第 3 章 水平配向および垂直配向液晶セルの電場応答における流動効果の影響 32
3.3 理論
3.3.1 水平配向または垂直配向液晶セルの電場応答を記述する基本方
程式
液晶セルの基板に対して
z
軸が垂直になるように3
次元直交座標系を配置する.液 晶セルの基板表面はz = 0
,z = L
に存在しているとする.このときz
軸方向における ダイレクタの1
次元変形を考える.ダイレクタの初期配向をx-z
平面内で一様に与え ると,ダイレクタはこの平面内でのみ回転する.よって,時間t
での水平配向または垂200 300 400
100
0 0 0.5 1
Time (ms)
C u rr e n t ( µ A )
homogeneous ZLI-2293 cell experiment
calculation with fluid flow no-slip boundary
condition free-slip boundary
condition without fluid flow
図
3.1
ZLI-2293
を封入した水平配向液晶セルに20V
のステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流の,
293K
における実験結果および流れ を考慮した場合(no slip
およびfree slip
境界条件),流れを無視した 場合における数値計算結果.数値計算には表3.1
および3.2
に示し たZLI-2293
の物性値を用いた.直配向液晶セル内におけるネマティック液晶のダイレクタ
n
はn = (sin θ(z, t), 0, cos θ(z, t)) (3.1)
で与えられる.ここで,θ(z, t)
はダイレクタとz
軸とがなす角である.ダイレクタはx-z
平面内で回転するため,流れはy
軸方向には発生しない.さらに質量保存則(div v =0
,v
は流体の流速)
より流速のz
成分は零となるため,液晶セル内の流れはx
軸方向にの み発生する.したがって,液晶セルの基板に対して垂直方向(z
軸方向)
に電場を印加 した際の,水平配向または垂直配向液晶セル内におけるダイレクタの運動方程式およ20 40 60
0 0 1 2
Time (ms)
homeotropic MLC-2039 cell experiment
calculation with fluid flow no-slip boundary
condition free-slip boundary
condition without fluid flow
C u rr e n t ( µ A )
図
3.2
MLC-2039
を封入した垂直配向液晶セルに90V
のステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流の,
293K
における実験結果および流れ を考慮した場合(no slip
およびfree slip
境界条件),流れを無視した 場合における数値計算結果.数値計算には表3.1
および3.2
に示した
MLC-2039
の物性値を用いた.び角運動量方程式はそれぞれ
a(θ) ∂v
x(z, t)
∂z + b(θ) ∂θ(z, t)
∂t = σ(t) (3.2)
γ
1∂θ(z, t)
∂t = g(θ) ∂
2θ(z, t)
∂z
2+ 1 2
dg(θ) dθ
"
∂θ(z, t)
∂z
#
2− ǫ
o∆ǫE
2(z, t) sin θ(z, t) cos θ(z, t)
− b(θ) ∂v
x(z, t)
∂z (3.3)
のように導かれる
(付録 A
参照).ここで,vx(z, t)
は流速のx
成分,σ(t)はz
に対する 積分定数,ǫoは真空の誘電率,∆ǫはネマティック液晶の誘電率異方性,およびE(z, t)
は電場のz
成分である.a(θ),b(θ),およびg(θ)
はそれぞれa(θ(z, t)) = α
1sin
2θ(z, t) cos
2θ(z, t) + 1
2 [ − γ
2cos 2θ(z, t) + α
3+ α
4+ α
5] (3.4) b(θ(z, t)) = 1
2 [γ
2cos 2θ(z, t) − γ
1] (3.5) g(θ(z, t)) = K
11sin
2θ(z, t) + K
33cos
2θ(z, t) (3.6)
である.ここで,K
11およびK
33はそれぞれネマティック液晶のスプレイおよびベン ド弾性定数,α
i(i = 1, 2, ..., 5)
はLeslie
粘性係数,γ
1= α
3− α
2は回転粘性率,およびγ
2= α
3+ α
2である.液晶セル内において空間電荷は存在しないと仮定すると,
E(z, t)
はポアソン方程式∂
∂z [ε(z, t)E(z, t)] = 0 (3.7)
によって与えられる.ここで,
ε(z, t) = ǫ
o[ǫ
⊥+ ∆ǫ cos
2θ(z, t)] (3.8)
はネマティック液晶の誘電率であり,ǫ⊥はダイレクタに垂直方向の誘電定数である.3.3.2 過渡電流の数値計算
液晶セルにステップ電圧を印加した際に流れる過渡電流
I(t)
は,ダイレクタの回転 に起因した変位電流であるから,I(t) = dC(t)V
dt (3.9)
で与えられる.ここで,V は印加電圧,C(t)は液晶セルの静電容量,
C(t) = S .
Z
L0
[1/ε(z, t)]dz (3.10)
S
は電極面積である.液晶セルに流れる過渡電流波形は,式
(3.2),(3.3),(3.7),および (3.9)
を数値的に 解くことにより得ることができる(付録 C.1
参照).水平配向または垂直配向液晶セル 内におけるダイレクタの初期配向はθ(z, 0) = θ
oで一様であり,基板界面でのダイレク タの境界条件は,ダイレクタがθ = θ
oで固定されていて回転しない強アンカリング条 件を仮定した.ここで,θoはプレチルト角である.過渡電流の数値計算結果は,セル厚分割幅
∆z ≤ L/1000,微小時間幅 ∆t ≤ 10
−8s
で一定の波形に収束した.計算に使用したネマティック液晶の弾性定数,誘電率などの物性値は,
ZLI-2293,MLC-2039
の293K
におけるメルク株式会社による測定値を用いた(表 3.1).
3.3.3 Leslie 粘性係数
式
(3.2)
および(3.3)
を用いて水平配向および垂直配向液晶セルの電場応答過程を数値計算するためには,ネマティック液晶の
5
つのLeslie
粘性係数全ての情報(α
1,α2,α3, およびα
4+ α
5)
が必要となる.正の誘電率異方性を有するZLI-2293
のα
2,α3,およ びα
4+ α
5の値は報告されているが(表 3.2) [7],負の誘電率異方性を有する MLC-2039
の
Leslie
粘性係数についての測定結果は存在しない.そこで測定値の存在するγ
1,動粘度
ν
の値(表 3.1)
を用いて,MLC-2039のα
2,α3,およびα
4+ α
5の値を2.3.5
節と 同様の以下の手順で見積もった:一般にα
3の値は他のLeslie
粘性係数の値と比較して2
桁程度小さいため[4–7],α
3≃ 0
と仮定した.この仮定のもとで,α2,α4+ α
5とγ
1,Miesowicz
粘性係数η
2には次のような関係式が成り立つ[4–6, 17].
α
2≃ − γ
1(3.11)
α
4+ α
5≃ − α
2+ 2η
2(3.12)
表
3.2
数値計算に用いたZLI-2293,MLC-2039
のLeslie
粘性係数(α
1,α2,α
3,およびα
4+ α
5)
,プレチルト角θ
o.α
1,θ
o の値はZLI-2293
,MLC-2039
ともに実験結果と数値計算とのフィッティングにより求めた.
NLC α
1(Pa · s) α
2(Pa · s) α
3(Pa · s) α
4+α
5(Pa · s) θ
o(
o) ZLI-2293 0 − 0.151
a− 0.002
a0.189
a84.1
MLC-2039 0.050 − 0.163 0 0.211 0.13
a
293K
における測定値[7].
さらに
η
2≃ ρν
が成り立つと仮定すると,式(3.11)
および(3.12)
にMLC-2039
のγ
1,ν の測定値を代入して計算することにより,数値計算に用いたMLC-2039
のα
2,α4+ α
5の値を表
3.2
に示すように見積もることができる.ここで,ρはネマティック液晶の密 度である.ZLI-2293, MLC-2039
ともにα
1の値のみ実験結果と数値計算とのフィッティ ングにより求めた(表 3.2).
ドキュメント内
負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の過渡応答に関する研究
(ページ 36-41)