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平面内細胞極性の異常による嚢胞形成

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Academic year: 2021

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 常染色体優性遺伝性多発性 *胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)は 1,000 人に 1 人の割 で発症する最も頻度の高い遺伝性腎疾患である。近年, * 胞形成機序として平面内細胞極性(planar cell polarity: PCP)の関与が報告されている。PCP とは,上皮細胞の頂部 基部軸に直交する平面内に発達し,生物種を問わず広くみ られる細胞極性のことであり,さまざまな組織や器官の発 達に関与する。本稿では PCP の異常による *胞形成機序に ついて述べる。  正常な尿細管は径を一定に保ち伸長していくが,その過 程において PCP は重要な役割を担っている1)。生後 0 日目 のマウスの腎臓を細胞増殖のマーカーである proliferation cell nuclear antigen(PCNA)で 染 色 す る と, た く さ ん の PCNA 陽性細胞を認め,細胞増殖が非常に盛んであること

はじめに

正常尿細管の伸長

がわかるが,尿細管腔は広がることなく一定に保たれてい る(図 1a,b)2)。また,Tamoxifen で誘導された細胞を LacZ 染色で青く標識できる ROSA26R/Tamoxifen-Cre マウスを 使用し,1 個の尿細管上皮がどのように分裂・伸長してい くかを確認したところ,図 1c のように青い細胞がきれい に一列に並んでおり,尿細管上皮細胞は一方向にしか分裂 していないことが確認される。これらの結果から,尿細管 細胞は長軸方向にのみ細胞分裂し,尿細管径が保たれてい ることが示されている1,2)  Fischer らは,実際に尿細管上皮細胞がどの方向に分裂し ているかを観察するために,ラットの腎臓を集合管のマー カーである aquaporin 2 と抗ヒストン抗体である H3pS10 抗体で二重染色し,3D 画像を構築したうえで尿細管の長 軸と尿細管細胞が分裂する角度の計測を行った結果,正常 尿細管での細胞分裂角度は平均 11 度とほぼ長軸方向に分  

*胞形成と指向性細胞分裂(oriented cell division) の異常

日腎会誌 2012;54(4):497−500.

北海道大学病院第二内科

平面内細胞極性の異常による 

*胞形成

Planar cell polarity in polycystic kidney disease

西 

尾 

妙 

Saori NISHIO

特集:多発性

*

 胞腎―最新の知見と今後の課題

c b a 図 1 正常マウスにおける尿細管の伸長

(2)

498 平面内細胞極性の異常による *胞形成 図 3 ADPKD モデルマウスの尿細管拡張初期における細胞分裂の角度 Angle B Angle A Pkd1 Pkd1 Pkd2 Pkd2 Pkd1 Pkd2 正常ラット 図 2 尿細管における細胞分裂の角度 (文献 1 より引用,改変) pck ラット 10 20 30 40 50 60 70 80 90 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) 分 裂 の 割 合 分裂角度 正常ラット 囊胞形成前のpckラット 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 Mitotic angle (° ) Pkd1 Angle A Angle B H 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 Mitotic angle (° ) Pkd1 Angle A Angle B I

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裂していると報告している。一方,常染色体劣性遺伝性 * 胞腎のモデルである pck ラットの尿細管上皮の細胞分裂 は長軸から大きく外れており,これにより尿細管腔が拡張 していく可能性を示した(図 2)1)。Nishio らは,ADPKD モ デルマウスである Pkd1 および Pkd2 コンディショナル ノックアウトマウスでは, *胞形成前の尿細管では細胞分 裂角度の異常はないが, *胞形成開始直後からは分裂する 細胞のある尿細管に対する角度(Angle A),尿細管長軸方向 (Angle B)のどちらも大きく分裂角度の異常を認めており, PCP の異常は *胞形成のきっかけには関与しないが, *胞 進展に重要であること報告した(図 3)2)。一方,Luyten ら は他の Pkd1 コンディショナルノックアウトマウスを解析 し, *胞形成前から PCP の異常が認められ, *胞形成する 尿細管上皮において PCP pathway に重要である frizzled 3 が過剰発現していることを報告している4)。これらの結果 が示すように, *胞形成・進展には PCP の異常が重要であ る。図 4 に PCP 異常による *胞形成機序の模式図を示す。 尿細管上皮において,基底膜側あるいは管腔側の面上でど ちらが尿流の上流か下流かを細胞が認識しており,正常で は,この極性が保たれているために長軸方向にのみ細胞分 裂し,尿細管径が保たれる。 *胞腎では,極性が失われて いるため方向性のない細胞分裂が起こってしまい,尿細管 腔が拡張し *胞が形成される3)  尿細管上皮細胞には 1 本の不動性繊毛(一次繊毛,pri-mary cilia)が存在している。pri本の不動性繊毛(一次繊毛,pri-mary cilia の構造は,2 本の 中心微小管と 9 個の対になった周辺微小管から構成され る 9+2 配列を持つ motile cilia に対し,微小管を欠き 9+0 の配列を持つ(図 5)5)。primary cilia は尿細管中の尿流を感 知するセンサーとして働き6),細胞内のシグナル伝達に関 与している。この欠失や機能異常により *胞性腎疾患, Bardet-Biedl syndrome などの遺伝性疾患(ciliopathy;繊毛 病)が惹起されることが知られている。  Wnt は分子量約 4 万の分泌性糖蛋白質で,線虫やショウ ジョウバエから哺乳類に至るまで生物種を超えて保存さ れ,初期発生や形態形成,器官形成,出生後の細胞の増殖・ 分化・運動などを制御する7)。Wnt シグナル経路にはβカ テニンを介して遺伝子発現を制御するβカテニン経路 (canonical Wnt pathway)とβカテニン非依存性経路(non-canonical Wnt pathway:PCP pathway)が存在する。βカテニ ン経路では Wnt が分泌されて細胞膜上の frizzled(Fz)と共 役受容体である LRP5/6 に結合すると,そのシグナルは細 胞内へと伝達され,dishevelled(Dvl)は GSK3β依存性のβ カテニンのリン酸化を抑制し,低リン酸化状態となったβ カテニンはプロテアソームによる分解から免れ,細胞質内 に蓄積する。その後,核内に移行したβカテニンは転写因 子 Tcf/Lef と複合体を形成し標的遺伝子の発現を促進する ことによって,種々の細胞機能を制御する(図 6 左)。一方, βカテニン非依存性経路は Wnt 受容体 Fz と Dvl を介し 腎臓における尿流による Wnt pathway の制御 499 西尾妙織 平面の非対称 正常 PKD 方向性のある細胞分裂 ?! 長軸に沿った指向 ? 方向性のない細胞分裂 ?! 平面の指向の障害 ? 図 4 PCP 異常による *胞形成機序 (文献 3 より引用,改変) 9+2 9+0

Motile cilia Primary cilia

Outer dynein arm Inner dynein arm Radio spokes Microtubule doublet Central pair Inner sheath (文献 5 より引用) 図 5 Cilia の構造

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て,Rho ファミリーの低分子量 G 蛋白質(GTP 結合蛋白質) を活性化し,さらに Rho 依存性リン酸化酵素(Rho kinase) や Jun リン酸化酵素(c-Jun N-terminal kinase:JNK)を活性 化することにより,細胞の骨格や極性,運動,遺伝子発現 を調節する(図 6 右)3)。Simons らは,尿流がβカテニン経 路からβカテニン非依存性経路に変えるスイッチとしての 役割を担っている可能性を示している8)。つまり,PCP の 異常は,cilia の欠失あるいは機能異常によって尿流による βカテニン非依存性経路の活性化ができないことが原因の 可能性がある。  多発性 *胞腎の *胞形成機序として,PCP の異常は細胞 増殖,アポトーシスなどと同様に重要な機序の一つである 可能性がある。今後,更なる解析が進み治療に結びつくこ とを期待する。   利益相反自己申告:申告すべきものなし おわりに 文 献

1.Fischer E, Legue E, Doyen A, Nato F, Nicolas JF, Torres V, Yaniv M, Pontoglio M. Defective planar cell polarity in polycystic kidney disease. Nat Genet 2006;38:21−23. 2.Nishio S, Tian X, Gallagher AR, Yu Z, Patel V, Igarashi P,

Somlo S. Loss of oriented cell division does not initiate cyst formation. J Am Soc Nephrol 2010;21:295−302.

3.Germino GG. Linking cilia to Wnts. Nat Genet 2005;37: 455−457.

4.Luyten A, Su X, Gondela S, Chen Y, Rompani S, Takakura A, Zhou J. Aberrant regulation of planar cell polarity in polycys-tic kidney disease. J Am Soc Nephrol 2010;21:1521−1532. 5.Winyard P, Jenkins D. Putative roles of cilia in polycystic

kid-ney disease. Biochim Biophys Acta 2011;1812:1256−1262. 6.Nauli SM, Alenghat FJ, Luo Y, Williams E, Vassilev P, Li X,

Elia AE, Lu W, Brown EM, Quinn SJ, Ingber DE, Zhou J. Polycystins 1 and 2 mediate mechanosensation in the primary cilium of kidney cells. Nat Genet 2003;33:129−137. 7.Logan CY, Nusse R. The Wnt signaling pathway in

develop-ment and disease. Annu Rev Cell Dev Biol 2004;20:781− 810.

8.Simons M, Mlodzik M. Planar cell polarity signaling:from fly development to human disease. Annu Rev Genet 2008; 42:517−540. 500 平面内細胞極性の異常による *胞形成 β−catenin β−catenin destruction complex Rho ROK ? ? ? ? β−catenin Tcf/Lef Nucleus GSK3β Apc Axin Dvl Proteasomal degradation Frizzled Wnt Frizzled Flow Wnt Inv Basal body ? Dvl Inv Basal body Dvl Axin C−Myc C−Myc Tcf/Lef Lrp5/6 Lrp5/6 Ca2+ 図 6 PCP pathway (文献 3 より引用)

参照

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