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後藤, 晴子

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

人類学と老年学 : 「高齢者事業」への参与から隣接他 領域との関係を考える

後藤, 晴子

福岡大学 : 非常勤講師

https://doi.org/10.15017/2344579

出版情報:九州人類学会報. 38, pp.118-123, 2011-07-10. 九州人類学研究会 バージョン:

権利関係:

(2)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・亀#・春月・飯嶋・針塚・後籐)

人類学と老年学

‑「高齢者事業」への参与から隣接他領域との関係を考える一

後 藤 晴 子 ( 福 岡 大 学 非 常 勤 講 師 )

キーワード:老年学、高齢者事業、志向性

I  . 

はじめに:役に立つ?

「どうして調査で得た知識を役に立て ようと思わないのか」

これは夜神楽見学で訪れた九小卜1の山村 で出会った、とある東京のコンサル会社 に勤める 40代の男性にかけられた言葉 である。地元の年配の観客たちにまじっ て見学していた年若い筆者がなんとなく 目についたのだろう。夜半、観客の数も 減ってきたころ、突然後ろから声をかけ

られた。

社殿内に設けられた舞台で繰り広げら れる神楽の舞を見学しつつ、小声でぽつ ぽつと話を続けているうちに、たまたま 筆者が取り組んでいる沖縄の調査の話に なった。冒頭にあげた言葉は、筆者の話 を聞き終わった男性が、どこか不満そう な顔で投げかけた言葉である。ここで彼 の言う「役に立つ」とはもちろん学問的 な思考の一助にするといったような意味 ではない。現実に一彼の言葉を拝借すれ ば、高齢者向けの

NPO

を設立したり、

実際に企業の事業に生かしたりすること によって一「社会の」役に立てるという ことである。

彼自身が、九小卜1の山奥の神楽見学を商 売のタネとして考えていること(具体的 には新しい社会ネットワーク構築を目的 とした事業起案のマーケティングとして 神楽見学が生かされるということ)に十 分驚かされたが、彼が筆者自身の研究自 体もそのような観点から評価していたこ と、そしてそれを「役に立つ」と言われ たことにはどこか違和感もあった。

近年日本においても文化人類学の手法 や思考法の実学的有効性を謳った議論が、

医療や開発といった現場に限らず多様な 領域で盛んに行われるようになった。そ れはこれまでの「民族誌を書く」ことに よって眼前の現象を明らかにしようと務 めてきた人類学とは異なる新たな可能性 を示唆しているだろう。しかしそこでそ こでは「人類学を実社会で具体的に役に 立てるべきである」とか「積極的に問題 解決に関わるべきだ」、「人類学は実社会 の問題解決に有効である」といった研究 者の参与の是非に関わる議論が強調され る風潮が強くなる 1)一方で、人類学とい う学問の課題に還流するような議論は前 者のそれに比べると、あまり行われてい ないような気もしている。この違和感は、

自身の研究に関わりの深い老年学という 学問に接する際に感じるものに似ている。

I I   . 

老年学という領域

老年学という学間のおこりは

1 9

世紀 に遡る。だが

19

世紀後半にみられる老年 学は、いわば「衰退の科学」であり老人 衛生とその健康の維持程度に留まってお り、そうした意味では

1 9

世紀はどちらか といえば老衰

( s e n e c t i t u d e )

の発見にあ った。そうした意味では近代科学として の老年学の発生するのは世界的にみても、

第二次世界大戦後、

1945

年以後のことで ある。

A . F .  

ロートンの区分では、老年学の発 達段階は 3段階に分けられる。生物学が 躍進するなか、生命一般の生命現象研究

(3)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・電#・春

H

・飯嶋・鉗塚・後藤)

が 促 進 さ れ た第一段階

( 1 9 2 0

年代)、老 年 医 学 な い し 老 年 病 学 で あ る

g e r i a t r i c s

が 組 織 的 に 研 究 さ れ た 第 二 段 階

( 1 9 3 0

年 代から

1940

年代)、それまでの成果をも とに老年学

( g e r o n t o l o g y )

が展開された 第 三 段 階

( 1 9 4 5

年以降)という

3

つの段 階である[湯沢

1978 :  l ]

。 つ ま り 老 年 学 は 研 究 対 象 と し て は 老 人

( o l dman) 

から老化

( a g i n g )

へ、学問分野としては 医学• 生 物学から社会諸科学、人文諸科 学、人口学、社会福祉政策を含む範囲ま で拡大していったと言える[湯沢

1978

、 冷水

2 0 0 2 ] 。

第 三 段 階 の 中 心 だ っ た の は 、 第 二次世 界大戦後のアメリカで[冷水

2002 :  4 6 ]  

2)、 少 し 時 代 が 遡 る が、今では老年学に おいて当たり前に用いられる

aging

(エ イ ジ ン グ ) と い う 言 葉 も 、 ア メ リ カ で

1937

年 に 結 成 さ れ た 老 化 研 究 ク ラ ブ

(Club f o r  Research o f  Aging)

で初めて 使 用 さ れ た と 言 わ れ て い る 。 こ の ク ラ ブ は、生物学・臨床医学・心理学といった 複 数 の 専 門 家 が 一 堂 に 会 し 、 老 年 期 の 研 究のみならず広く

aging

の過程について 科 学 的 に 検 討 す る こ と が 目 的 とされてお り、

1944

年 に は ア メ リ カ 老 年 学 会

( G e r o n t o l o g i c a l  S o c i e t y )

aging

の研 究クラブの発展版として結成されている。

同学会は毎年一回の総会を開くと共に、

1946

年 以 降 は 機 関 誌 『 老 年 学 雑 誌

( J o u r n a l  o f  Gerontology)

』を刊行する ことによって、

aging

の概念の普及定着 が目指されていた。創刊号に特筆された

"To add l i f e   t o  y e a r s  not j u s t  y e a r s  t o   l i f e "  

(年齢に生命を加え、生命に年齢を 加 え る こ と な か れ ) と い う 一 文 は 、 本 会 の意図をよく表現していると言えよう。

皿 老 年 学 発 展 の 背 景

こうした老年学の発達の背景には、日 本 の 老 年 学 者 湯 沢 薙 彦

[ 1 9 7 8 ]

によると、

① ア メ リ カ の 他 国 に 先 行 す る 近代医学の

発 達 が 平均寿命を上昇させ老年者層の存 在 を 厚 く し た こ と や、その結果として② 老人が医学の新しい対象となってきたこ と、また③増加した老人の存在そのもの もが社会間題として取り上げられるよう になったことが挙げられる。

18

世紀イギ

リスにおこった産業革命は、

19

世紀中に 欧米の主要国を工業化させたが、同時に 多くの工場労働者を伝統的な親族共同体 から切り離し近代核家族化を進行させた。

19

世 紀 以 降 急 速 に 進 行 し た 近 代 核 家 族 化 に よ って、西欧諸国は相次いで老齢年 金に相当する給付制度を国家政策として 採用せざるをえなかったのである。結果 として老年学は

1950

年代以降、アメリカ、

イギリス、スイス、デンマーク、スウェ ーデン、フィンランド、旧西ドイツ、オ ーストリア、イタリア、旧ソビエトなど の西欧諸国で目覚ましい発展を遂げるこ ととなる。

日本も例外ではない。湯沢

[ 1 9 7 8 ]

に よると、

1955

年頃までは日本では日常会 話にも、そしてマスコミの間でも老人問 題 と い う 言 葉 す ら 存在しなかった。それ が、

1960

年 ご ろ 老 年 者 層3)が増大する 中で、①家族制度改革に伴う核家族イデ オロギーが浸透するとともに、②高度経 済成長下で老人政策が積み残され、③年 金と医療保障制度の不備に代表される福 祉 の 欠 如 が 顕 在 化 し 、 ④ 老 親 扶養の意識 の衰退と老人自律感が高まったこと、⑤ 研 究 者 の 啓 蒙 を 背 景 に 、 俄 か にクローズ アップされるようになったのである4)0

つまり老年学というものは西欧諸国で も日本でも、社会問題と社会的な要請を 背景に発展してきた学問であって、そこ では明確な間題解決志向をもった研究が 中心的な役割と地位を占めているのは当 然 の こ とだといえよう。そして今や老年 学は、医学・社会科学といった学問領域 に関わりなく、「プロダクティブ・エイジ ング

( p r o d u c t i v ea g i n g )

い」や「アク ティブ・エイジング

( a c t i v e a g i n g )

い」、

(4)

人類学を/で豊かにすること(伊籐・危#・春月・飯嶋・針塚・後藤)

「サクセスフル・エイジング」という価 値志向を含んだ「強い」言葉が並ぶよう になった。

これまでもそうであったように、おそ らくこれからも長寿の大衆化を達成した 先進諸国において、老年学のバックグラ ウンドに「豊かな高齢期を過ごしたい」

という社会的な願望が強く反映されるこ とは間違いないだろう。そしてそれはい わゆる社会福祉に多大なる貢献を果たし ていることは言うまでもない。だが、「サ クセスフル」といった価値志向をふんだ んに含む概念自体を問うような姿勢が全 体的におろそかになっていること 7)、そ の一方で高齢期に突然「望ましい生き方」

を求める風潮が強固に存在することには、

やはり違和感を抱いてしまう。

N. 

高齢者研究・事業にかかわる

こうした筆者自身の違和感はどうあれ、

(そして筆者自身が意識的にこうした研 究 と は 距 離 を 置 い て い る も の だ と し て も)「高齢者研究」といったものを掲げて いることで、アカデミズムとは異なる思 いもかけない領域への誘いがかかること もある。実際、筆者が「高齢者研究」を していたことが縁で、大学院博士課程進 学直後、とある高齢者向け事業の起業を 見据えた市場調査プロジェクトに研究協 力者「もどき」として参与したことがあ った。

このプロジェクトは、平成

17

年に経済 産業省の新連携対策補助金によって行わ れた事業化プロジェクトのひとつで、具 体的には、高齢者を含めた新しい地域ネ ットワークの構築を目的とする事業の準 備プロジェクトだった。プロジェクトの 構成メンバーは、

A

社関係者(社長・共 同経営者および職員

1

名)+精神心理学 者+広告事業社の関係者+商店街関係者

+介護・心理カウンセリング経験者+筆 者によって構成され、半年で320万円弱

の予算が計上されていた。

こ の 新 連 携 対 策 補 助 金 と は 、 平 成

17

年4月に制定された中小企業新事業活動 促 進 法 第

11

条に基づく補助で、事業の 分野を異にする事業者(中小企業、大企 業、個人、組合、研究機関、

NPO

等)と 有機的に連携し、その経営資源(技術、

マーケティング、商品化等)を有効に組 み合わせて、新事業活動を行うことによ り、新市場創出、製品・サービスの高付 加価値化を目指す取り組み(「新連携」)

を支援することを目的として実施されて いるものである。

この事業化プロジェクトで行われたの は、①想定される消費者に対する市場調 査(アンケート調査)、②アメリカのナー シングホームや高齢者関連施設の訪問お よび事業者へのインタビュー、③②を利 用した事業 PR ビデオの作成であり、筆 者はこのうち①および、全体の会議に折 に触れて参加した。またここでの筆者の 具体的な業務は、①会議 (PRビデオの構 成・市場調査用のアンケートの項目の検 討など)への出席および議事録の作成、

②アンケートの分析(統計処理)であっ た。

筆者が関わったのは、約半年のプロジ ェクトの後半4か月ほどで、その任務も 上に挙げたようにごく限られたものであ った。だが、それでもプロジェクトヘの 参与期間中常に求められた、いわゆる(当 然のことなのだが)ビジネスとして成立 するかどうか(=利益を得られるかどう か)という企業側の姿勢とのズレを埋め るのは、筆者にとってたやすいことでは なかった。

このプロジェクト自体はその後も継続 したという話だが、筆者は半年のプロジ ェクトが終了した時点でその後のプロジ ェクトヘの参加は見送った。長期調査を 予定していたという個人的理由もあった が、学問的な手法をそのままビジネスへ と応用することへの違和感が大きかった。

(5)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・竜芹・春

H

・飯嶋・舒塚・後藤)

結 局 の と こ ろ 、 報 告 者 に と っ て こ の プ ロ ジ ェ ク ト ヘ の 参 与 は 、 プ ロ ジ ェ ク ト 自 体 へ の 貢 献 も 、 そ こ か ら の 自 分 自 身 の 学 問 的なフィードバックも何も出来なかった、

と い う の が プ ロ ジ ェ ク ト 終 了 直 後 の 正 直 な 感 想 で あ っ た 。 今 考 え れ ば あ ま り に も 悲 観 的 な 結 論 だ っ た と 思 う が 、 ビ ジ ネ ス と い う ア カ デ ミ ズ ム と は 全 く 異 質 な 領 域 が 持 つ 強 い 志 向 性 ( = 利 益 追 求 ) と い わ ゆ る 「 人 類 学 」 と の 間 に 横 た わ る 距 離 に つ い て は 、 個 人 的 な 能 力 と は 別 次 元 の 間 題として存在していることは間違いない、

と考える。

V. 

お わ り に : 学 問 に 戻 る

ビ ジ ネ ス の 場 面 に お い て 人 類 学 的 な 民 族 誌 を 求 め る ニ ー ズ は こ れ か ら も 高 ま る だ ろ う 。 し か し ど ち ら か と い え ば 、 そ う し た こ と に 対 し て 距 離 感 が あ る 立 場 か ら 見 れ ば ( つ ま り 人 類 学 の 現 状 を 精 査 す る こ と に 力 点 を 置 く 、 そ れ 以 上 で も 以 下 で も な い と い っ た よ う な ス タ ン ス か ら 見 れ ば)、人類学側がそこに照準を合わせてい く の は ど う も あ ま り に も 欲 張 り 過 ぎ で あ る よ う な 気 が し て いる 8)

ビ ジ ネ ス と 人 類 学 の 距 離 を 持 ち 出 す ま でもなく、(冒頭に述べたように)文化人 類 学 の 現 在 の 状 況 を 鑑 み れ ば 、 従 来 の フ ィ ー ル ド を 見 つ め そ こ で 起 こ っ て い る 現 象 を 分 析 す る よ う な 研 究 と 、 近 年 盛 ん に 行 わ れ て い る 開 発 人 類 学 に 代 表 さ れ る よ う な 問 題 解 決 志 向の強い実践型の研究と 既 に ど こ か 二 分 化 し て し ま っ て い る 。 問 題 解 決 型 の 実 践 研 究 の ほ う が 従 来 の 研 究 に 対 し て 積 栖 的 な 呼 び か け を 行 っ て い る も の の 現 状 で は あ ま り 功 を 奏 し て い る よ う に 見 え な い 。 そ の 結 果 「 お 互 い が そ れ ぞ れ 好 き な よ う に や れ ば い い 」 と い う か たちになっている。

人 類 学 者 で あ れ ば だ れ も が ( た と え 筆 者のような立場であっても)、フィールド 調 査 を す る 中 で 「 ど う す れ ば こ の 地 域 が

よくなると思うか」とか、「悪いところが あ っ た ら 忌 憚 な く 批 判 し て く れ 」 と い っ た 問 い を 不 意 に 投 げ か け ら れ る こ と が あ る だ ろ う 。 ま た イ ン フ ォ ー マ ン ト 同 士 が 対立する場面では「どちらの味方なのだ」

と 、 個 人 の 意 思 表示を強く迫られること も あ る 。 そ う し た 時 は 、 最 終 的 に は 個 人 と し て 良 い と 思 う こ と に 全 力 を 尽 く す し か な い 。 そ れ は 、 ご く 個 人 的 で 恣 意 的 な 判 断 に 基 づ く 行 為 で あ る の で 、 残 念 な が ら 上 手 く いかないことも多い。だからと 言 っ て そ こ で の 結 果 は 「 人 類 学 を し て い る 」 と い う こ と だ け に 還 元 さ れ る わ け で は な い 。 も っ と 言 え ば フ ィ ー ル ド の 抱 え る 問 題 の 解 決 に 積 極 的 に 関 わ り 、 フ ィ ー ル ド で 豊 か に 悩 ん で い る 研 究 者 の 努 力 や 成果を、すべて「人類学をしていること」

に 還 元 し て し ま う こ と も お そ ら く 間 違 っ ている。

し か し な が ら こ れ は 言 い 換 え れ ば 、 研 究 者 自 身 が ど の よ う な 立 場 ・ 志 向 性 を 持 っ て い る に せ よ 、 ま た ど う い っ た 学 問 領 域で研究・実践に取り組んでいるにせよ、

「学そのもの」へと戻ってくる道筋を確 保 す る こ と は 出 来 る の だ 、 と い う こ と に な る 。 研 究 者 の 立 場 や 志 向 性 や 領 域 の 違 い を 踏 ま え 、 開 か れ た 学 問 と し て の 議 論 を 確 保 す る た め に は 、 結 局 の と こ ろ 学 問 と し て の 精 度 を 鍛 え て い く 努 力 を す る し かないのではないか。「人類学を/で豊か に す る 」 と い う 問 い の 答 え も 最 終 的 に は そ こ に た ど り つ く の で は な い か と 考 え て いる。

付 記

本 稿 は 、 第8回九小卜1人 類 学 研 究 会 オ ー タ ム セ ミ ナ ー の セ ッ シ ョ ン 「 人 類 学 を / で 豊 か に す る こ と 一 他 領 域 と の 関 係 か ら 人類学の拡張可能性を考える」

( 2 0 0 9

11 月 5 日、於• 福 岡 県 飯 塚 市 サ ン ビ レ ッ ジ茜)にて行ったコメントを下敷きに、

2010

年 第 44回 日 本 文 化 人 類 学 会

( 2 0 1 0

年 6月

1 1

日、於・立教大学)の分科会の

(6)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・危#・春

H

・蔽嶋・針塚・後藤)

発表(「高齢者研究/事業と人類学一異質 なモノとしての隣接• 他 領 域 に 対 峙 す る」)の要点に加筆したものである。また 内 容 は 、 セ ッ シ ョ ン メ ン バ ー と の 議 論 お よ び セ ッ シ ョ ン も し く は 分 科 会 参 加 者 の コ メ ン ト を 踏 ま え 改 稿 し た 。 コ メ ン テ ー タ お よ び 発 表 と い う 貴 重 な 機 会 を 提 供 し て 下 さ い ま し た コ ー デ ィ ネ ー タ ー の 伊 藤 先 生 、 ま た 、 メ ン バ ー の 飯 嶋 先 生 、 亀 井 先 生 、 春 日 先 生 、 針 塚 さ ん 、 御 意 見 を 頂 き ま し た セ ミ ナ ー お よ び 分 科 会 参 加 者 の 皆様並びに九小卜1人 類 学 研 究 会 関 係 各 位 に 記して御礼申し上げます。

1)こ う し た 点 が 強 調 さ れ る 背 景 に は い く つ かの要因が考え得る。まず、ひとつには医 療 や 法 律 も し く は 社 会 福 祉 と い っ た 領 域 と比べれば、それほど成果が求められるこ とが少なかった人文科学(や社会科学の一 部)をはじめとする諸領域にも具体的な成 果 を 伴 っ た 積 極 的 な 社 会 貢 献 が 期 待 さ れ るようになっていること。また応用研究に 対 す る 人 類 学 者 の 長 い 間 の 消 極 的 な 態 度 が あ っ た こ と が 関 係 し て い る の か も し れ なし。

いョーロッパ諸国においても、第二次世界大 戦後まもなく老年研究が盛んになった。そ の 国 際 的 交 流 を 計 る べ く 開 か れ た の が 第 一 回 国 際 老 年 学 会 議 (International Association of Gerontology  [LAG])であ

る。1950年ベルギーのブリュッセルで開か れたこの会議は、以後 3,....̲̲,  4年ごとに継続 されて開催されている。この LAGには2 つの委員会が存在し、ひとつが 1997年に 老 人 差 別 阻 止 の 一 翼 と し て 情 報 の 国 際 的 普 及 を 目 的 と し て 結 成 さ れ た International Network for the Prevention  of Elder Abuse (INPEA)で、もうひとつ が 2002年に老年学を専攻する学生の増加 を背景に、彼らのネットワーク拡大を目的 として結成されたInternationalCouncil of  Gerontology  Student  Organization 

(ICGSO)である。

3)  老 人 と は 一 体 だ れ を 指 す の か 。 片 多 順 [1981]が文化的・社会的なものであると 言ったように、誰を老人と呼ぶのかといっ た問いの答えは、それぞれの文化や社会に よって異なっている。そのため、たとえば 暦 年 齢 や 身 体 的 特 徴 か ら 一 定 の 定 義 を 与 えることは難しい。だが、老年学をはじめ 医学、心理学、社会学などの老人を扱う学 問領域や老人のための福祉、医療など具体 的 な 行 政 に お い て 老 人 は あ る 程 度 固 定 化 された概念として用いられており、「老年 層」という言葉も(老齢年金を支給される)

65歳以上を指すと考えてよい。

4) 日 本 で 社 会 一 般 に エ イ ジ ン グ が 関 心 を も たれるようになったのは、西欧の影響を受 け た 学 界 で 行 わ れ て い た 医 学 的 な 研 究 を 除けば、 1954年(昭和29年 ) 渡 辺 定 の 提 唱で、塩田広重を会長として「寿命学研究 会」が結成されて以降のことである。たと えば、 1956年(昭和31年) 12月には「日 本ゼロントロジ一学会」の第一回総会が東 京で開催され、 1959年(昭和 33年 ) ま で 3回開催された(その後クラブ的性質であ ったことを理由に解体され、同年「日本老 年医学会 (JapanGeriatric Society)」と「日 本 老 年 社 会 科 学 会 (Japan Socio‑Gerontological  Society)」という 2 つの学会とその連合体としての「日本老年 学会 (JapanGer on to logical  Society)」が 1959年 に 一 挙 に 組 織 さ れ た ) [ 冷 水 2002: 46]。1958年(昭和33年)前後にか けては、老人福祉法制定を求める活発な動 きが大きくなり、同年には初の全国老人ク ラブ大会、東京都福祉協議会、全国養老事 業関係者会議では老人年金や老人憲章、老 人 福 祉 法 の 制 定 が 決 議 さ れ て い る 。 1961 年(昭和36年) 2月には、自由民主党社会 保 障 調 査 会 に 老 令 部 会 が 設 置 さ れ 具 体 的 検討が始まり 11月には同等の法案が発表 され、同年 10月にはアメリカ老人憲章を 取 り 組 ん だ 民 社 党 の 老 人 福 祉 要 綱 も 発 表 された。 1963年(昭和 34年) 7月 6日に

(7)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・電#・春月・飯嶋・計塚・後藤)

は 、 厚 生 省 社 会 局 が 作 成 し た 案 が 第 43回 国 会 に 提 出 さ れ 世 界 で も 初 め て 「 老 人 福 祉 法 」 が 成 立 し た 。 ま た こ の 年 に は 「 敬 老 の 日 」 が 制 定 さ れ 、 マ ス コ ミ も 大 々 的 な キ ャ ン ペ ー ン を 張 る よ う に な っ た 。 ま た 1972 年 ( 昭 和 47年 ) に は 東 京 都 老 人 総 合 研 究 所 が 設 置 さ れ 多 く の プ ロ ジ ェ ク ト が 開 始 さ れ て い る [ 湯 沢 1978]。 し か し 老 年 学 の メ ッ カ 、 ア メ リ カ に 比 べ る と 、 老 年 学 系 の 研 究 機 関 は ご く か ぎ ら れ て い る な ど 、 い さ さ か 遅 れ た 状 況 に あ る と も い え よ う [ 冷 水 2002: 46]。

5)プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ エ イ ジ ン グ と は ア ク テ ィ ブ ・ エ イ ジ ン グ と い う タ ー ム が 使 用 さ れ る 以 前 に 多 用 さ れ た 言 葉 で あ る 。 高 齢 者 の 経 済 活 動 へ の 参 加 に 関 心 が 変 更 し 、 高 齢 者 に 就 業 を 強 制 す る こ と に な り か ね な い こ と へ の 懸 念 、 精 神 的 ・ 内 面 的 な 活 動 性 を 軽 視 し て い る と の 批 判 か ら あ ま り 使 わ れ な く な っ た [ 前 田 2006 : 9]。

6)ア ク ディブ・エイジング:国際高齢年(1999 年)の標語。 ILO(国際労働機関)やWHO

( 国 際 保 健 機 構 ) ら が 使 用 し た 言 葉 で 、 Walkerに よ っ て 理 論 的 に 精 緻 化 さ れ た 。 W H Oによるとそれは、「年をとっていく中 で 、 生 活 の 質 (qualityof life)を 高 め て い く た め に 『 健 康 (health)』 、 『 参 加 (participation)』、『安全 (security)』のた め の 機 会 を 最 大 化 す る プ ロ セ ス 」 で あ る と い う [ 前 田 2006 : 8]。

7)も ち ろ ん 老 年 学 内 部 に お い て も 、 問 題 解 決 型 の 研 究 に お い て 理 論 的 発 展 の 欠 如 が み ら れ る こ と は 指 摘 さ れ て い る [ 前 田 2006:

6]。

8) 「 フ ィ ー ル ド で 役 に 立 つ の か 」 と い っ た 議 論 が 繰 り 返 さ れ て い る よ う に 、 い わ ゆ る ア カ デ ミ ズ ム と し て の 人 類 学 が 、 ビ ジ ネ ス ツ ー ル と し て 人 類 学 を 鍛 え る と い う 方 向 性 は 持 ち づ ら い 気 が し て い る 。 そ も そ も 筆 者

自 身 、 人 類 学 を す る こ と に よ っ て 社 会 問 題 に 積 極 的 に 役 に 立 つ と 大 手 を 振 る こ と は 難 し い 。 「 フ ィ ー ル ド で 役 に 立 て る / 立 て て い る の か ? 」 と 問 わ れ た な ら ば 、 お そ ら く (小さな声で)「ごめんなさい」と答え る だ ろ う 。 実 際 問 題 と し て 社 会 ・ 経 済 的 に も そ し て 、 身 体 的 能 力 も 低 い 、 い わ ば な ん の 力 も な い 小 娘 ( 学 生 ) が 、 フ ィ ー ル ド で 出 来 る こ と は 残 念 な が ら そ う 多 く は な い か ら だ 。 ま た ど ち ら か と い え ば 「 役 に 立 て る 」 と い う 物 言 い 自 体 に は 、 「 や は り 」 お こ が ま し さ も 感 じ て し ま う ( こ の 人 類 学 者 の 「 お こ が ま し さ 」 に つ い て は ( 筆 者 の 次 元 と は 異 な る が ) 開 発 人 類 学 等 に お い て も

しばしば言及されてきた)。

参 照 文 献

青 柳 ま ち こ ( 編 )

2000  『開発の人類学』古今書院。

片 多 順

1981  『 老 人 と 文 化 一 老 年 人 類 学 入 門 』 垣 内出版。

金 子 勇

1998  『 高 齢 化 社 会 と あ な た 一 福 祉 資 源 を ど う つ く る か 』 日 本 放 送 出 版 協 会 。 冷 水 豊

2002  「老年学的アプローチの特徴と課題」

『書斎の窓』(2002.7.8)、pp.45‑49。 橘 覚 勝

1971  『老年学』誠信書房。

前 田 信 彦

2006  『 ア ク テ ィ プ ・ エ イ ジ ン グ の 社 会 学 一 高 齢 者 ・ 仕 事 ・ ネ ッ ト ワ ー ク 』 、 ネルヴァ書房。

湯 沢 碓 彦

1978  『老年学入門』有斐閣。

(2011年5月31日 掲載決定)

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