23 (東京女医大誌。第25巻第6号頁225−229肩召 禾0 30年6 月)
亘大児の統計的観察
1,緒 言賛育会病院産婦入科(部長 竹岡秀策)
柴
シバ 田 タ 久 ヒサ(受付 昭和30年2月16日)
巨大児の出生統計については従来より内外共に 多数報告されているが,これらの多くは推計学的 吟味に欠けている様に思われるので私は最近7年 間の賛二会病院に於ける9425台目分娩より71例の 巨大児を資料とし,特にその分娩に関する事項を 中心に推計学的観察を試みたのでここに報告す る。 2,文献概要 巨大児に関する研究は従来より数多く報告されてい る。その主なものを挙げれば外国ではEttinghaus,Fuchs, Jacoby, Starcke, Zangenmeister, Hans,本
邦に於いては,三谷,木村,中川,小西池,、岸本,今 津等の報告があり,いずれも種々な方面に亘り詳細な 観察が加えられているが,その個々の見解に於いては 必ずしも一致していない。 先づ巨大児の基準と云う問題について見ると,小畑, 今津,松本等の如く分娩障碍その他の関係から体重 3β009以上を以て巨大児となすものもあるが,然し大 部分は4,000g以上を以て巨大児としている。 諸外国に於ける頻度は,4,000g以上を巨大児として 最高8.31%から,3.42%の間にあり本邦に於ける0.788 0%から1.08%の成績に比し遥かに高率を示している。 巨大児が一般新生児に比し体格の優秀な事は当然で
第1表
世
ヨ あるが,いずれの報告に:於いても身体各部の諸計測値 は一般新生児に比し遥かに大ぎく特に頭蓋及び肩月甲の 発育が著明となっている。 叉胎盤重量,隣帯の長さも休重に伴って増加すると 云われているが然しこれらを一般新生児の所見と推計 学約に比較検討した:文献は見当らない。 一一方巨大児の母親は一般に体格栄i養共に優秀と曰わ れているが,その分娩に当っては巨大に発育した胎児 の各部分,特に頭蓋の異常発育により母児共に障碍を 招き易く従って分娩時の入工的介助の頻度も多いとさ れている。本邦諸氏の報告を見ると,分娩砲弾併症 は,三谷47.47%,木村394%,岸本50%,小西池50.3 %の高率にあり,入工的介助術の頻度も一・meに高く鉗 子分娩を例にとれば,木村4.7%,岸本5.26%,三谷 6.4%,小西池9.09%を発表し,いずれも一一般分娩に 比し高率となっているが,然しこれらの成績も推計学 的に比較検討されたものではない。 巨大児の予後に関しては一般に体重4,500g迄は普 通児と大差ないが,体重の増加するに従って次第に不 良になるものとされている。然し4,500g以下の巨大 児に於いても木村7.4%,三谷3.23%の死亡率を認め 又仮死の頻度についてはいずれの成績も高率となって いる。これらの理由から巨大児に対する処置について は一般に異常発育をさけ適当な時期に妊娠中絶を行う報告者 総分娩数巨大三分歯数頻
1 度 報告者細娩数1巨大三分鋼頁度
Winckel Enge Gossrau Fuchs Ettinghaus Blau Jacoby Starcke KOster Kau1 30,500 17,533 8,408 2,200 13,112 68,Q32 6,976 34,000 8,589 12,886 1,007 821 285 183 510 1,779 409 1,166 411 360 3.30% 4.68 3.38 8.31 3.94 2.61 5.87 3.43 4.78 2.79 中 木 岸 小 本 西 川 村 本 谷 池 院 14,027 24,058 13,628 37,685 18,763 9,425 153 190 116 297 165 71 1.09 0.79 0.858 0.789 0.879 0.754 一 22S 一のが最も合理的と云われて来た。然し三谷は巨大児に 於いても唯骨盤と児頭との不均等を認めた場合にのみ 中絶を行うべきだと云って居り,巨大児の処置と云う 問題については今後術充分考慮し検討されなければな らないと思う。 3,調査事項 1)材料 従来の報告に倣v・体重4,0009以上を以て巨大 児とし昭和21年6月より昭和28年5月に至る満7 年間の総分娩中持続36週以上の9,425例より調査 した。 2).頻度 妊娠持続36週以上のもの9,425例中巨大児は71 例でその頻度は0.75%,133回の分娩に1例であ る。(第1表) 伺年度別頻度を見ると第2表に示す如く21年22
第2表年度別頻度
であるが,最大は5,0059の女性で自然分娩を行 ってV・る。 b 身長 記載明瞭な57例の平均値は53.7cm ±0.74cmであった。(第4表) 第 4 表 身 長 例 数 % tv 49.5 50 .v 51.5 52 tv 53.5 54 tv 55.5 56 tv 57.5 58 tv 59.5 60 rv 0 11 19 17 7 3 00
19.3 33.33 29.83 12.28 5.26 57 平均値53.67 不偏分散4.57 信頼限界 O.74 巨大児i臨月産 比 率 分娩数i 総 数 昭和 21年 22年 23年 24年 25年 26年 27年 28年 o o 71 549 o o 3月31目迄 13 i 972 7 1 1,395 19 1 ’1,707 17 1 ’1,845 10 1 1,9935 i 893
1.34% O.50 1.11 0.92 0.50 0.56 o o.sle/5 1 年には1例もなくこれを23年以後と比較するに有 意の差を認めた0 3)巨大児の生下時所見 a 体重 第3表の如く大部分は第1度巨大児 第 3 自 体 第 1 度重例数小計極度
4,000rv4,0gs 4,100N4,195 4,200.v4,295 4,300tv4,395 4,400tv4,495 28 19 11 7 5 70 98.59e% 第2摩
第 3度 4,500N4,995 o 5,000以上 1 1 」 1.41 % 計 71 c 頭蓋の大きさ 巨:大児の頭蓋は一般丁丁児 に比し旧きV・ばかりでなく頭蓋が強固な為,分娩 時の応形機能に影響し分娩障碍を生じ易V・と云わ れている。 前後径 大横径 頭囲の平均値は,前後径(61 例)11.8cm±0.33cm,大横径(60例)9.7cm±1.8 cm,頭囲(60例)35.9cm±0.30cmであった。 d 三月甲周囲 巨大児は児頭の発育に比し躯幹 の発育が良好で殊に肩脾の丁丁が高度な為分娩時 その娩出に長時間を要し,仮死或は窒息死となり 揚合によっては,鎖骨切断術の様な特殊産科手術 さえ必要となって来るので,肩脾周囲は特に重要 であるが61例の平均値は38.5cm±0.94cmで肩 脾娩出にやや困難を感じたもの3例を認めて居 る。 e 胸囲 記載明瞭な60例の平均値は35・9cm ±0.53cmである。樹以上述べたすべての測定値 は一般新生児の標準値(真柄正直著最:新産科 学)と比較し有意の差を認めている。 4)胎児附属物 a 胎盤重量:胎児体重と胎盤重量との間には 一定の関係があると云われてV・るが,巨大児53例 に於ける平均値は7209±63.589となってv・ る。(第5表) 一226一25 第 5 表
胎盤重量例数 %
i 500 N 540 1 550 一. 590 1 6」O rv 640 , 650 r一 6901
700 i一 740 ii 750 rv 790 800(ノ840 1 850 tv 890 1 900 t一 940 1 gso N ggo ’1,000 rv or 3 8 3 7 5 12 3 4 2 1 9.43 5.66 15.09 5.66 1321 9.44 22.22 5.66 7.55 3.77 1.89 平均値720 不偏分散1.83 信頼限界 63.58 53 第 7 表i母体身長1例数
% tv144.5 145rv149.5 150rv154.5 155rv159.5 160tv164.5 165rv 3 7 14 11 4 1 7.s 1 17.5 35.0 2zs l io.o I I 2.5 1 平均値153.4 不偏分散31.34 信頼限界2.4 40 b 膀帯の長さ 57例の平均値は57.7cm± 3.48㎜尚胎鰻量及び膀帯の長さの各平均値は一 般標準値に比し大ぎく有意の差を認めた。 樹膀帯纏絡は71例中11例15.4%,本院一般新生 児の三三纏絡16.9%と比較し有意の差はなかつ 潅。 5) 巨大児の母体につV・て a 巨大児の反復 従来から巨大児は同一婦人 に反復し易いと云われているが,本院に於いても71例申2回反復3例,3回反復1例を認めてV・
る。 b 母休々重 母体の体格と新生児体重との間 には一定の関係があり,巨大児の母体は一般に体 格栄養共に優秀とされているが,本院40例の平均 は64.9kg±3.08kgとなってv・る。(第;6表) 第 6 表1母体々重旨例数. %
i’ 平均値 64.9 不偏分散51.96 信頼限界 30.8 d 骨盤の大きさ 入院時骨盤外計測値の内, 懐炉径,外結合線,側結合線につき調査し,各平 均値は稜間径26.9cm±0.35cm,外結合線20.3cm±0.4cm,側結合線15.7cm±0.4cmでい
すれ,も一般標準値(真柄正直著 最:新産科学)に 比し大ぎく有意の差を認めた。 e 分娩回数 巨大児は従来から経産婦に多い と云われているが,本院の成績も,初産婦10例 14.1%,経産婦49例69.0%,多産婦12例16.9%に て同様経産婦に多く本院経産婦総分娩数5,672 例に対して0.86%,197回に1例。初産婦は2,679 例に対し0.27%,367回に1例となってV・る。 f 母体年令 巨大児発生の最も多い年令は従 来の報告によると,外国に於V・ては21才∼25才, 本邦に於v・ては26才∼35才と云われてv・るが本院 の成績も同様26才∼35才に多く49例,69.01%で あった。 第 8 表 」持続日数吻酬 271NIL75 i 9 1276(ノ280 1 10 .v 49.5 / 050N54.5 3
55 rv 59.5 9 60 rv 645 10 65 rv 69.5 ・ 10 70 tv 74.5 ! 6 75 t一. 79.5 0 80 rv 84.5 1 2 7.5 22.5 25 25 15 5 ミ 旨,19例 h 30.16% ’ 1 281 一一285 1 12 1 286−290 り 9 〔38例i三囲6“32%
i 296−300 , 7 1 301N305 1 1 85 rv o 40 ・ c 母体身長 40例の平均値は153.4cm± 2・4cmとなってV・る。(第7表) 「罰6∼3、。… 4 il f’lI L一一1一一uri 311tv315 i O 316tw320 1 O [、例 9.52e/5 1321N325 1 1 iJ 計 63 」 44例 69.840% 平均持続日数287.8日 不偏分散 111.38 信頼限界 3.5日 一r 227 m9 妊娠持続日数 最終月経明瞭な63例中平均 持続日数は,287.8日±3.5。280日を越えるもの は44例69.84%である。(第8表) h 妊娠経過 巨大児妊婦は一般に妊娠時合併 症が少V・と云われているが,本院71例に於ても妊 娠経過は極めて順調で1例の妊娠腎を認めたのみ であった。尚梅毒が1例あり4,3009の男子を得 ている。 6) 分娩について a 所要時間 記載明瞭な60日中経産婦52例の 1
分麟合朧[麺
「初事
巨 平均所要時間は略15時間,初産婦は8例で14時聞。 最:長は42時間,最:短は2時聞。肩押詰出に1分以 上を要したもの3例を認めているQ b 分娩時胎位胎勢回旋異常について 骨盤位は:1例,横位は1例もなく70例の内,2例 は後方後頭位分娩であった。尚本院一般分娩中に 於ける骨盤位3.8%横位0.1%と比較し有意の差 は認めts V・。 c 分娩時母体合併症 第9表の如くv・すれも 巨大児母体に於いて高率を示し,特に出」血量は多 出血量: 600cc以上ノモノ前早期破水
経管裂 傷
外陰部裂傷
3 o o 2 9 4 2 9 第 9 表 大 児 多 5 2 o o 総 分 数 計 17 6 2 11 o% 26.IJr 娩 中 8.45 2.82 15.49 延 数 530 % 665 56 1,363 5.62 7.06 O.59 14.46 計 5 1 24 1 7 1 36 50.70 2,614 27.73 く平均値は424cc±17.72ccで出,血:量600cc以 .Eのものが26.2%を占め,本院一般分娩中に於 ける5.6%と琵し遙かに多く有意の差を認めた。 街巨大児分娩に於ける合併症延数は36例50.7%で 本院合併症延数2,614例27.7%と比較し有意の 差を認めてV・る。第1G表
入湯的介助
入工 破膜
側方切開術
中央切開術
鉗 子 術 帝ヨ三切開術 巨 、大 初 一互 。 3 1 o 児 総 分 娩 申 延擬1多
10 1 o 7 osl
o o 1 o 数 .一. ユ忌「 1 3 9 o % 25.35 1e41 4.23 12.68 延 数 % 22.25 2.68 2.12 4.90 2.23 23.61 285 2.25 5.2 2.37 計 71 is 1 6 i 3i 43.66 34.18 35.26 d 分娩時人工的介助につv・て(第10表)71例 に於ける人工的介助延数は31例43.6%で本院一般 分娩の頻度35.2%と比較し有意の差は見られない が,人工三三,会陰切開術,鉗子術の個々につVb て見るといすれも巨大児分娩に多く特に鉗子術に 於いては有意の差を認めた。尚鉗子術の適応につ いては,嵌入障碍2例,廻旋異常2例,微弱陣痛5 例で帝王切開術は1例もなかった。 7)予後について 母体の予後は新生児体重4,5009以下のもので 一 228 一27 は一般に良好と云われているが,本院に於いても 全例経過順調忙て1週間前後で退院している。又 巨大児は一般分娩に比し死産及び死亡率が高いと 云われているが,本院に於ては死産,死亡は1例 もなかった。然し仮死は71例中7例9.8%を占め 本院仮死頻度3.7%と比較し遙かに多く有意の差 を認めた。 4,総括並びに考按 巨大児頻度は本邦諸氏の報告と略同様で特に三 谷,木村両氏の成績と最:も近い値にある。欧米の 諸報告とは相当の隔りがあるが,これは新生児の 体重が本邦より遙かに大なる為と思う。 叉年度別に21年22年が少かったと云う事は当時 の社会状勢に影響されたものと思われる。 巨大児の身長 頭部の各経線 肩脚周囲 胸囲 に於ける平均値はV・すれも一般新生児に比し遙か に大きく又胎盤重:量 晒帯の長さも同様である。 胎盤が大ぎいと云う事は胎児の発育上有意義と思 われるが,その反面第3期出血の増加と云う事も 充分考えられる問題と思う。 木村,三谷両氏の報告によれぽ巨大児は膀帯が 長い為,比較的膀帯纏絡が多いと云われている が,本院に於ては寧:ろ低率になっている。 母体の体格は一一般に優秀で骨盤計測値も一 一A般標 準値に比し大きく有意の差を認めている。 母体年令,妊娠回数,妊娠持続日数につV、て は,従来の報告と同様の成績を得た。 巨大児の分娩について見ると,胎位,胎勢回旋 異常は本院…般分娩に比し有意差は見られなかっ たが,分娩時合併症及び人工的介助については共 に高率を示し特に出.血量600cc以上のものと鉗子 術の頻度は高く有意の差を認めた。然し帝王切開 術は1例もなかった。 妊娠時合併症特に姪娠中毒症は殆んどなく母体 及び新生児の予後は極めて良好で母児共に死亡例 はなかったが,仮死の頻度は本院一般分娩に比し 非常に高率で有意の差を認めた。 巨大児の身体諸計測値が一一般新生児に比し大ぎ いのは当然であるが,同時に母体の体格も以上述 べた如く一般に優秀である為,巨大児と難も著明 に大きいもの以外は常に難産とは限らts V・。然し 鉗子分娩及び仮死の頻度が特に高いと云う事は注 目すべぎ問題と思う。 5,結 語 賛育会病院戦後7年間に於ける妊娠持続36週以 後の分娩9,425例を資料とし,71例の巨大児につ き統計的観察を試み推計学的吟味を加えた。巨大 児分娩に際しては,弛緩性出血,鉗子分娩,仮死 の頻度が著明に多くなっているが,然し巨大児と 錐も特別な例外を除いては,適当な処置により良 好な分娩経過を得られるものと思う。 本文の要旨は昭和29年2月第36回日本産科婦前科学 会東京地方部会に於いて発表した。 稿を終るに当り御校閲を賜った賛面会病院竹岡部 長.東京女子医大産婦入射大内助教授並びに御指導下 された賛育会病院谷山医局長の御厚意に対して,厚く 感謝の意を表します。 文 献
1) Ahlheld : Zeitschr. f. Geb. u Gyn. T2 602
(1912)
2)新井俊五郎:産科と婦人科 2945(1934)
3) Hunt :Am.エObst.&. Gyn.64559 (1952)
4)今津 茂:臨床産科と婦人科 101155(1937) 5) JacDby:Arch. f. Gyn. 74 536 (1905) 6)津本仙之助:産婦人科紀要 192376 (1937) 7)木村義明:日婦学会雑誌 291703(1934) 8) 〃 :産科と婦人科 2923(1934) 9)小西池楳太郎:産科と婦歯科 899(1940) 10)松本重博;産科と婦入科 5』433 (ユ937) 11)真柄正直:最新産科学 文光堂 (東京) 12)三谷茂:日脚学会雑誌』37391(1942) 13)野川純一:近畿婦学会雑誌 15186 (1932) 14)小畑維清:産科の実施経験 中外医学社 (東京) 15)小畑維清:日婦学会雑誌 291567 (1934)
16) Starcke : Arch. f. Gyn. T4 567 (1905)
17) Zangenmeister: Arch. f. Gyn. 104 405 (1917)