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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 科 学 ) 松 本    経

学 位 論 文 題 名

育雛期におけるオオミズナギドりの 長,短距離採食戦略と海洋環境との関係

学位論文内容の要旨

  ミズナ ギドリ目 は、外 洋にパッ チ状に分 布して予測し難い餌資源に依存し、長距離移動して餌の 探索に長い時間をかけると考えられていた。しかし、近年同一個体が長い採食トリップだけでなく、

短い採 食トリッ プも行う との報 告が相次 いだ。ミズナギドリ目において観察される親による長・短 距離ト リップは 、長・短距離採食戦略(dual foraging)と呼ばれる。長・短距離採食戦略では、獲得 したェ ネルギー を親自身 のコン ディショ ン維持と雛の成長に配分する割合がトリップ長(採食トリ ップの 時間)の 長短によ って異 なる。親 は短い卜リップで雛の給餌に多くを配分して親自身の体重 を減ら すが、長 いトリッ プでは 採食によ って取り込んだェネルギーの多くを自身の脂肪蓄積にまわ すので 、雛への 給餌量は 低くな る。っま り、ミズナギドリ目は単に遠くの予測不確実な餌場所を探 して長 時間採食 トリップ に出か けている のではなく、コ口二ーの近くの餌資源をも利用しているこ とがわ かってき た。その ため、 コ口二ー から主たる採食海域までの距離が遠くなると長・短距離採 食戦略 が採用さ れ、逆に 近いと 短い採食 トリップを繰り返すと予想される。しかし、これまでの研 究では 採食戦略 の地域間 変異や 年変異の 把握にとどまり、鳥が利用する具体的な餌条件との関連に ついては分かっていない。

  本研究 では、伊 豆諸島 の御蔵島 と三陸沿 岸の三貫島で繁殖するオオミズナギドりの採食海域を明 らかに した。さ らに、餌 条件と コ口二ー で採用される採食戦略の関係を明らかにした。また、コ口 二ーか ら主たる 採食海域 までの 距離が異 なる2つのコ 口二ー間 で、生 産される雛を比較することに よって、長・短距離採食戦略の適応的意義を考察した。

  本論の主だった内容は4章から構成される。

  第1章では、 ミズナギ ドリ目 における これま での長・ 短距離 採食戦略 に関する研究とオオミズナ ギド り の 生態 情 報 に つい て 紹介し 、2つ のコロ ニーつい て予想 される仮 説と検証 方法を 述べた。

  第2章では、 洋上にお ける本 種の採食 トリッ プ日数、 採食海 域、採食 行動を装着型デー夕口ガー     ―1264―

(2)

で調ベ、これとは別に採食トリップ日数を計った親の吐き戻しを調べて採食トリップ日数と餌種の 関係を明らかにした。御蔵島の親は3日以下の短距離トリップでコ口二ー周辺の黒潮域を、4〜 10 日の長距離トリップで三陸・北海道沖の親潮域を利用した。餌は、御蔵島周辺でも親潮域でもカタ クチイワシであった。一方、三貫島では、1日の採食トリップが約7割を占め、推定された採食海 域は三陸沿岸の主にコ口二一周辺を利用していることがわかった。主な餌はカタクチイワシであっ た。従って、御蔵島では、黒潮域と親潮域を利用する長・短距離採食行動を、三貫島では主にコロ ニー周辺を利用することが示唆された。本種は長い飛翔の後に、着水と短い飛翔を繰り返すという サイクルを洋上でおこなっていた。そこで、長い飛翔後の着水・短飛翔の繰り返しを採食バウトと 定義して、2つのコロニー間で比較した。その結果、親潮域で採食した考えられる三貫島のトリッ プと御蔵島の長距離トリップでは、黒潮域で採食したと考えられる御蔵島の短距離トリップより も、採食パウトの継続時間が長く、バウト内で繰り返された着水回数が多かった。従って、餌パッ チの質は、黒潮域より親潮域のほうが良いことも示唆された。

  第3章では、コロニーから主たる採食海域までの距離が、本種の採食海域利用パターンに影響を 与えるかを調ぺた。これには、親に衛星対応型発信機を装着して移動を追跡して採食海域を特定し、

衛星画像デ一夕をオーバーレイして採食海域の海洋環境を明らかにした。御蔵島の場合、短距離ト リップでは、コ口ニーより北側の陸棚・陸棚斜面域のク口口フィル濃度の低い周辺海域で採食し、

長距離トリップでは、北海道東部沿岸と沖合のク口口フィル濃度の高い海域で採食した。三貫島の 卜リップでは、ク口口フィル濃度の高いコ口二ー周辺で採食した。従って、クロ口フィル濃度の高 い場所は本種にとって餌条件が良いと予想された。

  第4章では、個体を捕獲せずに自動で識別し、連続的に重量を記録する装置を2つのコ口二ーで 用いて、親の体重とトリップ日数、雛に与えた餌重量を調べた。2章の餌組成の結果をもとに、餌 種ごとにェネルギー価を求めて、御蔵島の短、長距離トリップ、三貫島のト1」ップで雛に供給され るエネルギーを調べた。これによって親の採食速度を推定し、獲得したエネルギーの雛と親自身へ の配分比を求めた。また、雛の成長と巣立ちを2つのコ口二ーで調べて比較した。その結果、御蔵 島では、親は餌条件の悪い黒潮域で採食する場合、体重を減少させながらも雛に投資配分を増やし ていた。逆に餌環条件の良い親潮域で採食する場合、体重を増加させ、黒潮域で採食する場合と同 程度の速度で雛にもェネルギーを供給することがわかった。一方、三貫島では、コ口二ー周辺の餌 環条件が良く、短い採食トリップを繰り返しながらも、雛にも親自身にも適度にエネルギーを供給 していることがわかった。雛の成長速度は御蔵島よりも三貫島のほうが大きかった。三貫島は御蔵     ‑ 1265−

(3)

島よりもおよそ1週間巣立ちが早いと推測された。したがって、コロニーから主たる採食海域まで 遠い御蔵島は、採食海域まで近い三貫島に比べて、雛を育てる上では不利であると考えられる。

  以上のことから、コロニーから主たる採食海域までの距離が遠くなると長・短距離採食戦略が採 用され、主たる採食海域まで近いと、短距離採食トリップを繰り返すことが明らかとなった。オオ ミズナギドりにとって餌環境の良い場所はク口口フィル濃度の高い場所であり、特に栄養の豊富な 親潮によって高い生産性が維持される北海道東部沿岸域や三陸沿岸域だった。高い生産性のフロン トが外洋に広く存在する亜寒帯域にくらべて、温帯域の恒常的な海流によって生産カが高められる 沿岸域は、沖合のフ口ントにくらべて安定し、年による場所の変化が少ない。そのため、遠くの餌 資源に依存する長・短距離採食戦略を採用し、長い時間をかけて雛を育てるオオミズナギドりにと っては重要な環境条件であると考えられる。

1266

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学位論文審査の要旨 主 査    教授    桜井泰 憲 副 査    教授    齊藤誠 一 副査   准教授   綿貫   豊

学 位 論 文 題 名

   育雛期に おけるオ オミズナギドりの 長,短距離採食戦略と海洋環境との関係

  近年、 ミズナギ ドリ目の 海鳥では 長い採食 トリップだ けでなく、短い採食トリップ も行う との報告 が相次ぎ 、長・短 距離採食 戦略の考え が登場した。これは、親は獲得 したエ ネルギー を自身の コンディ ション維 持と雛の成 長に配分するが、配分比をトリ ップ中 の餌条件 に応じて 変化させ 、雛を育 てるという ものである。親は、短いトリッ プで雛 の給餌に 多くを配 分して親 自身の体 重を減らす が、長いトリップでは採食によ って取 り込んだ エネルギ ーの多く を自身の 脂肪蓄積に まわすため、雛への給餌量は低 くなる 。っまり 、ミズナ ギドリ目 は遠くの 餌条件の良 い海域のみで採食するのではな く、コ ロニーの 近くの餌 条件の悪 い海域で も採食する と推定される。そのため、コロ ニーか ら餌条件 の良い採 食海域ま での距離 が遠くなる と、長・短距離採食戦略が採用 され、 逆に近い と短い採 食トリッ プを繰り 返すと予想 される。しかし、これまでの鳥 類の長 ・短距離採食戦略に関して|ま、採食戦略の地域間変異や年変異の把握にとどま り 、 鳥 が 利 用 す る 具 体 的 な 餌 条 件 と の 関 連 に つ い て は 不 明 の ま ま で あ る 。   本研究 では、コ ロニーか ら餌条件 の良い採 食海域まで の距離が異なると予想された 伊豆諸 島の御蔵 島と三陸 沿岸の三 貫島にお いて、子育 て中のオオミズナギドりの採食 海域と 餌条件を 明らかに して、生 産される 雛の成長率 を比較することによって、長・

短距離 採食戦略 の適応的 意義を考 察した。

1.採食 行動と採 食海域の 餌条件

  親の 採食トリ ップ時間 、採食海 域、採食 行動を装着型データロガーで調べ、これと は別 に親の吐 き戻しを 調べ、採 食海域と 餌種の関係を明らかにした。御蔵島の親はコ ロニ ー周辺の 黒潮域と 、三陸・ 北海道沖 の親潮域の両方で採食した。餌は、御蔵島周 辺と 親潮域と もカタク チイワシ であった 。ー方、三貫島の親は三陸沿岸の主にコロニ ー周 辺で採食 し、主な 餌はカタ クチイワ シであった。従って、御蔵島では、黒潮域と

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親潮域を利用する長・短距離採食行動を、三貫島では主にコロニー周辺を利用する(短 距 離採食行動)と判断された。本種は長い索餌海域への飛翔の後に、着水と短い飛翔 を 繰り返すというサイクルを洋上で行っていた。そこで、長い飛翔後の着水・短飛翔 の 繰り返 しを 採食 バウ トと 定義 して、2つのコロニー間で比較した。その結果、親潮 域 で採食したと考えられる三貫島のトリップと御蔵島の長距離トリップでは、黒潮域 で 採食したと考えられる御蔵島の短距離トリップよりも、採食バウトの継続時間が長 く 、バウト内で繰り返された着水回数が多かった。従って、餌パッチの質は、黒潮域 より親潮域のほうが良いと判断された。

2.採 食海 域と海 洋環 境

  親 に衛星対応型発信機を装着して移動を追跡して採食海域を特定し、衛星画像デー タを オーバーレイして採食海域の海洋環境を明らかにした。御蔵島の場合、短距離ト リッ プでは、コロニーより北側の陸棚・陸棚斜面域のクロロフイル濃度の低い周辺海 域で 採食し、長距離トリップでは、北海道東部沿岸と沖合のクロロフィル濃度の高い 海域 で採食した。三貫島のトリップでは、クロロフィル濃度の高いコロニー周辺で採 食し た。従って、クロロフアル濃度の高い場所は本種にとって餌条件が良いと判断さ れた 。

3.獲得エネルギーの投資配分

  個 体を 捕獲 せず に自動 で識 別し 、連 続的に重量を記録する装置を2つのコロニーで 用い て、 親の 体重 とトリ ップ 時間 、雛 に与えた餌重量を調べた。2章の餌組成の結果 をも とに 、餌種ごとにエネルギー価を求めて、御蔵島の短、長距離トリップ、三貫島 のト リッ プで雛に供給されるエネルギーを調べた。これによって親の獲得エネルギー を推 定し 、雛 と親 自身へ の配 分比 を求 めた。また、雛の成長と巣立ちを2っのコロニ ーで 調べ て比較した。その結果、御蔵島では、親は餌条件の悪い黒潮域で採食する場 合、 体重 を減少させながらも雛に投資配分を増やしていた。逆に餌環条件の良い親潮 域で 採食 する場合、体重を増加させ、黒潮域で採食する場合と同程度に雛にもエネル ギーを供給することがわかった。一方、三貫島では、コロニー周辺の餌環条件が良く、

短い 採食 トリップを繰り返しながらも、雛にも親自身にも適度にエネルギーを供給し てい るこ とがわかった。雛の成長率は御蔵島よりも三貫島のほうが大きかった。巣立 ちは 御蔵 島よ りも 三貫島 でお よそ1週 間早いと推測された。したがって、コロニーか ら餌 条件 の良い採食海域まで遠い御蔵島は、採食海域まで近い三貫島に比べて、雛を 育てる上では不利であると考えられる。

  本論 文で は, オオ ミズ ナギドりの長,短距離採食戦略と採食環境の関係をGISを用 いて定量的に解析し、長,短距離採食戦略のメカニズムを親と雛におけるエネルギー

(6)

収支の側面から明らかにしており、その成果は今後の海洋環境変動に応答する海鳥類 の行動生態学研究に大きく寄与するものと評価した。審査員一同は,申請者が博士(水 産科学)の学位を授与される資格のあるものと判定した。

参照

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