博 士 ( 工 学 ) 佐 藤 学 位 論 文 題 名
微小電極および FISH 法を併用した生物膜内の 反応機構と生態学的構造の解析
学位論文内容の要旨
久
近年、 下水道 の普及 により河川や閉鎖陸水域の水質は改善されつっある。しかしながら、現 在もな お富栄 養化の 防止および水質の保全等は要求されており、下水の高度処理の必要陸が高 まって いる。 このよ うな背景の下、一般的な下水処理法である活陸汚泥法の欠点を補える生物 膜法が 注目さ れてい る。現在のところ、生物膜法の高度・効率化に向けた研究の多くは生物膜 リアク ターを ブラッ クボックスとして扱い、物理化学的因子に着目した入出力操作のみを論じ たケー ススタ ディで ある。しかしながら、生物膜リアクターの効率に、生物膜内の複雑な反応 機構および生態学的構造が影響を及ぼすことは明白である。
近年の 技術的 進歩に 伴い、 生物膜 内を直 接、in situで解析可能となったため、生物膜内の 反応機 構およ び生態 学的構造を明らかにすることにより生物膜リアクターの物詞徐去能カを高 めよう とする 研究が 行われている。例えば、微小電極は生物膜内の被反応物質および生成物の 濃度を 数マイ クロメ ーター 間隔で 測定でき 、FISH法 を用い ること により系統発生学的に異な る微生 物を特 異的に 検出し 、in situでの 存在形態を解析可能となった。これらの手法を生物 膜に適用した研究により生物膜内の反応機溝および生態学的構造が徐々に明らかにされている。
現在の ところ これら の手法を単独に用いた研究が多いが、これらの手法を併用することにより 生物膜内をより詳細に解析できると考えられる。
そこで 本論文 では、 微小電 極およ びFISH法を 併用し 、生物 膜内の 硝化反応および硫酸塩還 元反応の反応機構および生態学6勺構造を解析することを目的とした。硝化反応は脱窒反応の前 段階として重要であり、生物膜法は硝化反応に適しているものの、高度・効率化のために5ま未 解決の 問題が 残され ている。硫酸塩還元反応は、生物にとって有害であり水源水質を悪化させ る硫化 水素を 発生す る一方、有機物の分解により環境への負荷を低減する役割を担っている。
好気性 生物膜 内の硫 酸塩還元反応は、発生した硫化水素が生物膜内で瞬時に再酸化されてしま うため、生物膜内を解析することなしには詳細を把握できない。
本研究では始めに微小電極の開発を行った。製作および使用した微小電極は、溶存酸素(02)、 アンモニア(NH4+)、亜硝酸(N02−)、硝酸(N03−)、硫化水素(H2S)、およびpHの6種類である。
こ れらの先 端径は 約5オmか ら約50オmで、 生物膜溝 造の撹 乱を最 小限に 抑えな がら内 部の基 質濃度分布を定量することが可能であった。
次にこ れら微 小電極 とFISH法を 併用し 、都市 下水生 物膜内 におけ るアンモニア酸化細菌菌 体密度分布およびNH4+酸化活陸分布を検討した(3章)。定常期において、アンモニア酸化細菌 は主に直径5〜20オ皿の密な集塊(クラスター)を形成して、または単一細胞として存在してい た。菌 体密度 は膜深 さ方向に増大する傾向にあり、表層よりも通常無酸素状態であると考えら
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れる深 層にお いて高 かった。一方、NH4+酸化活性は表層にのみ検出された。中層および深層に も02を 浸透さ せた場合 、僅か 数時間 後にこ れらの 領域に もNH4+酸化 活性が検出された。以上 の結果 から、 通常は 表層に存在するアンモニア酸化細菌が主にNH4+酸化反応に貢献しており、
中・深層に存荏するアンモニア酸化細菌はNH4+高負荷時、および生物膜季I亅離後等にNH4+酸化 反応に 貢献す ること が明ら かとな った。4章においては、定常期の生物膜内のアンモニア酸化 細菌分 布の形 成メカ ニズムを検討した。流入基質C/N比の増大fま特に表層におけるアンモニア 酸化細 菌と他 栄養 陸細菌との02をめぐる競合を激化させ、競合に敗れたアンモニア酸化細菌 の 活性 は 低 下 し、 表 層 の アン モニア 酸化細 菌菌体 密度が 減少す ること が明らか となっ た。
5章に おいて は、NH4+酸化機構ならびにN02一酸化機構について検討した。NH4+負荷および有 機物負 荷が異 なる3条 件で生 物膜を 馴養し たところ、全ての生物膜内の硝化細菌に関して以下 の共通 点が見 られた 。亜硝酸酸化細菌はアンモニア酸化細菌と同様に主にクラスターを形成し て、ま たは単 一細胞 として存在していた。亜硝酸酸化細菌はアンモニア酸化細菌の近傍に検出 された 。アン モニア 酸化細菌は好気領域全体に検出されたのに対し、亜硝酸酸化細菌は表面付 近には 少なく 中層お よび深 層に主 に検出 された 。Nitrospira属 に属す る亜硝酸酸化細菌が優 占種で あり、Nitrobacter属 に属する 細菌は 検出されなかった。また、硝化活性に関しても、
NH4+酸化活性は主に好気領域上部に、N02ー酸化漕出ま主に好気領域深部に検出されるといった 共通点 が見ら れた。NH4+酸化 活性とN02ー酸化 活性の中心間の距離が接近している生物膜ほど NH4+酸化活 陸が高くN02−が放出されず、最も効率よく硝化反応が進行しており、活陸間の距 離が硝化反応の安定化に不可欠な因子であることが明らかとなった。従来のようにNH4+とN03― のみの測定では、二段階反応である硝化反応(NH4+― N02−→N03一)が生物膜内でどのように進行 してい るか知 ること は困難 である が、中 聞生成 物であるN02―濃度を測定できたことにより、
窒素化合物の挙動をより詳細に把握できた。
6章で は生物 膜の硝 化反応の開始を人為的に早めることを試み、(1)初期生物膜形成時に馴 養基質に硝化細菌を投入した系(硝化細菌投入系)、(2)馴養基質にN02ーを添加した系(N02一添 加系) 、およ び(3)馴 養基質にNH20Hを添加した系(NH20H添加系)の硝化反応の開始時期を、対 照系であるC/N=Oの基質で馴養した生物膜(C/N=0系)と比較した。その結果、硝イ匕糸ロ菌投入系 におい てのみC/N=O系よ りもNH4+酸 化反応 およびN02一酸化反応の開始が早まり、N02一蓄積期 も短縮 された この結 果より、馴養初期に槽内に硝イ臨ロ菌を投入することは硝化反応の開始を 早めるのに有効な手段であることが明らかとなった。投入される硝イ絲田菌は対象とする系で優 占種となる硝化細菌種であることが不可欠であった。一方、NH20HおよびN02―は生物膜内のNH4+
酸 化 反 応 お よ びN02― 酸 化 反 応 に む し ろ 悪 影 響 を 及 ぼ す こ と が 明 ら か と な っ た 。 第7章で は、液 本体中 の02濃度 およびN03一濃度 の変動 が微好 気陸生 物膜内のin situの硫 酸塩還 元活性 に及ぼ す影響 にっい て検討 した。in situの硫酸塩還元活陸は通常中層の嫌気領 域にお いて最 も高く 、好気 的な表 層では 検出さ れなかった。さらに02およびN03ー浸透深さが 増加す るのに 伴い、 中層においても硫酸塩還元反応は抑制され、徐々に深層に遷移すると同時 に、活 陸は低 下した 。一方、硫酸塩還元活陸ポテンシヤルと硫酸塩還元細菌菌体密度は表層に おいて 最も高 く、膜 深さ方向に減少した。すなわち、硫酸塩還元活性ポテンシヤルと硫酸塩還 元細菌 菌体密 度の分 布は一 致した ものの 、これ らとin situの硫酸塩還元活性の分布は異なる 場合が あるこ とがわ かった 。本研 究は硫 酸塩還 元反応をin situで解析することが不可欠であ ることを示している。
以上 のよう に、本研 究では 微小電 極およ びFISH法を 併用す ること により、生物膜内の硝化 反応お よび硫 酸塩還 元反応の反応機構および生態学的構造をある程度解明することが可能であ った。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 渡 辺 義 公
学 位 論 文 題 名
微小電極および FISH 法を併用した生物膜内の 反応機構と生態学的構造の解析
最 も一 般 的 な下 水 処 理法 で あ る活 性 汚 泥 法の 欠 点 を補 う こ とが 可能 となる 生物 膜 法 が 注目 さ れ てい る 。 現在 の と ころ 、 生 物 膜法 の 高 度化 ・ 効 率化 に向けた 研究 の 多 く は、 生 物 膜リ ア ク ター を ブ ラッ ク ボ ッ クス と し て扱 い 、 物理 化学的因 子に 着 目 し た入 出 力 操作 の み を論 じ て いる 。 し か しな が ら 、生 物 膜 リア クターの 効率 に 生 物 膜内 の 極 めて 複 雑 な反 応 機 構お よ び 生 態学 的 構 造が 多 大 な影 響を及ぼ すこ と は 明 白 で あ る 。分 子 生 物学 的 手 法の 進 歩 に伴 い 、 生物 膜 内 を直 接 、in situで 解 析 す るこ と が 可能 と な り、 生 物 膜内 の 反 応 機構 お よ び生 態 学 的構 造を明ら かに す る こ とに よ り 、生 物 膜 リア ク タ ーの 汚 濁 物 除去 能 カ を高 め よ うと する研究 が行 わ れ る よう に な った 。 例 えば 、 微 小電 極 は 生 物膜 内 の 被反 応 物 質お よび生成 物の 濃 度 を 数um間 隔で 測 定 でき 、FISH法 (Fluorescent In Situ Hybridization) を 用 い る こ と に よ り系 統 発 生学 的 に 異な る 微 生物 を 特 異的 に 検 出し 、in situで の 存 在 形 態の 解 析 が可 能 と なっ た 。 これ ら の 手 法を 生 物 膜に 適 用 した 研究によ り生 物 膜 内 の反 応 機 構お よ び 生態 学 的 構造 が 徐 々 に明 ら か にさ れ て いる 。現在の とこ ろ こ れ らの 手 法 を単 独 に 用い た 研 究が 多 い が 、両 手 法 を併 用 す るこ とにより 生物 膜内をより詳細に解析した研究はない。
以 上 の 背 景 の 下 に 本 学 位 論 文 で は 、 微 小 電 極 とFISH法 を 併 用 し、 生 物 膜内 の 硝 化 反 応お よ び 硫酸 塩 還 元反 応 の 機構 と 生 態 学的 構 造 を解 析 す るこ とを目的 とし た。本論文は8章で構成される。
第1章 は 緒 言 で あ り 、 研 究 の 背 景 と 必 要 性 に つい て 言 及し た 。 第2章 で は 微小 電 極の開発 につい て記述し た。製 作し使用 した微小 電極は 、溶存酸 素(0:)、アン モニア(NH4゛)、亜硝酸(N02−)、硝酸(N03−)、硫化水素(H2S)、およびpHの6種類で あ る 。 こ れ ら の 先 端 径 は 約5Umか ら15Hmで 、 生 物 膜 構 造 の 撹 乱 を 最 小 限 に 抑 えながら内部の基質濃度分布を定量することが可能であった。
第3章 で は こ れ ら 微 小 電 極 とFエSH法 を 併 用し 、 都 市下 水 処 理 生物 膜 内 にお け る ア ン モニ ア 酸 化細 菌 の 菌体 密 度 分布 お よびNH4←酸化 活性分 布を測定 した。 定常 期 に お い て 、 ア ンモ ニ ア 酸化 細 菌 は主 に 直 径5〜20Umの 密な 集 塊 ( クラ ス タ ー)
を 形 成 して 存 在 して い た 。菌 体 密 度は 膜 深 さ 方向 に 増 大す る 傾 向に あり、表 層よ り も 通 常無 酸 素 状態 で あ ると 考 え られ る 深層に おいて高 かった 。ー方、NH4゛ 酸化
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