• 検索結果がありません。

磁性流体中の鎖状クラスターの可視化

第 8 章 総 括 149

A.2 磁性流体中の鎖状クラスターの可視化

A.2.1 可視化方法

磁性流体の試料(プレパラート)を作成し,これを明視野法によって,垂直方向の透過光を捕ら えることで,光学顕微鏡を用いて観察した。観察した画像は,CCDカメラによって,パソコンに 画像ファイルとして取り込むことが出来る。この方法で磁性流体中のクラスターの可視化を行な ううえで,重要なことは次の2点である。

図A.1: Visualization of inner particle in magnetic and MR fluids

1.プレパラートの作成(光の透過) 2.磁場印加が可能

プレパラートの作成

磁性流体プレパラートの作成は,実験条件の違いによるプレパラート間での比較を可能にするこ とを考えると非常に難しい。プレパラートの作成にあたり,次のことに留意しなければならない。

1.磁性流体量を一定にする 2.光が透過できる

3.磁性流体のベース液(ここでは水)の蒸発を防ぐ 4.実験条件を変えた結果の比較が可能

明視野法において,光は磁性流体試料を透過しなければならない。このため,試料は,非常に 少ない流体量(数µl)の薄膜状にする必要がある。しかしながら,流体量が少ないため,磁性流体 量を一定にするのは難しく,たとえ流体量を一定に出来たとしても,プレパラートを作成の段階 で薄膜の厚さを一定にするのは困難であり,観察は出来てもプレパラート間の実験の繰り返し性 は小さくなり,比較が難しい。

そこで,これらを考慮して次の方法によってプレパラートを作成した。まず,薬さじによって,

流体量が出来るだけ同じになるよう注意してプレパラートを作成する。この段階では,磁性流体 量も薄膜の厚さも各プレパラート間でばらばらである。そこで,作成したプレパラートを実際に 明視野法で可視化を行ない,画像処理ソフトによって,得られた画像の平均明度を測定し,この 平均明度がある一定の範囲内にあるものだけを選択して,磁性流体の試料とした。この方法で作

成した試料を用いて,繰り返しの実験を平均することで,実験条件を変えた可視化結果の比較が 可能となる。この手法は,多くの予備実験によって,経験的に得られたものであり,理論的な裏 づけはないが,可視化画像によりクラスターの成長を評価するうえで,最適であると考えている。

クラスターの可視化は,その成長を評価するため,長時間の連続的な観察が必要である。しか しながら,長時間の撮影において不具合が生じることが観察された。この原因は,磁性流体量が 少量であるため,観察中にベース液が蒸発することであると判明した。そこで,この蒸発を防ぐ ため,カバーガラス周りを接着剤で固めることによって,この蒸発を防いだ。検定実験を行なっ た結果,撮影の不具合も生じなかった。

磁場の印加

磁場の印加は永久磁石間にプレパラートを置くことで行なった。磁性流体の試料には,最大 80mT程度までの磁場印加が可能であり,磁石間隔を変えることで磁場印加強度を変えることが 出来る。また,磁場による光学顕微鏡への影響はほとんどないものであると考えられる。

A.2.2 可視化結果と検討

可視化結果を図A.2,図A.3に示す。図はそれぞれ40mT80mTの磁場を印加した時の印加 60分後魔での撮影画像を10分ごとに示している。可視化画像に示される通り,磁性流体中の鎖状 クラスターは時間をかけて,太く長く成長することが確認できる。また,強磁場(80mT)の方が わずかであるが早く大きく成長していることも確認でき,そのクラスターのサイズは数百µm程 度であった。これは,ここまで述べてきた本研究の結果とも整合性のあるものであった。

そこで,可視化実験では,これらの画像に対し明度の標準偏差を計算することでクラスターの 成長を定量的に評価することを試みた。磁場印加後初期の間は,クラスターの成長により,明度の 標準偏差も大きくなることは確認できた。しかし,30分ほど時間が経過すると,可視化画像から も確認できる通り,クラスターが大きく成長することで,観察領域から逸脱してしまうため,定 量評価の指標とはならない。そこで,この成長初期の段階をもって,超音波伝播特性の結果と比 較も検討したが。

可視化画像の明度の標準偏差と超音波伝播速度の経時変化の結果の比較は,クラスターの成長 速度などを検討するうえで意義深いと考えたものの,その結果は適合性のあるものではなかった。

これは,本論文内でも記したが,流体量の違いと可視化画像ではクラスターの成長が飽和状態に なるまで評価出来ていないことが主な原因であると考えられる。このため,可視化実験において

は,APPENDIXとしてクラスターの成長,サイズを実際に観察するという観点のみに留めた。

図A.2: Visualization of the chain-like cluster under 40mT

図A.3: Visualization of the chain-like cluster under 80mT