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第 4 章 結晶粒成長を利用した単結晶 Ag ナノ構造の作製と評価

4.3 基板温度と結晶粒径の関連性

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次に、EBSD測定から得られた成膜方向の結晶方位像を図4.7に示す。SEM像に比 べると凹凸などの表面構造情報は失われるが、細かい結晶粒の方位を確認できる。図 4.7(a)(b)に示すTsub. = 22ºC、150ºCのような比較的低温の基板温度では、(111)面(図 中青色)に配向した結晶粒が数多く存在し、(111)面が優先的であることを確認した。

一方で、図4.7(c)(d)に示すように、Tsub. = 300ºC以上になると、(111)面以外の面方位 も増え、優先方位は存在しなくなる結果となった。これらの結果を裏付けるために、結 晶方位像の各点における結晶方位データを利用して、方位の密度情報を含んだ逆極点図 の結果を図4.8に示す。

図4.6 SiO2基板上のAg薄膜のSEM像 (a) Tsub. = 22ºC、(b) Tsub. = 150ºC (c) Tsub. = 300ºC、(d) Tsub. = 400ºC

(e) Tsub. = 500ºC

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図4.7 SiO2基板上のAg薄膜の結晶方位像(成膜方向)

(a) Tsub. = 22ºC、(b) Tsub. = 150ºC (c) Tsub. = 300ºC、(d) Tsub. = 400ºC

(e) Tsub. = 500ºC

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逆極点図の密度分布からも、低温の基板温度では(111)面が優先的であることが分か

る。Tsub. = 300ºCから、(111)面の割合は減少し、ランダムな密度分布を形成した。Ag

を代表する面心立方格子(face-centered cubic: fcc)構造の場合、最密充填面の(111)面 で、表面・界面自由エネルギーの総和が最も小さくなる。その結果として、(111)面が 優先方位となると考える。一方、基板温度を上げることで、熱平衡状態により近づくた め、成長薄膜内の原子の移動が容易になり、表面や結晶粒境界での拡散が効く。その結 果として、結晶粒同士が結合する際にランダムな配向を得たと考える。

次に、結晶方位像から得られた粒径解析結果を図4.9に示す。Tsub. = 22ºCからTsub. =

300ºCまでは、粒径分布に大きな違いが見られなかったが、Tsub. = 400ºC以上になると、

粒径分布はブロードな形状を示し、最大粒径、出現比率がもっとも大きい粒子径(最頻 値)を示すモード粒径が大きくなっていることが分かった。

図4.8 SiO2基板上のAg薄膜の逆極点図(成膜方向)

(a) Tsub. = 22ºC、(b) Tsub. = 150ºC (c) Tsub. = 300ºC、(d) Tsub. = 400ºC

(e) Tsub. = 500ºC

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この結果をさらに詳しく考察するために、粒径分布から最大粒径とモード粒径を抽出 した結果を図4.10に示す。

図4.10 基板温度違いによるSiO2基板上Ag薄膜の最大粒径とモード粒径

図4.9 基板温度違いによるSiO2基板上Ag薄膜結晶粒径分布

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図4.10の結果より、モード粒径はTsub. = 22ºCの時に81.2 nm、Tsub. = 150ºCの時に 82.5 nm、Tsub. = 300ºCの時に87.6 nmとなり、Tsub. = 300ºCまでほとんど変化は見ら れなかった。しかしながら、Tsub. = 400ºC以上になると、Tsub. = 400ºCの時に120.0 nm、

Tsub. = 500ºCの時に123.5 nmと粒径大きくなり、それに伴い最大粒径もTsub. = 400ºC の時に557.1 nm、Tsub. = 500ºCの時に693.46 nmとなり、結晶粒径が急激に増大した ことが分かる。さらに注目すべき点として、EBSD測定による結晶方位像や逆極点図に よる方位解析結果から、Tsub. = 300ºC付近で優先方位がなくなったが、粒径の粗大化は

Tsub. = 400ºC以上から顕著になった。このことは、成膜中の基板温度変化による結晶成

長挙動において、先に結晶方位が決定され、その後粒径の粗大化が始まることを示唆す る。