第 7 章 磁性流体管内振動流への UVP の適用, MR 流体チャンネル流の流動構造解析 130
7.2 磁性流体管内振動流の UVP による速度分布計測
7.2.3 UVP の原理
図7.1に超音波ビームと流れの位置関係を示す。試料流体に反射体粒子を混濁させ管内に流す。
トランスデューサーから超音波パルスを図のように発振すると,パルスが反射体粒子に当たって,
パルスが表面で反射してトランスデューサーに戻ってくる。
図7.1: Principle of UVP method
トランスデューサーの設置角をϕとしたとき,パルス伝播方向を計測軸xとして考える。まず,
この反射波によって反射体粒子の位置を求める。トランスデューサーから反射体粒子までの距離 をl,超音波パルス発振から反射波受信までに要した時間をτ,試料流体中の超音波伝播速度をc とすると,反射体までの距離は,
l= cτ
2 (7.1)
と求まる。
位置xにおける流速をuとすると,UVPでは,図7.1に示される通りトランスデューサーの軸 方向成分の速度成分usinϕが得られる。この位置xにおいて,超音波パルスが反射した時,反射 波は反射体粒子の速度によりドップラー効果を受け,周波数が変化する。超音波パルスの基本周 波数をf0とすると,位置xにおける超音波周波数f1は,
f1 =f0
c−usinϕ
c (7.2)
となる。さらに,トランスデューサーが受信する反射波の周波数f2は,
f2 =f1
c
c+usinϕ =f0
c−usinϕ
c+usinϕ (7.3)
となる。従って,式(7.2),式(7.3)より流速uは次のように求まる。
u= c sinϕ
f0−f2 f0+f2
(7.4)
ここでドップラー効果によって変位した周波数(ドップラー周波数と呼ぶ)をfDとするとfDは,
fD =f0−f2 (7.5)
で与えられる。基本周波数f0に対して,ドップラー周波数fDは小さいため,f0≃f2と置けるの で,これを考慮すると,式(7.4)は,
u= c sinϕ
fD 2f0
(7.6) となる。この式がUVPにおける速度分布計測の基本式となる。しかし,このドップラー周波数fD は基本周波数f0と比較して,非常に小さいため直接計測することは困難である。
図7.2: Detection of Doppler shift
そこで,一般的にUVPでは次のような工夫をして計測を行っている。図7.1,図7.2に示すよ うに,超音波パルスの発振は時間間隔∆tで複数回繰り返す。すると,反射体が移動しているので,
反射波の受信には,わずかな位相を持って検出される。その位相差ψは,
ψ=f0∆t (7.7)
で表される。ここで∆tは反射体粒子がその間に移動する距離aと試験流体中の音速cから,
∆t= 2a
c (7.8)
なので,式(7.7)に代入して微分すると,
dψ dt =f0
d(∆t) dt =f0
2 c
da
dt = 2uf0
c =fD (7.9)
となり,反射波の位相差を時間微分することで,ドップラー周波数fD を求めることができ,式 (7.9)を式(7.6)に代入することで流速を求められる。
このようにして測定位置とその流速を関連付けられるので,速度分布の計測が可能となる。次
時間分解能
ドップラー周波数を求めるには,超音波パルスの発振と受信を何度も繰りかえさなければなら ない。この発振受信の一回にかかる時間をtpとした時,トランスデューサーから一番遠い計測地 点からの反射波が最大のtpを示すことになる。この計測地点までの距離をlfとすると,
tp ≥ 2lf
c (7.10)
でなければならない。次に,1つの速度分布を求めるのにかかる時間をta,パルス発振回数をnと すると,リアルタイムで速度分布を表示するためには,1つの速度分布を解析,表示する時間tcを 加えることで,
ta=tpn+tc (7.11)
となる。既存のUVPは,数十~数百msの時間分解能である。
空間分解能
計測位置の決定は超音波パルスごとに行われるため,この判別を行える最小の間隔が空間分解 能であるといえる。超音波パルス長さをlpとすると,基本周波数f0より,
lp = c
f0n′ (7.12)
となる。ここでn′は超音波周波数をn′周期分発振したことを示す。従って,反射波も同様の長さ のパルス幅をもっていると考えられる。この長さlpの反射波をトランスデューサーで受信した場 合,受信に要する時間trは,
tr= lp
c = 1
fon′ (7.13)
であり,空間上のある点x1で超音波パルスの反射が起こる時,超音波の発振から反射波の受信を 始めるまでの時間をTU V P1,受信終了までの時間をTU V P′ 1とすると,
TU V P1= 2x1
c , TU V P′ 1 = 2x1
c +tr (7.14)
となる。またx1より一つはなれた地点をx2とすると,反射波の混同を防ぐためにx1からの反射 波の受信が終了してからx2からの反射波の受信が始まるようにしなければならない。このため,
次式を充たさなければならない。
2x2
c
− 2x1
c +tr
≥0 (7.15)
従って,次のように空間分解能dlが求まる。
dl=x2−x1 ≥ c
2tr = n′c 2fo
(7.16) である。本実験では,超音波パルスの周波数4MHz,n′=4で実験を行っている。磁性流体中の音 速を1420m/sとすると,空間分解能は0.71mmとなる。
速度分解能
ドップラー周波数を求めるのに測定可能な最大ドップラー周波数(fD)maxは,サンプリング周 波数fN で与えられるので,
(fD)max=fN = 1
∆t (7.17)
となる。このサンプリング周波数でドップラー周波数を求めなければならない。fDの1周期に最 低2回はサンプリングを行わなければならないので,速度の測定限界umaxは,式(7.6)より,
umax= c 2f0
fN
2 = c
4f0∆t (7.18)
と表される。従って,超音波パルスの発振間隔∆tを小さくするほど,umaxを上げることができ るが,時間分解能を考える必要があるため,トランスデューサーから最も遠い測定可能地点まで の距離をlmaxとすると
lmax= c∆t
2 (7.19)
である。以上から次のようにUVPの測定限界を示すことができる。
umaxlmax= c2
8f0 (7.20)