第 3 節 調査の概要と調査協力者・調査方法
2 調査方法と調査内容
調査においては調査的半構造化面接法(以下、インタビュー調査と呼称)を用い、いずれの調査 協力者の場合も勤務校において調査協力者1名と筆者のみで実施し、1人当たり1時間から2時間 程度のインタビュー調査を実施した。なおここでインタビュー調査の特質から本研究において留意 した点について述べておく。
インタビュー調査は、どのような形式をとっていても「聞き手」と「語り手」との相互行為によ ってなされるものであり、語り手だけではなく聞き手もデータにおける意味の生成にかかわってい るという特質を有している36。そのため、調査から考察までの過程においてはいくつかの留意すべ き点があることが指摘されており、本研究では次のように取り扱った。
1点目はデータを得るため方法である。インタビューにおいては「『方向づけられたもの』と『方 向づけのない、あるいは制限のない』もの」(山崎 2002, p.41.)という2種類があるが、語り手が 聞き手による影響を受けないよう、「方向づけのない、あるいは制限のない」形式が望ましいと考え られる。しかし、実際のインタビュー調査において、全く無制限である場合には、調査項目から大 きく外れる可能性もあり、その場合はもとの話題にもどるよう促す必要がある。また、用意したト ピックについて語ってもらう場合に、全く自由に、あるいは聞き手が全く関与しない場合には、語 り手の表面的な回答しか引き出せないという問題が残る。そのため、まったく「方向づけのない」
形式は本調査の目的には適さないと判断し、半構造化の面接法を用いた。しかし語り手の回答が聞 き手によって過度に方向づけられないよう、質問事項についてはトピックのみ提示し、自由にその トピックについて語ってもらうという形式をとり、語り手が十分に語った後に質問を行い、語り手 の方向性を妨げないようにした。また、聞き手の用意したトピックについてすべて質問を終えた後 に、もっと語りたいことはないかと促し、語り手自身がトピックを設定して、語り手の最も強く感 じていること、共感していることやこだわっていることなどについて回答を得る場面を設定し、聞
36 「インタビューに参加するインタビュアーも回答者も両方ともに、(中略)どちらも意味を作り出す作業 に関わっている。(中略)意味は、インタビューにおけるインタビュアーと回答者の出会いにおいて、両者が 積極的に関わり、コミュニケーションを行うことを通して組み立てられていくもの」(Holstein, J. A., Gubrium, J. F. 1995/2004, p21)。
32 き手による過度な方向づけを避けるようにした。
2点目はデータを得る状況である。インタビュー調査は、聞き手からの影響を全く排除すること は実際には難しいことは述べたが、聞き手と語り手との関係が影響を与えるという指摘もある。こ の点においては、本調査の目的が筆者の研究のデータを得るためであり、その内容が教育委員会や 管理職、同僚に開示されることがなく、それらへの配慮を行う必要がないことから、本調査の目的 を妨げるものではないと考える。また、ラポール(信頼関係)形成の観点においては、聞き手であ る筆者と語り手が、公立学校の教師という同様の立場にあり、権力関係が存在しないことから今回 の調査に必要と考えられるラポールは形成されたと考える。
3点目は分析におけるデータの処理についてである。得られたデータにおいては、聞き手と語り 手の理解のずれを生じないよう、インタビュー中、あるいは終了後に確認を行い曖昧な部分を残さ ないようにした。また、インタビュー調査において録音したデータを文字に起こし、語り手の言葉 についての加工は加えていない。分析においては、分析枠組みに基づき分析を行ったが、文字に起 こしたデータをなるべくそのまま生かし、語り手の意味生成を成している前後関係や語り手を取り 巻く状況との関連性が残るようにした。そのため、事例分析においては「語り」の引用部分がやや 長めになっている部分もあるが、過度にデータを切片化するのではなく、語り手の省察過程やその 時の状況が残るようにすることで、「語り」に含まれる意味内容の再解釈性を担保し、データの信頼 性を高めるようにした。
以上、3点の配慮を行ったが、「語り」は相手が存在して成り立つものであり、聞き手の存在によ って語り手は「語り」を再構成している。その意味から、本研究における「語り」は、聞き手であ る筆者との特定な状況における相互行為の結果の「語り」であり「協同的な産物」(Holstein, J. A., Gubrium, J. F. 1995/2004)という性格を有している。同時に、聞き手が異なれば異なる「語り」
になる性格を有する。また、語り手は意識的に、あるいは無意識的に、質問に対して必要と思われ ることや語りたいことを選択して語る。語られなかった部分に重要な情報を有している可能性もあ る。分析データとしてこのような限定がある上で、それを補完するために、複数の調査協力者の語 りの分析を通じて、1 つの状況や文脈を羅生門的手法によって明らかにするようにした。また、そ の時には語られなかった部分を他の調査協力者の語りから推論し、再度、調査を実施することによ ってデータを充実させるようにした。
最後にインタビュー調査においてのトピックを5点示すが、半構造化面接法のためその順序は回 答者によって異なる。また、そのトピックについて語り終え、他のトピックを語ったのちにもう一 度、語るという場合もあった。1点目は現任校での立場や新しい課題(教科センター方式実施と授 業改善)に関する取り組み、2 点目は新しい課題の実際と運営、3 点目は取り組みを通じての自分 の考え方・仕事の仕方の変容、4 点目は取り組みや変容に関与している他者、5 点目は教師として の経歴や印象深い出来事、である。5点のトピックについての質問終了後に、語り手が語り足りな い点や筆者が設置しなかった話題についても自由に語ってもらった。これは、語り手が最も関心を もっていることを捉え、語り手の意味構築・生成がどのような背景をもつものかを把握する意図か らである。また、学習資源としての教師の経験は、職務上以外の経験も含む広範囲な多様な経験か
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ら構成されているという特徴を有することから、5 点のトピックの語りの中で学校以外の経験につ いてまったく触れられていなかった場合は、学校外の経験について、補足的に質問を行った。なお、
語りを補足するデータとして、X中学校については2010年度・2011年度(平成22・23年度)の
『研究集録』、2011年度・2012年度(平成23・24年度)の『公開授業・研究協議会の学習指導案 及び研究資料』、2013 年度の指導力向上特別研究指定校研究発表会で配布された『「アクティブラ ーニング」の勧め』を参照し、Y中学校については『研究紀要』(2010年度・2011年度・2013年 度・2014年度)を参照した。また、水谷教師と東教師がそれぞれ教職大学院で執筆した『学校改革 実践研究報告書』も用いた。
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