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Kyushu University Institutional Repository

一次運動野におけるrTMSの刺激効果に影響を与える 要因及びrTMSの刺激効果の予測に関する研究

野嶋, 和久

https://doi.org/10.15017/1931740

出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(システム生命科学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

一次運動野における rTMS の 刺激効果に影響を与える要因及び rTMS の刺激効果の予測に関する研究

2018

九州大学大学院 システム生命科学府

野嶋 和久

(3)

- 1 -

要旨

経頭蓋磁気刺激(TMS: Transcranial Magnetic Stimulation)は、脳内に誘導した電 流により神経を刺激する手法である。誘導電流により刺激を行うため、刺激の ための外科手術を行わなくて良いという利点がある。反復経頭蓋磁刺激(rTMS:

repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)は、TMSを連続して刺激する手法であ る。rTMSは脳活動を促進あるいは抑制することが可能である。

rTMS が誘発する大脳皮質興奮特性の変化は、運動誘発電位(MEP: motor evoked potential)の振幅の変化を計測することで確認されている。運動関連領域 において、1 Hz以下の低頻度rTMSによりMEPの振幅が減少し、抑制効果が、

5 Hz以上の高頻度rTMSによりMEPの振幅が増加し、促進効果が誘発されると 言われている。また、rTMSの刺激条件である刺激強度や、パルス数を強くする ことで刺激効果がより顕著に誘発されることが分かっている。

rTMSは、脳機能計測の研究ばかりでなく、脳卒中、鬱病、パーキンソン病、

慢性疼痛、ジストニア、癲癇等、様々な疾患の治療に用いられている。一例と して、脳卒中の片麻痺における治療では、一次運動野(M1: primary motor cortex) がrTMSの刺激部位に用いられている。左右の運動野は、互いに抑制しあってお り、一方の運動野が損傷を受けることによりバランスが崩れ、健側の運動野が

(4)

- 2 -

障害側の運動野を過剰に抑制することで麻痺が生じる。それゆえ、rTMSにより 健側の運動野を抑制あるいは障害側の運動野を促進することで治療が行われて いる。このように、rTMSは様々な分野で使用されている有望な刺激手法である。

しかしながら、rTMS の M1 における刺激効果の報告は多くあるものの、低 頻度rTMSに関して、刺激条件、被験者によっては促進性の刺激効果が誘発され ることが報告されている。そうしたことから、1 Hz以下のrTMSにおいて、抑 制効果が誘発される被験者と、促進効果が誘発される被験者はどこに違いがあ るのか明確になっていない。このようにrTMSの刺激効果には、刺激条件により 個人差があり、1 Hz以下のrTMSにおいて、抑制効果が誘発される被験者と促 進効果が誘発される被験者は、どこに違があるのか明確になっていない。本論 文では、MEP の波形は、大脳皮質の興奮性を反映していることから、rTMS を 与える前の MEPの特徴量に着目した。そして、rTMS が誘発する刺激効果の個 人差の原因がどこにあるのかを特定するために、rTMSの刺激効果とrTMSを与 える前の MEPの特徴量の関係を調べた。更に、rTMS の刺激条件設定に役立て るため、rTMSの刺激効果が誘発されやすい被験者と誘発されにくい被験者にお ける近似モデルを作成し、rTMSの刺激効果の推定を試みた。

左半球のM1に刺激強度とパルス数を変えた条件のrTMSを与え、その前後 でMEPを計測し、刺激前のMEPの特徴量と、rTMSを与えた後のMEPの振幅

(5)

要旨

- 3 -

変化にどのような関係があるかを調べた。その結果、rTMS を与える前の MEP の振幅とMEPの立上り潜時が刺激効果に関係があることが明らかになった。更 に、rTMSを与える前のMEPの振幅及びMEPの立上り潜時と刺激後のMEPの 振幅変化の相関関係を調べた。その結果、それぞれにおいて負の相関があるこ とが分かった。上記の結果より、rTMS の MEPの振幅が小さく、潜時が早い場 合、rTMS による抑制効果が生じにくい傾向があること、逆に、振幅が大きく、

潜時が遅い場合、抑制性の刺激効果が顕著に生じる傾向があることが明確にな った。

次に、rTMS の刺激効果の傾向を、近似モデルを作成することで示した。ま ず、計測した実験結果を基に、刺激前のMEPから、刺激効果が誘発されやすい 群と誘発されにくい群を判別する判別式を作成した。そして、それぞれの群に おける刺激強度とパルス数を変えた様々な刺激条件の rTMSを与えた後の MEP の振幅変化に対し、回帰分析を行うことで、rTMSの刺激効果の近似モデルを作 成した。当該モデルでは、rTMSの刺激条件である刺激強度とパルス数を入力と し、MEP の振幅変化が出力として算出される。刺激効果が誘発されにくい群に 関しては、刺激強度が弱い場合、促進性の刺激効果が誘発される傾向にあった。

一方、刺激効果が誘発されやすい群では、刺激強度、パルス数の条件を強くす ることで、抑制性の刺激効果がより顕著に誘発される傾向にあった。

(6)

- 4 -

ニューロンの発火数が1 HzのrTMSにより抑制された時MEPの振幅は減少 する。誘導電流の流れる方向に対し、軸索が垂直方向にあるとニューロンは発 火しやすいことが報告されており、更に、軸索における、シュワン細胞に磁場 をかけると磁界に対し垂直方向に細胞が移動することが報告されている。また、

1 HzのrTMSは、発生源が大脳皮質表層付近とされているI3-waveを誘発するニ ューロンが影響を受けることも報告されている。I3-waveを誘発するニューロン が刺激されると MEPの立上り潜時は遅くなる。これらのことから、rTMS が刺 激するニューロンの違いが、刺激前のMEPの振幅及び立上り潜時に反映されて いることが考えられる。振幅が大きく立上り潜時が長い被験者は、ニューロン の軸索の方向が誘導電流と垂直方向にある可能性があり、また、I3-waveを誘発 するニューロンが多く刺激されていることから、1 HzのrTMS の刺激により抑 制効果が顕著に生じたことが考えられる。一方、潜時が短い被験者は、ニュー ロンの軸索の方向が誘導電流と垂直方向にない可能性があり、I3-waveを誘発す るニューロンが刺激されなかったため抑制効果が生じなかったことが考えられ る。更に、本研究の結果では刺激強度、パルス数を大きくすることで、MEP の 抑制が顕著に生じていることから、刺激範囲が広がり、rTMSによる磁場の影響 を受けるニューロンの数が増加したことが考えられる。上記の機序より、軸索 の方向と発火するニューロンの数が1 Hz のrTMSの影響を受け変化が生じたこ

(7)

要旨

- 5 -

とからMEPが減少したことが考えられる。また、刺激前の軸索の方向及びニュ ーロンの発火数の違いが、各被験者における個人差を示しており、rTMSを与え る前のMEPの振幅と潜時に現れた可能性がある。そして、近似モデルにおいて、

刺激効果が誘発されにくい群においては刺激強度が弱い場合、促進効果が誘発 される傾向にあった。一方、刺激効果が誘発されやすい群においては、刺激強 度が強く、パルス数が多い場合、抑制効果が顕著に誘発される傾向にあった。

こうした傾向は、同じ刺激条件でも刺激効果が、促進性であったり、抑制性で あったりするといった従来の報告と一致しており、従来の研究における被験者 の特徴がそれぞれの群における被験者の特徴と類似した結果、生じたと考えら れる。

本論文の研究結果は、刺激前のMEPの振幅とMEPの立上り潜時が刺激効果 に影響を与えることを示したものであるが、これまで報告されているrTMSの刺 激効果の個人差の一因を明らかにしたとも考えられる。また、作成した近似モ デルにより、刺激効果が誘発されにくい群と誘発されやすい群における刺激効 果の傾向を推定することが可能となった。更に、本研究の結果は、健常者に対 する抑制性の刺激条件におけるものである。脳卒中の片麻痺の治療において、

健側の運動野の興奮性を抑制することで治療が行われていることから、そうし た治療を行う際にも役立つ知見であると考えられる。刺激前のMEP特徴量を調

(8)

- 6 -

べること及び本研究で作成された近似モデルを参考にすることにより、抑制効 果が生じる傾向にあるのかを判断し、治療を行うことで、患者の負担を減らす ことができる。また、rTMSは、脳卒中の片麻痺以外の疾患の治療や脳機能研究 にも用いられているため、本論文で得られた知見は、そうした分野の研究を行 う上で重要な情報となり得る。

(9)

- 7 -

謝辞

本研究を行うにあたり、勉強不足の私を終始御丁寧に御指導くださいました システム生命科学府の先生方、特に、伊良皆啓治教授に厚く御礼申し上げます。

教授には、研究の機会を与えたいただいただけでなく、本研究を遂行するにあ たり、生命科学、脳科学の分野の魅力をご教示いただいた上、長年にわたり、

献身的なご指導をいただきました。更に、数多くの国内学会及び国際学会での 発表の機会をいただき、貴重な経験をさせていただきました。

また、研究を進めるにあたって、建設的な御助言をいただいた、Johan Lauwereyns教授、岡本剛准教授に感謝の意を表します。

研究だけでなく私生活の面において、お世話になった、卒業された方々を含 め、伊良皆研究室の皆様に厚く御礼申し上げます。

最 後 に 、 本 研 究 の 一 部 は 、 特 別 研 究 員 奨 励 費(24-413)及 び 、 基 盤 研 究

(B)21300168の助成を受け遂行されました。

(10)

- 8 -

目次

要旨 1

謝辞 7

目次 8

1章 序論

1.1 TMS の基礎

1.1.1 経頭蓋磁気刺激 11

1.1.2 運動誘発電位 18

1.1.3 rTMSの刺激頻度による効果 20

1.1.4 rTMSの刺激強度による効果 21

1.1.5 rTMSのパルス数による効果 22

1.2 本論文の目的 23

2

rTMSの刺激効果に影響を与えている MEPの特徴

2.1 要旨 26

2.2 実験方法 27

(11)

目次

- 9 -

2.3 結果 32

2.4 考察 40

2.5 結論 45

3

限定された rTMSの刺激効果における近似モデル

3.1 要旨 47

3.2 実験方法 48

3.3 結果 54

3.4 考察 66

3.5 結論 70

4

総合討論及び展望

4.1 刺激強度とパルス数 74

4.2MEPの振幅及び立上り潜時 76

4.3本研究の展望 78

5章 結論 80

参考文献 83

(12)

- 10 -

1 章 序章

(13)

1 序論

- 11 -

1.1 TMS

の基礎

1.1.1

経頭蓋磁気刺激

経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)とは、頭皮上に設置し たコイルにパルス電流を流し、脳内に誘導した電流により、非侵襲的に神経を 刺激する手法である。刺激コイルに短時間、大きな電流をかけ急速に流すと、

その磁束変化に応じてコイルに流した電流と逆向きの誘導電流(渦電流)がコイ ルの周りに誘導される。TMS は、この渦電流により、コイル直下の神経を刺激 する手法である。頭蓋骨は、電気抵抗が高く電流を当てても脳に電流が入らな いように脳を保護している組織である。この電気抵抗を超えて電流を流すため には、高電圧電気刺激のようにかなり大きな電流を使用して刺激することにな り、痛みが大きい。これに対して、磁場は骨の抵抗を受けることなく、真空で 磁場を発生したのと同じ事が、頭蓋骨があっても起きる。変動磁場を発生させ ると、脳の中にも真空と同じだけの変動磁場が誘導される。この変動磁場に対 応するだけの誘導電流が、頭蓋骨内の神経組織にも誘導される。この誘導電流(渦 電流)は、他の方法で誘導したものと同じ電流であるので、頭蓋骨を開けて脳に 直接電流を流したのと同様の変化を誘発できる。TMSは、この誘導電流により、

脳細胞を刺激する刺激法である(Rothwell, 1997)。

(14)

序論

- 12 -

1896年、d’Arosovalは電磁誘導の原理により変動磁場が生体に対して作用す

る こ と を 示 し た 。 彼 は 42 Hz の 変 動 磁 場 の 中 に 頭 を 入 れ る と 閃 光 (magetophosphene)が見え、めまいがし、一部の被験者は失神したと報告している (Arsonval, 1896)。 その後、1911年、Silvanus P. Thompsonは、32巻きのコイル

に500 Aの電流を流し、コイルの間に頭を入れると微かなちらつきの無い光が見

えたと報告している(Thompson, 1910)。

1985年、イングランドのシェフィールドにおいて、Anthony Barkerらが初め て、頭皮上に置いたコイルにより大脳皮質を経皮的に刺激し、腕や足の筋を収 縮させることを実現した(Baker et al., 1985)。直径10 cmの平面コイルにキャパシ Figure 1.1 Device of transcranial magnetic stimulation (TMS). TMS is a noninvasive and painless method of modifying the excitability of the cerebral cortex, which allows pulses of electricity passed through a coil placed on the scalp.

(15)

1 序論

- 13 -

タバンクからパルス磁場を放電し、刺激を行った結果、不快感や痛みはほとん ど伴わずに刺激が可能であったと報告されている。磁気刺激装置のキャパシタ

バンクは3.3 kVまで充電でき、最大4000 Aの電流が45 μHでコイルに放電され

た。コイルは絶縁性のゴムに被覆され、温度センサーを内蔵しているものであ った。最大磁場強度は約1.75 Tであり、誘導電流パルスの間隔は約0.1 msであ った。キャパシタの充電電圧を2 kV にしてコイル内に電流を流した時、ヒトの 表層の神経を十分に刺激できると報告している。この手法により、大脳皮質運 動野を刺激して末梢神経伝道路系間での興奮伝達の有無を調べることや、伝導 速度の測定等、脳機能の解明及び脳神経疾患患者の検査などが行われ、TMS の 応用が試みられた。これ以後、TMSの臨床応用が広まっていった。

TMSにより生体内に誘導される誘導電流をFigure 1.2に示す。磁気刺激は、

パルス磁場により渦電流を体内に誘導し神経の刺激を行うが、小さな部位を局 所的に刺激することは困難であり、磁気刺激の局所性を高めるための研究が行 われた。Uenoらは、渦電流密度を一点に集束させ局所的な神経の刺激を行う方 法を提案した。平面上に円形コイルを2つ並べたような形状のコイルを構成し、

このコイルにより標的を挟んで互いに逆向きのパルス磁場を誘起すれば、それ ぞれの円形コイル下の導体内には互いに逆回転の渦電流が発生する。この渦電 流は標的となる 8 字の交点において合流し渦電流密度が高まり局所的な神経刺

(16)

序論

- 14 -

激が可能となる。計算機シミュレーションにより球状媒質に誘起される渦電流 密度を計算した結果、8字コイル中心部での渦電流密度は、コイルの周辺部に比 べて約3倍上昇することが確認されている(Ueno et al., 1988)。この8字コイルは コイルの中心部での渦電流の方向をコイルの接線方向として定めることができ るという利点も有する。また、実験によっても 8 字コイルの局所刺激の有効性 が確かめられている。Uenoらは、内径65 mm、外径85 mm、5巻の8字コイル により大脳皮質運動野を刺激し、手の母指球筋より筋電図を誘導し、コイルの 位置を移動させることにより筋電図の変化を調べた。その結果、コイルを5 mm Figure 1.2 Pattern diagram of eddy current induced by TMS in the human body. A magnetic field is generated around the coil. This field penetrates the skull and induces the eddy current in the cortex.

(17)

1 序論

- 15 -

以上移動させると筋電図の振幅が極端に変化することから、8字コイルの神経刺 激分解能は5 mmであるとしている(Ueno et al., 1990)。Figure 1.3 に代表的なTMS のコイル形状を示す。円形コイルは広範囲の刺激が可能であり(Figure 1.3 (a))、8 字コイルは誘導電流が交わる部分で強め合うため局所刺激可能である(Figure

1.3 (b))。これらのコイルは、頭皮上15 mmから20 mmの深さの刺激ができる。

一方、ダブルコーンコイルは、8字コイルの結合部分に角度を加えたものであり、

30 mmから40 mm の深さの刺激が可能である(Figure 1.3(c))。こうした特性から、

ダブルコーンコイルは、深い部分に位置している下肢の運動野や小脳の刺激を 行う際に使用されている。

TMS を繰り返し行う刺激方法を反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation: rTMS)という。rTMSは、脳の活動を抑制あるいは、促進す ることができると言われており、刺激中だけではなく、刺激後においても残存 する可塑性を脳内に誘導することが可能である。これらの影響を示す脳内機構

(a) Round Coil (b) Figure of Eight Coil (c) Double-cone Coil Figure 1.3 Type of TMS Coil.

(18)

序論

- 16 -

としては、シナプスの長期増強(long-term potential: LTP)とシナプスの長期抑制 (long-term depression: LTD)に類似したものであることが示唆されている(Hess et

al., 1996; Chen et al., 1997)。また、rTMSの刺激効果は、興奮性のニューロンと抑

制性ニューロンの活動によるものだとも言われている(Pascual-Leone et al., 1994c; Kantak et al., 2010)。

これらの特性により rTMS は、運動機能(Pascual-Leone et al., 1994b)、記憶 (Cowey, 2005)、言語(Epstein et al., 2000)、認知(Robertson et al., 2003; Kramer et al., 2007)などの脳機能計測の研究に使用されている。また、医療分野において、

rTMSは、脳卒中の片麻痺(Humel et al., 2006; Málly et al., 2008)、うつ病(George et al., 1995; George et al., 2011)、パーキンソン病(Pascual-Leone et al., 1994a;

Pascual-Leone et al., 1994b; Filipović et al, 2010)、慢性疼痛(Migita et al., 1995; Leung et al., 2009)、癲癇(Tergau et al., 1999; Theodore et al., 2004)、ジストニア (Siebner et al., 1999; Murase et al., 2005; Igasaki et al., 2005)などの治療に用いられている。脳

卒中の片麻痺における治療では、一次運動野(M1: primary motor cortex)がrTMS の刺激部位に用いられている。左右の運動野は互いに抑制しあっており、一方 が損傷を受けることによりバランスが崩れ、健側の運動野が患側の運動野を過 剰に抑制する。それゆえ、rTMSにより健側の運動野を抑制あるいは患側の運動 野を促進することで治療が行われている(Hummel et al,. 2006)。うつ病の治療にお

(19)

1 序論

- 17 -

いては、左半球の前頭前野の興奮性が低下することからrTMSにより刺激を与え、

促進させることで治療が行われている(George et al., 1995)。パーキンソン病の治 療においては、運動野にrTMSを与え、運動機能を改善させることが行われてお り(Pascual-Leone et al., 1994a; Pascual-Leone et al., 1994b)、慢性疼痛においては、

rTMSを運動野に与え、体内植込み型刺激装置における治療効果を推測すること が試みられている(Migita et al., 1995)。癲癇においては、低頻度のrTMSを与え ることで、癲癇発作が減少したことが報告されている(Tergau et al., 1999)。ジス トニアにおいては、運動前野にrTMSを与え、ジストニアの症状が緩和されたこ とが報告されている(Murase et al., 2005)。

(20)

序論

- 18 -

1.1.2

運動誘発電位

親指に電極を設置し、TMSにより、大脳皮質運動野の手の親指を司る部分を 刺激すると、刺激後約20 msに筋電図波形が得られる。この筋電図波形は運動誘 発電位(MEP: motor evoked potential)と呼ばれている。Figure 1.4にTMSを与えて からMEPが誘発されるまでを示す。MEPは、ばらつきを除去するために加算平 均された波形が解析に用いられる(Caramia et al., 1988; Nielsen, 1996)。MEP は大 脳皮質興奮特性の影響を受ける(Kasai et al., 1997)。rTMSより脳活動が促進ある いは抑制されたかは、MEP の振幅の変化を計測することで確認されている (Rothwell, 1997; Mano et al., 2003; Hallett, 2007; Groppa et al., 2012)。一般的に、運 動関連領域において、1 Hz以下の低頻度rTMSによりMEPの振幅が減少し、抑 制効果が(Chen et al., 1997; Maeda et al., 2000a; Maeda et al., 2000b; Muellbacher et al., 2000; Touge et al., 2001; Fitzgerald et al., 2002; Lang et al., 2006; Berger et al.,

2011; Fischer et al., 2011)、5 Hz以上の高頻度rTMSによりMEPの振幅が増加し、

促進効果が誘発されると言われている(Pascual-Leone et al., 1994a; Pascual-Leone et al., 1994b; Pascual-Leone et al., 1994c; Berardelli et al., 1998; Maeda et al., 2000b;

Peineman et al., 2004; Iezzi et al., 2011)。

(21)

1 序論

- 19 -

Figure 1.4 Applying TMS and Inducing Motor evoked potential (MEP). When TMS is applied over a subject’s motor cortex, corticospinal neurons are activated, eliciting a descending volley to targeted muscles after 20 ms applying TMS. This elicits a muscle response referred to as a MEP.

(22)

序論

- 20 -

1.1.3 rTMS

の刺激頻度による効果

一般的に、運動野において、1 Hz以下のrTMSにより抑制効果が、5 Hz以上 のrTMSにより促進効果が誘発されると言われている。Chenらは、0.1 Hzまた は0.9 HzのrTMSを運動野に与え、0.9 HzのrTMSでMEPの振幅が減少したこ とを報告している(Chen et al., 1997)。Maedaらは、5 Hz以上の rTMSが脳活動を 興奮させ、1 Hz以下のrTMSが脳活動を抑制させることを報告している(Maeda et

al., 2000b)。Tougeらは、1 HzのrTMSを与え、MEPの振幅が刺激時間に依存し

て減少することを報告している(Touge et al., 2001)。一方で, Pascual-Leoneらは、

5 Hz、10 Hz、20 HzのrTMSを与えMEPの振幅が増加することを確認している

(Pascual-Leone, 1994c)。Peinemannらは、5 HzのrTMSを与え、MEPのamplitude が増加することを報告しており、その効果はパルス数が大きいほど顕著に生じ たと報告している(Peinemann et al., 2004)。Berardelliらは、5 HzのrTMSがMEP の振幅を増加させ、その刺激効果は 1 秒間持続することを報告している (Berardelli et al., 1998)。

上記のように、MEPの振幅は、1 Hz以下の rTMSで減少し、5 Hz以上で増加 することが知られているが、1 Hz以下の rTMS により振幅が増加したという報 告も存在する(Maeda et al., 2000a; Berger et al., 2011; Gangitano et al., 2002)。

(23)

1 序論

- 21 -

1.1.4 rTMS

の刺激強度による効果

rTMSの刺激条件である刺激強度は、rTMS の刺激効果に影響を与えている。

rTMSとMEPに関する研究において、rTMSの刺激強度に関する報告は、数多く 存在する。Fitzgeraldらは、1 Hz 900 pulsesのrTMSを85% または115% RMT (Resting Motor Threshold: 安静時運動閾値)の刺激強度で運動野に与え、MEPの振 幅とRMTの変化を調べた。85%と115% RMTの両方の刺激強度においてRMT は増加を示し、115% RMTの刺激強度rTMSを与えたの時のみ、MEPの振幅が 減少したことを報告している(Fitzgerald et al., 2002)。Langらは、1 Hz で90%と 115% RMTの刺激強度で900 pulsesのrTMSをM1に与え、MEPが90% RMTの 刺激強度で与えたときよりも115 % RMTで与えたときの方が顕著に減少するこ とを示している(Lang et al., 2006)。これらの報告は、刺激強度が強いほどrTMS の抑制効果が顕著に生じることを示したものである。これとは対照的に、Berger らは、1 Hz 600 pulsesで40%、80%、100% RMTの刺激強度のrTMSを運動野に

与え40% RMTの刺激強度でMEPが減少し100% RMTの刺激強度でMEPが増

加することを報告している(Berger et al., 2011)。

(24)

序論

- 22 -

1.1.5 rTMS

のパルス数による効果

rTMSの刺激条件であるパルス数もrTMSの刺激効果に影響を与える。 Maeda らは、1 Hz 1600 pulsesのrTMSが、1 Hz 240 pulsesのrTMSに比べ刺激効果が強 いことを示した(Maeda et al., 2000a)。TougeらとFischerらは1 Hz 95% RMTの

rTMS を運動野に与え、MEP の振幅の減少の持続時間が rTMS のパルス数に依

存することを報告している(Touge et al., 2001; Fischer et al., 2011)。Peinemannらは、

5 Hzで150 pulsesまたは1800 puslesのrTMSをM1に与え、1800 puslesのrTMS の方が、刺激効果が長い時間増加することを報告している(Peinemann et al., 2004)。

Berardelliらは5 Hz 120 % motor threshold (MT:運動閾値)で20 pulsesのrTMSを 与え、MEPの振幅がパルス数を増やす毎に増加することを示している(Berardelli et al., 1998)。Iezziらは、5 Hz 120% RMT 100 pulsesのrTMSを与え、MEPの振幅 がパルス数を増やすごとに徐々に増加することを示している(Iezzi et al., 2011)。

これらの報告は、rTMSの刺激効果が、多くのパルス数を与えることで顕著に生 じることを示唆している。

(25)

1 序論

- 23 -

1.2

本論文の目的

rTMS は、臨床現場でも多く使用されており、有望な刺激手法として注目さ れている。特に、M1におけるrTMSの刺激効果に関する報告は多数あり、1 Hz のrTMSによりMEPが減少することはよく知られている(Chen et al., 1997; Maeda et al., 2000a; Maeda et al., 2000b; Muellbacher et al., 2000; Touge et al., 2001;

Fitzgerald et al., 2002; Lang et al., 2006; Berger et al., 2011; Fischer et al., 2011)。更に、

その効果は、刺激の強度、パルス数を強くすることで、抑制効果が顕著に生じ ることが分かっている(Fitzgerald et al., 2002; Lang et al., 2006; Maeda et al., 2000a;

Touge et al., 2001; Fischer et al., 2011)。しかしながら、被験者、刺激条件によって は、1 HzのrTMSによりMEPが増加したという相反する報告も存在する(Maeda et al., 2000a; Gangitano et al., 2002; Fitzgerald et al., 2006; Berger et al., 2011;

Sommer et al., 2013)。

上記のようにrTMSの刺激効果には、刺激条件により個人差があり、1 Hz以 下のrTMSにおいて、抑制効果が誘発される被験者と促進効果が誘発される被験 者は、どこに違があるのか明確になっていない。本論文では、MEP の波形は、

大脳皮質の興奮性を反映していることから、rTMS を与える前の MEPの特徴量 に着目した。そして、rTMSが誘発する刺激効果の個人差の原因がどこにあるの

(26)

序論

- 24 -

かを特定するために、rTMSの刺激効果と rTMS を与える前の MEPの特徴量の 関係を調べた。更に、rTMSの刺激条件設定に役立てるため、rTMS の刺激効果 が誘発されやすい被験者と誘発されにくい被験者における近似モデルを作成し、

rTMSの刺激効果の推定を試みた。第2章では、rTMSが誘発する刺激効果の個 人差の原因を特定するために、刺激前のMEPの特徴量と様々な刺激条件でrTMS を与えた時の刺激効果の関係を調べた。そして、第3章では、rTMSの刺激効果 の近似モデルを作成し、刺激効果の推定を行った。

(27)

- 25 -

2

rTMS の刺激効果に影響を与えている MEP の特徴

実験 1

rTMSの刺激効果と rTMSを与える前のMEPの特徴量の関係

参考文献

Relationship between rTMS effects and MEP features before rTMS, K.

Nojima, K. Iramina, NeuroScience Letters, Vol.664C, pp.110-115, 2018.

Key words

rTMS, MEP, primary motor cortex, cortical excitability, coefficient of correlation

(28)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 26 -

2.1

要旨

rTMS は、大脳皮質興奮特性の変化を誘発することができることから、臨床 現場でも多く使用されており、有望な刺激方法として注目されている。1 Hz以 下の低頻度rTMSにより抑制効果が誘発されることはよく知られているが、被験 者、刺激条件によっては、促進効果が誘発されたという相反する報告も存在す る。本研究では、1 HzのrTMSにおいて、rTMSの刺激条件を変えたときの刺激 効果とrTMS を与える前の MEP を調べることで、rTMSの刺激効果に影響を与 えている被験者の特徴を調べた。まず、rTMSの刺激強度とパルス数を変え、rTMS を与えた前後のMEPを計測した。次に、rTMSを与える前のMEPの特徴量と、

rTMSによるMEPの振幅変化を解析した。更に、MEPの特徴量とrTMSの刺激 効果の相関を調べた。その結果、刺激前のMEPの振幅と立上り潜時がrTMSの 刺激効果に影響を与えていることが分かった。更に、これらの特徴量と rTMS の刺激効果の間には負の相関があることが分かった。特に、rTMSを与える前の MEPの振幅が小さく潜時が早い被験者において、1 HzのrTMSによる抑制効果 が誘発されにくいこと、逆に、振幅が大きく潜時が遅い被験者において、1 Hz のrTMSによる抑制効果が誘発されやすいことが分かった。本研究は、rTMSの 刺激効果とrTMSを与える前のMEPの特徴量の関係を示したものである。

(29)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 27 -

2.2

実験方法

rTMSの刺激強度とパルス数を変え、rTMSを与えた前後のMEPを計測した。

次に、rTMSを与える前のMEPの特徴量と、rTMSによるMEPの振幅変化に対 し、PLS回帰分析を行うことで、MEPのどの特徴量が刺激効果に影響を与えて いるかを調べた。更に、MEPの特徴量とrTMSの刺激効果の相関を解析した。

被験者

右利きの健常成人16 名(13 males, 3 females; aged 22–38 years)を被験者とした。

内1 名の被験者は 3 回計測を行い、2 名の被験者は 2度計測を行った。データ 数の合計は 20 であった。被験者に、rTMS の安全性、計測データの管理などを 説明し、同意を得たもとで実験を行った。本研究の実験に関しては、九州大学 の倫理委員会の了承を得たもとで行った。

実験機器

MEP は右手首に接地電極を設置し、右手の短母指外転筋(abductor pollicis brevis muscle, APB)より計測した。計測には、NeuropackX1 (Nihon Kohden, Tokyo, Japan)を用いた。Band-pass filterを5 – 3000 Hzとし、サンプリング周波数は10, 240

(30)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 28 -

Hz とした。MEP のベースラインからノイズが含まれていないことを確認した。

MEPは安静状態で4秒毎に120% RMTの強度で10 pulsesのTMSを与え、計測 した。各被験者のRMT を定める際、安静状態の被験者にTMS を左半球の運動 野に与え、MEPの振幅が10 回中5 回以上、50 μVを超える最小の機械の出力 をRMTとして定めた。

TMS発生装置はMagstim Super Rapid Stimulator (Magstim comp., Whitland, UK) を用い、半径70 mmの8 字コイルを用いた。なお、本研究では、刺激コイルを 冷却することで長時間刺激が可能なエアークールドコイルを使用した。被験者 の頭部は、チークレスト(cheek rest)により固定しrTMSのコイルはスタンドによ り設置した。これらの実験条件により刺激中のコイルの位置は維持された。TMS のコイルを誘導電流が後方から前方に流れるように設置し、二相性の刺激を行 った。刺激部位の左半球のM1の位置はBrainsight (Rogue Research Inc., Motreal, Canada)により確認した。

左半球のM1に刺激強度の異なるrTMSを与え、刺激前(baseline)と200 pulses 毎にMEPを計測した。Figure 2.1に実験の時間構成を示す。rTMSの刺激条件は、

他の低頻度の条件に比べ、抑制効果がより顕著に誘発しやすいことから1 Hzに 固定した(Muller et al., 2014)。また、閾値以上の刺激は閾値以下の刺激と効果が 異なることが報告されている(Fitzgerald et al., 2002)。そのため、rTMSの刺激条

(31)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 29 -

件は、刺激強度を各被験者のRMTの85%、100%または115%とし、1 Hzの周波 数で一つの条件に対し、合計1800 pulsesのrTMSを与えた。一度の実験の計測 時間は合計約32分ほどであった。200 pulses毎のMEP一回あたりの計測時間は、

1分(約20秒でTMSの刺激強度を設定し、4秒おきに10回のTMSを与えた。) であった。一日につき1条件(85%、100%、または115% RMT)の計測を行い、一 週間以上の間隔をあけて実験を行った。本実験は日中に行われた。

rTMS の刺激条件により、大脳皮質興奮特性がどのように変化するか調べる 為、MEPの解析を行った。まず、MEPが誘発されなかったデータを取り除いた

(全データの内 8.98%)。次に、計測した MEP の加算平均波形からピーク間振幅

を算出した。そして、刺激前後の振幅値の変化量を算出した。MEP の振幅変化 は下記の式(2.1)により算出した。

(2.1) [%]

V]

rTMS[

Before

V]

rTMS[

Before V]

rTMS[

After  

MEP

MEP modulation MEP

MEP  

 

解析には数値計算ソフトウェアの MATLAB (R2007b, The Math Works Inc., Natick, MA, USA)を用いた。

(32)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 30 -

PLS (Partial Least Squares)

回帰分析

PLS回帰分析は、独立変数と従属変数の関係を調べる手法である(Wold, 1995)。

VIP(Variable importance in projection)が各独立変数の共分散解析により計算され、

どの程度、独立変数が、従属変数に影響を与えるかを調べることができる。本 研究では、rTMSを与える前のMEPの特徴に着目し、MEPの振幅変化を従属変 数、rTMSを与える前のMEPの特徴量を独立変数とした。

解析には、それぞれの刺激強度で刺激した時の、200から1800 pulsesのrTMS を与えた後の計測データを用い、式(2.1)により解析されたMEPの振幅変化が用 いられた。MEP の振幅変化(20 assessments)は、全被験者における、すべての刺 激強度(3 conditions)、全てのパルス数(9 conditions)に対し算出した。それゆえPLS 回帰解析は各刺激強度(85%、100%、115% RMT)につき、それぞれ180のデータ (20 assessments * 9 conditions)に対し行った。

Figure 2.1 Time scale of the experiment. MEPs were measured before and after each rTMS train of 200 pulses. A total of 1800 rTMS pulses at 1 Hz were applied at 85%, 100%, or 115% of RMT.

(33)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 31 -

MEPの特徴量をFigure 2.2に示す。1) waveform (二相性か否か); 2) peak-to-peak amplitude; 3) peak-to-peak phase; (MEPのピーク間の振幅を解析) 4) onset latency (MEP の立上り潜時を解析); 5) variance of amplitude; 6) variance of phase; 7) variance of onset latencyの7個のMEPの特徴量を使用した。それゆえ、rTMSを 与える前のMEPの特徴量のデータ数は、それぞれの刺激強度の条件(85%、100%、

115% RMT)において140 (20 assessments * 7 features) であった。変動値(variance) は、刺激前の MEP の標準偏差と平均値の商により算出した変動係数を用いた。

MEPの計測時、TMSを4秒おきに10回与えた。それゆえ、刺激前のMEPに は、10 個のデータがあり、その標準偏差と平均値が計算に使用された。更に、

Spearman’s 相関係数を使用し、MEP の特徴量と MEP の振幅変化の相関が解析

された。

Figure 2.2 Features for discriminant analysis. As the feature of MEP before rTMS, waveform, peak to peak amplitude, peak to peak phase, onset latency and these variances were calculated.

(34)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 32 -

2.3

結果

Figure 2.3にPLS回帰分析の結果を示す。rTMSを与える前のMEPの特徴量

におけるVIP(Variable importance in projection)が示され、rTMSを与える前のMEP の振幅と潜時がrTMSの刺激効果に影響を与えていることが分かった。Figure 2.4

に85%RMTでrTMSを与えた時の、MEPの波形の例を示す。

更に、rTMSを与えることによるMEPの振幅変化とこれらのMEPの特徴量

(rTMS を与える前の MEP の振幅と立上り潜時)の相関を調べた。Figure 2.5、

Figure 2.6、Table 2.1に結果を示す。

Figure 2.5にrTMSを与えることによるMEPの振幅変化と刺激前のMEPの振 幅の相関を示す。rTMS の刺激効果と MEPの振幅の間には負の相関があること が分かった。

Figure 2.6にrTMSを与えることによるMEPの振幅変化と刺激前のMEPの立 上り潜時の相関を示す。85% RMT 200 - 1800 pulses の刺激強度でrTMSを与え た時の刺激効果と MEP の立上り潜時の間には負の相関があることが分かった。

また、相関値は、rTMSの刺激強度が強く、パルス数が多いほど、小さい傾向に あった。

また、Figure 2.5、2.6から、刺激前のMEPの振幅が小さく、潜時が早い時、

(35)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 33 -

弱い刺激強度、少ないパルス数の刺激条件において、促進効果が誘発されやす い傾向にあることが分かった。一方、振幅が大きく、潜時が遅い時、抑制効果 が誘発されやす傾向にあった。Figure 2.4の上の波形は、刺激前のMEPの振幅が 小さく、潜時が早い被験者であり、MEPの振幅は抑制されにくい傾向にあった。

Figure 2.4の下の波形は、刺激前のMEPの振幅が大きく、潜時が遅い被験者であ

りMEPの振幅が顕著に抑制された。

Table 2.1 にMEPの振幅変化と MEPの特徴量(rTMSを与える前のMEPの振 幅と立上り潜時)のSpearman’sの相関係数の値を示す。MEPの特徴量とMEPの

Figure 2.3 The variable of importance in projection of the MEP features before rTMS. It was found that the peak to peak amplitude and onset latency of the MEP influences the rTMS effect.

(36)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 34 -

振幅変化の間には負の相関があることが分かった。立上り潜時における相関に 関しては、rTMSの刺激強度が強く、パルス数が多いほど、小さい傾向にあった。

更に、Figure 2.7に、85%RMT、100%RMT、115%RMTの刺激強度でrTMSを 与えた時の刺激効果と、rTMS の与える前の MEP の振幅及び立上り潜時との Spearman’sの相関係を示す。Figure 2.7のデータは、Table 2.1に対し、繰り返し のない二元分散分析を行ったところ、刺激強度に有意差があったことから、各 刺激強度で、200-1800pulusesのrTMSを与えた時の振幅変化を使用した(Peak to Peak amplitude: Intensity p < 0.01, Nmuber of pulses = 0.39; Onset latency: Intensity p

< 0.05, Nmuber of pulses p = 0.28)。MEPの振幅に関しては、どの条件においても 負 の 相 関 に お け る 有 意 差 が 確 認 さ れ た(85%RMT: σ = -0.35, p < 0.0001;

100%RMT: σ = -0.47, p < 0.0001; 115%RMT: σ = -0.23, p < 0.01)。一方、立上り潜時 に関しては、85%RMT、115%RMTの刺激時には、負の相関における有意差が確 認されたが、その相関は、刺激強度を強くすることで小さくなることが分かっ た(85%RMT: σ = -0.38, p < 0.0001; 100%RMT: σ = -0.16, p < 0.05; 115%RMT: σ = -0.08, p = 0.278)。

(37)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 35 -

Figure 2.4 Example MEP waveforms after applying 85% RMT rTMS. The upper waveforms are from a subject whose MEP before rTMS showed early latency and a small amplitude, and was little affected by the 1 Hz rTMS. The lower waveforms are from a subject whose MEP before rTMS showed late latency and a large amplitude, and was easily affected by the 1 Hz rTMS.

(38)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 36 -

Figure 2.5 Correlations between rTMS effects and peak to peak MEP amplitude. Negative correlations are present between the rTMS effects and MEP amplitudes.

(39)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 37 -

Figure 2.6 Correlations between rTMS effect and onset latency. Negative correlations are present between the rTMS effects and the duration of onset after application ofying 200–1800 pulses of 85% RMT rTMS.

(40)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 38 -

Table 2.1 Spearman’s correlation coefficients between MEP modulation and MEP features (peak to peak amplitude and onset latency).

Peak to Peak Amplitude

200 pulses

400 pulses

600 pulses

800 pulses

1000 pulses

1200 pulses

1400 pulses

1600 pulses

1800 pulses

85% RMT -0.32 -0.45 -0.47 -0.48 -0.33 -0.39 -0.31 -0.31 -0.27 100% RMT -0.54 -0.52 -0.45 -0.32 -0.55 -0.58 -0.57 -0.34 -0.53 115% RMT -0.51 -0.14 -0.04 -0.34 -0.32 -0.04 -0.32 -0.28 -0.24

Onset of latency

200 pulses

400 pulses

600 pulses

800 pulses

1000 pulses

1200 pulses

1400 pulses

1600 pulses

1800 pulses 85% RMT -0.33 -0.22 -0.3 -0.4 -0.32 -0.31 -0.43 -0.47 -0.59 100% RMT -0.52 -0.01 -0.18 0.02 -0.43 -0.09 -0.01 -0.14 -0.29 115% RMT 0.06 0.01 0.19 -0.05 -0.12 -0.01 -0.29 -0.58 -0.22

(41)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 39 -

Figure 2.7 Spearman’s correlation coefficients between MEP modulation and MEP features (peak to peak amplitude and onset latency). There are negative correlations between MEP modulation and peak to peak amplitude. Although, there are negative correlations between MEP modulation and onset latency, the correlation of strong rTMS condition are small.

(42)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 40 -

2.4

考察

本研究では、1 Hz以下の低頻度rTMSにおいて、rTMSの刺激条件を変えた 時、刺激効果に与えている被験者の特徴を調べることを目的とし、rTMSを与え る前のMEPの特徴量とrTMSの刺激効果の関係を調べた。その結果、MEPの振 幅と立上り潜時がrTMSの刺激効果に強く影響を与えていることが分かった。更 に、これらのMEPの特徴量とrTMSの刺激効果の間には負の相関があることが 分かった。本研究の結果は、振幅が小さく、潜時が早い被験者は、1 HzのrTMS による抑制効果を誘発しにくく、逆に、振幅が大きく潜時が遅い被験者は1 Hz の rTMS による抑制効果を誘発しやすいことを示唆している。立上り潜時に関 して、85% RMT 200 pulsesから1800 pulsesのrTMSを与えた時、rTMSとの刺激 効果には負の相関が見られたが、刺激強度、パルス数を大きくするほどその相 関係数の値が小さいなる傾向にあった。

rTMS の刺激効果は、興奮性のニューロンと抑制性のニューロンの活動に起 因していると言われている(Pascual-Leone et al., 1994c)。TMSにより大脳皮質の ニューロンを刺激すると潜時の異なるdescending volleyが誘発される。TMSに よる複数のdescending volleyは間接的に錐体細胞を刺激していることから、潜時 が速い順にI1, I2, I3 Indirect wave(I-wave)と呼ばれる。Figure 2.8にI-waveの

(43)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 41 -

誘発に関する概略図を示す。特に、1 HzのrTMSは発生源が大脳皮質表層付近 と推定されているI3-waveに影響を与えることや(Lazzaro et al., 2004, 2010)、その 影響は MEP の振幅の変化量に関係しているという報告(Lazzaro et al., 2008, 2012)がある。また、I3-waveを誘発しやすいAnterior-Posterior方向のTMSによ るMEPの立上り潜時を調べることで、rTMS(TBS: Theta Burst Stimulation)の刺激 効果が分かれる事を示した報告(Lateral-Midline 方向の潜時を基準として解析)も ある(Hamada et al., 2013)。この報告では、I3-wave発生の為のニューロン群が刺 激されやすいかどうかでrTMSの刺激効果が変わると考察している。以上の報告 を本研究に照らし合わせて考えると、振幅が大きく、立上り潜時が遅い被験者

は、I3-waveを誘発するニューロンが多く刺激されていることから、1 HzのrTMS

の刺激により抑制効果が顕著に生じたことが考えられる。逆に、振幅が小さく、

潜時が早い被験者は、I3-waveを誘発するニューロンが刺激されなかったため抑 制効果が生じなかったことが考えられる。

(44)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 42 -

また、I3-waveを誘発するニューロンの発火数が1 HzのrTMSにより抑制さ れた時MEPの振幅は減少する。誘導電流の流れる方向に対し、軸索が垂直方向 にあるとニューロンは発火しやすいことが報告されており(Sun et al., 1998)、更 に、軸索における、シュワン細胞に磁場をかけると磁界に対し垂直方向に細胞 が移動することが報告されている(Eguchi et al., 2003)。本研究の結果では刺激強 度、パルス数を大きくすることで、MEP の抑制が顕著に生じていることから、

刺激範囲が広がり、rTMSによる磁場の影響を受けるニューロンの数が増加した ことが考えられる。軸索の方向と刺激効果の関係について、Figure 2.9に示す。

上記の機序より、軸索の方向と発火するニューロンの数が1 Hz のrTMS の Figure 2.8 Diagram of inducing I-waves. I3 wave is induced. When the neurons in the cortex are stimulated by TMS, descending volleys with different phases are induced. These descending volleys are called I1, I2, and I3 (indirect wave: I-wave), in order from early to late phase, because they are induced by the indirect stimulation of pyramidal neurons.

These I-waves elicit the MEP.

(45)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 43 -

影響を受け変化が生じたことからMEPが減少したことが考えられる。また、刺 激前の軸索の方向及びニューロンの発火数の違いが、各被験者における個人差 を示しており、rTMSを与える前のMEPの振幅と潜時に現れた可能性がある。

また、振幅が小さく、潜時が早い MEP の被験者は、弱い刺激強度、少ない パル数の刺激条件において、促進効果が誘発されやすい傾向にあった。1 Hz の rTMSによりMEPの振幅が減少することはよく知られているが、刺激条件(Maeda et al., 2000a; Berger et al., 2011)や個人差(Gangitano et al., 2002; Caparelli et al., Figure 2.9 The relatonship between directions of axon and rTMS effect. (a)The subject whose axons are not vertial to induced current is small Pre-MEP amplitude. The inhibitive rTMS effect difficully induced. (b) The subject whose axons are vertical to induced current is large Pre-MEP amplitude. The inhibitive rTMS effect easily induced.

(46)

rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 44 -

2012)によりMEPが増加する事を示唆する報告もある。我々は、これらの報告に

おける被験者のrTMSを与える前のMEPも、振幅が小さく潜時が早い可能性が あり、I3-waveを誘発するためのニューロンが十分に刺激されず、抑制効果が得 られなかったこと。そして、興奮性シナプスの活動が強く、抑制性シナプスの 活動が弱く生じたため促進効果が誘発されたと考えた (Pascual-Leone et al., 1994c)。

MEPの立上り潜時とrTMSの刺激効果の相関に関して、刺激強度が強く、パ する数が多い場合、相関係数の値が小さい傾向にあった。刺激強度が強く、パ ルス数が多い場合、より多くのニューロンが刺激される。それゆえ、ほぼ全て の被験者において抑制効果が誘発され、相関係数が小さくなったと考えられる。

上記のように、運動野において、rTMSの与える前のMEPの振幅と立上り潜 時が、刺激効果に影響を与えていることが明確になった。更に、本研究の結果 は、rTMSが誘発する刺激効果の個人差の要因の一つを特定したとも考えられる。

(47)

2 rTMSの刺激効果に影響を与えているMEPの特徴

- 45 -

2.5

結論

本件研究では、rTMSを与える前のMEPの特徴量に着目し、rTMSの刺激条 件を変えた時、刺激効果に与えている被験者の特徴を調べた。その結果、rTMS を与える前のMEPの振幅と立上り潜時が刺激効果に影響していることが分かっ た。更に、これらの特徴量とrTMSの刺激効果の間には負の相関があることが分 かった。本研究の結果は、rTMS が誘発する刺激効果の個人差の要因の一つを特 定したとも考えられる。

本章の結果を用い、rTMS の抑制効果が誘発されやすいか否かを判断するこ とができる。第3章では、rTMSの刺激効果を推定するために、限定されたrTMS の刺激効果における近似モデルを作成した。

(48)

- 46 -

3

限定された rTMS の刺激効果における近似モデル

実験 2

1 HzrTMSよる刺激効果の近似

参考文献

Prediction of Cortical Excitability Induced by 1 Hz rTMS, K.Nojima, K.

Iramina, IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering, Vol.12, No.04,pp.601-607, 2017 07.

Predicting rTMS Effect for Deciding Stimulation Parameters, K.

Nojima, Y. Katayama, K. Iramina, Proceedings of 35nd Annual International Conference of the IEEE EMBS, Institute of Electrical Electronics Engineers, SaD14.8, pp.6369-6372, 2013. 07.

Key words

rTMS, primary motor cortex, discriminant analysis, cluster analysis, regression analysis

(49)

3 限定されたrTMSの刺激効果における近似モデル

- 47 -

3.1

要旨

第2章では、刺激前のMEPの特徴量が刺激効果に関連していることが示され た。本章では、刺激前の MEPから、rTMS の抑制効果が誘発されやすいか否か を判別した。更に、抑制効果が誘発にくい群と誘発されやすい群における刺激 効果の近似モデルを作成することで、刺激効果の推定を試みた。

刺激前の MEPの特徴量から、rTMS の抑制効果が誘発されやすいか否かを判 断する判別式を作成した。そして、rTMSの抑制効果が誘発されにくい群と誘発 されやすい群、それぞれにおける近似モデルを作成した。rTMSの刺激効果が誘 発されにくい群をCluster Aとし、誘発されやすい群をCluster Bとした。

近似モデルに関して、Cluster Aでは、推定誤差は46.19%(SE: ± 2.07)であり、

Cluster Bでは 20.25%(SE: ± 1.21)であった。更に, 両方のクラスタにおいて、全 データの推定誤差の90% が推定区間に含まれていた(Cluster A: 91.11%, Cluster

B: 90.22%)。本研究で作成された判別関数及び近似モデルを使用し、rTMSを行

う前に実験計画を検討することは、有効な方法になると考えられる。

(50)

限定されたrTMSの刺激効果における近似モデル

- 48 -

3.2

実験方法

Figure 3.1に本研究の流れを示す。本研究は二部で構成される。第一部では、

刺激前の MEPの特徴量から、rTMS の刺激効果が誘発されやすいか否かを判別 するための判別関数を作成した(a)。第二部では、rTMSの刺激効果が誘発されに くい群と誘発されやすい群における近似モデルを作成した(b)。本研究において rTMS の刺激効果が誘発されにくい群を Cluster A とし、誘発されやすい群を Cluster Bとした。

Figure 3.1 Experimental diagrams.

(51)

3 限定されたrTMSの刺激効果における近似モデル

- 49 -

被験者及び実験機器

第2章で計測した実験データを使用し、判別関数(Figure 3.1(a))と近似モデルを 作成した(Figure 3.1(b))。

本章では、第2 章の実験データに加え、5名の被験者が、モデルの評価の為 の実験に参加した(3 males; aged 22–26 years)。5名の内2名は2度計測を行った。

これらの被験者は第2章の実験に参加していない被験者である。実験では、MEP をrTMSの刺激前後で計測した。rTMSの刺激条件は、1 Hz 90% RMT 500 pulses、

90% RMT 1300 pulses、95% RMT 700 pulses、100% RMT 900 pulses、105% RMT 300 pulses、110% RMT 500 pulses、110% RMT 1300 pulsesであった。被験者に、rTMS の安全性、計測データの管理などを説明し、同意を得たもとで実験を行った。

本研究の実験に関しては、九州大学の倫理委員会の了承を得たもとで行った。

3.2.1 rTMS

の刺激効果の判別関数

第2章の実験で計測したデータを基に、判別関数は作成された。まず、計測 したデータにおいて、rTMSの抑制効果が容易に誘発されたか否かを符号化する ためにクラスタ分析を行った(Figure 3.1 (a))。次に、クラスタの情報と刺激前の MEP の特徴量に対し、判別分析を行うことで判別関数が作成された。この判別

(52)

限定されたrTMSの刺激効果における近似モデル

- 50 -

関数により、rTMSの抑制効果が誘発されやすいか否かが判断できる。

クラスタ分析による

MEP

の振幅変化の符号化

rTMS による抑制効果が誘発されやすいか否かを符号化するために、第 2 章 の式(2.1)より算出した各刺激条件におけるrTMSを与えたときのMEPの振幅変 化に対し、クラスタ分析を行った。全被験者(20 subjects)における、全ての刺激 強度(3 condition: 85%RMT, 100%RMT, 115%RMT)、全てのパルス数(9 condition:

after 200 pulses, 400 pulses, 600 pulses, 800 pulses, 1000 pulses, 1200 pulses, 1400 pulses, 1600 pulses, 1800 pulses)を与えた時のMEPの振幅変化に対しクラスタ分 析は行われた。解析にはK-meansクラスタ分析が用いられた。

クラスタ分析の結果に対し、rTMS の刺激効果が誘発されにくい群を Cluster

A、誘発されやすい群をCluster Bとした。

判別関数の作成

クラスタの情報と刺激前のMEPの特徴量を判別分析により解析し、判別関数 を作成した。判別関数は、そのデータがCluster AまたはCluster Bのどちらかに属 するのかを判断することができる。

判別分析に関して、1) waveform (二相性か否か); 2) peak-to-peak amplitude; 3)

(53)

3 限定されたrTMSの刺激効果における近似モデル

- 51 -

peak-to-peak phase; (MEPのピーク間の振幅を解析) 4) onset latency (MEPの立上り 潜時を解析); 5) variance of amplitude; 6) variance of phase; 7) variance of onset latencyの7個のMEPの特徴量を使用した(第2章、Figure 2.2)。変動値(variance)は、

刺激前のMEPの標準偏差と平均値の商により算出した変動係数を用いた。MEP の計測時、TMSを4秒おきに10回与えた。それゆえ、刺激前のMEPには、10個の データがあり、その標準偏差と平均値が計算に使用された。

刺激強度が3条件、別々の日に20名の被験者が計測されたため、判別分析は、

合計60の刺激前のMEPのデータに対し行われた (20 subjects * 3 conditions)。判別 分析には、データ間のマハラノビス距離から解析を行う非線形判別分析を使用し た。

3.2.2 rTMS

の刺激効果の近似モデル

近似モデルは、rTMS の抑制効果が誘発されにくい群と誘発されやすい群に おいて作成された(Figure 3.1 (b))。このモデルを使用することにより、rTMSによ るMEPの変化を推定することができる。

(54)

限定されたrTMSの刺激効果における近似モデル

- 52 -

近似モデル

近似モデルは、rTMSの抑制効果が誘発されにくい群と誘発されやすい群のそ れぞれの刺激条件における、全被験者のデータを平均した値に対し、重回帰分 析を行うことで作成された。

重回帰分析は、独立変数により、従属変数を求めるための統計手法である。

本研究において、rTMS の刺激条件である刺激強度とパルス数が独立変数であ り、MEP の振幅変化が従属変数となる。独立変数それぞれと従属変数の関係か ら係数が求められる。解析にはJMP 11 (SAS Institute, Cary, NC, USA)を使用した。

モデルを(3.1)に示す。yはMEPの振幅変化であり、x1は刺激強度、x2 はパルス 数である。

) 1 . 3 ( ) , ( 1 2

f x x y

y: Amount of the difference of MEP amplitude,

x1: Stimulus intensity, x2: Number of pulses

rTMSの刺激条件とMEPの振幅変化の関係から、モデルとして(3.2)を作成し た。MEPの振幅変化と刺激強度、パルス数の関係は非線形であることから、x1

x2の二乗の項を、また、交互作用がある可能性も考えられることからx1x2

(55)

3 限定されたrTMSの刺激効果における近似モデル

- 53 -

積を含む式とした。

) 2 . 3 (

*

*

*

*

*

* 1 2 2 3 12 4 22 5 1 2 6

1

x x x x x x y

Coefficients: 1,2,3,4,5,6

非線形回帰分析のステップワイズ法により(3.2)の係数を定めた。この手法は、

独立変数を追加したり、除いたりして、最適な式を求める手法である。また、

モデルの推定区間はそれぞれのクラスタにおける各刺激条件(9 pulses * 3 intensities)の標準偏差から作成した。

(56)

限定されたrTMSの刺激効果における近似モデル

- 54 -

3.3

結果

本研究では、rTMS の影響を判別するための判別関数(Figure 3.1(a))と rTMS の刺激効果の近似モデル(Figure 3.1(b))を作成し、MEPの振幅変化の推定を行っ た。

3.3.1 rTMS

の刺激効果の判別関数の作成結果

MEPの振幅変化に対しクラスタ分析を行い、rTMSの抑制効果が誘発されや すいか否かを符号化した。次に、クラスタの情報と刺激前のMEPの特徴量に対 し、判別分析を行った。最終的に、計測した被験者がrTMSの刺激効果が誘発さ れやすい群か誘発されにくい群のどちらに属するのかを判断する判別関数が作 成された。

クラスタ分析の結果

Figure 3.2 に 85% RMT の刺激強度(Figure 3.2 (a))、100% RMT の刺激強度 (Figure 3.2 (b))、115%RMTの刺激強度(Figure 3.2 (c))でrTMSを与えた時の解析結 果に対し、クラスタ分析を行った結果を示す。点は、3 つの刺激強度における、

Figure 1.4 Applying TMS and Inducing Motor evoked potential (MEP). When TMS is  applied over a subject’s motor cortex, corticospinal neurons are activated, eliciting a  descending volley to targeted muscles after 20 ms applying TMS
Figure 2.1 Time scale of the experiment. MEPs were measured before and after each rTMS  train of 200 pulses
Figure 2.2 Features for discriminant analysis. As the feature of MEP before rTMS,  waveform, peak to peak amplitude, peak to peak phase, onset latency and these variances  were calculated
Table 2.1 に MEP の振幅変化と MEP の特徴量(rTMS を与える前の MEP の振 幅と立上り潜時)の Spearman’s の相関係数の値を示す。MEP の特徴量と MEP の
+7

参照

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