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第 4 章 結晶粒成長を利用した単結晶 Ag ナノ構造の作製と評価

4.7 FIB による単結晶 Ag ナノピラー構造の作製と評価

4.7.1 単結晶 Ag ナノピラー構造の結晶性評価

Tsub. = 500ºC(投入電力50 W、成膜速度5.5Å/s、膜厚450 nm)のAg薄膜中の柱状

結晶粒内に、FIBを使ってAgナノピラー構造を作製した結果を図 4.21に示す。低照 射電流(1.6 pA、ビーム径7.0 nm相当)を使用し、位置ズレを補正しながら加工する ことで、最小で直径120 nmのAgナノピラー構造の作製に成功した。ただし、200 nm 以下のサイズになると、ピラー上部がイオンビームによって削られてしまい、その後の EBSDや光学特性で信号を検出することができなかった。

図4.21 単結晶Agナノピラー構造のSEM像 (a)200 nm 0º傾斜観察、(b)200 nm 45º傾斜観察 (c)120 nm 0º傾斜観察、(d)120 nm 45º傾斜観察

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次に、作製したAgナノピラー構造の結晶性を評価するために、EBSD測定を行った。

直径200 nm単結晶AgナノピラーのSEM像と結晶方位像を図4.22に示す。結晶方位

像から判断できるように、作製したナノピラーが、(111)面を示す青一色であることを 確認した。ここで、単結晶ナノピラーの下部が黒くなっているのは、ナノピラー下部か らの電子線後方散乱信号が検出されていないことを意味しており、これは測定のための 試料傾斜(70º)に起因する。しかしながら、4.4節の結果を示したように、Tsub. = 500ºC で大きく成長した単結晶粒は、柱状構造を形成していたため、作製したナノピラーも断 面方向に単結晶構造を形成していると推察できる。尚、本測定結果は、FIBによる単結 晶Agナノピラーの作製と結晶性評価に成功した初めての事例となる。

4.7.2 暗視野共焦点光学系による光学特性評価と共鳴波長の考察

FIBによって作製した200 nm 単結晶Agナノピラー構造のLSP特性を評価するた めに、暗視野共焦点光学系による散乱光測定を行った結果を図 4.23 に示す。比較対象 は、結晶粒成長を取り入れていない条件(基板温度 22ºC)の多結晶薄膜から、単結晶 Agナノピラー構造と同等の加工条件で作製した多結晶Agナノピラー構造とした。

図4.22 200 nm単結晶Agナノピラー構造の結晶性評価(70º傾斜観察)

(a)SEM像、(b)結晶方位像(成膜方向)

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図4.23の結果より、単結晶Agナノピラー構造の方が、多結晶Agナノピラー構造に 比べて散乱光強度が強く、散乱光スペクトルもシャープな形状が得られた。散乱光スペ クトルの結果から、LSP共鳴波長は、730 nmのみ観測した。まず、長波長側にピーク が現れた理由は、ピラーのサイズが大きいことによる影響と球形の微粒子に比べ、今回 のピラー形状はロッド形状に近い性質を持つことに起因する[7, 8]。また、1 つの共鳴波 長のみ観測したことは、暗視野共焦点光学系の光の入射角度(見込角)が関係している と推察した。今回の対物レンズ(100×, N.A. = 0.90)では、見込角が64.16ºになるた め、ピラー上部からの照射ではなく、ピラー側面方向からの光照射に近い。Zhouらは、

入射光をAgロッド(50×50×250 nm3(縦×横×長さ))の一部分と全体に照射した 場合における散乱光特性を解析しており、部分的な照射では共鳴波長𝜆𝐿𝑆𝑃540 nmと

𝜆𝐿𝑆𝑃1000 nmの共鳴ピークを観測したが、全体照射では𝜆𝐿𝑆𝑃1000 nmの長波長側

の共鳴ピークのみを観察している[9]。短波長側のピークの出現は、部分的な照射によっ て共鳴の対称性が崩れ、双極子共鳴とは別に、四重極子共鳴モードが出現したことが原 因と考えられている。これらの結果は、今回の結果を理解する上で非常に有用な報告例 である。一方で、多結晶Agナノピラー構造の短波長側では、強度が弱いながらも、短

波長側にLSP共鳴波長𝜆𝐿𝑆𝑃425 nm、517 nmの2つのピークが確認できた。構造内

部の違いでピークが発生したと考えると、結晶性の違いが考えられる。多結晶Agナノ

図4.23 Agナノピラーの散乱光測定結果

黒枠内:単結晶AgナノピラーのSEM像 赤枠内:多結晶AgナノピラーのSEM像

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ピラー構造は、基板温度Tsub. = 22ºCで成膜されたAg薄膜から作製されたため、4.3節 の結果から分かるように、80 nm付近の大きさの結晶粒を中心に、最大350 nm付近ま での多数の結晶粒で構成されている。つまり、ピラー構造内部に存在する各結晶粒によ って独立した LSP 共鳴が生じたことが起因して、短波長側のピークが発生したと考え られる。Ag の共鳴波長は、単純な微粒子形状で考えた場合、直径 50 nm で共鳴波長

𝜆𝐿𝑆𝑃350 nm付近に発生する[10]。そこから径を大きくすることで、共鳴波長も長波長

側へシフトする(例えば、直径100 nmで共鳴波長𝜆𝐿𝑆𝑃約400 nm、直径160 nmで 共鳴波長𝜆𝐿𝑆𝑃 約500 nm)。これらを踏まえると、短波長側に発生したLSP共鳴波 長に関しても妥当な結果と考えられる。