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MR 流体チャンネル流の超音波による流動構造解析

第 7 章 磁性流体管内振動流への UVP の適用, MR 流体チャンネル流の流動構造解析 130

7.3 MR 流体チャンネル流の超音波による流動構造解析

7.3.1 概要

MR流体は磁性流体に比べ,磁場印加で制御可能な降伏応力や大きな粘性力を持っており,応 用研究が活発になされている。しかしながら,MR流体の内部構造,レオロジー特性を考慮した 流動解析は非常に困難であり,なされている研究が少ないのが現状である。これに対して,本研 究ではMR流体チャンネル流の流動解析に対して,超音波を用いて流動内部構造解析を行うこと とした。

7.3.2 MR流体チャンネル流における過去の研究

MR流体は,印加磁場下における特徴的な物性変化から数々の応用研究がなされているにも関 わらず,その複雑なレオロジー特性などに起因するため,流動場における研究が応用研究に対し て少ないが,本件に関わりの深いMR流体チャンネル流における研究をあげる。

Yamamoto-Nakano[108]は,MR流体チャンネル流の圧力流れモードにおいて定常および動的

なレオロジー特性を計測し,これをもとに往復振動流に対する機械モデルを構築することで圧力 差を測定した。Nishiyama[109]は,矩形断面のMRチャンネル流における圧力流れ場におい て,構成方程式を提案し,レオロジー特性を考慮した圧力流れ場におけるMR流体の流動解析を 理論的に行った。そして,流動場に磁場を印加し,流量を計測することでMR流体による流動制 御バルブとしての応用の可能性を検討した。さらに,流動場の圧力分布を測定することで,磁場 印加によりMR流体がシールとして作用し流れが遮断すること,流動によってシールが崩壊に転 じることを確認した[110]。本研究では西山らと共同のもと,超音波によりMR流体チャンネル流 の流動構造の解析を行い,MRシール崩壊予知の検討を行なった[111]。

7.3.3 MR流体チャンネル流内部構造解析実験装置

実験装置の概略を図7.11に示す。流路は10mm×10mmの矩形断面であり,流路の一端にコン プレッサー,ピストンなどで構成されるPressure controll systemによって,押出し圧PinMR 流体を押出すことによって,圧力流れ場を形成する。押出し圧は120kPaまで可変で,磁場印加は 電磁石により150mTまで印加できる。振動子は,図7.11に示す通り管路外壁,電磁石中心部に 1枚設置,さらに左右2枚ずつ30mm毎に設置した。ピストン側(図中左側)から順にCh1,Ch2, Ch3,Ch4,Ch5とする。

本測定装置においても,3.6節に記したように純水の計測によって,超音波伝播時間T,超音 波伝播距離Lの検定を行っている。MR流体はLORD社製のMRF-132ADを用いており,物性 は6.4節に記した通りである。

図 7.11: Experimental apparatus of an MR fluid channel flow

7.3.4 MR流体チャンネル流内部構造解析実験方法

超音波振動子を設置したCh1Ch5の部分において,超音波伝播速度,磁場作用下におけるを 伝播速度変化特性を測定した。具体的には,次の2通りの実験を行った。

1. Ch1Ch5における超音波伝播速度の印加磁場強度依存性

2. Ch1Ch5における超音波伝播速度を基にした流動内部構造解析

印加磁場強度依存性

Ch1~Ch5において,4.9節に示した磁場依存性を計測した。磁場は10mTごとに140mTまで 印加した。

流動内部構造解析

次の手順によって流動内部構造解析を行った。伝播速度の計測はCh1~Ch5全てにおいて行っ ている。さらに伝播速度は基準値からの音速変化率を用いて評価している。

1.無磁場下,押出し圧Pin = 0(流動なし)の状態において伝播速度を計測,この値を基準V0と した

2. 80mTの磁場印加,押出し圧Pin = 0(流動なし)の状態において伝播速度を計測

3.磁場を印加したまま,押出し圧Pinによって圧力をを加える(流動あり),押出し圧は,40kPa, 60kPa,80kPaとした。この状態で伝播速度を計測

7.3.5 MR流体チャンネル流内部構造解析実験結果と検討

磁場印加強さ依存性

測定結果を図7.12に示す。図では,磁場作用域のCh3においてのみ伝播速度が増加している。

これは,磁場の増加によって,MR流体中に塊状クラスターが形成され,超音波伝播領域の濃度 が相対的に増加したため,伝播速度が増加したと考えられる。

次に,磁場作用域の隣であるCh2Ch4では逆に伝播速度が減少している。これは磁場作用域 における塊状クラスターの形成によって,内部粒子が磁場作用域に引き寄せられた結果,粒子濃 度が相対的に減少したため伝播速度が減少に転じたと考えられる。

磁場作用域から遠いCh1とCh5においては,Ch1は伝播速度の変化がなく,Ch5では伝播速 度が減少している。この地点では磁場作用の影響をほとんど受けていないため,Ch1では伝播速 度が変化していないと考えられる。これに対して,Ch5では減少しており,チャンネル流の磁場 作用域の下流は矩形管を解放しているため,磁場の作用によって,Ch1とは異なり内部粒子が引 き寄せられ,粒子濃度が相対的に減少したものと考えられる。

流動内部構造解析

計測結果を図7.13に示す。図に示されるように,無磁場,Pin= 0kPaにおいては,全ての点 で基準となるため音速変化率は全て0である。

80mTの磁場を印加すると(Pin= 0kPa),磁場作用域のCh3では伝播速度が増加,Ch2,Ch4 では伝播速度が減少,Ch1,Ch5では伝播速度が変化していないことが分かる。これは,Ch5以 外では,図7.12に示した磁場依存の結果と同様であり,MR流体の塊状クラスター形成に伴い内 部粒子濃度が相対的に変化したためであると考えられる。

次に,磁場を印加したままPin = 40kPaPin = 60kPaの押出し圧を加える(80mT)。押出し 圧を加えても伝播速度にはほとんど変化が見られない。これは,MR流体への磁場の作用によっ て,流動が遮断されているため,流動が無く,内部粒子の相対的な濃度が変化していないものと 考えられる。

Pin =80kPaを加えた時,その傾向は大きく変化する。これは圧力増加に伴い流動を遮断しき

れずに流動が開始した結果であると考えられる。磁場作用領域では,濃度分布が高いため伝播速 度は増加しているが,他の部分では特徴的な傾向が得られていない。これは,流動が開始すると 受信波形が乱れてしまい,測定に再現性が無くなる為である。このため,流動状態においては,伝 播速度は内部状態を定量的に評価しうる指標にはなりえない。しかしながら,流動開始の瞬間に 受信波形も乱れるため,この瞬間を感知することで,MR流体シールの崩壊の予知を検討するこ とが可能であると考えられる。

図 7.12: Magnetic field dependence of ultrasonic propagation in MR fluid flow

7.3.6 まとめ

超音波によるMR流体チャンネル流の流動内部構造解析を行った。流動が遮断されている状態 では,伝播音速変化に特徴的な傾向があり,超音波による内部構造解析が可能であった。流動状 態では,受信波形の乱れから定量的な計測は難しい。しかし,逆にシールの崩壊の瞬間を非接触 によって解析できることが明らかになった。