九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
酵母細胞の耐塩性に関する研究
渡部, 保夫
https://doi.org/10.11501/3059408
出版情報:Kyushu University, 1991, 博士(農学), 論文博士
酉 孝 定 ま 潟
s
1J包 a:>而 討 培 孟 守 生 む ご 巳 母 す 一 る 初 子 ラ 宅議室
E
音s {:!長 茅ミ1 9 9 1
目 次
緒 章
第 1章 耐塩性酵母 Zygosaccharomycesrouxiiの脂質組成に及ぼ
す食塩の影響 13
1・1 緒言 13
1・2 実験方法 14
1・2・1 使用菌株 14
1・2・2 使用培地 14
1 . 2・3 培養方法 14
1・2・4 脂質の14Cラベリング 15
1.2・5 細胞形態観察 15
1・2・6 細胞脂質の抽出 15
1・2 .7 脂質分析 16
1・2・8 二次元薄層クロマトグラフィー及び燐脂質に含まれ
る放射活性の測定 20
1・3 結 果 20
1・3・1
z .
rouxiiとs .
cerevisiae細胞の生育に及ぼす食塩の影響 20
1.3・2 Z. rouxii細胞の形態に及ぼす食塩の影響 22 1・3・3 Z. rouxii細胞の脂質組成に及ぼす食塩の影響 24 1・3・4 S. cerevisiae細胞の脂質組成に及ぼす食塩の影響 27 1・3・5 Z. rouxii ATCC 42981株以外の4菌株の脂質組成 29 1・3.・6
z . .
rouxi i細胞の脂質組成に及ぼす培養時間の影響 29 1・3・7 Z. rouxii細胞の脂質組成に及ぼす培地転換の影響 321・3・8 燐脂質の極性基の組成に及ぼす食塩の影響 1・4 考察
1・5 小括
W A 1 υ n u d p h J u n︽υ
町︑ u a n T
第2章 耐塩性酵母 Zygosaccharomyces目 些ii細胞のリノール酸
合成に及ぼす食塩の影響 47
2・1 緒言 47
2・2 実験方法 47
2・2・1 使用酵母株及び使用培地 47
2・2・2 培養方法 48
2 ・2 ・3 脂質抽出及び脂肪酸分析 48 2 ・2 ・4 脂質のパルス・ラベリングと放射性脂質抽出 48 2 ・2 ・5 脂肪酸の不飽和度による分析 50
2・3 結 果 51
2・3・1
Z .
白 区ii細胞の培養と生育度 51 2 ・3 ・2 燐脂質に含まれる脂肪酸残基の合成に及ぼす食塩の影響 52
2 ・3 ・3 トリアシルグリセロール、ステロールエステル、遊 離脂肪酸に含まれる脂肪酸残基の合成に及ぼす食塩
の影響 55
2 ・3 ・4 高濃度食塩による18:2合成抑制の検討 2・4 考 察
2・5 小括
門司
υ 4 1 4 4 n τ v h d n h u n h u
第3章 好塩性酵母 Candidaversatilisの脂質組成に及ぼす食塩
の影響 65
3・1 緒言 65
3・2 実験方法 66
3・2・1 使用菌株及び培地組成 66
3・2・2 培養方法 66
3・2・3 生育度検定 66
3 .2・4 脂質抽出 67
3・2・5 脂質分析 67
3 .2・6 膜区分の調製 68
3・2・7 酵素活性の測定 68 3・2・8 タンパク質の定量 69
3・3 結 果 70
3 .3・1
c ̲ .
versatilis細胞の生育に及ぼす食塩の影響 70 3・3・2 細胞形態に及ぼす食塩の影響 73 3 .3・3 脂質組成に及ぼす食塩の影響 73 3 .3・4 燐脂質の脂肪酸組成に及ぼす食塩の影響 75 3・3・5 燐脂質組成に及ぼす食塩の影響 753.3・6 細胞膜区分の純度 78
3・3・7 細胞膜区分の脂質組成に及ぼす食塩の影響 78
3・4 考 察 81
3・5 小括 86
第4章 酵母細胞の易熱性抗原タンパク質TLAa及びTLAbの同定 88
4・1 緒言 88
••••••
••••••
‑ ‑ E ・E・
4・2 実験方法 89
4・2・1 使用菌株 89
4・2・2 抗 血 清 90
4・2・3 TLAaの精製 90 4・2・4 TLAbの精製 91 4・2・5 オクタロニー免疫二重拡散試験 91 4・2・6 SDS‑ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS‑PAGE) 92 4・2・7 イムノフ。ロッティング 92 4・2・8 TLAaのアミノ酸組成分析 93 4・2・9 TLAa及びTLAbのN‑末端アミノ酸配列の決定 93 4・2・10 TLAaのエノラーゼ活性測定 93 4・2・11 TLAbのGAPDH活 性 測 定 93 4・2・12 タンパク質の定量 94
4.3 結 果 94
4・3・1 TLAa、エノラーゼ、 HSP48のアミノ酸組成の比較 94 4・3・2 TLAaと酵母エノラーゼの免疫学的性質の比較 96 4・3・3 TLAaのN‑末端アミノ酸配列 96 4・3・4 TLAaのエノラーゼ活性 96 4・3・5 TLAbと酵母GAPDHの免疫学的性質と分子量比較 101 4・3・6 TLAbのN‑末端アミノ酸配列 101 4.3・7 TLAbのGAPDH活 性 103
4・4 考 察 103
4・5 小括 107
第5章 酵母細胞の易熱性抗原タンパク質TLAaとTLAbのストレスに
対する応答 109
5・1 緒言 109
5・2 実験方法 110
5・2・1 使用菌株及び使用培地 110
5・2・2 培養方法 110
5・2・3 TLAa及びTLAbのイソタンパク質量の測定 111 5・2・4 タンパク質量の測定 112
5・3 結果 112
5.3・1 TLAaイソタンパク質量に及ぼす生育条件の効果 112 5・3・2 TLAbイソタンパク質量に及ぼす生育条件の効果 118
5・4 考察 125
5・5 小括 131
第6章 耐塩性酵母 ZygosaCCharOIDYCes回 些 斗 の 生 育 に 及 ぼ す 薬
剤の効果 133
6・1 緒言 133
6・2 実験験方法 134
6・2・1 使用菌株及び使用培地 134 6・2・2 培養方法 134 6・2・3 生育度測定 135
6・3 結果 135
6・3・1 アジ化ナトリウムの効果 135 6・3.・2 パナジン酸の効果 135 6・3・3 CCCPの効果 137
v
6・3・4 培 地pHの効果 6・4
6・5
考 察 小括
第7章 耐 塩 性 酵 母 Zygosaccharomyces旦 旦 斗 細 胞 膜 に 局 在 す る プロトンATPaseの性質
7・1 緒 言
7・2 実 験 方 法
7 .2・1 使 用 菌 株 及 び 使 用 培 地 7・2・2 培 養 方 法 及 び 生 育 度 測 定 7・2・3 酵母細胞のグルコース処理 7・2・4 部分精製細胞膜区分の調製 7・2・5 クルード(Crude)膜 区 分 の 調 製 7・2・6 ATPase活 性 の 測 定
7 . 2・7 タンパク質量の定重
7.3
結 果7・3・1 部分精製細胞膜区分のATPase活性に及ぼす阻害剤の
140 140 144
146 146 147 147 147 147 148 148 149 150 150
効 果 151
7・3・2 細 胞 膜ATPase活性に及ぼすpHの効果 155 7・3・3 細 胞 膜ATPase活性に及ぼすこ価陽イオンの効果 155 7・3・4 細 胞 膜ATPase活性の基質特異』性 157 7・3・5 細 胞 膜ATPase活性に及ぼすウアパインの効果 157 7・3・6 細 胞 膜ATPase活性に及ぼすナトリウム、カリウム
イオンの効果 161
7・3・7 クルード膜区分中の細胞膜活性に及ぼすグルコース の効果
7・3・8 クルード膜区分中の細胞膜活性の培養中の経時的変
7・4 7・5
考察 小括
化
第
8
章 耐塩性酵母Z y g o s a c c h a r o m y c e s
旦 旦i i
細胞膜プロトン8・1 8・2
A T P a s e
遺伝子のクローニングと解析 緒 言実験方法
8・2・1 使用菌株、使用培地および培養方法
8・2・2
E .
旦l i
細胞からのプラスミドD N A
とアガロースゲル からのD N A
断片の回収8・2・3 プロープの調製および免疫的検出法 8・2・4 高分子量
D N A
の調製とサザン分析8・2・5
f̲.担旦 i i
細胞の細胞膜プロトンA T P a s e
遺伝子の クローニング8・2・6
D N A
の塩基配列の決定 8・2・7 全R N A
の調製とノーザン分析8・2・8 細胞膜タンパク質のSDSポリアクリルアミドゲル電気 泳動
8・3 結果
161
163 163 171
173 173 174 174
175 176 179
180 182 183
186 186
8
・3
・1 f ̲ . r o
旦i i
プロトンA T P a s e
遺伝子クローンの単離 186VII
8・3・2
8.3・3 8・3・4 8・3・5 8・4 考察 8・5
総 括 謝 辞 参 考 文 献
小 括
Z.
r o u x i i
プロトンATPase遺伝子の塩基配列とそれ から推定されるアミノ酸配列他種の細胞膜プロトンATPaseとのアミノ酸配列比較 プロトンATPase機能領域の比較
プロトンATPase遺伝子の発現
190 193 198 198 200 206
208 222 223
緒 章
酵 母 は 分 類 学 上 の 厳 密 な 名 称 、 で は な く 、 大 部 分 が 球 形 や 卵 形 な ど の 単 細 胞 で 生 活 環 を 過 ご し 、 主 と し て 出 芽 に よ っ て 増 殖 す る 真 菌 類 に 属 す る 真 核 微 生 物 の 総 称 で あ る 。 これらは、 S chizosaccharom y‑ 立主主属・ Saccharomyce s属・ Zygosaccharomyce s属・ Hansenul a属
. p ichi a属・ Debaryomyce s属 な ど の 子 袋 胞 子 を 形 成 す る 酵 母 、 S porobolomyce s属・ Buller a属 な ど の 担 子 菌 類 系 の 酵 母 、 Rodot0‑
E旦よ主属・ Candid a属 .K loecker a属 な ど の 胞 子 を 形 成 し な い 酵 母 に 分 け ら れ る ( 図
1)
(1)。 酵 母 は 、 古 く か ら 応 用 微 生 物 学 上 極 め て 重 要 な 微 生 物 群 で 、 清 酒 ・ ぶ ど う 酒 ・ ビ ー ル な ど の 酒 類 や 味 噌 ・ 醤 油 な ど の 調 味 料 の 醸 造 、 ア ル コ ー ル 製 造 、 製 パ ン 、 さ ら に は ビ タ ミ ン 類 や 核 酸 関 連 物 質 の な ど の 発 酵 に 用 い ら れ る 。 子 嚢 胞 子 を 形 成 す る 酵 母 の う ち Saccharomyces cerevisiae は ビ ー ル ・ ワ イ ン ・ 清 酒 ・ パンの製造に、 S accharomyces uvarumは ビ ー ル 製 造 、 ~.
c ̲
erevisiae v ar. e llipsoideu sは ワ イ ン 製 造 に 、 Z ygosaccharomyces rouxi i は 醤 油 ・ 味 噌 の 製 造 に 用 い ら れ て い る 。 一方、 S accharomyce ~ Q̲主主主主‑u rianu sの よ う に ビ ー ル に 、 Z ygosaccharomyces japonicu sの よ う に醤油に、
z
̲ygosaccharomyces melli sの よ う に ジ ャ ム や 糖 密 に 繁 殖 し 、 食 品 の 品 質 を 悪 化 さ せ る 有 害 菌 も あ る 。 無 胞 子 酵 母 の う ち 、c
andida utili sや Candida lipolytic aは 飼 料 酵 母 と し て 用 い ら れ 、C andida verstili sは 醤 油 ・ 味 噌 の 製 造 に 用 い ら れ る 。 このように、
酵 母 は 細 菌 や 糸 状 菌 な ど と と も に 日 本 の 伝 統 的 食 品 製 造 に お い て 重 要 な 位 置 を 占 め て い る 。 多 数 の 酵 母 種 の う ち 、 特に、~.
c ̲
erevis i‑ 主 主 は 生 理 学 的 ・ 生 化 学 的 研 究 の た め の モ デ ル 真 核 細 胞 と し て 重 要 視1
FUMY
∞
TA(真正菌門)
AS
∞
MY∞
TINA (子嚢菌亜門)L
Hemiascαnycetesr ‑ ‑ ‑
Spermophthorac閃L ̲ Endomycetale一 寸 「
L ̲ ̲ Saccharαnycetaceae十一
BASIDIOMY
∞
TINA (担子菌類亜門)i 山 …
TremellalesD印T四OMY
∞
TINA(不完全菌実庖E
門)Cryptococcaceae
Sporobolomycetaceae
Fig. 1. Classification of Yeasts.
Schizosaccharomycetoideae
一一‑
Nadsonioideae
Lipomycetoideae
r ‑
… 一
Schizosaccharymyces
[ ~hodospororidium
Leucosporidium
Kloeckera Rhodotor叫a (Torulopsis)
し
Bullera Sporobol畑 氏 自This figure was made by referring to "The Yeasts" ed. by N.J.W. Kreger‑van Rij (1984).
N
さ れ て い る 。 こ の 理 由 と し て 、 生 化 学 な ど の 近 代 科 学 の 発 展 し た 欧 米 で 、 本 菌 種 が 最 も 一 般 的 に パ ン 製 造 や ブ ド ウ 酒 発 酵 な ど に 使 用 さ れ た こ と に よ る と 思 わ れ る 。 今 日 、 本 酵 母 を 用 い て 得 ら れ た バ イ オ サ イ エ ン ス ・ バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー に お け る 研 究 成 果 や 情 報 は 他 の 酵 母 と は 比 べ る こ と が で き な い ほ ど 膨 大 に な っ て い る 。
酵 母 細 胞 は 細 胞 表 層 に 強 固 な 細 胞 壁 を 有 し て い るo 最 も 良 く 分 析 の 進 ん で い る
Sa c c h a r o r n y c e s
属 酵 母 の 細 胞 壁 は 、 外 層 か ら マ ン ナ ン ー タ ン パ ク 質 複 合 体 か ら な る マ ン ナ ン 層 、 ア ル カ リ 可 溶 性 の β ‑グ ル カン層、 ア ル カ リ 不 溶 性 β ‑グ ル カ ン 層 か ら 成 っ て お り 、 キ チ ン 及 び 少 量 の 脂 質 を 含 ん で い る (2 , 3 ) 。 マ ン ナ ン 層 は 、 マ ン ノ ー ス の α‑1 ,2、 α‑1 , 3及 び α‑1,6結 合 で 重 合 し た マ ン ナ ン が タ ン パ ク 質 ( イ ン ベ ル タ ー ゼ 、 酸 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ な ど の 酵 素 タ ン パ ク 質 を 含 む ) の ア ス パ ラ ギ ン に ジ
‑ N ‑
ア セ チ ル キ ト ピ オ ー ス を 介 し て 結 合 し た マ ン ナ ン タ ン パ ク 質 、 ま た セ リ ン あ る い は ス レ オ ニ ン にQ‑グ ル コ シ ド 結 合 し た マ ン ナ ン タ ン パ ク 質 か ら 成 っ て い る (4
) 。 酵 母 の 血 清 学 的 分 類 に 使 用 さ れ る 抗 血 清 ( 抗 体 ) は こ の マ ン ナ ン 部 分 を 認 識 し て い る と 言 わ れ て い る (5 ) 。 ア ル カ リ 可 溶 性 グ ル カ ン 層 は β‑1,3結 合 し た グ ル コ ー ス の 長 い 鎖 に β‑1,6結 合 し た グ ル カ ン が 挿 入 し て い る 構 造 を な し て い る (3 ) 。 ア ル カ リ 不 溶 性 グ ル カ ン 層 は グ ル コ ー ス の β‑1,6結 合 を 主鎖とし、 こ れ に β‑1,3結 合 し た 分 岐 鎖 か ら 構 成 さ れ て お り 、 細 か い 微 繊 維 が 編 目 状 に 絡 み 合 っ た 構 造 で あ り 、 こ の 構 造 体 が 細 胞 墜 に 剛 性 を 与 え て い る と 考 え ら れ て い る (6 。)細 胞 壁 の 内 側 に あ っ て 、 細 胞 内 外 の 環 境 を 隔 て て い る 細 胞 膜 は 、 図
2
に 示 し て い るSinger
とNicolson
の 涜 動 モ ザ イ ク モ デ ル に 従 え ば、 主 に 燐 脂 質 の 単 位 層 膜 ( 燐 脂 質 の 脂 肪 酸 部 分 を 内 側 に 向 け 、 燐3
a)
キ
ー } 一 一 一 一 一 〕 ー
Protein+
唱D
‑Acyl chain group
‑Polar head group
、Protein
、Phospholipid
Fig. 2. Fluid Mosaic Model of Cell Membranes.
This figure was cited from Scienc~ ,立~,
7 2 0 ‑ 7 3 1 ( 1 9 7 2 )
reported by S.J. Singer and G.L. Nicolson.脂 質 の 極 性 基 を 外 側 に 向 け た 構 造 ) に 多 く の 種 類 の タ ン パ ク 質 が 埋 ま っ た 構 造 で あ る (7 。) 細 胞 膜 に は 、 全 ス テ ロ ー ル の 約 60% に 相 当 す る 多 量 の ス テ ロ ー ル が 含 ま れ る (8 ) 。 従 っ て 細 胞 膜 で は 特 に ス テ ロ ー ル の 機 能 が 重 要 で あ る と 考 え ら れ て い る (9 ) 。 細 胞 膜 の タ ン パ ク 質 は 、 膜 タ ン パ ク 質 と 呼 ば れ 、 こ れ ら の 大 部 分 が 細 胞 膜 の 疎 水 領 域 に 強 固
に 組 込 ま れ て い る 。 ま た 、 金 属 イ オ ン の 透 過 に 係 わ る イ オ ン チ ャ ネ ル と 呼 ば れ る タ ン パ ク 質 や 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ル 形 成 に 関 与 し 、 プ ロ ト ン ポ ン プ と 呼 ば れ て い る Mgイ オ ン 依 存 性 ATPase(10‑12)は、 細 胞 膜 を 貫 い て 存 在 し て い る (13,14)。 細 胞 膜 の 機 能 は エ ネ ル ギ ー 源 と し て糖質、 細 胞 構 成 成 分 と し て ア ミ ノ 酸 な ど の 窒 素 化 合 物 及 び 燐 酸 や 金 属 イ オ ン な ど を 取 り 込 み 、 い ろ い ろ な 代 謝 産 物 ( 例 え ば 、 ア ル コ ー ル ) を 体 外 に 排 出 し て い る と 考 え ら れ て い る 。 こ れ ら の 物 質 の ほ とんどは、 ATPな ど の エ ネ ル ギ ー を 使 っ た 能 動 輸 送 な ど の 特 異 的 な 機 構 に よ り 輸 送 さ れ る (8 )。例えば、 ア ミ ノ 酸 はATPを エ ネ ル ギ ー と し
て 、 細 胞 内 外 に 形 成 さ れ た 電 気 化 学 的 ポ テ ン シ ャ ル ( プ ロ ト ン 勾 配 ) に従って、 プ ロ ト ン の 細 胞 内 流 入 に 伴 う シ ン ポ ー ト と 呼 ば れ る 機 構 に よ り 取 り 込 ま れ る と 言 わ れ て い る (15,16)。 こ の よ う に 細 胞 膜 は 物 質 透 過 を 制 御 し 、 細 胞 内 を 外 部 環 境 か ら 隔 て る 重 要 な 構 造 体 で あ る 。
酵 母 細 胞 膜 の 内 側 に は 、 酸 化 的 燐 酸 化 や ト リ カ ル ボ ン 酸 サ イ ク ル な ど エ ネ ル ギ 一 生 産 機 能 を 有 す る こ 枚 の 単 位 膜 ( 二 重 膜 ) に 包 ま れ た ミ ト コ ン ド リ ア 、 細 胞 の 遺 伝 情 報 を 担 っ て い る 染 色 体 DNAな ど を 含 む 二 重 膜 に 包 ま れ た 核 、 各 種 加 水 分 解 酵 素 を 含 む マ イ ク ロ ボ デ ィ ー 及び液胞、 タ ン パ ク 質 合 成 に 関 与 す る リ ボ ソ ー ム 、 リ ボ ソ ー ム を 表 面 に 付 着 し た 粗 面 小 胞 体 、 リ ボ ソ ー ム の 付 着 し て い な い 滑 面 小 胞 体 、
タ ン パ ク 質 な ど の 分 泌 に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た す ゴ ル ジ 体 、 細 胞
5
内 部 の 構 造 維 持 や 細 胞 分 裂 の 際 に 重 要 な 働 き を す る 細 胞 骨 格 (サ イ ト ス ケ ル ト ン ) な ど の 構 造 体 を 含 ん で い る 。 残 り を 占 め る の が 細 胞 質 で 解 糖 系 な ど の 酵 素 が 存 在 し て い る 。 酵 母 の こ の よ う な 細 胞 内 構 造 体 ( オ ル ガ ネ ラ ) は 、 酵 母 が 表 層 に 細 胞 壁 を 有 す る こ と 以 外 、 高 等 動 物 細 胞 の そ れ と 大 差 な い 。 こ の こ と は 、 酵 母 細 胞 が 高 等 生 物 の モ デ ル と 云 わ れ る 理 由 で あ る 。 従 っ て 、 酵 母 に お い て 解 明 さ れ た 機能は、 若 干 の 修 正 を 加 え ね ば な ら な い と は 言 え 、 高 等 動 物 細 胞 に お い て も 適 用 で き る こ と が 多 い 。 ま た 、 酵 母 は 他 の 真 核 生 物 と 比 べ て 生 育 速 度 が 早 く 、 簡 単 な 培 地 で 迅 速 に 増 殖 す る た め 、 短 期 間 で 多 量 の 細 胞 が 容 易 に 得 ら れ る の で 、 真 核 生 物 の 実 験 材 料 と し て 適 し て
い るo
Z . rouxi i
、c .
̲yersatili s
、Candida etchels e
、Pi c h i
~mis
旦、D ebaryomyces hanseni i
な ど の 醤 油 ・ 味 噌 の 製 造 過 程 で 見 い だ さ れ る 酵 母 は 生 育 条 件 が 他 の 酵 母 の そ れ と 著 し く 異 な る 。 古 来 よ り 利 用 さ れ て き た 伝 統 的 な 調 味 料 は 製 造 過 程 に お い て 多 量 の 食 塩 が 使 用 さ れるため、 こ れ ら の 酵 母 は 耐 塩 性 を 有 す る 。 ま た 高 濃 度 の 糖 質 環 境 下 で 生 育 で き る 耐 糖 性 も 有 し て お り 、 こ れ ら 酵 母 の う ち 幾 種 類 かは 高 濃 度 の 糖 を 含 む 食 品 ( 例 え ば ジ ャ ム ・ チ ョ コ レ ー ト ・ 蜂 蜜 な ど ) の 腐 敗 菌 と し て も 見 い だ さ れ て い る 。 一 般 的 に 、 こ れ ら の 酵 母 は 高 い 浸 透 圧 下 で 生 育 で き る た め 、 耐 浸 透 圧 性 酵 母 と 呼 ば れ て い る 。 一 方 、 酵 母 の 代 表 と 言 わ れ る
Q . c ̲ erevisia e
は、 上 記 の よ う な 高 濃 度 食 塩 や 糖 質 を 含 む 環 境 下 で は 生 育 で き な い 浸 透 圧 感 受 性 で あ る 。 飽 和 濃 度 の 食 塩 を 含 む 環 境 に お い て も 生 育 で き るZ . rouxi i
な ど の 酵 母 は 、 進 化 の 段 階 で そ の よ う な 環 境 に 適 応 す る た め に 生 理 的 に 特 殊 な 機 構 を 獲 得 し た も の と 考 え ら れ る 。 本 研 究 で は 、 酵 母 の 耐 塩 性 機構 を 論 述 す る ( 耐 塩 性 と の 関 連 が あ る の で 、 併 せ て 耐 浸 透 圧 性 機 構 に も 言 及 し て い る ) が 、 そ の 機 構 の 全 容 を 明 ら か に で き れ ば 、 ア ル コ ー ル 発 酵 な ど に 用 い ら れ る 非 耐 塩 性 酵 母 の 耐 塩 性 化 や 、 将 来 、 塩 化 の 進 ん で い る 土 壌 に 生 育 可 能 な 非 耐 塩 性 の 食 料 植 物 ヘ 耐 塩 性 の 付 与 が で き る な ど 応 用 ・ 利 用 が 期 待 さ れ る 。 こ れ ら 耐 塩 性 ・ 耐 浸 透 圧 性 酵 母 の 持 つ 生 理 機 能 や 環 境 適 応 機 構 と し て 、 現在、 明 ら か に さ れ て い る こ と を 以 下 に 要 約 す る 。
わ が 国 で は
z .
rouxi iな ど の 醤 油 ・ 味 噌 酵 母 は 伝 統 的 に 利 用 さ れ ており、 製 造 過 程 の 短 縮 化 な ど 産 業 的 な 要 求 か ら 、 こ れ ら 酵 母 の 発 酵 産 物 (17)や 最 適 生 育 条 件 (18‑21)に つ い て 多 く の 研 究 者 に よ り 追 究さ れ て い る 。 こ れ ら 酵 母 の 特 徴 的 な 発 酵 産 物 と し て 、 ま ず 後 述 の よ う な グ リ セ ロ ー ル な ど の ポ リ オ ー ル が あ げ ら れ る (22)。また、 醤 油 や 味 噌 酵 母 の 発 酵 過 程 で 生 ず る 香 気 成 分 と し て 、
Z .
rouxi iで は2‑フ ェ ニ ー ル エ タ ノ ー ル を 、 C andid a属 酵 母 で は4ー エ チ ル グ ア ヤ コ ー ル・ 4‑エ チ ル フ ェ ノ ー ル ・ 2‑フ ェ ニ ー ル エ タ ノ ー ル を 生 産 す る (23‑
25)。 官 能 試 験 で 優 れ た 市 販 醤 油 は 4‑エ チ ル グ ア ヤ コ ー ル を 多 く 含 む と 言 わ れ て い る 。 また、 C andid a属 酵 母 で は 酢 酸 を 生 産 し 、 生 産 さ れ た 酢 酸 が 香 味 に 関 係 し て い る こ と が 知 ら れ て い る (23‑25)。 耐 浸 透 圧 性 酵 母 の 生 育 条 件 の 検 討 か ら 高 濃 度 食 塩 培 地 で は そ れ ら 酵 母 の 最 適 生 育 温 度 は 高 温 度 側 に シ フ ト し (26)、 最 適 生 育pHが 狭 ま る こ と が 明 ら か に さ れ て い る (27,28)。
こ れ ら の 酵 母 の 耐 浸 透 圧 性 機 構 に つ い て は 醤 油 ・ 味 噌 酵 母 の 発 酵 生 産 物 と 生 育 環 境 中 に 含 ま れ る 高 濃 度 食 塩 や 糖 質 に 由 来 す る 浸 透 圧 に 関 連 し て 検 討 さ れ て い る 。 仮 に 培 地 の 食 塩 や 糖 質 に 由 来 す る 浸 透 圧 に 抗 し て 細 胞 内 の 浸 透 圧 が 変 化 し な い と す る と 、 細 胞 膜 を 墳 と し
7
て そ の 両 側 で 浸 透 圧 差 が 起 こ り 、 細 胞 膜 に 物 理 的 力 が 掛 か る こ と に な る 。 植 物 細 胞 で は そ の よ う な 条 件 に お か れ る と 細 胞 膜 が 細 胞 壁 か ら外れ、 内 側 に 縮 ん だ 原 形 質 分 離 と 呼 ば れ る 現 象 を 起 こ す 。 しかし、
高 濃 度 の 食 塩 な ど を 含 ん だ 環 境 で 生 育 で き る 耐 浸 透 圧 性 酵 母 は そ の よ う な 現 象 を 示 さ ず 、 旺 盛 に 生 育 す る 。 従 っ て 、 耐 浸 透 圧 性 酵 母 は 細 胞 外 環 境 の 浸 透 圧 に 答 応 し て 細 胞 内 浸 透 圧 を 上 昇 さ せ る 機 構 が 存 在 す る と 考 え ら れ 、 そ の 機 構 と し て 、 前 述 の ポ リ オ ー ル 生 産 と の 関 係 が 示 さ れ た 。 高 濃 度 の 食 塩 培 地 で 培 養 し た 耐 浸 透 圧 性 酵 母 は 、 グ リ セ ロ ー ル ・ D‑マ ン ニ ト ー ル ・ エ リ ス リ ト ー ル ・ D‑ア ラ ピ ト ー ル な ど の 多 価 ア ル コ ー ル ( ポ リ オ ー ル ) を 多 量 に 生 産 す る 。 生 産 効 率 を 利 用 さ れ る 糖 の 重 量 比 で 表 示 す る と 、
C andida mannitofacien s
とC . versatili s
で は グ リ セ ロ ー ル ・D ‑
マ ン ニ ト ー ル を そ れ ぞ れ6 0 %
と 46%(29) 、~.旦li旦でグリセロール・ D- マンニトール・エリスリトール を
42%(17)
、Z̲.I o u x
i i で グ リ セ ロ ー ル ・D ‑
ア ラ ビ ト ー ル を4 0 % ( 1 7
,3 0 )
、1 2 .
.[主主主で D‑ア ラ ピ ト ー ル を2 0
先 生 産 す る と 計 算 さ れ た(
17) 。浸透圧感受性酵母である~. c̲erevisiae
で は 、 通 常 そ の 効 率 は2か ら 8%で あ る の で (1 7 ) 、 耐 浸 透 圧 性 酵 母 で は 生 産 性 が 非 常 に 高 い こ と に な る 。 耐 浸 透 圧 性 酵 母1 2 . h anseni i
を 用 い たGustafsson
とNorkrans
の研究は、 生 産 さ れ た ポ リ オ ー ル に よ る 浸 透 圧 が 培 地 中 の 食 塩 の 浸 透 圧 に ほ ぼ 一 致 し て い た こ と を 示 し 、 こ れ ら ポ リ オ ー ル が 浸 透 圧 の 調 節 を 行 っ て い る こ と を 証 明 し た (3 1 ) 。 ポ リ オ ー ル 生 産 機 構 に つ い て は 、 ペ ン ト ー ス サ イ ク ル の 中 間 体 で あ る Dー リ プ ロ ー ス ー5‑燐 酸 が ホ ス フ ァ タ ー ゼ に よ り 脱 燐 酸 化 さ れD‑リ プ ロ ー ス と な り 、 NADPH依 存 性 酸 化 還 元 酵 素 ( ポ リ オ ー ル デ ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ ) に よ り D‑ア ラ ビ ト ー ル と な る こ と 、 ま た 解 糖 系 初 期 の 中 間 産 物 で あ る ジ ヒ
ド ロ キ シ ア セ ト ン 燐 酸 がNADH依 存 性 ポ リ オ ー ル デ ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ に よ り 還 元 さ れ グ リ セ ロ 燐 酸 と な り 、 ホ ス フ ァ タ ー ゼ に よ り 脱 燐 酸 化 さ れ グ リ セ ロ ー ル と な る こ と が 明 ら か に さ れ て い る (32 。)
耐 塩 性 酵 母 の 耐 塩 性 機 構 を 考 え る 場 合 、 S taphylococcus aureu s、 Micrococcus h alodenitrifican s、Halobacterium cutirubru mな ど の 耐 塩 性 ・ 耐 浸 透 圧 性 細 菌 類 に 関 す る 成 果 が 参 考 に な る で あ ろ う 。 H alobacterium属 の 細 菌 は4M以 上 の 食 塩 を 含 む 培 地 で 生 育 可 能 で あ
り 、 極 め て 耐 塩 性 ( 耐 浸 透 圧 性 ) で あ る 。 また、 こ れ ら 耐 塩 性 細 菌 の う ち 生 育 の た め に 一 定 以 上 の 食 海 を 要 求 す る 好 塩 性 を 示 す も の も あ る 。 畝 本 は こ れ ら 耐 塩 性 ・ 好 塩 性 細 菌 を 四 種 類 に 分 類 し て い る ( 33 ) 。 第 一 の グ ル ー プ は 非 好 塩 性 細 菌 で 、
Q .
.e:ureu sな ど はOMから 3.8M食 塩 濃 度 の 範 囲 で 生 育 可 能 で あ る ( 但 し 最 適 生 育 食 塩 濃 度 はOM から O.5Mで あ る ) 。 第 二 は 海 洋 細 菌 で 、 Vibrio alginolyticu sな ど はO.2Mか ら 1.8M食 塩 濃 度 で 生 育 可 能 で あ る ( 最 適 生 育 濃 度 O.3Mから 1. 0
M)。 第 三 は 中 度 好 塩 性 細 菌 で 、 f 1 .h
alodenitrifican sな ど は O.3Mから 4Mの 範 囲 で 生 育 で き る ( 最 適 生 育 濃 度 O.8Mから 1. 6M ) 。 第 四 は 高 度 好 塩 性 細 菌 で 、H . c ̲
utirubrumな ど は 2.5Mから 4M以 上 の 範 囲 で 生 育 で き る ( 最 適 生 育 濃 度3.4M以 上 ) 。 上 記 の 酵 母 類 の 場 合 の ポ リ オ ー ル 生 産 に よ る 耐 性 機 構 と は 異 な り 、 こ れ ら 耐 塩 性 ・ 耐 浸 透 圧 性 細 菌 は 浸 透 圧 を 調 節 す る た め に 有 機 酸 ・ ア ミ ノ 酸 ・ カ リ ウ ム イ オ ン ・ ナ ト リ ウ ム イ オ ン ・ 塩 素 イ オ ン な ど の 物 質 を 細 胞 内 に 蓄 積 す る(33 ) 。 こ れ ら の 物 質 が 浸 透 圧 調 節 剤 と し て 選 択 さ れ 、 か つ 有 効 に な る 理 由 に つ い て は BrownのCompatible solute説 が 有 名 で あ る (34, 35)。即ち、 あ る 物 質 が 細 胞 内 に 多 量 に 蓄 積 し た と き 、 そ の 物 質 が 細 胞 内 の 酵 素 反 応 を 阻 害 す る と た と え 浸 透 圧 が 調 節 さ れ た と し て も そ9
の 細 胞 は 生 育 で き な い 。 そ れ で 、 多 量 に 細 胞 内 に 蓄 積 し で も 細 胞 代 謝 に 悪 影 響 を 及 ぼ さ な い 物 質 が 有 効 に な る 。 上 記 の 物 質 は 細 胞 内 に 高 濃 度 存 在 し て も 酵 素 作 用 を 機 能 的 に 保 つ 物 質 で あ り 、
Compatible solute
と 呼 ば れ て い る 。こ れ ま で に 述 べ た よ う に 酵 母 の 耐 塩 性 は 、 浸 透 圧 と ナ ト リ ウ ム イ オ ン な ど の イ オ ン 分 布 の 調 節 の 二 面 性 に よ っ て 成 り 立 っ て い る と 言 う こ と が で き る 。 耐 塩 性 酵 母 の 浸 透 圧 調 節 に 関 す る 研 究 は 、 耐 浸 透 圧 性 機 構 を よ く 説 明 し て い る と 考 え ら れ る が 、 食 塩 に 対 す る 耐 性 機 構 ( 耐 塩 性 機 構 ) を 説 明 す る に は 不 十 分 で あ る と 考 え る 。 そ の 根 拠 と な る 事 例 と し て 、
z . . rouxi i
の 塩 感 受 性 変 異 株 の 中 に 、 耐 塩 性 は 失ったが、 な お 耐 糖 性 ( 耐 浸 透 圧 性 ) を 示 す 株 が 得 ら れ た こ と が 上 げ ら れ る( 3 6
,3 7 )
。 こ の こ と は 、Z . rouxi i
の 耐 塩 性 と 耐 浸 透 圧 性 が 別 々 の 機 構 に よ り 制 御 さ れ て い る こ と を 示 唆 し て い る 。 食 塩 は 水 溶 液 中 で は ナ ト リ ウ ム と 塩 素 イ オ ン か ら 成 っ て お り 、 また、 耐 塩 性 酵 母 は 、 高 濃 度 食 塩 環 境 下 で も 細 胞 内 ナ ト リ ウ ム イ オ ン 濃 度 を 低 く 抑 え て い る の で (38、39)、 食 塩 に よ る 浸 透 圧 以 外 に 両 イ オ ン に 対 す る 細 胞 の 応 答 を 考 慮 す る 必 要 が あ る 。本 論 文 で は 耐 塩 性 酵 母 細 胞 の 持 つ 食 塩 に 対 す る 耐 性 機 構 の 解 明 を 目的とし、 以 下 に 述 べ る 順 序 と 理 由 で 、 ① 細 胞 脂 質 の 変 化 、 ② 解 糖 系 酵 素 の 変 化 、 ③ 細 胞 内 イ オ ン 分 布 に 関 係 す る と 推 定 さ れ る 細 胞 膜
ATPase
の 性 質 に つ い て 追 究 し た 。 当 然 、 食 塩 に 対 す る 耐 浸 透 圧 性 に つ い て も 考 慮 に い れ て 研 究 を 進 め た 。( 1 ) ナ ト リ ウ ム や 塩 素 イ オ ン が 影 響 す る 部 位 と し て 細 胞 膜 が 考 え ら れ る 。 上 述 の 通 り 細 胞 膜 は 燐 脂 質 、 ス テ ロ ー ル な ど の 脂 質 か ら な る 単 位 膜 に タ ン パ ク 質 が 埋 も れ た 構 造 で あ る の で 、 ナ ト リ ウ ム と
塩 素 イ オ ン あ る い は 食 塩 自 体 が 脂 質 単 位 膜 の 流 動 性 な ど に 影 響 を 及 ぼ す と 考 え ら れ る (40)。それ故、 耐 塩 性 酵 母 細 胞 は そ れ ら の 影 響 を 緩 和 す る た め に 適 応 機 構 を 持 つ も の と 推 察 さ れ る 。 しかしながら、
培 地 食 塩 濃 度 と 細 胞 脂 質 の 関 係 を 検 討 し た 研 究 は 、 Mogiら の 脂 肪 酸 組 成 の 分 析 (4 1 )がある程度で、 ほ と ん ど 行 わ れ て い な か っ た 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 ま ず 耐 塩 性 酵 母
Z .
rouxi i及 びc .
y ersatilis を 実 験 材 料 と し て 培 地 食 塩 濃 度 に 依 存 し た 細 胞 脂 質 組 成 の 変 化 を 検 討 し た ( 第 1章 、 第 2章 、 第 3章)。( 2 ) 非 耐 塩 性 酵 母 に 分 類 さ れ て い る ̲ s . ̲Q erevisia e細 胞 の 解 糖 系 酵 素 エ ノ ラ ー ゼ 、 グ リ セ ロ ア ル デ ヒ ド ‑3‑燐 酸 脱 水 素 酵 素 に 対 す る 抗 血 清 ( 抗 体 )
( 4 2 )
を用いて、 い ろ い ろ な ス ト レ ス に よ る 両 酵 素 の 量 的 変 化 を 検 討 し た 結 果 、 両 酵 素 の ア イ ソ ザ イ ム の 発 現 が 食 塩 ス トレ ス に よ っ て 特 異 的 に 制 御 さ れ て い る こ と を 見 い だ し た ( 第 4章、 第 5章)。 これは、 解 糖 系 酵 素 の 発 現 が 食 塩 ス ト レ ス に 依 存 し て 制 御 さ れ る こ と を 示 す 最 初 の 知 見 で あ るo
( 3 ) 細 胞 は 物 質 の 能 動 的 輸 送 の た め に 細 胞 膜 の 内 側 と 外 側 で ナ ト リ ウ ム イ オ ン ・ カ リ ウ ム イ オ ン ・ プ ロ ト ン の 濃 度 勾 配 を 形 成 し て い る (43 )。従って、 濃 度 勾 配 形 成 に 関 与 す る 酵 母 細 胞 膜 の ATPase
( マ グ ネ シ ウ ム イ オ ン 依 存 性 ATPaseで あ る と い わ れ て い る
(12‑14))
の 作 用 も 耐 塩 性 酵 母 の 耐 塩 性 に お い て 重 要 で あ る と 考 え ら れ る が 、 こ の 酵 素 に つ い て の 検 討 は こ れ ま で ほ と ん ど 行 わ れ て い な か っ た 。 耐 塩 性 酵 母 の 生 育 に 対 す る い ろ い ろ な 薬 剤 の 影 響 を 検 討 し 、 耐 塩 性 酵 母 の 高 濃 度 食 塩 を 含 む 培 地 で の 生 育 に と っ て プ ロ ト ン 勾 配 が 重 要 で あ る こ と を 示 唆 す る 結 果 を 得 た ( 第 6章)。 さらに、
Z .
rouxii の 細 胞 膜 プ ロ ト ン ATPaseの 酵 素 的 性 質 を 検 討 し 、 非 耐 塩 性 酵 母 ̲ s.4 .
.
1 〆
c erevisiaeの そ れ と は 異 な る 特 性 を 持 つ こ と を 見 い だ し た (第 7 章)。 また、
S .
̲Q erevisiae細 胞 膜 プ ロ ト ン ATPase遺 伝 子DNAを 用 い た ク ロ ス ハ イ プ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン 法 に よ りZ .
rouxi iの 細 胞 膜 プ ロ トン ATPaseの 遺 伝 子 を 単 離 し 、 構 造 解 析 を 行 い 、 そ の タ ン パ ク 質 の 構 造 や 性 質 を 推 定 し 、 耐 塩 性 と の 関 係 を 言 及 し た ( 第 8章)。第 1章
耐 塩 性 酵 母 Zygosaccharomyces rouxi iの 脂 質 組 成 に 及 ぼ す 食 塩 の 影 響
1・ 1 緒 言
わ が 国 の 伝 統 的 な 調 味 料 で あ る 味 噌 や 醤 油 は 高 濃 度 の 食 塩 (NaCl) を 含 む 大 豆 食 品 で あ る 。 耐 塩 性 酵 母 Zygosaccharomyces rouxi i (旧 名 Saccharomyces rouxi i ) は 、 高 濃 度 食 塩 存 在 下 で 生 育 で き る た め 、
こ れ ら の 食 品 の 発 酵 段 階 に 関 与 す る 主 発 酵 性 酵 母 で あ る (46)。 一 般 的 に 、 高 濃 度 食 塩 条 件 は 生 物 が 生 存 す る 上 で 非 常 に 過 酷 な 環 境 で あ るので、 そ の よ う な 環 境 下 で 生 育 可 能 な 本 酵 母 は 高 濃 度 食 塩 に 対 し で あ る 種 の 防 御 機 構 を 獲 得 し て い る と 考 え ら れ る 。
一般に、 細 胞 が 高 濃 度 食 塩 培 地 で 生 育 す る 場 合 、 細 胞 内 の 浸 透 圧 を 何 等 か の 方 法 で 高 め な い 限 り 細 胞 膜 の 内 側 と 外 側 で 浸 透 圧 差 が 起 こ り 、 細 胞 膜 に 物 理 的 な 力 が 掛 か る こ と に な る 。 そ の 差 を 緩 衝 す る 機 構 と し て 、 本 酵 母 を 含 む 耐 塩 性 酵 母 は 細 胞 内 に グ リ セ ロ ー ル 、 ア ラ ビ ト ー ル な ど い わ ゆ る ポ リ オ ー ル を 蓄 積 し 、 細 胞 膜 に か か る 浸 透 圧 差 に 起 因 す る 物 理 的 力 を 緩 和 す る (31,34,35,46,47)。 こ の 機 構 は 食 塩 に よ る 浸 透 圧 と い う 物 理 的 影 響 に 対 す る 適 応 現 象 を よ く 説 明 し ている。
耐 塩 性 酵 母
Z .
rouxi iは 古 来 よ り 利 用 さ れ て い る た め 、 本 酵 母 の 発 酵 生 産 物 (17)や 最 適 生 育 条 件 (18‑21)な ど に つ い て 多 く の 研 究 が な さ れ て い る 。 また、 酵 母 細 胞 の 生 育 に 及 ぼ す 培 養 温 度 や 培 地 の ア ル コ ー ル 濃 度 な ど の 環 境 因 子 の 影 響 に つ い て 、 細 胞 膜 脂 質 と の 関 連 性 に 重 点 を お い た 多 く の 研 究 も な さ れ て き た 。 し か し な が ら 、 耐 塩 性13
酵 母 の 培 地 食 塩 濃 度 に 依 存 し た 細 胞 脂 質 の 変 化 に 関 す る 研 究 は こ れ ま で ほ と ん ど な さ れ て い な い 。 そこで、 本 章 で は 耐 塩 性 機 構 を 追 求 す る 本 論 文 の 最 初 と し て 、 耐 塩 性 酵 母
z .
rouxi i細 胞 の 脂 質 組 成 と 培 地 食 塩 濃 度 の 関 係 を 検 討 し た 次 第 を 記 述 す る 。 な お 、 本 章 の 大 部 分 の 内 容 は 既 に 学 会 誌 に 報 告 し て い る (44,45)。1・2 実 験 方 法 1・2 ・ 1 使 用 菌 株
耐 塩 性 酵 母 と し て は 、 主 と し て
Z .
rouxi i ATCC42981株 を 使 用 し 、 ま た 比 較 と し て IAM4028、 S84、 G10‑1、 S2‑B ( 全 て 野 生 型 ) の 4 菌 株 を 使 用 し た 。 非 耐 塩 性 酵 母 と し て は 、 S accharomyces cerevisiae 0‑11‑4株 ( 野 生 型 ) を 使 用 し た 。z .
rouxi i ATCC42981株 は 農 林 水 産 省 食 品 総 合 研 究 所 か ら 、Z .
rouxi i S84、 G10‑1 お よ び S2‑B株 は 新 潟 県 食 品 研 究 所 か ら (27)、.s. .Q erevisiae 0‑11‑4株 は 三 共 株 式 会 社 か ら 供 与 さ れ た 。 こ れ ら の 酵 母 細 胞 は 、 2%(w/v)寒 天 を 含 む 下 記 の 組 成 の YM斜 面 培 地 で40Cで 保 存 し た 。1・2 ・2 使 用 培 地
使 用 し た 培 地 の 組 成 は O.3%(w/v)酵 母 エ キ ス 、 O.3%(w/v)麦 芽 エ キ ス、 O.5%(w/v)ポ リ ペ プ ト ン 、 l%(w/v)グ ル コ ー ス で あ り 、 こ の 培 地 を 以 下YM培 地 と 呼 ぶ 。 YM培 地 に は 必 要 に 応 じ て 1Mか ら 3Mま で の 食 塩 を 添 加 し た 。 培 地 の pHは 食 塩 添 加 後 に 塩 酸 溶 液 に よ り pH4.8に 調 節 し た。但し、
Z .
rouxi i S2 ‑B株 用 のYM培 地 は pH 4.6に 調 節 し た (27)。1・2 ・3 培 養 方 法
Z. rouxi i細 胞 は 以 下 の 方 法 に よ り 培 養 し た 。 前 培 養 と し て 、 保 存 用 斜 面 寒 天 培 地 か ら 一 白 金 耳 の 酵 母 細 胞 を YM培 地 (
5 m 1
)に接種し、300Cで 二 日 間 静 置 培 養 し た 。 本 培 養 と し て 、 前 培 養 液 を OM、 1M、 2M、 3Mの 食 塩 を 含 む YM培 地 (95ml)に移し、 300
C
で 振 と う (95回/分)培養し た。 40時 間 培 養 後 、 細 胞 を 遠 心 分 離 (1000xg,10分 間 ) に よ り 集 菌 し 、 水で三度洗浄した。~. ~ erevisia e細 胞 の 培 養 は 本 培 養 液 と し て OM、 0.3M、 0.6M、 1.0Mの 食 塩 を 含 むYM培 地 を 用 い た 以 外 、z .
rouxi i培 養 と 同 様 で あ っ た 。 両 酵 母 細 胞 の 生 育 度 は ト ー マ 血 球 測 定 盤 を 用 い た 細 胞 数 の 計 測 及 び 培 養 液 の 濁 度 (660nm)の 計 測 に よ り 見 積 っ た 。 特 定 の 食 塩 濃 度 の 培 地 で 培 養 し た 細 胞 を 異 な る 食 塩 濃 度 の 培 地 ヘ 転 移 す る 方 法 は 以 下 の 通 り で あ る 。 即 ち 、 300Cで 定 常 期 ( 約42時 間 )ま で 振 と う 培 養 し た 細 胞 培 養 液 (100ml)の 一 部 (30ml)か ら 細 胞 を 集 菌 し 、 各 濃 度 の 食 塩 を 含 む YM培 地 (50ml)に懸濁し、 300
C
で 振 と う 培 養 した。1・2 ・4 脂 質 の Ia Cラ ベ リ ン グ
細 胞 脂 質 の 放 射 性 ラ ベ リ ン グ は 細 胞 を 2.5μC iの (1‑14C)酢 酸 ナ ト リ ウ ム (New England Nuclear, 59mCi/mol) を 含 む YM培 地 で 振 と う 培 養 す る こ と に よ り 行 っ た 。
1・2 ・5 細 胞 形 態 観 察
各 種 の 食 塩 濃 度 の 培 地 で 培 養 し た
Z .
rouxi i細 胞 の 形 態 観 察 は 顕 微 鏡 下 で 行 い 、 写 真 撮 影 し た 。1・2 ・6 細 胞 脂 質 の 抽 出
15
酵 母 細 胞 は 細 胞 表 層 に 強 固 な 細 胞 壁 を 持 つ た め 、 直 接 有 機 溶 媒 抽 出 の 試 料 と し て 利 用 で き な い 。 そ こ で 、 酵 母 細 胞 を 以 下 に 示 し た 方 法 で 処 理 す る こ と に よ り 細 胞 壁 を 除 去 し た 。 即 ち 、 集 菌 し て 得 ら れ 一 定 量 の 細 胞 を 4mlの チ モ リ ア ー ゼ 緩衝 液 [0 . 8M塩 化 カ リ ウ ム 、
o .
1H
亜 硫 酸 ナ ト リ ウ ム を 含 むO . l M
ト リ ス 一 塩 酸 緩 衝 液( p H 7.5)J
に 懸 濁し、 0.9mgの チ モ リ ア ー ゼ 6000を加え、 300
C
、 45分 間 イ ン キ ユ ペー ト す る こ と に よ り 酵 母 細 胞 を ス フ エ ロ プ ラ ス ト 化 し た 。 細 胞 脂 質 は ス ブ エ ロ プ ラ ス ト か ら 図 3 に 示 し た BlighとDyerの 方 法 (48) に 従 い 抽 出した。
1 . 2・7 脂 質 分 析
中 性 脂 質 は 以 下 の よ う に 分 離 し た 。 1. 2
・
6に 示 し た よ う に 抽 出 し た 細 胞 脂 質 溶 液 ( ク ロ ロ ホ ル ム 溶 液 ) を 漉 縮 乾 国 後 、 200μlの ク ロ ロ ホ ル ム / エ タ ノ ー ル 混 合 液 (2:1,v/v)に 溶 解 し た 。 そ の 脂 質 溶 液 1μlを イ ア ト ロ ス キ ャ ン ( ヤ ト ロ ン ラ ボ ラ ト リ ー 社 製 、 TH‑l0型 ) 用 ク ロ マ ロ ッ ド に ス ポ ッ ト し た 。 溶 媒 を 除 去 し た 後 、 そ の ク ロ マ ロッ ド 上 の 脂 質 を n‑ヘ キ サ ン / エ ー テ ル / ギ 酸 混 合 液 (90:10:1,v/v)を 用 い て 分 離 し た 。
燐 脂 質 は 以 下 の よ う に 分 離 し た 。 脂 質 溶 液 50μlを シ リ カ ゲ ル プ レ ー ト ( メ ル ク 社 製 、 5cmx 20cm) に ス ポ ッ ト し た 。 そ の プ レ ー ト 上 の 脂 質 を 上 記 の
n ‑
ヘ キ サ ン / エ ー テ ル / ギ 酸 混 合 液 を 用 い て 分 離 し た 。 燐 脂 質 は ス ポ ッ ト 原 点 、 に 残 存 す る の で 、 そ の 区 分 の シ リ カ ゲ ル を プレ ー ト か ら か き 取 り 、 ク ロ ロ ホ ル ム / エ タ ノ ー ル 混 合 液 で シ リ カ ゲ ル か ら 燐 脂 質 を 抽 出 し た 。 溶 媒 を 除 去 し た 後 、 燐 脂 質 を 50μlの ク ロ
ロ ホ ル ム / エ タ ノ ー ル 混 合 液 に 溶 解 し 、 1μlを ク ロ マ ロ ッ ド に ス ポ
Sample solution (1 volume)
Lower phase
(Chloroform phase)
Added methanol (2.5 volumes) Added chloroform (1.25 volume) Shaked vigorously for 2 min.
Allowed to stand at room temperature for 10 min. Added chloroform (1.25 volume)
Shaked vigorously for 30 sec. Added water (1.25 volume)
Centrifuged at 1,000xg for 5 min.
Fluff phase
(Denatured protein)
Upper phase
(Methanol‑water phase)
Lower phase
Added chloroform (1.25 volume) Sheked vigorously for 30 sec. Centrifuged
Upper phase
Total lipid fraction
Fig. 3. Bligh and Dyer' s Method for Extraction of Lipids.
17
ットした。 ク ロ マ ロ ッ ド 上 の 燐 脂 質 を ク ロ ロ ホ ル ム / メ タ ノ ー ル / 水 (50:60:4.5,v/v)を 用 い て 分 離 し た 。
ク ロ マ ロ ッ ド 上 に 分 離 し た 各 脂 質 成 分 は イ ア ト ロ ス キ ャ ン ( 炎 イ オ ン 検 出 器 ) を 用 い て 定 量 し た 。 図 4 ‑Aに イ ヤ ト ロ ス キ ャ ン
TH‑l0
を 用 い た 中 性 脂 質 、 図 4 ‑Bに 燐 脂 質 の 典 型 的 な 分 離 パ タ ー ン と 各 ピ ー ク の 成 分 名 を 示 し た 。 各 脂 質 成 分 の 同 定 は そ れ ぞ れ の 標 準 物 質 の 移 動 度 と の 比 較 に よ り 行 っ た 。 本 分 析 装 置 は 一 次 元 薄 層 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー で あ る が 、 各 成 分 は 互 い に 充 分 な 分 離 を 示 し た 。 各 デ ー タ は 三 測 定 値 の 平 均 値 と し た 。 こ の 測 定 法 に よ る 検 出 感 度 は 各 脂 質 成 分 に よ っ て 異 な っ て い る 。 ス テ ア リ ル ア ル コ ー ル を 基 準 と し た 時 の 相 対 的 検 出 感 度 は ス テ ロ ー ル エ ス テ ル 、 脂肪酸、 ト リ ア シ ル グ リ セ ロ ール、 ス テ ロ ー ル 、 燐 脂 質 に つ い て そ れ ぞ れ 1. 2、 1. 0、 1. 3、 1 .2、0 . 8 5
と し た( 4 9 a )
。け ん 化 脂 質 に 含 ま れ る 脂 肪 酸 の 分 析 は 以 下 の よ う に 行 っ た 。 脂 質 溶 液 を ス ク リ ュ ウ キ ャ ッ プ 付 き 試 験 管 に 入 れ 、 溶 媒 を 除 去 し た 後 、
2%(v/v)硫 酸 ‑ 無 水 メ タ ノ ー ル 液
4.5ml
を 加 え た 。 密 栓 後 、 試 験 管 を 700Cで 一 時 間 加 熱 す る こ と に よ り 脂 肪 酸 を ト ラ ン ス メ チ レ ー シ ョ ン に よ り 脂 肪 酸 メ チ ル エ ス テ ル に 変 換 し た 。 冷却後、 メ タ ノ ー ル 溶 液 に0 . 5 m l
の 水 を 加 え た 。 そ の 溶 液 に 含 ま れ る 脂 肪 酸 メ チ ル エ ス テ ル を5 m l
のn ‑
ヘ キ サ ン で 抽 出 し た 。 溶 媒 除 去 後 、 脂 肪 酸 メ チ ル エ ス テ ル を ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー に よ り 定 量 し た 。 ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ーに は
1. 5 %
シ リ コ ンSE‑30
の ガ ラ ス カ ラ ム(2mx3 m m )
を 装 着 し た ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ( 島 津 製 作 所 製 、GC‑4CM
型 ) を 用 い た 。 分 離 は2 0 0
0C
の 一 定 温 度 で 、 キ ャ リ ア ガ ス ( 窒 素 ガ ス ) 流 速 60mll分 の 条 件 下 で 行 っ た 。 脂 肪 酸 定 量 は 既 知 の 量 の パ ル ミ チ ン 酸 メ チ ル エ ス テ ル を 標 準 と( 刊 l i
‑‑J
l 十 ‑ ‑ i i
Fig. 4. Typical Patterns of Neutral Lipids (A) and Phospholipids (B) from Zygosaccharomyç~s 並区込 Cells by Iatoroscan TH‑10.
Total lipids were extracted from cells cultured in YM medium containing 1M NaCl, and analyzed by Iatroscan TH‑I0 (TLC/FID Analyzer).
0, origin
PL, phospholipids FFA, free fatty acids SE, sterol‑esters PC, phosphatidylcholine PE, phosphatidylethanolamine UN, unknown components
19
F, front S, sterol
TG, triacylglycerol LPL, lysophospholipids PS, phosphatidylserine PI, phosphatidylinositol
し て 行 っ た 。 各 々 の デ ー タ は 三 測 定 値 の 平 均 値 と し た (50)。
1・2 ・8 二 次 元 薄 層 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー 及 び 燐 脂 質 に 含 ま れ る 放 射 活 性 の 測 定
1 4 Cで ラ ベ ル し た 脂 質 溶 液 を シ リ カ ゲ ル G薄 層 プ レ ー ト (20cmx20 cm)の 一 隅 に ス ポ ッ ト し た 。 一 次 展 開 溶 媒 と し て 、 ク ロ ロ ホ ル ム / メ タ ノ ー ル /28%ア ン モ ニ ア 水 (65:25:5,v/v)を 用 い て 脂 質 を 分 離 し た 。 溶 媒 除 去 後 、 二 次 展 開 溶 媒 と し て 、 ク ロ ロ ホ ル ム / ア セ ト ン / メ タ ノ ー ル / 酢 酸 / 水 (6:8:2:2:1,v/v)を 用 い て も う 一 度 分 離 し た 。 溶 媒 除 去 後 、 薄 層 プ レ ー ト を X線 フ ィ ル ム ( 富 士 フ ィ ル ム 、
R X )
に 押 し 当 て 、‑500
C
で放置し、 オ ー ト ラ ジ オ グ ラ ム を 得 た 。 また、 同 プ レ ー ト を ヨ ウ 素 蒸 気 中 に 置 き 、 各 燐 脂 質 成 分 を 検 出 し た 。 各 成 分 を シ リ カ ゲ ル と 共 に 試 験 管 に い れ 、 5m 1の ト ル エ ン で 燐 脂 質 を 抽 出 後 、 10m 1の 液 体 シ ン チ レ ー シ ョ ン 溶 液 [0.75%(w/v) 2,5ー ジ フ ェ ニ ル オ キ サ ゾ ー ル (PPO)及 び O.075%(w/v)1,4‑ピ ス (5‑フ ェ ニ ル ー2ー オ キ サ ゾ イ ル ) ベ ン ゼ ン(POPOP)を 含 む ト ル エ ン 溶 液 ] を 加 え 、 パ ッ カ ー ド 液 体 シ ン チ レ ー シ ョ ン カ ウ ン タ ー を 用 い て 放 射 活 性 を 測 定 し た 。1・3 結 果
1・3 ・1
Z .
rouxi i と~.c ̲
erevisia e細 胞 の 生 育 に 及 ぼ す 食 塩 の 影 響各 種 濃 度 の 食 塩 を 含 むYM培 地 で 培 養 し た
Z .
rouxi i ATCC42981 と~.
c ̲
erevisia e 0‑11‑4細 胞 の 生 育 を 検 討 し た 。 図 5‑Aの 生 育 タ イ ム コ ー ス に 示 さ れ た よ う に 、Z .
rouxi i細 胞 は OM、 1M、 2M、 3M食 塩 を 含 むYM培 地 ( 以 下 、 そ れ ぞ れOM食塩、 1M食塩、 2M食塩、 3M食 塩 培 地A
FF QJ
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0 1 2 Added NaCl (M)
Fig. 5. Effects of NaCl on Growth of Zygosaccharomyces回 虫ii and
s .
accharomyee̲ s
cerevisiae Cells.A, time courses of growth of
Z .
ro旦主iicells in YM medium containing OMr v3M NaCl. B, Ratio of growth ofZ .
ro旦玉i
よand ̲S. ̲cerevisiae cells.10
1 .4
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と 略 ) で 培 養 し た と こ ろ 、
Z .
rouxi i細 胞 の ダ プ リ ン グ タ イ ム は そ れ ぞ れ3時間、 3時間、 3 . 5時間、 6時 間 で あ っ た 。Z .
rouxi i細胞は、1M食 塩 培 地 で は 対 照 の OM食 塩 培 地 と ほ ぼ 同 じ 生 育 が 、 2M食 塩 培 地 で は 対 照 に 比 べ の 培 養 初 期 に ラ グ 期 が 生 じ た が 定 常 期 に 至 り 対 照 と 同 様の生育が、 3M食 塩 培 地 で は 著 し い 生 育 の 遅 れ が 認 め ら れ た 。 これ らのことは、
z .
rouxi i細 胞 の 生 育 が 培 地 の 食 塩 濃 度 の 増 加 に よ っ て 阻 害 さ れ る こ と を 示 し て い る 。 . s .c ̲
erevisia e に お け る 生 育 タ イ ム コ ー ス は 省 略 し た 。図5‑Bに、
Z .
rouxi iと.s.c ̲
erevisia e細 胞 の 生 育 に 及 ぼ す 食 塩 の効果を、 定 常 期 の 細 胞 に つ い て 対 照 の OM食 塩 培 地 か ら 得 た 細 胞 数 に 対 す る 生 育 度 の 相 対 値 と し て 表 示 し た 。 最 終 的 に 定 常 期 で 得 ら れ たZ .
rouxi i細 胞 量 は OM食 塩 培 地 に 比 べ て 1Mと 2M食 塩 培 地 で は そ れ ぞ れ 1.5倍、 1 .3倍 多 か っ た 。 こ の 食 塩 添 加 に よ る 細 胞 収 量 の 増 加 は 静 置 培 養 条 件 で は 認 め ら れ な か っ た の で ( デ ー タ 示 し て い な い ) 、 振 と う 培 養 の 効 果 、 即 ち 、 培 養 液 の 溶 存 酸 素 量 に 依 存 し て い る と 推 察された。Z .
rouxi i細胞と異なり、.s.c ̲
erevisiae細 胞 の 生 育 は 培 地 の 食 塩 濃 度 に よ り 著 し く 抑 制 さ れ た 。 この結果は'l̲. rouxi iが 耐塩性であり、.s.c ̲
erevisiaeが 食 塩 感 受 性 で あ る こ と を 良 く 示 している。特に、.s.
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erevisiae細 胞 は 1M食 塩 培 地 で は ほ と ん ど 生 育 し な か っ た の で 、 以 降 で は 削 除 し た 。1・3 ・2
Z .
rouxi i細 胞 の 形 態 に 及 ぼ す 食 塩 の 影 響OMか ら 3M食 塩 を 含 む YM培 地 で 培 養 し た
f .
rouxi i細 胞 の 形 態 を 顕 微 鏡 下 で 観 察 し 、 写 真 を 図 6に示した。 また、 細 胞 の 最 大 直 径 に 対 す る 最 小 直 径 の 比 を 各 細 胞 の 顕 微 鏡 写 真 か ら 計 測 し た と こ ろ 、 そ のA B
c
DFig. 6. Micrographs of Zygosaccharomyces rouxii Cells. A, in OM NaCI‑YM medium B, oin 1M NaCI‑YM medium C, in 2M NaCI‑YM medium D, in 3M NaCI‑YM medium The scale bar represents 10μm.
23
値 は OM、 1M、 2M、 3M食 塩 培 地 で 培 養 し た 細 胞 で そ れ ぞ れ 0.90、 0.67、
o
.65、 0.50であった。 こ の 結 果 は 培 地 の 食 塩 濃 度 の 増 加 と と も に 、培 養 細 胞 の 形 が 球 形 か ら 卵 形 に 変 化 し た こ と を 示 し て い る 。 酵 母 細 胞 の 細 胞 の 形 は 細 胞 壁 、 細 胞 内 骨 格 な ど に よ り 決 定 さ れ て い る と 考 え ら れ る が 、 本 実 験 で は こ れ 以 上 追 究 し な か っ た 。
1 . 3
・3 Z . r o u x i i
細 胞 の 脂 質 組 成 に 及 ぼ す 食 塩 の 影 響図 7に 脂 質 含 量 に 対 す る 培 地 食 塩 濃 度 の 影 響 を 示 し た 。 各 脂 質 成 分 は 凍 結 乾 燥
z . r o u x
i i 細 胞 重 量( m g )
当 り の 含 量(μg)
と し て 表 示 した。 1Mと 2M食 塩 培 地 で 培 養 し た 細 胞 で は 、 OM食 塩 培 地 で 培 養 し た 細 胞 と 比 べ た 時 、 ス テ ロ ー ル エ ス テ ル 量 が 著 し く 増 加 し 、 ト リ ア シ ル グ リ セ ロ ー ル 量 は 減 少 し た 。 3M食 塩 培 地 で 培 養 し た 細 胞 で は 、 そ れ ぞ れ は OM食 塩 培 地 で 培 養 し た 細 胞 の レ ベ ル に 戻 っ た 。 さらに、 ス テ ロ ー ル と 遊 離 脂 肪 酸 量 は 培 地 の 食 塩 濃 度 の 増 加 と と も に 増 加 し た 。 一 般 的 に 遊 離 型 の 脂 肪 酸 は 細 胞 毒 性 を 持 っ て い る と 言 わ れ て い る の で 、 高 濃 度 の 食 塩 が 培 地 に 存 在 す る と き 、 遊 離 脂 肪 酸 が 細 胞 に 蓄 積 す る こ と は 、 耐 塩 性 酵 母 で あ っ て も 脂 質 代 謝 が 局 部 的 に 異 常 を き た し て い る と 推 測 さ れ る 。 燐 脂 質 は 3M食 塩 培 地 で そ の 含 量 が 若 干 低 い 以 外 は ほ ぼ 一 定 レ ベ ル に 維 持 さ れ て い た 。 ここで、 燐 脂 質 に 対 す る ス テ ロ ー ル の 比 ( ス テ ロ ー ル / 燐 脂 質 ,μg/μg)
を 計 算 す る と 、 OM、1M、 2M、 3M食 塩 を 含 む 培 地 で 培 養 し た 細 胞 で そ の 比 は そ れ ぞ れ 0.06、
o .
13、o .
14、o .
18であった。 こ の 結 果 は 培 地 食 塩 濃 度 の 増 加 と と もに 燐 脂 質 当 り の ス テ ロ ー ル 量 が 増 加 し て い る こ と を 示 し て い る 。 図 8に 中 性 脂 質 組 成 ( 完 ) 、 燐 脂 質 組 成 (% ) 、 脂 肪 酸 組 成 ( %) に 及 ぼ す 培 地 食 塩 濃 度 の 影 響 を 示 し た 。 培 地 に 食 塩 が 存 在 す る こ と に よ り ホ
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Effects of NaCl on Content of Lipid Components in
Zygosaccharomyces盟 堅 註 Cells.
Fig. 7.
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, triacylglycerol S, sterolsUN, unknown components
25
PL, phospholipidsSE, sterol‑esters FFA, free fatty acids
( A) ( B) (C)
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Fig. 8. Effects of NaCl on Composition of Neutral Lipids (A), Polar‑head Groups in Phospholipids (B), and Cellular Fatty Acids (C) in Zygosaccharomyces rouxii Cells.
(A) SE, sterol‑esters FFA, free fatty acids (B) PC, phosphatidylcholine
PI, phosphatidylinositol LPL, lysophospholipids The percentage of unknown
TG, triacylglycerol S, sterols UN, unknown components
PE, phosphatidylethanolamine PS, phosphatidylserine components was omitted.
ス フ ァ チ ジ ル イ ノ シ ト ー ル は 3. 5倍 に 増 加 し た 。 ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン と ホ ス フ ァ チ ジ ル エ タ ノ ー ル ア ミ ン の 変 化 は 小 さ か っ た 。 こ れ ら の こ と は 培 地 に 食 塩 が 存 在 す る こ と に よ り 、 極 性 基 に 負 の 荷 電 を も っ 燐 脂 質 が 増 加 す る こ と を 示 し て い る 。 脂 肪 酸 分 析 に お い て 、 培 地 食 塩 濃 度 の 増 加 と と も に 、 オ レ イ ン 酸 (18: 1、 炭 素 数 : 二 重 結 合 数 で 表 示 し て い る ) の 割 合 が 増 加 し 、 リ ノ ー ル 酸 (18:2)と パ ル ミ ト オ レ イ ン 酸 (16:1)の 割 合 が 減 少 し た 。 飽 和 脂 肪 酸 は パ ル ミ チ ン 酸 (16:0) 以 外 わ ず か し か 存 在 せ ず 、 培 地 食 塩 濃 度 に よ る 影 響 は ほ と ん ど 認 め
ら れ な か っ た 。 脂 肪 酸 の 不 飽 和 度 を 表 す 尺 度 に 、 以 下 の 式 に よ り 計 算 さ れ る 不 飽 和 イ ン デ ッ ク ス (U . I . )がある。即ち、 U.I.=~ (脂肪酸 の完×二重結合の数)である。 この U. I . は 培 地 食 塩 濃 度 増 加 と と も に 減少した。
1・3 ・4 ~. ̲Q erevisiae細 胞 の 脂 質 組 成 に 及 ぼ す 食 塩 の 影 響 図 9 に~.
c ̲
erevisiae細 胞 の 中 性 脂 質 、 燐 脂 質 、 脂 肪 酸 の 各 組 成 ( 児 ) に 対 す る 培 地 食 塩 の 影 響 を 示 し た 。 先 の 図5 ‑ B
に 示 し た よ う に 、 1M 食塩培地で~. ̲Q erevisiaeの 生 育 は 著 し く 悪 か っ た の で 、 十 分 量 の 細 胞 が 得 ら れ る よ り 低 い 食 塩 濃 度 の 培 地 で 培 養 し た 細 胞 の 分 析 結 果を示した。~. ̲Q erevisiae細 胞 に お い て ト リ ア シ ル グ リ セ ロ ー ル と ス テ ロ ー ル エ ス テ ル が 著 し く 変 化 し た が 、 その変化は'l̲. rouxii 細 胞 で の 変 化 と は 逆 で あ っ た 。 ス テ ロ ー ル と 遊 離 脂 肪 酸 は ほ と ん ど 変 化 し な か っ た 。 燐 脂 質 の 極 性 基 に 関 す る 分 析 で は 、 ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン に お い て 培 地 食 塩 濃 度 増 加 に 伴 っ て 増 加 傾 向 を 示 し た が 、 そ れ 以 外 の 成 分 は 変 化 し な い か ま た は 減 少 し た 。 脂 肪 酸 種 の 割 合 の 変 化 は わ ず か で あ り 、U . I
. も ほ と ん ど 変 化 し な か っ た 。27
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( A) ( B) (C)
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Fig. 9. Effects of NaCl on Composition of Neutral Lipids (A), Polar‑head Groups in Phospholipids (B), and Cellular Fatty acids (C) in Saccharomyces cerevisiae Cells. (A) SE, sterol‑esters TG, triacylglycerol
S, sterols FFA, free fatty acids The percentage of unknown components was omitted.
(B) PC, phosphatidylcholine PE, phosphatidylethanolamine PI, phosphatidylinositol PS, phosphatidylserine LPL, lysophospholipids
The percentage of unknown components was omitted. (C) 18:1, oleic acid 18:0, stearic acid
17:0, heptadecanoic acid 16:1, palmitoleic acid 16:0, palmitic acid U.I., unsaturation index The percentage of 18:2 was omitted, since it was only trace.