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博 士 ( 医 学 ) 貢

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 貢    英 彦

     学位論文題名

Relationship Between Color Vision Loss and     Occupational Styrene Exposure      (職業性スチレン曝露と色覚障害との関連)

学 位 論 文 内 容 の 要旨

背景スチレンは産業現場で広く使われている有機溶剤である。室温で揮発性が高 く、肺胞から吸収され、血液に移行する。脂溶性であるため、脂質が豊富である神 経組織のミエリンや、脂肪組織などに蓄積し、障害を与えることがある。近年、数 多くの研究でスチレンの神経毒性が証明された。動物実験では、スチレンが脳の Dopamine値にも影響を与えることが報告さている。スチレン曝露による視覚系へ の影響に関しては後天性色覚障害(Blue―yellow type)が明らかにされたが、色覚 障害と曝露濃度の関連、特に過去の曝露濃度、累積曝露指標や後天性色覚障害の可 逆性などについては不明な点が多い。

目的スチレン曝露労働者を対象に、スチレン曝露濃度と色覚障害の関連、特に過 去最高曝露濃度、累積曝露指標が色覚障害の程度とどのように関係しているかを明 らかにする

対 象と 方法 国内 にあ るレジ ャー ボー ト製 造工 場で 働く74名の男性スチレン曝露 労 働 者 を 曝 露 群 、 非 曝 露 男 性103名 を 対 照 群 と し て 以 下 の 項 目 を 調 べ た 。 1.質問紙調査:自記式調査票を用いて、年齢、教育歴、婚姻状況、有機溶剤曝露   関する職業歴、現病歴,既往歴、服薬歴、喫煙と飲酒などの生活習慣のデータ   を得た。

2.1) 過去 のス チレ ン曝露 濃度 :1991年 から1997年まで、年に2ー3回の有機溶   剤検 診で 得ら れた 終業時 のス チレ ン代 謝産 物で ある尿中マンデル酸(MA)濃度   の記録によった。

    2)累積曝露指標(CEI: Cumulative Exposure Index):気中スチレン濃度が20ppm、   週5日 、8時間 曝露 に相当 する 曝露 年数 と定 義し 、曝露頻度と過去の尿中MAに     より算出した。

    3)現在のスチレン曝露濃度測定:調査時の気中スチレン濃度とその終業時尿   中スチレン及びスチレン代謝産物の尿中マンデル酸、フェニルグリオキシル酸     (PGA)濃度をガスグロマトグラフイー、液体グロマトグラフィーで分析した。

3.色覚検査: Lanthony 15 Hue Desaturated Panel Testを用い、片眼ずつ検査を

(2)

  行 っ た 。 測 定 結 果 はCCI (Color Confusion Index)に 定 量 化 し た 。     対象者から除外基準を設けて、高血圧、糖尿病、頭部外傷歴、0.6以下の視力、

曝露 歴6ケ月以 下、週飲 酒量250gの対象を除外し、曝露群57名(29.3土4.5才)、

対照群69名(38.3土11.2才)について解析した。

結果 曝露群の スチレン 曝露状況の 平均(SD)はそ れぞれ、 曝露期間は75.3(26.8) 月、気中スチレン濃度は49.9  (35.9)ppm、尿中MA濃度はO.26  (0. 35)g/g Cr.、 尿 中PGAは O.11  (0. 11) g/g Cr.、CEIは6.5(5.2年 ) で あ っ た 。   後天性色覚障害は年齢に影響されると明らかにされているため、その影響を除く 目 的 で曝 露 群と 対 照 群の 年 齢を 土3才 で マッ チさせ た43ペアを作 り、Wilcoxon signed―rank sumテス卜を行った結果、年齢マッチした曝露群の平均CCI値は対照 群 の そ れ よ り 有 意 に 高 く (Pく0. 01)、 曝 露 群 の 色 覚 障 害 が 認め ら れた 。     多変 量解析で、色覚と年齢、飲酒量、尿中MA十PGA、累積曝露指数の関連を検 討し た結果、 尿中代謝 産物MA+PGAと色覚 に弱い関 連が右眼 にのみ認められた(P=

O. 058)が、累積曝露濃度との関連は認められなかった。

  曝露 濃度と色覚障害の関連を検討するために、スチレン10ppmの曝露に相当する 尿中MA+PGA0.24g/g Crで、曝露 群を高曝露群、低曝露群に層別し、対照群を加え た3群 で年齢を土3才でマッチさせ、多重比較(Shirley−Willia'ms方法)検定を用 いて 検定した。その結果、スチレン曝露濃度10ppm以下でも、色覚に影響が認めら れた(PくO. 01)。

  スチレン曝露による色覚障害の回復にっいて、過去の最大曝露濃度との関連を検 討するために、過去の最大曝露濃度50ppmで層別し、Mann−Whitney検定を行った。

過去 最大曝露 濃度50ppmを超 えた群のCCI値 は、50ppm以下 の群より有意に高かっ た(PくO. 05)。

考察 本研究か ら、職業 性スチレン 曝露は色覚に障害を与えることが確認された。

米国ACGIHによる職 場環境の スチレン許 容濃度は 、1997年に50ppmから20ppmに変 更さ れ、日本 産業衛生 学会による 許容濃度 も1999年に20ppmに 下げられたが、本 研究 から、10ppm以下の曝露濃度でも色覚障害が認められ、色覚が神経系障害の鋭 敏なマーカーとなり得ることが示された。

  環境 改善によ り気中ス チレン濃度 や労働者の平均の尿中MA値は近年低下してき ている。本研究調査時点でも、調査期間中に保護マスクを使用し始めたため、平均 気中 スチレン 濃度が49. 9ppmで あったが、 尿中MA平均 値は気中 濃度16ppmに相当 する0.29g/g Cr.であり、労働者の実際の曝露濃度は気中濃度よりも低かった。後 天性の色覚障害は、曝露現場を離れたり、曝露量が少なくなったりすると回復でき る可能性も示されているので、過去の最大曝露濃度との関連も検討した。その結果、

過去 の最高曝 露濃度が50ppmに超えた群 のCCI値は50ppm以 下の群より有意に高か った ことから、50ppm以上の比較的高濃度スチレンに曝露された場合、色覚障害の 回復が難しいと考えられる。今後は、スチレンが視路のどの部位ヘ影響を与えるか に っ いて 、 視覚 誘発電位 などによ り詳細な 精密検査 を行ってい く必要が ある。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

Relationship Between Color Vision Loss and     Occupational Styrene Exposure

( 職 業 性 ス チ レ ン 曝 露 と 色 覚 障害 と の 関連 )

  スチレンは産業現場で広く使われている.有機溶剤である。室温で揮発し、肺から吸収さ れ、血液に移行する。脂溶性であるため、脂質が豊富である神経組織のミエリンや、脂肪 組織などに蓄積し、障害を与える。近年、多くの研究でスチレンの神経毒性が証明された。

動物実 験では 、スチレ ンが脳 のDopamine分泌にも影響を与えることが報告さている。ス チレン曝露の視覚系への影響についても多くの研究が行われ、色覚障害が生じることが明 らかにされている。しかし、色覚障害と曝露濃度の関連、特に過去の累積曝露や最大曝露 濃度と の関連 の知見が 不十分 である。スチレン曝露労働者に色覚系を含む神経機能検査 を行い 、色覚 障害とス チレン 曝露濃度の関連、特に過去の累積曝露や最大曝露濃度が色 覚に及ぼす影響を検討した。

  国内の 強化プ ラスチッ ク・レ ジャーボ ー卜製 造工場で 働く74名 の男性ス チレン曝露 労 働者 を 曝 露群 、 ス チレ ンを 使用して いない 男性103名を対照 群とし 、色覚検 査と曝 露測定 を行い 、個人曝 露濃度 と生物学 的モニタ リング を行なっ た。生 物学的モ ニタリ ン グは 、 ス チレ ン の 尿中 代 謝 物 であ る マ ンデ ル 酸 (MA)、フ ェニル グリオキ シル酸 (PGA)、お よ び 尿中 ス チ レンを 測定した 。過去 の曝露デ ータに より累積 曝露指数 を換 算した 。.Lanthony 15 Hue Desaturated Panel Testによる色覚検査を片眼ずつ行い、

CCI (Color Confusion Index)に定量化した。高血圧、糖尿病、頭部外傷歴、矯正0.6以下 の 視力 、 曝 露歴60月以 下 、 週 飲酒 量250gを 超え る ものを 対象か ら除外し 、曝露 群57 名 (29. 3土 4.5才 ) 、 対 照 群 69名(38.3土11.2才 ) に つ い て 解 析 し た 。   曝露群 のスチ レン曝露 の指標(平均(土標準偏差))はそれぞれ、曝露期間75.3(土 26.8)か月 、 平 均値 気 中 スチレ ン濃度49.9(土35.9) ppm、尿中MA濃度0.26( 土0.35) g/g Cr.丶尿中PGA 0.11(土0.11)g/gCr.、累積曝露濃度6.5(土5.2年)であった。重 回 帰分 析 に よっ て 、 色覚 と 年 齢 、飲 酒 量 、尿 中MA十PGA、 累 積 曝露 指 数 の関 連 を検 討 し た 結 果 、 尿 中 代 謝 産 物MA+PGAと 色 覚 の有 意 な 関連 が 右 眼に の み 認 めら れ た 。

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昭 雄

重 邦

野 代

大 田

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

慢性 曝露 の指 標で ある 累積 曝露 指数 と色 覚障 害の関 連は認められなかった。後天性色 覚障 害は 年齢 に影 響さ れる とさ れて いる ため 、その 影響を除く目的で曝露群と対照群 の年 齢を 土3才で マッ チさ せ た43ペア につ いてWilcoxon順位 和検 定を 行っ た。曝露群 の平 均CCI値 は対 照群 のそ れ より 有意 に高 かっ た。 急性 曝露 によ るス チレ ン曝露量と 色 覚 障 害 の 関 連 を 検 討 す る た め に 、 ス チ レ ン10ppmの 曝 露 に 相 当 す る 尿 中 MA+PGA0.24g/g Crで 、 曝 露 群 を 高 、 低 曝 露 群に 層別 し、 対照 群を 加え た3群 で多 重 比較を彳丁った。3群の年齢を土3才でマッチさせ、Shirley−Williams検定を用いた。スチ レン 曝露 濃度10ppm以 下の 低 濃度 急性 曝露 でも 、色 覚に 有意 に影 響が 認め られた。ス チレ ン曝 露に よる 色覚 障害 から の回 復に つい て、過 去の最大曝露濃度との関連を検討 す る た め に 。 過 去の 最大 曝露 濃度50ppmで層 別し 、Mann―Whitney検 定を 行っ た。 過 去最 大曝 露濃 度が50ppmを 超 えた 群のCCI値は 、50ppm以 下の 群よ り有 意に 高かった。

  本 研究 から 、職 業性 スチ レン 曝露 は色 覚に 障害 を与 え るこ とが 認め られた。ACGIH の ス チ レ ン 曝 露 許 容 濃 度 は 、1997年 に50ppmから20ppmに 変更 され たが 、 今回10ppm 以下 の曝 露で も色 覚障 害が 認め られ 、色 覚が 神経系 障害の鋭敏のマーカーとなり得る こと が示 され た。 調査 期間 中に 保護 マス クを 使用し 始めたため、平均尿中マンデル酸 値は 近年 低下 して いる 。今 回も 、平 均気 中ス チレ ン濃 度 が49.9ppmあ った が、尿中MA 平均 値は 気中 濃度16ppmに 相 当す る0.29g/g Cr.であ った。実際の曝露濃度は気中濃度 より も低 い。 後天 性の 色覚 障害 は、 曝露 現場 を離れ たり、曝露量が少なくなったりす ると 回復 でき る可 能性も 示されている、。一方、過去の最高曝露濃度が50ppmを超えた 群 のCCI値 は50ppm以 下 の 群 よ り 高 か っ た こ とか ら、50ppm以上 のス チレ ンに 曝露 さ れた 場合 、色 覚障 害の 回復 が難 しい と考 えら れる。 今後低濃度スチレン曝露が視路の どの 部分 ヘ影 響を 与え るか など につ いて 、視 覚誘発 電位などより詳細な精密検査を行 っていく必要がある。

  この論文は、低濃度でも スチレン暴露は色覚障害を来すことを明らかにし、また過 去の暴露量が障害の遷延化 に関与することを初めて報告した点で、高く評価され、今 後産業現場の環境改善に大 きく寄与するものと期待される。

  審査員一同はこれらの成 果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位など も併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。

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参照

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