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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 中 島 そ の み

     学 位 論 文 題 名

Effects of Prenatal Exposure to Polychlorinated Biphenyls     and Dioxins on Mental and Motor Development in     Japanese Children at Six Months

(PCB ・ダイオキシン類の出生前曝露による 日本の6 ケ月児の精神・運動発達への影響)

学位論文内容の要旨

     背景およぴ目的

   バックグランドレベルのPCB やダイオキシン類のような環境化学物質の出生前およ び出生後の曝露は,小児の神経発達に悪影響を及ばすことがいくっかの研究で示され ている,他方,神経発達への有害な影響をほとんど及ばさないという報告もある.さ らに,西欧諸国を除いては,PCB とダイオキシン類の詳細な曝露評価と神経発達評価に 基づいた調査が行われておらず,明確な結論が得られていないのが現状である,本研 究の目的は,本邦の札幌市におけるバックグランドレベルの PCB やダイオキシン類と いった環境化学物質の次世代の精神・運動発達や認知機能への影響を明らかにするこ とである.そこで,本調査では母体血中のPCB ・ダイオキシン類濃度を精密に測定し,

6 ケ月児における神経発達評価を行い,出生前曝露が児の神経発達に与える影響を検討 した.

     対象および方法

  2002 年 6 月から 2004 年 6 月の問に札幌市内の一般病院産科を受診した妊娠 23 〜35 週の妊婦を研究対象とした.妊婦およびそのパートナーの食習慣・生活職業上の化学 物質曝露状況・住居環境・喫煙・病歴などに関し質問紙調査を実施し,妊婦や児の妊 娠・出産時の情報は医療診療録から収集した.

   曝露評価は,妊娠中期から後期および出産直後に母体血を採取し,母体血中PCB .ダ イオキシン類の濃度を,溶媒除去大量試料注入装置 (SCLV ―system) を装着した高分解 能ガスクロマトグラフイー・高分解能マススペクトロメトリー(HRGC/HRMS) で測定し た,PCB ・ダイオキシン類の濃度は,それぞれ異性体毎に測定し(PCDD7 種類,PCDF 10 種類,ノンオルソ Co →PCB4 種類,モノオルソCo ―PCB8 種類,ジオルソPCB2 種類),

Total 値,TEQ 値も算出した.また,対象者のうち 64 名については,68 種類のPCB (モ ノオルソPCB を含む)についてもHRGC/HRMS で測定した・

   児の神経発達評価は, 60 月時にベイリー乳幼児発達検査―第2 版(BSID ―H )によ り精神発達,運動発達を評価した.また,児の養育環境状況についても同時期に調査 した.

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(2)

  解 析 対 象 者 の 選 択 基 準 は , 妊 娠 , 分 娩 時 に 重度 の病 気や 合併 症が ない , 満期 産( 在胎 週 数 が37か ら42週 ) で 単 胎 ,1分 後 のApgar‑scoreが7点 以 上 , 児 に 先 天 異 常 や 重 度 な 病 気 が な い , そ し てBSID‑ IIが 完 了 し て い る こ と と し た .

  BSIDーnの 得 点 ( 精 神 発 達 の 得 点 はMDI, 運 動 発 達 の 得 点 はPDI) と 母 体 血 中PCB. ダ イ オ キ シ ン 類 の 濃 度 と の 関 連 を 明 ら か に す る た め に , 母 体 血 中PCB・ ダ イ オキ シン 類濃 度 はlog変 換 し , 在 胎日 数, 妊娠 中の 喫煙 の有 無, 妊娠 中の カフ ェイ ン摂 取 量(mg/day), 採 血 時 期 ( 出 産 前 と 出 産 後 ) で 調 整 し 重 回 帰 分 析 を 行 っ た ・

    結果

  解 析 対 象 者 は , 選 択 基 準 を 満 た し , 曝 露 評 価 とBSID―IIが 終 了 し た 母 子 ペ ア134名 で あっ た.    BSID  IIの得 点 結果 であ るMDIお よぴPDIと 対象 者の 基本 的属 性と の関 連性で は , 妊 娠 中 の カ フ ェ イ ン 摂 取 量 が 多 く な る と 有 意 に PDIが 低 く な っ て い た

(r ー0. 177,p O.04).また,在胎日数が長くなると有意にMDI  (r=0. 178,p 0.039), PDI (r=0. 289,p=0. 001)ともに高くなっていた.

  母 体 血 中PCB. ダ イ オ キ シ ン 類 濃 度(pg―TEQ/glipid)の 平 均 値 で は ,Total TEQが 18.8(4.O―51.2)pg−TEQ/glipidと, 対象 年齢 が 同程 度の 国内 他地 域の 調査 結果 より も や や 低 い 値 で あ っ た . ま た , 本 調 査 対 象 の134名 中64名 の 母 体 血 中 のPCB―153の 中 央 値 は 22.9ng/g lipidで , 先 行 研 究 で 報 告 さ れ て い る 値 よ り も 低 か っ た .   母 体 血 中PCB・ ダ イ オ キ シ ン 類 濃 度 とMDI,PDIと の 関 連 性 に つ い て は , 在 胎日 数, 妊 娠 中 の 喫 煙 の 有 無 , 妊 娠中 のカ フェ イン 摂取 量(mg/day), 採血 時期 (出 産前 と出 産後 ) で調整後,MDIではPCDDの異性体である1,2,3,4,6,7,8ーHpCDD (p<O. 05),およびTotal 値のPCDD (p<0. 01)とPCDD/PCDF (p<0. 05)の 濃度 が高 いほ ど, 得点 は有 意に 低く なって い た . PDIで は PCDDの 異 性 体 で あ る 1, 2, 3, 7,8, 9− HxCDD (p<0. 05), 1,2,3,4,6,7,8−HpCDD(p〈0.01),PCDFの異性体である2,3,7,8―TCDF (p<0. 05), 1,2,3,7,8ーPeCDF (p<0. 05),1,2,3,6,7,8―HxCDF (p<0. 05)の濃度が高いほど,得点は有 意 に 低 く な っ て い た .PDIに つ い て はTotal値 と の 有 意 な 関 連 は 見 ら れ ず , ま たMDI, PDIともにTEQ値との有意な関連は見られなかった.

    考 察

  本 調 査 は , 日 本 の 妊 婦 に お け る 母 体 血 中 のPCB. ダ イ オ キ シ ン 類 濃 度を ,異 性体 レベ ル で 乳 児 の 神 経 発 達 と の 関 連 性 を 検 討 し た 初 め て の 報 告 で あ る . 本 調 査 で は , 国 内 他 地 域 , 諸 外 国 に 比 べ 母 体 血 中PCB・ ダ イ オ キ シ ン 類 濃 度 が 低 か っ た に もか かわ らず ,い く っ か の 異 性 体 に お い て 濃 度 が 高 く な る と , 精 神 発 達 お よ び 運 動 発 達 の 得 点 が 有 意 に 低 く な り , 運 動 発 達 の ほ う が 多 く の 異 性 体 で 示 さ れ た と い う 結 果 が 得 ら れ た , 先 行 研 究 で も , 乳 幼 児 期 に は 精 神 発 達 よ り も 運 動 発 達 へ の 負 の 影 響 を 及 ば す と い う 報 告 が 多 い が , 先 行 研 究 の 曝 露 指 標 は 本 調 査 の よ う に 異 性 体 レ ベ ル ま で 測 定 さ れ て お ら ず ,

(3)

達に良好な影響を及ぼす可能性があるとも指摘されている.よって,本研究において も,total またはtotal TEQ 値が同程度でも及ばす影響が異なっている可能性が考えら れ,今後は,本研究においても異性体の組成についてもl 詳細に検討する必要がある・

さらに,乳児期に内分泌撹乱物質濃度と児の神経発達との聞に有意な負の関連があっ たとしても,学齢期には改善傾向を示し,母乳栄養,良好な家庭環境で育ったことが,

その改善要因となる可能性が指摘されている.本研究においてもこのような改善傾向 がみ られ るか を明 らか にす るた めに も, 児の 継続的 な発 達評価を行う必要がある,

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(4)

学位論文審査の要旨

     学位論文題名

EffCtsofPrenatalExpOSuretoPOlychlorinatedBiphenylS     andDiOXinSOnMentalandMOtorDeVelopmentin     JapaneSeChildrenatSiXMOnthS

(PCB ・ ダ イ オ キ シ ン 類 の 出 生 前 曝 露 に よ る 日 本 の 6 ケ 月 児 の精 神 ・ 運 動 発 達 へ の 影 響 )

   バ ッ ク グ ラ ンド レベ ルの PCB や ダイ オキ シン 類の 出生 前や 出生 後の 曝露 によ る,

小児 神経 発達への影響は明確な結論が得られておらず,さらに詳細な曝露評価に基づ いた 調査 も行 われ てい ない .本 研究 では母体血中PCB ・ダイオキシン類濃度を異性体 レベ ルで 測定し,出生前曝露による乳児期の神経発達への影響を検討することを目的 とし た. 対象は札幌市内の一般病院産科を受診した妊娠23 〜35 遇の妊婦.質問紙票 によ り妊 婦とそのパートナ ̄の食習慣,生活職業上の化学物質曝露状況,住居環境・

喫煙. 病歴を把握し,妊婦や児の妊娠・出産時の情報はカルテより収集した.児の神 経発 達評 価は 60 月 時 にベ イリ ー乳 幼児発達検査一第2 版(BS ,ID ‐n )により精神発 達(MDI ),運動発達(PDI 冫を評価し,同時期に育児環境状況も調査した.曝露評価は 母 体 血 中 の PCB ・ ダ イ オ キ シ ン 類 の 濃 度 を HRGC / HRMS で 異 性 体 レ ベ ル ( PCDD7 種 類 , PCDF10 種 類 ,ノ ン オ ル ソ Co − PCB4 種 類 ,モ ノオ ルソ Co ‐ PCB8 種類 ,ジ オル ソPCB2 種 類)で測定し,Tota .l 値,TEQ 値も算出した.解析対象者は妊娠,分娩時に 重度の病気や合併症がない,満期産で単胎,1 分後のAp 呂ar ‐score が7 点以上,児に先 天 異 常 や 重 度 な病 気が ない ,BSID ゛ n が6 ケ月 の項 目を完 了し てい る母 子ペ ア134 名

典 正 子 尚    

上 賀

水 有

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

性 体 お よ ぴTotal値 のPCDDとPCDD/PCDFの 濃 度 が 高 く な る と 得 点 は 有 意 に 低 く な る と い う 負 の 関 連 が あ っ た . PDIで はPCDDの2つ の 異 性 体 ,PCDFの3つ の 異 性 体 で 有 意 な 負 の 関 連 が あ っ た .PDIはTotal値 と , ま たMDI,PDIと も にTEQ値 と 有 意 な 関 連 は な か っ た . 本 調 査 は 日 本 の 妊 婦 に お け る 母 体 血 中 のPCB・ ダ イ オ キ シ ン 類 濃 度 を 異 性 体 レ ベ ル で 測 定 し 、 乳 児 の 神 経 発 達 と の 関 連 性 を 検 討 し た 初 めて の 報 告 であ る . い く っ か の 異 性 体 に お い て 濃 度 が 高 く な る と , 精 神 発 達 お よ び 運 動発 達 の 得 点が 有 意 に 低 く な り , 運 動 発 達 で よ り 多 く の 異 性 体 に 有 意 な 結 果 が 得 ら れ た。 よ っ て ,運 動 発 達 で 異 性 体 の み 有 意 な 負 の 関 連 が あ っ た こ と は , 本 調 査 の よ う な 低い 曝 露 濃 度で は , 特 定 の 化 学 物 質 が 運 動 発 達 に 負 の 影 響 を 及 ば す が ,totalお よ ぴtotal TEQ値 で は 負 の 影 響 を 及 ぼ さ な ぃ 可 能 性 が 示 唆 さ れ た . 先 行 研 究 で は 異 性 体 の 組 成に よ り 児 の神 経 発 達 へ の 影 響 が 異 な る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て お り , 本 研 究 に お い て も 今後 は 異 性 体の 組 成 に 関 し て も 検 討 す る 必 要 が あ る . さ ら に , 内 分 泌 攪 乱 物 質 の 神 経 発達 へ の 悪 影響 が 乳 児 期 に あ っ て も 学 齢 期 に は 改 善 傾 向 を 示 し , 母 乳 栄 養 や 良 好 な 家 庭環 境 が そ の改 善 要 因 と な る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る . 本 研 究 で も こ れ ら の 点 を 明 ら かに す る た めに も , 児 の 継 続 的 な 発 達 評 価 を 行 う 必 要 が あ る . 審 査 に お い て 、 副 査 有 賀 教 授 か ら , 発 達 に 影 響 の あ る 物 質 の 明 確 化 と そ れ に 伴 う 簡 易 測 定 の 可 能 性 に 関 し て, 本 調 査 の曝 露 濃 度 が 諸 外 国 に 比 べ 低 い 理 由 と 魚 の 摂 取 と の 関 連 に つ い て の 質 問 が あっ た 。 次 に、

主 査 水 上 教 授 か ら , 本 調 査 に お け る 基 本 的 属 性 , 食 事 の 摂 取 状 況 に よ る ダ イ オ キ シ ン 類 レ ベ ル に 違 い ,TEQの 毒 性 と は 何 を タ ー ゲ ッ ト と し た も の な の か , 運 動 発 達 と の 有 意 な 負 の 関 連 があ っ た 異 性体 の 構 造的 な 特 徴の 有 無 ,に つ い て質 問 が あっ た 。 ま た、

副 査 岸 教 授 か ら , 動 物 実 験 に よ る 先 行 研 究 の 結 果 か ら ダ イ オ キ シ ン 類 の 発 達 へ の 影 響 に 関 す る メ カ ニ ズ ム に つ い て 先 行 研 究 と 本 研 究 の 曝 露 濃 度 の 違 い を測 定 時 期 から 考 え ら れ る 理 由 に つ い て , 質 問 が あ っ た 。 ま た 、 フ ロ ア か ら , 北 海 道 近海 の 汚 染 が低 く 瀬 戸 内 海 だ と 高 い と い う こ と は な い の か , と い っ た 質 問 が あ っ た 。 いず れ の 質 問に 対 し て も 、 申 請 者は 自 身 の 研究 結 果 や先 行 研 究を 引 用 し、 お お むね 妥 当 な回 答 を し た。

こ の 論 文 は 、 日 本 の 妊 婦 に お け る 母 体 血 巾 のPCB. ダイ オ キ シン 類 濃 度を 異 性 体 レベ ル で 測 定 し、 乳 児 の神 経 発 達と の 関 連性 を 初 めて明 らかに したこと で高く 評価され 、今後 の 内 分 泌 攪乱 物 質 の人 へ の 健康 影 響 ,と く に 次世代 の神経 発達への 影響に 関する予 防医学 的 研 究 へ の発 展 が 期待 さ れ る。

  審 査員 一 同 は、 こ れ らの 成 果 を高 く 評 価し 、大 学院課程 における 研鑽や 取得単位 なども 併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も のと 判 定 し た。

―701―

参照

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