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内部粒子濃度の変化に伴う伝播特性の検討

第 4 章 磁性流体中の超音波伝播特性と内部構造解析 - 伝播速度によるアプローチ 44

4.17 内部粒子濃度の変化に伴う伝播特性の検討

けるの結果とSokolov-Tolmachevの理論計算結果をあわせて図4.56に示す。図4.56 によると,

Sokolov-Tolmachevの理論計算と実験結果では,定性的な傾向は一致しているが,定量的には一

致していない。各物性値が違うため,当然の結果であるが,音速変化率のオーダーと傾向が同じ だということは注目すべき点である。

図 4.56: Comparison with the theory of Sokolov

その他の研究者との比較

Parsonsは式(4.2)のような理論式を導いて,超音波伝播速度は,無磁場下の伝播速度を基準と

してsin2φに依存すると理論付けたが,この結果は後になされた他の研究者の実験との一致は見ら れない。本計測においても全く異なる傾向であった。これは,Parsonsは磁場印加時の磁性流体を 液晶として計算しており,鎖状クラスターの形成を考慮に入れていないためであると考えられる。

Mehta-Patel[64]は異方性への磁性流体温度の依存性を計測したが,結果には,非常にばらつき

が多く,信頼性のある結果ということはできない。Skumielら[67]の計測は,磁場は50mT程度 でしか計測を行っておらず,ごく小さい異方性しか計測できていないが,磁場依存性の計測と同 様,本研究と一致している部分が多い。

4.17.1 伝播速度

伝播速度の値はW-40を薄めた測定結果が図4.33HC-50を薄めた測定結果が図4.34に示され ている。これらの図に示される通り,どちらの磁性流体においても濃度を薄めるほど,溶媒の伝 播速度に近づいてくることが分かる。これは,内部粒子の濃度が薄まったことにより粒子添加の 影響が薄れ,溶媒自体の特性に近づいていることを顕著に表した結果であるといえる。

この結果を利用すると,W-40の場合,磁性流体をある割合で薄めることで,伝播速度におい て温度依存性の無い磁性流体を調合でき,温度制御を必要としないシステムへの応用や実験が可 能になると考えられる。

4.17.2 磁場印加後の経時変化特性

図4.35~図4.38に示す伝播速度の経時変化について考える。前述の通り,内部に形成される鎖 状クラスターは,伝播速度変化が一定になるまでの時間をかけて成長していると考えられる。こ れらの図に示すように,充分な時間経過後伝播速度変化が一定になっている。伝播速度変化が一 定になる時間を見ると,全ての結果について,磁性流体を薄めるほど,この時間は短くなってお り,鎖状クラスターの形成に時間を要さなくなった。さらに,薄めることで磁場への応答性がよ くなることから,図4.6,図4.7に示される磁化率を考えることで,使用目的に対して適当な条件 を持つ磁性流体の調合の可能性も考えられる。

次に,内部構造に関して考える。ここまで,磁性流体中の伝播速度の大小によって内部に形成 される鎖状クラスターの形状,大きさを議論してきた。本測定の場合,磁性流体を薄めるほど,内 部粒子の影響が小さく,クラスターも相対的に小さくなるので,伝播速度変化が小さくなり,磁 場による影響が少なくなるものと予測した。しかしながら,これらの結果が示す通り,予想のつ かないものであり,磁場印加による伝播速度が濃度に対して全く規則性のないものであった。こ れは,薄めた磁性流体に磁場印加した時の磁性流体の物性が影響をしていると考えられる。

4.17.3 異方性の検討

異方性に関しては,顕著に違いの現れたW-40における結果を図4.39~図4.47に示した。希釈 した磁性流体においては,希釈していない磁性流体の異方性の結果とは全く異なる異方性が現れ た。これに関して,Parsonsの理論と比較することで検討する。

前節の異方性に対応する傾向を考えると,異方性は磁場が強いほど大きく現れており,磁性流 体が薄いほど,磁場による影響が小さいことが分かる。濃度が薄いほど溶媒に近い状態であると いえるので,磁場による影響も少なく,伝播速度変化も小さいと考えられる。また,磁場が大き ければ鎖状クラスターも大きく成長するので,伝播速度の変化が大きくなっているといえる。こ

れらは,先に記した異方性の結果に準じるものであるといえるが,伝播方向のなす角φに関する 異方性は全く異なる傾向が得られている。

Parsonsの理論との比較

磁性流体を希釈した時の異方性は,φ= 45において伝播速度が最大となる部分が現れた。こ こから単純に内部構造を解析することは難しく,推測もつけがたい。式(4.2)に示したParsons 理論[55]によると,伝播速度の異方性は,無磁場下の伝播速度を基準としてsin2に依存してお り,伝播速度変化はφ= 45で最大となり,本測定結果と類似している。そこで,濃度が20% 30% の磁性流体について,この傾向が顕著に表れている500mTにおける結果とParsonsの理論 に適当なパラメータを見積もって計算した結果を,図4.57に示す。

図 4.57: Comparison of experiment with the theory of Parsons

図4.57に示されるように,希釈した磁性流体に磁場を印加するとParsonsの理論に傾向が類似 しているのが分かる。Parsonsは磁場印加時の磁性流体をネマティック液晶とみなして液晶理論か ら伝播速度変化の理論を導き出した。液晶とは,棒状もしくは円盤状の異方的な形をもつ分子か らなる結晶と液体の中間相といえ,秩序の低い相から順に,ネマティック相,スメテリック相,柱 状相に分類される。これを考えると,内部粒子の濃度分布が低いと磁場の印加によって,内部に は鎖状クラスターが形成されるというよりは,ネマティックな液晶とみなせるような液晶状態に変 化していると考えられる。その結果,希釈していない磁性流体の異方性で示されたφ= 0で伝播 速度が最大となる異方性から,ここに示す結果のφ= 45近傍で最大となる異方性へと遷移した ものと考えられる。経時変化にも記した特異な伝播速度変化もこの異方性が原因であると考えら れる。しかしながら,Parsonsの理論から導き出したことは,あくまで推論でしかなく,Parsons の理論が検証されていないため,今後,更なる実験,検討が必要となる。