写真9.1:ボルネオ熱帯雨林で木にもたれて休むマレーグマの亜成獣
Photo by Siew Te Wong
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図9.1:マレー半島の森林地帯における重要な3地域 Kawanishi et al.(2003)に基づく
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図9.2:サバ州の森林分布
している。クマの痕跡を用いた
()以 外の研究者はすべて、カメラトラップ法によるデータから 生息密度を推定した。
()は、
国立公園(マレー半島)で
〜
頭
と推定した。しかし、
()は、手法の欠 点 が あ る た め こ の 密 度 は 信 頼 で き な い と し て い る。
()はサバでは
頭
、
(未発表)は、サバのウル・セガマ森林保護区(インドネ シア側のボルネオ島)では
頭
、() は、カヤン・メンタラン国立公園(ボルネオ島)では
頭
、ブランガン森林保護区では
頭
と推定し ている。生息地が縮小(生息地への脅威の項を参照)して いることを考えると、マレーグマ個体群は急速に減少して いると考えられる。
個体群に対する脅威
非合法な狩猟と貿易、森林の択伐、個体群の分断、そし て生息地破壊の複合効果は、マレーシアにおけるマレーグ マ個体群の主な脅威となっている。しかしながら、こうし た要因がどのように死亡率や個体数の増減に影響を及ぼし ているかはわかっていない。
マレーグマの狩猟は、マレーシアでは厳しく禁止されて いる。しかしながら、場当たり的な密猟は、法的強制力が ないため、いまだに起こっている。多くの許可された狩猟 あるいは密猟活動は、パッチ状の森林に隣接したアブラヤ シ(
)農園で行われている。狩猟の対象種は、
イノシシ、ヒゲイノシシ、スイロク(ミズジカ)であるが、
狩猟者達は撃つ機会にめぐまれれば、ためらいなくクマを 撃つ。日中アブラヤシ農園に隣接したパッチ状森林に隠れ ており、夜にアブラヤシ農園で採食するクマたちは、撃た れやすい。アブラヤシ農園はクマたちにとって、ちょうど ワナのようなものである。また農園周辺のパッチ状の森林 は個体のたまり場となっている。場当たり的な密猟に加え て、過去数年間にタイやカンボジア、ベトナムなどからよ く組織された外国人密猟者によって密猟が行われ、国立公 園やマレー半島の保護地域におけるマレーグマを含むマ レーシアの野生生物の生存に脅威となっている。マレーグ マの肉と掌は利用価値があり、またそれほど一般的ではな いが、マレーシアのいくつかの都市では旅行者や地元の 人 々 に と っ て の 珍 味 と な っ て い る(
私信)。マレーグマの爪と犬歯は、悪霊を取り払うと 信じられており、サバの宝石商や骨董店で依然として販売
第9章:マレーシア
凡 例
海 森林以外 森林 主要都市 国境
森林を含む保護地域 IUCNカテゴリーⅠ・Ⅱ IUCNカテゴリーⅢ・Ⅳ
南シナ海
ブルネイ・ダムサラーム国 ブルネイ・ダムサラーム国
カリマンタン サラワク
ブルネイ・ダムサラーム国
図9.3:サラワク州の森林分布と伐採契約地域
されている。サラワクでは伝統的な生活様式を続け、自家 消費のためにこうした野生生物を合法的に捕獲する必要の ある原住民には、狩猟の許可がなくても撃つ権利が認めら れている(
)。この管理されていない狩猟のた めに、サラワクのマレーグマは肉や胆のう、爪、歯の商取 引のために過剰に撃たれ、非常に少なくなっており、多く の地域で絶滅している(
)。
生息地の特徴
マレー半島とボルネオ島の熱帯雨林は、高い生物多様性 を有することで有名であり、地球上でもっとも多様な生態 系の
つである。こうした熱帯雨林では、フタバガキ科の 樹木が優占している。マレー半島では、最も生産性の高い 低地のフタバガキ科の森林は、都市化と農業的利用により 失われた(主にアブラヤシ農園とゴム農園)。年には、マレー半島の
%()が、アブラヤシ農園とし て利用された()。さ まざまな状況下の森林(全土の約%)は、ティワングサ 山系、グレート・タマンネガラエコシステム、そして南部 森林地帯など、標高の高い山地や国立公園、その周辺の森 林でみられた(図
)。これらヶ所の地域はマレー半島 だけではなく、東南アジアのすべてのマレーグマの生息範 囲における、もっとも重要な生息地である。
サバでは、低地性フタバガキ科森林の約
%が市街地あ るいは農地(主にアブラヤシ農園)へ変えられてきた。年には、サバの約
%(約
)がアブラヤシ農 園として利用されていた。この数字は、近い将来増加する と予想される。サバの約%()が森林として 残されている(図
)ものの、その%(国土の%)
のみが何らかの形で保護されているにすぎない(
)。残存する森林の%(国土の%)
が伐採予定地で、そのほとんどは択伐されたか
年まで に伐採される予定の、商業的森林保護区である()。
サラワク州政府によれば、サラワクの
%以上が自然林 に覆われている(図)(
)。しかし、たっ た約%()が、国立公園や自然保護区、野生生 物保護区としてなんらかの保護形態をとっているにすぎな い(
)。長期間の土地利用計画を考慮し て、サラワク州政府は::政策をとっている(万 は農地と居住地、万は商業的森林、万は 保 護 区)(
)。年 に は、サ ラ ワ ク の
%()がアブラヤシ農園のために使われ、こ の割合は、次の数年間で倍になるであろう。現在では、商 業的森林の万のほとんどは著しく伐採されている。
生息地への脅威
森林破壊は、マレーシアのマレーグマが直面するもっと も深刻な脅威である。これらの森林は、林業生産にとって 高い価値があると評価されており、現在急激に皆伐されて 農園や人間の居住地にとって変えられつつある。択伐もま た、多くの原生林を二次林へ変えた。マレーシアでは、輸 出による外貨獲得を通じて国の収益を生み出す戦略基盤の
つとして林業を考えている。つまり、マレーシアは現在、熱帯の広葉樹林の世界一の生産国であり輸出国である。伐 採は、マレーシアにおいて、いくつかの保護地域を除く低 地の森林に影響を与える。年間の森林破壊率は
〜 年から〜年の間に約%はね上がり、結果 として年以来、毎年森林の%、平均して
が失われている()。それに対して、その他の東南 アジアの国々は、年代に年間森林の
%、つまり
を失ったのみである()。伐採活動は、マ レーグマの生息地を縮小させるだけでなく、伐採期間中に 整備される林道網を通じて密猟者の森林への侵入を許した。
マレーグマは、伐採された森林においても確認されてい る(
)が、原生林を二次植生に変えること のクマへの影響は知られていない( )。マレーシ アに残存した森林のほとんどは、選択的に伐採されてし まったか、あるいは近い将来伐採される予定になっている ため、マレーグマは将来、伐採された森林に大きく依存す ることになるだろう。高い択伐率でわずかな木しか残って いない状態の林、乱暴な伐採方法によってひどく損傷して しまった林から、まだ多くの大径木が手つかずで残ってお りあまり攪乱されていない林まで、一口に「伐採林」といっ ても、それが指す林の状態はさまざまである。状態の良い 伐採林は、たいてい、急峻な地形の林か、影響緩和伐採法 のような環境にやさしい伐採が行われた比較的小さな面積 の林である。サラワクの多くの場所で見られる伐採でひど く損傷した森林をマレーグマが利用するかどうかは非常に 疑問である。
人間とクマの関係
クマの地域固有の呼び名
マレー語でマレーグマは、ハチミツがおそらくクマの大
好物であるため「
」すなわち「ハチミツグマ」である。中国系マレーシア人の間では、おそらく犬のよう に身体サイズが小さく体毛が短く頭部が小さいという理由 からだと思われるが、「犬グマ」と訳される「
」 として知られている。またマレーグマは、脅威にさらされ ると大声をあげるため、そう呼ばれる。人間との軋轢
マレーシアでは、スマトラトラ、アジアゾウ、ボルネオ オラウータンの方がマレーグマより人間との軋轢が大き い。アブラヤシ農園周辺に生息しているマレーグマはアブ ラヤシの種子を採食することが知られている(
)が、マレーグマは生息数がわずかであり、捨てら れ地面に落ちた種子のみを食べるため、農園の所有者はク マの採食に対して寛容である。にもかかわらず、農園で働 く者たちはいつも、特にクマが家の近くで採食するように なると、クマに出会ったときの身の安全を考える。そのた め地元の行政府、あるいは村住民たちは、作物被害のため ではなく、身の安全のためにクマを殺すのである(
)。
現在の管理システム
マレーグマの法的位置づけ
マレーグマはマレーシアも加盟している野生動物相の絶 滅危惧種の国際取引に関する会議(
)において、附 属書Ⅰに登録されている。マレーグマの国際取引、あるい はその身体の一部の取引は、正式な許可なしには禁止され ている。マ レ ー グ マ は、マ レ ー 半 島 に お け る 野 生 生 物 保 護 法
()(
)とサバ野生動物保全 法(
)のもと「完全な保護種」とし て登録されている。狩猟、捕殺、飼育、商業取引は禁止さ れている。
サラワクでは、マレーグマは、野生生物保護令() で保護種として登録されている。マレーグマの飼育、狩 猟、捕殺、生け捕り、商取引、輸出入さらに体の部位の所 有には、許可が必要である(
)。そ れにもかかわらず、ペットとして飼育されているクマは数 知れず、また年代後半に法律が実施される前からクマ を所有していた者がいるため、サバとサラワクでは少数だ が合法的に飼育されている。
マレーグマに関わる行政府、研究者、NGO のリスト マレーシアでは、つの地理的に異なった地域ごとに、
異なる行政府がマレーグマ保全のために責任をもってい る。それらは、マレー半島野生動物・国立公園局、サバ州 野生生物局、サラワク林業局である。世界自然保護基金
(マレーシア)や野生生物保全協会(マレーシ アプログラム)、マレーシア自然協会()などの、い くつかの国際的あるいは地域的な環境保全
が設立さ
れ、ここ数年間に多くの野生生物種の保全プログラムを 確立し実行してきた。しかし、や公的な教育プログ ラムは、これまでマレーグマ保全に焦点を当てたことはな かった。著者は、これまでマレーグマの研究と保全活動に 活 動 的 に 参 加 し た 唯 一 の マ レ ー 国 籍 の 研 究 者 で あ る(
)。
提 言
マレーグマは、いまだにマレーシアと東南アジアでは もっとも関心をもたれていない大型哺乳類である。マレー グマは、過去数年間ボルネオで生態に関する研究がいくつ か行われてきたにもかかわらず、依然としてもっとも未知 のクマである(
印刷中
印 刷 中
)。マレーシアでは、あまり強制力のない 法津上の保護以外に特別な管理行動は何もとられてこな かった。クマの分布や個体群動態、個体群の傾向、飼育さ れているクマの数、人為的な死亡、商業取引活動、あるい はクマの身体の部位の利用に関して、何も信頼できる調査 はない。さらに、マレーグマに特に着目した保全、あるい は一般人を対象にした教育のプログラムや、保全のための 生息地管理計画は何もない。また、適切な林業がどこでも ふつうに行われているわけではない。つまり、森林地帯 は、農園の発展のために皆伐されているし、多くの伐採の 実施は持続的ではない。マレーグマに関する基本的な情報 の欠如と残存する森林を保護する政府の関与の欠如は、マ レーシアのマレーグマの保全努力とその長期的な存続を阻 害する大きな要因となっている。
マレーシアのマレーグマの保全と管理のための提言は、
以下のとおりある。
()分布図の作成と生息状況調査:残存するパッチ状の森 林における、マレーグマの生息の有無に関する国レベル の分布調査。調査では、
)マレーグマの長期的な存続に とって障害となる生息地要因とマレーグマ保全ユニッ第9章:マレーシア