問 70. zcothz の z = 0 のまわりの Taylor 展開を求めよ。
例 9.28 2つの関数
f(z) := 1
z−1, g(z) := 1 (z−1)(z−2)
はそれぞれC\ {1},C\ {1,2}で正則である。f もg も|z|<1で正則であるから、h:=f+g も |z|<1 で正則であるが、実は h は |z|<2 まで正則に拡張可能である。これは g(z) の部 分分数分解
g(z) =− 1
z−1+ 1 z−2 を見れば (h(z) = 1
z−2 が分かるので) 明らかである。
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定理 10.2 (円環領域で正則な関数は Laurent展開出来る) c ∈ C, 0 ≤ R1 < R2 ≤ +∞. f はA(c;R1, R2) で定義されていて正則とするときa、ある{an}n∈Z ∈CZ が一意的に存在 して、
(49) f(z) =
"∞ n=0
an(z−c)n+
"∞ n=1
a−n
(z−c)n (z ∈A(c;R1, R2))
が成り立つ。右辺の級数はR1 < r1 < r2 < R2 を満たす任意のr1, r2 に対して、A(c;r1, r2) で一様に絶対収束する。
(49) が成り立つとき、R1 < r < R2 を満たす任意の r に対して、
(50) an= 1
2πi
!
|z−c|=r
f(z)
(z−c)n+1 dz (n∈Z) が成り立つ。
a正確にいうと: f:Ω→Cかつ、A(c;R1, R2)⊂Ω. f|A(c;R1,R2)は正則。
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この定理の中の「一様に絶対収束」の部分の証明は、冪級数についての定理3.20 と、次の
補題(証明は付録に回す, p. 208) から得られる。
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補題 10.3 (負の指数の “冪級数” の収束)
"∞ n=0
a−n
(z−c)n について、次の3つのいずれか1 つだけが必ず成立する。
(i) ∀z ∈C\ {c} に対して収束する。∀R∗ ∈(0,∞) に対して、{z ∈C| |z−c|≥R∗} で 一様に絶対収束する。
(ii) ∃R∈(0,∞) s.t. {z ∈C| |z−c|> R}で収束し、D(c;R)で発散する。∀R∗ ∈(R,∞) に対して、{z ∈C| |z−c|≥R∗} で一様に絶対収束する。
(iii) ∀z ∈C\ {c} に対して発散する。
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証明 最初に係数についての等式(50) を証明する。m を任意の整数とする。(49) の両辺を (z−c)m+1 で割って
(51) f(z)
(z−c)m+1 =
"∞ n=−∞
an(z−c)n−m−1 (z ∈A(c;R1, R2)).
R1 < r < R2 を満たす任意の r に対して、(補題10.3 直前の注意から) 円周 |z−c|=r 上で
Laurent 級数が一様収束するので、有界な 1
(z−c)m+1 をかけた(51)も一様収束する。ゆえに、
項別積分が可能であり、
1 2πi
!
|z−c|=r
f(z)
(z−c)m+1 dz =
"∞ n=−∞
1 2πi
!
|z−c|=r
an(z−c)n−m−1 dz =
"∞ n=−∞
anδnm=am. これから(49)を満たす{an}の一意性(存在すればただ一つしかない)と、(50) の積分がrに 依らないことも分かる。
以下、(49) を満たす {an} が存在することを示す。r1, r2 を R1 < r1 < r2 < R2 を満たす任 意の数とする。D :=A(c;r1, r2) とおくと、f が D を含む開集合 A(c;R1, R2) で正則である
からことから、
f(z) = 1 2πi
!
∂D
f(ζ)
ζ−z dζ (z ∈A(c;r1, r2)) が導かれる(定理8.5)。
ゆえに
I := 1 2πi
!
|ζ−c|=r2
f(ζ)
ζ−z dζ, J :=− 1 2πi
!
|ζ−c|=r1
f(ζ) ζ−z dζ とおくと
f(z) = 1 2πi
!
∂D
f(ζ)
ζ−z dζ =I+J.
I は円盤における正則関数のTaylor 展開と同じで、
I =
"∞ n=0
an(z−c)n, an := 1 2πi
!
|ζ−c|=r2
f(ζ)
(ζ−z)n+1 dζ.
J については、|ζ−c| =r1 のとき
%%
%%ζ−c z−c
%%
%%= r1
|z−c| <1 であるから (等比級数の和の公式 より)
1
ζ−z = 1
(ζ−c)−(z−c) = −1
z−c· 1
1− ζz−−cc =−
"∞ n=1
(ζ−c)n−1 (z−c)n が導かれるので
(52) J = 1
2πi
!
|ζ−c|=r1
"∞ n=1
(ζ−c)n−1 (z−c)n dζ.
M := max
|ζ−c|=r1|f(ζ)| とおくと|ζ−c|=r1 ならば
%%
%%
%
(ζ−c)n−1 (z−c)n f(ζ)
%%
%%
%≤ M r1
# r1
|z−c|
$n
が成り立つので、Weierstrass M-testが適用できて、(52)の右辺に現れる級数は、円周|ζ−c|= r1 上で一様収束する。ゆえに項別積分が可能で
J =
"∞ n=1
1 2πi
!
|ζ−c|=r1
f(ζ)
(ζ−c)−n+1 dζ 1 (z−c)n =
"∞ n=1
a−n
(z−c)n. r1, r2 が任意であることから、この級数は A(c;R1, R2) で収束する。
注意 10.4 (1) (50)は、D(c;R)で正則な関数のTaylor展開の係数についての公式と、nの範 囲を除いて、まったく同じ形をしているので覚えやすいと思う (ぜひ覚えて下さい)。
(2) 任意の"∞
n=1
a−n
(z−c)n について、次の3つのうち、どれか1つ(だけ)が成り立つ。
(i) 任意の z ∈C\ {c} に対して収束する。
(ii) ある R ∈ (0,+∞) が存在して、|z −c| > R ならば収束、|z−c| < R ならば発散 する。
(iii) 任意の z ∈C\ {c} に対して発散する。
(i)のとき R= 0, (iii)のとき R= +∞ とすると、いずれの場合も
|z−c|> R ⇒ 収束, |z−c|< R ⇒ 発散.
さらにr > R を満たす任意のr に対して、{z ∈C| |z−c|≥r} で一様に絶対収束する。
実際、任意のz ∈C\ {c} に対して、ζ := 1
z−c とおくと、
"∞ n=1
a−n
(z−c)n =
"∞ n=1
a−nζn,
|z−c|> r ⇔ |ζ|< 1 r,
|z−c|< r ⇔ |ζ|> 1 r,
|z−c|=r ⇔ |ζ|= 1 r
が成り立つことから、原点中心の冪級数の収束・発散に帰着されるので、ほぼ自明である。
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定義 10.5 (円環領域における Laurent 展開, 点のまわりの Laurent 展開と主部・留数) c∈C, 0≤R1 < R2 ≤+∞, f は A(c;R1, R2) で定義されていて正則とするとき、
(∗) f(z) =
"∞ n=0
an(z−c)n+
"∞ n=1
a−n
(z−c)n (z ∈A(c;R1, R2)) を満たす{an} が一意的に存在する。
この(∗) を f のA(c;R1, R2) における Laurent (級数)展開と呼ぶ。
特に R1 = 0 のとき、f の c のまわりの (c における) Laurent (級数)展開とも呼ぶ。
さらに"∞
n=1
a−n
(z−c)n を Laurent (級数)展開の主部(主要部、the principal part)、a−1 を f のcにおける留数(residue)と呼び、Res(f;c) で表す:
Res(f;c) = a−1.
(注意: R1 >0の場合は、主部、留数という言葉は使わない。)
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以下この講義に現れる Laurent 展開の9割以上が、点のまわりの Laurent 展開で、そうで ない円環領域における Laurent 展開は、あまり登場しない。これは(以下に導入する)孤立特 異点の話が長くなるせいであるが、他のテキストを読んでいる人には注意が必要かもしれない
(テキストによっては、円環領域における Laurent 展開を定義していないものもある)。
注意 10.6 (Laurent展開はTaylor展開の一般化である) f が c の近傍 D(c;R) で正則であ るとき、ある {an}n≥0 が存在して、
f(z) =
"∞ n=0
an(z−c)n (z ∈D(c;R))
と Taylor 展開(冪級数展開) 出来る。このとき、a−n= 0 (n∈N) とおくと、
f(z) =
"∞ n=0
an(z−c)n+
"∞ n=1
a−n
(z−c)n (z ∈A(c; 0, R))
が成り立つ (A(c; 0, R) ⊂ D(c;R) に注意する)。つまり、Taylor 展開は Laurent 展開でもあ る。この場合は、Laurent 展開の主部は 0で、f の c における留数も 0である。
(逆の言い方をすると) Laurent展開は Taylor 展開の一般化であるとも言える。
例 10.7 (Taylor展開がLaurent展開となる) ez =
"∞ n=0
zn
n! (z ∈C) であるから、f(z) = ez の 0 のまわりの Laurent 級数展開は
ez =
"∞ n=0
zn
n! (z ∈A(0; 0,+∞)) である。
例 10.8 f: C\ {1}→C を
f(z) = 3
(z−1)2 (z ∈C\ {1})
で定める。C\ {1}=A(1; 0,+∞) であり、f はこの定義域で正則であるから、f は 1 のまわ
りで Laurent 展開できるはずである。それはf の定義式自身、つまり
(53) f(z) = 3
(z−1)2 (z ∈A(1; 0,+∞)) が f の 1 のまわりの Laurent 級数展開である。実際、
a−2 = 3, an = 0 (n ∈Z\ {−2}) で {an} を定めると、(53)は
f(z) =
"∞ n=0
an(z−1)n+
"∞ n=1
a−n
(z−1)n (z ∈A(1; 0,+∞)) と書き直せる。この Laurent 展開の主部は 3
(z−1)2,f の 1における留数は Res(f; 1) = 0.
例 10.9 f: C\ {0}→C を
f(z) = exp1
z (z ∈C\ {0}) で定める。C\ {0}=A(0; 0,+∞)である。
expζ =
"∞ n=0
1
n!ζn (ζ ∈C) であるから、
f(z) = exp1 z =
"∞ n=0
1 n!
#1 z
$n
= 1 +
"∞ n=1
1 n!
1
zn (z ∈A(0; 0,+∞)).
これが f の 0 のまわりの Laurent 展開である(a0 = 1, a−n = n!1 (n ∈N), an = 0 (n ∈N) と すれば、(∗) が成り立つ)。その主部は"∞
n=1
1 n!
1
zn, 留数はRes(f; 0) = 1 1! = 1.
例 10.10
f(z) = sinz
z2 (z ∈C\ {0}=A(0; 0,+∞)) とする。
sinz =
"∞ k=0
(−1)k
(2k+ 1)!z2k+1 (z ∈C) であるから、
f(z) =
"∞ k=0
(−1)k
(2k+ 1)!z2k+1
z2 =
"∞ k=0
(−1)k
(2k+ 1)!z2k−1 = 1 z − 1
3!z+ 1
5!z3−· · · (z ∈A(0; 0,+∞)).
これが f の 0 のまわりの Laurent 展開である。実際、
a−1 = 1, a1 =−1
3!, a3 = 1
5!, · · · , a2k−1 = (−1)k
(2k+ 1)!, それ以外の n に対してan = 0, すなわち
an :=
⎧⎪
⎪⎨
⎪⎪
⎩
(−1)k
(2k+ 1)! (n≥1, n は奇数のとき、n= 2k−1 として)
1 (n=−1)
0 (それ以外)
とおくと、(∗) が成り立つ。主部は "∞
k=1
(−1)k
(2k+ 1)!z2k−1, 留数Res(f; 0) = 1.
例 10.11 a∈C として、f(z) = 1
z−a (z ∈C\ {a}) とする。
(i) c=a とすると、f は A(c; 0,+∞) で正則で、f の cのまわりの Laurent 展開は f(z) = 1
z−a (z ∈A(c; 0,+∞)).
(ii) c̸=a とする。f は D(c;|a−c|) で正則であるので、c のまわりで Taylor 展開でき、そ れが f の c のまわりの Laurent 展開である。この計算は以前もやってあるので結果だ け書くと、
f(z) =−
"∞ n=0
(z−c)n
(a−c)n+1 (z ∈A(c; 0,|a−c|)).
(実際、
f(z) = 1
z−a = 1
(z−c)−(a−c) =− 1
a−c· 1 1− z−c
a−c
=− 1 a−c
"∞ n=0
#z−c a−c
$n
であるから。)
一方、f はA(c;|a−c|,+∞)でも正則である。z ∈A(c;|a−c|,+∞)のとき、|z−c|>|a−c| であるから、|a−c|
|z−c| <1 が成り立つので、等比級数の和の公式を用いて
f(z) = 1
(z−c)−(a−c) = 1
z−c· 1 1− a−c
z−c
= 1
z−c
"∞ n=0
#a−c z−c
$n
=
"∞ n=0
(a−c)n (z−c)n+1.
すなわち
f(z) =
"∞ n=1
(a−c)n−1
(z−c)n (z ∈A(c;|a−c|,+∞)).
これがf の A(c;|a−c|,+∞) における Laurent 展開である。