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磁性流体中の超音波伝播速度理論

第 4 章 磁性流体中の超音波伝播特性と内部構造解析 - 伝播速度によるアプローチ 44

4.5 磁性流体中の超音波伝播速度理論

磁性流体中の超音波伝播速度の理論を考えるのは非常に複雑で,各種パラメータが多く存在し,

研究者ごとに見解が異なっている。また,理論研究に対して実験研究もなされているが,理論式に は多くの未知パラメータが含まれているため,これらを適当に与えることで実験との比較を行っ ている。ここでは,本研究と関わりの深い,磁性流体中の音波伝播速度に関して書かれたParsons

の理論[52]Sokolovの理論[59]を簡単にまとめ,後の検討の参考とする。細かな理論式の導出

はAppendix Bにまとめる。

4.5.1 Parsonsの理論

Parsonsの理論は,磁性流体中の超音波伝播特性における初の理論研究と言われている。Parsons

は磁場の印加された磁性流体をネマティック液晶とみなし,液晶理論から磁性流体中の超音波伝播 速度の異方性に関する理論式を導いている。

Cartesian座標系を用い,z方向に磁場H が作用し,xz平面に音波が伝播しているとすれば,

伝播速度V は以下で表される。

V =V0(1 + ∆) (4.1)

ただし,∆は以下で定まる。

∆ =C0

λ2 8

γ1ω ρ0V02

1−ω2 ωc2

ωτm

(1−ω2c2)22τm2 sin22φ (4.2) ここで,ρ0は磁性流体の密度,ωは超音波角周波数,V0はz方向伝播する無磁場下の磁性流体中 の伝播速度,φは音波伝播方向と磁場方向のなす角度,C0は粒子濃度,ωcは以下で与えられる強 磁性微粒子の固有振動数である。

ωc =

χ0H/ρ0C0a2cl (4.3)

χ0は磁性流体の平均磁化率,aclは磁性クラスターの代表長さを表す。τmは振動緩和時間で

τm1/(χ0H) (4.4)

と定まる。

また,λは以下で表される。

λ=γ21 (4.5)

定数γ1,γ2は液晶理論におけるLeslie係数αiを用いて

γ1 =C012−α3) (4.6)

γ2 =C0123) (4.7)

と書ける。

以上から,式(4.1),式(4.2)は,次のように表せる。

∆V

V0 =F(C0, f, H) sin2(2φ) (4.8)

この式に表されるように,Parsonsは印加磁場下の音速の異方性はsin22φに依存すると理論付 けた。

そこで,具体的な数値を見積もる。本研究の磁性流体の物性,実験条件を考慮すると,磁性流 体の密度ρ0:1.412 × 103(kg/m3),粒子濃度C0:40 (%),クラスターの代表長さacl:約200(µm), 磁性流体の磁化χ0H:1.0× 104(A/m)とおおよその物性値を見積もることができる。この値をも とに本理論から強磁性粒子の固有振動数ωcは,ωc=2.1× 104程度である。また,本研究に用いた 超音波の周波数は2MHzであるので,角周波数ω=1.3× 107である。以上から,超音波の各周波 数ωは,強磁性粒子の固有振動数ωcに対して,103程度大きな値が得られた。Parsonsによると,

ωc ≫ωでは,異方性が存在せず,ωc ≪ωにおいて,異方性を見積もることができるとしている ので,理論による比較も比較的妥当なものであると考えることができる。しかしながら,液晶理 論に基づくLeslie係数の具体的な値を,本研究のみから見積もることは難しく,本研究における 理論との比較も定性的なものとする。

Parsonsの理論結果と実験結果の比較では,Parsonsは磁性流体の内部構造変化を液晶とみな

しているためか,後になされた実験との一致が見られていない。しかしながら,本研究では磁性 流体を薄めた時に,Parsonsの示す理論に近い傾向が得られており,混相流においてもこのような 傾向が得られるといわれていることから,上記の具体的なパラメータの見積もりに基づき,この 理論と比較することで,磁性流体の内部構造解析を試みる。

4.5.2 Sokolovの理論

磁性流体を外部磁場H中におく。磁場方向Hと超音波伝播方向のなす角をφとすると,磁性 流体力学の基礎方程式から次の音速を求めることができる。

c=c0 1

2

1 + c2A c20

±

1 +c2A c20

2

−4c2A c20

cos2φ

(4.9) ここで,c0は無磁場下の磁性流体の音速,cAはAlphenの音速で次のように定義される。

cA =βµ0cos2φ (4.10)

と与えられる。µ0は単位体積あたりの飽和磁化である。

また,βはβxxyyであり,βは次式で記され,構成する物質から見積もることがで きる。

βij = ρ0

χij

(4.11) ここで,ρ0は磁性流体の密度,χij は各構成要素の磁化率である。

以上から,Alphenの音速cAを見積もることで,磁性流体中の音速とその異方性を議論するこ とができる。

Sokolovの理論では,Alphenの音速cAを見積もらなければならないことに問題があるが,超 音波伝播方向と磁場方向のなす角φによって,異方性の式が与えられているので,その傾向を検 討することができる。本研究では,この理論に基づいた検討も行った。