博 士 ( 歯 学 ) 今 渡 隆 成
学 位 論 文 題 名
胚性腫細 胞株 P19EC 細胞の静脈麻酔薬による 細胞 死に関す る研究
学位論文内容の要旨
I.緒言
静脈内に薬物を投与し て麻酔状態を得る方法を静 脈麻酔法といい,このときに用いられる薬剤を静 脈麻酔薬という,バルビ ツレー卜,ベンゾジアゼビ ン誘導体,propofolなどの一部の静脈麻酔薬には 何らかの脳保護作用があることが報告される一方,propofol,ketamineなどの静脈麻酔薬は細胞死を引 き起こすことが報告され ているが,その詳細は不明 な部分も多い,
そ こで 静脈 麻 酔薬 の神経細 胞死に対する作用を調べるこ とを目的として,胚性腫細 胞株P19EC細 胞に対するpropofol,pentobarbitalおよびketamineの作用を調べた.またP19EC細胞が神経細胞に 分化することにより,細胞膜の膜構造が変化するという報告があることから,静脈麻酔薬の作用が細胞 分化によりどのような影 響を受けるかも検討した.
n.材料お よび方法
静脈麻酔薬 として2,6―diisopropyl phenol (propofol),
5―ethyl―5― [1―methylbutyl]―2,4,6−trioxohexahydropyrimidine (pentobarbital)および 2− [2―chlorophenyl]−2←[methylamino]−cyclohexanone (ketamine)を 使 用 し た , 神経 系細 胞 のモ デル とし てマ ウ スの 胚性 腫細 胞株P19EC細胞を使用し ,lOYo牛胎仔血清を添加し たa―MEMを 用い,5% CO。―95rYo空気 下(37℃)で通法により培養 した.また,P19EC細胞の神経細胞 ーの分化は ,McBurneyらの方法に基づ ぃて行った,
まず,静 脈麻酔薬による細胞死を確 認するために,麻酔薬作用後 の細胞内ATP量の測定を行っ た,
P19EC細胞 を96穴プ レー 卜 で培 養し ,pentobarbitaJとketamineはa−MEMに溶解し,propofolは懸 濁して作用 させた.最終濃度は,それ ぞれ,0.08〜2.00mM,0.146〜3.645 mM,0.046^‑0.927mMとし た.麻酔薬 添加後24,48,72時間後にVjaLight'Ri PlusIくit,Wallac 1420 ARVOsxマルチラベルカウ ンタを用い て細胞内ATP量の測定を行っ た.
次 に 細 胞 死 の 様 式 を 調 べ る た め に ,DNA断 片 化 の 確 認 , 乳 酸 脱 水 素 酵 素 (lactate dehydrogenase:LDH)活性の測定,caspase3/7活性の測定を行った,培養した細胞に0.7 mM propofol, 0.5 mM pentobarbitalおよび0.9 mM ketamineを24時間作用させた後に,DNA z01rRlを用いてDNAを 回 収, 臭化 エ チジ ウム 含有1% アガ ロー ス ゲル で電気泳動を行ってDNAを 確認した,また,P19EC細 胞を螢光測 定用96穴ブレートに播種し ,前述と同様な条件下で培養 ,培養2日目に0.7 mM propofol,
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0.5 mM pentobarbitalあ る い は0.9 mM ketamineを 細 胞 に0,1,3,6時 間 作 用 さ せ た 後 , CytoToxーOneTM Homogeneous Membrane Integrity AssayによりLDH活性を測定した,Caspase3/7 活 性 はLDH活 性 の 測 定 と 同 様 の 条 件 下 で ,P19EC細 胞 を 発 光 測 定 用96穴 プ レ ー ト に 培 養 し , Caspase―Glo rM3/7 Assayを用いて測定した,
最後にアポトーシ スの経路を調べるために活 性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の測定と,前 初 期 遺伝 子(c‑らscうm)のmRNA発現 を確 認 した ,前 述と 同様 な 条件 下でP19EC細 胞を 螢光 測 定 用96穴 プレ ー卜 に培 養 し,aminopheり1nuorescein(APF)を 用 いてROSに属するヒド ロキシルラ ジカル(.oH),バーオキシナイトライト(ONoo.)及び次亜塩素イオン(.0C1)の測定を行った.また 前初期遺伝子は前 述と同様な条件下で麻酔薬 を0,0.5,1,3,6,12およ び24時間作用させ,全RNA を抽 出,cDNA合成後,RT−PCR法 により得られた増幅産物を 臭化エチジウム含有1%アガ ロースグル を用いて電気泳動し,確認した.
統 計 学 的 検 定 に は pairedt―testを 用 い , 5% 以 下 の 危 険 率 で 有 意 差 あ り と し た ,
m.結果と考察
P19EC細 胞に静脈麻酔薬を作用させる と,propofol,pentobarbital,ketamineのいずれの麻酔薬に お いて も麻 酔 薬の 濃度 およ び時 間 に依存 した細胞内ATP量の減少が観 察された,レチノイン酸非作 用 群で は,24時間後に細胞が50%減少する 麻酔薬の濃度(Co.5)は,propofol,pentobarbital, ketamineではそれぞれ0.7 mM,0.5 mM,0.9 mM程度であった,
レチ ノイ ン 酸作用後,細胞の形態は線維 芽細胞様から初代培養の神 経細胞に類似した形態に変化 した,また,Co.5はpropofol,pentobarbital,ketamineのJr匱に0,9mM,1.1 mM,2.1 mMと増加した.以 上 の結 果か ら 神経細胞ヘ分化することによ って静脈麻酔薬による細胞 死に対する抵抗性が増大する ことが明らかになった.これは神経細胞に分化することによってレセブターの発現などに変化が生じて,
麻酔薬に対 する感受性が低下した可能性が考えられる.また,pentobarbitalとketamineのCo.5(0.5 mM及 び0.9 mM)は マ ウ ス に お け る50%致 死 の 腹 腔 内 濃 度(pentobarbitaJのLD50二ニ0.4 mM及び keta.mineのLDso二ニ0.73 mM)に類似し ていることから,静脈麻酔薬の有害作用を調べる有用なモデル としてP19EC細胞を用いことが可能だと考えられた.
静 脈 麻 酔 薬 作 用24時 間後 のDNAを 電 気泳 動す ると ,全 て の麻 酔薬 にお いてDNAの梯 子 状( ラダ ー )パ 夕← ン が認 めら れた ,ま た 全ての 麻酔薬でLDH活性を基に計算 した細胞障害率は,統計的に 有 意な 変化 は なかった.一方,caspase3/7活性は経時的な上昇を認め た.以上の結果から本研究で 認 め ら れ た 静 脈 麻 酔 薬 に よ る 細 胞 死 の 様 式 は ア ポ ト ー シ ス で あ る と 推 測 さ れ た , 神経細胞 におけるcaspase活性化の機 序として,ROS産生,c‑fos,c―.血竹などの前初期遺伝子の発 現 など が考 え られ てい る, 今回 用 いた 麻酔 薬をP19EC細 胞に 作用させ てもROS産生の増加は観察さ れなかった ,よって,アボ卜ーシスにROS産生は関与していなぃか ,仮に関与があるとしてもAPFで検 出しなぃスーパーオキシドか過酸化水素であることが考えられた,また,種々のストレスによるアポトー シスの誘導 においてシグナルの伝達に 関与するMAP(mitogen−activatedprotein)キナーゼ経路に,
1V.結論
高濃度の静脈麻酔薬は,神経細胞にアボトーシスによる細胞死を引き起こすこと及び未分化の 細胞の方が感受性が高いことが明らかになった.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
胚 性腫細胞株P19EC 細胞の静脈麻酔薬による 細胞死 に関する 研究
審査 は , 審査委 員全員 の出席の 下に口頭 試問の 形式によ り行わ れた.申 請者に 対して提 出論文 と そ れ に 関 連 し た 学 科 目 に つ い て 試 問 を 行 っ た . 審 査 論 文 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る .
propofol,ketamineな どの静脈 麻酔薬 は細胞死 を引き 起こすこ とが報 告されて いるが,その詳 細は不 明な部分 も多い .そこで静脈麻酔薬の神経細胞死に対する作用を調べることを目的として,
胚性 腫 細 胞 株P19EC細 胞 に対 す るpropofol,pentobarbitalおよ ぴketamineの作 用を調べ た.ま たP19EC細 胞 が神経 細胞に分 化する ことによ り,細 胞膜の膜 構造が 変化する という報 告があ るこ と か ら , 静 脈 麻 酔 薬 の 作 用 が 細 胞 分 化 に よ り ど の よ う な 影 響 を 受 け る か も 検 討 し た . 静 脈 麻 酔薬 と し てpropofol,pentobarbitalお よ ぴketamineを 使 用した .神経系 細胞のモ デ ルとし てマウス の胚性 腫細胞株P19EC細 胞を使用 した.ま た,P19EC細胞の 神経細 胞への分化は,
McBurneyらの方法に基づいて行った.
ま ず , 静脈 麻酔薬 による細 胞死を 確認する ために ,麻酔薬 作用後 の細胞内ATP量の 測定を 行っ た.pentobarbitalとketamineはa―MEMに溶 解 し ,propofolは 懸 濁し て作用 させた. 最終濃 度 は,それぞれ,0. 08 ‑‑2. 00 mM,0.146〜3.645 mM,0.046〜O.927mMとした,麻酔薬添加後24,48, 72時間後に細胞内ATP量の測定を行った.
次 に 細 胞 死 の 様 式 を 調 べ る た め に ,DNA断 片 化 の 確 認 , 乳 酸 脱 水 素 酵 素 (lactate dehydrogenase: LDH) 活 性 の測 定 ,caspase3/7活 性 の 測定 を 行 った, 培養し た細胞に0.7mM propofol,0.5mM pentobarbitalおよび0.9mM ketamineを24時間 作用させ た後に,DNAを回収,
臭化 エ チ ジ ウム含 有1% アガロ ースグル で電気泳 動を行 ってDNAを確認 した.ま た,P19EC細胞を 螢光 測 定 用96穴 プ レー ト に 播種 し , 前述 と同様 な条件下 で培養し ,0.7 mM propofol,0.5 mM
昭 明
信
和 邦
正
島 木
藤
福 鈴
進
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
させ,ROSに属するヒドロキシルラジカル(.OH),パーオキシナイトライト(ONOO‑)及び次亜塩素イ オン(‑OCl)の 測定を 行った. また前 述と同様 な条件下で麻酔薬を作用させ,全RNAを抽出,cDNA合 成後,RT―PCR法により 得られた増幅産物を臭化エチジウム含有1%アガロースゲルを用いて電気泳 動して前初期遺伝子を確認した.
P19EC細 胞に静 脈麻酔薬 を作用 させると ,propofol,pentobarbital,ketamineのいずれの麻酔 薬 にお いて も麻酔薬 の濃度 および時 間に依 存した細 胞内ATP量の減 少が観察 された ,レチノ イン 酸非作用群では,24時間後に細胞が50%減少する麻酔薬の濃度(Co.5)は,propofol,pentobarbital, ketamineで はそ れ ぞ れ0.7mM,0,5mM,0.9 mM程度 であった のに対 し,レチ ノイン酸 作用後 は 0.9 mM,1.1mM,2.1 mMと増加 した,以 上の結 果から神経細胞へ分化することによって静脈麻酔 薬によ る細胞死 に対す る抵抗性 が増大 すること が明ら かになっ た.これ は神経細胞に分化するこ とによ ってレセ プター の発現な どに変 化が生じ て,麻 酔薬に対 する感受 性が低下した可能性が考 えられ る.また ,pentobarbitalとketamineのCo.5は マウスに おける50y0致死の腹腔内濃度に類 似 して いる ことから ,静脈 麻酔薬の 有害作 用を調べ る有用 なモデル としてP19EC細胞 を用いこ と が可能だと考えられた.
静 脈 麻 酔薬 作 用 後のDNAを 電 気 泳動す ると,全 ての麻 酔薬にお いてDNAの梯子 状(ラダ ー)パ タ ーン が 認 めら れ た .ま た 全 ての 麻 酔 薬でLDH活性 を 基 に計 算し た細胞障 害率に 変化はな く,
caspase3/7活性 は経時的 な上昇 を認めた ことから ,本研 究で認め られた 静脈麻酔薬による細胞死 の様式はアポトーシスであると推測された.
神経細胞におけるcaspase活性化の機序として,ROS産生,c―・fos, c‑junなどの前初期遺伝子の 発 現な ど が 考え ら れ てい る . 今回 用い た麻酔薬 をP19EC細胞に作 用させて もROS産生の増 加や,
c‑ fos及 びc‑junの発現に 変化は認 められ なかった ことか ら,アポ トーシ スの誘導 にこの経 路は 関与していないものと推測された.
以上よ り,高 濃度の静 脈麻酔薬 は神経 細胞にア ポトー シスによ る細胞 死を引き起こすこと,及 ぴ未分化の細胞の方が感受性が高いことが明らかになった,
論文 審査にあ たって ,論文申 請者に よる研究 要旨の説 明後, 本研究な らびに関連する研究につ い て 口 頭 試 問 を 行 っ た , 主 な 質 問 事 項 は ,1)c‑りscむmを 調 べ た理 由 ,2) 細 胞 内ATP量 と 生 存 細胞 数 の 相関 ,3)全 身 麻 酔薬の作 用機序 ,4) 分化後 の細胞で は細胞死 に対す る抵抗性 が 増 大 する理由 ,5) 麻酔薬 の脳保護 作用の 機序等で あった, これら の質問に 対して 申請者か ら適 切な 回答,説 明が得 られ,研 究の立案 と遂行 ,結果の 収集と その評価 について申請者が十分な能 カを 有してい ること が確認さ れた.本 研究は ,静脈麻 酔薬が 神経細胞 に対してアポトーシスを誘 導す ることを 示した ものであ り,その 内容が 高く評価 された .申請者 は,関連分野にも幅広い学 識を 有してい ると認 められ, さらに発 展的研 究へのモ チベー ションも 高く将来性についても評価 さ れ た . 本 研 究 業 績 は 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 に 値 す る も の と 認 め ら れ た ,
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