第 4 章 レンズ 31
4.2 レンズ公式
図4.1(c)において、点AおよびBからレンズまでの距離をa、bとする。点Aに点光源をおくと、レンズにおいては曲
率半径a、すなわち曲率1/aのビームとなる。レンズはビームの曲率を1/fだけ変化させる。その後、点Bに向かうとすれ ば、ビームの曲率半径がb、すなわちビームの曲率は −1/bである。これを式で表すと、
1 a−1
f =−1
b (4.1)
であるから、これを変形すると、レンズ公式が得られる。
1 a+1
b = 1
f (4.2)
注4.1
ここでは、発散する光の波面の曲率を正、収束する光の波面の曲率を負とする。
f 波面の曲率:
曲率半径: 波面の曲率:
曲率半径: −f
−1/f
∞ 0
(a)
波面の曲率:
曲率半径: 波面の曲率:
曲率半径:
a
1/a
−b
−1/b
b a
A B
波面の曲率:
曲率半径: 波面の曲率:
曲率半径: −f
−1/f
∞ 0
−f (b)
(c)
図4.1 レンズによる集光作用・拡散作用。(a)凸レンズによる集光作用。(b)凹レンズによる発散作用。(c)レンズ公式の説明。
すなわち、レンズ公式は、「レンズ作用を波面の曲率変化として表したもの」といえる。電場に対する作用としては、波面の 曲率を−1/fだけ変化させるので、光の複素電場を
L(x, y) = exp {
−ik(x2+y2) 2f
}
(4.3) 倍だけ変化させることに対応する。なお、式(4.3)はレンズの直径を超えてもレンズ作用が生じる、という式になっている ことに注意が必要である。これはあくまで光軸に近い部分を伝搬する光に対する近似式である。
また、レンズ中心では光の進行方向が変化しないことに注意しよう。このことは、光学実験でレンズの中心を知る際に重 要である。すなわち、レンズを設置する際は、あらかじめ光軸中心に細いビームを通しておき、設置前後でそのビームの進 行方向が変化しないようにすると良い。
レンズによる位相シフトの導出
レンズが光の電場に与える効果をきちんと導出しておこう。図4.2に示すように、薄いレンズの一方が凸面、もう一方が 平面のレンズを考える。このようなレンズを平凸レンズという。このレンズの屈折率をnとする。凸面が球面の一部になっ ているとし
注4.2
、この面の曲率半径をRとすると、レンズの厚さtは(x, y)の関数として t(x, y) =√
R2−(x2+y2)−(R−t0)
=t0−x2+y2 2R
(4.4)
と表される。ただし、x2+y2≪R2として近似を行った。また、t0はx=y= 0におけるレンズの厚さである。レンズが 十分に薄いと仮定しているので、レンズ面は光軸に対してほぼ垂直であり、レンズ面における光波の屈折は無視できるもの と近似しよう。また、レンズ内では屈折率nの効果により、波長が1/n倍になる。従って、単位距離あたりの位相変化はn 倍になる。また、レンズは中心において最も厚く、中心から離れるにつれて薄くなる。従って、光が空気中を伝搬する距離 はt0−t(x, y)となる。以上より、レンズを透過した際の光の位相変化は、
k{t0−t(x, y)}+nkt(x, y) =kx2+y2 2R +nk
(
t0−x2+y2 2R
)
=nkt0−(n−1)kx2+y2
2R (4.5)
注4.2
レンズはガラスを研磨して作製する場合が多いため、レンズの表面形状が球面であることは極めて一般的である。最近では、プラスチックを使って レンズの形状を球面からずらし、性能向上を図った非球面レンズの作製技術が進歩している。
z R
x
O t0 t(x, y) y
図4.2 平凸レンズの厚みを計算するための図。
(a) (b)
(c) (d)
図4.3 平 凸 レ ン ズ・平 凹 レ ン ズ の 使 い か た 。矢 印 は 光 線 の 進 行 方 向 を 示 し て い る 。( 波 面 の 垂 線 と 考 え て 差 し 支 え な
い。)(a)(c)のようにレンズの曲面に平行光を入射し、レンズの平面から収束光・発散光が射出するようにすると収差が
少ない。このとき、レンズの入射面・射出面の両方で光線が屈折するため、屈折角を小さく保つことができる。(b)(d)の ように平行光を平面に入射すると、レンズ周辺部を通る光は屈折角が大きくなり、その結果として、レンズ中心部と周辺 部を通る光では焦点距離が異なってしまう。これを球面収差という。
で表される。このうち、定数項nkt0はレンズ中心軸におけるレンズ厚み分の伝搬を表す項であり、一定の位相変化を与える だけなので、光学系全体の伝搬距離に含めてしまうことにしよう。ここで、
1
f =n−1
R (4.6)
とおくと、レンズによる位相変化の(x, y)依存性は式(4.3)で表されることがわかる。
収差と平凸レンズ・平凹レンズ
このように、レンズ公式はレンズの中心付近における波面の曲率変化を近似的に表しているだけである。実際のレンズに おいて、この曲率変化量は、レンズの中心から離れるにつれて変わってしまう場合が多い。また、レンズが厚い場合は、レ ンズ入射面や射出面における屈折によるビーム方向の変化の影響も無視できない。結果として、射出光の波面の曲率が射出 面内で一定でない、というような状況が生じる。その場合、射出光は伝搬とともに一点に集光されることはなく、すこしぼ やけた状態となる。このような状況を、「収差」がある、という。ここでは詳しくは述べないが、収差にはいくつかの種類が あり、ここで述べた収差をとくに「球面収差」といい、波面が完璧な球面からずれている状況を表す
注4.3
。カメラ、望遠鏡、
顕微鏡などの光学設計では、複数の材料や形状のレンズを組み合わせることで収差を抑えることが重要な課題である。
収差をきちんと制御するにはより高度な解析や数値計算が不可欠である。球面収差を少しでも抑えるための豆知識を図 4.3に示しておく。レンズの凹凸面には波面の平坦な波が入射・射出するように、レンズの平面には曲率のある波が入射・射 出するようにするとよい。このようにすると、図4.3(a)(c)に示すように、焦点がより一致し、収差が小さくなることが知ら
注4.3
収差を取り除くには、波面のずれを波長のオーダーよりも小さな精度で合わせこむ必要がある。可視光の波長は0.4∼0.6µmであることから、可 視光のレンズにはサブµmの精度が必要である。
z
f
A1(x, y) A2(x, y)
z
f
A1(x, y) A2(x, y)
z
f
A1(x, y) A2(x, y)
f
(a) (b)
(c)
図4.4 レンズによるフーリエ変換。(a)焦点距離fのレンズを設置し、fだけ伝搬させる場合。(b)焦点距離fの2枚 のレンズを距離fだけ離して設置する場合。(c) 1枚のレンズの前後で距離fだけ伝搬させる場合。いずれも、A1 と A2がフーリエ変換の関係にある。ただし、(a)では2次の位相項が残る。
れている。このとき、レンズの入射面・射出面の両方で光線が屈折するため、屈折角を小さく保つことができる。一方、図
4.3(b)(d)に示すように波面の平坦な波がレンズの平面に入射すると、レンズの平面側では光が垂直入射するため屈折せず、
曲面側のみで屈折するため、その屈折角が大きくなってしまう。その結果、レンズ中心部と周辺部を通る光では焦点距離が 異なってしまい、球面収差が大きくなりやすい。