応答に関する研究
著者
岩田 洋典
内容記述
学位授与大学: Osaka Prefecture University(大阪
府立大学), 学位の種類: 博士(工学), 学位記番号:
論工第1221号, 学位授与年月日: 2009-03-31, 指導
教員: 内藤 裕義.
負の誘電率異方性を有するネマティック液晶
の過渡応答に関する研究
2009年2月
岩 田 洋 典
® © ª
目 次
第 1 章 序論 5 参考文献 . . . 10 第 2 章 垂直配向液晶セルの過渡電流:Frank 弾性および Ericksen-Leslie 理論に よる検討 13 2.1 緒言 . . . 13 2.2 実験 . . . 15 2.3 理論 . . . 18 2.3.1 Frankの自由エネルギー . . . 18 2.3.2 Ericksen-Leslie理論 . . . 20 2.3.3 垂直配向液晶セルの電場応答を記述する基本方程式 . . . 21 2.3.4 過渡電流の数値計算 . . . 23 2.3.5 Leslie粘性係数 . . . 24 2.3.6 流れの境界条件 . . . 27 2.4 結果と考察 . . . 27 2.5 結言 . . . 29 参考文献 . . . 30 第 3 章 水平配向および垂直配向液晶セルの電場応答における流動効果の影響 32 3.1 緒言 . . . 32 3.2 実験 . . . 333.3 理論 . . . 34 3.3.1 水平配向または垂直配向液晶セルの電場応答を記述する基本方程式 34 3.3.2 過渡電流の数値計算 . . . 37 3.3.3 Leslie粘性係数 . . . 38 3.4 結果と考察 . . . 39 3.4.1 過渡電流への流動効果の影響 . . . 39 3.4.2 電場応答過程におけるダイレクタ分布および流速分布 . . . 40 3.4.3 ネマティック液晶の流れにより発生するトルク . . . 47 3.4.4 流れの境界条件 . . . 50 3.5 結言 . . . 52 参考文献 . . . 53 第 4 章 垂直配向液晶セルの電場応答における Leslie 粘性係数の影響 55 4.1 緒言 . . . 55 4.2 理論 . . . 56 4.2.1 垂直配向液晶セルの電場応答を記述する基本方程式 . . . 56 4.2.2 ダイレクタ応答および過渡電流の数値計算 . . . 56 4.3 結果と考察 . . . 57 4.3.1 Leslie粘性係数がダイレクタ再配向に与える影響 . . . 57 4.3.2 垂直配向液晶セルの有効回転粘性率 . . . 63 4.4 結言 . . . 65 参考文献 . . . 67 第 5 章 負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の Leslie 粘性係数測定法:解 析手法 69 5.1 緒言 . . . 69
5.2 理論 . . . 71 5.2.1 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の解析解 . . . 71 5.2.2 非線形最小二乗法 . . . 73 5.3 実験 . . . 73 5.4 結果と考察 . . . 76 5.4.1 解析手法による Leslie 粘性係数測定 . . . 76 5.4.2 解析手法の妥当性の検討 . . . 79 5.5 結言 . . . 86 参考文献 . . . 87 第 6 章 負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の Leslie 粘性係数測定法:数 値計算手法 89 6.1 緒言 . . . 89 6.2 過渡電流の数値計算による Leslie 粘性係数測定法 . . . 90 6.3 実験 . . . 91 6.4 結果と考察 . . . 92 6.5 結言 . . . 102 参考文献 . . . 103 第 7 章 結論 105 謝 辞 111 付 録 A 水平配向または垂直配向液晶セルの電場応答を記述する基本方程式 112 A.1 運動方程式の導出 . . . 113 A.2 角運動量方程式の導出 . . . 116 参考文献 . . . 121
付 録 B 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の解析解 122 B.1 水平配向液晶セルに流れる過渡電流の解析解の導出 . . . 122 B.2 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の解析解の導出 . . . 124 B.3 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の実験結果と解析解との最小二乗 フィッティング方法 . . . 128 B.3.1 Leslie粘性係数の決定 . . . 128 B.3.2 プレチルト角の決定 . . . 132 参考文献 . . . 135 付 録 C プログラムのソースコード 136 C.1 液晶セルに流れる過渡電流の数値計算 . . . 136 C.2 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の実験結果と解析解との最小二乗 フィッティング . . . 143
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第
1
章
序論
液晶相は結晶相と等方相の間に現れる中間相である.ネマティック液晶は,分子の平 均的な配向方向 (ダイレクタ) は揃っているがその重心位置はランダムであるため,屈 折率,誘電率の異方性,および流動性を有する.このため 2 枚の透明電極付きガラス 基板中にネマティック液晶を封入した液晶セルを作製し,ダイレクタを外部電場で変化 させて透過光強度を制御できる.この原理を応用した液晶表示素子は,現在テレビ用 途としてブラウン管を凌ぐほどに普及している.液晶セル内におけるダイレクタの初 期配向はガラス基板表面に配向処理を施すことにより制御できる.初期配向の違いに よってダイレクタの再配向過程が異なるため,液晶セルの配向方式は液晶表示素子の 電気光学応答を左右する. 負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を用いた垂直配向方式の液晶表示素子 (VA方式と呼ばれる) は高速応答,広視野角,高コントラスト等の優れた特性を有する ため,液晶テレビとして実用化されている [1].現在プラズマテレビなどと比較しても 遜色がない程度に応答時間は向上してきているが,一層の素子特性向上のため応答速 度を支配している要因の解明,および,その評価法の開発が急務となっている.ネマ ティック液晶には 5 つの Leslie 粘性係数 αi(i = 1, 2, ..., 5)が存在し [2–7],液晶テレビ の応答時間は粘性に大きく依存する [6].高速応答性を有する液晶材料を開発するため には,各 Leslie 粘性係数がダイレクタ応答に与える影響を明らかにするとともに,そ れらの正確な値を測定する必要がある.しかし,従来の粘性係数測定法 [5,8–18] には,大量の液晶と高価で大掛かりな装置が必要,データの解析が複雑,一部の Leslie 粘性 係数しか測定できないなどの欠点があり,5 つの Leslie 粘性係数を簡便かつ正確に測定 することは困難であった. 液晶セルにステップ電圧を印加するとダイレクタが回転し液晶セルの静電容量が変 化するため,単一のピークを有する過渡電流が流れる [19–23].過渡電流はダイレクタ の回転に起因したものであるため,液晶セルの電場応答におけるダイレクタの再配向 過程や応答時間など,液晶表示素子の電気光学特性に関する重要な知見を得ることが できる.正の誘電率異方性を有するネマティック液晶を封入した水平配向液晶セルに 流れる過渡電流は,電流がピーク値をとる時間 (ピーク時間) に対して対称な波形とな る [19–21, 23].この実験結果は液晶の流れを無視した理論により説明でき,正の誘電 率異方性を有するネマティック液晶の回転粘性率 γ1 = α3− α2を決定できる (付録 B.1 参照) [20, 21, 23].ところが,負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を封入した 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流を測定したところ,ピーク時間に対して非対称な 波形となった [24–29].このため垂直配向液晶セルでは,流れを無視した理論を用いて 負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の γ1を決定することができない.そこで 本研究では,流れを考慮したネマティック液晶の連続体理論 [2–7] を用いて垂直配向液 晶セルに流れる過渡電流を解析することにより,VA 方式の液晶表示素子の電場応答を 支配している要因を明らかにし [24–27, 30],その成果をもとに負の誘電率異方性を有 するネマティック液晶の Leslie 粘性係数測定法を提案した [28,29,31].これらの研究成 果を,以下の 6 章にまとめる. 第 2 章では,垂直配向液晶セルに流れる過渡電流を説明するために,液晶の流れを 考慮して過渡電流の数値計算を行う.垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の実験結果 は,ピーク時間に対して非対称な波形となることを示す.Frank によって導入された弾 性エネルギー,Ericksen と Leslie によって定式化された流れとダイレクタの回転との相 互作用を記述する連続体理論 (Ericksen-Leslie 理論) について概説し,垂直配向液晶セ
ルの電場応答におけるダイレクタの運動方程式,角運動量方程式 (Ericksen-Leslie 方程 式) を導出する.これらの方程式を用い,流れを考慮して数値計算した過渡電流のピー ク時間は,流れを無視した場合と比較して格段に短くなることを示す.液晶セル基板 上における流れの境界条件が過渡電流波形に与える影響を調べるために,基板上で液 晶分子が移動しない場合 (no slip) および基板上で液晶分子が動く場合 (free slip) を仮 定し,過渡電流を数値計算する.流れの境界条件を free slip として数値計算した過渡 電流のピーク時間は,no slip の場合と比較して短くなり,free slip 境界条件における過 渡電流波形は実験結果とよく一致することを示す.これらより,垂直配向液晶セル内 におけるダイレクタの電場応答は free slip 境界条件下の流れにより著しく速くなるこ とを明らかにする. 第 3 章では,水平配向および垂直配向液晶セルに電場を印加した際のダイレクタ再配 向における流動効果について述べる.水平配向液晶セルに流れる過渡電流はピーク時間 に対して対称な波形となるが,垂直配向液晶セルに流れる過渡電流はピーク時間に対
して非対称な波形となることを示す.これらの実験結果を説明するために,Ericksen-Leslie理論を用いてそれぞれの液晶セルに流れる過渡電流を no slip および free slip 境
界条件を仮定して数値計算する.no slip 境界条件において数値計算した水平配向液晶 セルに流れる過渡電流は実験結果をよく再現し,流れを無視した場合の数値計算結果 とも一致することを示す.一方,垂直配向液晶セルについて free slip 境界条件におい て数値計算した過渡電流は,流れを無視した場合および no slip 境界条件の場合の数値 計算結果と比較して最も速い応答を示し,実験結果とよく一致することを示す.水平 配向および垂直配向液晶セルにおいて流動効果がダイレクタ応答に与える影響を調べ るために,ダイレクタ分布,流速分布,および流れがダイレクタに及ぼすトルクを適 切な流れの境界条件のもとで数値計算する.その結果,水平配向液晶セルでは流れに より発生するトルクが小さくダイレクタの回転は加速されないのに対して,垂直配向 液晶セルでは流れにより大きなトルクが発生するためダイレクタの回転が加速される
ことを明らかにする. 第 4 章では,負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の Leslie 粘性係数が垂直配 向液晶セルの電場応答に与える影響について調べる.Ericksen-Leslie 理論を用いた free slip境界条件における過渡電流,ダイレクタ応答の数値計算により,VA 方式の液晶表 示素子の応答時間は 5 つの Leslie 粘性係数のうち α2,α4+ α5に依存することを示す. また,液晶材料の高速応答性を判断するための基準とされてきた γ1に代わり,垂直配 向液晶セルの応答時間を支配する粘性率として有効回転粘性率 γ∗ 1(θ)を導出,提案す る.γ∗ 1(θ)はダイレクタの極角 θ に依存して値が変化し,5 つの Leslie 粘性係数を全て 含む.垂直配向液晶セルの電場応答は,γ∗ 1(θ)が小さくなるほど速くなることを示す. さらに,γ∗ 1(θ)の値は γ1の値と比較して θ の値が小さくなるほど大幅に減少することを 示す.以上より,VA 方式の液晶表示素子の高速応答を実現するためには,α2,α4+ α5 に着目し γ∗ 1(θ)の値が小さい液晶材料を合成すればよいことを明らかにする. 第 5 章では,free slip 境界条件を適用し,液晶セル基板付近のダイレクタの弾性変形 領域を無視して Ericksen-Leslie 方程式を解くことにより,垂直配向液晶セルに流れる 過渡電流の解析解を導出する.解析解により,セル厚 60µm 程度の垂直配向液晶セル に 200V 以上のステップ電圧を印加した際の実験結果を非常によく再現できることを示 す.実験結果と解析解との最小二乗フィッティングにより,負の誘電率異方性を有する ネマティック液晶の α1,α2,α3,α4+ α5,およびプレチルト角 θoを測定する.求め た Leslie 粘性係数より算出した γ1および動粘度 ν の値は,それぞれ回転磁場法および Ubbelohdeビスコメーターによる測定値と近い値となることを示す.解析解を用いる 方法は,他の Leslie 粘性係数測定法と比較して実験系が非常に簡単であり,さらに過 渡電流の解析解が得られているため実験結果とのフィッティングをごく短時間で行うこ とができる.また,5 つ全ての Leslie 粘性係数を得ることができるため,第 4 章で導出 する γ∗ 1(θ)の値を計算することも可能となる. 第 6 章では,垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の free slip 境界条件における数値
計算と実験結果との最小二乗フィッティングによる,負の誘電率異方性を有するネマ ティック液晶の Leslie 粘性係数測定法を提案する.数値計算では第 5 章で導出する解析 解と異なり液晶セル基板付近におけるダイレクタの弾性変形領域を考慮しているため, 液晶セルのセル厚,印加電圧の大きさにかかわらず過渡電流波形を得ることができる. セル厚約 5,10,20,および 50µm の垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の実験結果と 数値計算とのフィッティングにより,各セル厚における負の誘電率異方性を有するネマ ティック液晶の α1,α2,α3,α4 + α5,および θoを測定する.全てのセル厚の垂直配 向液晶セルにおいて,過渡電流の実験結果と数値計算結果はよく一致することを示す. Leslie粘性係数の測定値は全てのセル厚においてほぼ同一の値となることを示す.以上 より,液晶テレビに用いられる垂直配向液晶セル程度の薄いセル厚においても,負の 誘電率異方性を有するネマティック液晶の Leslie 粘性係数を正確に測定できることを 示す. 第 7 章では,以上の成果を総括して本研究の結論をまとめる.今後解決すべき研究 課題についても簡単に述べる.
参考文献
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[3] F. M. Leslie, Q. J. Mech. Appl. Math. 19, 357 (1966).
[4] S. Chandrasekhar, Liquid Crystals (Cambridge University Press, Cambridge, 1992), 2nd ed.
[5] P. G. De Gennes and J. Prost, The Physics of Liquid Crystals (Oxford University Press, Oxford, 1993), 2nd ed.
[6] L. M. Blinov and V. G. Chigrinov, Electrooptic Effects in Liquid Crystal Materials (Springer-Verlag, New York, 1994).
[7] M. Kleman and O. D. Lavrentovich, Soft Matter Physics: An Introduction (Springer-Verlag, New York, 2003).
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[19] H. Naito, K. Yoshida, M. Okuda, and A. Sugimura, J. Appl. Phys. 73, 1119 (1993).
[20] M. Imai, H. Naito, M. Okuda, and A. Sugimura, Jpn. J. Appl. Phys. 33, L 119 (1994).
[21] M. Imai, H. Naito, M. Okuda, and A. Sugimura, Jpn. J. Appl. Phys. 33, 3482 (1994).
[22] M. Imai, H. Naito, M. Okuda, and A. Sugimura, Jpn. J. Appl. Phys. 34, 3170 (1995).
[23] O. Nakagawa, M. Imai, H. Naito, and A. Sugimura, Jpn. J. Appl. Phys. 35, 2762 (1996).
[24] Y. Iwata, H. Naito, M. Inoue, H. Ichinose, M. Klasen-Memmer, and K. Tarumi, Jpn. J. Appl. Phys. 43, L 1588 (2004).
[25] Y. Iwata, H. Naito, M. Inoue, H. Ichinose, M. Klasen-Memmer, and K. Tarumi, Proc. 14th Int. Display Workshops, 2007, p. 43.
[26] Y. Iwata, H. Naito, M. Inoue, H. Ichinose, M. Klasen-Memmer, and K. Tarumi, Jpn. J. Appl. Phys. 47, 8230 (2008).
[27] Y. Iwata, H. Naito, M. Inoue, H. Ichinose, M. Klasen-Memmer, and K. Tarumi, Thin Solid Films 517, 1417 (2008).
[28] Y. Iwata, H. Naito, M. Inoue, H. Ichinose, M. Klasen-Memmer, and K. Tarumi, Thin Solid Films 517, 1421 (2008).
[29] Y. Iwata, H. Naito, M. Inoue, H. Ichinose, M. Klasen-Memmer, and K. Tarumi, submitted to Phys. Rev. Lett.
[30] Y. Iwata, H. Naito, H. Ichinose, M. Klasen-Memmer, and K. Tarumi, submitted to Mol. Cryst. Liq. Cryst.
[31] 内藤裕義, 岩田洋典, 樽見和明, M. Klasen-Memmer, 一ノ瀬秀男, 井上勝, 特開
® © ª
第
2
章
垂直配向液晶セルの過渡電流:
Frank
弾
性および
Ericksen-Leslie
理論による
検討
2.1
緒言
液晶セルにステップ電圧を印加すると,ダイレクタの回転に起因した単一のピークを 有する過渡電流が流れる [1–5].正の誘電率異方性異方性を有するネマティック液晶を 封入した水平配向およびツイスト配向液晶セルに流れる過渡電流は,電流がピーク値を とる時間に対して対称な波形となる [1–5].この実験結果は流れを無視したネマティッ ク液晶の連続体理論により説明でき,正の誘電率異方性を有するネマティック液晶の回 転粘性率 γ1を決定することができる (付録 B.1 参照) [2–5].γ1は液晶表示素子の応答 時間を左右する重要な物性値である. 負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を封入した垂直配向液晶セルに流れる過 渡電流を測定したところ,ピーク時間に対して非対称な波形となり (図 2.1 および 2.2), ピーク時間は液晶の流れを無視した理論から予測される時間と比較して格段に短くなっ た.この結果は流動効果が垂直配向液晶セルのダイレクタ応答に対して重要な役割を 果たしていることを示しており,垂直配向液晶セルでは,流れを無視した理論を用い て負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の γ1を決定することができない.ネマティック液晶の流れを記述する現象理論は Ericksen と Leslie により定式化され ており,これまでネマティック液晶が示す様々な現象の説明に成功している [6–11].本 章では,Ericksen-Leslie 理論を用いて流れを考慮した場合の垂直配向液晶セルに流れ る過渡電流の数値計算を行い,実験波形との比較を行う [12].その際,垂直配向液晶 セル基板界面で発生する流れについても議論する.
0
0.5
1
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Time (ms)
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C
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rr
e
n
t
(µ
A
)
90V
80V
70V
60V
MLC-2039
experiment
calculation
図 2.1 MLC-2039を封入した垂直配向液晶セルに異なるステップ電圧を印 加した際に流れる過渡電流の,293K における実験結果および流れ の境界条件を free slip とした場合の数値計算結果.数値計算には表 2.1および 2.2 に示した MLC-2039 の物性値を用いた.0
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Mix.A
experiment
calculation
図 2.2 Mix.Aを封入した垂直配向液晶セルに異なるステップ電圧を印加し た際に流れる過渡電流の,293K における実験結果および流れの境 界条件を free slip とした場合の数値計算結果.数値計算には表 2.1 および 2.2 に示した Mix.A の物性値を用いた.2.2
実験
負の誘電率異方性を有するネマティック液晶として MLC-2039,Mix.A (メルク株式 会社) を用いた.これらのネマティック液晶を垂直配向処理を施した透明電極付きガラ ス基板によるサンドウィッチ型セル (セル厚約 20µm) に封入し,垂直配向液晶セルを作 製した.MLC-2039,Mix.A の 293K における物性値,作製した垂直配向液晶セルのセ ル厚,電極面積の値を表 2.1 に示す. 液晶セルに流れる過渡電流測定には過渡電流測定装置 (LCM-2,東陽テクニカ) を用表 2.1 MLC-2039,Mix.A の物性値.γ1は回転粘性率,ν は動粘度,K11 および K33はそれぞれスプレイおよびベンド弾性定数,ǫ⊥はダイ レクタに垂直方向の誘電定数,∆ǫ は誘電率異方性,L は液晶セル のセル厚,および S は液晶セルの電極面積である. NLC γ1 (Pa·s)a ν (mm2/s)a K11 (pN)a K33 (pN)a MLC-2039 0.163 24 15.9 18.4 Mix.A 0.133 21 13.0 15.1 ǫ a ⊥ ∆ǫa L (µm)b S (cm2)b 7.6 −4.1 21.9 1.13 7.4 −3.8 21.7 1.13 a 293Kにおけるメルク株式会社による測定値. b実験に用いた液晶セルの値. いた.測定回路を図 2.3 に示す.図 2.3 において Function generator より出力されたス テップ電圧は Adaptive low pass filter (LPF),Voltage amplifier を経由して液晶セル に印加される.Adaptive LPF は周波数帯域を時間で可変できる LPF で,極性反転が 起きる時間は高周波帯域の LPF になり,電圧が変化しない時間はほぼ DC 帯域の LPF になる.この機能を利用して安定したステップ電圧を液晶セルに供給することができ る.周波数帯域の切り替えは,Function generator から出力されるステップ電圧に同 期した TTL 信号によって制御される.また,Voltage amplifier は液晶セルに印加する Function generatorからの信号電圧を増幅する役割を持っている.液晶セルに流れる
Adaptive LPF LPF
V
Output signal Function generator TTL signal FET switch Voltage amplifierLiquid crystal cell
Sense resistor Current to voltage converter Post amplifier A/D converter 図 2.3 液晶セルに流れる過渡電流の測定回路 (LCM-2,東陽テクニカ). generatorから出力されるステップ電圧に同期した TTL 信号の状態により,測定回路の
グランド,Current to voltage converter の接続の切り替えを行う.ステップ電圧の極性 反転時に発生する Function generator からの突入電流が測定する液晶の電流変化より 大きいため,Switch は Current to voltage converter の保護のために突入電流をグラン ドに流す役割を持っている.Switch が Current to voltage converter に接続されている ときは,Sense resistor の値で液晶セルからの電流が電圧に変換され,その電圧を Post amplifierで増幅し,LPF 経由で A/D converter に入力される.A/D converter に入力 される電圧は,液晶セルに流れる電流に相当する信号である. 垂直配向液晶セルにステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流を,293K において 印加電圧を 60V から 90V まで 10V ずつ変化させて測定した.MLC-2039 および Mix.A を封入した垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の実験結果を,それぞれ図 2.1 および 2.2に示す.垂直配向液晶セルに流れる過渡電流は単一のピークを有し,ピーク時間に 対して非対称な波形となった.
2.3
理論
2.3.1
Frank
の自由エネルギー
一般に,物質に一様な歪みが加わり物質内の隣接した分子間の距離に変化が生じた 場合,その変化に抗する復元力が働く.ネマティック液晶では分子位置に関する秩序は 存在しないため,ネマティック液晶分子のダイレクタ方向の平行移動に対して復元力 は働かない.しかし,分子の方向に関する秩序は存在し,ダイレクタに空間的な不均 一さが生じたとき,その領域の自由エネルギーが増大しダイレクタ変形に対する復元 力が働く.つまり,ダイレクタの局所的な変位による弾性はネマティック液晶の大きな 特徴であり,ネマティック液晶を連続体とみなし弾性理論が展開される [9–11, 13].図 2.4に示す 3 次元直交座標系の原点においてネマティック液晶は z 軸方向に配向してい るとし,ダイレクタ n=(nx, ny, nz)(|n|=1) の空間的な変形を考える.原点から微少距 離 δx,δy,および δz 離れた点でのダイレクタの変形は以下に示すスプレイ (広がり), ツイスト (捩れ),およびベンド (曲がり) 変形の 3 種類で表される.スプレイ,ツイス ト,およびベンド変形をそれぞれ図 2.4(a),(b),および (c) に示す. スプレイ:∂nx ∂x , ∂ny ∂y ツイスト:− ∂ny ∂x , ∂nx ∂y ベンド: ∂nx ∂z , ∂ny ∂z この変形を受けたネマティック液晶の単位体積当たりの自由エネルギー密度は,一様な 配向状態を基準にして座標系に依存しない次の形で表される. felastic= 1 2[K11(divn) 2+ K 22(n · rotn)2 + K33(n × rotn)2] (2.1) ここで,K11,K22,および K33はそれぞれネマティック液晶のスプレイ,ツイスト,お よびベンド弾性定数であり,第 1,2,および 3 項はそれぞれスプレイ,ツイスト,およ びベンド変形に対応する.y ny ∂ ∂ x nx ∂ ∂ x n δ x δ δy δny
y
x
z
n
y nx ∂ ∂ x ny ∂ ∂ − x n δ x δ δy y n δ −y
x
z
n
z ny ∂ ∂ z nx ∂ ∂ y n δ z δ x n δy
x
z
n
(a)
(b)
(c)
図 2.4 3次元直交座標系におけるネマティック液晶の (a) スプレイ,(b) ツ イスト,および (c) ベンド変形.2.3.2
Ericksen-Leslie
理論
ネマティック液晶の運動は,並進運動とダイレクタの回転運動で表される.粘性,弾 性,および電場などが原因となり流体に加わる応力やトルクを考えることで,並進な らびに回転に関する運動方程式を立てることができる.流れを考慮したネマティック液 晶の一般的な保存則および力学的振舞を表す構成方程式は Ericksen と Leslie により定 式化されており,質量保存則,運動方程式,および角運動量方程式 (Ericksen-Leslie 方 程式) によって記述される [6,7,9–11]. ネマティック液晶は非圧縮性流体 (密度 ρ が定数である流体) であるとすると,質量 保存則は divv = 0 (2.2) で与えられる.ここで,v は流体の流速である. 運動方程式は ρ ˙vi = σij,j (2.3) である.ここで,i,j は x,y,または z 座標,コンマは空間座標による偏微分および 記号の上のドットは時間 t による全微分を表す.viは v の i 成分,σij は応力テンソル であり σij = −pδij − ∂f ∂nk,j nk,i+ α1ninjnknlAkl+ α2njNi +α3niNj + α4Aij + α5njnkAki+ α6ninkAkj (2.4)で表される.ここで,p は圧力,δijはクロネッカーのデルタ記号,Aij = (vi,j+ vj,i)/2, Ni = ˙ni− (vi,j− vj,i)nj/2,および k,l は x,y,または z 座標である.αi(i = 1, 2, ..., 6) は Leslie 粘性係数であり,α2+ α3 = α6− α5の関係 (Parodi の関係) が成り立つ [9–11].
fはネマティック液晶の自由エネルギー密度であり,電場が印加されている場合,
で与えられる.fdielは外部印加電場 E による誘電エネルギー密度であり, fdiel = − 1 2D· E (2.6) で表される.ここで,D(= ˜ǫE) は電束密度, ˜ǫ = ǫo ǫ⊥+ ∆ǫn2x ∆ǫnxny ∆ǫnxnz ∆ǫnxny ǫ⊥+ ∆ǫn2y ∆ǫnynz ∆ǫnxnz ∆ǫnynz ǫ⊥+ ∆ǫn2z (2.7) は誘電テンソルであり,ǫoは真空の誘電率,∆ǫ(= ǫk− ǫ⊥)はネマティック液晶の誘電 率異方性,ǫkおよび ǫ⊥はそれぞれダイレクタに水平および垂直方向の誘電定数である. 角運動量方程式は ρ1 d dt[n × ˙n] = [n × h] − [n × (γ1N + γ2A· n)] (2.8) で与えられる.ここで,ρ1は単位体積あたりの慣性モーメント,γ1 = α3− α2,および γ2 = α3 + α2である.hiは分子場であり, hi = − ∂f ∂ni + ∂ ∂xj à ∂f ∂ni,j ! (2.9) で表される.
2.3.3
垂直配向液晶セルの電場応答を記述する基本方程式
液晶セルの基板に対して z 軸が垂直になるように 3 次元直交座標系を配置する (図 2.5).液晶セルの基板表面は z = 0,z = L に存在しているとする.このとき z 軸方向 におけるダイレクタの 1 次元変形を考える.ダイレクタの初期配向を x-z 平面内で一 様に与えると,ダイレクタはこの平面内でのみ回転する.よって,垂直配向液晶セル 内におけるネマティック液晶のダイレクタ n は n= (sin θ(z, t), 0, cos θ(z, t)) (2.10)θ
z
x
0
=
z
L
z =
v
n
y
E
図 2.5 液晶セルの座標系. で与えられる.ここで,θ(z, t) はダイレクタと z 軸とがなす角である.ダイレクタは x-z 平面内で回転するため,流れは y 軸方向には発生しない.さらに質量保存則 [式 (2.2)] より流速の z 成分は零となるため,垂直配向液晶セル内の流れは x 軸方向にのみ発生す る.したがって,液晶セルの基板に対して垂直方向 (z 軸方向) に電場を印加した際の, 垂直配向液晶セル内におけるダイレクタの運動方程式および角運動量方程式 [式 (2.3) および (2.8)] はそれぞれ a(θ)∂vx(z, t) ∂z + b(θ) ∂θ(z, t) ∂t = σ(t) (2.11) γ1 ∂θ(z, t) ∂t = g(θ) ∂2θ(z, t) ∂z2 + 1 2 dg(θ) dθ " ∂θ(z, t) ∂z #2−ǫo∆ǫE2(z, t) sin θ(z, t) cos θ(z, t)
のように導かれる (付録 A 参照).ここで,σ(t) は z に対する積分定数,E(z, t) は印加 電場の z 成分である.a(θ),b(θ),および g(θ) はそれぞれ
a(θ(z, t)) = α1sin2θ(z, t) cos2θ(z, t) +1 2[−γ2cos 2θ(z, t) + α3+ α4+ α5] (2.13) b(θ(z, t)) = 1 2[γ2cos 2θ(z, t) − γ1] (2.14) g(θ(z, t)) = K11sin2θ(z, t) + K33cos2θ(z, t) (2.15) である. 液晶セル内において空間電荷は存在しないと仮定すると,E(z, t) はポアソン方程式 ∂ ∂z[ε(z, t)E(z, t)] = 0 (2.16) によって与えられる.ここで, ε(z, t) = ǫo(ǫ⊥+ ∆ǫn2z) = ǫo[ǫ⊥+ ∆ǫ cos2θ(z, t)] (2.17) はネマティック液晶の誘電率である.
2.3.4
過渡電流の数値計算
液晶セルにステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流 I(t) は,ダイレクタの回転 に起因した変位電流であるから, I(t) = dC(t)V dt (2.18) で与えられる.ここで,V は印加電圧,C(t) は液晶セルの静電容量, C(t) = S. Z L 0 [1/ε(z, t)]dz (2.19) Sは電極面積である. 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流波形は,以下に示す (i)∼(iii) のステップを微小 時間 ∆t ごとに繰り返すことにより計算できる (付録 C.1 参照).(i). ある時間 t におけるダイレクタ分布 ni(z, t)が与えられているとき,ポアソン方程 式 [式 (2.16)] を用いて時間 t における電場分布 E(z, t) を計算する. (ii). ni(z, t),求めた E(z, t) を用いて,テイラー展開 ni(z, t + ∆t) ≃ ni(z, t) + ∆t ∂ni(z, t) ∂t (2.20) より時間 t + ∆t におけるダイレクタ分布 ni(z, t + ∆t)を n2x+ n2y+ n2z = 1(|n|=1) の条件を満たすように計算する.∂ni(z, t)/∂tは,垂直配向液晶セル内における ダイレクタの運動方程式および角運動量方程式 [式 (2.11) および (2.12)] を z 軸に 対する中心差分を用いて解くことにより求める. (iii). ni(z, t),求めた ni(z, t + ∆t)を用いて,式 (2.18) より過渡電流を計算する. 垂直配向液晶セル内におけるダイレクタの初期配向は θ(z, 0) = θoで一様であり,基板 界面でのダイレクタの境界条件は,ダイレクタが θ = θoで固定されていて回転しない 強アンカリング条件とした.ここで,θoはプレチルト角である.過渡電流の数値計算 結果は,セル厚分割幅 ∆z ≤ L/500,∆t ≤ 10−8 sで一定の波形に収束した.計算に 使用したネマティック液晶の弾性定数,誘電率などの物性値は,MLC-2039,Mix.A の 293Kにおけるメルク株式会社による測定値を用いた (表 2.1).
2.3.5
Leslie
粘性係数
液晶のような異方性を有する流体の場合,その流動方向によって粘性が異なる.した がってダイレクタの向き,トルクの働く面および回転方向と流れの状態との組合せによっ て,複数の粘性係数が存在する.ネマティック液晶では流れとダイレクタとの相対配置に より,図 2.6 に示すような 6 つの Leslie 粘性係数が存在する.ただし,α2+ α3 = α6−α5 の関係があるため,独立な成分は 5 つに限られる.α
1−α
2α
3α
4α
5α
6 図 2.6 流れとダイレクタの相対配置,およびそれに対応する Leslie 粘性係 数 αi(i = 1, 2, ..., 6). 一般に流れは非回転流と回転流の成分に分けることができるが,非回転流による粘 性は流れとダイレクタの相対的な配置から,ダイレクタにトルクを与える α5,α6と, トルクを与えない α1,α4に分けられる [14].α5と α6では応力の作用する面が異なる. また,α1はダイレクタを伸張,圧縮させる成分であり,α4は等方的な粘性係数に対応 する.回転流では対称性から相対的な配置は一通りとなり,応力が作用する面の違い により α2と α3の 2 つの場合が存在する.α2は符号の取り方の問題で,一般的に負の 値となる.表 2.2 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の数値計算に用いた MLC-2039, Mix.Aの Leslie 粘性係数 (α1,α2,α3,および α4+ α5),プレチル
ト角 θo.α1,θoの値は実験結果と数値計算とのフィッティングによ
り求めた.
NLC α1 (Pa·s) α2 (Pa·s) α3 (Pa·s) α4+α5 (Pa·s) θo (o)
MLC-2039 0.050 −0.163 0 0.211 0.13 Mix.A 0.020 −0.133 0 0.175 0.11 式 (2.11) および (2.12) を用いて垂直配向液晶セルの電場応答を数値計算するために は,5 つのネマティック液晶の Leslie 粘性係数全ての情報 (α1,α2,α3,および α4+ α5) が必要となる.しかし,実験に用いた MLC-2039,Mix.A についてのこれらの測定値 は存在しない.そこで MLC-2039,Mix.A について測定値の存在する γ1,動粘度 ν の 値 (表 2.1) を用いて,それぞれのネマティック液晶材料の α2,α3,および α4 + α5の 値を以下の手順で見積もった:一般に α3の値は他の Leslie 粘性係数の値と比較して 2 桁程度小さいため [9–11],α3 ≃ 0 と仮定した.この仮定のもとで,α2,α4+ α5と γ1, Miesowicz粘性係数 η2には次のような関係が成り立つ [9–11,15]. α2 ≃ −γ1 (2.21) α4+ α5 ≃ −α2+ 2η2 (2.22) さらに η2 ≃ ρν が成り立つと仮定すると,式 (2.21) および (2.22) に γ1,ν の測定値を代 入して計算することにより,数値計算に用いた MLC-2039,Mix.A の α2,α4+ α5の値 は,表 2.2 に示すように見積もることができる.α1の値は他の粘性係数の測定値から 見積もる方法がないため,印加電圧 90V における実験結果と数値計算とのフィッティ ングにより求めた (表 2.2).
2.3.6
流れの境界条件
一般に基板上で液晶分子は移動せず,流れは発生しないと考えられてきた [8–11].し かし,流体の流れが基板上においても発生することが最近の詳細な研究から明らかになっ ており,この現象は流体の粘性が大きいほど顕著になることも報告されている [16,17]. 液晶は大きな粘性を持つため,液晶セル内のネマティック液晶の電場応答過程におい てもこの現象を考慮する必要がある.そこで流れの境界条件として液晶分子が基板上 で固定されている場合 (no slip) に加え,液晶分子が基板上で自由に移動する場合 (freeslip) [18]についても過渡電流波形を数値計算し,実験結果との比較を行った. free slip境界条件は式 (2.11) において σ(t) = 0 であることに対応する.この理由に ついて以下に述べる:式 (2.11) より,液晶セル基板上のダイレクタの運動方程式は強 アンカリング条件のもとで次式のように表される. a(θo) ∂vx ∂z ¯ ¯ ¯ ¯ ¯z=0,L = σ(t) (2.23) Newton流体のせん断応力は速度勾配の線形関数で表されるため [11],σ(t) は基板上に おいて液晶の流れにより生じるせん断応力とみなせる.したがって,σ(t) = 0 は液晶 分子が基板上での束縛を受けず自由に移動できることを意味している.この流れにつ いての境界条件を free slip 境界条件と呼んでいる [18].
2.4
結果と考察
流れの境界条件を free slip とし,MLC-2039,Mix.A を封入した垂直配向液晶セルに ついて,印加電圧を 60V から 90V まで 10V ずつ変化させて行った過渡電流の数値計算 結果をそれぞれ図 2.1 および 2.2 に示す.MLC-2039,Mix.A ともに理論から予測され る過渡電流は非対称な波形となり,実験結果とよく一致した.
垂直配向液晶セル内で発生する流れおよびその境界条件がダイレクタの電場応答に 与える影響を調べるために,流れを考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),流
20 40 60 0 0 1 2
Time (ms)
MLC-2039 experiment calculation with fluid flow no-slip boundarycondition free-slip boundary
condition without fluid flow
C
u
rr
e
n
t
(µ
A
)
図 2.7 MLC-2039を封入した垂直配向液晶セルに 90V のステップ電圧を印 加した際に流れる過渡電流の,293K における実験結果および流れ を考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),流れを無視した 場合における数値計算結果.数値計算には表 2.1 および 2.2 に示し た MLC-2039 の物性値を用いた. れを無視した場合 (vx = 0)の過渡電流を数値計算した.MLC-2039 を封入した垂直配 向液晶セルに 90V のステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流の,流れを考慮した 場合,流れを無視した場合における数値計算結果を,293K における実験結果とともに 図 2.7 に示す.流れを考慮した場合の数値計算による過渡電流のピーク時間は,流れを 無視した場合と比較して大幅に短くなった.この結果はダイレクタの電場応答過程に おいて,垂直配向液晶セル内で発生する流れがダイレクタの回転を加速させているこ とを示している.しかし,no slip 境界条件において数値計算した過渡電流のピーク値は,実験結果と比較すると遅い時間に現れている.これに反して free slip 境界条件に おいて数値計算した過渡電流波形は,先ほども示したように実験結果とよく一致した. 異なるセル厚,印加電圧においても流れを考慮した場合,流れを無視した場合の垂直 配向液晶セルに流れる過渡電流の数値計算を行ったが,すべての条件において free slip 境界条件を仮定した際の過渡電流が最も速い応答を示した.以上より,垂直配向液晶 セル内におけるダイレクタの回転は,流動効果および液晶分子が基板上で自由に動く ことによって加速されることがわかった.
2.5
結言
負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を封入した垂直配向液晶セルに流れる過 渡電流は,ピーク時間に対して非対称な波形となることを見出した.実験結果を説明 するために,流れを考慮したネマティック液晶の連続体理論 (Ericksen-Leslie 理論) を用 いて垂直配向液晶セルに流れる過渡電流の数値計算を行った.流れを考慮して数値計 算した過渡電流のピーク時間は,流れを無視した場合と比較して非常に短くなること がわかった.垂直配向液晶セル基板上における流れがダイレクタの電場応答に与える 影響を調べるために,流れの境界条件を no slip,free slip とした場合について過渡電流 の数値計算を行った.流れの境界条件を free slip として数値計算した過渡電流のピー ク時間は,no slip の場合と比較して短くなった.free slip 境界条件とした場合の過渡電 流波形は実験結果とよく一致した.したがって,垂直配向液晶セル内におけるダイレ クタの電場応答は free slip 境界条件下の流れによって著しく速くなることがわかった.参考文献
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[17] E. Bonaccurso, H.-J. Butt, and V. S. J. Craig, Phys. Rev. Lett. 90, 144501 (2003).
® © ª
第
3
章
水平配向および垂直配向液晶セルの電場
応答における流動効果の影響
3.1
緒言
ネマティック液晶ではダイレクタの配向変化にともなう流動変化が生じ,流れとダイ レクタの回転とが相互に複雑な影響を与え合うため,流れの効果は液晶表示素子の電 気光学応答を左右する.そのため,これまでダイレクタの配向と流れとの相互作用に ついて多くの研究がなされてきた [1–9]. 第 2 章では,負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を封入した垂直配向液晶セ ルに流れる過渡電流が,流れを考慮しその境界条件を free slip とすることにより説明 できることを示した.一方,正の誘電率異方性を有するネマティック液晶を封入した水 平配向およびツイスト配向液晶セルに流れる過渡電流は,流れを無視したネマティック 液晶の連続体理論により説明できる [10–14].配向方式の異なる液晶セルに流れる過渡 電流についてのこれらの結果の相違は,流れがダイレクタ再配向に与える影響の大き さが液晶セルの初期配向に依存することを示唆している. 本章では,正の誘電率異方性を有するネマティック液晶を封入した水平配向液晶セル および負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を封入した垂直配向液晶セルに電場 を印加した際の,ダイレクタ再配向過程における流動効果を明らかにする [15,16].は じめに,水平配向および垂直配向液晶セルにステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流の実験結果を示す.次に Ericksen-Leslie 理論 [1,2,4–6] を用いて,流れを考慮した 場合の水平配向および垂直配向液晶セル内におけるダイレクタの運動方程式,角運動 量方程式の導出を行い,さらに液晶セルに流れる過渡電流についての基本方程式を示 す.これらの方程式を用いて水平配向および垂直配向液晶セルに流れる過渡電流を数 値計算し,それぞれの実験結果との比較を行う.液晶セル内における流動効果の影響 は,ダイレクタ分布,流速分布,および流れがダイレクタに及ぼすトルクを,異なる 流れの境界条件下で数値計算することにより議論する.
3.2
実験
正および負の誘電率異方性を有するネマティック液晶として,それぞれ ZLI-2293 お よび MLC-2039(メルク株式会社) を用いた.これらのネマティック液晶を配向処理を施 した透明電極付きガラス基板によるサンドウィッチ型セルに封入し,水平配向および垂 直配向液晶セルを作製した.ZLI-2293,MLC-2039 の 293K における物性値,作製した 水平配向および垂直配向液晶セルのセル厚,電極面積の値を表 3.1 に示す.液晶セルに 流れる過渡電流測定には過渡電流測定装置 (LCM-2,東陽テクニカ) を用いた. ZLI-2293を封入した水平配向液晶セルに,293K において 20V のステップ電圧を印 加した際に流れる過渡電流の実験結果を図 3.1,MLC-2039 を封入した垂直配向液晶セ ルに,293K において 90V のステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流の実験結果を 図 3.2 に示す.実験に用いた水平配向および垂直配向液晶セルのセル厚はそれぞれ 5.8 および 21.9µm であるため,同程度の大きさの電場において両液晶セルのダイレクタ再 配向への流動効果を吟味することを目的とし,異なる大きさのステップ電圧を印加し た.水平配向および垂直配向液晶セルに流れる過渡電流はともに単一のピークを有す る.水平配向液晶セルに流れる過渡電流はピーク時間に対して対称な波形となったが, 垂直配向液晶セルに流れる過渡電流はピーク時間に対して非対称な波形となった.表 3.1 ZLI-2293,MLC-2039 の物性値.γ1は回転粘性率,ν は動粘度,K11 および K33はそれぞれスプレイおよびベンド弾性定数,ǫ⊥はダイ レクタに垂直方向の誘電定数,∆ǫ は誘電率異方性,L は液晶セル のセル厚,および S は液晶セルの電極面積である. NLC γ1 (Pa·s)a ν (mm2/s)a K11 (pN)a K33 (pN)a ZLI-2293 0.150 21 11.8 17.0 MLC-2039 0.163 24 15.9 18.4 ǫ a ⊥ ∆ǫa L (µm)b S (cm2)b 4.0 9.9 5.8 2 7.6 −4.1 21.9 1.13 a 293Kにおけるメルク株式会社による測定値. b実験に用いた液晶セルの値.
3.3
理論
3.3.1
水平配向または垂直配向液晶セルの電場応答を記述する基本方
程式
液晶セルの基板に対して z 軸が垂直になるように 3 次元直交座標系を配置する.液 晶セルの基板表面は z = 0,z = L に存在しているとする.このとき z 軸方向における ダイレクタの 1 次元変形を考える.ダイレクタの初期配向を x-z 平面内で一様に与え ると,ダイレクタはこの平面内でのみ回転する.よって,時間 t での水平配向または垂200 300 400 100 0 0 0.5 1
Time (ms)
C
u
rr
e
n
t
(µ
A
)
homogeneous ZLI-2293 cell experiment
calculation with fluid flow no-slip boundary
condition free-slip boundary
condition without fluid flow
図 3.1
ZLI-2293を封入した水平配向液晶セルに 20V のステップ電圧を印
加した際に流れる過渡電流の,293K における実験結果および流れ を考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),流れを無視した 場合における数値計算結果.数値計算には表 3.1 および 3.2 に示し た ZLI-2293 の物性値を用いた. 直配向液晶セル内におけるネマティック液晶のダイレクタ n は n= (sin θ(z, t), 0, cos θ(z, t)) (3.1) で与えられる.ここで,θ(z, t) はダイレクタと z 軸とがなす角である.ダイレクタは x-z 平面内で回転するため,流れは y 軸方向には発生しない.さらに質量保存則 (divv=0, vは流体の流速) より流速の z 成分は零となるため,液晶セル内の流れは x 軸方向にの み発生する.したがって,液晶セルの基板に対して垂直方向 (z 軸方向) に電場を印加 した際の,水平配向または垂直配向液晶セル内におけるダイレクタの運動方程式およ
20 40 60 0 0 1 2
Time (ms)
homeotropic MLC-2039 cell experiment calculation with fluid flow no-slip boundarycondition free-slip boundary
condition without fluid flow
C
u
rr
e
n
t
(µ
A
)
図 3.2 MLC-2039を封入した垂直配向液晶セルに 90V のステップ電圧を印 加した際に流れる過渡電流の,293K における実験結果および流れ を考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),流れを無視した 場合における数値計算結果.数値計算には表 3.1 および 3.2 に示し た MLC-2039 の物性値を用いた. び角運動量方程式はそれぞれ a(θ)∂vx(z, t) ∂z + b(θ) ∂θ(z, t) ∂t = σ(t) (3.2) γ1 ∂θ(z, t) ∂t = g(θ) ∂2θ(z, t) ∂z2 + 1 2 dg(θ) dθ " ∂θ(z, t) ∂z #2−ǫo∆ǫE2(z, t) sin θ(z, t) cos θ(z, t) −b(θ)∂vx(z, t)
のように導かれる (付録 A 参照).ここで,vx(z, t)は流速の x 成分,σ(t) は z に対する
積分定数,ǫoは真空の誘電率,∆ǫ はネマティック液晶の誘電率異方性,および E(z, t)
は電場の z 成分である.a(θ),b(θ),および g(θ) はそれぞれ a(θ(z, t)) = α1sin2θ(z, t) cos2θ(z, t)
+1 2[−γ2cos 2θ(z, t) + α3+ α4+ α5] (3.4) b(θ(z, t)) = 1 2[γ2cos 2θ(z, t) − γ1] (3.5) g(θ(z, t)) = K11sin2θ(z, t) + K33cos2θ(z, t) (3.6) である.ここで,K11および K33はそれぞれネマティック液晶のスプレイおよびベン ド弾性定数,αi(i = 1, 2, ..., 5)は Leslie 粘性係数,γ1 = α3− α2は回転粘性率,および γ2 = α3+ α2である. 液晶セル内において空間電荷は存在しないと仮定すると,E(z, t) はポアソン方程式 ∂ ∂z[ε(z, t)E(z, t)] = 0 (3.7) によって与えられる.ここで, ε(z, t) = ǫo[ǫ⊥+ ∆ǫ cos2θ(z, t)] (3.8) はネマティック液晶の誘電率であり,ǫ⊥はダイレクタに垂直方向の誘電定数である.
3.3.2
過渡電流の数値計算
液晶セルにステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流 I(t) は,ダイレクタの回転 に起因した変位電流であるから, I(t) = dC(t)V dt (3.9)で与えられる.ここで,V は印加電圧,C(t) は液晶セルの静電容量, C(t) = S. Z L 0 [1/ε(z, t)]dz (3.10) Sは電極面積である. 液晶セルに流れる過渡電流波形は,式 (3.2),(3.3),(3.7),および (3.9) を数値的に 解くことにより得ることができる (付録 C.1 参照).水平配向または垂直配向液晶セル 内におけるダイレクタの初期配向は θ(z, 0) = θoで一様であり,基板界面でのダイレク タの境界条件は,ダイレクタが θ = θoで固定されていて回転しない強アンカリング条 件を仮定した.ここで,θoはプレチルト角である.過渡電流の数値計算結果は,セル 厚分割幅 ∆z ≤ L/1000,微小時間幅 ∆t ≤ 10−8 sで一定の波形に収束した.計算に使 用したネマティック液晶の弾性定数,誘電率などの物性値は,ZLI-2293,MLC-2039 の 293Kにおけるメルク株式会社による測定値を用いた (表 3.1).
3.3.3
Leslie
粘性係数
式 (3.2) および (3.3) を用いて水平配向および垂直配向液晶セルの電場応答過程を数値 計算するためには,ネマティック液晶の 5 つの Leslie 粘性係数全ての情報 (α1,α2,α3, および α4+ α5)が必要となる.正の誘電率異方性を有する ZLI-2293 の α2,α3,およ び α4+ α5の値は報告されているが (表 3.2) [7],負の誘電率異方性を有する MLC-2039 の Leslie 粘性係数についての測定結果は存在しない.そこで測定値の存在する γ1,動 粘度 ν の値 (表 3.1) を用いて,MLC-2039 の α2,α3,および α4 + α5の値を 2.3.5 節と 同様の以下の手順で見積もった:一般に α3の値は他の Leslie 粘性係数の値と比較して 2桁程度小さいため [4–7],α3 ≃ 0 と仮定した.この仮定のもとで,α2,α4+ α5と γ1, Miesowicz粘性係数 η2には次のような関係式が成り立つ [4–6,17]. α2 ≃ −γ1 (3.11) α4+ α5 ≃ −α2+ 2η2 (3.12)表 3.2 数値計算に用いた ZLI-2293,MLC-2039 の Leslie 粘性係数 (α1,α2, α3,および α4 + α5),プレチルト角 θo.α1,θo の値は ZLI-2293,
MLC-2039ともに実験結果と数値計算とのフィッティングにより求
めた.
NLC α1 (Pa·s) α2 (Pa·s) α3 (Pa·s) α4+α5 (Pa·s) θo (o)
ZLI-2293 0 −0.151a −0.002a 0.189a 84.1 MLC-2039 0.050 −0.163 0 0.211 0.13 a 293Kにおける測定値 [7]. さらに η2 ≃ ρν が成り立つと仮定すると,式 (3.11) および (3.12) に MLC-2039 の γ1,ν の測定値を代入して計算することにより,数値計算に用いた MLC-2039 の α2,α4+ α5 の値を表 3.2 に示すように見積もることができる.ここで,ρ はネマティック液晶の密 度である.ZLI-2293,MLC-2039 ともに α1の値のみ実験結果と数値計算とのフィッティ ングにより求めた (表 3.2).
3.4
結果と考察
3.4.1
過渡電流への流動効果の影響
水平配向および垂直配向液晶セル内で発生する流れおよびその境界条件が液晶セル に流れる過渡電流波形に与える影響を調べるために,流れを考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),流れを無視した場合 (vx= 0)の過渡電流を数値計算した.no
slip境界条件は,液晶セル基板上で流れは発生しないという条件である.これに対し
(3.2)において σ(t) = 0 に対応する [9].
ZLI-2293を封入した水平配向液晶セルに 20V のステップ電圧を印加した際に流れる
過渡電流の,流れを考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),流れを無視した 場合における数値計算結果を図 3.1 に示す.free slip 境界条件において数値計算した過 渡電流は実験結果と異なる波形となった.一方,no slip 境界条件において数値計算し た過渡電流波形は実験結果とよく一致した.流れを無視した場合の過渡電流の数値計 算結果も実験波形と一致していることから,水平配向液晶セルに流れる過渡電流に流 れが与える影響は非常に小さいことがわかった. MLC-2039を封入した垂直配向液晶セルに 90V のステップ電圧を印加した際に流れ
る過渡電流の,流れを考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),流れを無視し た場合における数値計算結果を図 3.2 に示す.水平配向液晶セルの場合とは異なり,垂 直配向液晶セルにおいて測定された過渡電流のピーク時間は,流れを無視して数値計 算した過渡電流のピーク時間と比較して大幅に短くなった.no slip 境界条件における 数値計算による過渡電流のピーク値は,流れを無視した場合と比較して早い時間に現 れるが,実験結果と比較すると依然として遅い時間に現れている.そこで free slip 境 界条件を仮定して過渡電流の数値計算を行ったところ,計算波形は実験波形とよく一 致した.この結果は,垂直配向液晶セルの応答時間が free slip 境界条件下の流動効果 により短縮されることを示している.
3.4.2
電場応答過程におけるダイレクタ分布および流速分布
ZLI-2293を封入した水平配向液晶セルに 20V のステップ電圧を印加した際の,流れを考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),および流れを無視した場合におけ るダイレクタ再配向過程の数値計算結果をそれぞれ図 3.3(a),(b),および (c) に,no
slipおよび free slip 境界条件における流速分布の数値計算結果をそれぞれ図 3.4(a) およ
45 90 0 0 5.8 z (µm) 0.5 ms 1 ms 0.3 ms 0.1 ms 0 ms (a) θo θ (d e g ) 45 90 0 0 5.8 z (µm) 0.5 ms 0.4 ms 0.3 ms 0.1 ms 0 ms (b) θo θ (d e g ) 45 90 0 0 5.8 z (µm) 0.5 ms 1 ms 0.3 ms 0.1 ms 0 ms (c) θo θ (d e g ) 図 3.3 ZLI-2293を封入した水平配向液晶セルに 20V の電圧を印加した際
の,(a)no slip 境界条件,(b)free slip 境界条件,および (c) 流れを無 視した場合におけるダイレクタ分布の時間変化の数値計算結果.数 値計算には表 3.1 および 3.2 に示した ZLI-2293 の物性値を用いた.
0 0.5 -0.5 0 5.8 z (µm) (a) 0 ms 0.1 ms 0.3 ms 0.5 ms 1 ms vx (m m /s) 0 10 -10 0 5.8 z (µm) (b) 0 ms 0.1 ms 0.3 ms 0.4 ms 0.5 ms vx (m m /s) 図 3.4 ZLI-2293を封入した水平配向液晶セルに 20V の電圧を印加した際
の,(a)no slip 境界条件,(b)free slip 境界条件における流速分布の 時間変化の数値計算結果.数値計算には表 3.1 および 3.2 に示した
L
z =
0
=
z
E
図 3.5 水平配向液晶セルの電場応答におけるダイレクタ再配向過程. 3.4.1節で述べたように,水平配向液晶セルに流れる過渡電流の実験波形は,流れを 考慮しその境界条件を no slip とした場合の数値計算によって説明できるが,流れを無 視した場合の数値計算結果ともよく一致する.これは水平配向液晶セルの電場応答過 程において発生する流速 [図 3.4(a)] が無視できるほど小さいためであり,流れを考慮 し no slip 境界条件とした場合と流れを無視した場合のダイレクタ分布の計算結果 [図 3.3(a)および (c)] がよく一致していることより,水平配向液晶セルの電場応答における ダイレクタの回転は流れによって加速されないことがわかる. MLC-2039を封入した垂直配向液晶セルに 90V のステップ電圧を印加した際の,流れを考慮した場合 (no slip および free slip 境界条件),および流れを無視した場合にお けるダイレクタ再配向過程の数値計算結果をそれぞれ図 3.6(a),(b),および (c) に,no
slipおよび free slip 境界条件における流速分布の数値計算結果をそれぞれ図 3.7(a) およ
び (b) に示す.no slip および free slip 境界条件における垂直配向液晶セル内のダイレ クタは,それぞれ図 3.8(a) および (b) に示すように再配向する.図 3.8(b) は流れを無 視した場合における垂直配向液晶セルのダイレクタ再配向過程にも対応している.
45 90 0 0 21.9 z (µm) 0.4 ms 0 ms 0.6 ms 1 ms 2 ms (a) θo -45 -90 θ (d e g ) 45 90 0 0 21.9 z (µm) 1.6 ms 0 ms 0.2 ms 0.4 ms 1 ms (b) θo θ (d e g ) 45 90 0 0 21.9 z (µm) 3 ms 0 ms 1 ms 1.6 ms 2 ms (c) θo θ (d e g ) 図 3.6 MLC-2039を封入した垂直配向液晶セルに 90V の電圧を印加した際
の,(a)no slip 境界条件,(b)free slip 境界条件,および (c) 流れを無 視した場合におけるダイレクタ分布の時間変化の数値計算結果.数 値計算には表 3.1 および 3.2 に示した MLC-2039 の物性値を用いた.
0 10 -10 0 21.9 z (µm) (a) 0 ms 0.4 ms 0.6 ms 1 ms 2 ms vx (m m /s) 0 40 -40 0 21.9 z (µm) (b) 0 ms 0.2 ms 0.4 ms 1 ms 1.6 ms 20 -20 vx (m m /s) 図 3.7 MLC-2039を封入した垂直配向液晶セルに 90V の電圧を印加した際
の,(a)no slip 境界条件,(b)free slip 境界条件における流速分布の 時間変化の数値計算結果.数値計算には表 3.1 および 3.2 に示した
L
z =
0
=
z
E
(a)
L
z =
0
=
z
E
(b)
図 3.8 垂直配向液晶セルの電場応答における,(a)no slip 境界条件,およ び (b)free slip 境界条件または流れを無視した場合のダイレクタ再 配向過程.3.4.1節で示したように,垂直配向液晶セルに流れる過渡電流は,流れの境界条件を free slipとすることにより説明できる.図 3.6(b) および (c) より,free slip 境界条件にお けるバルクのダイレクタは,流れを無視した場合と比較して速く回転していることが 確認できる.free slip 境界条件の場合のバルクのダイレクタ [図 3.6(b)] が一様に再配向 しているのに対して,流れの境界条件を no slip とした場合のダイレクタ分布 [図 3.6(a)] は複雑な再配向過程を示している.図 3.7(a) および (b) の流速を比較すると,no slip 境 界条件では基板上で流れが発生しないことにより,液晶セル内全域で流れが制限され ていることがわかる.基板付近の流れは特に強い制限を受けることになり,基板に近 づくにしたがって流速は小さくなっていく.そのため,基板付近における速度勾配は バルクにおける速度勾配とは逆になり,流れがダイレクタに及ぼすトルクもバルクと 基板付近では逆方向に働く.したがって,基板付近のダイレクタは流れによりバルク のダイレクタとは逆方向に回転させられることになるため,流れの境界条件が no slip の場合には図 3.6(a) に示したような複雑なダイレクタ分布となる.
3.4.3
ネマティック液晶の流れにより発生するトルク
ネマティック液晶の流れが存在する場合,流れによってトルクが発生しダイレクタの 回転を加速させる.水平配向または垂直配向液晶セル内で,流れにより発生する単位 体積あたりのトルク Γ (z, t) は次式で与えられる. Γ(z, t) = −b(θ(z, t))∂vx(z, t) ∂z (3.13) 式 (3.13) は角運動量方程式 [式 (3.3)] の右辺最終項である.−b(θ) は Γ(z, t) の有効粘性係 数を表しており,Γ (z, t) は −b(θ) および流速の勾配に依存する.−b(θ) は θ(z, t) の関数 となっているため,速度勾配の大きさが等しくても速度勾配に対するダイレクタの方向 により Γ (z, t) は大きく異なる.垂直配向および水平配向液晶セルのバルクではダイレク タ分布 [図 3.3(a) および 3.6(b)],流速の勾配 [図 3.4(a) および 3.7(b)] がともに一様であ0 0.16 0.04 0 1
Time (ms)
homogeneous NLC cell homeotropic NLC cell 0.12 0.08 0.2 0.5-b
(
P
a
s)
図 3.9 ZLI-2293を封入した水平配向液晶セルに 20V の電圧を印加し,流 れの境界条件を no slip とした際,および MLC-2039 を封入した垂 直配向液晶セルに 90V の電圧を印加し,流れの境界条件を free slip とした際の −b(θ(L/2, t)) の数値計算結果.数値計算には表 3.1 およ び 3.2 に示した ZLI-2293,MLC-2039 の物性値を用いた. るから,バルクにおける Γ (z, t) も一様となり,Γb(t) = −b(θ(L/2, t))∂vx(z, t)/∂z|z=L/2 で与えられる. ZLI-2293を封入した水平配向液晶セルに 20V の電圧を印加し,流れの境界条件を no slipとした際,および MLC-2039 を封入した垂直配向液晶セルに 90V の電圧を印加し, 流れの境界条件を free slip とした際の,−b(θ(L/2, t)) および |Γb(t)| の数値計算結果を それぞれ図 3.9 および 3.10 に示す.電場印加直後の水平配向および垂直配向液晶セル の −b(θ(L/2, t)) はそれぞれ α3および −α2と近似できる.一般にネマティック液晶では0 400 0 1