第 6 章 屈折と反射 50
7.4 回折格子
θ ψ A
B C
D E θ
d
n1 n2 n1
F G
M1 M2
H
図7.6 FP干渉計に斜め入射した場合の光路の模式図。共振器内外で屈折率が異なる状況を示している。
θ
d
A B
C
kx
ψ θ
ψ
kz kG= 2π/d
m= 0
m= 1 m= 2 m= 3 m=−1 2π/λ
x
y z
k1
k2
(a) (b)
図7.7 回折格子の構造(a)と波数領域での描像(b)。
透過率が全ての光周波数にわたって一定である状況を仮定することで、FP干渉計のインパルス応答をデルタ関数列と考え ることができる。これによって、FP干渉計の直感的なイメージを持つことができる。
(a) (b) (c) (d) (e)
図7.8 さまざまな種類の回折格子。(a)振幅型回折格子。(b)位相型回折格子。(c)位相型・ブレーズド回折格子。(d) 反射型・ブレーズド回折格子。(e)ブラッグ回折格子。
せなかったりしている。これは、位置に依存した振幅変調を与えている、といえる。振幅変調パターンをxの関数として M(x)と表すと、次式のように書けるであろう。
M(x) =∑
n
rect
(x−nd d/4
)
(7.25)
ただし、回折格子の光透過部の幅をd/2とした。また、グレーティング面に入射角θで入射する平面波の複素振幅は次式で 表される。
A(x, z) = exp{i(kxx+kzz)}
= exp{i(ksinθx+kcosθz)} (7.26)
この平面波がz= 0においてグレーティングに入射すると、その射出面の電場はA(x,0)M(x)と表される。このフーリエ変 換は、それぞれのフーリエ変換の畳み込みとなる。M(x)は周期構造なので、フーリエ変換すると、kG= 2mπ/dごとに成 分を持つであろう。したがって、射出面直後の電場から伝搬できる光のx方向の波数は、元の波数と比較して2mπ/dだけ 変化することになる。このことから、回折光の伝搬方向は図7.7(b)のように求めることができる。また、各回折次数に対す る回折光の振幅は、M(x)のフーリエ変換で与えられることがわかる。
なお、ここでは光の振幅が空間的に変調される状況を考えたが、位相を変調してもよい。その場合は、変調の様子は
M(x) = exp{iϕ0cos(kGx)} (7.27)
と表されるであろう。M(x)のフーリエ変換は、複数の線スペクトルからなり、各次数の振幅がベッセル関数で表される。
これから各回折次数の回折光強度が求められる。
7.4.2 さまざまな回折格子
回折格子にはさまざまな種類がある。その例を図7.8に示す。(a)は光の振幅を空間的に変調する振幅型回折格子である。
(b)は材料の厚さを周期的に変化させ、屈折率分だけ光路長の空間的な変化を与えることで光の位相を変調する、位相型回 折格子である。(c)のように、構造に方向性を持たせたブレーズド回折格子も良く使われる。これは屈折を用いて光の伝搬 方向をある方向に集中させており、これによって特定の次数の回折光強度を高めることができる。(d)は反射型回折格子で ある。反射型回折格子ではブレーズド型が使われることが多い。(e)は材料内部に屈折率の高い部分と低い部分を作り込ん だものであり、ブラッグ回折格子、あるいは厚い回折格子と呼ばれる。回折格子が厚みを有するため、回折格子のkベクト ルkGのkz方向の広がりが小さい。このため、入射光と回折光のkベクトルをk1、k2として、k1−k2=kGが満たされ るように入射角と回折格子の方向を合わせる必要がある。逆に、入射角がうまく合っていない場合は回折が起こらない。
厚い回折格子の一種に、音響光学素子がある。これは、圧力によって屈折率が変化する圧電素子を用いて、そこに音波を 伝搬させることで、屈折率の構造を作りだし、ブラッグ回折させるものである。音波をON/OFFすることで、回折光を
ON/OFFできるため、光スイッチとして使われる。また、音波の伝搬とともに回折格子が音速で動くため、回折光は音波の
周波数だけドップラーシフトする。このことを用いて、音響光学素子は周波数シフタとしても用いられる。
7.4.3 インパルス応答と周波数特性
これまで、回折格子に単色の光が入射する状況を考えてきた。一方、複数の波長成分を含む光を回折格子に入射すると、
回折格子の射出光は波長ごとに異なる方向に伝搬する。したがって、回折格子から充分に離れたある場所において光を検出
t ω
2π/τ 4π/τ
−2π/τ
−4π/τ
2πd/τD
0 τ
τD/d
(a) (b)
図7.9 回折格子のインパルス応答(a)とそのフーリエ変換(b)。
すると、単一波長の光が検出されるはずである。これは、光のフィルタリングを行っていることに相当する。光のフィルタ リングを行う、ということはそれに対応するインパルス応答があるはずである。
たとえば、回折格子の空間的な幅をDとすると、回折格子の開口はD/d本ある。隣接する開口を経由する光路長の差は mλであり、これを伝搬時間に直すとmλ/cである。これをτ=mλ/cとおこう。回折格子全体にインパルス的な平面波を 入射し、回折光を遠方で計測すると、図7.9(a)に示すようなインパルス列となるであろう。インパルスの時間間隔はτ、イ ンパルス列全体の時間はτ D/dとなる。これは、rect関数とcomb関数の掛け算であるから、そのフーリエ変換はsinc関数 とcomb関数の畳み込みになる。このとき、2π/τ の整数倍の周波数に透過特性が現れ、その透過帯域幅はおよそ2πD/τ d となる。このように、回折格子は入射光にインパルス列を畳み込むことで角度に応じた周波数フィルタリングを行うデバイ スであることがわかる。
なお、上記の議論は回折格子に一様強度のビームを入射する場合に関するものである。たとえば回折格子にガウシアン ビームを入射する場合は、インパルス応答がガウシアンとcomb関数の掛け算となるため、そのフーリエ変換もガウシアン とcomb関数の掛け算となる。このとき、ビーム径に応じて周波数特性が異なり、ビーム径が大きいほど透過帯域幅が狭く なる。
第 8 章
付録
8.1 フーリエ変換
8.1.1 時間領域の一次元フーリエ変換
S(t)の一次元フーリエ変換・逆変換は次式で与えられる。
F[S(t)]≡S(ω)˜ ≡
∫
S(t) exp(iωt)dt (8.1)
F−1[ ˜S(ω)]≡S(t)≡ 1 2π
∫ S(ω) exp(˜ −iωt)dω (8.2)
これは、U(t, ω) = exp(−iωt)/√
2πが正規直交基底であること、すなわち
∫
U(t, ω1)U∗(t, ω2)dt=δ(ω1−ω2) (8.3)
であることを用いている。ただし、δ(ω)はデルタ関数であり、
∫
δ(ω)dω= 1 (8.4)
かつω̸= 0においてδ(ω) = 0である。
式(8.1)ではU(t, ω)との内積を取るためにU∗(t, ω) = exp(iωt)/√
2πとの積分を計算していること、式(8.2)では内積 の値を用いてU(t, ω)の重ねあわせを計算していることがわかる。この様子は、式(8.1)(8.2)を次のように変形するとより 明らかになるであろう。
S(ω)˜
√2π =
∫
S(t)U∗(t, ω)dt (8.5)
S(t) =
∫ S(ω)˜
√2πU(t, ω)dω (8.6)
式(8.1)(8.2)で定義されるフーリエ変換の流儀は、時間・周波数の対称性が良くない。とはいえ多くの分野で使われてい
る。この定義にも良い所がある。たとえば、積分の意味が直感的にわかりやすく、S(0)˜ がS(t)を全時間で積分した値とな る。また、時間領域での畳み込みが周波数領域で単純な掛け算となる。(対称な定義にすると、畳み込みの際に1/√
2πをか ける必要がある。)
ここで、U(t, ω)が正規直交基底となることを証明しておこう。まず、U(t, ω)に時間幅T のガウシアンの窓関数を掛け、
あとでT → ∞の極限をとる。すなわち、
U(t, ω) = lim
T→∞
√1 2πexp
{
−1 2
(t T
)2}
exp(−iωt) (8.7)
としておくと、次式を得る。
U(t, ω1)U∗(t, ω2) = lim
T→∞
1 2πexp
{
− (t
T )2}
exp{−i(ω1−ω2)t} (8.8)
ここで、ω′≡ω1−ω2とすると、
U(t, ω1)U∗(t, ω2) = lim
T→∞
1 2πexp
{
− (t
T )2}
exp{−iω′t}
= lim
T→∞
1 2πexp
{
−t2−iω′T2t T2
}
= lim
T→∞
1 2πexp
{
−(t−iω′T2/2)2 T2
} exp
(
−ω′2T2 4
)
(8.9)
であるから、式(8.3)の左辺は、
∫
U(t, ω1)U∗(t, ω2)dt= lim
T→∞
1 2πexp
(
−ω′2T2 4
) ∫ exp
{
−(t−iω′T2/2)2 T2
} dt
= lim
T→∞
T√ π 2π exp
(
−ω′2T2 4
) (8.10)
となる。これは、ガウシアンの幅を0にした極限であり、その面積は、
T√π 2π
∫ exp
(
−ω′2T2 4
)
dω′= T√π 2π
2√π
T = 1 (8.11)
となる。したがって式(8.3)の左辺はδ(ω′)となる。
8.1.2 畳み込みと積の関係
フーリエ変換のご利益は、時間領域の畳み込みが周波数領域で掛け算になること、また、周波数領域の畳み込みが時間領 域で掛け算になることである。ただし、上記のような時間・周波数の定義の非対称性ゆえに、1/2πのファクタがついたりつ かなかったりする点に注意が必要である。
ここでは、時間信号F(t)、G(t)のフーリエ変換がそれぞれF˜(ω)、G(ω)˜ であるとして、畳み込みの関係を計算してお こう。
まず、畳み込みを次式で定義しよう。
F(t)∗G(t)≡
∫
F(τ)G(t−τ)dτ (8.12)
この意味は、次のように理解できる。まず、F(t)を時間τにおけるデルタ関数δ(t−τ)の重ねあわせとして表す。その際の 重み付けの係数をF(τ)とする。このとき、
F(t) =
∫
F(τ)δ(t−τ)dτ (8.13)
そのデルタ関数をG(τ−t)に置き換えることで、式(8.12)を得る。畳み込みのフーリエ変換は次式のように計算できる。
F[F(t)∗G(t)] =
∫ ∫
F(τ)G(t−τ) exp(iωt)dτ dt
=
∫ ∫
F(τ)G(t−τ) exp{iω(t−τ)}exp(iωτ)dτ dt
=
∫ ∫
F(τ)G(t′) exp(iωt′) exp(iωτ)dτ dt′
= ˜F(ω) ˜G(ω)
(8.14)
ただし、t′ =t−τとおいた。ここから、時間領域の畳み込みは周波数領域で積となることがわかる。一方、時間領域の積を