• 検索結果がありません。

すなわち

f(z) =

" n=1

(a−c)n1

(z−c)n (z ∈A(c;|a−c|,+∞)).

これがf の A(c;|a−c|,+∞) における Laurent 展開である。

どちらにするか教師として迷うところであるが、ここでは教科書(神保[2]) と同じ定義を採 用しておく。

(a) (この採用した定義によると) 正則点は孤立特異点である。例えば f(z) = 1

z−1 (z ∈ C\ {1}), c = 2 とするとき、cは f の正則点であり、f の孤立特異点 (除去可能特異点) でもある。

(b) 孤立特異点の条件に「f は D(c;ε)で正則ではない」を加える定義にすると、正則点は孤 立特異点ではない。例えば f(z) = 1

z−1 (z∈C\ {1}),c= 2 とするとき、c は f の正則 点であるが、f の孤立特異点ではない (当然、除去可能特異点でもない)。

例 10.14

f(z) = 3

(z−1)2 (z ∈C\ {1}).

1 は f の孤立特異点である。f の 1のまわりの Laurent展開は f(z) = 3

(z−1)2 (0<|z−1|<+∞) であるから、1は f の2位の極である。

例 10.15

f(z) = exp 1

z (z ∈C\ {0}).

0 は f の孤立特異点である。f の 0のまわりの Laurent展開は f(z) = 1 +

" n=1

1 n!

1

zn (0<|z|<+∞) であるから、1は f の真性特異点である。

例 10.16

f(z) = sinz

z2 (z ∈C\ {0}).

0 は f の孤立特異点である。f の 0のまわりの Laurent展開は f(z) = 1

z − 1 3!z+ 1

5!z3−· · ·+ (−1)k 1

(2k+ 1)!z2k1+· · · (0<|z|<+∞) であるから、0は f の1位の極である。

例 10.17

f(z) = sinz

z (z ∈C\ {0}).

0 は f の孤立特異点である。f の 0のまわりの Laurent展開は f(z) = 1− 1

3!z2+ 1

5!z4−· · ·+ (−1)k 1

(2k+ 1)!z2k+· · · (0<|z|<+∞) であるから、0は f の除去可能特異点である。

例 10.18 (有理関数) 有理関数の Laurent 展開、孤立特異点を調べよう。

P(z), Q(z) ∈ C[z], P(z) と Q(z) は互いに素、P(z) ̸= 0 とする。P(z) の相異なる根を α1, . . . ,αr ,それぞれの重複度を m1, . . . , mr,P(z) の最高次係数をa0 とすると、

P(z) = a0

Dr k=1

(z−αk)mk. このとき、

Q(z)

P(z) =多項式+

"r k=1

mk

"

m=1

Ak,m

(z−αk)m, Ak,m∈C という形に部分分数分解出来る。

これから、Q

P は Ω:=C\ {α1,· · · ,αr} で正則であり、αk は高々 mk 位の極であることが

分かる。その他の点は Q

P の正則点である。以上は、P(z) とQ(z)が互いに素と仮定したから で、もしも P(z) と Q(z) が次数1以上の共通因数を持つならば、(正則点でない) 除去可能特 異点が現れる(例: f(z) = z3−1

z−1 は 1 が正則点でない除去可能特異点である)。

以上から、有理関数のcのまわりの Laurent展開を求めるには、f(z) = 1

(z−a)m の点 cの

まわりの Laurent 展開が求まれば良い。

(1) m= 1 の場合は以前示したように (i) c=a のとき、f(z) = 1

z−a = 1

z−c (0<|z−c|<+∞). これ自身が cのまわりの Laurent 展開である。

(ii) c̸=a のとき。f(z) = 1

z−a は D(c;|a−c|) で正則であるから、c は正則点であり、

除去可能得点である。

f(z) = 1

z−a =· · ·(中略)· · ·=−

" n=0

(z−c)n

(a−c)n+1 (0<|z−c|<|a−c|) が cのまわりの Laurent 展開である。

(2) m >1 の場合は、m = 1 の場合の Laurent 展開を微分すれば求まる。

例えば、f(z) = 1

(z−1)2 とする。

(i) c= 1のとき、c は f の2位の極であり、f(z) = 1

(z−1)2 (0<|z−1|<+∞) 自身 が f のc のまわりの Laurent 展開である。

(ii) c= 2 のとき、f は D(2; 1) で正則であるから、cは f の正則点であり、除去可能特 異点である。

1

z−1 =· · ·=

" n=0

(−1)n(z−2)n (|z−2|<1).

ゆえに

f(z) = 1

(z−1)2 =−

# 1

z−1

$

=−

" n=1

n(−1)n(z−2)n−1

=

" n=0

(n+ 1)(−1)n(z−2)n (|z−2|<1).

これがf の cのまわりの Laurent 展開である(|z−2|<1で成り立つならば、当然 0<|z−2|<1で成り立つ。)。

これで、任意の有理関数をLaurent 展開する方法が分かった。

脱線になるが、f(z) = 1

(z−1)2 の、A(2; 1,+∞) におけるLaurent 展開も求めてみよう。

1

z−1 = 1

(z−2) + 1 = 1

z−2 · 1 1 + 1

z−2

= 1

z−2

" n=0

# −1 z−2

$n

=

" n=1

(−1)n1

(z−2)n (1<|z−2|<+∞) であるから

f(z) =−

" n=0

(−n)(−1)n−1 (z−2)n+1 =

" n=2

(n−1)(−1)n

(z−2)n (1<|z−2|<+∞).

例 10.19

f(z) =

- z2+ 1 (z ̸= 0)

2 (z = 0)

とするとき、0は f の孤立特異点であり、除去可能特異点である(実際 f は0<|z−0|<+∞ で正則である。)。

0での値2を 1 に変更した関数 f7(z) =

- z2+ 1 (z ̸= 0)

1 (z = 0)

は 0 を正則点とする (すべての z ∈C に対して f(z) =7 z2+ 1 であることに注意せよ)。

このように、除去可能特異点での値を変更して、その点が正則点であるように出来る。この ことを断りなく行う場合が多い。

例 10.20

f(z) = 1

sin(1/z) (z ∈C\

# {0}∪

? 1 nπ

%%

%%n ∈Z\ {0}

@$

) は正則関数である。 1

nπ (n ∈Z\ {0}) は孤立特異点である。それらは 0 に集積している。実 は、0は f の真性特異点と呼ばれるが、0 はfの孤立特異点ではない。

孤立特異点をLaurent展開の主部がどうなっているかで、3つに分類したが、z →cのとき の lim で特徴づけることが出来る。

(1) cが f の除去可能特異点 ⇔ limz→c

z̸=c

f(z)が(有限の)極限を持つ (2) cが f の極 ⇔ limz→c

z̸=c

f(z) = ∞ (3) cが f の真性特異点 ⇔ limz→c

z̸=c

f(z)は確定しない(有限の極限も持たないし、∞に発散もし ない)。

このことの証明にはそれなりに手間がかかるので、証明は後回しにする(最後の講義時間に証 明する年度が多い)。

11 Laurent 展開 , 孤立特異点 , 留数

いよいよ最終コーナーを回る、というところ。理工系の学科で関数論を学ぶときに最終目標 とされる留数定理とそれを用いた定積分計算が視界に入って来る。

出て来る用語の定義をしっかりマスターして(そらで書けるようにしておく)、極の場合の留 数の計算が出来るようになること。

11.1 イントロ

最初に言葉と記号の約束をする。

定義 11.1 (円環領域) c∈C と 0≤R1 < R2 ≤ ∞ を満たす R1,R2 に対して A(c;R1, R2) :={z ∈C|R1 <|z−c|< R2}

とおき、cを中心とする円環領域 (an annulus, an annular domain, an annular region) と 呼ぶ。また

A(c;R1, R2) := {z ∈C|R1 ≤|z−c|≤R2}

とおく。

Cf: D(c;R) :={z ∈C| |z−c|< R}, D(c;R) :={z ∈C| |z−c|≤R}.

定義 11.2 (Laurent 級数) c∈C,{an}n∈Z ∈CZ を用いて、

" n=0

an(z−c)n+

" n=1

an

(z−c)n と表される関数項級数をc を中心とするLaurentロ ー ラ ン 級数と呼ぶ。

既に示したように以下のことが成り立つ(粗く言って「冪級数⇔円盤で正則」)。

(a) 円盤領域で正則な関数は冪級数展開可能である(定理7.4)。すなわち、f: D(c;R)→Cが 正則ならば、∃{an}n0 s.t.

f(z) =

" n=0

an(z−c)n (z ∈D(c;R)).

(b) 任意の冪級数 "

n=0

an(z−c)n に対して、収束円が存在する。すなわち、ある ρ が存在し て、0≤ρ≤ ∞,|z−c|<ρ ならば収束、|z−c|>ρ ならば発散する。

この事実の一般化を扱う。まず (b) について、円環領域で正則な関数は Laurent 級数に展 開できる(定理11.4)。すなわち、関数 f:A(c;R1, R2)→C が正則ならば、∃{an}n∈Z s.t.

f(z) =

" n=0

an(z−c)n+

" n=1

an

(z−c)n (z ∈A(c;R1, R2)).

右辺の級数を、f の円環領域 A(c;R1, R2) におけるLaurent 級数展開と呼ぶ。

特にR1 = 0 の場合を、f の c における (cでの) Laurent 級数展開と呼ぶ。

(参考まで)

円の外部領域で正則で、z → ∞のとき有界な関数は、“負冪級数”に展開可能である。す なわち、c∈C, 0≤R <∞,関数 f が{z ∈C|R <|z−c|}で正則ならば、∃{an}n0 s.t.

f(z) =a0+ a1

z−c+ a2

(z−c)2 +· · ·=

" n=0

an

(z−c)n (R <|z−c|).