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調査の概要と調査協力者

第 3 節 調査の概要と調査協力者・調査方法

1 調査の概要と調査協力者

本研究においては、現代的な教育課題として、教科センター方式に取り組む Y 中学校と X中学 校の教師たちに調査の協力を依頼した。現代的な教育課題は様々ある中で、教科センター方式に取 り組む Y中学校と X 中学校の教師たちに調査の協力を依頼したのは、教科センター方式という現 代的な教育課題についてこだわったわけではなく、教科センター方式という現代的な教育課題に取 り組みながら授業改善を目指している学校という共通点がありながらも、本研究課題を解明するに あたって比較検討できる異なりがあったからである。この点については、教科センター方式につい ての概要を述べた後に、調査の概要とともに説明していく。

1-1 教科センター方式について

教科センター方式とは、国語・数学等、従来普通教室で行われていた教科を含めた全ての教科の 授業を専用の教室で行うだけではなく、それら教科毎の教室をオープンスペースや教科の教師ステ ーションと組み合わせて教科センターとして配置し、それら教科センターで学校全体を構成し運営 する方式のことである。教科センター方式という呼び名をつけた長澤(2004)は、建築の立場から、

施設の在り方によって無意識のうちに教育の方法や生徒の動きは制約を受けると述べている。そし て教科センター方式と教科教室を並べただけの教科教室型との違いについては、この方式が生徒の 自主的な学習を支えるための図書や資料・コンピュータ・作品などを備えたメディアスペース(オ ープンスペース)と教科教室とが組み合わされていること、さらに、「学校づくりにおいて明確な意 図をもっていること」、と長澤は説明している。また、教科センター方式導入が学校改善の機会とな った学校は、計画段階で教職員を交えた検討プロセスに十分に時間をかけていること、すなわち建 築の機会が学校全体の教育方針を明確にする機会であったことを長澤は強調している。

この教科センター方式の取り組みは 20 年ほど前から可能性が注目され、徐々に広がっていると いう(長澤 2010)34。その導入については校舎の建築を伴うため、学校設置者の意向によって決定 される。教科センター方式の流れを生み出すもととなったのは「荒れた学校を立て直す」ことを発 端とした学校改革であったということだが、現在、教科センター方式導入において目指されている のは、21世紀の知識基盤型学力である思考・判断・表現を育むための授業改善である。そのために は、教師が一方的に知識を注入するような授業ではなく、生徒が主体的に学習に取り組む、協働・

参加型の学習を推進する必要がある(松木 2010)とされている。教科教室型による学校運営の課 題を調査・研究した長澤(2010)も、教科センター方式導入の「最大の狙い」は、「教科の充実、主 体的に学習に向かう態度の育成にある」と述べ、教科指導面の有効性が認められるとも述べている。

34 2004年の『文教施設』(p.47)によれば、教科教室型中学校として全国39校が竣工、7校が設計中~工事 中と記載されている。しかし記載されていた学校の中には、2015年現在では、校舎は教科教室型であって も、教科センター方式を行っていない学校もあり、この方式を採用している中学校の正確な数字は定かでは ない。

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しかし、この教科センター方式実施は、従来の中学校での生徒と教師の動きを大きく変えるもの である。これまでは、生徒は自分の教室があり、そこに教師が出向いて授業をするという教師が動 くスタイルであった。しかし、この教科センター方式では教師が教科の教室におり、生徒が音楽・

美術・技術・家庭科などのいわゆる実技科目以外も、すべての教科において移動して授業を受ける というスタイルになる。オープンスペースなど自由な空間も多くなり、時間的にも空間的にも生徒 にとっては自由度が高まったことから自律性や自主性が求められるようになる。教師にとっては、

学年ごとにまとまったエリアに教室が並んでいた従来の校舎とは異なり、教科センター方式では生 徒は学校全体に配置されている教科教室を時間割に従って毎時間、移動するため、生徒の動きを把 握するのが難しくなる。生徒の動きが増すだけではなく、教師もまた職員室だけではなく、教科の エリアや教師ステーションが日中に過ごす場所として加わる。実践を担う教師の意識について、長 澤(2010)が行った調査からは、教科センター方式実施以前は「期待と不安が両方あった」が60~70%

であったこと、実施後は教科指導についての評価は総じて高いこと、一方で生徒の持ち物管理や生 徒の落ち着きなどのいわゆる生活面での評価は学校ごとによって違いがあること、教師の行為と場 所は同じ学校でも教師によって異なり、学校ごとにも傾向があること、などが明らかにされている。

1-2 Y中学校・X中学校の概要

① 調査協力校選定の理由

Y中学校とX中学校の教師たちに調査の協力を依頼したのは、先述のように、教科センター方式 という現代的な教育課題についてこだわったわけではなく、共通点を有し、同時に本研究課題解明 のために比較検討できる異なりも有していたからである。共通点としては3点ある。1点目は、教 科センター方式という現代的な教育課題に取り組みながら授業改善を目指していること、2点目は、

数名の教師が同じ教職大学院に派遣されていること、3点目は同規模の学校であること、という点 である。しかし 2 点目については、教職大学院に派遣された個人からとらえると共通点であるが、

学校全体としての教職大学院との関わりとしては異なる点がある。異なっている点は次の3点であ る。

1点目は、立地の違いである。Y中学校は県庁所在地であるが地方の都市、X中学校は首都圏に 位置している。2 点目は、教職大学院との関わりの違いである。両校とも、教科センター方式実施 に際して、1~2名の教師が教職大学院に派遣され、職務を担いながら大学院にも在籍しているとい う共通点がある。しかし、Y中学校では設計段階から大学教員が関わり、教師も継続的に教職大学 院に派遣され、教職大学院との連携が強固である。一方、X中学校では教科センター方式実施の告 知(2010年度)の翌年、2011年度から2012年度の新校舎建設中、教科センター方式実施の準備 段階のため、2 名の教師が教職大学院へ派遣され、教職大学院への派遣はその限りであった。3 点 目は、新しい教育課題への取り組みの定着度の違いである。調査を計画した当時(2012年)のY中 学校は教科センター方式に取り組むことが決定し、授業改善に着手(2005年)して8年目(調査1 回目当時)、新しい校舎に移転開校(2008年)して5年目(調査1回目当時)と、その独自の取り 組みが定着してきた時期であった。X中学校は教科センター方式実施が通達され(2010年)、X中

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学校はその準備とともに授業改善に取り組んでいる渦中であった。この点からY中学校においては 取り組みの定着してきた時期における実践的知識の発達を、X中学校の調査においては、現代的な 教育課題に取り組むことによる実践的知識の発達を同時進行的に調査できると考えた。

このように、共通点とともに異なりがある2校の学校における調査によって、個々の文脈におけ る実践的知識の発達の多様性と共通性を明らかにしていくために、2つの学校の教師たちに調査協 力を依頼したものである。しかしY中学校では生徒指導上の問題が発生し、筆者の当初の考えとは 異なり、2013 年度からはこれまでの取り組みを変更せざるを得ない学校改革に取り組むこととな る。新聞報道されるような生徒指導上の事件はどこの学校でも起きることではないが、公立の中学 校においては程度の差はあっても生徒指導上の問題は避けては通れない最も現代的な教育課題で もある。授業以外での課題に直面し、貴重な経験をした教師たちが、その経験をどのように実践的 知識の発達として結実させるのかを明らかにすることは、児童・生徒の生活全般にまで目を配り指 導している日本の教師の実践的知識の発達を解明していくことである。そのため、Y中学校への調 査を継続したものである。

② Y中学校・X中学校の概要

Y中学校は、中部地方の県庁所在地から車で30分ほどの田畑・住宅地に位置する、ひと学年4~ 5学級編成の中規模校である。学校移転に伴う校舎の建て替えから教科センター方式実施が教育行 政によって決定され、2008年度に新校舎に移転した。Y中学校の2011 年度の研究紀要に依れば、

開校3年前の2005年度から「本格的に授業改革に着手」し、校舎建設に関しては、その計画段階 から「設計者と打合せを繰り返し」これからの学校建築と教育との関係について考えてきたという。

そのように新しい教育を担う学校として移転開校したY中学校では、「異学年型教科センター方式」

を実施している。「異学年型」とは、各学年1クラス、合計 3クラスを1つの集団単位「クラスタ ー」として異学年で構成し、そのクラスターを生活集団とするものである。Y中学校では基本的に 5つのクラスターを組織している。5つの「クラスター」は 5教科(国語・数学・社会・理科・英 語)を核として、その教科の教師と実技教科(音楽・美術・体育・技術家庭)の教師、養護教師や 特別支援学級の教師が性別や年齢、校務のバランスを考えて配置されている。生徒においては、例 えば、1年生の時はレッドクラスター、2年生の時はグリーンクラスター、3年生の時は・・・とい う生徒もいれば、3年間、同じクラスターで過ごす場合もある。教師の方は教科ごとに配置されて いるので、基本的には Y中学校に勤務している間は同じクラスターで過ごすことになる。しかし、

年齢や性別の関係から、自分の教科ではないクラスターに配置されることもあるという。このよう な先進的な取り組みには計画段階から地元の大学教員も関わり、Y中学校が移転・開校後も継続的 に大学関係者が校内研究に関わって問題解決型学習の実践が目指されている。また、移転開校と同 時期にY中学校は教職大学院の拠点校ともなり、毎年、1~2名の教員が職務を担いながら大学院に 在籍している。

このように、新しい取り組みを行う学校として移転開校前から準備を進め、その後も問題解決型 学習の実践を積み重ねてきたY中学校であったが、移転開校5年目の2012年7月に警察の出動を