変化は注意を自動的に捕捉し、 その結果として検出反応時間の促進が得られると考えられている。 周辺手掛による効果は、注意による処理の促進の結果ではなく基準の変化で あるとする解釈もある。特に検出反応時間を指標として用いることが多い空間 的注意実験では、手掛とターゲットの時間感覚が短い場合、手掛の提示をター ゲットの提示から分離して知覚することが難しくなり、被験者はターゲットに 反応するつもりで手掛により反応過程をスタートさせている可能性がある。実 際、 Iwasaki(1986)は、凝視点に数字を提示し、これに対する検出反応あるいは 同定反応課題を被験者に課した実験を行っている。検出課題では、ターゲット の提示直前(100ms前)にそのすぐ脇に無関連な刺激を提示した場合、検出反応 時間が、離れた位置に無関連刺激が提示された場合及び無関連刺激の提示が同 時あるいは100ms遅れた場合に比べ早くなるという結果を得た。しかし、 Iwasakiは、これを手掛による促進効果ではなく、無関連刺激による反応の誘発 であると解釈した。 こう解釈した根拠は、 1)注意は最初から能動的にターゲットが提示される唯 一の部位である凝視点に向けられており、空間的注意実験のように周辺に移動 する必要がないこと、 2)被験者の課題が検出反応から数字の偶数奇数を判断す る同定課題に変わった時には、促進効果が得られなかったためである0 こうした結果を考慮すると、我々は、手掛とターゲットの時間間隔が短い場 合に検出課題でどのような条件で促進効果が得られるのか、また得られた促進 効果が注意によると言えるのかに関しては、さらに検討が必要であると考えて
いるo この点に関し、最近、 pratt,Hillis,&Gold(2001)も、手掛とターゲットの形 態的類似性を操作した実験を行い、 SOAが短い場合の促進効果は、不安定であ り、注意がどこに向けられたかを知る指標としては、復帰の抑制の方が一貫性 が高くてベターだとしている。 2.視覚探索実験での注意の捕捉 l ターゲットが同時に提示された複数の刺激の中に含まれている場合(視覚探 索事態と呼ぶ)でも突然の変化が注意を自動的にターゲットのある部位に誘導 することで反応を促進したり、妨害刺激の数に依存しない反応時間(いわゆる 並行探索)をもたらしたりすることが知られている。 突然のonsetが自動的に注意を惹きつけることを実証する実験は、当初視覚系 における早期警戒システムを担っている(Breitmeyerand GanZ, 1976)とされる transient chamelの役割を検討するためにToddとVanGelderにより行われた(Todd andVanGelder, 1979)。彼らは、突然のonsetを伴わない刺激提示方法として、予 め刺激を構成する全ての要素を提示し、その内のいくつかを消去することで特 定の刺激が現れるようにした。最初の3つの実験では、 onsetなし条件では、凝 視点の両脇に十を提示し、そのうちの1つだけを残しそれ以外を消すことでタ ーゲットを提示し、これに対するサッケ-ド反応の潜時を測定した。実験4と 5では、最初刺激を構成する要素線分を全部提示し、そのうちいくつかを消去 することで特定のパターンを提示し(例えば、電卓で用いられているような7 セグメントの数字表示用パターンの全てを提示し、そのうちいくつかを消すこ とで特定の数字となるようにする) 、その弁別反応時間を測定した。 この方法により、突然のonsetなしで刺激を提示すると、 onsetを伴う提示に比 べ、全体として反応時間が増大しただけでなく、凝視点からの距離により強く 依存する結果となった。このことは、ターゲットの提示に際して起こるonsetが 注意を自動的にターゲットの位置に惹きつけることで反応の促進を生ずると解 釈された。 このonsetを伴わないターゲット提示法を用いて、 YantisとJonides(1984)は、視 覚探索事態でターゲットが突然のonsetを伴わない場合に提示刺激数に依存した 探索時間(直列探索)となるのに対し、 onsetを伴った提示では刺激の数に依存 しない探索時間が得られることを示した。さらに彼らは、こうした結果が注意 によることを、予め注意を能動的にターゲット位置に向けておける条件では onsetを伴う刺激提示は伴わない場合に比べ成績に差が出ないことで実証した。 さらにその後の実験(JonidesandYantis, 1988)で、彼らは注意を自動的に捕捉
する効果はonsetでは得られるが、 1つだけ明るさや色が違う(単一要素)刺激を
混ぜても得られないことも示し、注意の自動的制御にとって特にonsetが重要で
あるとした(ただし、等輝度刺激であっても注意を捕捉しうることが、その後
の視覚探索実験(Yantisand Hillstrom 1994; 、Gellatly, Cole, & Blu加n, 1999)で確認さ
れている。次の節も参照のこと) 。これに続く実験(YantisandJonies, 1990)によ り、彼らはonsetによる注意の自動的捕捉が、どこに注意を能動的に向けている かにも依存することを明らかにし、これが完全に自動的な過程だとは言えない とした(同様の結果は、 Theeuwes, 1991も得ている). Yantisは、 onsetのような刺激変化が注意を捕捉するのではなく(onsetを伴っ て)新しい対象が出現したこと(newobject)が注意を挿捉する必要条件であると
している(Hillstrom and Yantis, 1994; Yantis, 1993)が、この点に関しては異論
(Gellatly, Cole, 皮 BIwton, 1999)もある.
以上をまとめると、一般に空間的注意では注意すべき位置を知る手掛として 突然の変化が有効に機能し、これにより注意が変化の起こった位置に自動的に 移動すると考えられている。しかし、能動的な関与がどこまで及ぶのかあるい は変化そのものが重要なのかそれとも新しい対象が出現することが重要なのか など、注意の制御に関する細部の条件に関しては議論が分かれている。 Ⅱ.単一要素による注意の捕捉 視覚探索事態では、一般に複数の刺激が一度に提示され、その中に予め指定 されたターゲットがあるかないかを被験者に判断させ、それに要した時間を指 標にした分析が行われることが多い。こうした事態で、ターゲットがユニーク な特徴により妨害刺激から弁別できる場合(単一要素)には、ターゲットは「目 に飛び込んでbop-out)」くるので、ターゲット検出までの時間は通常刺激の数 に依存せず一定であり、探索結果は、いわゆる並行探索(最近は特徴探索と呼 ばれることが多い)となる(TreismanandGormican, 1988; Wolfe, 1994). ここでは、視覚探索場面で注意の捕捉を示唆する実験として、 1)空間的注意 実験と同じくターゲットと単一要素の位置に関連がなく、両者は偶然の確率で しか一致しない事態での処理の促進の有無を検討した研究、 2)ターゲットでは なく、妨害刺激中にポップアウトするような刺激がある場合に探索が妨害され ることを示すことで自動的な注意の捕捉を実証しようとする実験を紹介する。 1.単一要素による自動的注意の捕捉 既に述べたように、刺激の変化が自動的に注意を惹きつけることは、 Posner
が考案した空間的注意実験で明確に実証されているが、並行探索が得られる単 一要素でも、 onsetやoffsetのような自動的な注意の捕捉が起きるだろうか。 この問いに対する答は、 「自動的」という言葉が何を意味すると考えるかに もよるo 「自動的」ということの基準として、 YantisandJonides(1990)は、 1)他 の処理の影響を受けないこと、 2)意図的制御が及ばないことをあげている。こ こではこの基準を採用することとし、被験者が別の課題を遂行しているのに、 意図しない影響を受けて探索に影響が出る事態を取り上げる(どこまで意図が 関与しないと言えるのかに関しては、後述の議論を参照のこと) 0 注意を捕捉するような刺激特性がなく、能動的に個々の刺激を順番に注意し なければいけない事態で、突然ターゲットがまったく予期しない単一要素とし て与えられたとしたら、被験者の検出反応は促進されるだろうか?もし、単一 要素があるとそこに自動的に注意が惹きつけられるとすると、答は当然、 YES でなければならない。しかし、実際にはこうした予期に反した突然の単一要素 提示は必ずしも探索時間を促進するとは限らないことが、非注意による見落と
し(inattentional blindness)事態での視覚探索実験(Gibsonand Jiang, 1998)で確かめ
られている。この実験の被験者は、マスク刺激を伴って短時間(86ms)提示され た8個の文字の中にターゲットとして指定された文字(HかU)が何であった かを判定する課題を192試行行った後に、突然予告なしにターゲットが赤い色 で描かれた(それ以外は白)刺激布置を見せられた。この時の被験者のターゲ ットの同定成績は、ターゲットが赤い色で描かれており、妨害刺激から単一要 素として区別可能であったにも関わらず、それ以前の試行での成績と比べても 特に優れてはいなかった。つまり、単一要素は注意を捕捉しなかったとみなさ れた。 これに対し、被験者が一度こうした単一要素事態を経験した後では、単一要 素ターゲットの同定成績は、それ以前の80%以下から90%以上に向上した。こ のことは、単一要素を手掛に、被験者がターゲット位置に能動的に注意を移動 できることを示している。 この結果は、注意が自動的に捕捉されるという場合の「自動性」が、言葉の 最も強い意味では成り立たないことを明確に示している。しかし、この結果 は、注意がより弱い意味では「自動的」に対象に向けられるという可能性を否 定するものではない。特に、非注意による見落とし事態では、被験者は別の課 題を処理する構えをとっており、実験者が想定した処理を行うために必要な準 備性が十分整っているとは言いがたい。たとえば、実験室に来たばかりの被験 者にHかUが出たらこれこれのキイを押して下さいと言っただけで、いきなり 実験を開始したら、最初の反応時間は間違いなくその後のものより遅くなる
(反応すら起こらないかも知れない) 。これは、刺激がいつどこにどのように 提示されるかに関し、被験者側に何らの準備あるいは予備知識もないからであ る。つまり、 GibsonとJiangの得た結果は、単に注意の捕捉に時間がかかったた めかも知れない。 最近、このことを裏付けるような実験結果がHorstmamにより報告されている (Horstma-, 2002)。彼は、 GibsonとJiangの実験を同じ刺激布置とタ∵ゲットで 追試した。ただし、単一要素はターゲット刺激そのものではなく、事前のマス ク刺激(四角)に対して加えた。このマスク刺激は、 500ms提示され、その後 にターゲットが提示された(これもGibsonとJiangと同様に単一要素となってい た) .被験者は49試行目に突然、この単一要素を伴った試行を経験することに なったが、ターゲット文字の同定成績は、 GibsonとJiangの結果とは異なり、最 初の予期しない単一要素条件でそれ以降の単一要素条件と同等にまで改善し た。このことは、十分なsoAを与えられれば被験者の注意は単一要素に自動的 に捕捉されることを示している。 さらに、 GibsonとJiangの実験結果から注意の捕捉が全く起こらなかったと結 論づけることには別の問題もある。それは、文字の同定成績に向上が見られな かったことがただちに被験者の注意がターゲットに向かなかったことを意味し ないからである。被験者は、白い文字に赤い文字が混ざっている(あるいは何 か変な色の文字がある)と気がつき、一瞬そこに注意を奪われたかもしれな い。しかし、能動的に注意の移動を抑制していたので、十分注意がその位置に 向けられる前に素早く元の注意の構えに戻したのかも知れない。というのは、 彼らの実験では、刺激布置は短時間しか提示されなかったので、目や注意を移 動してターゲットを確認することはできないようになっていた。この場合、被 験者は、おそらく刺激提示部位全体に注意を払った状態でターゲットを待って いると思われる。こうした事態では、特定の位置に不用意に注意を動かすと成 績低下につながりかねないので、そうした傾向は抑制されているはずである。 だとすると、ターゲットを同定できるほどには単一要素に注意を向けるという 行動が起こらなかったとしてもそれほど不思議ではない。 実際、初回いきなりであっても、提示時間が十分長ければ、明滅する刺激 (単語)に混ざった変化しない単一要素も報告されやすいことがpashlerとHarriS (2001)により確かめられている(この逆の組み合わせ、つまり、単一要素が明 滅する単語の場合には、さらに報告される確率が高くなる) 0 単一要素が注意を自動的に制御する手掛として機能するかどうかを見た研究 としては、 ChastainとCheal(1998)が報告しているものがある.一般にPosnerタイ プの空間的注意実験では、自動的な注意の捕捉を起こす周辺手掛は能動的に注
意を移動するしかない中心手掛に比べ、より短いSOAで効果があり、かつ注意
の効果は一時的でSOAが長くなると低下することが知られている(Mullerand
Rabbitt, 1989; Nakayamaand Mackeben, 1989)。これを利用し、 ChastainとCheal は、色による単一要素とonsetを手掛刺激とし、これらの手掛による注意の制御 能を調べる実験を行った。単一要素手掛では、 8ヶ所に手掛刺激が提示され、 そのうちの1つだけが色が他と異なっていた。 onset手掛では、一ヶ所だけに手 掛が提示された。ターゲットは、同心円上の8ヶ所に提示された刺激のうち手 掛により指定されたものとし、これがCの字の場合にはその切れ目の位置を答 え、 Tの字の場合には縦棒の位置を答える課題が被験者に課された。 その結果、 onset手掛では、従来知られていたように、 SOAがより短い条件か ら効果を現し、 SOAが長くなると注意を惹きつける効果は弱くなり、自動的注 意の捕捉を伺わせた。これに対し、単一要素手掛では、 SOAがより長い条件で 注意の効果が見られ、さらにSOAがさらに長くなっても効果は持続し、中心手 掛により能動的に注意を向けた場合に得られる注意捕捉の時間的変化と類似し ていた。さらに、ターゲットを+の中に混じったT字とし、手掛が有効(有効性 - 75%)な条件と無効な条件(有効性-25%)を比較した実験3では、 onset手掛で は無効条件でも注意の効果が見られたが、単一要素手掛では、有効条件しか注 意の効果が見られなかった。これらの結果は、色の単一要素では自動的な注意 の奪取が起り難いことを示唆している。 通常の視覚探索実験事態で、単一要素の注意捕捉効果を調べた研究として は、 Theeuwes(1990)によるものがある。彼は、円環状に配置した図形のうちの 1)1つだけ形が違う、 2)色が違う、 3)形が変化する、 4)色が変化することが自動 的に注意を惹きつけるかどうかを、探索が並行探索に近づくかどうかで調べ た.図形の中には、横倒しになったⅠの字があり、その中に1つだけ一方の端 がないもの(横倒しのTの字の形)が混ざっており、これが反応刺激とされ た。被験者の課題は、どちらの端が欠けているかを判断することであった。単 一要素が必ず反応刺激を含む図形の場合には、傾きの浅い探索関数が得られた が、単一要素の位置と反応刺激の位置に関連がない(偶然の確率でしか単一要素 図形が反応刺激を含まない)条件では、 3)形の変化以外は探索関数の傾きに大 きな変化は見られなかった。このことから、彼は、並行探索となる単一要素で あっても、そこに強制的に注意を惹きつける訳ではないと結論づけた。唯一の 例外は、形の変化(これは局所的な輝度変化を伴う)であった。
素である確率が偶然でしかない条件では、視覚探索の傾きがフラットにならな いことが示されている。 これらの実験結果は、 onsetやoffsetのような変化と異なり単一要素は、自動的 に注意を捕捉する効果がないかあるいはきわめて弱いことを示唆している。 これに対し、最近、単一要素が注意を自動的に捕捉することを示すデータ が、 TheeuwesとGodijnにより報告されている(Theeuwesand Gojijn, 2002).前の実 I 験とは異なり、この実験ではPosnerタイプの空間的注意実験を擬し七、色の単 一要素が手掛刺激として自動的に注意を捕捉するかどうかを、空間的注意実験 でよく用いられる検出反応時間を指標とした実験を行った。その結果、 Chastain andCheal(1998)とは異なり、単一要素はSOAが短いときには反応時間を促進 し、長い時には遅くする(復帰の抑制)ことが明らかになった。つまり、空間 的注意実験事態でのonset手掛と同様な二相性の効果が単一要素でも得られた訳 である(同様の結果は、文字の位置同定課題を用いたJosephとOptican (1996)の 実験でも得られている) 0 2.単一要素による探索の妨害 丸の中に文字(しかR)が書かれた刺激を複数配置し、その中に単一要素(菱 形)を混ぜ、この中に書かれた文字の弁別反応時間を指標にした実験を Theeuwes(1996)が行っている。この実験では、ターゲット位置を指定する単一 要素とは異なる無関連単一要素(色)が、探索刺激中にあるとき、この色単一 要素中の文字が反応に干渉するかどうかで、注意が捕捉されたかどうかをみ た。その結果、色が無関連な単一要素として刺激セットに含まれていると反応 時間が増大した。さらに、無関連単一要素の文字が反応を指定する文字と反応 力デゴリーが一致する場合に比べ、不一致の時には反応時間が長くなり、干渉 効果が見られた。全ての丸や菱形に文字が含まれており、これらはしかRかのい ずれかだったので、 Theeuwes(1996)は、この結果は注意が無関係な色に対して 捕捉され、そこにある文字の処理を選択的に促進し、これが菱形に含まれた文 字に対する反応に干渉したと考えないと干渉効果が得られた理由が説明できな いと主張した。 以上の実験結果は、被験者が視野内を探索している事態では、ターゲットの 位置と単一要素の位置が無関連であってもたまたま一致した場合に成績が向上 する可能性があることを示している。これとは異なり、最初からターゲットと 単一要素が空間的に分離されていて被験者は単一要素に注意を向けることがタ ーゲットの処理に妨害的に作用することが分かっていてもなお、単一要素によ り妨害的な影響を受けるだろうか(この場合には、被験者は単一要素がタ-ゲ
ットである可能性がないことを知っているので注意をそこに移動しようという
構えを持たないで反応していると思われる点に注意) 。最近、 Folkら(Folk,
Leber, &Ege血, 2002)はこの場合でも注意が捕捉されうることを示す実験を報告 している。
この実験で、彼らは被験者に凝視点に84ms毎に文字を提示(Rapid Serial Visual Presentation: RSVP)し、その中で1つだけ色の異なるものを報告する.課題を課し た。凝視点での刺激提示中に、それとは別に凝視点の上下左右の周辺視野に# を提示し、そのうち1つだけが色が付いている場合があった。彼らは、もし、 被験者の注意がこの周辺視野の単一要素に惹きつけられたとすると、凝視点の 検出成績は、低下するであろうと予想した。 得られた結果は、実際、注意の瞬き(attentional blink)実験で成績が低下する lag2 (つまり、最初のターゲットから1つ妨害刺激を挟んだ後にくる刺激が二 番目のターゲットであった場合)で成績低下が起こった。さらに、この成績低 下は、周辺視野での単一要素とターゲットを指定する色が一致している場合に のみ見られた。これは、被験者が何に注意すべきかの構え(後述の注意制御の
構え(attentional control setting)が一致している場合)が注意を惹きつけるかどう
かに重要であることを示している。 以上をまとめると、突然の変化による注意の捕捉に比べ、ユニークな特徴(単 一要素)による注意の捕捉は、その効果が弱いとされており、また能動的な関与 の作用する程度も大きいのではないかと考えられる。単一要素がどこまで注意 を捕捉できるかは、単一要素の性質や課題の選び方にも依存すると思われ、さ らに検討が必要であろう。 Ⅲ.視線方向による注意の捕捉 他者の視線方向は、その人間の興味対象を潜在的に示していると考えられる ため、社会的環境において有用な視覚情報となる(Emery,2000).特に自分(観 察者)に向けられた視線は、他者が抱いている敵意や好意などといった心的状 態が自分に関与したものであることを示す手掛となりうる。したがって自分に 向けられた視線は他の方向に向けられた視線に比べて、外部環境内から迅速、
かつ自動的に検出されることになる(Yon Gm一一nau andAnston, 1995)0
von Gm一一nauとAnston(1995)は人間の眼領域の画像(視線刺激)を用いた視覚
探索課題を行っている。その結果、視線が正面、つまり被験者に向いた刺激配 列(妨害刺激)の中から左右の一方に視線が向いた刺激(ターゲット)を検出 する場合よりも、左右を向いた妨害刺激の中から正面を向いたターゲットを検
索する場合の方が探索反応時間は短かった。また左右を向いたターゲットに関 しては妨害刺激数の増加に伴い反応時間が増加傾向を示したのに対して、正面 を向いたターゲットの場合にはこのような増加傾向は少なく、妨害刺激数に依 存しない探索効率を示した。つまり正面に向いた視線は他方向に向いた視線の 中からポップアウトすることが明らかとなった。この結果からvonGm"nauと Anston(1995)は自分に向けられた視線は前注意的に検出されると推察してい l る。しかし青山,小川,と八木(2003)が用いた物品刺激群(妨害刺激)から顔刺 激(ターゲット)を探索する課題、すなわち視線方向がターゲット定義特性と なっていない課題においては、ターゲットの視線方向を操作した場合に、正面 を向いた顔と左右を向いた顔の間で探索効率に差は認められず、どちらにおい ても妨害刺激数に依存した探索時間の増加傾向が確認された(青山,小川,&八 木、 2003) 。この結果から青山らは、 vonGm"nauとAnstonの実験で認められた ポップアウトが前注意的な検出によるものではなく、課題要求などのトップダ ウン的な要因によるもの、つまり注意の能動的な構えが関わっていると推察し ている。ただし、青山ら(2003)の実験においてもvonGm-'nauとAnston(1995)と同 様、左右に視線を向けた顔よりも正面に視線が向いた顔の方が検索時間は速か った。自分に向けられた視線は前注意的に検出されるのではなく、焦点的注 意、あるいは探索後の符号化処理を促進させる効果を持っと考えられる。 ただし他者の視線については、それが自分に向けられていない場合であって も社会的意味を持ちうる。他者が注意を向けている外的対象を特定するために その視線方向は利用されるからである。以下に述べるように、近年の空間的手 掛課題を用いた研究では、他者の視線方向が観察者の空間的注意を同方向-自 動的、あるいは強制的に向けさせる効果を持つことが報告されている(Friesen
and Kingstone, 1998; Driver, Davis, Ricciardelli, Kidd, Maxwell, & Baron-Cohen, 1999;
Langton 皮 Bmce, 1999)0 一例をあげると、 FriesenとKingstone(1998)が用いた空間的手掛課題では、被 験者が凝視している凝視点上に視線を左右の一方に向けた顔画像(視線手掛) が提示された後、左右の周辺視野の一方の位置にターゲット(文字刺激)が提 示され、被験者はその検出や位置弁別などが要求された。その結果、視線手掛 の示す方向とターゲット出現位置が一致する試行(有効条件)の方が一致しな い試行(無効条件)よりもターゲットに対する反応時間は速かった。この結果 は視線手掛の示す方向-の視覚的定位が生じたことにより、その方向でのター ゲット処理が促進されたことを意味している。このような他者の視線方向の知
覚によって生じる視覚的定位は注意の共同定位ooint orienting of attention)と呼ば
さらに、 FriesenとKingstone(1998)の実験では、このような促進効果は、視線 手掛とターゲットの時間間隔が105msの時にすでに認められ、 1005msでは効果 の減退が確認された。なおこの実験での視線方向は偶然以上にはターゲットの 出現位置と関連しなかった上、被験者は視線手掛を無視するようにと言われて いたので、注意の捕捉は自動的と言える。 最近、 Driverら(1999)も、 FriesenとKingstone(1998)と同様の手続きにおいて、 視線の向きがどこまで注意を捕捉するといえるのかを調べる目的で逆手掛提示 (anti-cue)条件での実験を行っている.この条件では、視線が示す位置の反対側 にターゲットがより頻繁に提示されたが、この場合でも比較的短いSOA(300ms) であれば視線手掛の示す方向での促進効果が認められ、視線が通常のonset手掛 以上に注意を捕捉しやすいことが示された。ただし、こうした視線の向きによ る注意の捕捉効果がどこまで視線に固有のものかに関しては、異論がないわけ ではなく、視線でなくとも凝視点を挟むように1組の矢印を提示しても同様の 効果が得られることがTipples(2002)により最近報告されている。 視線方向による注意の制御が通常の空間的手掛による注意の制御能を見た実 験と異なるユニークな点は、復帰の抑制が起こりにくいことである。視線とい う形態を処理しているため、通常のonsetによる周辺手掛よりも手掛が効果を現 すまでの潜時が長いことは予想できるが、 FriesenとKingstone(1998)のように1 秒以上のSOAを用いた場合でも、手掛の効果が減弱するだけで無効条件の方が 有効条件よりも反応時間が早くなる(復帰の抑制が生ずる)ことはないようで ある。 Ⅳ.感情誘発刺激による注意の捕捉 感情の重要な働きの一つが環境中の刺激が個体にとってどのような意味を持 つのかを評価することにある。こうした評価は、一部は経験的に習得された結 果であるが、生得的に評価に影響すると考えられている刺激がある。それは、 1)表情と2)クモや-どなどの潜在的に危険な動物である。 この節では、こうした刺激による注意の自動的捕捉に関する研究を紹介す る。 1.表情による注意の捕捉 表情は、相手の内面を知る重要な手掛であり、注意を払う意味がある。特 に、怒りのような陰性の表情を浮かべている相手は十分警戒してむやみに刺激 しない方がよい。実際、中立の表情と怒りの表情を組にして見せると、被験者
は最初特性不安の程度に寄らず怒り顔の方を見る傾向がある。しかし、特性不 安の高い人は、すぐに怒りの表情から目をそらしてしまう。これは、高不安者 では、危険を察知したらさっさとその場から離れようとする傾向がより強いた めであると思われる(Rolmer, 2002). Posnerタイプの空間的注意実験法を用いた実験でも怒りの表情が注意を捕捉 することが示されている(MoggandBradley, 1999)。彼らは、凝視点を挟んで左 I 右の周辺視野の一方の位置に表情顔刺激(怒り顔か笑顔)を、もう一方の位置 に中性顔刺激を提示し、その後両刺激をマスク刺激によりほとんど弁別不可能 にした。次に、どちらか一方の位置にターゲット(点を1つあるいは2つを並 べて)を提示し、被験者にその位置弁別を求めた。その結果、顔刺激がマスク されることで人物の性別や形態的特徴の認識がほとんど不可能であったにもか かわらず、中性顔よりも怒り顔の提示位置に出現したターゲットに対する反応 時間が速く、特にこの傾向は、左視野に怒り顔が提示された場合に顕著であっ た。一方、笑顔ではこのような促進効果は認められなかった。またMoggと Bradley(1999)の実験2では顔刺激の提示時間をやや長く(マスク刺激との SOA-34ms)し、顔認識が比較的容易な条件で実験を繰り返したところ、この 場合には怒り顔での促進効果は認められなかった。したがって表情の中でも特 に怒り顔は注意を捕捉する効果を持っており、特にその情動性の意識的弁別が できないため能動的な関与が不可能で、自動的な過程が反応を制御していると 思われる場合にこの効果が顕著になった。 視覚探索でも怒り顔が注意を捕捉しやすいことが知られている。このことを 最初に実証したのは、 HansenとHansen(1988)だった。彼らは、人混みの中で怒 りの表情を浮かべた人物を素早く見つけられることができるかどうかを調べる 目的で、 9名の人物の顔(実験1)あるいは特定の人物(実験2)を3Ⅹ3の マトリックス状に並べ、その中に1つだけ表情の違う顔を混ぜた場合に、この 検出時間が表情により違うかどうかを調べた。その結果、怒り顔は幸福顔より も早く検出できること、探索の非対称性が見られることを確認した。 この「怒り顔優位(HansenandHansen, 1988)」効果は、その後の彼ら自身によ
る研究(Hampton, Purcell, Bersine, Hansen, 皮 Hansen, 1989)でも確認されたが、刺
激中のターゲット位置に依存して反応時間が異なることから、 Hamptonらは、
完全な意味ではポップアウトするとは言えないとした。さらに、その後の研究
(purcell, Stewart, & Skov, 1996)では、 Hansen達が用いた2値化した刺激と異なり
輝度レベルの違いを保った白黒写真を用いたが、怒り顔優位効果は得られず、
ている。 もし、顔の表情が進化的に古いシステムで自動的に処理され、その結果によ り注意の捕捉が起こるとすると、こうしたシステムは、おそらく大まかな形態 処理しか行っていないと考えられるので、実際の人物の表情よりもより単純な 線画の方がこの効果を確認するにはより適した刺激だと考え、 ohmanら(ohman, Lundqvist,&Esteves,2001)は、眉と口の形だけが異なる線画の顔で実験を行い、怒 ■ り顔の検出が友好的な顔よりも早いこと、またこれが倒立顔でも成り立つこと を示した(ただし、倒立顔では、効果が消失したという報告(Eastwood,Smilek,
& Merikle, 2001)もある) o Foxら(Fox, Lester, Russo, Bowles, Pichler, 皮 Dutton,
2000)も単純な線画にで「怒り顔優位」効果を確認している。 さらにFoxらの実験では、妨害刺激が中性顔の場合よりも怒り顔の場合の方が ターゲットの探索は困難であることや、刺激配列がすべて同じ刺激からなる (ターゲットがない)場合には、それが中性顔の時よりも怒り顔の時の方が反 応時間は遅いことが明らかとなった。以上の結果からは、怒り顔が注意を捕捉 しやすいだけでなく、いったんそこに注意が向けられると、そこからの注意の 解放(disengageme山)はより困難であり、他の刺激-の注意の移動は抑制される 傾向がある(上述のように、眼球運動を計測することでRohner(2002)は、不安 が低い被験者では怒り顔が注意を惹きつけて放さないことを実証している)こ とを示唆している。 以上のような表情刺激が持つ促進効果がそこに内包される形態情報に依存す るものでないことは、佐藤と吉川(1999)の実験からも裏付けられている。佐藤 と吉川(1999)が用いた見本照合課題の手続きは以下の通りである。中心視野に 注視が固定された状態で、周辺視野に怒り、幸福、あるいは中性のいずれかの 表情を持つ顔刺激(ターゲット)が100ms間だけ瞬間提示され、次いで同一の 刺激を含む刺激配列が提示される。被験者はその中からターゲットと一致する 顔刺激(同一人物)を選択することが求められたo この課題はターゲットの提 示時間がきわめて短いことや、ターゲットが左右の周辺視野にランダムに提示 されること、さらに刺激配列内にはターゲットと同じ表情を持つ異なる人物の 顔刺激も複数含まれていたことから、かなり難しい課題であったとされる。し かし実験の結果、ターゲットが中性顔の場合よりも表情顔の場合の方が正答率 が大きく向上し、特に怒り顔においてこの傾向が顕著であった。以上の結果か ら佐藤と吉川(1999)は、表情、特に怒り顔がもたらす知覚処理の促進は、その 顔刺激内の形態的特徴によるものではなく、その表情が持つ情動性によっても たらされるものと推察している。
これらの知見をまとめると、他者の表情はそれが持つ情動性の意味的認識に 到る以前から、視覚的注意や知覚処理に影響を与えており、特に注意を強制的 に捕捉し、顔の知覚処理を促進させる効果を持っていると考えられる。さらに 表情の種類によってその効果の強さは異なり、快表情よりも不快表情において それが顕著である。こうした知見は、一般的には接近よりも回避事態において 素早く反応する必要性が高い(LeDoux, 1996)ので、こちらを優先して処理した 方が生存確率を高めることになるという意味で生態学的にみて妥当な知覚処理 システムが我々に備わっていることを示唆している。 2.陰性刺激による注意の捕捉 前節でも述べたように、感情、特に陰性感情(negative affect)を刺激する単語 や写真などは、潜在的な危険の存在を意味しているので、素早く対応すること を求められている。そのため、こうした刺激は注意を惹きやすく、その結果と して気がつきやすいはずである。実際、陰性感情を刺激する単語や絵は、注意
の瞬き(Anderson and Phelps, 2001)や消去(extinctionとは、頭頂葉を損傷した患
者に典型的に見られる症状で、両側に刺激を提示した場合に損傷部位と反対側 の視野に提示された刺激が、 -側のみの提示に比べ報告されにくい傾向を言 う)を生じにくいことⅣuilleumierand Schwartz, 2001)が知られている. 陰性感情を刺激する対象の中でも、とりわけクモや-ビは、ほ乳類の進化の 歴史の中で潜在的な危険物として認識されるようになってきている(Ohmanand Mineka,2003)。この傾向は、我々にも受け継がれており、クモや-どは、潜在 的な危険を示す信号として作用する。特に、こうした動物が嫌いな人ではこの 傾向が顕著である。この節では、こうした陰性感情を刺激する対象、特にクモ と-どを用いて、そうした刺激が注意を強制的に捕捉することを示す実験結果 を紹介する。 前述のように、怒りの表情に対しては、不安の高い被験者は初期の注視とそ れに続く視線そらしを示す(Rohner,2002)が、 -ビ嫌いの人はこれと同じ傾向を-どの写真に対して示すことが、 HermanS, Vansteenwegen, & Eelen(1999)により確
かめられている。この実験では、被験者を-ビに対する好悪評定値によりあら かじめ-ビ嫌いとそうでない被験者に選別した上で、両者に-ビと花を組にし て提示し、視線がどちらに向くかを時間を追って観察した。その結果、 -ど嫌 いの被験者は、最初は-どの方を見ても、すぐに目を-どからそらすことが判 明した。これに対し、ヘビに対する嫌悪感のない被験者では、刺激提示の間 中、 -どの方を見続ける傾向が見られた。この結果は、被験者の嫌悪によら ず、 -どの写真は注意を惹きつけやすいこと、及びこうした傾向は個人のヘビ
に対する陰性感情の程度により影響のされ方が異なることを示している。
視覚探索を利用し、 -どやクモが注意を自動的に惹きつけるかどうかを調べ
る実験が、最近、 0lman達により行われている(0lman, Flykt, 皮 Esteves, 2001)。
彼らは、 -どやクモを花やキノコの写真の中から見つける場合と、その逆に-どかクモを背景刺激とし、花かキノコをターゲットとした場合を比較した。そ の結果、探索の非対称性が得られ、クモや-どをターゲットとし花かキノコを 妨害刺激とした組み合わせの方が、その逆の組み合わせよりも検出時間が短 く、かつ刺激の総数に依存しない探索関数が得られることを見出した。さら に、クモか-どが嫌いな被験者は、嫌いな対象に対しこの傾向がより顕著であ った。 陰性刺激に注意が奪われることによる妨害効果も認められており、色の命名 反応に対する妨害効果を見た実験は、情動ストループと呼ばれている(Williams, Mathews, 皮 MacLeod, 1996)o この場合は、注意が本来の場所から別の場所に逸
れたために処理に遅れが出るのではなく、当面する課題-の注意資源配分が減 ることが反応の遅延をもたらす結果となっていると解釈されている。
このパラダイムを利用し、 Wattsら(Watts, McKenna, Sharrock, & Trezise, 1986)
は、クモ恐怖の人を対象に、クモに関連した語と一般的な陰性感情語での情動 ストループ効果の程度、さらに通常のストループ課題での効果を比較した。通 常のストループ効果は、対照群もクモ恐怖の被験者も変わりなかったが、クモ に関連した語では、クモ恐怖の群のみ、色名を言うのに時間がかかった。さら に、クモ恐怖の被験者に脱感作訓練を施すことでクモ関連語への情動ストルー プ効果が減少するかどうかを見た。その結果、脱感作訓練を受けたクモ恐怖の 破験者ではそうした訓練を受けなかったクモ恐怖のある被験者に比べ、より大 きな情動ストループ効果の減少が生じた。この治療による情動ストループ効果 の減少は、 Lavyらによっても確認されている(Lavy,VandenHout, &Amtz, 1993 )。 -どに対する恐怖を高めてやると、情動ストループ効果は、さらに強まるで あろうか。この点を確かめるためにMathewsとSebastian(1993)は、 -ど恐怖を持 つ被験者を対象に、生きた-どを見せた上で-どに関連した言葉を用いた情動 ストループ効果を測定する実験を行った。被験者には後で-どにどれだけ近づ けるかをテストすると教示した上(実際にはそうしたテストは行われなかっ た)で、実験室の中に大型の-ビを入れた瓶をおいて情動ストループ課題を行 わせた。驚いたことに-ビ恐怖の被験者は、情動ストループ効果を全く示さな かった.この結果は、 Wattsらの結果とは一致しないので、 MathewsとSebastian は、 -ビ接近テスト抜きでの追試実験を行ったところ、 Wattsらと同様に-ど恐
怖の被験者で情動ストループ効果が得られた。この2つの結果から、 -どに対 する恐怖を極限まで高めてやると、情動ストループ効果を増進するどころかむ しろ逆に情動ストループ効果が抑制されることが明らかとなった。つまり、恐 怖の程度と情動ストループ効果には逆U字の関係があることが示唆された。 このように、怒りの表情や人が嫌う動物(-どやクモ)には、進化的に見て 注意を払う必要があったと思われ、その結果としてこうした形態に依存した情 報が注意を制御することができることが実証されているが、その制御機構につ いては今後の研究にまつところ大である。 Ⅴ.注意の捕捉はどこまで自動的か これまで、種々の刺激特性が注意を自動的に捕捉することを実証する実験結 果について述べてきたが、こうした注意の捕捉がどこまで自動的と言えるのか に関しては、議論が分かれている。後述のように、課題に関係なく注意は自動 的に刺激の変化や単一要素により捕捉されるとする考え方(Theeuwes, 1996; 2002)から、新しい対象だと捕捉される(Yantis, 1993)、あるいは能動的な注意の
構えがあれば捕捉されるとする考え方(Folk, Remington, & Jolmston, 1992)まで
様々である。ただし、実験室内での結果が条件付きで自動的だとする立場ある いは完全に自動的ではなく能動的な注意の関与があるという立場の研究者であ っても、日常場面では主体の能動的な関与と関わりなく完全に自動的な注意の 外的制御が可能であることを認めていない訳ではない。たとえば、車のバック ファイアのような大きな音が突然聞こえてくれば、どんなに課題に注意を集中 させていても誰でもそちらを振り向くであろう(実験室での人工的な状況でも 音によって注意が視覚課題に自動的に向くことを最近、 McDonald,
Todor-Salejarvi, & Hillyard (2000)が報告している) o要は、ある限定された刺激
の顕著さの範囲内では注意の外的制御を能動的に排除できるということであろ う。 注意の能動的制御の関与 実験室で注意が自動的に捕捉されると言っても、能動的な注意の制御が全く 関与していないとは言えない。被験者は、実験者の教示や練習から自分が何を すべきか、何が期待されているかなどについての予期をもつようになる。そう した課題に対する構えが注意を能動的に制御するように作用することは当然考 えられる。しかし、注意の捕捉事態で能動的な関与がどこまで可能かについて は、現在の所、研究者の意見は一致していない。既に述べたように、一方では 能動的な関与の及ばない純粋に自動的な注意の捕捉が起こるとする立場の研究