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3. 口語体ビルマ語の指示詞

3.2. 口語体の現場指示

3.2.1. dì/ dà

dì/ dàは指示対象が話し手に近いと感じられる時に使われる。本論で紹介した全ての先行

記述・研究でもdì/ dàが話し手に近い対象を指す近称であるとしている。

(15) ʔíɴ ʔăɡû-t̬ɔ̂ t̪û-kʰămyà t̪è-hyà-p̬ì. dì ʔeìɴ là-t̬óuɴɡâ ŋà-nɛ̂

well now-CNTR [3].OBL-DIM die-AUX-vs.INC this.DET house come-when [1]-COM

ʔătùdù hɔ́-hò ná-hmà tʰàiɴ-p̬í zăɡá-t̬wè pyɔ́-laiʔ-câ-t̬à.

together INTERJ-there1.DET near-LOC sit-SEQ language-PL say-AUX-mutual45-nc.RLS

うーん...今彼女はもう死んだ、この家に来た時は私と一緒にあそこら辺に座って話 し込んでいたのに。

(MSD1994: 236)

(16) dà-pɔ̂. dì nèyà-hmà là-p̬í hnă-yɛʔ lóuɴlóuɴ mê+nè-t̬à this-FP this.DET place-LOC come-SEQ two-CLF completely forget+stay-nc.RLS

kàɴ+káuɴ46-t̬à-pɔ̂ hò cauʔsʰàuɴ-já-hmà-t̪̬à lɛ́+nè-yìɴ yè-t̬ʰɛ́

luck+good-nc.RLS-FP that1.DET rock.mass-interval-LOC-only topple+stay-COND water-inside myɔ́+t̪̬wá-p̬ì.

flow+go-vs.INC

ほんとだ。ここへ来てまるまる二日気を失ってたんだって(よかったね)、あの岩場の 間で倒れてりゃ、水に溺れてしまう。

(MTT1995: 120), (MDM1983: 110)一部改変

(15)(16)は指示限定詞dìを用いた例であり、発話時における話し手の存在している場所を

それぞれdì ʔeìɴ「この家」、dì nèyà「この場所」として直接指す場合である。このように話

し手が発話時にいる場所を指す場合、身体動作を伴わなくても聞き手は理解可能である。

(17) “dì dá-c̬í-k̬ò bɛ̀-k̬â pyàɴ+twê+là-t̬à-lɛ́ hìɴ.”

this.DET knife-AUG-ACC where-ABL return+find+come-nc.RLS-Q INTERJ

{yɛ́myîɴ-k̬â dá-k̬ò sʰâ-cî-ywê yáɴ-yíɴ mé-t̪̬ì.}

NAME.person-NOM knife-ACC scrutinize-test-SEQ wave-while ask-vs.RLS

「ねえ、この刀、どこで見つけたんだ?」

矯めつ眇めつ刀を振りながら、イェミンが尋ねた。

(MTT1995: 262), (MDM1983: 262)

(17)はdìが発話者の手に持っている対象物を指す近称として用いられている場合である。

対象物であるこの刀は、台風で舟が壊れて無人島に流れ着いて生き残っていた彼らにとっ て唯一の近代的な道具であり、みなが大事にしてきた物でもある。

(18) “cănɔ̀-t̬ô-hmà dà hyî-p̬à-t̬ɛ̀ ʔúlé-yâ.”

[1m]-PL-LOC this exist-PLT-vs.RLS uncle-FP

{yɛ́myîɴ-k̬â hɛʔ-kʰănɛ́ tă-cʰɛʔ yì-p̬í báuɴbì-ʔeiʔ-tʰɛ́-hmâ

NAME.person-NOM laugh-ONM one-CLF laugh-SEQ trousers-pocket-inside-ABL

tăzòuɴtăyà-k̬ò sʰwɛ́+tʰouʔ+pyâ-t̪̬ì.}

something-ACC pull+put.out+show-vs.RLS

「小父さん、僕等にゃよ、これがありますよ。」

フンと笑ってイェミンは、ズボンのポケットから何かを引っぱり出して見せた。

(MTT1995: 49), (MDM1983: 36)

(19) {t̪àɴjáuɴ-k̬â t̪iʔywɛʔ-cʰauʔ-pʰyîɴ tʰouʔ+tʰá-t̪̬î ʔătʰouʔ tă-tʰouʔ-kò hláɴ+pé-t̪̬ì.}

NAME.person-NOM leaf-dry-INS wrap+put-nc.RLS parcel one-CLF-ACC step+give-vs.RLS

“dà-k̬â bà-lɛ́.”

this-NOM what-Q

“sʰá-ʔăpʰyiʔ t̪óuɴ-p̬ʰô-lè wăyòuɴ-pyà.”

salt-as use-sake-FP bamboo.bush-ash

タンジャウンが枯葉で包んだ包みを一つ差し出す。

「何だ、これは?」

「塩に使うだ。竹の灰。」

(MTT1995: 232), (MDM1983: 222)

(18)と(19)は指示代名詞dàの例である。(18)は発話者の発話と行為が同時に起きるという

状況であり、所有物である対象の刀を引っぱり出して見せながら話しているという状況で ある。(19)は相手に差し出されてきた対象物を見て発話するという状況であり、聞き手であ

る相手が対象物である枯葉の包を話し手である自分のほうに差し出してきたので、受け取 る側の話し手にとって自己に関わりが強いものとして dà が用いられるのである。この(19) の例で、dà で表された指示対象の包みというのは、発話時点ではまだ聞き手の手元にある ものなので、ʔɛ́dàと入れ替えることも可能である。もし、ʔɛ́dàで指し示された場合は、聞き 手の存在を配慮することになり、人称の要因が関与することになる。人称の要因については

3.3.3.1で後述する。

次にアンティーク雑貨屋で収集した自然会話の例を挙げる。店員(A)が店に遊びに来た 友人(B)とその友達(Cと D)に店内の品物について案内している場面である47。以下の

(20)は店員Aが現場にいる人全員(B, C, D)に対して話している場面であり、(21)はAとB

が話している場面である。(20)と(21)からも分かるように、A は自分の近くや発話の場所で ある店を指す場合はdìを使用し、自分の近くにある人形などの品物を指す場合はdàを使用 している。

(20) アンティーク雑貨屋での会話

A: ʔăyouʔ-twè ʔăyouʔ-twè. dà-t̬wè sʰò ʔă-háuɴ, doll-PL doll-PL this-PL say NMLZ-old, dì-hmà dà-t̬wè sʰò ʔă-t̪iʔ

here-LOC this-PL say NMLZ-new

人形、人形。(こちらの)これは中古品、これは新品。

2016/3/7収録の自然会話

(21) アンティーク雑貨屋での会話 A: dà ŋà ʔùɴláiɴ-hmà yáuɴ+nè-t̬ɛ̀

this [1] online-LOC sell+stay-vs.RLS

これを私はオンライン(ショッピング)で売ってる。

B: bɛ̀-hà-lɛ́

which-FN-Q

どれ?

A: dì pyiʔsí-t̬wè-k̬ò this.DET goods-PL-ACC

この品物を。

B: ʔùɴláiɴ-k̬ânè yáuɴ-t̬à-lá

online-ABL sell-nc.RLS-Q

オンラインで売っているの?

A: ʔé mă-houʔ-pʰú dì-hmà-lɛ́ là+wɛ̀-lô yâ-t̬ɛ̀

INTERJ not-right-vs.NEG here-LOC-DIS.also come+buy-because get-vs.RLS

dàbèmɛ̂ ʔùɴláiɴ-hmà-lɛ́ yâ-t̬ɛ̀

but online-LOC-DIS.also get-vs.RLS

うん。違う。ここに来て買ってもいい。でも、オンライン上でも大丈夫。

2016/3/7収録の自然会話

以上の(15)~(21)の例から分かるように、dì/ dàは物理的に近い対象を指す場合に使われる。

このような物理的距離が近いと感じられる場合のdì/ dàを近称と呼び、近称のdì/ dàは常に

遠称①のhò/ hòhàと遠称②のʔɛ́dì/ ʔɛ́dàと対立をなす。

従って、dì/ dàは現在話し手がいるところを含む場所や話し手に接近あるいは近いとこ

ろにある対象物を指し示す場合に用いられる。

ドキュメント内 現代ビルマ語における指示詞の研究 (ページ 37-40)