第 6 章 屈折と反射 50
6.3 フレネルの式
屈折率の異なる境界面では、屈折と同時に反射が生じる。反射光の強度は境界面の垂線と光の進行方向がなす角度(入射 角)や偏光方向に依存して変化する。この様子を表す式をフレネルの式という。とくに重要な性質として、特定の偏光・入 射角で反射が0になる現象がある。このときの入射角をブリュースター角という。ここでは、反射がインピーダンスの違い によって生じることを示すとともに、各偏光に対する反射率を求めよう。
6.3.1 電場・磁場の境界条件
フレネルの式を導出する上では、異なる媒質の境界において電場・磁場がどのように変化するか、という境界条件を用い る。マクスウェル方程式から、媒質の境界面において以下の4つの条件が成り立つ必要がある。
1. Dの境界面に垂直な成分が連続。
2. Eの境界面に平行な成分が連続。
3. Bの境界面に垂直な成分が連続。
V
ǫ1 ǫ2
D
DD1·n−DDD2·n= 0 B
BB1·n−BBB2·n= 0 (a)
ǫ1 ǫ
2
S (b)
EEE1 EEE2
DD
D1=ǫ1EEE1 DDD2=ǫ2EEE2
x
z
ǫ1<ǫ2
E1x=E2x
ǫ1E1z=ǫ
2E2z
!!
"!
P P P2
"!
!!
PPP1
!!
!!
!!
!!
!!
!!
!!
!!
"!
"!
"!
"!
(c)
D1z=D2z
D1x
ǫ1
=D2x
ǫ2
x
z
Ex1−Ex2= 0 Hx1−Hx2= 0 n
図6.3 屈折率・誘電率の異なる境界面における境界条件。(a)境界面に垂直な成分の積分範囲。(b) 境界面に平行な成 分に対する積分路。(c)ϵ1< ϵ2の場合の電場E、分極P、電束密度D、表面電荷の模式図。
4. H の境界面に平行な成分が連続。
性質1, 3は図6.3(a)においてガウスの定理を適用することで、また、性質2, 4は図6.3(b)においてストークスの定理を
適用することで得られる。
上述の説明はあまりに天下り式なので、イメージを説明しておこう。光に対しては媒質による誘電率の違いのみが電場 に影響をおよぼす一方、透磁率は媒質によらず一定である。そこで誘電率が電場に与える影響を考えよう。例として、図
6.3(c)のようにϵ1< ϵ2であるとし、媒質中には内部電場に比例した分極が生じているとする。分極は電荷の位置の偏りで
あるため、空間平均では正味の電荷は0となる。しかし、境界面においては分極由来の表面電荷が生じ、この表面電荷が誘 電体内部の電場を弱める働きをもつ。このとき、表面電荷は平面上に分布しているため、これがつくる電場は境界面に垂直 である。したがって、境界面に垂直な電場は変化するが、境界面に平行な電場は変化しない。このために、上記の性質1、2 が成り立つ必要がある。
一方、透磁率は光周波数においてほぼ0なので、媒質によって磁場が変化する要因が無い。このために、磁場は媒質の境 界面でも連続となる。
6.3.2 垂直入射時の反射率
まず、図6.4に示すように、境界面に対して垂直に平面波が入射する状況を考えよう。境界面の前後でのインピーダンス をZ1、Z2とし、屈折率をn1、n2としよう。入射波の複素振幅を1に規格化し、反射波、透過波の複素振幅をr、tとする。
電場は境界面に平行であるので、このときの電場の連続性から
1 +r=t (6.18)
が成り立つ必要がある。磁場は、電場をインピーダンスで割った値であるが、反射波の進行方向が入射波と逆方向であるた め、磁場の正負は反転する。このとき、磁場の連続性から
1 Z1
(1−r) = t Z2
(6.19) が成り立つ必要がある。式(6.18)(6.19)(6.10)より、次式を得る。
r= Z2−Z1
Z2+Z1
= n1−n2
n1+n2
(6.20) t= 1 +r= 2Z2
Z2+Z1
= 2n1
n1+n2
(6.21) これらは、分布定数回路における反射の式と同じである。すなわち、屈折率境界における反射は電場と磁場の比(インピー ダンス)が媒質によって異なることに起因していることがわかる。
また、n1< n2のとき、rが負となり、入射波と反射波の電場の符号が反転することがわかる。これは、媒質2のインピー ダンスが低いために、電場にとって固定端反射になるから、と考えることができる。逆に、n1> n2のとき、rは正となり、
入射波と反射波の電場の符号は同相となる。
ǫ1 ǫ
2
E= 1 H = 1/Z1
S S
S E=t
H=t/Z2 S S S SSS
E =r
H=−r/Z1
図6.4 屈折率境界に垂直入射する場合の電場・磁場の定義。
H= 1/Z1 E= 1
H= 1/Z1 E= 1
E=r
s
H=rs/Z1
E=ts
H=ts/Z2
ǫ1 ǫ2 ǫ
1 ǫ2
θ1 θ1
θ2
θ1 θ1
θ2
(a) (b)
E=rp x
y z
H=tp/Z2
E=t
p
H=rp/Z1
図6.5 屈折率境界に斜め入射する場合の電場・磁場の定義。太線はポインティングベクトルの方向を表す。(a) s偏光。(b) p偏光。
6.3.3 斜め入射時の反射率
斜め入射時は、電場の連続条件を適切に考慮する必要がある。前節で議論したように、境界面に垂直な電束密度が等しく なる一方、その他の電場・磁場が境界面で連続、という条件を用いることで、反射率を求めることができる。
s偏光とp偏光
入射角が0でない場合、入射光の進行方向と、境界面の垂線がなす面を考えることができる。この面を入射面という。入 射光の偏光方向が入射面に垂直な場合をs (Senkrecht、垂直の意味)偏光といい、入射面に平行な場合をp (parallel)偏光と いう。図6.5に示すように、入射面が紙面に平行であるとし、屈折率n1の媒質1から屈折率n2の媒質2に入射した場合の 反射率を求めよう。
s偏光に対する反射率
まず、s偏光の反射の様子を考えよう。図6.5(a)に示す状況において、Ex=Ez =Hy= 0であるから、残る3成分Ey、 Hx、Hzについて境界条件の式を立てると以下の3式を得る。
1 +rs=ts (6.22)
n1(−1 +rs) cosθ1=−n2tscosθ2 (6.23) n1(1 +rs) sinθ1=n2tssinθ2 (6.24) ただし、反射波・透過波の電場の複素振幅をrs、tsとした。式(6.22)を式(6.24)に代入すると、これは単なるスネルの式 である。一方、式(6.22)を式(6.23)に代入すると、次式を得る。
rs= n1cosθ1−n2cosθ2
n1cosθ1+n2cosθ2
= sinθ2cosθ1−sinθ1cosθ2
sinθ2cosθ1+ sinθ1cosθ2
= sin(θ2−θ1) sin(θ2+θ1)
(6.25)
当然ながら、θ1= 0のとき、上式は式(6.20)に一致する。
p偏光に対する反射率
図6.5(b)に示す状況において、Ey =Hx =Hz= 0であるから、Ez,Ex,Hyについて境界条件の式を立てると次式を 得る。
ϵ1(1−rp) sinθ1=ϵ2tpsinθ2 (6.26)
(1 +rp) cosθ1=tpcosθ2 (6.27)
n1(1−rp) =n2tp (6.28)
ただし、反射波・透過波の電場の複素振幅をrp、tpとした。式(6.28)を式(6.26)に代入すると、これは単なるスネルの式 である。一方、式(6.28)を式(6.27)に代入すると、次式を得る。
rp =n1cosθ2−n2cosθ1
n1cosθ2+n2cosθ1
=sinθ2cosθ2−sinθ1cosθ1
sinθ2cosθ2+ sinθ1cosθ1
=sin 2θ2−sin 2θ1
sin 2θ2+ sin 2θ1
=sin(θ2−θ1) cos(θ1+θ2) cos(θ2−θ1) sin(θ1+θ2)
=tan(θ2−θ1) tan(θ2+θ1)
(6.29)
当然ながら、θ1= 0のとき、上式は式(6.20)に一致する。また、式(6.29)においてθ1+θ2=π/2のときr= 0となるこ とがわかる。このときの入射角をブリュースター角という。
ブリュースター角で入射したとき、境界面では何が起きているのであろうか。ブリュースター角で入射すると、反射光と 透過光がなす角度が90度となる。光の反射・屈折が誘電率の違いに起因していることを考えると、反射波を作るのは、透過 光がつくる分極である、と考えることができる。分極の振動が新たに光を放射することで、透過光の屈折の効果と反射の効 果を生み出す。このとき、分極の振動方向には光を放射することができないため、ブリュースター角において反射波強度が 0となる。このような効果が生じるのはp偏光のみである。s偏光に対しては、入射角によらず入射波・反射波・透過波の電 場の振動方向が平行であるため、反射波は入射角によらず常に生じる。
全反射とグース・ヘンシェンシフト
すでに述べたように、n1> n2のとき、入射角が臨界角を越えると全反射が生じる。このとき、cosθ2=±√
1−sin2θ2=
±√
1−nn2122sin2θ1=±i√n2 1
n22 sin2θ1−1が虚数となり、反射率は複素数となる。これは、全反射時に位相シフトが生じるこ とを表している。この位相シフトは、rs、rpの位相から以下のように計算される。
rs= n1cosθ1−n2cosθ2
n1cosθ1+n2cosθ2
= n1cosθ1∓i√
n21sin2θ1−n22 n1cosθ1±i
√
n21sin2θ1−n22
∴argrs=∓2 tan−1
√
n21sin2θ1−n22 n1cosθ1
(6.30)
rp =n1cosθ2−n2cosθ1
n1cosθ2+n2cosθ1
=±in1
√n2 1
n22sin2θ1−1−n2cosθ1
∓in1
√n2 1
n22sin2θ1−1−n2cosθ1
∴argrp =∓2 tan−1n21 n22
√
n21sin2θ1−n22 n1cosθ1
(6.31)
この位相シフトは、エバネッセント波が媒質2に浸み出すことによって光路長が実効的に長くなるように見えることに起
因している。このことを考慮すると、位相シフトは正の値を持ち、以下のようになる。
argrs= 2 tan−1
√
n21sin2θ1−n22 n1cosθ1
(6.32)
argrp= 2 tan−1n21 n22
√
n21sin2θ1−n22
n1cosθ1 (6.33)
この位相シフトがあるために、あたかも反射点の位置がずれたように見える。このことをグース・ヘンシェンシフトと いう。
屈折率と入射角をうまく選んでやると、p偏光とs偏光に対して位相差を与えることができる。そのようなデバイスをフ レネルロムという。フレネルロムは波長が変化しても位相差の変化が小さいため、幅広い波長にわたって動作する波長板を 実現するために用いられる。
第 7 章
時間領域の光学
前章までは、単一周波数の光を考え、その空間伝搬を議論した。一方、実際の光は単一周波数の光ではないし、また、光周 波数が変化すると、光の振る舞いも変わるはずである。実際、空間伝搬の様子は光周波数に依存するし、レンズ等に使われ る透明材料の屈折率も光周波数によって異なる。ただしこれらの効果は光周波数が大きく変わる(およそ1割以上)場合に 顕著となる。一方、光学系を工夫すると、光周波数がほんのわずかに変化しただけで光の振る舞いが変化するようにし、周 波数フィルタなどの機能を生むことができる。周波数特性があるということは、それに対応するインパルス応答があるとい うことであり、周波数特性が急峻に変化するということは、その急峻さに対応するような応答の時間遅れがあるということ である。そのような光学系は、光路を工夫して時間遅れを作っているため、光学系がそのまま時間領域の応答に対応する場 合が多い。ここでは、光学系の時間領域の応答と周波数特性について議論する。