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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 水 産 学 ) 横 山 信 一

学 位 論 文 題 名

噴火湾およびその沖合におけるアカガレイの分布 および摂餌に関する生態学的研究

学位論文内容の要旨

  アカガレイは北海道周辺海域では主に底曳網と底刺網によって漁獲され,噴火湾とその周辺海 域で漁獲される割合は北海道全体の30〜60%であり,噴火湾ではスケトウダラとともに沿岸漁業 の最重要種となっている。しかし,当海域のアカガレイ資源を維持するために必要な生物的,非 生物的環境と個体群の生産構造との相互関係はほとんど解明されていない。本研究では1983年1 月から1989年9月にかけて噴火湾におけるアカガレイ個体群の生物生産構造の特性を解明するた めに,成魚の生活年周期と分布・移動を明らかにし,他魚種との食物関係および成魚と未成魚の 食 物 関係 から 本種 個体 群 が噴火 湾内で優占種として維持さ れる要因にっいて検討した。

1.底生魚類および群集の時空間分布うしお丸のオッター・ト口ール網を用いて底生魚類を採 集し,海洋観測を行った。また,海底表層の粒度分析から底質粒度組成をもとめた。採集された 魚類は16科57種であり,その多くは常住冷水種であった。そのうち,優占的に出現するのはスケ ト ウダラ稚魚とアカガレイであり,湾内においてはスケ卜ウダラ稚魚のCPUEの季節変化が大 き く,親潮系水滞留期(5〜7月 )には最低を示し,津軽暖流水流入期(7〜9月)に最高とな る 。これに対して,アカガレイは泥質域を中心に高いCPUEを示し,その出現は時期的にも安 定 している。一方,湾外の陸棚域ではスケトウダラ稚魚(O〜1歳)が1年を通じて卓越する。

スケトウダラは湾内を成育場として利用しており,成長にともなって遊泳層を深め,8月頃に湾 内で着底し,その一部は沖合へ向かって移動するが,他の一部は湾内で越冬する。そのため湾内 外 のCPUEは季節的に変化する。これらのことから,当海域における底生魚類群集の構造は湾 内と湾外陸棚域間で著しい相違が認められ,優占種であるアカガレイとスケトウダラ幼魚の分布 状況に支配されている。

2.アカガレイの生活年周期と分布オッター・ト口ール網による採集と市場購入で得られたア カガレイ標本の生物測定を行った。またト口ール地点では海洋観測を行うとともに,アカガレイ の移動を調べるため標識放流試験もあわせて行った。

(2)

  生殖腺重量指数,放卵個体の出現状況,肝臓重量指数,肥満度,胃内容物重量指数の季節変化 から,産卵 期は1〜4月で産卵盛期の2〜3月にはほとんど摂餌をすることなく,産卵後から摂 餌活動が活発化し,5〜7月に摂餌盛期となり,以後12月まで緩慢な摂餌活動を続けるものと判 断された。魚群密度の地域分布と標識放流による再捕結果から,アカガレイの移動を推定した。

湾内の底層水温が2〜4℃となる親潮系水流入期にアカガレイは湾奥北部から湾央南部に至る水 深30〜60mの沿岸域に移動して産卵を行い,産卵後は湾央南部を中心とした湾内泥質域を摂餌場 としている。しかし,津軽暖流水の流入期から滞留期には湾ロ北部と沿岸域から底層水温が上昇 するため,アカガレイは高温域を避け,この時期としては比較的低温な7℃以下の底層水が分布 する湾内深部(水深80m以深)へ移動する。

3.マクロ ベントスおよびメガロベント スの分布アカガレイの餌生物環境を調べるために,

Smith―McIntyre採泥器とそルネッ卜を用いて,マクロベントスとメガ口ベントスをそれぞれ 採集し,群集の水平分布を検討した。またマク口ベントスにっいては湾央南部泥質域における鉛 直分布も検討した。

  湾央部から湾奥部に広がる泥質域にはTharyx sp.,シダレイ卜ゴカイおよびEudorella sp.

を優占種とする群集が卓越する。それに対して,湾□部から湾外にかけての砂泥質域や砂質域に はシダレイ トゴカイやLumbrineris spp.などを優占種とする群集の分布がみられるが,泥質 域のような 卓越種は出現しない。湾内のメガ口ベントス群集の大部分はOphiura spp.が優占 種であり, その密度は泥質域よりも泥砂質域の方が高い。湾内のOphiura spp.群集にはアミ 類,ミゾエビジャコ,ヒメュキニナ,ユキノキリニナ,工ゾキリガイダマシなどが比較的高い密 度で含まれ る。湾外の砂質域はOphiura spp.の分布密度が低く,コケライシカゲガイ,ツノ ナシオキアミなどを優占種とする群集が分布し,湾内とは異なる群集が分布する。マク口ベント スの底泥内鉛直分布にっいては,遊在類,クマ類,ヨコエビ類は海底から5 cm以内の表層部に集 中している が,湾内泥質域に卓越していたTharyx sp.とシダレイトゴカイの主分布層はlO〜 15cm層であり,湾外砂質域のシダレイトゴカイも他種に比べて分布層が深い。これら2種の生息 深 度 は 底 生 魚 類 が 餌 生 物 と し て 利 用 し に く い 分 布 条 件 に あ る も の と 考 え ら れ る 。 4.アカガレイの食性オッター・トロール網によって採集されたアカガレイの胃内容物を調べ た。内容物は種別に湿重量を計量し,体サイズを測定した。補足的に市場購入によるアカガレイ 標本から胃内容物の種別の出現頻度も調査した。

  アカガレイの胃内容物組成は時期や海域によって変化する。これはアカガレイには餌生物をめ ぐる競合種がほとんど存在せず,高密度に分布する生物を捕食する傾向がみられることから,餌

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生 物 環 境 の 変 化 に 対 応 し たも の と 考 え られ る 。 ア カ ガレ イ 成 ・ 未 成 魚の 主 食 物 は 長尾 類 と Ophiura spp.で あ るが , 全長200mm前後を 境にし て胃内 容物 組成に 変化が みられ る。 全長200mm 以 下の体 長群( 未成 魚)は メガ口 ベント スーマ ク口 ベントス食性,全長200mmを越える体長群(主 に 成魚) ではメ ガ口 ベント ス―魚 食性を 示す。 長尾 類にっ いては サイズ に対 する選択的捕食が認 め ら れ , 成長 に と も な っ て大型 の種へ の捕食 を強め るが ,Ophiura spp.にっい てはど の体 長群 も 体 盤径7 mmP下 の個体 を主に 捕食す る。 アカガ レイ成 魚が魚 食性 を強め る時期 は産卵 期の前 後 で あり, 親潮系 水の 流入期 から滞 留期に はプラ ンク トンや マク口 ベント スが 高密度に分布する湾 央 南 部にス ケト ウダラ1歳 魚とウ ナギガ ジが分 布し, アカ ガレイ は産卵 後の魚 体回 復にこ れらを 利 用する 。津軽 暖流 水の流 入期か ら滞留 期にも 魚食 性の傾 向が強 まり, 主食 物のスケトウダラ当 歳 魚は津 軽暖流 水の 流入な どにと もなう 底層水 温の 上昇を 避け, アカガ レイ の高密度域である湾 内 深部に 移動す るた めに捕 食され る。

  以上 のこ とから ,噴火 湾内は アカ ガレイ にとっ て適水 温が1年を 通じて 維持 されて いる海 域で あ り,親 潮系水 と津 軽暖流 水の季 節的交 替はプ ラン クトン ,マク 口ベン トス およびこれらを捕食 す るスケ トウダ ラ幼 魚やウ ナギカ ジの高 密度の 分布 を可能 にする ためア カガ レイの餌料環境が優 れ ている 。また ,ア カガレ イと餌 生物をめぐる競合種もほとんと.存住せず,アカガレイは柔軟性 に 富む食 性を示 し, 成魚と 未成魚 の分布 域が重 複す るとき にも種 内で餌 生物 を分配している。こ れ らのこ とはア カガ レイが 湾内で 優占種 として の地 位を維 持でき る要因 にな っているものと推察 さ れる。 今後, 湾内 のアカ ガレイ を漁業 資源と して 維持す るため には, 成魚 の主食物であるウナ ギ ガジや スケト ウダ ラ幼魚 の生態 を明ら かにす ると ともに ,アカ ガレイ 個体 群の摂餌要求量と餌 料 生 物 の 分 布 量 と の 関 係 を 調 査 す る こ と が 必 要 で あ り , こ れ ら は 今 後 の 課 題 で あ る 。

学位論文審査の要旨

  本 論 文 は 本 文131頁(1頁 の 字 数870),図56, 表8か ら な り , 得ら れ た 結 果 は,1)底 生 魚類 お よび 群 集 の 時 空間 分 布 ,2)ア カ ガ レ イ の生 活 年 周 期 と 分布 ,3)マ ク口ベ ントス および メガ

昭 繁

辰  

  豊

田 尾

前 中

授 授

   

   

教 教

査 査

主 副

(4)

口 ベ ン 卜 ス の 分 布 ,4) ア カ ガ レ イ の 食 性 の4章 に 取 り ま と め ら れ て い る 。   本研究は噴火湾とその沖合に生息するアカガレイ個体群の生物生産構造の特性を解明するた め,本種成魚の分布・移動と生活年周期を明らかにし,他魚種との食物関係および成魚と未成魚 の食物関係から,アカガレイ個体群が噴火湾内で優占種として維持される要因にっいて検討した ものである。

  本論文が評価される点は以下の通りである。1.着底ト口ール網による採集魚類は16科57種で,

その多くは冷水種であった。その優占種はスケトウダラ幼魚とアカガレイで,湾内ではアカガレ イが周年卓越しているが,スケトウダラ幼魚の分布密度は季節変化が大きい。また,湾外の陸棚 域では年間を通じてスケトウダラ幼魚が卓越する。2.アカガレイの生活年周期は産卵期が1〜 4月 ( 盛期 は2‑3月 )で ,摂 餌盛期を5〜7月,摂餌緩慢期を8〜12月 とした。3.アカガレ イは泥質域に最も多く生息し,季節変化が少ない。その移動は,親潮系水が流入して底層水温が 2゜〜4℃ となる1〜4月に湾奥北部から南部の水深30‑‑ 60mの沿岸域で産卵し,摂餌盛期には 湾奥南部の泥質域を索餌場とする。しかし,津軽暖流系水流入期(7〜9月)から滞留期(lO〜 12月)に は湾内沿岸域の底層水温の上 昇にっれて,湾内最深部の低温域へと移動する。4. Smith―McIntyre型採泥器で採集された マクロベントスは,湾央部 から湾奥部の泥質域に Tharyx sp.,シダレイトゴカイおよびEudorella sp.を優占種とする群集が卓越するのに対し,

湾ロ部か ら湾外の砂泥質域や砂質域ではシダレイトゴカイやLumbrineris spp.等を優占種と する群集が分布し,卓越種は出現しない。一方,ソリネットで採集されたメガ口ベントスは,湾 内群集の 大部分をOphiura spp.が優占 し,その密度は泥質域より 泥砂質域で高い。湾内の Ophiura spp.群集にはアミ類,ミゾェビジャコ,ヒメユキニナ,ユキノキリニナ,工ゾキリガ イダマシ等が比較的多いが,湾外の砂質域にはOphiura spp.の分布密度が低く,コケライシカ ゲガイ,ツノナシオキアミ等を優占種とする群集が分布する。マク口ベントスの底泥内鉛直分布 は多毛遊在類,クマ類,ヨコエビ類が海底表面から5 cm以内の表層部に集中し,湾内泥質域に卓 越してい たTharyx sp.とシダレイトゴカイおよび湾外砂質域のシダレイトゴカイも他種に比 べて分布層が深い。5.採集されたアカガレイの胃内容物は時期と海域によって変化するが,こ れは本種が餌生物をめぐる競合種が少なく,高密度に分布する生物を捕食するためで,胃内容物 組成は餌生物環境に強く影響される。なお,コケライシカゲガイ等の硬殻性軟体動物,底泥内の 分 布層が深 いTharyx sp.やシダレイト ゴカイおよび体盤径7mmを越 えるOphiura spp.は分 布密度が高い場合でも餌料として利用されない。アカガレイ成魚,未成魚の主食物は長尾類と Ophiura spp.であるが,全長200mm前後を境にして胃内容物組成に変化がみられる。全長200mm

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以 下の体 長群は マク口 ベン卜 ス〜 メガロ ベン卜 ス食性 を, 全長200mmを越 える体 長群 ではメ ガ口 ベ ントス 〜魚食 性を示 す。長 尾類 にっい てはサ イズに 対す る選択 的捕食 が認められ,成長にとも な っ て 大 型種 へ の 捕 食 を強 め る が ,Ophiura spp.にっ いては どの 体長群 も体盤 径7mm以下の 個 体 を主に 捕食す る。ア カガレ イ成 魚が魚 食性を 強める のは 親潮系 水の流 入期から滞留期にプラン ク トンや マク口 ベント スが湾 央南 部に高 密度に 分布し てそ の捕食 者であ るスケ トウダ ラ1才魚と ウ ナギガ ジの分 布も集 中する ためで,アカガレイは産卵後の魚体回復期にこれらを多く摂餌する。

津 軽暖流 系水の 流入期 から滞 留期 にも魚 食性の 傾向が 強ま り,主 食物の スケトウダラ当才魚が津 軽 暖流水 の流入 に伴う 底層水 温の 上昇を 避け, アカガ レイ の高密 度域で ある湾内深部に移動する た めに捕 食され る。

  以 上のこ とから ,噴 火湾内 はアカ ガレイ にとっ て適 温であ る低温 水が一 年を通じて維持され,

か っ親潮 系水と 津軽暖 流系水 の季 節的交 替がプ ランク トン ,マク 口ベン トスおよびこれらを捕食 す るスケ トウダ ラ幼魚 やウナ ギガ ジの高 密度分 布を可 能に するた めに, アカガレイの餌料環境と し て優れ ている 。また アカガ レイ と餌生 物をめ ぐる競 合種 もほと んどな く,アカガレイが柔軟な 食 性を示 してい ること から, 成魚 と未成 魚の分 布域が 重複 しても 種内で 餌生物を分配している。

こ の こ と は 本 種 が 湾 内 で 優 占 種 と し て の 地 位 を 維 持 で き る 要 因 に な っ て い る 。   本 研究で 得られ た成 果は今 後の噴 火湾お よびそ の沖 合にお けるア カガレ イの資源管理上,重要 な 新知見 を与え た点で 高く評 価さ れる。 よって ,申請 者は 博士( 水産学 )の学位を受けるに十分 な 資格を 有する ものと 認定し た。

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