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大腸癌肝転移における腫瘍核

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 大 森 一 吉

学 位 論 文 題 名

大 腸 癌 肝転 移に おける 腫瘍核 DNA 量およ び c 一erbB ―2 癌 遺伝子産物発現に関する研究

― 一 臨 床 病 理学 的所 見お よび 予 後と の関 連→ 一

学位論文内容の要旨

I研究目的

  大腸癌の治療成績向上を妨げる肝転移は大腸癌の10%以上に認められるが,これに対し積極的 に肝切除術を行い良好な結果を得ている。しかし,肉眼的に病巣を完全に切除し得た症例でも早 期に再発するものがある。従来の臨床病理学的所見からそれを推定するには限界があり,新しい 見地から,より的確な予後因子による検討が必要である。

  最近,癌腫固有の生物 学的悪性度の指標として腫瘍核DNA量や,癌遺伝子の面からの解析 か進められているが,大 腸癌肝転移にっいて腫瘍核DNA量および癌遺伝子産物発現の両面か ら解析した報告は少ない 。そこで著者は,フ口一サ イトメ卜リ−(FCM)で核DNA量を測定 し,転移関連癌遺伝子として注目されているc一erbB−2遺伝子産物の発現を検索し,予後因子 としての意義を検討した。

II実験の対象と方法

  対象:最近10年間に治療した大腸癌肝転移67例中,原発巣および肝転移巣を共に切除した44例 で あ る 。 ま た ,術 後5年以 上肝 転移 の ない 治癒 切除 ,大 腸 癌45例を 比較 対照 と した 。   方法:パラフアン包理検体から壊死組織の少ないブ口ックを3個選定し,連続する3 umと70um の切片を作成した 。前者をc―erbB―2蛋白発現 検索用とし,後者をFCM用の 試料とした。

  1.腫瘍核DNA量の測定

  腫瘍部で変性の少ない部分をトリミングし,脱パラフィン,再水和処理の過程で金属メッシュ

(150#)を用いて機械的分散を行った。さらに,O.5%pepsln(pH1,5)溶液中で酵素処理 (37℃ ,30分 )し ,Hanks 液(Gibco社)で洗 浄した。ナイ口ンメッシュ(30um)に通した 後propidium iodide  (50,ug 7ml,Sigma社) ,lmg7mlのribonucleaseくSigma社),0.1

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% ,tritonX(片 山化学 )を含 んだ1.12%trisodiumcitrate(和 光純薬 )で4℃,20分間暗 所に てDNA染 色 し ,Cytofluorograf system 50H(Ortho社 ) を 用 い て 核DNA量 を 測 定 し た 。   腫 瘍 内 浸 潤 リ ン パ 球 を 内 部 標 準 と し た 腫 瘍 細 胞Go/Gipeakの 相 対 的 螢 光 量 をDNA index

(DI値 ) と し , 単 一 のpeakを 示 す場 合 (diploidy) はDI値を1.Oと した 。 複 数 のpeakを 示 す 場 合 (aneu ploidy) は, 細 胞 教 が 最も 多 い 腫 瘍G。/G ipeakのDI値 を そ の腫 瘍 のDI値と し た。

  2.c−erbB‑―2蛋 白の免 疫組織 学的検 索

  脱パラ フィン 後,1%H: 0.,加メタ ノ―ル で処理 後,3%正常ヒ`ソジ血清を室温で20分間反応 さ せ た 。1次 抗 体 と し て 抗 ヒトc―erbB〜2蛋 白ポ リ ク 口 ー ナル 抗 体(Nichirei社 ,OPG02003 X s0)を 用 い4℃ で1昼 夜 反 応 さ せた 。2次 抗 体し てavidin−biotin―peroxidase後 合 体 試 薬

(Vector社 ) を 室 温 で30分 間 で 反 応 さ せ ,diamino―benzidineで 染 色 後hematoxylinで 核 染 色し た。

  判定は 病巣全 体の25%以上の癌細胞膜または細胞質が褐色顆粒状に染色された場合を陽性とした。

陽 性 例 の う ち 新鮮 組 織 が 得られ たも のにっ いてEco RIを用い たSouthernblot hibridization法 でc‑erbBー2遺伝 子が 増幅し ている ことが 確認 した。

m研究結 果

  1,核DNA量 の分布 様式

  ヒ スト グ ラ ム のCV (coefficient of variation)値は ,平 均4.2%であ った。 肝転移 陰性 群,

肝 転移群 原発巣 および 日干 転移のDI値の分 布は ,diploidyの ほかに1.OくDI≦1.5のlow ploida neuploidy(LPA) と1.5くDIのhigh ploid aneuploidy(HPA)3峰 性 を 示 し た 。   2.核DNA ploidy

  aneuploidyの頻 度は肝 転移陰 性群53.3%,肝 転移群 原発群 で79.5% であった。肝転移巣では 86.4%で ,肝転 移陰性 群に 比べ肝 転移群 の原発 巣・肝 転移 巣ともaneu ploidyが高 率に認 められ た(pく0.05)。原 発 巣 と肝 転移 巣のDI値 は弱い 正の 相関(r=ニO.60,pくO.01)を認 めたが , ploidy pattern(diploid,LPA,HPA) の 面 か ら検討 すると ,原 発巣と 肝転移 巣の間 でploidy patternの解 離を10例22. 7%に 認めた 。

  3.c一erbB―2蛋 白発現

  発 現陽性 例の癌 巣内 での染 色性は 均一で はな く,陰 性部分 が混在 してい た。陽性率は肝転移陰 性 群4.4% ,肝転 移原 発巣で31.8%で あった 。肝転 移巣で は27.2% であ り,肝転移群の原発巣・

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肝転移巣とも有意(pくO. 01)に陽性率が高かった。

  4.臨床病理組織学的所見と核DNA ploidy

  肝転移例の原発巣局在部位,肝切除前CEA値,肝転移時期,肝転移程度,肝転移個数,原発 巣・肝転移最大径,組織型,壁深達度,リンパ節転移,脈管侵襲の臨床病理学的各因子と核DNA ploidyの関係を検討した 。原発巣ploidyでは,異時性肝転移にdiploidyが,両葉多発肝転移 例にHPAが, また 静脈 侵 襲陽 性例にLPAが有意(pくO.05)に多かった。肝転移巣ploidy ではploidyが高いほど肝転移巣最大径が大きかった(pくO.05)。

  5.臨床病理組織学的所見とc―erb B‑2発現

  同様の臨床病理学的因子とc―erbB‑2蛋白発現の有無との関係でtま,壁深達度と原発巣の蛋 白発現との間に有意な関係を認めた。すなわち壁深達度が高度になるとともに発現陽性率は上昇 し,癌浸潤が漿膜を越えると有意(pくO.05)に発現率が高かった。

  6,核DNA ploidyとC―erbB―2

  肝 転移 陰性 群 にお けるc‑erbB−2発 現陽 性 例の2例 は,いずれもHPAで,発現陰 性例の HPA出現率との間に有意差(pくO.05)を認めた。肝転移群でも,発現陰性群に比べ陽性群の HPA出現率は高かったが,有意差はなかった。

  7.累積生存率

  相対非治癒切除31例の生存率を前述の臨床病理学的因子から検討したが,肝転移個数因子での み有意差(pくO. 05を認めた。一方,原発巣のploidyからの検討では,LPA群が最も予後不 良でdiploid群,HPA群と の間に有意差(pくO.05)を認めた。さらに,肝転移巣では,dipl oid群 に 死亡 例は なく ,HPA群 ,LPA群の順に有意差(pく0.01)をもって予後不良 であっ た。cーerbB−2での検討では,原発巣および肝転移巣とも蛋白発現の有無で生存率に有意差を 認めなかった。

W考  察

  一般に固形 腫瘍の予後と,核DNA量との 関係は,染色体の量的異常を示すaneuploidyが予 後不良である とされている。しかし,核DNA量が独立した予後因子であるか否かにっいては 意見の一致を みておらず,大腸癌肝転移 の原発巣および肝転移巣両方の核DNA量を検討した 報告は極めて 少ない。

  今回DI値 の大 小 によ る核DNA ploidyから の解 析では,原発巣およ び肝転移巣ともLPA 群が最も予後 不良であった。特に,肝転 移巣核DNA量の検索は従来の臨床病理学的因子とは

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独立 した 予 後因 子と し て有 用で あ った 。

  一 方, 染 色体 の質 的 変化 とい う 面か ら癌 遺 伝子 に着目し,c‑erbB―2蛋白の 発現を検索した。

肝転 移群 の 発現 率は 高 く, 原発巣の増殖 ,進展,さらに肝 転移の成立に関与し ていることが示さ れた が, 予 後因 子と し ての 有用 性 は認 めら れ なか った 。

  今 回の 解 析の よう に 大腸 癌肝転移を予 知し,予後を推定 することは症例に応 じた治療法を選択 よ有 用な 情 報を 提供 し ,大 腸癌の治療成 績向上に寄与する と考える。しかし, 癌の転移には多く の 過 程 や , 要 因 が 存 在 し , 核DNA量 や 単 一 の 癌 遺伝 子 発現 だけ で は, 転移 成 立の 一局 面 を捉 えて いる に すぎ ない と 考え られ , 分子 レペ ル ,遺 伝子 レ ペル での さ らなる研 究が期待される。

学位論文審査の要旨

  大 腸癌 肝 転移 に対 し ,肉 眼的に病巣を 完全に切除し得ても ,早期に再発する ものがある。これ を 従 来 の 臨 床 病 理 学 的 所 見 か ら 推 定 す る に は 限 定が ある 。 そこ で申 請 者は ,腫 瘍 核DNA量の お よ びc―erbB―2癌 遺 伝 子 産 物 の 発 現 を 検 索 し , 予 後 因 子 と し て の 意 義 を 検 討 し た 。   対 象は 原 発巣 およ び 肝転 移巣 を もと に切 除 した 大腸癌肝転移44例 で比較対象として術 後5年以 上肝転移を認めて いない治癒切除大 腸癌45例を用いた。

  ま ず, ′ くラ フア ン 包理 ブ口 ッ クか ら連 続 する70umと3umの 切片 を切 り出し,前・昔 を核DNA 量 角 罕 析 用 , 後 者 をc―erbB―2蛋白 検索 用 の検 体と し た。 核DNA量はFlow cytometry(FCM) で測 定し た 。倹 体処 理 は, 脱パ ラ ・再 水和 過 程で 金属 メ ッシ ュ(150#)を用 いた機械的分散を 行い,O.5io pepsin(pH二 二1.5)で酵素処理(37℃,30分)後,propidium iodide(50,ug/ml) でDNA染色 し, 螢 光量 を測 定 した 。判 定 はDNA index(D.I) :1.0 diploidyとし ,1.0以外 はaneu ploidyと し た 。 複 数 のaneuploidy peakが認 めら れ る場 合Iま ,細 胞 数が 最多 のD.I と し , 検 体 間 で 異 な るD.Iは2c細 胞 に 対 す る 細 胞 教 比 が 最 大 の も の と し た 。   c一erbB―2単 発 発 現 は ,1次 抗 体 に 抗 ヒ トcーerbB一2ポ リク 口 ナル 抗体(Nichirei社 ,020 03) を用 い たABC法免 疫組 織 染色 で検 索 した 。判 定 は, 病巣 全 体の25% 以 上の 癌細 胞 膜ま たは

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純 和

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細 胞質 が 褐色 顆粒 状 に染 色さ れ た場 合を陽性と した。また,陽性 例で癌巣新鮮組織 が得られたも の に っ い て はEcoRIを 用 い たSouthern blot hybridization法 でc‑erbB―2遺 伝 子 が 増 幅 し ている ことを確認した。

  ま ず , 核DNA量 解 析 でD.Iの 分 布 は , 肝 転 移 陰 性 群 , 陽性 群 ともdiploidyの ほか に ,1.0 くD.I≦1.5のlow ploid aneuploidyくLPA)と1.5くD.Iのhigh ploid aneuploidyくHPA) の3峰性に分布し た。

  aneuploidyの出現 頻度は肝転移陰性 群53.3% ,肝転移群原発巣79.5%, 肝転移巣で86.4%で あ り 肝 転 移 群 の原 発巣 , 肝転 移と もaneuploidyが高 率に 認 めら れた 。 各群 にお け るaneuploid 例のD.Iに差は認められなかった。原発巣と肝転移巣のD.Iは正の相関(r二二二O.60,l)く0. 01) を 認 め た が , 原 発 巣 ― 肝 転 移 巣 間 でploidy patternの 解 離 を22.7% に 認 め た 。   次い で ,c一erbB―2蛋白発現陽性率 は,肝転移陰性群4.4%,肝 転移群原発巣で31.8リ6であつ た 。肝 転 移巣 では27.2%であり,肝転 移君羊の原発巣, 肝転移巣とも蛋白発 現陽性率が高率で あ1 た 。 一 方 , 蛋 白 発 現 の 有 無 ploidyの 間 に 有 意 な 関 係 は 認 め ら れ な か っ た 。   さ ら に , 肝 転 移 群 お い て 従 来 の 臨床 病 理学 的所 見 と核DNA量 との 関 係を 検討 し た。 原発 巣p loidyと 有意 な 関係 を認 め たの は, 肝 転移 時期 , 肝転 移度 ,静脈 侵襲の各因子であ った。肝転移 巣ploidyと有意な関係を認 めた因子は,肝転 移巣最大径のみで あった。

  同様 に 臨床 病理 学 的所 見とc−erbB−2蛋 白発 現と の 関係 を検 討 した 結果 , 有意 な関係を認め た のは , 壁深 達度 と 原発 巣蛋 白 発現 との 間 であ った 。 すな わち癌が腸管壁 を貫くs (a2)以上の 進行例 で有意に発現率が高 率であった。

  次 い で 核DNA量 お よ びc−erbB−2蛋 白 発 現 の 有 無 が , 予後 因 子と して 有 用で ある か 否か を 検 討す る ため ,臨 床 病理 学的 因 子で 相対 非 治癒 切断 例 の累 積生 存 率を 検討 し た結 果,有意差を 認 め た の は 肝 転 移 個 数 因 子 の み で あっ た 。一 方, 核DNA ploidyの検 討で は 原発 巣, 肝 転移 巣 と もLPA群 が 最も 予 後不 良で あ った 。特 に 肝転 移巣 で はdiploid群に 死 亡例 はな く ,I‑IPA群 , LPA群 の 順 に 有意 差 をも って 予 後不 良で あ った 。cーerbB―2で の 検討 では 蛋 白発 現の 有 無で 生 存率に 有意差を認めなかっ た。

  以 上 よ り , 予 後 か ら み た 生 物 学 的 悪 性 度 の 指 標 と し て 核DNA量解 析が 有 用で ある こ とが 示 さ れ , 特 に 肝 転 移 巣 核DNA量 は , よ り 従 来 の 臨 床 病 理 学 的因 子 と相 関を 認 めず ,大 腸 癌肝 転 移 切除 例 の予 後因 子 とし て有 用 であ った 。 一方 ,c−erbB−2蛋 白 発現 の検 索 は, 予後因子とし て の 有 用 性 は な い が , 大 腸 癌 肝 転 移 予 後 因 子 と し て 有 用 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。   審 査 に あ た って ,葛 巻 教授 よりc―erbB一2蛋 白発 現陽 性 判定 基準 ,Southern blot法 での 遺

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伝子増幅頻度にっいて,長嶋教授よりc‑erbB・―2蛋白発現と病理学的因子との関係にっいてな ど質疑があったが,申請者は慨ね妥当な回答を行った。

  癌の転移成立には様々の要因や過程が存在し解明されなければならない問題が多いが,大腸癌 肝転移の原発巣およ び肝転移巣両者にっいて,核DNA量および癌遺伝子という染色体の量的 変化と質的変化の両面から検討した報告は極めて少なく,本研究は大腸癌の肝転移を予知し,予 後を 推 定す るこ との 可能 性を示した点で意義があり, 学位授与に値するものと考 える。

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