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第 4 章 結晶粒成長を利用した単結晶 Ag ナノ構造の作製と評価

4.2 実験方法

4.2.1 作製方法

図 4.1に Ag結晶粒成長を利用した単結晶ナノピラー構造の作製手順を示す。Ag薄 膜の成膜には、図4.1(a)に示すように、RFマグネトロンスパッタリング装置によって 成膜した。スパッタリングターゲットには、純度99.99%の直径1インチ Ag板(高純 度化学研究所製)を用いた。到達真空度は1.6×10-4 Pa以下とし、Arガス(純度99.999%)

を導入後、ターゲット浄化のため、30 秒間のプレスパッタを行った。その後、成膜圧 力1.0 Paにて、基板温度(Tsub. = 22~500ºC)、投入電力(50~90 W)、膜厚(150~1000

nm)の条件下で、Ag薄膜を成膜した。基板-ターゲット間距離は60 mmとし、基板

には SiO2基板(松浪硝子工業製)を用いた。次に、図 4.1(b)のように大きく粒成長し た柱状の結晶粒内にFIBを使って、単結晶Agナノピラー構造を作製した。まず、イオ ンビームによるSIM像によって、加工する大きな柱状単結晶粒を選択し、その粒内に

加速電圧30 kV、照射電流30 pAで直径400 nmのナノピラーを作製した。その後、30

pAから1.6 pAへと照射電流を段階的に落としながら、ナノピラー外周を削り、外径を

小さくした。最後に、加速電圧を2.0 kVに落とし、イオンビームによる試料への影響 を緩和し、直径200 nm以下のナノピラー構造を作製した。構造周辺の加工領域は、光 学評価に必要な範囲である4×4 m2とし、Ag薄膜がなくなる(SiO2基板面が現れる)

まで加工した。また、加工中のドリフト現象によって、ピラーが削られないように、リ アルタイムで加工状態をモニタリングし、位置ズレを補正しながら加工を実施した。

図4.1 単結晶Agナノピラー構造の作製手順

(a) RFスパッタリング法、(b) 成長した結晶粒の一例、(c) FIB加工イメージ図

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4.2.2 電子線後方散乱回折(EBSD)法

電子線後方散乱回折(Electron Backscattered Diffraction: EBSD)法は、図4.2の

ように、SEM(本研究では、EBSD測定に日本電子製JSM-7001F、その他表面観察に

日本電子製JSM-7610Fを使用)を用いて、70ºに傾斜した試料に照射した電子線の反 射電子の回折現象を使った分析手法である。回折は加速電圧や試料に依存するが、主に

試料表面30~50 nmの深さから反射電子が発生する。また、電界放出型(Field Emission:

FE)の SEM などによって、十分に細い電子線を照射すれば、面内方向で 10~15 nm 程度の分解能が得られる。

結晶の情報を得る方法としては、X線回折(X-ray diffraction: XRD)や透過型電子 顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)の電子線回折などがある。XRD は通常数mm程度の領域にX線を照射して回折を解析するため、比較的広範囲の領域 の平均的な結晶情報を得られる分析手法である。また、TEMを用いた電子線回折は、

XRD と異なり、nm 程度の領域の結晶情報が得られる。しかしながら、試料が薄膜で なければならず、試料作製にも時間を要する。両者に対して、EBSDは試料表面の結晶 方位像がナノオーダーの分解能で収集できるという点で、XRD や TEMにはない特徴 を有しており、電子線で走査できる範囲の結晶方位像や粒界および結晶粒の大きさや分 布などの情報が得られる[1]

発生した電子回折パターン(菊池パターンや EBSD パターンとも呼ぶ)からの結晶 方位の同定には、まず Hough 変換法を利用したバンド検出を行う[1]。電子回折パター ン画像にXY座標軸を設定し、式(4-1)で示す三角関数を使って得られた(𝜃, 𝜌)をHough 空間に重ねて描き、Hough変換像を作成する。ここで、𝜃は、中心から直線に垂線を引 いた時の角度、𝜌はパターンの中心から直線までの距離を表す。

𝜌 = Xcos𝜃 + Ysin𝜃

(4-1)

図4.2 EBSD測定の概念図

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次に、Hough 変換によって、検出されたバンドを元のパターン像に重ね、検出した 各バンド間の角度関係から各バンドのミラー指数を決定する。バンドの指標付けには、

あらかじめ与えられた試料の結晶系データ(結晶の対称性、格子定数、回折面)により、

回折面間の角度を計算した一覧表を利用する。Hough 変換で検出したバンドから3 本 のバンドを任意に選択し、バンド間の角度を面間角度に換算し、その角度を元にバンド の組み合わせを推測する。実際の測定では、バンドを7~8 本を検出し、そこから3 本 を選択し、すべての組み合わせに対して結晶方位の計算を行い、その共通解をもって最 終的な結晶方位とする。これら EBSD 解析から得られた結晶方位データは、様々な形 式を総合的に処理するソフトHKL Channel 5を利用した。本研究の評価では、図4.3 に示すような、結晶方位像と逆極点図を利用した密度分布を用いた。

図4.3(a)に示す結晶方位像は、まず結晶粒をどのように認識するかという定義が重要

になる。EBSD解析では、まず結晶粒界を定義する方位差を決め、次に隣接する各ピク セル間の方位差がこの定義した角度以下であれば同一の結晶粒、それ以上であれば別々 の結晶粒に属し、その間に粒界があると定義する。これを測定した領域のすべてのピク セルに当てはめ、各ピクセルがどれかの結晶粒に属するようにすることで結晶粒を決め る。本研究では、定義角を10°と設定した。さらに、一旦EBSDデータを収集してしま えば、方位像の各点の方位データをプロットした後に、プロットされた各点をガウシア ンで幅を持たせてプロットし直すことができる。これによって、プロットされた点の密 度を計算することができる。逆極点図を利用して、密度分布を等高線色配置で表示した

ものが図4.3(b)のとなる。密度分布を用いることで、結晶方位の優先配向の度合いや強

度を詳しく議論できるようになる[2]

(a)

001 101

(b) 111

図4.3 EBSD測定の概念図

(a) 結晶方位像、(b) 逆極点図を利用した密度分布

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4.2.3 粒径分布解析手法

Ag薄膜の結晶粒分布の解析には、EBSD測定で得られた結晶方位像を使用した。画 像処理ソフトImage-Pro Plus(Media Cybernetics製)を使って、図4.4に示すよう に結晶方位像から二値化画像を取得し、付随の粒径解析アプリケーションによって、サ イズと個数を評価した。

結晶粒の抽出精度を上げるために、二値化像の結晶粒界(黒線)は、モフォロジカル 処理によって、2 pixel(20 nmに相当)にした。結晶粒のサイズ測定には、SEM像や結 晶方位像からの長さ計測と近い値を示す方法を採用し、結晶粒の両端を相当楕円の長軸 に投影し、その間隔を測定することで算出した。結晶粒はアプリケーションによって自 動的に抽出されるが、最終的な検証は著者が目視で行い、結晶粒の分離や結合の最終処 理を行った。また、直径20 nm以下の結晶粒を未抽出することで、細かいノイズ成分 を除去した。さらに、二値化画像の境界に接する結晶粒は真値を取らないため、粒径解

(a) (b)

(c) (d)

図4.4 粒径解析用の画像例 (a) 結晶方位像、(b) 二値化画像、

(c) 抽出結果(結晶粒を青色で表示)、(d) 検証後の分離・結合画像

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析の対象から除外した。粒径分布の作成には、Image-Pro Plusで粒径解析した結果に 対してヒストグラム処理を行い、総面積(台形法により算出)が1になるように、結晶 粒径の頻度依存性のグラフを得た。最大粒径は、上述の粒径解析結果から決定し、モー ド粒径(最頻値)は、得られた粒径分布に対して、対数ガウシアンフィッティングによ って得られた近似式により算出した。

4.2.4 散乱光測定方法

FIBによって作製したAgナノ構造の散乱光スペクトルは、図4.5で示す暗視野共焦 点光学系(オリンパス製BX51TRF)を用いて測定した。光源には、ハロゲンランプに よる白色光を用い、無偏光で入射した。Ag ナノ構造からの散乱光は、100 倍の対物レ ンズ(MPlanFLN 100×, N.A. = 0.90)で集光し、コア径100 mの光ファイバーによ って、分光器(オーシャンオプティクス製QE65000)に導光し、スペクトル測定を行 った。Agナノ構造からのLSP特性に由来する散乱光信号には、バックグランドノイズ と、光源ならびに検出器の特性が含まれる。このような特性を除去するために、Ag ナ ノ構造からの散乱光(Isig.)、バックグランド光(Ib.g.)、参照試料(硫酸バリウム拡散板)

からの散乱光(Iref.)のそれぞれの信号スペクトルを測定し、Isig.を規格化した。規格化 した散乱光スペクトル(Isca.)は、式(4-2)で表される。

𝐼

𝑠𝑐𝑎.

=

𝐼𝑠𝑖𝑔.−𝐼𝑏.𝑔.

𝐼𝑟𝑒𝑓. (4-2)

図4.5 暗視野共焦点光学系

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