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第 5 章 ヘテロエピタキシャル成長を利用した

5.4 SiO 2 基板上の単結晶 Ag ナノアレイ構造の光学特性評価

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さらに、(100)面や(010)面の結晶面に沿って加工することで、FIBによる直線加工精度 が向上し、鋭いエッジを有する高精度なナノロッドアレイ構造の加工に成功した。この ように、高精度な加工性を実現する1つに、単結晶薄膜の有用性は非常に大きい。本研 究のSC-Agナノアレイ構造は、図5.12に示すように、ギャップ間距離15 nmまで達成す ることができた。

5.4.2 Agナノアレイ構造の光学特性評価と光学顕微鏡観察

FIBによって作製したSiO2基板上のSC-Agナノアレイ構造(図5.11(b))のLSP特性を

評価した。暗視野共焦点光学系による散乱光測定を行った結果を図5.13に示す。尚、比 較対象は、前項で示した様々な形状のナノロッドを有するPC-Agナノアレイ構造(図 5.11(a))とした。同図中に、ハロゲンランプによる白色光(無偏光)を照射した際の SC-Agナノアレイ構造とPC-Agナノアレイ構造の光学顕微鏡像も示す(SC-Agナノアレ イ構造、PC-Agナノアレイ構造いずれも、160×160×200 nm3のナノロッドをエリア8

×8 µm2に200個配置し、ナノロッド間距離は40 nm)。

1 µm (a)

1 µm (b)

図5.12 SC-Agナノアレイ構造のSEM像

(a) ギャップ間距離 30 nm、(b) ギャップ間距離 15 nm

ナノロッドのサイズと個数:160×160×200 nm3(縦×横×高さ)、200個 加工エリア:5×5 µm2

FIB加工条件:加速電圧30 kV、照射電流30 pA

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図5.13より、SC-Agナノアレイ構造(青実線)の方が、PC-Agナノアレイ構造(赤実 線)に比べて散乱光強度が強く、LSP共鳴波長である460 nmの散乱光スペクトルもシ ャープな形状が得られた。この結果は、光学顕微鏡像からも明瞭に分かり、SC-Agナノ アレイ構造が鮮やかな青色の発光を示した。ここで、SC-Agナノアレイ構造の外周に位 置するロッドが青緑色であることを観察した。この理由には、2つの要因が考えられる。

1つは、外周を囲むロッドの周辺環境(屈折率)が、中央部分のロッドの周辺環境と異 なることにある。これは、LSP共鳴波長が周囲の屈折率で変化することを示しており、

外周に位置するロッドは周りを他のロッドに囲まれていないため、ナノロッドと環境の 相互作用が変化したため、LSP共鳴波長が変化したと考えられる。つまり、ロッドが一 様な媒質(誘電率𝜀)で囲まれていると、光照射によって誘起される粒子の表面電荷は、

周囲の媒質の分極に伴い、その一部が打ち消されてしまう。その影響を補うために、粒 子の誘電率の絶対値がより大きな値を持つ波長で共鳴が起こる(数学的にはεを、ε/𝜀と 置き換えられる)。その結果、粒子が感じる周囲の誘電率の分布が変化し、共鳴波長が 長波長側にシフトすることを意味している[10, 11]。2つ目の要因としては、周期性に伴う ある特定波長の光伝搬が横方向に変換されたのが終端部分で伝搬できずに散乱したも のであると考える。また、本試料では、可視光領域において、偏光による依存特性は確 認できなかった。これは、ロッドのサイズや隣接するロッド間距離が大きかったことに 起因する。しかしながら、多結晶構造に比べると、単結晶構造の有用性は明確であり、

サイズやギャップ間距離をさらに制御できれば、さらなる光学性能の向上も期待できる。

図5.13 SiO2基板上のAgナノアレイ構造の散乱光測定結果

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5.4.3 SERS用基板としての性能検討

本章で扱っているSC-Agナノアレイ構造の応用用途の1つとして、SERS用基板とし ての性能を検討した。図5.14に、検出分子をBPTとした顕微ラマン分光測定結果を示す。

BPTの吸着基板には、SiO2基板、PC-Ag薄膜とSC-Ag薄膜、PC-Agナノアレイ構造と

SC-Agナノアレイ構造の5種類を用意し、BPTの1 mMエタノール溶液に24時間浸漬し、

BPTを基板に吸着させた。入射光は、波長532 nmの緑色半導体レーザー(強度: ~300

W/m2、ビーム径: 約700 nm)とし、測定条件は、BPTにダメージを与えない(複数

回測定してもラマン強度が変化しない)条件として、露光時間60秒間、平均積算回数1 回とした。

図5.14のラマンスペクトルから分かるように、SiO2基板、PC-Ag薄膜とSC-Ag薄膜の

3種類からは、BPTに由来するピークを確認できなかった。SiO2基板上で、1086 cm-1

観察できるブロードなピークは、SiO2基板のSi-Oの非対称伸縮振動に由来する。一方、

(C-H) ring n(C=C)

図5.14 Agナノアレイ構造の散乱光測定結果

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PC-Agナノアレイ構造とSC-Agナノアレイ構造の2種類からは、BPTに由来するラマン スペクトルが得られたことから、ナノアレイ構造によるSERS効果を確認できた。文献 値より、992 cm-1、1034 cm-1、1082 cm-1は、C–Hの変角振動、1276 cm-1、1587 cm-1、1597 cm-1は、ベンゼン環C=Cの伸縮振動を示す[12]。ラマンスペクトルの1587 cm-1から、SC-Ag ナノアレイ構造が、PC-Agナノアレイ構造に比べて、約5倍のラマン強度であることが 確認でき、高性能なSERS基板の作製に成功したと言える。