光電子工学 I (前半)
東京大学電気電子工学科
小関泰之
2017 年 10 月 7 日
はじめに
昔から電気電子工学と光の関係は深い。19世紀にエジソンが電力会社をつくり送電を開始したとき、電気の応用は電灯を ともすことであった。その後、電灯は電球から蛍光灯、LEDへと進化してきた。現代では、光と電気の関わりは照明に限ら ない。デジタル技術の進展に伴い、フルカラーディスプレイやプロジェクタ、ディジタルカメラが身近に使われている。ま た、光ファイバ通信による超大容量情報伝送技術はインターネットを支えているし、光ファイバ通信システムの光源である 半導体レーザは、電子工学の雄である半導体デバイス技術の結晶である。さらに、レーザの応用は通信にとどまらず、精密 計測、加工、医療応用など、今も広がりつつある。
みなさんはすでに、光が超高周波(可視光であれば400 - 600 THz)の電磁波であることを知っていると思う。また、電 磁気の授業で、マクスウェル方程式を解くと電磁波の解が得られ、光速c = 3 × 108m/sで伝搬することなどを習っている ことと思う。しかし、光の性質を全てマクスウェル方程式で表すのは大変煩雑である。また、高校物理でも、レンズの性質、 ヤングの干渉縞、ニュートンリング、回折格子、ホイヘンスの原理、屈折と全反射などを習っていることと思う。これらは いずれも光の波動としての性質であるが、高校までの説明は定性的で、光が「ある規則に従って振る舞う」ことを天下り的 に教えられる場合も多い。このように電磁気学と高校物理の間には大きなギャップがある。
一方で、みなさんは電気系において交流回路理論、線形時不変システムなどを習っていることであろう。実は、この電気 系の知識を少し応用するだけで、光の波動としての性質を深く理解することができる。光は空間を広がったり収束しながら 伝搬するし、物体に当たると反射したり回折したりする。また、光は半導体レーザや光ファイバの中を伝搬したりする。そ の振る舞いも、光の線形性を考えるとシンプルに考えることができるのである。
注0.1
このような観点から、光を使いこなす上で、光のふるまいや性質を知ることは大変重要である。本講義メモでは、光の基 本的な振る舞いである空間伝搬、干渉、レンズによる光の制御、偏光等について触れる。
なお、本講義は電気系の学部3年生を対象とし、電磁気学で電磁波が存在することを習っていることを想定している。
注0.1
この辺りは、4年生になって光系の研究室に来て実験をするようになると実感することと思う。
目次
はじめに i
第1章 時間領域の波動 1
1.1 複素振幅・解析信号とそのスペクトル . . . 1
1.2 ビートと群遅延. . . 3
1.3 パルス波と群遅延分散 . . . 6
1.4 位相速度と群速度 . . . 10
1.5 スペクトル干渉とパルス列 . . . 11
1.6 まとめ . . . 12
第2章 空間領域の波動 13 2.1 平面波 . . . 13
2.2 2つの平面波の干渉 . . . 15
2.3 ガウシアンビームとその性質 . . . 17
2.4 ヘルムホルツ方程式と球面波 . . . 22
2.5 まとめ . . . 23
第3章 回折 24 3.1 角スペクトル法とフレネル回折積分 . . . 24
3.2 フラウンホーファー回折 . . . 25
3.3 開口による回折. . . 25
3.4 まとめ . . . 30
第4章 レンズ 31 4.1 レンズの集光・拡散作用 . . . 31
4.2 レンズ公式 . . . 31
4.3 レンズのフーリエ変換作用 . . . 34
4.4 レンズの応用例. . . 36
4.5 まとめ . . . 39
第5章 偏光 40 5.1 さまざまな偏光. . . 40
5.2 偏光の制御 . . . 43
5.3 ジョーンズベクトルによる偏光の計算 . . . 46
5.4 ストークスパラメータによる偏光の記述. . . 47
第6章 屈折と反射 50 6.1 屈折率とインピーダンス . . . 50
6.2 スネルの法則と全反射 . . . 51
6.3 フレネルの式 . . . 52
第7章 時間領域の光学 57
7.1 干渉計 . . . 57
7.2 フーリエ分光とコヒーレンス . . . 58
7.3 ファブリ・ペロ干渉計 . . . 60
7.4 回折格子 . . . 63
第8章 付録 66 8.1 フーリエ変換 . . . 66
第 1 章
時間領域の波動
電気回路理論ですでに習ったように、線形な電気回路では電圧や電流の時間波形を様々な周波数の正弦波の和として表し、 各周波数における回路の応答を求めれば良かった。光においても多くの場合に同じ考え方を適用することができる。光が空 間や物質中を伝搬すると、光の振幅や位相が変化するが、その際の伝搬の様子やその周波数依存性は、線形回路と同じよう に考えることができるのである。すなわち、時間領域の回路の応答を求めることと同じやり方で、光が空間を伝搬する様子 を理解することができる。そこでここでは、時間領域信号の扱いについてまとめておこう。
1.1節では、下準備として複素信号と解析信号を導入する。1.2節では、周波数の異なる正弦波の和としてビートが生じる ことを示す。その上で、ビートの遅延時間である群遅延を導入する。1.3節では、様々な周波数の正弦波の和としてパルス ができることを示す。さらに、群遅延が周波数に対して変化する効果である群遅延分散の概念と、周波数が時間とともに変 化する効果であるチャープの概念について説明する。1.4節では、1次元空間を伝搬する波動を考え、位相速度と群速度の概 念を説明する。1.5節では、複数個のパルスのスペクトル領域における干渉について説明する。1.6節で本章の内容をまと める。
1.1 複素振幅・解析信号とそのスペクトル
光が電磁波の一種であり、電磁波が電場と磁場の振動であることについては、電磁気学で習ったであろう。よく教科書に 書かれているのは、図1.1のような電磁波の模式図である。ただし、これは単一の周波数の光が無限に広い空間で単一方向 に伝搬しているという、実際にはありえない状況である。一方、実際の光の電場は、空間と時間の関数としてEEE(x, y, z, t)の ように表すことができるが、これは3次元空間と時間に対してベクトルが対応するという複雑な関数であり、いきなり取り 扱うのは難しそうである。
まずは、空間内の1点における光電場ベクトルのうち、ひとつの成分(たとえば電場のx成分Ex)の時間波形E(t)につ いて考えたい。とくに、時間波形とその周波数スペクトルの関係についてまとめておき、次節以降で、同じ考えを空間にも 適用することにする。
その下準備として、光電場に限定せず、時間信号S(t)の性質について考えよう。まず、S(t)が角周波数ω0
注1.1
で正弦波
E
xH
yz
Wavelength
図1.1 z方向に伝搬する平面波の電場と磁場の模式図。電場がx方向を向き、磁場がy方向を向く。電磁波はポイン ティングベクトルSSS = EEE × HHHの方向に進行する。
注1.1
周波数は単位時間当りの周期数f [Hz]で書く場合も多いが、本稿では物理系の流儀に従い、角周波数ω [rad/s]を用いる。今後、角周波数を単に 周波数と呼ぶ場合も多い。
的に変化している状況を考える。このとき、
S(t) = S0cos(ω0t − ϕ0)
= Re[Ae−iω0t] = 1 2[Ae
−iω0t
+ A∗eiω0t] (1.1)
と表されるであろう
注1.2
。ただし、S0は正弦波の振幅を表す実数であり、ϕ0は正弦波の位相を表す。また、Aは振幅と位 相の両方の情報をもつ複素数であり、複素振幅と呼ばれる。ここで、複素振幅と、振幅・位相の間には以下の関係がある。
S0= |A|,
ϕ0= arg A. (1.2)
ただし、式(1.1)で表される時間波形は、−∞ < t < ∞にわたって振幅A、周波数ω0、位相ϕ0が一定である、という意 味であって、現実の物理ではそのような時間波形は存在しない
注1.3
。よくある状況は、ある時間内t1 < t < t2における波
形が式(1.1)と一致する、という場合であるが、そのような波形はt < t1やt > t2を含む長い時間で見ると、もはや単一周 波数の正弦波ではないのである。このような波形は、複数の周波数の重ねあわせとして表す必要がある。このときに、どの 周波数の正弦波がどのような複素振幅をもっているか、すなわち波形の周波数スペクトルを考えるのである。
時間波形S(t)の周波数スペクトルをS(ω)˜ とする
注1.4
と、それはS(t)のフーリエ変換で与えられる。本稿では、物理系 の流儀にもとづき、以下の定義を採用する。
S(ω) = F˜ t[S(t)] ≡
∫
S(t)eiωtdt, (1.3)
S(t) = Ft−1[ ˜S(ω)] ≡ 2π1
∫ S(ω)e˜ −iωtdω. (1.4)
一般的に、時間波形は時間とともに振幅が変化するものである。また、振幅だけでなく、周波数や位相も時間とともに変 化する場合が多い。その場合、複素振幅Aが時間とともに変化するわけであるから、複素振幅をA(t)のように時間の関数 として表せばよい。このときの時間波形は、Re[A(t)e
−iω0t
]のように複素振幅に振動項e
−iω0t
をかけて、その実部を取るこ とで表される。一方、複素振幅に振動項をかけつつも虚部を残した信号E(t) = A(t)e−iω0tのことを、解析信号という。
解析信号や複素振幅を使うと以下のメリットがある。
• 位 相 変 化 や 周 波 数 シ フ ト を 与 え る こ と が 容 易 で あ る 。例 え ばeiφ(t) を 掛 け る と 位 相 変 化 を 与 え る こ と が で き る し 、 e−i∆ωtを掛けると∆ωの周波数シフトを与えることができる。
注1.5
• 波動のエネルギーが、解析信号や複素振幅の絶対値の自乗に比例するため、エネルギーの計算が容易である。
注1.6
また、もとの信号S(t)、解析信号E(t)、複素振幅A(t)のそれぞれに対するスペクトルについて考えてみよう。式(1.1) より、
S(t) = 1 2[A(t)e
−iω0t
+ A∗(t)eiω0t] (1.5)
である。これをフーリエ変換の式(式(1.3))に代入すると、 S(ω) =˜ 1
2[ ˜A(ω − ω0) + ˜A
∗(−ω − ω0)] (1.6)
を得る。この右辺は、複素振幅のスペクトルA(ω)˜ をω方向に平行移動させた成分と、その複素共役からなる。この様子 は、図1.2(a)-(c)のように表すことができる。そもそも、S(t)は実関数であるから、S(ω)˜ のスペクトルは、ω < 0の成分が ω > 0の成分の複素共役になっている
注1.7
。
注1.2
電気系の流儀では、時間波形をejωtと表し、物理系の流儀では、e−iωtと表す。これは、次節以降で説明するように、空間的(例えばz方向)に伝 搬する波動をei(kz−ωt)と表すことが慣例となっているためである。電気系の流儀と物理系の流儀でつじつまを合わせるにはj = −i と考えると良 い。なお、位相の正負や複素振幅が定義によって異なってしまうので、混同しないように注意が必要である。本稿では、光の空間伝搬を考えるため に、物理系の流儀に従った表記をする。
注1.3
なぜなら、無限時間の間で電磁波が存在するためには、無限のエネルギーが必要となるからである。
注1.4
本稿では、周波数スペクトルを表す関数に˜(チルダ)の記号をつけることにする。
注1.5cos ωt
を何倍してもsin ωtにすることはできない。
注1.6
解析信号や複素振幅を定義する際に、絶対値の自乗がパワー(単位時間当りのエネルギー)に一致するように定義する場合も多い。
注1.7
このことは、フーリエ変換の定義に立ち戻って考えると容易に導出できる。また、cos ωt =
eiωt+e−iωt
2 やsin ωt =
eiωt−e−iωt
2i の関係から、cos
やsinをe−iωtの和で表すときにはその係数が周波数の正負で複素共役になっていることからもわかる。
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
(f) t
t
t
ω
ω
ω
S(t) S˜(ω)
A(t) A(ω)˜
S˜(−ω) = ˜S∗(ω) ω0
−ω0 0
ω0 0
Re
Im
0
E(t) E˜(ω)
図1.2 実信号、解析信号、複素振幅の周波数領域のイメージ。(a)実信号の時間波形S(t)。(b)解析信号の時間波形 E(t)。正の周波数成分のみをもち、複素数となる。(c)複素振幅の時間波形A(t)。(d)実信号のスペクトルS(ω)˜ 。負の 周波数成分に、正の周波数の複素共役が存在する。(e)解析信号のスペクトルE(ω)˜ 。2 ˜S(ω)のω > 0の部分を取り出し たものである。(f)複素振幅のスペクトルA(ω)˜ 。解析信号のスペクトルを−ω0方向にω0だけシフトさせたものであ る。複素振幅やスペクトルの値は一般的には複素数となるはずであるが、ここでは(たまたま)S(t)の位相が0なので 実数になっている。また、A(t)やA(ω)˜ がt = 0、ω = 0に対して左右対称である必要もない。
なぜ複素数で波動を表すのか?
✓ ✏
そもそも波動のもとになる振動は、2つの物理量の間のエネルギーのやりとりによって生まれるものである。振り子で あれば、位置エネルギーと運動エネルギーを互いに交換しあっている。このとき、変位と運動量の時間変化を考えると、 その位相は互いに90度異なっている。このことによって、たとえば変位が0の状態でも、運動量の形で「振動してい る」状態を記憶しているのである。(さもないと、変位が0の瞬間に、止まっているのか振動しているのかの見分けがつ かない。)
従って、振動を考える際に、変位だけを考えていても振動の一部を知ることにしかならない。変位と運動量という2つ のパラメータを同時に知ることで、振動全体を知ることができるのである。そのために、変位を実部、運動量を虚部に 割り当てることで、振り子の振動の状態をひとつの複素数で表すことができる。これが複素数で振動や波動を表す理由 である。この際に、実部の自乗が位置エネルギーに、虚部の自乗が運動エネルギーになるように、うまくスケーリング を行っておくことが大事である。
電磁波の場合はどうであろうか。図1.1に示したように、直線偏波の電磁波では、電場ベクトルEEEと磁場ベクトルHHH は互いに直交し、EEE × HHHの方向に伝搬する。電場と磁場はこのとき同相で振動している。話が違うではないか!と思う かもしれない。
しかし、マクスウェル方程式を追いかけていくと分かるように、EEEの時間変化がrotHHHを生み、HHH の時間変化がrotEEE を生むことで電磁波は伝搬する。このとき、EEEとrotHHH、また、HHH とrotEEEの位相は互いに90度ずれているのである。 さらに、円偏波の場合には、EEEとHHH の位相は互いに90度ずれている。
このように、電磁波も2つの物理量の間のエネルギーのやりとりをしているので、電場を複素数の実部に対応させるこ とで、虚部を磁場(のrot)に対応させているのである。
✒ ✑
1.2 ビートと群遅延
前節で述べたように、単一の周波数の正弦波は、振幅も位相も時間とともに変化しない信号であった。一方、振幅や位相 が時間とともに変化するような、より一般的な信号は、複数の周波数成分の線形結合として表される。その際の線形結合の 係数を与えてくれるのがフーリエ変換である
注1.8
。したがって、信号をフーリエ変換して、各周波数成分ごとの性質を考え、 最終的にその線形結合を考えると、一般的な信号の振る舞いがわかる。とはいえ、一般的な信号のフーリエ変換をいきなり 考えようとしても、そのイメージをつかむのは難しい。
注1.8
この辺りは信号解析の講義で習っているものと思うので割愛する。
(c) (b)
t t
t t (a)
A1e−iω1t
A2e−iω2t
A1e−iω1t +A2e−iω2t
Im Re (d)
(|A1| + |A2|)2
(|A1| − |A2|)2
0 τ 1
図1.3 2つ の 周 波 数 の 正 弦 波 の 和 に よ る ビ ー ト の 例 。|A1| = 2、ω1 = 2π × 5 rad/s、ϕ1 = 2 rad、|A2| = 1、 ω2 = 2π × 3 rad/s、ϕ2= 1 rad。(a) A1の解析信号。(b) A2の解析信号。(c) (a)と(b)の和。(d) (c)の絶対値の自 乗。ビートの周波数がω1− ω2 = 2π × 2 rad/sであるため、0 < t < 1の間に2周期の強度変動が生じていることや、 位相がϕ1− ϕ2= 1 radであるため、t =
φ1−φ2 ω1−ω2 =
1
2π×2 ∼ 0.08 sであることなどが読み取れる。
そこで、複数の周波数成分を含む信号の最も簡単な例として、2つの周波数の正弦波の和を考えよう。よく知られている ように、このときビートが生じ、強度が時間とともに変化する。強度変化の周波数は、2つの周波数の差に等しい。例と して、周波数ω1、ω2(但しω1 > ω2)の正弦波の複素振幅がそれぞれA1、A2であったとする。これらの位相をそれぞれ ϕ1= arg A1、ϕ2= arg A2としよう。この2つの正弦波の和を解析信号で表すと、
E(t) = A1e−iω1t+ A2e−iω2t (1.7)
となる。このときの信号強度は|E(t)|2に比例するので、計算すると次式を得る。
|E(t)|2= |A1e−iω1t+ A2e−iω2t|2
= |A1|2+ |A2|2+ 2ReA1A∗2e
−i(ω1−ω2)t
= |A1|2+ |A2|2+ 2|A1||A2| cos{−(ω1− ω2)t + ϕ1− ϕ2}
(1.8)
式(1.8)から、以下のことがわかる。
1. |E(t)|2が周波数ω1− ω2で振動する。これがビートと呼ばれる。 2. ビートの振幅は2|A1||A2|である。
3. arg(A1A∗2) = arg A1− arg A2= ϕ1− ϕ2より、ビートの位相は2つの正弦波の位相の差となる。 4. |E(t)|2の時間平均は|A1|2+ |A2|2である。
5. |E(t)|2の最大値は(|A1| + |A2|)2、最小値は(|A1| − |A2|)2である。
上記のうち、1番目と3番目の性質、すなわちビートの周波数が差周波となることと、ビートの位相が正弦波の位相差と なることは非常に大事な性質である。このビートの位相は、ビートが時間遅延
τ = ϕ1− ϕ2
ω1− ω2 (1.9)
を有することと等価である。従って、このτを群遅延という。
強度波形にビートが現れる様子を、周波数領域で考えてみよう。そのために、|E(t)|2 = E(t)E
∗(t)のフーリエ変換を求め る。E(t)のフーリエ変換をE(ω)˜ とすると、
E(ω) = 2πA˜ 1δ(ω − ω1) + 2πA2δ(ω − ω2) (1.10)
である
注1.9
。ここで、E
∗(t)のフーリエ変換は、
Ft[E∗(t)] =
∫
E∗(t)eiωtdt = {∫
E(t)ei(−ω)tdt }∗
= ˜E∗(−ω) (1.11)
注1.9
デルタ関数のフーリエ変換は、ガウシアンのフーリエ変換を考え、面積を1に保ったまま、時間幅を0にする極限を考えると良い。また、式(1.10) を逆フーリエ変換しても確認できる。
(c)
(b) (a)
0 ω
Re Im
Re Im
Re Im ω
ω 2πA∗1δ(ω + ω1)
2πA∗2δ(ω + ω2) 0
0
φ1 φ2 2πA2δ(ω − ω2)
2πA1δ(ω − ω1)
−φ1 −φ2
2π(|A1|2+ |A2|2)δ(ω)
φ1− φ2
φ2− φ1 2πA1A∗2δ(ω − ω1+ ω2)
2πA2A∗1δ(ω + ω1−ω2)
図1.4 周 波 数 領 域 で 考 え た ビ ー ト の 様 子 。矢 印 は デ ル タ 関 数 を 表 し 、方 向 は 位 相 を 表 す 。図1.3と 同 様 、|A1| = 2、 ω1 = 2π × 5 rad/s、ϕ1= 2 rad、|A2| = 1、ω2= 2π × 3 rad/s、ϕ2= 1 rad。(a) 2周波数の正弦波の和の解析信号の スペクトル(Ft[E(t)] = ˜E(ω))。図1.3(c)のフーリエ変換に対応する。(b) (a)の複素共役(F[E
∗(t)] = ˜
E∗(−ω))。(c) 強度波形のスペクトル(1
2πE(ω) ∗ ˜˜ E
∗(−ω))。図1.3(d)のフーリエ変換に対応する。
である。また、Ft[F (t)] = ˜F (ω)、Ft[G(t)] = ˜G(ω)とすると、 Ft[F (t)G(t)] = 1
2πF (ω) ∗ ˜˜ G(ω). (1.12)
が導出できる
注1.10
。ただし、F (ω) ∗ ˜˜ G(ω)は畳み込みを表し、次式で定義される。 F (ω) ∗ ˜˜ G(ω) ≡
∫ F (ω˜ ′) ˜G(ω − ω′)dω′. (1.13)
式(1.12)は、周波数領域における積が時間領域の畳み込みになるのと同様に、時間領域における積が周波数領域における畳
み込みになることを表している
注1.11
ここまで下準備を行うと、強度波形(|E(t)|2)のフーリエ変換、すなわちビートのスペクトルを求めることができる。 Ft[|E(t)|2] = Ft[E(t)E∗(t)] = 2π1 Ft[E(t)] ∗ Ft[E∗(t)] = 2π1 E(ω) ∗ ˜˜ E∗(−ω)
= 1
2π{2πA1δ(ω − ω1) + 2πA2δ(ω − ω2)} ∗ {2πA
∗
1δ(−ω − ω1) + 2πA∗2δ(−ω − ω2)}
= 2π {A1δ(ω − ω1) + A2δ(ω − ω2)} ∗ {A∗1δ(ω + ω1) + A
∗
2δ(ω + ω2)}
(1.14)
である。ただし、δ(ω) = δ(−ω)を用いた。ここで、デルタ関数δ(ω − ω0)を畳み込むということは、スペクトルをω0だけ 並行移動させることに相当する
注1.12
から、次式のように計算できる。
Ft[|E(t)|2] = 2π[{|A1|2+ |A2|2}δ(ω) + A1A2∗δ(ω − (ω1− ω2)) + A2A∗1(ω − (ω2− ω1))] (1.15)
式(1.15)の右辺かっこ内の第1項は、ω = 0、すなわち直流成分であり、強度の時間平均が|A1|2+ |A2|2であることを 表している。また、第2項は、周波数ω1− ω2の成分の複素振幅がA1A
∗
2であることを表している。当然ではあるが、式 (1.15)をフーリエ逆変換すると、式(1.8)と一致する。
また、ビートが生じる様子を、周波数領域で考えた様子を図1.4に示す。元の信号(a)と、その複素共役(b)をスペクト ル領域で畳み込む(c)ことで、強度波形に差周波成分(ω1− ω2)が生じる様子がわかる。これがビートに対応する。また、 ビートの位相が位相差(ϕ1− ϕ2)に対応している。
注1.10
付録の式(8.15)を参照。
注1.11
式(1.12)において1/2πのファクタが現れるのは、本稿でのフーリエ変換の定義式(式(1.3-1.4))のように1/2πのファクタを逆フーリエ変換に 押し込めてしまったためである。時間・周波数の対称性を大事にするために、フーリエ変換・逆フーリエ変換の両方に1/
√2πのファクタを含める
定義もある。この場合は、畳み込みの式にも1/
√2πのファクタをつけておく。また、角周波数を用いず、周波数fを用いて複素正弦波をe2πjf t
のように表してフーリエ変換を定義すると、フーリエ変換にも畳み込みにも1/2πのファクタが現れない。
注1.12
式(1.13)からただちにわかる。
babababababababababababababababababababababab
ここでは、ビートについて、時間領域と周波数領域の両方で考えた。それは、強度が時間変化するときには必ず 複数の正弦波が重ね合わせが生じていることを強調しておきたかったからである。現実には、2つの周波数だけの 正弦波の和が生じることはまれであり、非常の多くの正弦波の和(もしくは積分)を考える必要がある場合が多 い。しかしそれは、さまざまな周波数のビートが同時に発生する効果として考えることができる。また、光学で は、ビートが時間-周波数領域だけでなく、空間-空間周波数領域でも現れる。とはいえ、異なる周波数成分の周波 数差及び位相差に対応する強度波形が現れる、という点は、時間領域でも空間領域でも同じなのである。
1.3 パルス波と群遅延分散
前節では、2つの正弦波の和からビートが生まれ、強度波形が正弦波的に変化する様子について考えた。本節では、強度波 形がもっとダイナミックに変化している様子について考えよう。その代表例がパルス波形である。本節では光に限定せず、 時間波形についての性質を述べているが、光は数百THzの高周波であり、その広帯域性を活用すると、数ピコ秒
注1.13
∼数 フェムト秒
注1.14
に至る極めて短時間の光パルスを発生することができる。光パルスにはさまざまな応用があり、超高速光 通信・光計測・光加工などが可能になっている。
ここでは、解析が容易なガウシアン形状のパルスについて、その性質を説明する。その上で、パルス波の重要なパラメー タである時間周波数幅積、瞬時周波数、群遅延、チャープについて説明する。とくに、時間もしくは周波数に対して線形、あ るいは2次関数的に位相を変化させると、パルスがどのように変化するかを説明する。
1.3.1 時間幅とスペクトル幅の関係
まず、周波数ω0の正弦波の複素振幅が、ガウシアン波形で時間変化する状況を考えよう。また、複素振幅の位相は0で あるとする。このとき、複素振幅波形は次式のように表すことができる。
A(t) = A0exp {
−12 ( t
T0
)2}
(1.16)
ここで、A0はt = 0における複素振幅であり、また、T0はパルスの時間幅を表す実数である。式(1.16)のexp内に1/2の ファクタがついているのは、強度波形が
|A(t)|2= |A0|2exp {
− ( t
T0
)2}
(1.17)
となることを意図しており、この表式は広く用いられる。このとき、解析信号はE(t) = A(t)e−iω0t、実信号はRe E(t)で与 えられる。また、A(t)のスペクトルは次式で与えられる
注1.15
。 A(ω) = F˜ t[A(t)] =√2πA0T0exp
{
−1 2(ωT0)
2
}
(1.18)
同様に、解析信号のスペクトルは次式で与えられる。
E(ω) = F˜ t[A(t)e−iω0t] = ˜A(ω − ω0) (1.19)
式(1.16)(1.18)より、複素振幅の強度波形は|A(t)|2、スペクトル強度は| ˜A(ω)|2で与えられる。これらはいずれもガウシア ンと呼ばれるつりがね型の波形をしている。その様子を図1.5に示す。図1.5(b)に示すように、|A(t)|2はt = 0において 最大値|A0|2をとり、t = ±T0において最大値の1/e倍となる。図1.5(d)に示すように、| ˜A(ω)|2はω = 0において最大 値2π|A0|2T2をとり、ω = ±1/T0において最大値の1/e倍となる。(同様に、解析信号のスペクトル強度| ˜A(ω − ω0)|2は
ω = ω0において最大値をとる。)このことから、T0がパルスの時間幅に相当し、1/T0がパルスのスペクトル幅に相当する
ことが予想される。
注1.13
1ピコ秒は10−12秒。光が0.3 mmしか進まない時間。
注1.141
フェムト秒は10−15秒。光が0.3 µmしか進まない時間。
注1.15
ガウシアンのフーリエ変換がFt[exp(−t2/2)] =
√2π exp(−ω2/2)であることと、Ft[f (t)] = ˜F (ω)のときにFt[f (t/T )] = T ˜F (T ω)であるこ
とから導出できる。
!
! ! !
|A(t)| |A(t)|2
|A0|2
|A0|
0 0
0 0
T0 T0
|A0|
√e |A0|
2
∆t e
|A(ω)| |A(ω)|2
t t
√2π|A0|T0 √2π|A0|T0
√e
ω ω
2π|A0|2T02
2π|A0|2T02
e 2π∆ν
T0−1 T0−1
! ! ! ! !
!
!
!
|A0|2/2
! ! ! !
! ! ! ! !
!
!
!
!
!
! ! ! !
π|A0|2T02
(a) (b)
(c) (d)
図1.5 ガウシアンパルスの模式図。(a)時間領域の電場の絶対値。(b) 時間領域の強度波形。(c)周波数領域のスペク トルの絶対値。(d)スペクトル強度。縦軸・横軸のスケールはグラフごとに異なる。
パルスの時間幅やスペクトル幅を表す指標として、半値全幅(full width at half maximum, FWHM)もよく使われる。こ れは、信号強度がピークの半分になる幅を表す。半値全幅を∆tと表すと、
|A(∆t/2)|2= |A(0)|2/2 (1.20)
であるから、これを式(1.16)に代入すると、次式を得る。
∆t = 2√ln 2T0 (1.21)
同様に、スペクトルの強度| ˜A(ω)|2に関してもFWHMを定義することができる。慣例的に、(角周波数でなく)周波数幅で 表したFWHMとして∆νが用いられる。
| ˜A(2π∆ν/2)|2= | ˜A(0)|2/2 (1.22)
であるから、次式を得る。
∆ν =
√ln 2 πT0
(1.23)
式(1.21)、(1.23)より、式(1.16)で表されるパルス波に対しては
∆t∆ν = 2 ln 2
π ∼ 0.441 (1.24)
が成り立つ。式(1.24)よりわかることは、時間幅の短いパルス波形を得るためには時間幅の逆数以下の広い帯域幅が必要、 ということである。そして、式(1.24)の値をガウシアン波形の最小時間帯域幅積という
注1.16
。
1.3.2 瞬時周波数と群遅延
次に、時間波形とスペクトルにおける位相の役割について考えてみよう。まず、式(1.16)で表される複素信号に対してΩ だけ周波数シフトを与えた状況を考える。このとき、複素信号はA(t)e
−iΩt
となる。その位相をϕ(t)とすると、
ϕ(t) = arg A(t) + arg e−iΩt = arg A0− Ωt (1.25)
であるから、次式を得る。
−dϕ(t)
dt = Ω (1.26)
式(1.26)は、位相の時間微分(の-1倍)が周波数の情報を有することを示している。このことから、A(t)がガウシアンであ
る場合に限らず、式(1.26)の左辺に現れる−
dφ(t)
dt 、すなわち解析信号の時間微分を瞬時周波数という。 次に、A(t)を時間τだけ遅らせた波形A(t − τ)について考えよう。そのスペクトルは、
Ft[A(t − τ)] = ˜A(ω)eiωτ (1.27)
注1.16
後に述べるように、帯域幅が広いとしても、時間幅が短いとは限らない。
である。このスペクトルの位相をϕ(ω)˜ とすると、
ϕ(ω) = arg[ ˜˜ A(ω)eiωτ] = arg ˜A(ω) + arg eiωτ= arg A0+ ωτ (1.28)
であるから、次式を得る。
d ˜ϕ(ω)
dω = τ (1.29)
これは、複素信号のスペクトルの位相を周波数で微分したものが、時間遅延に対応することを表している。このことから、 A(ω)˜ がガウシアンである場合に限らず、式(1.29)の左辺に現れる
d ˜φ(ω)
dω 、すなわちスペクトルの位相を角周波数で微分し たものは群遅延と呼ばれる。式(1.29)は、ビートの場合の群遅延(式(1.9))において、周波数差を小さくした極限であるこ ともわかる。
babababababababababababababababababababababab
このように、時間領域での線形な位相変化は周波数シフトに対応し、周波数領域での線形な位相変化は時間シフト に対応する。これはフーリエ変換のシフト則や時間・周波数の対称性を考えると当り前ではあるものの、大変重要 な性質である。
1.3.3 チャープと群遅延分散
前節で考えたガウシアン波形は、瞬時周波数が時間とともに変化しないもの、かつ、群遅延が周波数によらないもので あった。実際のパルス波形では、群遅延が周波数に依存する、すなわち、パルスを構成するスペクトル成分が周波数に応じ て異なる群遅延をもつような状況がよく現れる。例えば、光ファイバ中を光パルスが伝搬すると、光周波数に応じて伝搬速 度が異なるために、伝搬後の各スペクトル成分の群遅延が異なってしまい、パルスが時間方向に広がるのである。そのよう な状況について、パルスの強度波形がガウシアンであると仮定して、解析をしてみよう
注1.17
。
まず、瞬時周波数が時間とともに変化する状況を考えよう。このような状況を、パルスがチャープを有する、という
注1.18
。 とくに、瞬時周波数が時間に対して線形に変化する、線形チャープを有するパルスについて考える。その複素振幅は、式
(1.16)のかわりに、A(t)を次式のように定義することで表すことができる。
A(t) = A0exp {
−1 + iC2 ( t
T0
)2}
= A0exp {
−12 ( t
T0
)2}
exp {
−iC2 ( t
T0
)2}
(1.30)
ここで、Cはチャープパラメータと呼ばれる。この波形の位相は、 ϕ(t) = arg A0−
C 2
( t T0
)2
(1.31)
であるから、瞬時周波数は
−dϕ(t)dt =CtT2 0
(1.32)
のように、時間とともに線形に変化することがわかる。C > 0であれば、時間とともに瞬時周波数は高周波化する。この状 況をアップチャープという。一方、C < 0であれば、時間とともに瞬時周波数は低周波化する。この状況をダウンチャー プという。
複素振幅がチャープを有するときのスペクトルの位相を求めてみよう。若干技巧的であるが、式(1.30)は式(1.16)にお いてT0−→ T0/
√1 + iCとおいたものであるから、そのフーリエ変換は、式(1.18)において同様の置き換えをすることで
注1.17
スペクトルの強度と位相がわかれば、計算機を使ってフーリエ変換を行うことで、ガウシアン以外の波形でも計算できるが、解析しやすい波形を 使って考えておくと、さまざまな示唆が得られるし、ここで得た知見は他の場面でも応用できる。
注1.18
Chirpとは英語で小鳥のさえずり(チュン、チュン)を意味する。Chirpという言葉の中で、母音の音の高さが時間とともに低く変化していること に由来する。
次式のように求められる
注1.19
。 A(ω) =˜
√2πA0T0
√1 + iC exp {
− (ωT0)
2
2(1 + iC) }
=
√2πA0T0
√1 + iC exp {
− (ωT0)
2
2(1 + C2) }
exp {
i C(ωT0)
2
2(1 + C2)
} (1.33)
従って、スペクトル強度とスペクトル位相は次式のように求められる。
| ˜A(ω)|2= 2π|A0|
2T2
√ 0
1 + C2 exp {
− ( ωT
√ 0
1 + C2 )2}
(1.34)
ϕ(ω) = arg ˜˜ A(ω) = −1
2arctan C +
C(ωT0)2
2(1 + C2) (1.35)
式(1.35)より、群遅延は次式のように求められる。
d ˜ϕ(ω) dω =
CT02ω
1 + C2 (1.36)
式(1.34)-(1.36)より、C = 0の場合と比較してスペクトル幅が
√1 + C2倍になること、スペクトル位相が周波数の自乗に
比例して変化すること、群遅延が周波数とともに変化することがわかる。このとき、時間帯域幅積も
√1 + C2倍になる。
同様に、スペクトル位相がω2に比例して変化する場合を考えよう。そのために、スペクトル位相をω = 0のまわりで テーラー展開し、次式のように表すとよい。
ϕ(ω) = ϕ˜ 0+ ϕ1ω +1 2ϕ2ω
2+ . . . (1.37)
ただし、ϕ0は複素振幅全体の位相を変化させるだけで、強度波形には影響しない。ϕ1=
d ˜φ
dω|ω=0はω = 0における群遅延
を表す。ϕ2は群遅延のω依存性を表す項であり、群遅延分散と呼ばれる。そこで、簡単のためにϕ0= ϕ1 = 0とおき、ϕ2 がパルスに及ぼす影響を見てみよう。式(1.18)で表されるガウス波形のスペクトルに対して、式(1.37)で表されるスペク トル位相が加わった状況を考えると、複素振幅のスペクトルは次式のようになる。
A(ω) =˜ √2πA0T0exp {
−12(ωT0)2 }
exp( i 2ϕ2ω
2
)
=√2πA0T0exp {
−1 2(T
02− iϕ2)ω2
} (1.38)
計算を簡単にするために、φ = ϕ2/T02とおくと、式(1.38)は
A(ω) =˜ √2πA0T0√1 − iφ exp{−12T02(1 − iφ)ω2
} 1
√1 − iφ (1.39)
の よ う に 変 形 で き る の で 、そ の フ ー リ エ 逆 変 換 は 式 (1.16)に お い て T0 −→ T0
√1 − iφと い う 置 換 え を 行 っ た 上 で 、
1/√1 − iφというファクタを掛ければよい。結果のみ示すと、強度波形及び位相は以下のように求められる。
|A(t)|2= |A0|
2
√1 + φ2exp
−
( t
T0√1 + φ2 )2
(1.40)
ϕ(t) = arg A(t) = 1
2arctan φ −
φt2
2T02(1 + φ2) (1.41)
従って、瞬時周波数は次式のように求められる。
Ω(t) = −dϕdt = T2 φt 0(1 + φ2)
(1.42)
式(1.40)(1.42)より、群遅延分散によって、パルス幅が√1 + φ2だけ広がること、また、瞬時周波数が時間とともに線形に
変化し、チャープをもつことがわかる。
注1.19
「時間幅が複素数になるというのは納得できない」という感覚は真っ当であり、大事だと思う。きちんと計算するには、ガウス関数の複素積分をす ればよい。
1.4 位相速度と群速度
ここまで、ある一点における時間波形について考えてきた。次に、その時間波形が、波として伝搬する状況を考えよう。 簡単のため、光ファイバのように一次元の媒質を考える。周波数ωで時間変化する波がz方向に進むとき、その解析信号は
E(z, t) = A0exp i(kz − ωt) (1.43)
で与えられる。ここで、A0はz = 0における複素振幅である。また、kは波数と呼ばれる。波長をλとして、zがλだけ変 化すると波の位相が2π変化することから、
k = 2π
λ (1.44)
の関係がある。また、時間が∆tだけ変化すると、
E(z, t + ∆t) = A0exp i {kz − ω(t + ∆t)} = A0exp i{k(z −ω k∆t
)− ωt} (1.45)
のように波の位置がω∆t/kだけ変化する。同様に、位置が∆zだけ変化した状況を考え、 E(z + ∆z, t) = A0exp i {k(z + ∆z) − ωt} = A0exp i
{ kz − ω
(
t −ωk∆z )}
(1.46)
のように(k/ω)∆zの時間遅延が生じると考えてもよい。いずれにせよ、この波は速度ω/kでz方向に移動することがわか
る。このように正弦波が伝搬する速度のことを位相速度(phase velocity)と呼び、vp= ω/kと表す。
ビートが伝搬する速度は、位相速度と異なる場合が多いので注意が必要である。周波数ω1、ω2の2つの正弦波が伝搬 する場合を考え、それぞれの波数をk1、k2とする。伝搬距離をzとすれば、伝搬に伴う位相変化はk1z、k2zであるから、 ビートには
τ = k1z − k2z ω1− ω2
= k1− k2 ω1− ω2
z (1.47)
の時間遅延が生じる。これは、ビートが速度ω1
−ω2
k1−k2 で伝搬することを表す。このときのビートの伝搬速度を群速度といい、 vg= ωk11−−ωk22 と表す。
パ ル ス に 対 し て も 同 様 に 考 え る こ と が で き る 。群 遅 延 は 式(1.29)よ りd ˜ϕ(ω)/dωで あ る 。波 数 を 周 波 数 の 関 数 と し て k(ω)と表し、伝搬距離をzとすれば、各周波数成分の位相が波数k(ω)zだけ変化する。このとき、群遅延は
τ = dk(ω)
dω z (1.48)
だけ変化する。これはパルスの強度波形が速度(dk(ω)/dω)
−1
で伝搬することを示している。これも群速度(group velocity) と呼び、vg= dω/dkと表す。
なお、物質中を光が伝搬する場合、群速度が周波数に応じて変化する場合がよくある。この現象を群速度分散という。群 速度分散のある媒質中を光パルスが伝搬すると、光パルスに群遅延分散が生じ、時間幅が広がるとともに、ピーク強度が低 くなる。これは、時間幅の短い光パルスを用いる光通信やレーザー加工、レーザー顕微鏡等において考慮すべき重要な効果 である。
0 5 t
|A(t)|2
ω 0
|A(ω)|2
(a) (b)
t1
t2
2π/(t1− t2)
図1.6 スペクトル干渉の様子の例。t1= 9、t2= 3、A1= A2= 1として計算した。(a)時間領域の強度波形。(b)ス ペクトル強度波形。周期2π/(t1− t2)で振動する。また、振動の位相は2つのパルスの位相差に依存する。ここでは、 arg A1= arg A2= 0なので、スペクトル干渉の位相も0となる。
babababababababababababababababababababababab
2015年現在、光ファイバ通信ではファイバ1本あたり毎秒1ペタビット(1015 bit/s)の大容量伝送が達成されて いる。これは、複数(100程度)の波長の光を使う波長多重通信の技術とともに、ファイバ1本に10本以上の光 の通り道(コアと呼ばれる)を設けるマルチコアファイバの技術を併用することで達成される。ひとつの波長、ひ とつのコアを通る信号は毎秒100ギガビット(109 bit/s)程度の伝送速度を有する。そのような信号は、数十ピコ 秒という非常に短い光パルスを高度に制御して情報を重畳することで生成される。一方、光ファイバは群速度分散 を有するので、パルスが簡単に広がってしまうのである。従来の光通信では、光の強度情報だけを受信していた。 そのような場合、パルスが時間的に広がってしまうと、隣接するビットと重複してしまい、伝送エラーが生じてし まう。この問題を回避するため、光ファイバの群速度分散を高度に制御する研究が盛んに行われた。一方、最近で は受信端でレーザ光を別途用意し、伝送された光パルス信号とのビートを検出するディジタルコヒーレント光通信 技術が広く使われるようになった。ビートから伝送信号の振幅と位相、すなわち複素振幅がわかるので、ディジタ ル処理によってコンピュータ内でスペクトル位相を補正することができる。このため、群速度分散によって光パル スが時間的に広がったとしても、エラーなく信号を受信することができる。また、光強度ではなく光の複素振幅を 用いて情報を送ることで、信号を多重化でき、1チャネルあたりの容量の増大が可能となった。
1.5 スペクトル干渉とパルス列
光パルスがある時間間隔だけ離れて2個存在する状況を考えよう。そのような状況の複素振幅は、次式のように表すこと ができる。
A(t) = A1exp {
−12( t − tT 1
0
)2}
+ A2exp {
−12( t − tT 2
0
)2}
= exp {
−12 ( t
T0
)2}
∗ {A1δ(t − t1) + A2δ(t − t2)}
(1.49)
このフーリエ変換は、
A(ω) =˜ √2πT0exp {
−(ωT0)
2
2 }
{A1exp(iωt1) + A2exp(iωt2)} (1.50)
であるから、そのスペクトル強度は、
| ˜A(ω)|2= 2πT02exp{−(ωT0)2} [|A1|2+ |A2|2+ 2A1A∗2Re exp {iω(t1− t2)}] (1.51)
となり、スペクトル強度が振動することがわかる。これはスペクトル干渉と呼ばれる。スペクトル干渉は、異なる時間に存 在する2成分が周波数軸の振動を作っている。これは、ビートの時間と周波数を入れ替えたものに対応している。スペクト ル干渉の位相を検出すると、一方のパルスのスペクトル位相が既知であれば、もう一方のパルスのスペクトル位相もわかる。 ことから、スペクトル干渉はさまざまな光計測技術において利用される。
パルスを時間的に等間隔で並べたものをパルス列という。その複素振幅は、次式のように表されるであろう。
A(t) =
∞
∑
m=−∞
A0exp {
−12( t − mTT
0
)2}
= A0exp {
−12 ( t
T0
)2}
∗
{ ∞
∑
m=−∞
δ(t − mT ) }
(1.52)