第 4 章 垂直配向液晶セルの電場応答における Leslie 粘性係数の影響 55
4.3 結果と考察
4.3.1 Leslie 粘性係数がダイレクタ再配向に与える影響
負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の
Leslie
粘性係数が垂直配向液晶セルの 電場応答におけるダイレクタ再配向に与える影響を調べるために,流れを考慮しfree
slip
境界条件において過渡電流,ダイレクタのバルクでのチルト角θ
b(t)[= θ(L/2, t)]
の 数値計算を行った.free slip境界条件は式(2.11)
においてz
に対する積分定数σ(t) = 0
であることに対応する.ここで,Lは液晶セルのセル厚である.α
1,α2,α3,およびα
4+ α
5 の値を変化させたときの,印加電圧90V
における過 渡電流,θb(t)
の数値計算結果を,それぞれ図4.1,4.2,4.3,および 4.4
に示す(各図
において,α1,α2,α3,およびα
4+ α
5のうち1
つの値だけを変化させ,変化させたLeslie
粘性係数以外の値は表4.1
に示したMLC-2039
の値で固定した).各Leslie
粘性 係数の値を変化させた範囲は,Leslie粘性係数の測定値が存在する数種類のネマティッ ク液晶の値を参考にして[6, 12, 17],η
2> 0
の条件を満たすように決定した.ここで,η
2= (α
2+ 2α
3+ α
4+ α
5)/2
はMiesowicz
粘性係数であり,常に正の値となる[4–6]. α
1,α
2,およびα
4+ α
5の値は等しい範囲で変化させた.一般にα
3の値は他のLeslie
粘性 係数の値と比較して2
桁程度小さいため[4–6],α
3の値を変化させた範囲は他のLeslie
粘性係数の値を変化させた範囲の5%とした.図 4.1–4.4
に示した計算結果より得られ た知見を以下に示す:(i). α
1の値が増加するにしたがって,過渡電流のピーク時間は変化しないが,ピー ク時間付近の電流値は減少し,t≃ 0.3ms
以降の電流値はわずかに増加している.しかし,電流波形の変化はそれほど大きくなく,
α
1がダイレクタ再配向に与える 影響は小さい.(ii). α
2の値が変化すると,過渡電流波形,θ
b(t)
は大きく,複雑に変化している.これは,
α
2が流れのみでなくダイレクタの回転に対しても直接的に影響を与える(
式(2.11)
および(2.12)
中の∂v
x/∂z
,∂θ/∂t
のどちらの係数にもα
2が含まれる)
ためであると考えられる.(iii). α
3の値の増加にともないダイレクタの回転はわずかに遅くなるため,ピーク時間は遅くなり電流のピーク値は小さくなる.しかし,
α
3の値は他のLeslie
粘性係 数の値と比較して非常に小さいため[4–6]
,図4.3
からわかるようにα
3が垂直配 向液晶セル内のダイレクタ再配向に与える影響は小さい.(iv).
ダイレクタの回転はα
4+ α
5の値が減少するにしたがって速くなるため,過渡電0 0.5 1
Time (ms)
0 20 40 60 80
C u rr e n t ( µ A )
-0.08 Pa s -0.04 Pa s 0 Pa s 0.04 Pa s 0.08 Pa s
α
1(a)
0 0.5 1
Time (ms)
0 45 90
θ
b( d e g )
-0.08 Pa s -0.04 Pa s 0 Pa s 0.04 Pa s 0.08 Pa s
α
1(b)
図
4.1
α
1の値を変化させた際の,印加電圧90V,free slip
境界条件におけ る垂直配向液晶セルの(a)
過渡電流,(b)θb(t)
の数値計算結果.数 値計算には表4.1
に示したMLC-2039
の物性値を用いた.0 0.5 1
Time (ms)
0 20 40 60 80 100 120 140
C u rr e n t ( µ A )
-0.2 Pa s -0.16 Pa s -0.12 Pa s -0.08 Pa s -0.04 Pa s
α
2(a)
0 0.5 1
Time (ms)
0 45 90
θ
b( d e g )
-0.2 Pa s -0.16 Pa s -0.12 Pa s -0.08 Pa s -0.04 Pa s
α
2(b)
図
4.2
α
2の値を変化させた際の,印加電圧90V
,free slip
境界条件におけ る垂直配向液晶セルの(a)
過渡電流,(b)θb(t)
の数値計算結果.数 値計算には表4.1
に示したMLC-2039
の物性値を用いた.0 0.5 1
Time (ms)
0 20 40 60 80
C u rr e n t ( µ A )
-0.004 Pa s -0.002 Pa s 0 Pa s 0.002 Pa s 0.004 Pa s
α
3(a)
0 0.5 1
Time (ms)
0 45 90
θ
b( d e g )
-0.004 Pa s -0.002 Pa s 0 Pa s 0.002 Pa s 0.004 Pa s
α
3(b)
図
4.3
α
3の値を変化させた際の,印加電圧90V,free slip
境界条件におけ る垂直配向液晶セルの(a)
過渡電流,(b)θb(t)
の数値計算結果.数 値計算には表4.1
に示したMLC-2039
の物性値を用いた.0 0.5 1 1.5
Time (ms)
0 20 40 60 80
C u rr e n t ( µ A )
0.18 Pa s 0.22 Pa s 0.26 Pa s 0.3 Pa s 0.34 Pa s
α
4+α
5(a)
0 0.5 1 1.5
Time (ms)
0 45 90
θ
b( d e g )
0.18 Pa s 0.22 Pa s 0.26 Pa s 0.3 Pa s 0.34 Pa s
α
4+α
5(b)
図
4.4
α
4+ α
5の値を変化させた際の,印加電圧90V
,free slip
境界条件 における垂直配向液晶セルの(a)
過渡電流,(b)θ
b(t)
の数値計算結 果.数値計算には表4.1
に示したMLC-2039
の物性値を用いた.流のピーク時間は短くなりピーク値は大きくなる.この結果は,α4
+ α
5の値の 減少にともなって流速が速くなり,それによりダイレクタの回転が加速されるこ とを示唆している.図
4.1–4.4
全ての計算結果より,垂直配向液晶セルの電場応答におけるダイレクタ再配向には,α2,α4
+ α
5の寄与がα
1,α3と比較して非常に大きいことがわかった.これ はVA
方式の液晶表示素子の応答時間が,負の誘電率異方性を有するネマティック液晶 のα
2,α4+ α
5に支配されることを示している.
ドキュメント内
負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の過渡応答に関する研究
(ページ 59-65)