研 究 課 題 番 号 :
1 7 5 3 0 6 3 1
2 0 0 8 (
平 成
20)
年
3
月
く
は
じ
が
き
〉
本報告書は、平成
17
年
度
" " '
19
年 度 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 研 究
(C
)
I
ゲーミング・シミュレー
シ ョ ン 教 材 『 地 球 環 境 サ ミ ッ ト 』 の 開 発 と 実 践 j
の研究報告をまとめたものである。
研 究 組 織
研 究 代 表 者 :
井 門 正 美 (
秋 田 大 学 教 育 文 化 学 部 教 授 )
交付決定額(
配分額)
(
金額単位:
円)
直接経費
間接経費
合 計
平 成
17
年 度
1
,
1
0
0
,
0
0
0
。
1
.
1
0
0. 0 0
0
平 成
18
年 度
1
,
3 0 0
,
0 0 0
。
1
,
3
0
0
,
0
0
0
平成
19
年 度
1
,
1 0 0
,
0 0 0
3 3 0
,
0 0 0
1
,
4 3
0
,
0
0
0
I
長 │ 、J/QI
、
A0
8
0
は じ め に
0
8
0
本 報 告 書 「 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 『 地 球 環 境 サ ミ ッ ト
J
の開発と実践」は、
QW
セQY
HcI
筆者が、この教材の作成を構想したのは、
1992
年にブラジノレのリオデジャネイロで開催
さ れ た 「 環 境 と 開 発 に 関 す る 国 際 会 議 (
環 境 サ ミ ッ ト
)J
の頃である
O本論で紹介する
ir
コ
モ ン ズ の 悲 劇 』 か ら 環 境 教 育 へ 一 社 会 科 に お け る 環 境 教 育 の 方 向 性
J
( 1
9
9
3
. 3
)
で 、 当 時
の 環 境 問 題 の 捉 え 方 と 環 境 教 育 の 在 り 方 に つ い て 論 述 し た 。 ガ レ ッ ト ・ ハ ー デ ィ ン の 論 文
i TH
E T RAGE DY OF C OM
M
ONS
(
コモンズの悲劇
)J
( 1968
年 )
の 「 コ モ ン ズ j
もしくは
そ の 悲 劇 を 、 わ れ わ れ を 取 り 巻 く 環 境 、 あ る い は 環 境 問 題 を ミ ク ロ 的 に も マ ク ロ 的 に も 把 握
しうる思考モデノレとして環境教育で活用するための方法論を筆者は提示した。
こ の 時 期 、 筆 者 は 、 地 球 サ ミ ッ ト で ス ロ ー ガ ン と な っ た 「 持 続 可 能 な 発 展
J
という言葉の
意 味 、 す な わ ち 、 開 発 と 環 境 保 全 ・ 保 護 の せ め ぎ 合 い を ど う 調 整 す る の か に 関 心 を 寄 せ た
が 、 こ こ で モ チ ー フ と し て 浮 か ん だ の が 「 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 『 地 球 環 境 サ
ミット
JJ
で あ っ た 。 本 教 材 の 環 境 教 育 に お け る 意 味 づ け や 教 材 と し て の 意 義 に つ い て は 本
文 で 詳 述 す る が 、 こ の モ チ ー フ が 十 数 年 の 時 を 経 て 教 材 と し て 完 成 し た の で あ る 。
筆 者 は 、 こ れ ま で に
i SI MT OWN
【
井
角
町
】
J
( 1990
年)
、「ゲーミング・シミュレーショ
ン 教 材 『 学 校
J J
(
平
成
12- 13
年 度 科 研 費 )
、 「 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 『 市 町 村
合 併
J J
(
平
成
14- 15
年 度 科 研 費 )
、 「 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 『 道 州 制
JJ
( 2006
年 )
を 開 発 し て い る が 、 今 回 の 「 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 『 地 球 環 境 サ ミ ッ ト
JJ
も、こうした研究実践の蓄積の上に成り立っている。いずれも「知識と行為の統一的な学習
J
に よる「社会的実践力の育成 j
をめざした研究実践である。
.本 報 告 書 が 多 く の 方 々 の 目 に 触 れ 、 こ こ で 提 案 す る 教 材 や そ の 教 授 学 習 理 論 を ご 活 用 い た
だ くと共に、ご批判・ご教示をいただければ幸いで、ある。
目 次
はじめに
I
理 論 編
1
.
問 題 の 所 在
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
一
. . . 一
一
一
.
2
2.
地 球 環 境 問 題 の
4
つ の タ イ プ
・
一
. . . …
・
・
・
・
…
…
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
一
一
.
3
3
環 境 問 題 の
4
つ の タ イ プ に 基 づ く 環 境 教 育 の 内 容 構 成 … … … …
5
4.
環 境 問 題 の 授 業 化 の 観 点 … … … …
7
5.
役
割
体
験
学
習
論
…
…
. . . .
11
6.
ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 「 地 球 環 境 サ ミ ッ ト
J
の
実 践 の た め の 理 論
・
・
・
ー
・
・
・
・
…
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
…
一
一
一
. . . 一
一
一
. . . …
・
・
一
一
一
一
.
12
H
実 践 編
•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
1 7
1
.
ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 「 地 球 環 境 サ ミ ッ ト
j
の概要一.
1 8
2.
実 践 の た め の 準 備 … … … …
2 2
3.
ゲーミング・シミュレーション教材「地球環境サミット
j
実践の様子…
31
4.
参 加 者 の 感 想 ・ 意 見 … … … …
4 4
皿 教 材 編
. . . 5
9
o
.
ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 「 地 球 環 境 サ ミ ッ 卜
j
の概要
. . . 60
1
.
シナリオ集
一
. . . 一
一
・
・
…
一
一
一
・
・
…
一
一
…
・
・
・
・
…
・
・
一
一
. . . 一
一
. . . 一
一
一
・
・
・
…
. . . .
61
1
.
全 体 シ ナ リ オ
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
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…
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…
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…
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・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
…
・
…
. . . 62
2.
地 域 ・ グ ル ー プ シ ナ リ オ
・
・
・
・
・
・
一
一
一
- 一
一
・
・
・
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・
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…
・
・
・
・
…
・
・
・
・
…
・
・
・
・
・
・
・
・
…
. . . 68
2.
プロファイル集
・
・
・
・
・
・
・
ー
…
・
・
一
一
. . . 一
一
. . . 一
一
・
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…
・
…
・
・
…
・
・
・
・
・
・
・
・
…
・
・
・
75
(
1 )
ア
ン
ブ
レ
ラ
グ
〉
レ
ー
プ
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
一
一
- 一
一
. . . 76
( 2) EU グ ル ー プ
・
・
・
・
・
・
・
. . . 一
. . 一
一
・
・
…
…
・
・
・
一
一
一
・
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・
・
・
・
・
・
・
・
…
・
・
・
・
…
・
・
・
・
…
. . . 93
(3
) 環 境 十 全 性 グ ル ー プ … … … …
1 1 9
( 4) G77 と中国
. . . 一
一
一
一
- 一
一
・
・
・
・
・
・
・
…
・
…
・
・
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・
…
…
・
・
…
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
一
一
.
1 2 7
O P E C と
中
国
・
イ
ン
ド
・
フ
ラ
ジ
ル
・
・
・
一
一
・
・
…一
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
一
一
- 一
一
一
一
- 一
一
.
1 2 8
小島嶋田… … ・… … … 一… … … …
143
最 貧 困
一
一
一
. . . …
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
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・
・
・
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・
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・
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・
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・
・
・
・
・
一
一
.
151
1
.
問題の所在
ゲーミング・シミュレーション教材「地球環境サミット
j
を構想し始めたのは、
1992
年 の 環 境 開 発
会 議 の 頃 で あ っ た 。 筆 者 自 身 は 環 境 教 育 を 行 っ て い る 立 場 か ら 、 当 時 の 環 境 教 育 の 問 題 に つ い て 、 問
題提起とその解決方法を提示したことに始まる 本
1 0すなわち、地球環境問題に 警 鐘 が 鳴 ら さ れ 国 際 的 な 協 力 体 制 と 具 体 的 な 行 動 が 各 国 に 求 め ら れ て い
る 当 時 の 状 況 に お い て 、 わ が 国 で も 環 境 教 育 が 重 視 さ れ 、 学 校 の 教 育 活 動 全 体 を 通 し た 環 境 教 育 実 践
が 盛 ん に な さ れ て お り 、 総 合 的 に 環 境 教 育 を 展 開 す る 教 科 と し て 環 境 科 も 実 験 的 に 実 施 さ れ て い た 。
しかし、その実践を考察すると、環境問題を心がけや環境美化・自然愛護運動のレベノレだけで推進す
るような実践、ネイチャー・ゲームに代表されるような自然に親しむミクロレベノレな実践がある一方
で、オゾン層の破壊、地球温暖化、熱帯雨林の減少等マクロレベノレでの問題提示のみに終始する実践
も多く、環境問題の授業化をめぐっては問題点が数多く残されている状況があった
* 20どのような環
境 問 題 を 取 り 上 げ 、 い か な る 方 法 に よ り 学 習 さ せ る の か 、 学 習 者 の 主 体 的 な 活 動 を ど の よ う に 促 す の
か、その基本的なコンセンサスが得られていないのが当時の状況であった。
そ こ で 筆 者 は 、 こ う し た 問 題 状 況 を 解 決 す る た め に は 、 学 習 者 に と っ て は 身 近 な 題 材 を 取 り 上 げ た
比較的ミクロな実践と地球全体のグローパノレな問題とを統一していくことが必要で、あることを指摘し
た 。 今 日 よ り も 自 然 に 恵 ま れ 親 し ん で き た は ず の 過 去 の 人 々 が 環 境 問 題 を 引 き 起 こ し た こ と を 踏 ま え
る な ら ば 、 例 え ば 、 ネ イ チ ャ ー ゲ ー ム の よ う に 自 然 に 親 し む 学 習 だ け で は 環 境 問 題 を 解 決 し う る 資 質
を 育 成 で き な い の で あ る 。 意 識 的 ・ 無 意 識 的 に 関 わ ら ず 地 球 上 の 人 々 の 織 り な す 様 々 な 活 動 に よ り 引
き 起 こ さ れ て い る 環 境 問 題 、 す な わ ち 社 会 の 仕 組 み と し て の 環 境 問 題 を 学 習 さ せ る こ と が 一 層 重 要 で
ある。すなわち、総合的と言われる環境教育はこうした環境問題の構造的側面を扱うことなく、焦点、
が暖昧な学習を展開している場合が多いが*
3、総合化の方法論もなく行う総合学習よりも、各教科と
道徳、特別活動の領域がそれぞれの特殊性を発揮した環境教育を展開することがまず先決だと考える。
特 に 社 会 科 教 育 に お い て は 、 環 境 問 題 の 構 造 的 側 面 を 明 ら か に す る 学 習 を 展 開 す る こ と が 責 務 で あ る
と指摘した。
そ の 上 で 、 筆 者 は 、 こ の よ う な 問 題 点 を 解 決 す る 具 体 的 を 方 策 と し て 、 ま ず 、 環 境 問 題 を そ の 特 色
か
ら
4
つ の タ イ プ の 提 示 す る と 共 に こ の タ イ プ に 対 応 し た 環 境 教 育 の 内 容 構 成 に つ い て 事 例 を 提 示 し
た 。 次 に 、 今 日 の 環 境 教 育 に と っ て 求 め ら れ 必 要 と さ れ る 三 つ の 観 点 と し て 、 複 数 視 点 の 投 入 、 モ デ
ノレの導入、グローパノレ・コネクションの活用を提示している。
実 は 上 述 し た よ う な 問 題 提 起 と そ れ た め の 解 決 策 の 提 案 を 具 現 化 し た も の が 、 今 回 の ゲ ー ミング
・
シミュレ ー ション教材「地球環境サミッ
ト
j
で 、 後 述 す る 環 境 問 題 の タ イ プ
4
r
地 球 環 境 型 」 の 問 題
を議論するための環境教育教材として開発したものである。
-2.
地球環境問題の
4
つのタイプ
では、まず、筆者が環境問題をどのように類型化したのか、紹介したい。
一 言 で
「
環 境 問 題 」 と 言 う が 、 前 述 し た よ う に 、 ご み 問 題 の よ う な 身 近 な 問 題 か ら 、 オ ゾ ン 層 破 壊
の よ う な 地 球 規 模 の 問 題 に 至 る ま で 多 種 多 様 な 環 境 問 題 が 存 在 す る 。 こ う し た 広 が り の あ る 問 題 群 を
環 境 教 育 の 題 材 と し て 取 り 上 げ よ う と す る な ら ば 、 そ れ は 無 数 に 取 り 上 げ な け れ ば な ら な い こ と に な
る 。 こ れ ま で の 環 境 教 育 で は 、 正 に 、 こ の 無 数 に あ る 問 題 を 実 践 者 の 関 心 や 問 題 意 識 に よ っ て 個 々 ば
ら ば ら に 取 り 上 げ て き た 感 が あ る 。 そ の 結 果 と し て 、 個 々 人 の 生 活 態 度 に 帰 着 す る 態 度 主 義 的 傾 向 の
強 い 実 践 と 、 生 活 主 体 を 抜 き に し た マ ク ロ 的 な 問 題 状 況 の み を 提 示 す る 実 践 と が 多 く 見 ら れ る よ う に
な っ た の で あ る 。 ま た 、 こ う し た 実 践 へ の 批 判 か ら 、 ご み 問 題 の よ う に 学 習 主 体 が 問 題 に 対 し て 直 接
的に関わりその解決方法を考えて実行できるような教材による実践もなされるようになった。
しかし、筆者は、環境問題を実践者としての関心や学習の観点、から題材として取り上げる前に行わ
な け れ ば な ら な い 手 続 き が あ る と 考 え る 。 す な わ ち そ れ は 、 環 境 問 題 を タ イ プ 化 す る と い う 手 続 き で
あ る 。 こ の 手 続 き に よ り 、 教 育 と し て 取 り 上 げ る べ き 題 材 選 択 の 基 準 を 得 る こ と が で き 、 あ る 事 象 や
事柄を
「
環 境 問 題
J
として無制限に取り上げる可能性を制約し、環境教育において最小限度押えるべ
き内容が確認できる。
海 野 道 郎 は 、 環 境 破 壊 の 社 会 的 メ カ ニ ズ ム か ら 環 境 問 題 を
I
1
.
工場公害
J
I
I
I
.
生活公害
J
II
I
I
.
大
規 模 開 発 問 題
J
IIV
.
地 球 環 境 問 題
j
の
4
つの類型に分類している
* 4。第
I
類 型 に は 足 尾 鉱 毒 事 件 や 四
大 公 害 な ど が 該 当 す る 。 こ の 類 型 は 、 環 境 破 壊 を 起 こ す 当 事 者 (
原 因 者 )
が 特 定 企 業 の 場 合 (
1
A )
と 複 数 企 業 の 場 合 (
1
B)
と に 分 け ら れ る 。 前 者 は 、 さ ら に 、 原 因 者 が 特 定 し や す い 場 合 (
1
A . α )
と そ の 特 定 が 困 難 な 場 合 (
1
A
.
s )
とに細分化されている。第
2
類型には生活活動から生じる大気汚
染 や 騒 音 、 水 質 汚 濁 な ど の 環 境 破 壊 が 該 当 す る 。 不 特 定 多 数 の 人 々 の 諸 活 動 に よ り 環 境 破 壊 が も た ら
され、その被害を受けるのもこれらの人々である。この類型は、さらに、自動車走行のように行為自
体 が 汚 染 を も た ら す よ う な 汚 染 源 が 直 接 的 な 場 合
( II
A )
と、ごみ処理のように行為後の処理過程が
汚 染 を も た ら す よ う な 間 接 的 な 場 合
( II
B)
とに分けられる。第
3
類 型 に は 、 空 港 、 新 幹 線 、 原 子 力
発 電所 等 の 建 設 に 伴 う 環 境 破 壊 が 該 当 す る 。 国 家 や 地 方 公 共 団 体 な ど が 建 設 主 体 と な る 場 合 が 多 く 、
建 設 をめぐって地域住民との聞に対立が生じることも多い。第
4
類型にはオゾン層破壊、地球温暖化、
酸性 雨 な ど の 環 境 破 壊 が 該 当 す る 。 原 因 者 は 地 球 上 の 人 々 や 工 場 で あ り 、 被 害 者 も 地 球 上 の 人 々 で あ
る。 し か し 、 こ の 種 の 問 題 は 、 南 北 問 題 の 構 造 に よ っ て 発 生 す る 場 合 も 多 く 特 定 地 域 に 被 害 が 現 れ る
ケースも少なくない。さらに、この類型は認知可能性が低いもの(
I
V A )
と高いもの(
l
V B )
に分け
られる。前者は、科学者による問題の指摘やマスコミによる報道により認知可能となる。
これらの類型は身近な問題からグローパルな問題までを包括し、しかも、類型の提示順序は発生(
社
会 的 認 知 )
の 歴 史 的 順 序 を 表 現 し て い る 。 こ う し た 社 会 的'メ カ ニ ズ ム か ら の 類 型 化 は 社 会 科 の 環 境 教
育 の 内 容 を 編 成 す る 基 準 と し て 有 用 で あ る 。 し か し 、 海 野 は こ の 類 型 化 に つ い て
「
加害者と被害者と
の関 係
J
I
環 境 破 壊 の 歴 史 性
j
という観点から行ったとしているが、その観点、についての説明はなさ
れ ていない。また、各類型の細分化についても各々分類の観点が異なっており統一性が保たれている
訳 で は な い 。 社 会 科 に お け る 環 境 問 題 の 選 択 基 準 や 環 境 教 育 の 内 容 構 成 の た め の 基 準 と す る に は 分 類
の観点を明確にする必要がある。
を基準にしているが、環境問題の
4
つ の タ イ プ の 名 称 を 変 更 し て い る 点 と そ れ ぞ れ の タ イ プ に つ い て
3
つ の 観 点 か ら そ の 特 色 を 説 明 し て い る 点 で異 なっている。まず、名称の変更についてであるが、こ
れ は 環 境 教 育 で 一 般 化 し て い る 用 語 に 置 き換えた 。 しかし、特に「産 業 公 害 型
J
I
開発型
j
について
は問題の射程範囲を拡張している 。 すなわち、「産 業公 害 型」は、「工場公 害 」 が 原 因 者 を 工 場 に 限 定
しているのに対して「産業」とすることで企業活 動 に よ る 問 題 を よ り 広 範 に 捉 え よ う と し て い る 。 こ
うすることで、今日の新しいタイプの公 害 も考察 対 象 に入れることができる 。 「開発型」は、「大規模
開発問題
J
では対象外となる中規模や小規模の開発問 題 も範時に入れるために変更した。
次に、各タイプを分類する観点、として 筆 者は
3
つ の 観 点 を 提 示 し た 。 まず、「問題とされる 害
( ア
ウ トプット ) J
は 、 環 境 問 題 を 認 知 す る に は ど の よ う な 行 為 者 に よ る い か な る ア ウ ト プ ッ ト を 害 と
し
ているのかという点を明確にするために 設 定 し た 。 こ の 行 為 者 と害 の特色が類 型化の第
1
の
観
点
、
で
あ
る。 次に、「加 害者(
原因 者 )
と 被害者 (
問 題 提 起 者
)J
は、問題とされる 害 に伴う加 害 と被害の特定
である 。 まず、問題を提起する者が登 場 し 、 問 題 の 社 会 的 認 知 や 被害 や加 害 の認定が行われて、加 害
者 と被害者とが明確になる 。 しかし、問題の提起及び被害
・
加 害 の認定に関しては「受益と 受 苦 の重
なり及び分離
j
が重 要 なファクターとなるので小項目として設定した 。 これは、梶田孝道の「 受益 圏
と受苦圏
j
の議 論 *
5を踏まえたものである 。 これらが 類 型化の 第
2
の観点、である 。 最後に、「問題の
背景 」は、問題を発生させている 要 因を特定するものである 。 小 項 目 「 政策
・
価 値
j
は、問題を特色
の あ る も の と し た 政策 及び価値観を示し、また、「構造
・
要因」は、
4
つ の タ イ プ の 問 題 の 基 底 部 分
を示すものである。
表
1
環 境 問題の
4
つの タイプとその特色
k
三
:
①問題とされる ②加害者( 原因者〉と被害者( 問題提起者) ③問題の背景
害( 了ウトアヲト)
加害者 被害者 受益と受苦の重なり及び分離 政策・価値 構造・要因
( 原因者)
I
( 提起者)歩
産業公害型 生産活動・生産 工場・企 地域住民 地域住民や利用者・使用者は受益を被って 殖産興業政 @ 市場経済のメカ
物に伴う害 業 - 利用者 いる場合はあるが、受苦を重視する場合は 策・経済成 ニズム
- 使用者 被害者となる。地域に住む工場労働者は被 長政策・手JI - 私的利益の追求
害者として訴えにくい立場にある 。 潤第一主義 - 外部不経済
- 社会的損失
都市・生活型 生活における諸 重複している。加害 加害者 と被害者、 受益と受苦の詳細な関連 大量生産・ - 社会的不公正
活動に伴う害 被害の連鎖が複雑 は把握し難い 。受益者と受苦者は基本的に 大量消費・ - 制御不能
同一主体として捉えられる 。 利便性第一
主義 @ 自然・生態学的
視点、の欠落
開発型 開発に伴う害及 国・自治 地域住民 公共の福祉や全体の利益が優先され開発が 国土開発に -自浄作用の限界
び予測される害 体・企業 なされる 。大規模開発では受益者は国全体 関する政策 - 資源の限界
に拡散し、受苦者は特定地域に凝縮してい など - 連鎖・循環の無
る場合が多 い。 また、小規模開発では同一 視
地域内における受益者と受苦者の対立とい - 人口増加
う場合が多い。
@ 医学・保健衛生
地球環境型 人間 の生活にお 重複 してい る。加害 加害者と被難害者、受益と受苦の詳細な関連 経済発展政 的視点の 欠落
ける諸活動に伴 被害の連鎖が複雑。 は把握し い。 受益者と受苦者は基本的に 策・開発・
う害。国外への 国外への害の移転は 同一主体として捉えられる 。受益 者 は先進 人 口増加 @ 科学技 術の限界
害の移転 開発途上国が被害者 国及び受苦者は開発途上国という形になる
が開発途上 国は発展のために受益を 重視す るケー スが多い 。
-3.
環境問題の
4
つのタイプに基づく環境教育の内容構成
環境問題の
4
つ の タ イ プ に 基 づ き 、 社 会 科 教 育 に お け る 環 境 問 題 の 内 容 構 成 に つ い て 事 例 を 交 え な
がら述べたい。
(1
)
産業公害型の内容構成
産 業 公 害 型 の 環 境 問 題 は 、 歴 史 に お い て 最 も 早 く 社 会 的 に 認 知 さ れ た も の で あ る 。 産 業 革 命 期 に お
け る 一 連 の 公 害 は こ の タ イ プ に 該 当 す る も の で あ り 、 ま た 、 わ が 国 に お け る 高 度 経 済 成 長 期 に お け る
公 害 も こ れ に 該 当 す る 。 さ ら に 、 今 日 の 開 発 途 上 国 に お い て 発 生 し て い る 公 害 も こ の タ イ プ の も の が
多
い
。
社 会 科 教 育 に お い て は 、 こ の タ イ プ の 環 境 問 題 は 歴 史 的 分 野 に お け る イ ギ リ ス の 産 業 革 命 や 明 治 時
代 の 殖 産 興 業 (
足 尾 鉱 毒 事 件 )
な ど で 取 り 扱 っ て き た が 、 環 境 問 題 を 焦 点 化 し て 扱 う 場 合 に は 、 公 民
的分野における四大公害裁判で取り扱うことが多い。四大公害は、わが国における
1960
年 代 の 高 度 経
済 成 長 に 伴 っ て 発 生 し た も の で あ り 、 こ れ ら の 公 害 を 取 り 扱 う 授 業 は 「 公 害 教 育 (
学 習 ) J
と呼ばれ
盛 ん に 実 践 さ れ た 。 公 害 教 育 は 、 加 害 者 で あ る 工 場 と 被 害 者 で あ る 住 民 が 比 較 的 明 確 に 区 分 で き る こ
とから、その内容構成は「原因追求型j
や「企業告発型j
となっていた
* 60し
か
し
、
1970
年 代 半 ば に な る と 、 公 害 問 題 が 表 面 的 に 沈 静 化 し 、 ま た 人 々 の 環 境 保 護 運 動 へ の 関 心
の高まりに伴い、公害教育はよりグローパノレに環境問題を捉えようとする環境教育へ移行した。公害
教 育 か ら 環 境 教 育 へ の 移 行 は 、 告 発 型 か ら 自 省 型 へ 、 ミ ク ロ か ら マ ク ロ へ と 視 点 が 移 動 し 視 野 が 拡 大
し た 点 で 進 歩 し た と 評 価 で き る 。 だ が 、 そ れ 以 降 、 冒 頭 で も 指 摘 し た よ う な 環 境 問 題 を 個 人 の 心 掛 け
や 行 い に 帰 着 さ せ る 実 践 や マ ク ロ な 問 題 状 況 の 提 示 だ け に 止 ま る 実 践 が 多 く な っ た と い う 点 で は 内 容
構成に大きな問題が残されたのである。今日、産業公害型の問題では、
「
食品公害」に見られるよう
に産物や製品による公害が先進諸外国では重要な環境問題として社会的に認知されているが、このよ
うな「生産物公害
j
とも言える環境問題を見逃すことはできない。
(2
)
都 市
・
生活型 の内容構成
都 市
・
生 活 型 は 人 々 の 生 活 の 中 か ら 発 生 す る 廃 棄 物 (
例 え ば 、 洗 剤 に よ る 水 質 汚 濁 )
な ど に よ る 環
境 破 壊 で あ る 。 人 間 の 治 癒 力 や 自 然
・
生 態 系 の 白 浄 能 力 の 限 度 内 で あ る な ら ば 環 境 破 壊 は 問 題 と さ れ
ないであろうし、社会的に認知しがたいであろう。また、科学技術力による人工的な処理能力によっ
て も 環 境 破 壊 は 押 え ら れ よ う 。 し か し 、 今 日 の 人 間 の 諸 活 動 に よ る 廃 棄 物 は 自 然
・
生態系の自浄能力
の 限 度 を 超 え る も の で あ り 、 し か も 、 人 工 的 な 処 理 能 力 に つ い て も こ れ は あ る 観 点 か ら の 処 理 能 力 で
あるから、こうした処理能力を過信することはできない。例えば、リサイクノレによる資源ごみの活用
も そ の 処 理 過 程 に お い て 意 図 せ ざ る 結 果 を 招 き 、 新 た な 有 害 物 質 を 発 生 す る こ と も 起 こ っ て い る の で
あ
る
。
残 し て は い る も の の 、 開 発 側 と 住 民 側 と の 双 方 の 主 張 を 取 り 上 げ た り 地 域 の 環 境 づ く り や 環 境 保 全 と
いった観点から授業が組み立てられている泳
80都市・生活型の実践は、今日でも数多く実践されている。都市・生活公害の現状を教える授業より
も、水質検査や大気汚染の検査など生活公害の実態を調べたり、環境保全や資源の有効利用・リサイ
クノレという観点、から授業化する傾向になっている。学習者自身の力により環境破壊をくい止めようと
す る 態 度 の 育 成 は 歓 迎 す べ き で あ る 。 し か し 、 こ の 面 ば か り を 強 調 し す ぎ る と 構 造 的 な 環 境 問 題 を 見
逃すことにもなりかねない。
(3
)
開発型の内容構成
開発型の環境問題は、国家、地方公共団体や企業による開発に伴って発生する問題である。例えば、
空港、新幹線、高速道路、原子力発電所、リゾート開発などが該当する。開発型はその開発規模により、
大規模型や中規模型、小規模型等に細分化することができょう。大規模型になれば、「開発にともなっ
て広範囲にわたる国民が希薄化された利益を享受する一方で、、一部の地域住民には致命的ともいえる
犠牲が及んで、いるj
*
9と 言 わ れ る タ イ プ の 問 題 に な る 。 基 本 的 に は 、 全 国 に 拡 散 し た 受 益 者 の 利 益 を
代 表 す る 集 約 的 代 弁 者 (
テ ク ノ ク ラ ー ト )
と 建 設 地 域 住 民 と が 対 立 す る と い う 構 造 に な る が 、 新 潟 県
巻 町 の 原 発 開 発 に 伴 う 住 民 間 の 意 見 の 相 違
・対立のように、大規模 型 で も 複 雑 な 対 立 の 構 図 と な っ て
い る 。 小 規 模 型 の 開 発 問 題 で は 、 同 一 地 域 の 受 益 者 と 受 苦 者 と が 対 立 す る 構 造 を も っ と い う こ と に な
る
。
社 会 科 教 育 に お い て こ の タ イ プ に 該 当 す る 環 境 問 題 は 、 国 家 や 地 方 公 共 団 体 が 開 発 主 体 も し く は 開
発 側 に 位 置 す る た め に 、 ま た 、 地 域 あ る い は 職 業 に よ る 対 立 を 苧 ん で い る た め に 、 教 師 に と っ て は 授
業 化 し に く い タ イ プ で あ っ た 。 し か し 、 す で に 帰 結 し 決 着 の つ い た 過 去 の 問 題 や 当 該 紛 争 地 に お い て
地域住民の大多数が受苦者である場合には授業化は比較的しやすい。また、今日では、デ、イベートと
い う 学 習 方 法 を 用 い る こ と に よ っ て 賛 否 両 論 を 闘 わ せ こ の タ イ プ の 学 習 を 授 業 化 す る こ と が 可 能 に
な っ て い る 。 例 え ば 、 原 子 力 発 電 に つ い て 「 原 発 を 廃 止 す べ き で あ る 」 と い っ た 論 題 を 設 定 し 、 資 源
エネルギー問題と 環境問題とを学習者に議論させるような実践がなされている。
(4
)
地球環境型の内容構成
地球環境型のタイプに該当する環境問題は、オゾン層の破壊、地球温暖化、酸性雨、砂漠化、海洋汚染、
野性生物種の減少、熱帯雨林の減少、有害廃棄物の越境移動、開発途上国における環境問題が該当する。
これらの問題は、
1960
年代頃から現象面として問題視され、
1970
年 代 に 至 る と 市 場 シ ス テ ム と の 関
連として問題がクローズアップされてきたキ
100このような問題は国家レベノレの対応で、は解決で、きない
マ ク ロ 問 題 で 、 し か も 、 様 々 な 要 因 が 複 合 的 に 絡 み 合 っ て い る と い う 特 色 を も っ
Oしかし、市場シス
テ ム が 生 み 出 し て い る 問 題 と い う 特 色 か ら す れ ば 特 に 先 進 諸 国 の 責 任 は 重 い 。 例 え ば 、 ア ロ ン ガ ス の
大 量 使 用 に よ る オ ゾ ン 層 の 破 壊 、 商 業 伐 採 に よ る 熱 帯 雨 林 の 減 少 、 公 害 ・ 環 境 規 制 の 弱 い 国 へ の 有 害
、
廃棄物の移動などは、豊かで、力の強い先進諸国の責任が問われる問題である。
社 会 科 教 育 に お い て は 、 こ の タ イ プ に 該 当 す る マ ク ロ な 問 題 は 非 常 に 多 く 授 業 化 さ れ て き た 。 し か
し、問題状況の提示や授業スタイノレが知識伝達型になりがちで、しかも、問題が地球規模であるだけ
に そ の 解 決 策 に つ い て も 学 習 者 の 手 に は 負 え な い こ と が 多 い た め 、 す で に 紹 介 し た よ う な 授 業 化 の 問
題点が指摘された。しかし、地球環境型の環境問題も教育方法の工夫により従来の授業を改善できる。
例えば、コンピュータ・ゲーム「バランス・オプ・プラネット」により地球環境問題を授業化したり、ディ
ベートにより
O D A と 熱 帯 雨 林 の 減 少 と の 関 連 を 授 業 化 し た も の な ど が あ る
* 1 1 0前 者 で は 、 学 習 者 が
国連高等弁務官になって税金と補助金を使って地球環境問題の解決を図る学習を成立させ、後者では、
「 熱 帯 雨 林 の 伐 採 を 中 止 す べ き で あ る 」 と い う 論 題 に 対 し て 否 定 側 日 本 商 社 員 、 肯 定 側 マ レ ー シ ア の
プ ナ ン 族 と い う 役 割 を 設 定 し て 環 境 問 題 を 議 論 さ せ て い る 。 い ず れ も 、 役 割 演 技 を 取 り 入 れ る こ と に
より、教育内容に対して学習者の参加を促そうとする試みである。
こ れ ま で の 実 践 で は 、 上 述 し た 提 示 順 で 述 べ る な ら ば 、 オ ゾ ン 層 の 破 壊 か ら 海 洋 汚 染 ま で は よ く 取
り 扱 わ れ て い る が 、 野 性 生 物 種 の 減 少 、 有 害 廃 棄 物 の 越 境 移 動 、 開 発 途 上 国 に お け る 環 境 問 題 は 比 較
的少ない。
4.
環境問題の授業化の観点
以 上 、 環 境 問 題 の 各 タ イ プ ご と の 内 容 構 成 に つ い て 述 べ た 。 内 容 構 成 で 重 要 な こ と は 、 そ れ ぞ れ の
問 題 の 構 造 を し っ か り 捉 え る こ と 、 し か も 、 そ の 問 題 の 特 色 と 授 業 実 践 地 域 や 学 習 者 の 実 態 と を 照 ら
し 合 せ て 授 業 化 す べ き 方 法 を 検 討 す る こ と で あ る 。 各 タ イ プ ご と の こ れ ま で の 内 容 構 成 や 実 践 の 問 題
点、をまとめると以下の通りである。
① 産 業 公 害 型 に つ い て は 、 こ の タ イ プ の 問 題 を 過 去 の 問 題 と し て 捉 え が ち で あ る こ と 。 ま た 、 食 品
公害のような生産物公害の授業化が少ないこと。
② 都 市
・
生 活 型 に つ い て は 、 実 践 が 多 く な さ れ て い る も の の 現 象 面 の 調 査 や 個 人 的 努 力 の み が 焦 点
化され、構造的側面が見失われやすいこと。
③ 開 発 型 に つ い て は 、 開 発 側 が 国 や 地 方 公 共 団 体 で あ る こ と が 多 く 、 し か も 、 地 域 に お け る 住 民 の
対立を含む紛争問題であるために授業化しにくいこと。
④ 地 球 環 境 型 に つ い て は 、 活 動 主 体 が 見 え な い 現 象 面 の 提 示 に 止 ま る 実 践 や 南 北 問 題 の 構 造 を 背 景
にもつ環境問題の取り扱いが少ないこと。
これらの環境問題の授業化をめぐる問題 点を踏まえ、以下、 社 会 科 教 育 に お け る 環 境 問 題 の 授 業 化
の観点を提示する。
(
1
) 複
数視 点 の 投 入
環 境問題をいかなる視点、から捉えるかにより問題の形成もしくは内容構成は異なる。例えば、明治
期 の 殖 産 興 業 を 欧 化 政 策 に 位 置 付 け 授 業 化 す る の は 為 政 者 の 視 点 で あ り 、 逆 に 、 殖 産 興 業 に 足 尾 鉱 毒
事件 を 関 連 さ せ て 授 業 化 す る の は 被 害 者 の 視 点 で あ る 。 こ れ は 産 業 公 害 型 の 事 例 で あ る が 、 都 市 生 活
型 や開発型などにおいても、いかなる視点から授業化を図るかによってその内容構成は大きく異なる。
開発 型 の 問 題 は 、 対 立 す る い く つ か の 立 場 に よ る 紛 争 問 題 で あ る か ら 、 四 大 公 害 の よ う に 被 害 者 の 立
場 に立った告発型のスタイノレをとることは難しい。こうした問題に対しては 、視点を 複数投入して内
容 を構成することが望ましい。教育方法としてのデ、
イベ ートは、そうした内 容構成を可能にするもの
で あ る か ら 、 今 日 、 多 く の 教 師 に よ り 活 用 さ れ て い る 方 法 な の で あ る 。 教 師 は 、 い か な る 視 点 か ら 内
容を 構成していくのか留意すべきである。
改変に関わる考え方を「自然環境主義
J
r
近 代 技 術 主 義
J
r
生 活 環 境 主 義
j
の三つに大きく分けている。
第 一 の 「 自 然 環 境 主 義
J
は 、 自 然 生 態 学 の 論 理 に も と づ く 立 場 で 、 「 人 の 手 の 加 わ ら な い 自 然
j
にポ
イ ン ト を お き 、 第 二 の 「 近 代 技 術 主 義 」 は 、 自 然 に 手 を 加 え 開 発 を 推 進 す る 立 場 で 「 近 代 技 術
j
にポ
イ ン ト を お く 。 鳥 越 に よ れ ば 、 従 来 、 わ が 国 の 環 境 問 題 に 関 わ る 研 究 者 や プ ロ ジ ェ ク
トの担当者は自
然科学畑の人が圧倒的多数を占めていることも一因となって、この「自然環境主義
J
と「近代技術主義
j
の 二 つ の 立 場 (
イ デ オ ロ ギ ー )
が 角 逐 し て い る の が 現 状 だ と い う 。 し か し 、 鳥 越 は 第 三 の 立 場 と し て
「生活環境主義」を提起する。この立場は地域に住む人々が地域環境政策の決定をなすべきだとする立
場 で 「 人 々 の 生 活
j
が ポ イ ン ト に な る と じ て い る 。 そ し て 、 第 一
・
第 二 の 立 場 が 「 鳥 の 目 」 か ら の ア
プローチだとすれば、鳥越の立つ第三の立場は「虫の目
j
からのアプローチだとしている。
「アマゾンの森林を伐採してハイウェイをつくる」という行為は、「近代科学主義
j
の 立 場 か ら す れ
ば 「 ア マ ゾ ン の 開 発
J
であり、「自然環境主義」からすれば「地球規模の環境破壊
j
であり、「生活環
境 主 義
j
か ら す れ ば 「 生 活 者 の 問 題
j
と な る 。 つ ま り 、 あ る 事 象 や 行 為 に 対 し て 、 立 場 に よ っ て そ れ
を 問 題 と す る か 否 か 、 問 題 と し た 場 合 で も い か な る 問 題 と す る か は 異 な っ て く る 。 す な わ ち 、 問 題 と
しての認定、問題の定義、問題の解決法及び解決過程が異なってくるということである。
鳥 越 が 指 摘 す る よ う に 、 環 境 問 題 へ の ア プ ロ ー チ は 、 こ れ ま で 鳥 の 目 か ら 捉 え る も の が 多 く 、 そ れ
は 自 然 科 学 者 や 為 政 者 の 視 点 (
烏 の 目 )
か ら 問 題 を 形 成 し 解 決 し よ う と す る も の で あ っ た 。 そ し て 、
社 会 科 に お け る 授 業 も 専 門 科 学 の 影 響 を 受 け て マ ク ロ 問 題 で は 特 に こ う し た 傾 向 が 強 く 表 れ て い た 。
今日では、学習者の主体性を重視するために生活者の視点(
虫の目)
から授業化を図る傾向が強くなっ
ているが、逆に、マクロな視点が失われた環境問題の構造的側面を見逃している授業も少なくない。
こ う し た 問 題 点 を 考 慮 す れ ば 、 烏 の 目 と 虫 の 目 の 双 方 を も っ 必 要 が あ る と 共 に 、 烏 の 目 、 虫 の 目 の
中 に も 複 数 の 視 点 を 備 え な け れ ば な ら な い 。 学 習 者 に 対 し て は 、 こ れ ら の あ る 視 点 に 立 ち 現 象 を 眺 め
さ せ 、 ま た 、 別 の 視 点 か ら 現 象 を 眺 め さ せ 、 そ の 中 か ら 彼 /
彼 女 ら に 立 場 や 価 値 を 選 択 さ せ る こ と が
必 要 と さ れ る の で あ る 。 今 日 で は 、 公 害 教 育 に み ら れ た よ う に 生 活 者 の 視 点 =
被 害 者 (
受 苦 者 )
の 視
点、と単純にいかない場合が多い。沖縄の基地問題、原発建設、熱帯雨林の伐採など生活者においても
い く つ か の 異 な る 立 場 が 存 在 す る よ う に 、 一 つ の 問 題 を め ぐ っ て は 生 活 者 間 に 様 々 な 立 場 が あ り 複 雑
な 対 立 が 生 じ る 場 合 も 多 く 見 ら れ る の で あ る 。 そ れ ゆ え 、 内 容 構 成 に お い て は 複 数 の 視 点 を 投 入 し 、
学習者の視点の移動を可能にすることが必要になってくる。
(2)
モ デルの 導入
環境問題は地域社会の問題から地球規模の問題まで広範囲に渡り、しかも、その内容はは総合的で、
複雑でドあり人間の認知を困難にするものが多い。環境問題は、学際的にアプローチしなければ理解し
えず解決が困難な事柄なのである。
このような環境問題を授業として扱い、学習者に理解可能なものとするにはモデノレを活用すること
が欠かせない。しかし、これまでの環境教育においては、モデノレによる学習を意図的に展開したもの
は少なかった。モデノレは「複雑な実体としての
1
つのシステム
W
に 関 し 、 そ の 一 局 面 に 焦 点 を 合 わ せ
て考察対象とするシステム
S
を 取 り だ し 、 そ れ に 類 似 の
S
とは独立なシステム
M
を作ったときに、
M
が
S
、 ひ い て は
W
に 関 す る 有 力 な 情 報 を 提 供 で き る 場 合 に 、 こ の シ ス テ ム
M
のことをモデノレという
J
と規定されている
* 1 3 0地図や地球儀は社会科で用いるモデ、ノレの典型で、あり、地形を図面や模型に変換
す る こ と に よ り わ れ わ れ に 理 解 し や す く ま た 操 作 し や す い も の に な る 。 環 境 問 題 は 前 述 し た よ う に 総
-合 的 で 複 雑 な 問 題 で あ り 、 し か も 、 し ば し ば 対 立 ・ 紛 争 を 伴 う 問 題 で も あ る 。 こ う し た 内 容 を 教 育 と
し て 取 り 扱 う た め に は モ デ ル に よ る 単 純 化 や 仮 想 化 も 必 要 と さ れ る の で あ る 。 そ こ で 、 以 下 、 二 つ の
モデノレ活用事例を提示する。
① 「 宇 宙 船 地 球 号
J
の 実 践 に お け る ミ ジ ン コ の 実 験
* 1 4この実践は汚染の進む地球を考える学習として、
12
時 間 構 成 で 実 施 さ れ て い る が 、 ミ ジ ン コ の 実 験
は、「世界の将来人口
J
( 第 5 時・第 6 時)
i
水 の 汚 染
J
( 第 7 時
第 9
時 )
の 学 習 を 展 開 す る た め の 基
底 と な る 実 験 で あ る 。 す な わ ち 、 実 験 は 、 子 ど も 達 に ビ ー カ ー の 中 の ミ ジ ン コ の 繁 殖 の 様 子 か ら 人 口
問 題 を 学 習 さ せ る た め の も の で あ る 。 こ の 実 験 で は 、 水 と 藻 を 入 れ た ビ ー カ ー を
5
つ 準 備 し 、 そ れ ぞ
れ
O
匹
、
1
匹
、
3
匹
、
20
匹
、
50
匹のミジンコを入れて実験している。一週間後、ミジンコの数は、
O
→
O
、
1
→
5
、
3
→
20
、
20
→
12
、
50
→
4
と い う 結 果 に な っ た 。 特 に 、 子 ど も 達 は
50
匹のミジンコを
入れたビーカーで、
3
日 後 に は 数 え 切 れ な い ほ ど に 繁 殖 し て い た ミ ジ ン コ が 、 一 週 間 後 に は た っ た の
4
匹 に な っ て し ま っ た と い う 事 実 に 驚 き 、 こ の 実 験 結 果 を 基 に し て 人 口 問 題 に つ い て い ろ い ろ と 考 え
て い る 。 例 え ば 、 あ る 児 童 は 、 か り に
50
匹 が 現 在 の 人 口 だ と し た ら 、 そ の 後 増 加 し た と し て も や が て
は水不足や食糧不足になり、
4
匹になってしまう日がくるのではないかと心配している。そして、「日
本という
1
つ の 国 の こ と を 考 え る の で は な く 、 地 球 上 の す べ て の 国 の こ と を 考 え 行 動 し な く て は い け
ないと思いますj
*
15とその決意を表明している。
地 球 上 の 許 容 人 口 は ど の く ら い な の か 、 そ の 時 の 水 や 食 糧 は ど の く ら い 必 要 な の か 、 ミ ジ ン コ の よ
うにならないために人間はどんなことが工夫できるのかなど、モデ、ノレと現実との対応関係を議論する
ならば、こうしたモデルは一層学習にとって有用なものとなるであろう。
② コ モ ン ズ ・ ゲ ー ム
「コモンズ
j
とは、今から
2
・
3
百年前にイングランドに存在した共有地(
牧草地)
のことであるが、
生物 学者のガレツト・ハーデ、
インの論文「コモンズの悲劇j
*
16により一躍注目を集めた。ハーディンは
この 論 文 で 、 地 球 を コ モ ン ズ に 、 国 家 を 牛 飼 に 、 人 間 を 牛 に 例 え 、 牧 草 に 限 り の あ る 共 有 地 に お い て
各々 の 牛 飼 が 利 己 的 行 動 を と っ た そ の 悲 劇 的 結 末 を 語 る こ と に よ り 、 地 球 規 模 の 人 口 問 題 へ警鐘 を 鳴
ら し た の で あ っ た 。 コ モ ン ズ ・ ゲ ー ム は こ の 論 文 を ヒ ン ト に ゲ ー ミ ン グ 研 究 者 に よ り 環 境 教 育 用 シ
ミュ レ ー シ ョ ン (
社 会 的 ジ レ ン マ の ゲ ー ム )
と し て 開 発 さ れ た も の で あ り 、 ゲ ー ム 参 加 者 に 地 球 環 境
や資源 の 有 効 利 用 を 考 え さ せ る こ と を 意 図 し た ゲ ー ム で あ る 本
170ゲームは、
6
人 で ト ー タ ル
50
ラウンドのプレイを行い総合得点を競う。参加者は、
1
ラウンドごと
に
5
つ の 色 札 (
緑 、 赤 、 黒 、 燈 、 黄 )
か ら
1
つを提示し得点、を得る。札の意味は、緑(
利己的共有 資
源 利用型、短期的には最も高い得点)
、赤(
協調的 資 源 利 用 型 、 緑 札 の
40 -
-
-
-
-
-
5 0 %
の得点)
、黒(
自己
犠 牲
・懲罰型、緑札使用者に
20
点のペナノレティ、自分は
6 /
<
黒札使用者数〉の失点)
、樫(
自己
犠 牲 ・ 協 調 推 進 型 、 赤 札 使 用 者 に +
10
点 を 与 え 、 自 分 は
6 /
<
樫 札 使 用 者 数〉 の失点)
、黄(
逃避型、
共 有 資源利用問題から逃避し、
+
6
点 獲 得 )
と な っ て い る 。 環 境 値 (
資 源 環 境 利 用 状 況 )
は
-
8
---+
飼が自省し共有地の状況を客観的に認識する機会が設定されている。
こ の ゲ ー ム に よ っ て 参 加 者 は 社 会 の 構 造 を 理 解 し 限 ら れ た 資源 の 有 効 利 用 に つ い て 真 剣 に 考 え る よ
うになると 言 わ れ る 。 こ の よ う な ゲ ー ム だ け で 深 刻 な 環 境 問 題 を 認 識 で き る と は 言 え な い が 、 社 会 シ
ス テ ム の 存 立 基 盤 の 構 造 的 理 解 を 可 能 に す る こ う し た ゲ ー ム と 環 境 問 題 の 内 容 を 扱 っ た 諸事例 (
森 林
破壊や海洋汚染、ゴミ問題やリサイクノレ等)
を組み合わせて環境学習を構成することで、社会科の環
境教育は充実したものになる。
(3
)
グ口ーバル・コネクションの活用
グ ロ ー パ ノ レ ・ コ ネ ク シ ョ ン と は 、 国 境 を 越 え て 広 く 流 通 し て い る モ ノ を 意 味 す る 。 例 え ば 、 コ ー
ヒー、バナナ、エピ、そば、大豆などが上げられる。このようなグローパノレ・コネクションは、世界
の あ る 国 ゃ あ る 地 域 の 人 々 に よ り 生 産 さ れ 、 あ る 仲 介 者 を 経 て 、 別 な 国 や 地 域 の 人 々 へ と 移 動 す る モ
ノであり、われわれにとって身近なモノである。われわれはこのグローパノレ・コネクションを教材と
す る こ と に よ り 、 学 習 者 の 興 味 関 心 を そ そ り な が ら 、 世 界 経 済 や 国 際 政 治 の 仕 組 み ゃ 地 球 規 模 の 流 通
な ど を 理 解 さ せ る こ と が 可 能 に な る 。 こ れ ま で 環 境 教 育 で は 、 地 球 環 境 型 の よ う な マ ク ロ な 問 題 を 学
習 内 容 と す る 際 、 現 象 の 提 示 に 止 ま る 授 業 で は な し い か に し て 身 近 な 学 習 問 題 と し て 授 業 化 す る か
に苦心してきた。グローパノレ・コネクションはこのような教育上の問題に新たな視点を提起するもの
で
あ
る
。
例えば、大津和子はグローパノレ・コネクションとして「バナナ
j
を 用 い 、 こ の バ ナ ナ か ら 南 北 問 題
に 迫 る 「 一 本 の バ ナ ナ か ら 」 の 授 業 を 高 等 学 校 で 実 践 し て い る
*180この授業では、最初に「一本のバ
ナナから… … 」というメインテーマが提示される(
南北問題については生徒に一切語られていない)
。
ま ず 、 大 津 は バ ナ ナ を 生 徒 に 食 べ さ せ る こ と か ら 始 め る 。 生 徒 は 授 業 に バ ナ ナ が 登 場 す る こ と 自 体 を
不 思 議 に 思 う が 、 そ れ が 食 べ ら れ る と あ っ て さ ら に 驚 く 。 こ う し た 導 入 に よ り 大 津 は 生 徒 の 関 心 を 引
き付けて、バナナの生産地やバナナのラベノレ等について質問し、その上で、わが国への輸入量の最も
多いフィリピンバナナに焦点を当てる。そして、「ドーノレ
J
I
デ
、
ノ
レ
モ
ン
テ
J
I
チキータ
J
I
パ ナ ン ボ
j
な
ど の 多 国 籍 企 業 、 フ ィ リ ピ ン の 農 園 地 主 、 農 園 の 小 作 人 な ど の 存 在 を 提 示 し 各 々 の 関 係 を 説 明 す る 中
で 、 最 後 に 、 南 北 問 題 の 構 造 を 解 き 明 か し て い く 。 生 徒 は 、 バ ナ ナ を 通 し て 、 法 的 未 整 備 や 権 利 意 識
の 未 成 熟 な 社 会 に お け る 多 国 籍 企 業 の 横 暴 、 小 作 人 や 日 雇 い 労 働 者 の 苦 し い 生 活 状 況 、 大 量 生 産 の た
め の 農 薬 (
劇 薬 )
の 大 量 使 用 と 農 薬 汚 染 な ど を 理 解 す る 。 そ し て 、 生 徒 は 自 分 達 が 日 頃 気 軽 に 食 べ て
い る バ ナ ナ が 農 園 労 働 者 の 厳 し い 労 働 条 件 か ら 生 産 さ れ 食 卓 に 届 い て い る こ と を 理 解 し 、 バ ナ ナ に 対
する認識を改めたり新たな意味付けを行ったりしている。
授 業 の 最 後 に 、 大 津 は 生 徒 に 対 し て 「 一 本 の バ ナ ナ か ら … …
J
の「… … 」 に 当 た る 部 分 に 言 葉 を
入 れ さ せ て い る 。 生 徒 は 「 一 本 の バ ナ ナ か ら 世 界 が 広 が っ た
J
I
一 本 の バ ナ ナ か ら 思 う フ ィ リ ピ ン 人
の犠牲
J
I
一 本 の バ ナ ナ か ら 見 た 労 働 者 の 熱 い 闘 い 」 な ど そ れ ぞ れ の 理 解 や 思 い を 記 し て い る 。 ま た 、
生 徒 は 授 業 の 感 想 も 書 い て い る が 、 あ る 生 徒 は [
今 の 僕 た ち の 生 活 は 、 フ ィ リ ピ ン の 人 び と だ け で な
く 、 他 の 発 展 途 上 国 の 人 び と の 苦 労 の お か げ で 成 り た っ て い る の だ 。 フ ィ リ ピ ン の 人 び と が こ ん な 生
活 を お く ら な け れ ば な ら な い こ と に 、 日 本 が か か わ っ て い る こ と が 残 念 だ 。 こ の 一 本 の バ ナ ナ か ら 世
界の南北問題にまで、広がっている、ということがわかったj
*
19と記している。
大 津 実 践 は 、 南 北 問 題 を 中 心 テ ー マ と し て い る が 、 特 に 、 農 薬 の 大 量 使 用 に よ る 農 園 労 働 者 の 被 害
の実態や農薬被害を防ぐための徳之島で、の無農薬バナナ作りの紹介に時間を割いている。本実践は、
ハ
u
t
マクロな問題を身近な「バナナ」から授業化している点ばかりでなく、これまでの地球環境型の取り
扱 い と し て は 少 な か っ た 環 境 問 題 に お け る 南 北 問 題 を 捉 え て い る 点 で 、 し か も 、 食 品 公 害 と い う 観 点
も含めて授業化している点で環境教育に一石を投じる意義のある実践といえる。
5.
役 割 体 験 学 習 論
以 上 の 論 述 を 踏 ま え た 教 授 学 習 論 と し て 、 筆 者 は 新 た に 役 割 体 験 学 習 論 を 提 案 し た い 。 役 割 体 験 学
習 と は 「 学 習 者 が あ る 役 割 を 担 う こ と に よ っ て 、 考 察 対 象 を 理 解 し 、 問 題 を 解 決 し よ う と す る 学 習 方
法 」 で あ り 、 子 ど も 達 の 社 会 的 実 践 力 (
生 き る 力 )
を 培 う べ く 知 識 と 行 為 の 統 一 的 な 学 習 を 図 る た め
の理論である*
200
I
社 会 的 役 割
j
に 注 目 し た の は 、 学 習 者 が あ る 役 割 を 担 う こ と に よ っ て 、 社 会 や 組
織の仕組み、人々の関わりの理解を促進させることができるからである。また、役割の遂行により知識、
技 能 、 態 度 な ど の 統 一的な学習も可能になる 。 さ ら に は 、 役 割 視 点 を 持 つ こ と に よ っ て 多 角 的 な 見 方
もできるようにもなる。社会的役割には、以上のような利点がある。
特に本理論では、「学習の場
j
と「学習主体
j
という観点と、「現実」と「仮想
j
の次元とをクロス
させて役割体験の
4
類型を設定している(
図
1
参照のこと) 。
図
1
役 割 体 験 の
4
類 型
場 現 実
場 仮 想
主
第 一 類 型 第 二 類 型体
農 業 実 習シミュレータ
現
教 育 実 習防 災 訓 練
実
介護体験
主
第 三 類 型 第 四 類 型体
目隠し体験
車
IJ 劇 化仮
車 い す 体 験
ロ ー ル プ レ イ ン グ相
、
高 齢 者 体 験
ゲーミンゲ・シ
ミュレーション
① 第
1
類型
第
1
類型の役割体験学習は、主体現実・場現実型である。
学 習 者 は 本 物 の 現 場 で 学 習 す る 体 験 学 習 で あ る 。 例 え ば 、 介
護 実 習 で は 、 学 習 者 は 特 別 養 護 老 人 ホ ームなどの介護
・福祉
現場で直接体験する。「介護士 j
と い う 役 割 で 入 所 者 や 同 僚
と社会的関係を築きながら仕事を行う。ここにおいて、知識
のみならず介護士としての技能や態度も形成され、総合的で、
体 得 的 な 学 習 が 可 能 に な る の で あ る 。 た だ し 、 現 場 で は 、 現
実のルーノレが適用される。それゆえ、大きな失敗は許されな
いため、真剣な行動が求められる。
② 第
2
類型
第
2
類 型 は 、 主 体 現 実
・場仮想型である 。 現 場 で の 体 験 が
不可 能 な 場 合 や 訓 練 の た め に 行 う 体 験 学 習 で あ る 。 例 え ば 、 学 校 に お け る 防 災 訓 練 が あ げ ら れ る 。 現
実に 起こりうる災害を想定して日頃から訓練を積んで、おくことにより、現実に災害が発生した時に迅
速に 対 応 す る こ と が 可 能 に な る 。 こ の 体 験 で は 、 失 敗 は 許 容 さ れ 、 失 敗 を 反 省 し て 、 よ り よ い 防 災 行
動 や 救助行動のために活かすことができる。
③ 第
3
類型
行 っ て 、 体 の 不 自 由 な 状 況 を 体 験 し 、 動 き や 移 動 の 困 難 さ を 理 解 す る 。 こ の 「 高 齢 者
j
と い う 役 割 体
験 で 、 彼 ら は 自 分 た ち と は 異 な る 人 々 が 抱 え る 問 題 を 理 解 し 、 日 頃 の 仕 事 を 反 省 す る 貴 重 な 機 会 を 得
たのである。
④ 第 4
類 型
第
4
類 型 は 、 主 体 仮 想
・
場 仮 想 型 で あ る 。 こ の 類 型 に は 、 演 劇 、 ロ ーノレプレイング、シミュレー
シ ョ ン 、 ゲ ー ミ ン グ と い っ た 方 法 が あ げ ら れ る 。 学 校 で は よ く 活 用 さ れ て い る 方 法 と 言 え よ う 。
例 え ば 、 本 附 属 小 の 藤 倉 欣 治 先 生 が 実 践 さ れ た 「 秋 田 の ハ タ ハ タ 漁
j
の 授 業 が 挙 げ ら れ る 。 こ の 授
業 で は 、 ハ タ ハ タ の 激 減 と い う 危 機 的 事 態 の 中 で 、 秋 田 県 漁 業 協 同 組 合 が 平 成 四 年 に
「
三 年 間 の 禁 漁
J
に つ い て 意 見 を 闘 わ せ た 。 本 授 業 で は 、 子 ど も 達 が そ の 時 の 「 漁 協 関 係 者
j
の 立 場 に 立 っ て 、 当 時 の
新 聞 資 料 等 の デ ー タ に 基 づ き な が ら 、 三 年 間 に 及 ぶ こ の ハ タ ハ タ 禁 漁 に つ い て 議 論 し た 。 こ う し た 学
習 に よ っ て 、 子 ど も 達 は 、 当 時 の 状 況 や 漁 協 関 係 者 の 切 実 な 問 題 と し て 事 象 を 捉 え 、 理 解 し た 。
以 上 、 役 割 体 験 学 習 論 に つ い て 概 説 し た が 、 こ の よ う な 学 習 理 論 に よ り 、 学 習 者 は 現 場 や そ こ に い
る 人 々 、 そ こ に あ る 道 具 や 資 源 と 関 係 を 取 り 結 ぶ 学 習 が 可 能 に な り 、 知 識 と 行 為 の 統 一 的 な 学 習 が 成
立 す る こ と に な る 。 ま た 、 学 習 の 場 が 学 校 に 限 定 さ れ る こ と な く 、 指 導 者 も 教 師 に 限 ら れ る こ と の な
い新たな学習を拓くことができる。
こ れ ま で 、 体 験 の 中 で も 擬 似 体 験 は そ の 意 義 が 充 分 に 認 め ら れ て こ な か っ た 。 し か し 、 こ う し た 枠
組 み か ら 体 験 的 学 習 を 実 施 す る こ と で 、 学 習 対 象 の 理 解 や 問 題 解 決 の た め に 、 直 接 体 験 も 擬 似 体 験 も
効 果 的 に 活 用 し て 、 知 識 と 行 為 の 統 一 的 学 習 に よ る 社 会 的 実 践 力 の 育 成 を 可 能 に す る の で あ る 。
6.
ゲーミング・シミュレーション教材「地球環境サミッ卜
j
の実践のための理論
ゲーミング・シミュレーション(
略す場合は、
GS )
は 、 ゲ ー ム や シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 、 ロ ー ル プ レ イ
ン グ な ど を 総 称 し た 言 葉 で あ る 。 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン は 模 擬 実 験 や 模 擬 演 習 と 訳 さ れ る が 、 こ の 言 葉 は 、
今 日 一 般 的 に は コ ン ピ ュ ー タ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 指 し 示 す 言 葉 と 捉 え ら れ て い る 。 そ こ で 、 今 日 で
はコンピュータ・シミュレーションも含めて、その他、対面的に行うボードゲームやローノレプレイング、
あ る 社 会 状 況 な ど を 再 現 し て 対 面 的 に 行 う ゲ ー ミ ン グ 等 を 広 く 含 む 概 念 と し て 、 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ
レーションという用語が用いられている。
こ う し た 特 徴 を 持 つ ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 教 育 現 場 で 活 用 す る た め の 枠 組 み と し て 、 筆
者 は 「 教 育 用 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の
4
類 型 」 を 提 案 し て い る 。 教 育 現 場 で は 、 多 様 な ゲ ー
ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の 実 践 形 態 が あ る 。 こ れ ら を 学 習 者 の 実 態 や 指 導 の ね ら い に 基 づ い て 活 用
す る た め に は 、 「 教 育 用 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の
4
類 型 」 と い う 理 論 枠 が 有 用 で あ る と 考 え
る
* 2 1 0す な わ ち 、 こ の 理 論 枠 と は 、 学 習 指 導 の 観 点 か ら 分 類 し た も の で 、 ゲ ー ミ ン グ ・ シ ミ ュ レ ー
シ ョ ン を 受 講 型 、 操 作 型 、 参 加 型 、 構 築 型 の
4
つ の 類 型 か ら 把 握 し よ う と す る も の で あ る 。 以 下 、 表
つ
U
1