第 1 章 実証的分析Ⅰ Y 中学校の教師
第 4 節 Y 中学校の事例分析における総合考察・本章の小括
3 名の事例分析および考察から、本論文の課題である実践的知識のあり様、発達過程、他者と の関係性について整理し、それら3名に共通する点、および個人に特有な点を総合考察として述 べる。次に、本章の小括およびY中学校の事例分析における残された課題について述べる。
1 3 名の事例分析・考察からの総合考察
1-1 実践的知識のあり様
①生徒指導に関する実践的知識のあり様
北村教師の生徒指導に関する意味パースペクティブを構成する考え方としては、最終的に、生 徒への「願い」について、生徒との関わり方について、生徒指導について、生徒との「関係づく り」について、という4つの考え方から構成されていた。生徒への「願い」についての考え方は、
著名な授業実践に接するという大学時代の経験から形成されていたが、後者3つの考え方は学級 指導がうまくいかなかった経験から喚起された省察の深まりによって発達した考え方であった。
そして発達させた考え方は、次のように実践へ直結する考え方となっている。生徒との関係性に ついての考え方は「本当に導きたいところに導く」「自分が生徒指導で大事にしていきたいのは 白黒させたい気持ち」、生徒指導についての考え方は生徒の「気持ちを受け止める」「〔生徒の〕
気持ちに指導の中で寄り添える」、生徒との「関係づくり」についての考え方は「常にあなたの ことを大事に思って指導をしているから、一緒に頑張っていこうよっていうような雰囲気を普段 の指導で出すこと。普段から伝えていくことっていうところが一番大事」、という考え方である。
そして、「お互いを受け入れる温かさ」「相手のことを思える人になってほしい」「自分をちゃ んと持った子になってほしい」という大学時代の経験から形成された生徒への「願い」について の考え方が北村教師の教師としての信念とも言える考え方となって、授業に関する実践的知識へ 影響を与えているのであった。
西山教師の生徒指導に関する意味パースペクティブは、最終的に、生徒指導とその方法につい て、教師としての「心構え」(「先生の仕事」)、学校について、という3つの考え方から構成 されていた。生徒指導とその方法について、「先生の仕事」についての考え方(最終的に教師と しての「心構え」として統合される)は、指導が困難な経験から喚起された省察の深まりによっ て発達した考え方であった。教師としての「心構え」について、学校についての考え方は、クラ スターでの経験と授業での経験から醸成されていった考え方の発達であった。この2つの考え方 は、西山教師の暗黙の信念ともなっており、学校についての「子どもを指導する場」から「子ど もが楽しむ場」へという考え方の発達と、教師としての「心構え」についての「教師として指導 しなきゃいけない」から「子ども達とやっていく。創っていく」「同じ人としてやっていくって のが大事」という考え方の発達が、生徒指導とその方法への考え方に影響を与え、「あっち〔生 徒〕の目線でやっていくことが大事」「教えて教わるじゃなくて学ぶ空間を創る」「積極的な仕 掛けを創って進ませる」という発達を導いていた。
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東教師の生徒指導に関する意味パースペクティブは、最終的に、生徒指導の目的について、生 徒指導プロセス(指導方法)について、「学級づくり」について、という3つの考え方から構成 されていた。前者2つの考え方は、「話が聞けない」生徒の状況を「子どもたちを惹きつけるだ けの話ができなかった」と自分の問題としての省察の喚起からの発達であった。そして、生徒指 導の目的についての考え方は「トラブルを防ぐっていうのは対処的なトラブルを防ぐんじゃなく って心を育てていく」「長期的なこと」と発達し、この発達から「考えさす。子どもにやった行 動を考えさせる時間を作る」という生徒指導プロセス(指導方法)についての考え方が導かれて いった。そして質の異なる「荒れ」を経験し、再度、省察が喚起され、発達していた生徒指導の 目的についての考え方は批判的な検討を経て批准され、「心の教育」とさらに発達する。生徒指 導プロセス(指導方法)についての考え方は新たな観点が加わり、「考えさせたときに(中略)
判断させて実行できるように、やっぱり支えていく」「いかに丁寧に、子どもたちにやっぱり接 していって、あるときはやっぱり子どもを信じてきちっと待ってあげる」、保護者とも「丁寧に」
「つながる」、と発達していった。「学級づくり」についての考え方も「やっぱり子どもにとっ ての居場所。学級づくりっていうのがやっぱりとっても大事」「やっぱり所属感」と発達してい った。東教師の場合は、トラブルを防ぐため、という社会文化的に培われた生徒指導の目的につ いての考え方が生徒指導に関する意味パースペクティブ全体の前提ともなって、他の考え方に影 響を与えていたのであった。
②授業に関する実践的知識のあり様
北村教師の授業に関する意味パースペクティブは、生徒に培いたい力について、授業づくりに ついて、授業プロセス(授業の展開・指導)について、学習指導について、という 4 つの考え方 から、最終的に構成されており、後者3つの考え方の発達は、自分の授業を高めたいという意欲 と学校外の他者とのつながりによる意識的な省察の喚起から発達していった。そして生徒指導か ら見出した新たな視点、生徒の「気持ちを受け止める」「子どもの反応を見る」という点から省察を 深め、「心の中は自分の言いたいことを言えたとかっていう気持ち」を「大事」にするという授 業づくりと授業プロセスについての考え方を発達させていった。この発達させた考え方から、次 の3つの考え方が導かれていた。「英語を使って自分の言いたいこと。自分の言いたいことをち ゃんと言えるようになるということ」という生徒に培いたい力についての考え方、「それ〔生徒 に培いたい力〕を意図して、授業を組み立てていく」という授業づくりについての考え方、「英 語が面白いって、やっぱり生徒たちが思えることと、英語で話せて英語が伝わったらなんか良か ったなと思えるようになること」という授業プロセス(授業の展開・指導)についての考え方であ る。そして学習指導についての考え方は、「お互いを受け入れる温かさ」「相手のことを思える 人になってほしい」「自分をちゃんと持った子になってほしい」という大学時代の経験から形成 された生徒への「願い」についての考え方にもとづく実践を通じて、「授業づくりは本当に生徒 指導が基盤にあって、普段の授業の学びがある」という、北村教師の教師としての核となる考え 方が形成されていた。
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西山教師の授業に関する意味パースペクティブは、生徒について、授業づくりの目的について、
授業づくりについて、授業の指導について、という 4 つの考え方から最終的に構成されていた。
これらの考え方の発達は、授業が思い通りにならない事態はあったがそれのみで省察が喚起され 深まったのではなく、自己の授業、東教師の授業、英語研究大会に向けての授業づくりと発表、
という複数の経験の累積と、生徒指導についての考え方の発達によって、教師が「一方的な与え るものじゃない」「本当に考えさせる」という授業づくりと授業の指導についての考え方の発達 が導かれていった。また、「英語ができたらいいよっていうことを分かってもらいたい」という 生徒についての考え方の発達から「どうせやらなきゃいけない道なら楽しくやってほしい」とい う授業づくりの目的についての考え方が発達し、さらに「英語の魅力っていうものが授業中にあ って」という授業づくりについての考え方の発達を導いていた。このように、西山教師において は生徒についての考え方が授業に関する意味パースペクティブ全体に影響を与える考え方となっ ていた。
東教師の授業に関する意味パースペクティブは、最終的に、授業づくりの目的について、授業 プロセスについて、授業づくりについて、授業(コミュニケーション)について、という4つの 考え方から構成されていた。新しい実践に取り組む経験から「問題解決型学習で英語の力がつく のか」「英語科における問題解決型の授業ってなんだ」と省察が喚起され、他者の「言語形式面 での課題解決だけでは不十分」といった批判的な言葉から再度、省察が喚起され、継続的な省察 の喚起と北村教師・西山教師と授業を創る経験によって、次のような考え方の発達が導かれた。
「知りたいことが生まれてお互いがつながって、これが真のコミュニケーション」という授業に ついての考え方の発達と、「英語の授業にするためには英語を使うという必然性をつくらなけれ ばならないし、解決したいと思う課題設定が必要になる」という授業プロセスと授業づくりにつ いての考え方の発達である。これら発達した考え方での実践を積み重ね、発達した考え方はさら に明確になり、その関係性も明確になっていった。「真のコミュニケーション」が生起する授業 という授業についての考え方から、「課題があって探究があってそしてそれを表現するっていう 形」という授業づくりについての考え方が導かれ、さらに「協働的な学び」としての「グループ 活動」という授業プロセスについての考え方が導かれていた。また、授業づくりについての考え 方の省察の深まりから 「どうやって子ども達が意欲的に取り組めるか」という授業づくりの目 的についての考え方も発達していた。東教師の場合は、「語学の習得だから訓練」という授業に ついての考え方が、授業づくりと授業プロセスの考え方に影響を与えていた。
③3名に共通する実践的知識のあり様
3 名の事例分析から、複数の考え方の中のひとつが意味パースペクティブ全体の前提条件とし て機能していたり、他の考え方に影響を与えていることが明らかになった。
北村教師の場合は、「お互いを受け入れる温かさ」「相手のことを思える人になってほしい」
「自分をちゃんと持った子になってほしい」という大学時代の経験から形成された生徒への「願 い」についての考え方が北村教師の信念ともなって、その考え方にもとづく実践を通じて、「授