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徒指導上の顕著な問題は発生しておらず、それは言い換えればこれまでのやり方や考え方を変容さ せる必然性は無い状況でもあった。しかし、分析結果を先に述べれば、そのような状況においても 教師たちは実践的知識を発達させていった。それはどうしてであったのかを含め、総合考察では他 者との関係性についても詳しく述べる。
なお第2節、草野教師の事例分析は、『立教大学教育学科研究年報』第57号(2014)に掲載され た「教師における実践的思考の変容的発達に関する一考察 変容的学習論の視点からの事例分析」
を加筆修正したものである。また、X中学校の3名の理科教師の関係性を中心とした他者との関係 性については、『立教大学教育学科研究年報』第58号(2015) に掲載された「教師の変容的発達 とコミュニティの変容についての一考察 変容的学習論の視点からの事例分析」を一部、用いてい る。
第3章では、教師の学習を支える教師として、X中学校の研究主任(2010~2012年度)水谷教 師と桜井校長の事例分析を行う。これは第2章の分析から、校内研究の取り組みとX中学校の教師 たちの関係性の質が実践的知識の発達に影響を与えていることが明らかになったことからの分析 である。第1章、第2章と同様に、分析を行うが、教師としての実践的知識の発達とともに、研究 主任として、校長としての考え方の発達についての分析を重点として行い、教師の学習を支える教 師の考え方の発達過程を明らかにしていく。そして考察においては、彼らの考え方と行動がどのよ うに教師たちの実践的知識の発達に貢献しているのかを考察する。
なお第 2 節、桜井校長の事例分析は、『日本学習社会学会年報』第 11 号(2015)に掲載された
「教師の実践的知識の変容的発達に関する一考察」を加筆修正したものである。
第 4 章では、Y中学校とX中学校とに分けて考察してきた調査協力 6名分の事例分析を総合的 に考察し、第1節では実践的知識のあり様、実践的知識の発達過程と省察の深まりについて、を本 研究のまとめとして述べる。第2節では教師の学習を支える教師とネットワークについて、本研究 から得られた知見を整理して示す。第 3 章において本研究のまとめを述べ、最後に本研究の意義、
限界、今後の課題について述べる。
2 本論文の特色・位置づけ
本論文は、第1に教育学研究の教師の力量形成、及び実践的知識に関する研究分野に位置づけら れる。そして、教師の実践的知識の発達を教師の学習として位置づけ、成人学習論を用いて、変容 的学習として教師の学習を論じる点に特色がある。これまでの教育学における教師の力量形成や実 践的知識に関わる研究では、教師の力量形成過程を教師の学習過程として解明する必要があること が言及されていても、そのような視点からの研究は現段階では途についたばかりであり、それを実 証的に論じているものは数少ない。また、教師の発達過程を学習ととらえた数少ない先行研究にお いても、何をもって教師の学習とするのか、学習過程としての省察の質についてもどのような省察 が行われれば教師の学習が成立したということになるのか、というような、教師の学習自体につい て論ぜられないままであった。本研究では、教師の学習の特徴から教師の学習を変容的学習とする 点について論じ、教師の省察のあり様や過程を変容的学習過程として詳細に分析し、教師の学習を
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解明する点に関して新たな知見を提供するものと考える。
また本論文は、成人学習に関する研究分野にも位置づけられる。変容的学習論は成人学習分野で はポスト・アンドラゴジーとして、北アメリカを中心として世界に広がっている。しかしその先行 研究では、高等教育機関以外での、インフォーマルな、権力関係のない状況での学習についての研 究の必要性が言及されている。この点においても、本研究は貢献できると考える。一方、日本にお いては変容的学習論を教師の力量形成に活かそうという提言が見られるようになってきたが(例え
ば、熊谷2012)、その先行研究は理論研究が主である。本研究は、変容的学習の実証的な研究とし
て、さらに、平素から授業をふり返るという省察の経験がある専門家の変容的学習の研究として、
新たな知見を提供するものと考える。
3 用語の定義
本論文で用いる主要な言葉については序論において述べてきたが、再度、提示し、定義を示しな がら本論文上での解釈と用い方を述べる。
実践的知識とは佐藤(1997)に依拠し、実践的な技術・知識による「実践的な知見」と、思考方 法と信念といった深層レベルの暗黙知を含む「実践的な見識」の双方から成るもの、ととらえる。
すなわち、教師の行動として表出している「実践的な知見」は、教師としての暗黙知も含む思考方 法「実践的な見識」によって支えられ、これらの総体として実践的知識と本研究では解釈している。
この意味から、暗黙知も含む教師としての考え方の総体としての実践的知識を、分析においては意 味パースペクティブと呼称する。
学習とはメジローに依拠し、「将来の行為を方向づけるために、以前の解釈を用いて、自分の経験 の意味について新たな、あるいは修正された解釈を作り出すプロセス」(メジロー 1991/2012, p.18)
とする。この意味から変容的学習の目的は、「より包括的で識別能力があり、より広がりがあり、よ り統合された意味パースペクティブ」(メジロー 1991/2012, p.11)を導くこと、である。ゆえに、
変容的学習における発達とは、考え方や行動の変容が結果的にもたらされなくとも、認識されてい なかった意味パースペクティブを認識し、吟味し、批判的に省察する、という学習プロセスを通じ て、より広い視野、より多角的な視野から物事を解釈できるような「統合された意味パースペクテ ィブ」を得た場合は、発達と解釈する。そして、本論文において発達ということは、批判的自己省 察に達し、問題解決ではなく、自分がどのように問題とするのかという新たな問題設定や問題提起 することによって考え方を検討し、発達させることという意味である。
本研究においては3種類の省察を用いて実践的知識の発達過程を分析していくが、本研究で用 いる分析枠組みの省察reflectionは、一般的に用いられている省察と区別するために、英単語を 加えて上記のように示す。この場合は、考え方の源や根拠に気づく・突き止めること、具体的に は、考え方の源となっている信念の根拠を述べることという省察を意味する。
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