博 士 ( 医 学 ) 大 坪 光 典
学位論文題名
IvIetabolic abnormality of calf skeletal muscle is improved by localiSednluSCletraining 丶航 thout ChangeSinbloodfIOWmChromCheart 讎 lure
( 慢性 心不 全患 者に おけ る下 腿骨 格筋 代謝 異常は ,局所的 ト レ ー ニ ン グ に よ り 下 腿 血 流 と は 独 立 し て 改 善 す る )
学位論文内容の要旨
近年、慢性心不全患者に対するトレーニング効果の有用性が数多く報告され、運動療法 が循環器領域における臨床の場に導入されつっある。しかし、心機能が低下している慢性 心不全患者に対して全身運動によるトレーニングを施行するには、管理・プ口グラム作成 の面で制限があると思われる。一方、たとえば片腕や片脚のみを対象として行う局所トレ ーニングは心負荷が軽く、慢性心不全患者でも比較的安全に施行可能であることが予想さ れる。これまでにも心不全患者における局所的トレーニング効果についての検討が報告さ れているが、いずれも前腕を対象とした検討であり、日常生活の基本動作である姿勢保持 や歩行に深く関与する下肢骨格筋を対象とした局所的トレーニング効果の基礎的な検討は 行われていない。
そこで我々は慢性心不全患者における片側下腿骨格筋のトレーニング効果を、磁気共鳴 スペクトロスコビー(31P―MRS)を用いて非侵襲的に検討した。
【対象と方法】
対象 はNYHA分 類II ‑III度の 慢性 心不 全患 者7例 (男 性6例、女性1例、平均年齢56.9土 5.6才)。
トレーニング期、非トレーニング期を任意に8週間ずつ設けた二重交叉試験を施行した。
ト レー ニン グ内 容は 右下 腿屈筋群の底屈運動であり、40回/分の頻度で1セット6分間、1 日4回施 行さ せた 。こ のト レー ニン グの ため に右 足関 節底屈 運動 用の 器具 を作 成し た。
トレーニング期、非トレーニング期で以下の項目を検討した。
( ぴ1P‑MRSを 用 い て 測 定 し た 右下 腿筋 の骨 格筋 代謝 (クレ アチ ン燐 酸、 細胞 内pH)。
◎ブレチスモグラフイーを用いて測定した右下腿血流量。
◎自覚的疲労度の指標として評価したnew Borg指数。
@MRIで測定した右下腿筋断面積。
◎口ードセルを用いて測定した右下腿筋力。
◎全身運動時の最高酸素摂取量、嫌気性代謝閾値。
◎神経体液性因子(血漿中ドーバミン、血漿中ノルアドレナリン、血漿中アドレナリン、
血漿レニン活性、血漿中心房性利尿ベブチド)。
◎、◎は右足関節底屈運動を2つのプ口トコールで施行した際に測定した。すなわち、(1) 漸 増負 荷試 験; 筋断 面積 当たり1J7分の負荷を漸増して40回/分の頻度で症候限界性にて 施 行、(2)定 常負 荷試 験; 先に示した漸増負荷試験で施行し得た最大負荷量の70%相当の
負荷量 を用いて40回 /分の頻 度で6分間 施行。負 荷強度は 、(1)漸増負荷試験ではトレーニ ン グ期・非 トレーニ ング期毎 に下腿筋 断面積補 正を行い 、(2)定常負荷 試験では トレーニ ング期 ・非トレー ニング期 毎の筋断 面積補正 は施行せ ず、トレ ーニング期と非トレーニン グ期で 同じ強度を 用いた。 なお、ク レアチン 燐酸は標 準化クレ アチン燐酸PCr/(PCr+Pi)と して測 定した。◎ は@、◎ と同様の プ口トコ ールで施 行した右 足関節底屈運動終了直前の 下腿筋 の自覚的疲労度と・して評価した。◎は坐位自転車エルゴメーターを用い、ramp負荷 を施行した際に呼気ガス分析法で求めた。
トレー ニング期ま たは非ト レーニン グ期に振 り分ける 前にべースラインとして@、◎を 測定した。
【結果】
全 身 運動 に お ける 最 高酸 素 摂 取量 は24.1土1.6ml/kg/min、 嫌 気性 代 謝 閾値 は16.4土 1.3ml/kg/minであっ た。@下腿 骨格筋代謝(1)漸増負荷試験;トレーニング期では細胞内pH は高値 を示す傾向 にあった (pく0.10、repeated measures ANOVA)。標準化クレアチン燐酸 は トレーニ ング期・ 非トレー ニング期 で有意な 変化を認 めなかった 。(2)定常負 荷試験;
標 準化 ク レア チ ン 燐酸 の 低下 は 、トレ ーニング 期で有意 に減少した (pく0.05 repeated measures ANOVA)。細胞内pHも トレーニ ング期で 有意に高 値を示し た(pく0.05 repeated measures ANOVA)。 定 常 負荷 試 験で は 筋 断面 積 補正 を 予 め施 行 しなかっ たが、定常 状態 に達し たと考えら れる運動 終了直前 の標準化 クレアチ ン燐酸値 を筋断面積で補正したとこ ろ トレ ー ニン グ 期 と非 ト レー ニ ン グ期 で 有意 差 を 認め た(0.44土0.04 vs 0.39土0.05、 pく0.05 by pairedt test)。
◎下腿 血流量;漸 増負荷試 験、定常 負荷試験 ともにト レーニン グ期・非トレーニング期で 有意な 差を認めな かった。 ◎new Borg指数; 定常負荷 試験では トレーニング期でnew Borg 指数は有意に低下し、自覚症状の改善が認められたが(pく0.05、by pairedt test)、漸増負 荷試験 では変化は なかった 。@右下 腿筋断面 積;トレ ーニング 期の方が有意に大きかった (55.6土2.4 vs 53.8土2.6、pく0.05 by pairedt test)。◎右下腿筋力;トレーニング期と非ト レーニ ング期で有 意な差を 認めなか った。◎ 全身運動 耐容能; 最高酸素摂取量・嫌気性代 謝閾値 はともに有 意な変化 を認めな かった。 ◎神経体 液性因子 ;トレーニング期・非トレ ーニング期で有意な差を認めなかった。
【考察】
下 腿 局所 運 動 にお け る標 準 化 クレアチ ン燐酸・ 細胞内pHの 低下がトレ ーニング 期では 減少し たことから 、下腿局 所トレー ニングに より慢性 心不全患 者の骨格筋有酸素代謝能が 改善し たことが示 された。 また、局 所運動中 の下腿血 流量には トレーニング期・非トレー ニング 期で有意差 を認めな かったこ とから、 トレーニ ングによ る骨格筋代謝能改善は血流 量に依存しないと考えられた。
自覚的 疲労度の指 標であるnew Borg指数も局 所トレー ニング後に軽減し、有酸素代謝能 の改善と関連していると考えられた。
本 トレーニ ング法が 心血行動 態に与え る影響に ついても 検討を行っ た。1セッ トの右足 関節底屈運動で心拍数・血圧はともに10■‑‑200/0上昇するにとどまり、心血行動態に大きな 影響を 与えないも のと考え られた。 本トレー ニング法 では最高 酸素摂取量や嫌気性代謝閾 値には 明らかな変 化が認め られなか ったが、 局所的ト レーニン グは心血行動態に大きな影 響 を 与 え な か っ た た め に 、 全 身 運 動 耐 容 能 の 指 標 は 変 化 し な か っ た と 考 えら れ た。
近年、 慢性心不全 患者を対 象として 自転車エ ルゴメー ターなどを用いた運動療法が行わ れ、運 動耐容能の 改善が報 告されて いる。し かし全身 運動は心 負荷が大きく、心不全患者 に全身 運動による トレーニ ングを行 う際には 十分な注 意が必要 である。一方、我々が検討 した局 所的卜レー ニングは 心血行動 態に大き な影響を 与えない という利点を有している。
日常労 作の制限因子のーつである下肢疲労が局所的トレーニングにより改善することから、
心機能が障害された慢性心不全患者が比較的安全にQuality of Lifeの改善・向上を獲得し得 ることが示唆された。
【結語】
慢性心不全患者の下腿骨格筋において、局所的トレーニングにより有酸素代謝能が改善 した。この骨格筋代謝の改善は血流量には依存していなかった。下腿局所的トレーニング は、心機能が障害されている慢性心不全患者においても安全に施行することが出来ると考 えられ、心臓リハビリテーションの一方法として心不全患者のQuality of Lifeの向上に結び っく可能性があると考えられる。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学位論文題名
Metabolic abnormality of calf skeletal muscle is improved by localised muscle training without ChangeSinblOOdnOWinChroniCheartf 証 1ure
(慢性心不全患者における下腿骨格筋代謝異常は,局所的 ト レ ーニ ングに より 下腿 血流 とは独 立し て改 善す る)
近年、慢性心不全患者に対するトレーニング効果の有用性が報告されている。片腕や片 脚のみを局所的に鍛えるトレーニング法は心負荷が軽く、心不全患者でも比較的安全に施 行可能であると考えられる。これまでにも心不全患者における局所トレーニング効果につ いての検討が行われているが、いずれも前腕を対象とした検討であり、日常生活の基本動 作である姿勢保持や歩行に深く関与する下肢骨格筋を対象とした局所トレーニング効果の 基礎的な検討は行われていない。本検討では慢性心不全患者における右下腿骨格筋のトレ ー ニ ン グ 効 果 を 、 磁 気 共 鳴 ス ベ ク ト ロ ス コ ビ ー を 用 い て 検 討 し た 。
対象はNYHA分類
II
〜III度の慢性心不全患者7
例。トレーニング期、非トレーニング期 を任意に8週間ずつ設けた二重交叉試験を施行した。トレーニング内容は右足関節底屈運 動 で あ り 、40
回 / 分 の 頻 度 で1
セ ッ ト6
分 間 、1
日4
回 施 行 さ せ た 。トレーニング期、非トレーニング期で以下の項目を検討した。@右下腿筋の骨格筋代謝
(クレアチン燐酸、細胞内pH)、◎右下腿血流量、◎new Borg指数、@右下腿筋断面積、
◎右下腿筋力、◎全身運動時の最高酸素摂取量・嫌気性代謝閾値、◎神経体液性因子。
@、◎は右足関節底屈運動を2つのプ口トコールで施行した際に測定した。(1)漸増負荷 試験;筋断面積当たり1J7分の負荷量を漸増して40回/分の頻度で症候限界性にて施行、
(2)
定常負荷試験;先に示した漸増負荷試験で施行し得た最大負荷量の70%相当の負荷量 を用いて40回/分の頻度で6分間施行。◎は@、◎と同様の右足関節底屈運動終了直前の 下腿筋の自覚的疲労度として評価した。◎は坐位自転車エルゴメーターを用い、ramp負荷 を施行した際に呼気ガス分析法で求めた。@下腿骨格筋代謝(1)漸増負荷試験;トレーニング期では細胞内pHは高値を示す傾向に あった。標準化クレアチン燐酸はトレーニング期・非トレーニング期で有意な変化を認め なかった。(2)定常負荷試験;標準化クレアチン燐酸・細胞内pHは、ともにトレーニング 期で有意に高値を示した。◎下腿血流量;漸増負荷試験、定常負荷試験ともにトレーニン グ期・非トレーニング期で有意な差を認めなかった。◎new Borg指数;定常負荷試験では トレーニング期でnew Borg指数は有意に低下し、自覚症状の改善が認められた。@右下腿 筋断面積;トレーニング期の方が有意に大きかった。◎右下腿筋力;トレーニング期と非
男顯 生 和
行 坂畠 野 宮 北真 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
ト レー ニン グ期で有意な差を認めなかった。◎全身運動耐容能;最高酸素摂取量・嫌気性 代 謝閾 値は ともに有意な変化を認めなかった。◎神経体液性因子;トレーニング期・非ト レーニング期で有意な差を認めなかった。
以上 の結 果か ら、 下腿 局所 運動に おけ る標 準化 クレ アチ ン燐 酸・ 細胞内pHの低下がト レ ーニ ング 期では減少したことから、下腿局所トレーニングにより慢性心不全患者の骨格 筋 有酸 素代 謝能が改善したことが示された。また、局所運動中の下腿血流量にはトレーニ ン グ期 ・非 トレーニング期で有意差を認めなかったことから、トレーニングによる骨格筋 代 謝能 改善 は血流量に依存しないと考えられた。自覚的疲労度の指標であるnew Borg指数 も 局 所 ト レ ー ニ ン グ 後 に 軽 減 し 、 有 酸 素代 謝能 の改 善と 関連 して いる と考 えられ た。
本研 究か ら、心血行動態に大きな影響を与えないと考えられる局所トレーニングにより 心機能が障害された慢性心不全患者が比較的安全にQuality of Lifeの改善・向上を獲得し得 ることが示唆された。
公開 発表 は約20名の聴衆の前で行われ、最初に副査の真野教授から骨格筋代謝が改善し た 機序 につ いて、また骨格筋代謝が健常者と心不全患者では異なる原因についての質問が な され た。 また、副査の北畠教授から骨格筋血流量が骨格筋代謝に及ぼす影響について、
さ らに 今後 の心臓リハビリテーションにおける局所トレーニング法の展望についての質問 が なさ れた 。主査の宮坂教授からは運動終了後回復期における骨格筋代謝動態に関する質 問 があ った 。申請者はこれらの質問に対して、実験状況の説明を的確に行い、実験結果の 解釈や臨床的意義に関しては他の論文や自己の研究を弓|用し、豊富な知識に基づいて妥当 に回答した。
本研 究は 、心負荷が比較的小さい局所トレーニングにより心不全患者の骨格筋代謝異常 お よび 局所 運動における自覚的疲労度が改善することを明らかにした。また、この研究で 用 いら れた 局所トレーニング法は心臓リハビリテーションの一方法として臨床面において も 貢献 する ものと思われる。審査担当者一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 断 し た 。